ハードテック&バイオテック起業家へのアドバイス (Startup School 2019 #18)

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Jared Friedman
YCのパートナーを務めておりますJaredと申します。

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本日はハードテックおよびバイオテック企業の立ち上げについてお話しします。

個人的興味でお聞きしますが、本日ここにいる皆さんの中でハードテックまたはバイオテック企業を立ち上げようとしている人はいらっしゃいますか?なるほど。一握りくらいですかね?素晴らしい。

スタートアップスクール全体で見ますと、ハードテックまたはバイオテック関連の企業は1,000社以上あります。実に素晴らしいと思います。本日の講義はそういった方々に最も関係する内容ですが、今すぐではなくても、将来的にハードテックやバイオテック企業を立ち上げる可能性がある人にも役立つ内容です。

概要

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こちらのスライドが本日の講義の概要です。ハードテック企業の定義から始まり、ハードテック企業が最も頻繁に直面する2つの問題と、それらの解決法、そしてCarolynが先ほどお話しした内容を基にハードテック企業の資金調達について少しお話ししたいと思います。

ハードテックスタートアップとは何か

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では、ハードテック企業とは何でしょうか?ネット上で適切な定義が見当たらなかったため、これは私の定義になりますが、私が思うハードテック企業とは次の2つの基準を満たす企業と言えます。

多くの時間と資金、そして可能かどうか

1つ目は、最初のプロダクトを作り上げるのに多大な時間と資金を必要とすること。

そして2つ目は、多大な時間と資金があったとしても、プロダクト製作が可能であるという保証がないことです。

こうした企業は、他の企業と少々異なっています。そして、この定義の興味深い点として、物理的なプロダクトである必要はないこと、科学や技術に関して具体的に触れられていないことが挙げられます。実際、この基準にあてはまる企業は数多くあります。

マーケットリスクと技術リスク

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定義に関するもう1つの考え方は、市場リスクと技術的リスクの違いです。例えばあなたの企業が普通のウェブサイトやモバイルアプリを開発している場合、市場リスクが最も高くなるのが一般的でしょう。

あなたには新しいアイデアがあり、それが人々の求めるものであるか、はっきりとはわかりませんが、技術的リスクはおそらく高くありません。なぜなら、ウェブサイトやアプリの開発は現時点で解決済みの問題だからです。

一方、ハードテック企業が作っているものは、開発に成功すれば必ず人々から求められるものです。問題は、それを実際に開発できるかどうかです。

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ハードという言葉が入っているだけあって、ハードテック企業の立ち上げは非常に難しそうに聞こえます。それが原因で、本来ならば企業を立ち上げているかもしれない創業者たちが、起業から遠ざかってしまっていると思います。

また、私はこれについては何となく誤解されていると思います。どういうことか説明してみましょう。

ハードテックはハードだけれど、難しいほうが簡単になる

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かつてSam Altmanは、「色々な意味で、簡単な企業よりも困難な企業を立ち上げるほうが容易である」と語っていました。これは全く逆説的で、意味を成さないように聞こえます。しかし、これは実に奥深い真実を語っていると思います。

事例:Boom

では、Samの言葉の意味を説明するために、Boomという企業の話をしましょう。Boomをご存知の方はいらっしゃいますか?数名いますね。Boomは3年前にYCで学んでいた企業で、本当にすごいことをしています。

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彼らは、このスライドにあるようなコンコルドに代わる超音速ジェット旅客機を作っています。マッハ2.2で飛行するこの機体は、サンフランシスコから東京まで5時間で飛びます。冗談ではなく、本当に作っているんですよ。

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Boomの創業者はBlake(Scholl)という人で、Boomは彼が初めて立ち上げた企業ではありません。Boomを立ち上げる前、彼はモバイル・ショッピング・アプリを開発する、ごくありふれた企業を立ち上げました。BlakeはYCのディナーに来た時、最初に立ちあげたモバイル・ショッピング・アプリ開発の企業と、その次に立ち上げたBoomとの違いを振り返り、非常に洞察に満ちた話をしてくれました。

モバイル・ショッピング・アプリを立ち上げた時、プロダクトを生み出すのは非常に簡単だったそうです。モバイル・ショッピング・アプリは数週間程度で作れますから。しかし、その後の作業は、全てが非常に大変だったそうです。

例えば、モバイル・ショッピング・アプリをマスコミに記事にしてもらうのは容易ではありません。面白い話ではないからです。有能な従業員に「この仕事をしたい」と思ってもらうのも、投資家に会ってもらい、モバイル・ショッピング・アプリについて話を聞いてもらうのも困難です。

つまり、モバイル・ショッピング・アプリに対して世間に興味を持ってもらうのは難しい、ということです。プロダクトのローンチは簡単である一方、そのプロダクトを基に企業を大きく成長させるのは実はとても困難であったわけです。

一方のBoomはその正反対でした。超音速ジェット機の開発はとてつもなく困難ですが、その他の事は非常に簡単です。Boomがまだ単なるアイデアであった創業初期から、Blakeは企業をサポートしたいという世界有数の優れた人材を集めることができました。

ハードテックスタートアップが最も立ち上げやすい時代

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私たちは今、ハードテック企業の立ち上げがこれまでになく容易であるという、過去に例を見ない時代に生きています。Boomのような突拍子もない野心的なアイデアに資金を出そうという投資家が数多くいます。つまり、Boomのような企業の立ち上げには多くの資金を必要とする一方、そのような企業を立ち上げるための資金調達も可能なわけです。

ハードテックの可能性に多くの人は気づいていない

興味深いことに、市場は、まだこの事実を完全に取り込めていないように思えます。なぜなら、YCへの応募の大半はこうした企業ではないからです。創業者がBoomのような非常に野心的な企業を立ち上げない理由の1つは、恐怖心からだと思います。

ご存知のように、企業を立ち上げるというのは、それがどのような企業であっても大きなハードルを感じるものですが、モバイル・ショッピング・アプリのようなシンプルなものを作る企業を立ち上げるほうが、より簡単に見えます。

しかし、Samが気付き、私も真実だと思う反直観的な事実は、シンプルなものを作る企業は立ち上げるのが少し簡単なだけ、ということです。それは必ずしも、企業を大きな成功に導くのも簡単ということではありません。

YCのハードテックへの投資

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YCの中でハードテックやバイオテック企業が占める割合の大きさをご存知ない方もいらっしゃるでしょうから、データで説明しましょう。YCでは250社以上のバイオテック企業に、そしておそらく数百社のハードテック企業に資金を提供しています。実際、YCはバイオテック企業に対する世界最大のシード投資家であり、ハードテック企業に対する世界最大のシード投資家でもあります。これは、アクセラレータ、シードファンド、あらゆる種類の投資家を含めての話です。

ハードテックスタートアップはYCに受かる確率が10倍

これは大半の人が知らないことですが、YCに応募してくるハードテック企業はそれ以外の応募者と比較して受け入れられる確率が約10倍となっています。その理由は私も完全にはわかりませんが、とても野心的なアイデアに魅了されている、ある種の創業者たちに関係しているのではないかと思っています。

YCのアドバイスはハードテックスタートアップにも有用

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ハードテック企業からよく聞かれる質問に、「バイオテック企業を立ち上げようと思っていますが、YCのアドバイスで私にあてはまるものはどれくらいありますか?YCのアドバイスの多くは他業種向けだと思うのですが」というものがあります。

実のところ、答えは「大半があてはまる」です。

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そこで私はスタートアップスクールのカリキュラムを調べてみました。これはスタートアップスクール2019のカリキュラムで、ハードテック企業に関連する講義を緑、少なくともアーリーステージのハードテック企業には関連性がないものを赤でハイライトしてみました。

ご覧いただけますように、赤より緑のほうが断然多くなっています。ハードテックやバイオテックを手掛けているYCカンパニーと仕事をしている私の個人的な経験から申し上げますと、多少の違いはありますが、それ以上に共通する部分がたくさんあると言えます。

ヘビーMVPを作る

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それでは、ハードテック企業特有の2つの大きな問題に移りましょう。Michael Seibelが行ったMVPに関する講義を思い出してください。一部の企業はヘビーMVPが必要で、それは最初のプロダクトを作り上げるまでに非常に長い時間、そして一般的には多大な資金を要することを意味する、という話でした。これは大半のハードテックおよびバイオテック企業にあてはまる話です。

では、最初のプロダクトを作り上げるのに数百万ドルが必要で、それだけの金額をすぐに用意できないという状況にある場合、皆さんならどうしますか?単純な答えとしては、「数百万ドルを必要とせずに、自分のアイデアを展開させる方法を考える必要がある」となります。これは「言うは易く行うは難し」です。

そこで、どうしたら良いのか考える際、皆さんのインスピレーションの一助となるような話をしたいと思います。これから、ハードテックやバイオテックを手掛けていて、多額の資金なしにアイデアを展開させるということを見事にやってのけたYCカンパニー7社を紹介していきます。

事例 (1) Boom: 音速ジェット機

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1社目はBoomです。Boomの方法は、お金がかからないことから始める、というものでした。

これは彼らがしたことの一例です。まず自分たちの企業の信頼性を向上させるために、業界トップの人間を集めてアドバイザーのチームを作りました。現実味のあるデザインであることを示すためにコンピュータシミュレーションを作りました。自分たちの作ろうとしている旅客機がどのようなものなのか、そのビジョンを示すために全長数フィートに及ぶプラスチックの持ち運べる模型を作りました。

その模型を持参して多くの航空会社を訪ね、この旅客機が完成した際には顧客需要があることを示し、航空会社の興味を引きました。そして、彼らはこれら全てのことを通じて実際に飛行機を作るために必要な資金を調達しました。

事例 (2) Solugen: 合成生物学の化学プラント

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次はSolugenというYCカンパニーで、彼らもとても面白いことをしています。この企業は、合成生物学を活用して過酸化水素を製造しています。左の写真は現在の過酸化水素工場で、この巨大な施設はトラック何台分もの過酸化水素を製造し、全米に出荷しています。言うまでもなく、この工場の建設には多額の資金が必要でした。

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一方、右の写真は彼らがYC応募時に作っていたMVPで、カップ1杯程度の過酸化水素を作り出せるビーカーです。しかし、このビーカーは彼らの企業の根幹となるアイデア、つまり、過酸化水素製造における新たな工業プロセスのコンセプトを証明するものでした。こうして、ビーカーから始めた彼らは徐々にスケールし、設備を拡充し、ついには巨大な過酸化水素工場を持つまでになりました。

事例 (3) AirX: 医療機器

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次のAirXは、創業当初は独自の医療機器製造を目指していたYCカンパニーです。医療機器の製造は非常に難しいもので、彼らの当初の計画では、新たな医療機器に関するFDAの承認を得るのに、数年の期間と数百万ドルが必要とされていました。

そこで彼らは、すでにFDAの承認を得ている既存の医療機器を利用し、それに関連するソフトウェアを開発することで、ローンチを目指しているものと同じコアサービスのベーシック版をリリースできることに気付きました。最終的かつ長期的なビジョンには劣るものの、十分な機能を持つシンプルなプロダクトを作り出したのは優れた方法と言えます。この計画のおかげで、彼らはYC在籍中に、FDAの承認も必要とせず、3か月未満でリリースすることができました。

事例 (4) Notable Labs: 抗がん剤

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次のNotable Labsは新たな抗がん剤を開発中のYCカンパニーです。新たな抗がん剤の開発は膨大な資金と時間を必要とするため、起業時の彼らは製薬会社向けに腫瘍のスクリーニングサービスを提供していました。このサービスは彼らに収益とデータの両方をもたらすことになり、彼らは現在それを基に独自の薬を開発しています。

事例 (5) Astranis: 通信衛星

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次のAstranisは通信衛星を作り、宇宙に打上げているYCカンパニーです。これが安く済まないのは明らかです。実際、使用に耐える最も安価な通信衛星を作り、打ち上げるのにも最低1,000万ドルはかかります。そこでAstranisは試験衛星から作り始めました。これは彼らが最初に開発した衛星の写真です。

彼らはこれをYC在籍中に製作期間3か月未満、制作費用50,000ドル未満で作りました。この衛星は実際に何かの役に立つというものではなく、販売することもできません。しかし、機能的な衛星を実際に宇宙に打ち上げ、自分たちにはそれを実行する力があると証明することで、自社のビジネスを前進させるために必要な信頼性を獲得し、本格的かつ実用的な通信衛星を打ち上げるための資金を調達することができました。

事例 (6) Ginkgo Bioworks: 遺伝子工学

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最後のGinkgo Bioworksは有機体に関する遺伝子工学を手掛けているYCカンパニーです。彼らが最初の有機体を開発するためには数百万ドル必要でした。そこで彼らは、いくつかの大企業を訪ね、実際に有機体を開発する前に有機体開発に関する契約を締結しました。その契約は、Ginkgoがそれらの有機体開発に成功した場合は、大企業側が多額の資金を支払うという内容でした。

そして彼らは顧客需要があることの証明として、それらの契約書を投資家に見せて回り、顧客に約束していた有機体を実際に開発するために必要な数百万ドルの資金を調達しました。

つまり、彼らは実物を作る前に売っていたわけです。これは多くのハードテック企業が様々な形で活用している、非常に汎用性の高い手法です。

どうやって需要を証明するのか?

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この話は、ハードテック企業が最も頻繁に直面する2つの問題の2つ目につながります。それは、「自社プロダクトに対する需要があることを開発前にどのように証明するのか?」というものです。

これを証明することは、自分自身のためにも重要です。なぜなら、何らかのプロダクトの開発に数年を費やした結果、全く需要がないことに気付く、といった流れは絶対に避けるべきだからです。しかし、需要があることを投資家に証明するのも重要です。そのための方法はいくつかあります。

プリセールスをする

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最も良いのはプリセールスです。理想的なのは、自社プロダクトを開発する前に売ってしまうことです。多くの人がKickstarterで使っている手法です。

この好例が2期前のバッチに参加していたJetPack Aviationという企業で、この写真のような空中バイクを開発している企業です。JetPack Aviationはネット上でのプリセールスキャンペーンを通じて多くの人に空中バイクを販売し、自社プロダクトに対する需要があることを証明しました。

しかし、プリセールスが常に可能というわけではありません。例えば、FDAの承認を必要とする医療関係のプロダクトを開発している場合にはプリセールスは違法行為となりますので、絶対にしないでください。

LOIを結ぶ

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これを踏まえて私たちが考案したのが意向表明書(LOI)です。LOIは完成時のプロダクト購入に関する拘束力のない契約です。拘束力のない契約というのは変だと思われるかもしれません。拘束力のない契約なんて、矛盾とも言えますよね。

しかし、実際にはLOIは非常によく考えられたコンセプトです。拘束力がないため、顧客に購入を約束させるものではありませんが、契約のように見えることから顧客はこれを真剣に受け止めます。ただ話をしているだけの場合、顧客は社交辞令として「ええ、いつか完成したらあなたのプロダクトを購入しますよ」と気軽に答えることができます。会話だけなら、顧客は何の責務も感じないからです。

しかし、皆さんがLOIの締結を顧客に求めれば、顧客が皆さんのプロダクトの購入を本当に真剣に考えているかどうかがわかります。そして投資家はそのことをよくわかっています。

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では、LOIを使おうと思っている方に、いくつかのアドバイスをしましょう。

LOIは具体的であるほど有効です。優れたLOIは次のスライドのような情報がもれなく含まれています。そして素晴らしいことに、顧客とこうしたLOIを締結できた場合、それは「自社プロダクトから収益を上げるために何を作るべきか」を示すロードマップになります。

ハードテックスタートアップの資金調達

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最後に皆さんにお話ししておきたいのが、ハードテックおよびバイオテック企業の資金調達です。

大半のハードテック企業にとって自力での資金調達は不可能で、大抵の場合は投資家に頼ることになるでしょう。従って、ハードテック企業の立ち上げにおいては入念な資金調達計画が不可欠です。バッチ開始時に私を訪ねてくるハードテック企業の中には、このスライドのような資金調達計画を持ってくる企業もあります。この資金調達計画は、「私にはとても良いアイデアがあり、その開発には5,000万ドル必要です。ですから、5,000万ドル出してくれる人が見つかるまで多くの投資家にピッチをし続けます。資金さえ手に入れば準備は万全です」と言っているようなものです。

こうした計画はおすすめしません。

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このような計画を目にすると、私の頭にはこのスライドの絵の中の男性像が浮かびます。彼はただ壁を見上げて立っているだけです。この壁は5,000万ドル、不可能な資金調達です。実際、単なるアイデアだけで投資家に5,000万ドル出してもらえることはあり得ません。まずは何らかの進捗を示す必要があります。

ハードテックスタートアップでも段階的な資金調達をする

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そのためには、このような資金計画を策定しましょう。これは同じく5,000万ドルを調達するための計画ですが、最初はごく少額から始まる5段階に分かれています。ここで重要なのは、資金調達における各段階において、達成すべき具体的なマイルストーンを設定する必要があることです。つまり、Boomの事例のように、資金調達を始める前に何らかの進捗を示せるようになっている必要があります。

そして、それを利用してまず数十万ドルを調達し、その数十万ドルでさらなる進捗を実現させて次の100万ドルを調達し、その100万ドルでさらなる進捗を実現させて次の400万ドルを調達する、といった具合に続けていく必要があります。

基本原則はシンプルで理解しやすいですが、ハードテック企業立ち上げに必要なスキルの多くは、あらゆるステップを可能な限り小さくするための資金調達計画の微調整にあります。なぜなら、こうした資金調達計画の最も重要なパートは、各ステップが大きくなり過ぎないようにすることにあるからです。

最後に

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シリーズAで1,500万ドルを調達しようという頃までには、より多額の資金調達ラウンドに投資家が協力してくれるだけの十分な実績を上げている必要があります。そうでなければ、新たな資金調達の壁に直面することになるでしょう。

優秀なハードテック企業創業者は各ステップを可能な限り小さくすることに非常に神経を使います。そうすることで次回の資金調達ラウンドのために必要なマイルストーン達成を極力容易にすることができるからです。

ハードテックおよびバイオテック企業に関する講義は以上になります。

Q&A

では、質疑応答に移りましょう。そこの方、どうぞ。

AIのハードテックスタートアップの例

話者2
7社の事例を聞いていて気になったのが、AI企業が入っていなかったことです。AI企業の例は何かありますか?

Jared Friedman
はい。「事例にAI企業が入っていなかったが?」という質問ですね。良い質問です。どれか1つ入れておくべきだったかもしれません。YCカンパニーで、Cruiseという有名なAI企業があります。皆さんはCruiseをご存知ですか?Cruiseは自動運転車を開発し、10億ドルでGMに買収されました。ハードテック企業の好例ですね。Cruiseの第1号車はYC在籍中に3か月未満で開発されました。Kyle(Vogt)は3か月間ガレージに籠って車を作り、コードを書いていました。そしてYC卒業時には高速道路で走行可能なMVPを作り上げ、自動運転車を開発する力があることを証明しました。そこの方、どうぞ。

話者3
私ですか?

Jared Friedman
はい。

非営利のハードテックスタートアップ

話者3
非営利のハードテック系スタートアップと仕事をしたことがありますか?ある場合、どのように資金調達をしましたか?

Jared Friedman
「私が非営利のハードテック企業と仕事をしたことがあるか?」という質問ですね。そうした経験はありません。あなたはありますか?

話者3
はい。

Jared Friedman
なるほど。これについては後ほど直接お話しするほうが良いかもしれません。どのような仕組みでそれが可能なのか興味があります。そこの方、どうぞ。

LOI締結の困難さ

話者4
はい。これはいわゆるニワトリと卵の問題のように思いますが、スタートアップは自社プロダクトが人々に求められるものであると投資家に信じてもらおうとする一方、企業にも自分たちを信用してもらおうとしています。契約の中には拘束力がないものもあり、「完成したらXドル支払う」といった内容であることは理解できます。しかし、多くの企業は「こうした有機体が必要だ」という場合、「その有機体を必ず手にすることができる計画になっているのか?」という具体的な計画を軸にしたいと考えるのではないでしょうか?それとも、「手に入れることができればラッキー」といった話なのでしょうか?奇妙な状況に思えますが、そうした状況をどのように切り抜ければ良いですか?

Jared Friedman
なるほど。質問を言い換えれば、先方の企業はこちらがプロダクトを本当に作れるかどうか不明な中で計画を立てる必要があり、そうした状況下でのLOI締結は困難に思える、ということですね?答えは「イエス」です。LOIの締結は容易ではありません。たとえ拘束力がなくても、実際にLOIを締結するのはかなり難しいです。

奇妙な話ですが、締結が困難であるからこそ、価値のあるものになっているわけです。容易に締結できるのであれば何の価値もありません。つまり、LOIに価値があるのは、相手企業に締結させるのが困難だからです。

一般的に、企業がLOIを締結するのは、スタートアップ側が企業にとって非常に重要な問題をピンポイントで解決できる場合のみです。「あれば助かる」という程度のものではLOIの締結は困難です。そして、これは皆さんが相手にとって本当に重要な問題に取り組んでいるかを把握する良いきっかけとなります。後ろの、真ん中の方、どうぞ。

ハードテックとムーンショットの違い

話者5
ありがとうございます。ハードテックのアイデアとムーンショットのアイデアに違いはありますか?そして、どのように[聞き取り不能0:25]?

Jared Friedman
「ハードテックのアイデアとムーンショットのアイデアに違いはあるか?」という質問ですね。これは用語の使い分けに関する質問ですが、答えは「ノー」です。私は区別なくこれらの言葉を使っていました。

破壊的技術の場合

話者6
自分が取り組んでいるハードテックのアイデアがいわゆる「破壊的技術」であるとしたらどうでしょうか?これは[聞き取り不能]と全く異なっていて、それをどのように証明したら良いですか?

Jared Friedman
質問は、アイデアが破壊的技術である場合についてですね。「それを作り出せることをどのように証明するのか?」でしょうか、それとも「完成すれば人々から求められるものであることをどのように証明するのか?」でしょうか?

話者6
両方です。

Jared Friedman
両方ですね。私が挙げた事例は、その方法に関するアイデアを示していました。ハードテック企業にとって重要なのは、できるだけ多くのことを、できるだけ早く証明する方法を見つけることです。これは、アイデア実現の過程でリスクになるだろうと認識されているものを減らすためです。リスクを削減できればできるほど、次のステップに進むための資金調達が容易になります。後ろの方、どうぞ。

意思決定者への辿り着き方

話者7
ハードテックのアイデアを持っている場合、どのようにして意思決定者のもとにたどり着けば良いのでしょうか?大企業では特定の案件に関する意思決定者が誰なのか、よくわからない場合があります。そうした場合、その企業でプロダクトを使うことになる人物と、意思決定をする人物が異なる可能性があります。これはユーザーデザインを考慮すべき[聞き取り不能]と関連しています。エンドユーザーへの配慮を忘れないようにしつつ、誰が意思決定者か見極めるという問題にどう[聞き取り不能]すればよいのでしょうか?

Jared Friedman
なるほど。「企業を顧客としているハードテック企業で、先方の購買に関する意思決定者と実際のユーザーと思われる人が別人という状況にどう対処するか?」という質問ですね。そういう理解でよろしいでしょうか?

LOIのメリットとして、将来のプロダクト完成後に行うセールスプロセスを予行演習させてくれる点があります。プロダクトが手元にないのに、それができるわけです。組織内には多種多様なステークホルダーが存在し、そのインセンティブもそれぞれに異なる可能性があります。その場合、セールスは複雑になりますが、そのような組織とLOIを締結しようとすることで、そういった事実関係を知ることができ、全てのステークホルダーが納得するために、また、セールスを実現させるために必要なことは何か、わかってきます。ですから、これは初期段階で入ってくる非常に有益なフィードバックとなり得ます。最後の質問にしましょう。そこの方、どうぞ。

エンジニアの採用について

話者8
アーリーステージでハードテック・エンジニアのチーム作りをしている場合、大学院以外でそうした初期入社組となってくれるエンジニアをどこで見つけられますか?

Jared Friedman
「ハードテック企業の創業者や初期入社組の従業員を[クロストーク]どのように見つけるか?」という質問ですね。幸いなのは、実はハードテック企業は他業種の企業よりも採用が楽な傾向にあるということです。Boomを紹介した時にもお話ししたように、有能な人材は突拍子もない野心的なアイデアに魅かれるものです。ですから、Boomのような突拍子もない野心的なアイデアに取り組んでいることは、採用に関しては有利に働くと思います。

どこで人材を見つけるかに関しては、従業員の採用と同じようにあらゆる場所で可能ですが、容易ではないでしょう。ハードテック企業であっても、飛び抜けて才能のある人材を見つけるのは難しいです。さて、時間が来たようです。皆さん、ありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Advice for Hard-tech and Biotech Founders (2019)

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