"エンジェル投資家"とエンジェル投資家とVC (Aaron Harris)

最近、私は、実際にはエンジェルではない「エンジェル投資家」が急増していることに気づきました。これらの投資家は機関投資家です——つまり、合資会社(LP)の資金です。通常、その詳細は、創業者が書類の署名欄で知らない組織の名前を目にして初めて明らかになります。1

それは法律上の理由から投資家を代表する、信託や基金による投資とは違います。実際には投資家集団であるにもかかわらず、表向きは個人のエンジェル投資家を装っている投資家です。そのため、彼らはベンチャーキャピタリストになります。

これにはいくつかの形態があるように見えます。一つ目は、AngelListに掲載されているような正式なシンジケートを代表するエンジェル投資家です。「ほら、私はシンジケートを運営しているんだ」と宣言する投資家もいます。また書類に署名がされる時点までこの情報を隠しておく投資家もいます。この時点で、慎重な創業者は、署名欄に謎の組織の名前があることに気づきます。何が起こっているのかを尋ねる創業者もいますが、そうしない創業者もいます。

もう一つの形態は、特別目的事業体(SPV: Special Purpose Vechicle)です。これは1つの目的を共有した共同事業で、投資家集団がある具体的な機会に資金を提供するために集まっています。これは主に、投資家の個人的な投資資金の許容を超えるような大きな取引のために構想されました。ファンドは時として、同時に自らの合資会社に投資するために、大きく成長したラウンドでこれらを活用します。これに関する最近の意外な展開は、それが個人のエンジェル投資家の形を取るようになり、大規模なシードチェック、ブリッジラウンド、シリーズAやBを中心にしてSPVを形成していることです。

私が目にしたもう一つの形態は「スカウト」です。これは、より大手のベンチャーキャピタル(VC)ファンドから密かに基金を与えられる創業者です。その基底にある考え方は、スカウトがシンジケートの範囲を拡大し、そうでなければ探すことが難しかったであろう創業者をファンドが見つけ出すことを可能にするというものです。スカウトは、大抵は投資の一部にキャリーを得ることになり、VCファンドはスカウトから会社の情報を入手します。

私が目にした形態の最後の一つは、完全に1人の人物名だけを記したVCファンドです。これはファンドに“Kleiner Perkins”の名を冠するのと全く同じです。新しいVCの知名度がまだ低いというだけの違いです。相違点は、投資家が舞台裏には誰もいないふりをしている場合でも、実際には、そこにはLPの基盤がまるごと組み込まれているということです。

エンジェル投資家が、時として、限られた期間内に自分たちが投資できる資金以上の額を取引に投入しようとするのは論理的なことです。所有権が大きいほど、それは大きな収益に変わります。なぜなら、そのような取引は一般的に、エンジェルのリード投資家に対し、投資家集団内の他の投資家の投資に関連するキャリー収益をもたらすからです。エンジェル投資家がこれを隠したがるのも、残念ながら筋が通っています。創業者は、投資の目的が利益と楽しみの半々である若干風変わりな、そのほとんどが善意の投資家と、エンジェル投資家とを同一視するのに慣れています。エンジェル投資家は、機関投資家と比べて、より役に立ち、より創業者の最善の利益となるものに順応することが期待できます。

その一方で、ベンチャーキャピタリストはスタートアップ構築にとってファウスト的なパートナーです。2 その真意はこうです。もちろん、あなたには彼らの資金が必要です。ですが、彼らを信用すべきではありません。さもなければ、彼らはあなたをお払い箱にするでしょう!彼らは、自分たちが支配権を得るために、あなたに資金のすべてを使わせるでしょう。このようなことは稀ですが、実際に時折起こっています。投資家には自分たちの投資を保護する受託者としての責任があることは確かであり、この責任は創業者と噛み合わないものである可能性があります。3

このエンジェル投資家の行動について私が奇妙に感じるのは、これは、それ自体、悪いものではないということです。スタートアップにより高額の資金をもたらすものは何でも、全体として見ればよいものです。なぜなら、より多くのことを試すことができるからです。問題は開示です。創業者には、自分たちが受け取った資金の出処を知る権利があります。そして彼らには、その財源が投資家の助言にどのように影響するかを知る必要があります。

しかしながら、この新しい傾向が及ぼす明白でネガティブな影響が1つあります。そして私は、これがシードとシリーズAのラウンドの間で起こっているのを目にしています。最近私は、素晴らしすぎて信じがたいような条件での「エンジェル」投資家による投資が急増していることに気づきました。これは通常は、例外的に高いか、または、キャップなしのSAFEという形で優良企業に投入されています。エンジェル投資家いわく、これは資金調達から企業を解放し、優れた人々を巻き込むので、企業にとっては素晴らしいことです。大抵の場合、エンジェル投資家がこれを行う実際の理由は、ファンドとして、企業における所有権を大きく拡大しなければいけない段階に入ったからです。かつてアーリー・チェックによって手にしていた報酬を得るためです。

創業者にとっての現実も、同様に扱いづらいものです。多くの場合、これは企業にとっては悪い取引です。シード段階後に調達された資金はどのようなものでも、その後のあなたのシリーズAで大きな割合を占めるものになるからです。シリーズAのリード投資家は、あなたの会社の所有権を最大20%まで望むでしょう。現在あなたの会社に投資している投資家が誰であろうと問題にはしません。あなたがキャップなしのSAFEを拡大したので、彼らは切り下げをしません。これによりあなたは必然的に、プロラタ契約に違反するか、あるいは自ら希釈化を行うことになります。このことで、よい取引に見えるものがたちまち悪い取引になる可能性があります。また、「エンジェル」の呼び名もふさわしいものではなくなります。4

創業者は常に投資家に対し、資金源がどこにあるかを問う必要があります。投資家が答えないか、あるいは何度も問いかける必要がある場合は赤信号です。投資家や、受ける可能性のある投資家の提案、助言をどのようにとらえるかを決定するために、創業者にはその情報が必要です。全ての投資家がこれを公表するならば素晴らしいことですが、実際にはそうはならないでしょう。ですから、創業者はこの質問をしなければならず、さもなくば、好ましくない状況に陥る危険をおかすことになります。

1. 加えて、創業者が質問した場合のみです。
2. つまり悪魔です。
3. 私がこれを以下のサイトで執筆したのは、少し前のことになります。
http://www.aaronkharris.com/investors-and-their-incentives とこちら:
http://www.aaronkharris.com/why-vcs-sometimes-push-companies-to-burn

4. 以下のサイトと関連しています。http://www.aaronkharris.com/investors-and-their-incentives

本稿の執筆に際し、Jared FriedmanとNabeel Hyattのご助力に感謝します。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです、彼は 2011 年に YC に採択された Tutorspree の共同創業者であり、Tutorspree を始める前には Bridgewater Associates で分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。彼は Harvard から歴史と文学の AB を受けています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: “Angels,” Angels, and VCs (2019)

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