1000人の真のファン? いや、100人という手もある (a16z)

10年以上前にWired編集者のKevin Kellyが、『1000 True Fans(真のファン1000人)』というエッセイを書きました。そのなかで彼は、芸術家であれ、ミュージシャンであれ、作家であれ、起業家であれ、幅広い人々がインターネットにより、自分たちの創造したもので生計を立てることができるようになるだろうと予言しました。クリエーターたちは、広範な知名度を追い求める必要はなく、ほどほどの規模の「真のファン」基盤、年間1人当たり100ドルくらいまでなら「あなたが作ったものを何でも買ってくれる」ようなファンたち(年間総収益は10万ドルになります)を、魅了しさえすればいいのだとする説です。オンライン上のネットワークを駆使することで、その道の従来の専門業者や仲介業者を回避し、小規模のファン基盤から直接支払いを受けて、その利益で楽々と暮らしていけるのだと彼は論じました。

昨今ではこのアイデアがこれまでになく顕著になっていますが、私はこれをさらに一歩進化させることを提案します。「パッション・エコノミー」(日本語訳記事)が成長するにつれ、より多くの人々が自分の好きなものを収益化しています。FacebookやYouTubeなどのソーシャル・プラットフォームが世界的に採用され、インフルエンサー型モデルが社会の主流となり、新たなクリエーターツールが出現するなか、成功への入り口は変化しています。クリエーターたちは、年間100ドルではなく1000ドルを支払ってくれる、1000人ではなく100人の「真のファン」を集めればいいのだと私は考えます。現在なら、クリエーターたちはより少数のファンからより多くの収益を上げることが可能です。

そんなことはあり得ないとお考えでしょうか。クリエーター・プラットフォームに目を向ければ、すでにこの変化が起こっていることが分かります。Patreonにおける最初の寄付平均額は、ここ2年で22%増えています。2017年以降、月100ドル以上すなわち年1200ドル以上の寄付をするパトロンの占める割合は、21%伸びています。オンライン受講プラットフォームのPodiaでは、クリエーター1人当たりの平均顧客数は月々10%の伸びであるのに対し、月額1000ドル以上稼ぐクリエーターの数は月々20%ずつ増えています。同様にTeachableでも、授業当たりの平均プライスポイントは前年比約20%上昇しています。2019年には、Teachableで10万ドル以上収益を上げたコース・クリエーターは500名近くに及び、そのうち25名の1件当たり売り上げ平均額は1000ドル以上でした。

ここで、「真のファン100人」と「真のファン1000人」の考え方は、互いに相容れないものではなく、ファン1人当たり年額1000ドルという収益基準も、正確にその通りを意図するものではありません。そうではなく、この考え方は、パッション・エコノミーの将来の枠組みを提供しようとするものです。クリエーターはオーディエンスを分類し、各グループに合わせた製品やサービスをさまざまなプライスポイントで提供します。

つまりこのようにです。クリエーターは、水平型ソーシャル・プラットフォームやeメールリストを通して、大勢の無料オーディエンスを開拓します。そしてそれらのユーザーたちのいくらかをパトロンやサブスクライバーに転向させます。その後、それらの購買者たちのいくらかに対して、追加コンテンツ、独占的アクセス、クリエーターとの直接交流など、より高価格なものの購入へと働きかけることができます。

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この戦略は、1%から2%の人々がゲーム会社の収益の80%をもたらすという、ソーシャルゲーム業界の「ホエール」という概念と深く関連します(このモデル自体は自然発生的ではありますが)。要するに、非常に熱心に関心を抱いてくれる少数の人々に対してより多額の支払いを納得させることができるのであれば、支払い額の少ない一般のオーディエンスがいてもいいということ。顧客基盤を分割して最上層のファンに優れた価値を提供することで、そしてそれを高額なプライスポイントで提供することで、クリエーターは全体のオーディエンス規模が小さくても食べていけるということです。

前述した上記の例に再び立ち返れば、これは単なる仮説の話ではありません。Teachableのあるクリエーターは、アーティストに作品の売り方を助言する仕事をしており、昨年わずか76名の生徒数で、コース当たり平均販売額1437ドルで11万ドルの収益を上げました。別のクリエーターは理学療法で、コース当たりの平均プライスポイント2314ドルで、わずか61名の生徒で14万1000ドルを稼ぎました。Podiaでも、ユーザー1人当たりの平均収益は増加しています。プラットフォームの開始時にはもっぱらコースを販売するだけであったクリエーターたちは今や、ダウンロードやメンバーシップ契約を取り入れ、オーディエンスをさらに収益化ことができています。「真のファン100人」モデルで食べていくのはまだまだ一般的とはいえませんが、徐々に可能になりつつあります。

これら高額を支払ってくれるスーパーファンたちは、どのように獲得できるのでしょうか。

「(年間100ドルの)真のファン1000人」による収益化と「(年間1000ドルの)真のファン100人」による収益化とでは、かなりの違いがあります。支援や寄付でファン1人当たり年間100ドルを集めることはできたとしても、1人当たり年間1000ドルを集めるには、全く違った製品が必要となります。後者の場合のファンたちは、製品が意味ある価値や目的をもたらしてくれることを期待します。

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これは従来の、クリエーターを利するためにユーザーが支払うという寄付型モデルから、ユーザー自身を利する何らかに対して喜んで支払うという価値型モデルへの移行を意味します。これまで「自助」という言い方をされていたものが、今は「幸福」という括りで存在しています。健康、金銭、教育、仕事など分野は何であれ、人々は生活のなかでより建設的に機能する高級で投資利益率の高いサービスに対して喜んでお金をつぎ込むようになりました。オフラインの世界であれば、人々は、階層化されたなかの専門家を雇うことに慣れており(インテリアデザイナー、組織コンサルタント、弁論コーチ、エグゼクティブコーチ、SAT(大学進級適正試験)個人教師など)、目に見える向上や成果が約束されているのであれば喜んで高額を支払います。この考え方が今や、私たちのデジタル生活にも入リ込んでフィルターをかけています。

これは、Daniel Pinkの内発的動機付けという概念に関連します。私たちは、「自律性(自分の人生を方向付けたいとする衝動」、「熟達(重要なものについて上達したいとする欲求)」、「目的(自己を超えた大きなものへ奉仕する仕事をしたいとする切望)」により突き動かされます。

専門用語はさておき、この分野の製品やサービスが、消費者たちの最優先問題を解決します。「真のファン100人」モデルを実現させようとするクリエーターたちは、向上や変化への欲求を理解して収益化します。そして、動画受講プラットフォームや改良型のリアルタイム動画ストリーミングといった、より進化したテクノロジーが、10年前よりも豊富で高品質なコンテンツを可能にします。

消費者たちが高額な対価を支払うようになった既存のプレミアムなサブスクリプション型サービスの例は、月額200ドルのEquinoxの会員資格や、月額159ドルのRent the Runway Unlimitedのサブスクリプション、月額250ドル以上のPurple Carrotのサブスクリプションなど、たくさんあります。

このトレンドは、無料ソフトの有料バージョンをパソコンに詳しいパワーユーザーたちや生産消費者たちに届けるSaaS業界でも起きていることです。これらの製品の無料バージョンは存在していても、パワーユーザーたちは性能や高度なユーザー体験を求めて有料バージョンを選択します。例えば、YouTubeに山ほどある無料の個人指導動画と、MasterClass(1授業当たり90ドル)やJuni Learning(月額250ドルの子供向けプログラミング個人指導)のような有料の教育プラットフォームを比べれば分かります。YouTubeは高品質の無料コンテンツを大量に提供してはいますが、方向性を導いたり個人に合わせたりするのは難しかったりもします。新たな有料クリエーター・プラットフォームは、単なる面白みやお楽しみということでは劣りますが、カリキュラムや説明責任やコミュニティーなど、ユーザーの望む成果に向けたあらゆる解決策を提供することに関しては優ります。

ファン1人当たり1000ドルを稼ぐコツ

「真のファン100人」のためのマネタイズ戦略も、「真のファン1000人」のやり方とは異なります。ユーザーに広告無しコンテンツや過去カタログへのアクセスを提供するなどといったお手軽な特典は、低額の収益を上げるには役立ちます。しかし、1000ドルという少なくない額を喜んで支払うファンたちを獲得するには、機能をもう一歩向上させる必要があります。そのコツは、ニッチな部分を狙うこと、そして成果に対するユーザーの切望を利用することです。実際にそれはどのようなものでしょう。それはつまり、差異化したコンテンツ、コミュニティー、説明責任、アクセスなどの提供を意味します。

  1. 似通った代替のないプレミアムなコンテンツやコミュニティ
  2. 具体的な価値や成果を届ける
  3. 説明責任
  4. アクセス、認知、ステータス

それぞれを詳しく見ていきましょう。

似通った代替のないプレミアムなコンテンツやコミュニティ

人々は、他にはない差別化されたコンテンツや、志を同じくする人々のネットワークへのアクセスには、喜んで高額を支払います。2019年後半に2人のファイナンシャルアドバイザーがポッドキャスト発信者に転向し、Advisor Growth Communityという有料の民間コミュニティを立ち上げました(Mighty Networkプラットフォームのインフラを使用しています)。このオンライン拠点は、ファイナンシャルアドバイザーたちから年2000ドルを徴収し、同業者たちと協力したり仕事を成長させる方法を学んだりする場を提供するものです。現在100名近くの会員がいます。また、成長戦略やマーケティング戦略の上級特別クラスであるキャリア開発プログラムのReforgeは、毎年何百人もの参加者たちから3000ドルの参加費を集めています。

価値のある社会的な補強やサポートを提供することで生徒エクスペリエンスを強化すべく、プレミアムなコンテンツとコミュニティが往々にして抱き合わせで提供されることがよくあります。

具体的な価値や成果を届ける

中国ではユニコーン企業の音声コース・プラットフォームであるDedaoが、自己改善と生涯学習を切望するユーザーたちに訴えかける有料音声コースを販売しています。売れ行きの良い話題には、マネジメント、研究スキル、スピーチなどがあります。これらの講座は最高で199人民元(約28米ドル)ですが、これは平均月収が2万1600人民元(3100米ドル以下)の国ではまずまずの額だといえます。一番人気は元北京大学教授の薛兆丰氏が教えるコースで、サブスクライバーは47万人を超えています。

米国のポッドキャスト業界はまだ広告収入による収益化がそこそこ日本語訳記事)占めているいっぽうで、Headspace、Calm、Aaptivなどの瞑想アプリや健康アプリの収益構造が盛況であり、それらはすべてが契約者に直接課金するものであることを考えれば、ユーザーたちは自分の幸福に具体的な影響を及ぼすコンテンツには喜んでお金をかけることが分かります。

説明責任

生徒たちは前もって払う額が多いほど、望む結果に到達すべくたくさんの投資をしたことになります。高額のクリエーターたちは、より良いコンテンツをより多く提供するだけではなく、生徒たちが支払った分だけを得られるように動機付けをし、やる気を起こさせるようにします。例えば、生産性の専門家であるTiago Forteのデジタル・ノートテイクや生産性についてのTeachable講座のプレミアム・バージョン(通常の499ドルに対して699ドル)には、専門家との8回の面談、16種のノートのテンプレート、6回の上級個人指導、メンバー限定ブログへのアクセスなどが含まれています。Tiagoはまた自身の数字を公表して、説明責任が果たされていると感じられるようにしています。

アクセス、認知、ステータス

Patreonのコメディー・ポッドキャスト『This Might Get Weird(これは奇妙になるかも知れない)』には、月額5ドルと15ドルのものとがあり、どちらもDiscordコミュニティーと追加コンテンツへのアクセスを提供しています。クリエーターは、数量の限定された月額69ドルの契約も提供しており、これには毎月30分のライブ配信を含むその他の特典がついてきます。しかし最高額の契約は月額500ドル(年6000ドル)のもので、これには3ヵ月に1度の動画チャットを使ったポッドキャット主催者によるユーザーへの個人指導セッションがついてきます。最上位の契約は、ベーシック契約の100倍もする価格に見合うレベルの独占権やアクセスを提供しています。

また中国には、Bixin、淘宝(タオバオ)、(網易=ネットイースの)Heizhu eスポーツといった巨大ビジネスが成長しており、人々はクリエーターにお金を支払って彼らとビデオゲームをします。これらのユーザーたちのなかには、有料のゲーム・コンパニオンとして月に何万ドルも稼ぐ人々もいます。クリエーターから個人的に認知されることに対してお金を払うだけでなく、他のファンたちから認知される可能性もあります。ゲームの世界では「ホエール」と呼ばれる人々がよく、たくさんのお金を使うことでお金を使わない人々に大きな態度をとりますが、それはつまり他の人々からの羨望の地位を提供することになります。さらに言えば製品は、費やした金額以上に、スーパーファンたちの価値を上げるネットワーク効果を積極的に促すべく、スーパーファンたちが「通常」のファンたちから社会的支持を集められるようにデザインすることができます。

Twitchのストリーマーが寄付やチップで年間何十万ドルものお金を荒稼ぎすることもあります。最近の事例では、あるストリーマーが7万5000ドルのチップを受け取りました。そのような寄付をすることで、ストリーマーから個人名を呼ばれて感謝されたり、認知されたり、社会的ステータスが上昇したりすることで、より高額なレベルのお金を費やすようになっていきます。しかし限られたアクセスや認知というものは、あまり拡大させることができないことには触れておくべきでしょう。当然ながら、人々は排他的なアクセス権を得たり、他のユーザーたちよりもステータスを上げたりすることに対して高額なお金を支払っているわけですから。

1000人から100人へ:より数少ない真のファンたち

クリエーター経済は決定的な変化の真っただ中にあります。「規模が大きければ大きいほど良い」という広告収益モデルから、ニッチなコミュニティーのひとつに向けた、ユーザーからクリエーターに直接支払われるモデルへと。

デジタル・プラットフォームの新たに出現しつつある分野により、人々は自分のスキルや才能をビジネスに変換させるようになっています。しかしクリエーターたちの状況が進化するにつれ、戦略も更新が必要となります。

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「真のファン100人」モデルはクリエーターたちに、自分のファンを均一な集団として見るのではなく、何に親和性があり何に喜んで支払うかという基準でさまざまな集団を見極めることを要求します。スーパーファンとクリエーターとの関係性は、通常のファンたちのものとは異なります。彼らは弟子となり、被保護者となり、共同学習者となり、共同クリエーターとなります。そうであれば彼らには、全く新しいツールやプラットフォームが必要になります。

ファン1人当たり年間1000ドルの収益を上げる鍵は、各レベル層に合わせて価格付けした提供物です。クリエーターは、無料ソーシャル・プラットフォームに幅広いフォロワー基盤を持ち、それらのフォロワーのうちのいくらかを1度限りの購買者やパトロンにし、その後、それらのユーザーのうちのいくらかを高額の支払いをするスーパーファンへと変えていくことができます。設立者や運営担当者にとって、それはエンドユーザー価値に収益化を合わせた製品の構築を意味します。

「真のファン100人」の概念は誰にでも向くというものではなく、「真のファン1000人」にしてもそうです。忠誠心や関心度のもっと低い大規模で広範なオーディエンスをもつクリエーターなら、スポンサーやブランド化した商品を通して収益化するのがいいでしょう。多くの人にとってはその道をとったほうが儲かりますし、「真のファン100人」モデルが要求するような高価格で個別化したプログラムをデザインするという力仕事もせずに済みます。

テクノロジーアナリストでブロガーのBen Thompsonはかつて、「インターネットはニッチな市場をとてつもなく効果的なやり方で可能にする」と言いました。ニッチなオーディエンスの信用を勝ち取ったクリエーターたち、そしてそれらのユーザーたちが切望するものを届けられるクリエーターたち、それが自己改善であろうと、絆であろうと、認知であろうと、所属感であろうと、それを提供することのできるクリエーターたちにとって、「真のファン100人」こそが、急速に成長するパッション・エコノミー日本語訳記事)の新たな収益化モデルを提供するものです。

 

著者紹介

Li Jin

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: 1,000 True Fans? Try 100 (2020)

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