スタートアップを始める前に (Startup School 2014 #03)

 

子供がいることのメリットの1つは、誰かにアドバイスを与えなければならない時に「自分の子には何と言うだろう?」と自問できることです。そうすることで自分の考えが研ぎ澄まされます。まだ2歳の私の子供に、「2歳の次は何になる?」と聞いたら、「コウモリ」と答えました。「3歳」と言ってほしかったのですが、「コウモリ」とは、なるほど面白い答えでした。

私の子供はまだ小さいですが、彼らが大学生になったらスタートアップについて何とアドバイスするべきか、もう分かっています。それと同じことをこれから皆さんにお話しします。ここにいる皆さんは私の子供と言っていいほど若い方がほとんどですから、私の子供へのアドバイスをそのまま皆さんへアドバイスします。

スタートアップは反直観的

スタートアップは極めて反直観的です。その正確な理由は分かりません。単にスタートアップに関する知識が私たちの文化にまだ浸透していないからかもしれません。しかしどんな理由であれ、スタートアップの世界ではいかなる時も自分の直観を信じることは危険です。

いわばスキーのようなものです。皆さんの中で大人になってスキーを覚えた方はいますか?

初めてスキーをする人は、減速したい時、反射的に体を後ろに反らします。スキー以外の場合と同じです。ところが、スキーで後傾するとコントロールを失って斜面を急降下してしまいます。

私が学んだことは、つまりスキーは反射的な動きを抑えることがコツだ、ということです。そのうち新しい動きも身につくでしょうが、スキー初心者は、斜面を下る時に両足を交互に使う、S字ターンをする、内足を引きずらないなど、いくつも覚えておくべきことがあります。

スタートアップはスキーと同じように本能に反するもので、そのために頭に入れておくべきことがあります。本日の講義では、自分の本能で迷走しないように反直観的なことについていくつかお話しします。

まず1つ目は、私が今お話ししたことです。スタートアップは変わった世界なので、直観に頼ると道を誤ってしまいます。それだけ覚えていれば、失敗する前に立ち止まることができるでしょう。

私がYコンビネーターを主宰していた頃、「創業者に無視されるようなことを教えるのが私たちの仕事だ」と冗談でよく話していましたが、これはまさしく事実です。どのバッチでも、YCパートナーは創業者が陥りそうな失敗について注意を促すのですが、彼らは気にも止めません。そして1年後、「あの時注意をちゃんと聞いておけば良かった」と後悔します。しかし、彼らは資本政策表ばかり見ていて、手の施しようがありません。

Q. なぜ創業者はパートナーのアドバイスを無視するのでしょうか?

A. パートナーのアドバイスは反直観的だからです。自分の直観とは相反するものだから、間違っていると感じる。そして当然、衝動的に無視してしまう。

しかし、これはYコンビネーターの呪いではなく、ある意味私たちのレゾンデートル(存在意義)なのです。当たり前のアドバイスなら必要とされないでしょう。創業者が自分の直観で正しい答えを導き出せるなら、私たちは必要ないでしょう。

世の中にスキー・インストラクターはたくさんいますが、ランニング・インストラクターはあまりいません。「ランニング・インストラクター」という言葉は「スキー・インストラクター」ほどよく聞かないでしょう。それは、スキーが反直観的なものだからです。これはビジネス版スキー・インストラクターとも言うべきYCと似ている点です。同じ斜面でもスキーは下るもの、YCは(理想として)上るものですが。

しかし、人に関しては直観を信じて良いでしょう。皆さんのこれまでの人生はスタートアップとは無関係だったでしょうが、ビジネスの世界で人と付き合うことは、皆さんがこれまで人と付き合ってきたことと変わりありません。

実際、創業者が犯す大きな間違いの1つは、人に関する自分の直観を十分に信じないことです。どこか不安を覚えるけれど、優秀そうな人物と関わりを持って、後に問題が起こるとこう言います。「ちょっと変だと思ったが、優秀に見えたから問題にしなかった」と。

ビジネスの世界にはこのような特殊なケースが存在します。特に皆さんのようなエンジニアリング畑の人の場合はそうです。ビジネスにおいては多少は嫌なことも伴うものだと思われています。ですから、何となく嫌な感じでも賢そうな人を、「ビジネスの世界ではよくいるタイプだ」と思ってしまいます。しかし、それは違います。友人を選ぶように人を選んでください。わがままであることが有利に働くケースもたまにはあるのです。

世の中には初めのうちは感じの良い人間を演じられる人がたくさんいます。ですから、自分が本当に好意や敬意を抱くことができ、長年の付き合いがあって信頼のおける人と共に仕事をするべきです。自分と利害が対立する事態になれば、相手の本性が分かるでしょう。

スタートアップに関する専門知識はいらない

次に直観に頼らないことの2つ目のポイントです。少々がっかりさせてしまうかもしれませんが、スタートアップで成功するために必要なことは、スタートアップに関する専門知識ではありません。それが、このクラスが他のクラスと違っている点です。

フランス語の授業なら、(しっかり勉強すれば)フランス語の話し方を習得できるでしょう。ネイティブほど流暢ではないかもしれませんが、かなり近く話せるようになりますよね。このクラスではスタートアップについて学びますが、それは皆さんがスタートアップで成功するために必要な知識ではありません。必要なことはスタートアップに関する専門知識ではなく、自社のユーザーに関する専門知識なのです。

Mark Zuckerbergがスタートアップの専門家だったからFacebookが成功したわけではありません。彼はスタートアップに関して全くの素人だったにもかかわらず成功しました。Facebookは当初、フロリダ州の有限会社として設立されました。その辺りの話は皆さんもよくご存じでしょう。彼がスタートアップに関して全くの素人だったにもかかわらず成功した理由は、自社のユーザーを良く理解していたからです。

皆さんの大半はエンジェルラウンドによる資金調達の仕組みをご存じないですよね?そのことを不安に思ったのなら心配無用です。なぜなら、Mark Zuckerbergもおそらくエンジェルラウンドの仕組みを知らないからです。Ron Conwayが彼のために巨額の小切手を切ったことも、今はもう忘れているでしょう。

スタートアップを始める方法を学ぶと「スタートアップごっこ」をし始める?

実際、私が懸念しているのは、スタートアップを始める方法について詳細を学ぶことは不要であるばかりでなく、少々危険でもあるということです。なぜなら、スタートアップを始めようとする若手創業者が犯すもう1つの特徴的な間違いは、起業を形から入ることだからです。

彼らはもっともらしいアイデアを思いつき、良い評価を得るために資金を集め、SoMa (訳注:サンフランシスコの Soutth of Market の略) に小奇麗なオフィスを借り、多くの友人を雇います。しかし、自分たちがいかに馬鹿だったか、徐々に気付き始めます。彼らは起業の形をなぞるだけで、人々が求めるものを作るという非常に重要なことを疎かにしていたからです。ところで、こうした下品な言葉を仕方なしに使ったのは最初とここだけです(笑)。問題ないかSamに確認しましたが、彼も何度も使っているとのことでした。

私たちはこのような形だけのスタートアップを数多く目にしてきました。そこで、これを「スタートアップごっこ」と名付けました。なぜこういうことが起きるのか、私はようやく理解することができました。若手創業者がスタートアップごっこに陥る理由は、これまでの人生において、そのように訓練されてきたからです。

大学に入るために必要なことを考えてみてください。課外活動?そうですね。大学の授業でも、学生が勉強することの大半はトラックを何周走るというようなうわべだけのものです。私はそのような教育システムを非難しているわけではありません。何かを学ぶということは必然的に多少の真似事を伴うものです。そして、学生の成績を評価しようとすると、学生は必然的にその(うわべと本物の)違いを突いてくるので、結局ほとんどは真似事の産物を評価することになってしまうのです。

実は私も大学時代はそうでした。良い成績を取るためのコツだったのですが、ほとんどの授業で、試験問題となるポイントは20~30個しかないことに気付いた私は、試験勉強として授業の内容を理解するのではなく、試験に出そうな問題をあらかじめ予想して回答を考えました。

私にとっての試験とは、どう答えるかではなく、予想した問題のうちどれが実際に出てくるかだったのです。ですから、試験会場に入って、問題を見て、自分の予想がどれだけ当たっているかで、そのテストが何点になるか瞬時に分かりました。このやり方は多くの授業でうまくいったのですが、特にCSの授業では役立ちました。思い出すのはオートマトン理論のテストですが、この理論について試験に出るポイントは2~3個しかありませんでした。

若手創業者はそうしたゲームをするべく生まれてからずっと効率的に訓練されているので、彼らが起業するにあたって、まず新しいゲームを攻略するコツを見つけようという衝動に駆られることは驚きではありません。

スタートアップの成功の尺度は資金調達額ではない

スタートアップの課外活動とは何でしょうか?初心者が犯すもう1つの間違いですが、スタートアップにおける成功の尺度は資金調達だと思われているため、彼らは何をすべきか、投資家を説得する秘訣は何かを必ず知りたがります。

ですので、私たちは創業者に、投資家を納得させる最善の方法は、スタートアップを順調に立ち上げる、つまり迅速に成功させる、ただそれを投資家に伝えるということだと教えなければなりません。

急成長の秘訣はグロースハックではない

すると彼らは急成長の秘訣は何かと聞いてきます。ここで厄介なのが「グロースハック」という言葉の存在です。グロースハックについて誰かが語っているのを耳にしたら、「くだらない(Bullshit)」と頭の中で翻訳しましょう。なぜなら、スタートアップを成長させるための手法として私たちが彼らに話すのは、まずユーザーが惚れ込むものを作ることだからです。これが皆さんのすべきことです。そこにあるのがグロースハックです。

YCパートナーと創業者の間で、最初に「どうすれば~ (How do I…)」と創業者が質問し、「ただ~ (Just…)」とパートナーが答えるような会話が数多くあります。なぜ彼らはこうも物事を複雑にするのでしょう?

長年悩み続けた末に私が得た答えは、彼らが求めるものは攻略法であり、それを探すよう訓練されているからだということです。

スタートアップにはゲームの攻略法が通用しない

つまりこれが、スタートアップに関して覚えておくべき反直観的なことの3つ目です。スタートアップを始めるということは、ゲームの攻略法が通用しなくなるということなのです。大企業であれば攻略法が通用するかもしれません。その会社がどれほど腐敗しているかにもよりますが、うまく人にゴマをすることで成功できるかもしれません。

夜遅くにメールを送ることで生産的な人間だという印象を与える、またはもっと賢く、メールのヘッダーを確認されてもいいように、自分のコンピュータの内蔵時計を変える。私の冗談で皆さんが笑ってくれて嬉しいです。ビジネススクールで「ヘッダー」とは。おっとまずい、これは録画されているのでしたね。今思い出しました。

さて、ここからはきっちりと台本通りでいきましょう。しかし、スタートアップではそれは通用しません。ごまかせるようなボスも存在しませんし、ごまかす人間が誰もいない場合にどうやって人々を攻略できるでしょうか?存在するのはユーザーだけで、全てのユーザーの関心は皆さんのソフトウェアで彼らの求めることができるかどうかです。

ユーザーはサメのようなものです。サメはだまされるほど馬鹿ではありません。肉がないのに赤い旗を振ってだますことはできません。皆さんは人々が求めるものを生み出し、それをどれだけやれるかで成功の度合いが決まってきます。危険なのは、特に皆さんに言っておきたいのですが、投資家にはある程度ごまかしが通用してしまうことです。

口がうまい人なら、投資家をごまかして1回や2回くらい資金提供を受けることができるかもしれません。しかし、皆さんが興味を持っているのはそういうことではないですよね。全てはエクイティに関わってくるので、自分自身をだますことになるのです。これは時間の無駄です。破綻する運命にあるスタートアップの評価損を計上するのに時間を浪費するだけです。

ですから、攻略法を求めることはやめましょう。他の分野のようにスタートアップにも秘訣はありますが、現実の問題を解決することの方が桁違いに重要なのです。資金調達に関する知識は無くてもユーザーが夢中になってくれるものを作り出した人は、教科書に書かれているあらゆる攻略法を知っていてもユーザーを増やせずにいる人より楽に資金調達ができるでしょう。

しかし、ゲームの攻略法が通用しなくなることは、皆さんが20年かけて使い方を習得してきた最も強力な武器を取り上げられてしまうという意味において残念なことです。ゲームを攻略することが勝つ方法ではない世界が存在することは、とても素晴らしいことだと思います。

私の大学時代、ゲームを攻略することは他と比べてさほど重要ではなく、また全く関係ない世界もあるとはっきり分かっていたら、大学生活はとても面白かったでしょう。しかし、そういう世界は存在します。それぞれの仕事でどうやって成功していくか?それによって何を勝ち取りたいのか?これらは自分の将来を考える上で、最も重要となることの1つなのです。

スタートアップを始めると想像以上に時間を使う

これが反直観的なことの4つ目につながるのですが、スタートアップは全身全霊をかけて取り組むものです。スタートアップを始めることは、想像以上に自分の時間を費やし、成功すればもっと長い時間を費やすことになります。最低でも数年間、あるいは10年、あるいはリタイヤするまでずっとかもしれません。ですから、機会費用として考えれば、とてつもないレベルになります。

Larry Pageは誰もがうらやむ人生を送っているように見えるかもしれませんが、全くそうではない部分があるのです。彼は25歳という若さで早くも経営者となり、それ以来ノンストップで走り続けている人物として世の中に知られています。Google帝国では皇帝だけが対処できる厄介な問題が日々発生し、彼は皇帝としてそれに対応しなければなりません。

彼がたった1週間でも休暇を取ると、その間に未解決の問題が山積し、彼は不平も言わずそれらに向き合わなければなりません。その理由は、第一に創業者である彼は不安や弱さを見せられないからです。第二に、億万長者が困難な人生を送っていることを愚痴って人から集められる同情はゼロ、実際にはそれ以下だからです。

ですので、成功を手にしたスタートアップ創業者は自らの困難をめったに人に見せないという奇妙な副作用が生じます。オリンピックの100メートル走で勝った選手を近くで見れば、彼らが息を切らしているのが分かります。Larry Pageも同じですが、彼は決してそういう姿を見せません。

Yコンビネーターが現在出資している会社の中には、大成功を収めていると言われる会社が数社存在します。それらの会社の創業者は口を揃えて「楽なことは1つもない」と言います。悩みの種は、ワンルームマンションのエアコンの故障のような話からロンドンに建築中の新オフィスの工事遅延といったより華やかな問題へとその本質は変わってくるかもしれません。しかし、悩み事の総量が減ることはありません。何かが起きれば悩みは増えます。

スタートアップを始めることと、子供を持つことは似ている

成功するスタートアップを始めることは、子供を持つことと似ています。それはボタンのようなもので、それを押すと自分の人生が決定的に変わります。子供を持つのは最高に良いことです。今日の講義から1つ学ぶとすれば、このことを覚えておいてください。

子供を持ってからよりも、持つ前の方が簡単にできることはたくさんあります。そしてそれらのことは、良い親になるために子供を持ってから役立ちます。皆さんもご存知の通り、豊かな国ではこのボタンを押すのを少し先送りしている人が多いですね。

しかし、起業となると、多くの人々が大学在学中に始めるべきだと考えているようです。正気ですか?大学は、学生に十分に避妊具を行き渡らせるための手配を考える一方、あちこちで起業家プログラムやスタートアップのインキュベーターを立ち上げています。

とはいえ、大学はそうせざるを得ません。入学してくる学生の多くはスタートアップに興味を持っています。大学は、少なくとも事実上、皆さんのキャリアをサポートするべきで、スタートアップに興味を持っている学生は大学がスタートアップについて教えてくれるものと思っています。でなければ、そう思って応募してくる学生を失うことになるかもしれません。

大学とはスタートアップについて学べる場所なのでしょうか?そうでない場合、私たちはここで何をしているのでしょうか?

スタートアップについて私が説明したように、答えはイエスでもありノーでもあります。本質的には、フランス語を学びたいなら大学で言語学を学ぶことができます。大学とはそういう場所です。学ぶものは言語学です。皆さんは特定の言語を学びたいと思うでしょうが、私たちが皆さんに教えるのは言語の学び方です。

皆さんが理解すべきことは、ユーザーのニーズです。これは皆さんが実際に起業しないと分かりません。起業とは、始めてみないと本質的に学ぶことができないのです。ですので、大学でこれを学ぶことはできません。

スタートアップは皆さんの全人生をかけて取り組むものです。大学在籍中、つまり学生時代にスタートアップを始める場合、学生と両立することはできません。なぜなら、スタートアップを始めたら学生でいられなくなるからです。名目的には学生かもしれませんが、それでも長く学生でいることはできません。この二分法において、どちらの道を選ぶべきでしょうか?

起業はせずに本業である学業に専念するか、起業して大学を辞めるかのどちらかです。

大学在学中にスタートアップは始めるべきではない

では、ここにいる皆さんを自分の子供だと思って答えをお教えしましょう。大学在学中にスタートアップを始めてはいけません。今の言葉でひどく落ち込んでしまった人がいたら申し訳ありません。向上心のある人々にとって、スタートアップを始めることは充実した人生の素晴らしい一部となるでしょう。

しかし、これは皆さんが解決すべきもっと大きな問題の一部にすぎません。充実した人生を送るという大きな課題です。起業するにはふさわしい時期があるのかもしれませんが、20歳は最適な年齢と言えません。

人には20代前半にしかできない、その前でも後でもできないことがあります。利益を生みそうにないプロジェクトに気まぐれで首を突っ込んだり、時間を気にせずに貧乏旅行をしてみたり。分野は違いますが、それらは同じ意義を持っています。

向上心がない人々にとってはそうした行動は無残な結果となるかもしれませんが、向上心がある人々にとっては実に貴重な探索の機会となります。20歳で起業して成功してしまったら、こういう機会は二度と訪れないでしょう。

Mark Zuckerbergはもう外国を放浪することはないでしょう。もし外国に行くとしたら、事実上の公式訪問かパリのGeorge Vホテルにお忍びで滞在しているかでしょう。バックパッカーでタイを旅することもないでしょう。まだタイにバックパッカーがいるとしたらですが。おっと、初めて盛り上がりましたね。この話はタイですべきでした。

彼は外国へチャーター機で行くなど皆さんには不可能なことができます。物凄い大型機に乗ってです。しかし、彼は成功したことで人生における多くの思いがけない発見を失ってしまいました。彼はFacebookを動かしているのと同時にFacebookに動かされています。

ライフワークだと思えるプロジェクトに取り組めることはかっこいいかもしれませんが、思いがけない発見にはメリットがあります。何よりも、ライフワークを選ぶためにより多くの選択肢を与えてくれます。

ここではトレードオフさえありません。20歳でスタートアップを始めなくても何も失うものはありません。なぜなら、先送りにした方が成功する可能性が高いからです。皆さんが20歳でFacebookのような急成長するサイドプロジェクトを持っているという天文学的に確率が低いケースでは、それを続けるか続けないかの選択肢があり、おそらく続けるのが妥当でしょう。しかし通常の場合、スタートアップが急成長するかどうかは創業者の手腕にかかっています。それを20歳でやるのは馬鹿げていることは言うまでもありません。

スタートアップは年齢を問わず始めるべきでしょうか。スタートアップの開始は難しそうに聞こえるかもしれません。もしまだ説明が足りないのであれば、ここでもう一度言わせてください。スタートアップを始めることは本当に困難です。そうした困難に対する心構えができていなかったらどうなるのでしょうか。

スタートアップで成功する人は誰だかわからない

その答えが反直観的なことの5つ目となります。それは誰にもわかりません。数学者やプロのフットボール選手になりたいのであれば、これまでの人生からどんな可能性があるかが分かるでしょう。しかし、皆さん全員がそれに当てはまるわけではありません。

非常に変わった人生を送っていない限り、スタートアップ立ち上げに匹敵するようなことを成し遂げた人はいないでしょう。起業して成功させることは、自分を大きく変えることです。ですから、皆さんが推測すべきことは現在の皆さんについてではなく、皆さんが将来なり得るものなのです。それができるのは誰でしょう?私ではありません。

過去9年間、私の仕事は推測――おっと、私はここに「予測(predict)」と書いているのに口では「推測(guess)」と言っています。フロイト的失言ですね――はい、予測することでした。

真面目な話、賢い人を10分で見分けることは簡単です。テニスボールを何球か相手コートに打って、ボールがこちらに返ってくるかネットに当たるかです。難解かつ最も重要な部分は、相手がどれだけタフで向上心を持つ人間になるかを予測することでした。

これを予測することに関して、私以上の経験を持っている人はここにはいないかもしれません。専門家がそれについてどれだけ多くのことを知っているでしょうか。答えは「それほど多くない」です。

私が経験から学んだのは、各バッチのスタートアップでどれが成功するか判断するには一切の先入観を捨てることでした。知ったかぶりの創業者もいます。これまでの人生で直面した数少ない簡単なうわべだけのテストでA評価を連発していたように、YコンビネーターでもA評価を取れると自信満々でやってくる人もいます。一方で、何かの間違いで入学してしまったけれどボロが出たらまずいなと考えている人もいるかもしれません。

そうした心構えと結果に相関関係はほとんどありません。軍隊も同様であることを私は本で読みました。おそらく同じ理由から、自信満々の新兵と大口を叩かない新兵が真にタフな兵士になる可能性に変わりはありません。人がそれまでの人生で受けてきたテストとは全く違うものです。

起業することにすごく不安を感じているなら、やめた方がいいでしょう。不安に思うことを楽しめるタイプなら別ですが。やり遂げられるか確信が持てないだけなら、それを理解する唯一の方法は試してみることです。ただし、それは今ではありません。

スタートアップのアイデアを見つけるためには、アイデアを考えないようにすること

では、いつの日かスタートアップを始めたいなら、大学生が今すべきことは何でしょうか?最初に必要なのは2つだけ、アイデアと共同創業者です。この両方を手にするための方法は同じで、それが反直観的なことの6つ目、最後のポイントとなります。

スタートアップのアイデアを得る方法は、スタートアップのアイデアについて考えないようにすることです。この点についてエッセイ(訳注:いかにスタートアップのアイデアを得るか)を書いていますので、ここで全部説明することはしません。

しかし、かいつまんで話しますと、スタートアップのアイデアを考え出そうと意識的に努力すると、稚拙というだけでなく、稚拙で実行できそうに思えるアイデアが浮かんできます。つまり、皆さんも世の中の人もそういうアイデアにだまされてしまいます。良くないアイデアだと気付くのに長い時間を無駄にしてしまいます。

優れたスタートアップのアイデアを考え出す方法は、一歩退いてみることです。スタートアップのアイデアを考え出そうと意識的な努力をするのではなく、スタートアップのアイデアが無意識に浮かんでくるような頭に切り替えましょう。

無意識すぎて最初はスタートアップのアイデアが浮かんだと気付くことさえないかもしれません。これは可能性の話ではなく、YahooやGoogle、Facebook、Appleはどれもこうして始まりました。これらは当初会社となる予定ではなく、どれもサイドプロジェクトにすぎませんでした。非常に優れたアイデアは、ほとんどの場合サイドプロジェクトとして始まるものです。なぜなら、異端の考えなので、起業のアイデアとしてふさわしくないと自分の意識レベルで却下してしまうからです。

関連すること学び、興味のある問題に取り組み、一緒に仕事をする

では、どのようにすればスタートアップのアイデアが無意識に浮かぶようになるのでしょうか?1つ目は関連することについて多く学ぶこと、2つ目は興味のある問題に取り組むこと、3つ目は、自分が好意や敬意を持つ人々と一緒に仕事をすることです。ちなみに、3つ目の点は共同創業者とアイデアを同時に獲得する方法でもあります。この一節を初めて執筆した時、「関連することについて多く学ぶこと」ではなく、「何かの技術に精通していること」としていましたが、その規定では狭すぎました。

Airbnbを設立したBrain CheskyとJoe Gebbiaは特に技術の専門家だったわけではなく、アートスクールに通うデザインの専門家でした。より重要なのは、彼らは人をまとめてプロジェクトを実現させることが得意だったことかもしれません。つまり、自分を伸ばしてくれる物事に取り組んでいる限りは技術自体に目を向ける必要はありません。

これはどういうことでしょうか?今ここで一般的なケースについて答えるのは非常に難しいのですが、これまでの歴史で、その時代の人々には重要だと思われなかった問題に取り組んでいた若者がたくさんいました。一方、その若者の両親はそうした問題を重要だと考えていませんでした。逆に、自分たちの子供は時間を浪費していると考え、その見方が正しかった両親はもっと多く存在しました。

自分が本物に取り組んでいるかどうかはどうやって分かるのでしょうか?Twitch.tvがJustin.tvから派生してビデオゲームの実況配信をすることになった時、私は「何だ、それ?」と思いました。ところが、このビジネスは成功を収めました。私は面白ければ本物だと思います。だから、わがままです。私は、他人が全く関心を示さなくても自分が面白いと思ったことには好んで取り組みますが、重要でも退屈な仕事をするのは苦手です。私の人生は、単に興味があって取り組んだ仕事が、後になって世の中の役に立つと判明したケースの連続でした。

Yコンビネーター自体も、面白そうだと思ったからやっていただけです。私は自分を導く体内コンパスを持っているようです。でも、今は私ではなく皆さんの話で、皆さんの頭の中には何があるのか私には分かりません。もっと考えれば、本当に興味深いアイデアを見分けるための発見的解決法を思い付くかもしれません。しかし、ここで皆さんに教えられるのは、どうしようもなく論点をはぐらかしたアドバイスです。

ちなみに、実際これは循環論法という言葉の意味です。そのアドバイスとは、本当に面白いと思う問題に興味を持ったなら、その興味を精力的に追求することがスタートアップに備える最善の方法であり、おそらく人生を送る上でも一番良い方法だ、ということです。

何が興味深い問題とされるか一般的には説明できないのですが、その大きなくくりについては言えることがあります。ある技術がフラクタルの形のように広がっていくと考えてみると、その図形の広がっていく先端全てが面白い問題を表しています。

蒸気機関については、皆さんは全く知らないでしょう。スタートアップのアイデアが無意識に浮かんでくるような頭に切り替える確実な方法は、何らかの技術の先端に自分自身を置くことです。Paul Buchheitが言っているように、「未来に生きる」ことです。そこにたどり着けば、非常に先見の明があるように人に思ってもらえるアイデアが見えてくるでしょう。それらがスタートアップのアイデアだと気付かないかもしれませんが、実現すべき何かであるということは分かるようになるでしょう。

一例として、90年代半ばのHarvard大学の話をしましょう。私の友人RobertとTrevorの知り合いの大学院生で、独自のVoIPソフトウェアを書いていた男性がいました。彼はスタートアップとしてやっていたわけではなく、スタートアップを始めようとも思っていませんでした。ただ台湾にいるガールフレンドとお金をかけずに長距離電話をしたかっただけでした。彼はネットワークを専門としていたので、音声をパケット変換し、お金のかからないインターネット経由で送ればいいだけだということは明らかでした。

なぜそれまで誰もやっていなかったのでしょう?この種のソフトウェアを上手に書ける人がいませんでした。彼はこれを使って何かすることもなく、スタートアップでやろうともしませんでした。最高のスタートアップとは得てしてこのように誕生するものです。

スタートアップとして成功したいなら、大学ではただ学ぶこと

スタートアップ創業者として成功したければ、大学では起業家精神に重点を置いた今どきの職業向けの授業を受けるのではなく、大学本来の学問のための教育を受けることが最適です。自分でスタートアップを始めたいなら、大学ではパワフルなものを学ぶべきです。真の知的好奇心を持っていれば、自分の気持ちに従うことで自然にそうなるでしょう。本当に大切な起業家精神の要素とは、(真面目くさった顔では語れないですが)その分野の専門知識です。

Larry Pageが今あるのは彼が検索の専門家だったからであり、彼が検索の専門家になれたのは、彼が不純な動機からではなく心から興味を持っていたからです。スタートアップを始めることは好奇心に対する不純な動機にすぎないのですが、成功するには、その不純な動機はプロセスの最後まで置いておきましょう。スタートアップ創業者を目指す若者に対する究極のアドバイスを短く言うと、「とにかく学べ (just learn)」です。

Q&A

残り時間はどれくらいですか?質疑応答に18分、わかりました。では、何か質問はありますか?

非技術系の創業者はどう貢献するか?

Q. では2つの質問から始めましょう。非技術系創業者が最も効率よくスタートアップに貢献するにはどうしたらいいでしょうか?

A. ある分野におけるスタートアップ、純粋な技術系ではないが特定の分野に関するスタートアップの場合、例えば、非技術系創業者がリムジンビジネスの専門家であるUberのような場合は、非技術系創業者がほとんどの仕事をするでしょう。Uberでは、非技術系創業者がドライバーの採用やUberを運営するためのあらゆることを担当し、技術系創業者のすることは、パートナーの仕事量の半分にもならないようなiPhoneやAndroid用アプリの開発です。純粋な技術系スタートアップの場合、非技術系創業者の仕事は営業、そしてコーヒーとチーズバーガーをプログラマーに配ることでしょうね。

ビジネススクールに起業にとっては価値はない

Q. 起業家を志望する者にビジネススクールは価値があると思いますか?

A. 基本的にはノーです。気の利かない答えですが、ビジネススクールはマネジメントを教えるための場所です。マネジメントは、スタートアップが十分に成功してから初めて考えるべき問題です。ですから、スタートアップを成功させるために皆さんが初めに理解しておくべきことは、プロダクトの開発です。何かの学校に行きたいなら、デザイン学校に通う方がましでしょう。

率直に言いますと、そのやり方を身につけるには実際にやってみることです。以前私は間違えていたのですが、スタートアップに興味がある人たちに実際に起業する前に他の会社で何年か働くようアドバイスしていました。実のところ、スタートアップの始め方を学ぶ最良の方法は実際にやってみることです。

成功はしないかもしれませんが、自分でやってみれば早く学べるでしょう。ビジネススクールはこれをやろうと必死になっています。ビジネススクールの目的は大企業の中核をなす社員の養成でしたが、それは大企業の社員か「名もない靴屋」の社員かの2択だったような時代の話です。そして新たに登場したのがAppleです。彼らは「名もない靴屋」のような小さな会社として始まって現在のような超巨大企業に成長しましたが、彼らは自分たちが得意とすることをうまくやるビジネスのために作った会社ではありませんでした。まず始めること、そして起業家精神とやらは二の次です。

最初の従業員の雇い方

Q. マネジメントは成功を収めてから考えるべき問題とのことですが、最初の2~3人の従業員についてはどうすればよいのでしょうか?

A. 初めの2~3人を採用する前に成功すること、しばらくは採用もしないことが理想的です。スタートアップで初めて採用した従業員は創業者のようなものです。彼らは同じ志を持っているべきで、管理する必要はないはずです。スタートアップは普通の会社ではありません。彼らは皆さんと同等の仲間であり、皆さんが細かく管理をすべきではありません。

Q. それがスタートアップにとってご法度であれば、管理しなければならないような人を創業者のチームに加えてはいけないのでしょうか?

A. 超最先端の技術的知識を必要とするビジネスをしていたならば、その知識については非常に詳しいけれど、世の中のいろんなこと、自分の口の拭き方さえもわからないような技術者を採用して面倒を見るのが得策かもしれません。一般的に、アーリーステージでは創業者のような自発的な人が必要です。

バブルか?

Q. 現在はバブル期だと思いますか?

A. その質問について、2つ言わせてください。第一に、私への質問はここにいる皆さんの役に立つものにしてください。皆さんがこの講義を受講しているのは、スタートアップの始め方を学ぶためなのですから。私の頭には誰よりもたくさんのデータが入っています。あなたがしている質問は、興味深い質問を思い付けないリポーターがするものです。

次に質問の答えですが、価格が単に高いこととバブルには違いがあります。バブルとは、より高値で後日売り抜けられることを期待して、人々が自ら承知の上で払う非常に特殊な形態の高値であることです。それは90年代後半に起こり、全てが破綻する前に株式公開して他の一般投資家に売りつけられると考えたVCが、承知の上でいい加減なスタートアップに投資していました。

私はそのど真ん中にいました。現在は当時のような状況ではありません。価格や評価は高いですが、高評価がバブルというわけではありません。コモディティの価格はいずれもある種の正弦波で上下しています。高値であることは確かです。資金調達をした人には、次回も楽にお金を集められると思わないようにと言っています。その時までに中国経済が弾けて大規模災害的な不景気が訪れているかもしれません。最悪の事態を想定しておくことです。バブルか否かの答えは「ノー」です。

スタートアップスタジオについてどう思うか?

Q. 若者や成功を収めた起業家の間で、優れた会社を1社ではなく20社作ろうとするトレンドが見受けられます。非常に多くの会社の起業を試みるラボが台頭してきています。しかし、私はまだ成功事例を見ていません。

A. IDEOのようなものですか?

Q. いいえ、Idealabのようなものです。Garrett Campが新しく立ち上げた—。

A. なるほど。スピンオフでスタートアップを生み出すようなラボを始める人々も出てきています。それは成功するかもしれませんし、Twitterもそうして生まれました。私はIDEOではなくIdealabと言うつもりだったのですが、またフロイト的失言をしてしまいました。Twitterは最初から今の姿ではありませんでした。Twitterはそもそもポッドキャスティング事業のために作られたOdeoという会社のサイドプロジェクトでした。ポッドキャスティング事業は人気ですが、この言葉は文法的にも両立するでしょうか?その答えは、Evanが悟ったようにノーでした。彼らはサイドプロジェクトのTwitterをスピンオフし、若者からは喝采を浴びました。スタートアップをスピンオフしようとプロジェクトを始める人がいますが、うまくいくでしょうか?それにふさわしい人間がやれば可能性は高いですが、皆さんにはまだ無理です。なぜなら、これを自分の資金でやるのですから。

女性の創業者の資金調達へのアドバイス

Q. 女性の創業者が資金調達をする際のアドバイスはありますか?

A. 女性が資金を調達するのは男性よりも困難であることはおそらく事実でしょう。これは私も経験上気付いていました。Jessicaが女性創業者への一連のインタビューを間もなく発表するところですが、彼女たちの多くが、資金調達は大変だと思っていたと話しています。

資金調達の方法について私が言ったことを覚えていますか?スタートアップを実際に軌道に乗せることです。特に、あらゆる点でVCが理想とする対象から外れている場合は、とにかくそうすることです。その問題の解決方法が、スタートアップを軌道に乗せることなのです。1~2年前に実際にあった話ですが、私はある会社の成長グラフについてその会社の名前を明かさずにツイートしたことがありました。どこの会社かと質問が来るだろうと思ってツイートしたのです。

その会社は実は女性が立ち上げたスタートアップで、その当時は資金調達に苦労していたのですが、その会社の成長グラフは驚くべきものでした。そこで私は、様々なVCから「どこの会社だ」と質問が来ることを承知でこのことをツイートしました。成長グラフに性別はありません。ですから、最初に成長グラフを見せれば、彼らは食いついてきます。軌道に乗せること。それがどんなスタートアップにも役立つ共通のアドバイスです。

今なら大学で何を学ぶか?

Q. 今大学に行ったら何を学びますか?

A. 文学理論ですね。いえ、冗談です。正直に言いますと、勉強したかった物理学に挑戦してみるかもしれません。どういうわけか、子供時代の私はコンピュータにハマっていて、今でもそうかもしれません。コードを書けるようになった時はとても興奮しました。寝室で本物のプログラムを書けるのですから。本物の加速器は作れませんが、いえ、できるかもしれませんね。

私は物理学に憧れのような気持ちがあることがわかったので、たぶん物理学です。物理学がスタートアップの立ち上げに役立つかは分かりませんが、先ほど私は、役に立つかどうかを気にせず自分の好奇心に従うべきだと皆さんにお話しました。それが結局は自分の役に立つのです。

効率的であるためには締め切りの環境を作ること

Q. 仕事とプライベートで効率的であるためのコツは何かありますか?

A. 子供を持つことは効率的になる良い方法です。時間が無くなるため、何かをやり遂げたかったら時間当たりの作業量は多くなります。実際に子供を持つスタートアップ創業者は明確にこれを実践しています。そうせざるを得なくなるため、物事に集中できるようになります。

物事により集中するためだけに子供を持つことを勧めているのではないですからね。自分自身が非常に効率的な人間だとは思っていないのですが、私の仕事のやり方は2通りあります。1つはYコンビネーターで、ここは強制的に仕事をする環境でした。応募書類の締め切りを設定し、応募書類が届いたら期限までにそれら全てに返答しなければなりませんでした。それらの書類にいい加減に目を通していたら間違ったスタートアップを誕生させてしまうと思っていました。ですから、きちんと全部読もうと必死の努力をしました。私は自分を無理やり働かせる状況を作り出したのです。

もう1つの仕事がエッセイの執筆です。これは自発的にやっているもので、街を歩いていると頭の中に自然と文章が浮かんできます。私は、あまり面白くないことには無理して取り組みますが、面白いことはやらずにいられません。自分が効率的であるために役立つテクニックは私にはありません。自分が好きなことに取り組めば、効率的であるよう無理をする必要はありません。

サイドプロジェクトからスタートアップに移行するタイミングは?

Q. サイドプロジェクトをスタートアップにすべきタイミングはいつですか?

A. それはいずれ分かります。サイドプロジェクトをスタートアップにすべき時期はいつかという質問ですが、皆さんの人生の驚くべき割合を占めるようになった時が本当のスタートアップとなった時です。この仕事はサイドプロジェクトのはずなのに、私は一日中やっているし、単位を全部落としそうになっている。スタートアップにすべきはそういう時かもしれません。

成長の判断軸は?

Q. スタートアップが順調に成長していることは分かるというお話をされていましたが、判別し難いケースが多いように思います。そこそこのユーザーはいるが右肩上がりに成長しているとは言えないような状況の場合、どうされますか?どんなアドバイスがありますか?時間とリソースの配分という点では、どうバランスさせますか?

A. スタートアップは成長中ながら大きくは伸びていない場合ですね。(スタッフに向かって)皆さんに『Do Things that Don’t Scaleスケールしないことをしよう)』を読むように言ってくれましたよね?では、あなたはまだ読んでいないのがバレましたね。私はその質問の答えとなるエッセイを書いています。つまり、スケールしないことをしようということです。自分が言ったこと全部は覚えていないので、まずはそのエッセイを読んでみてください。まさにその問題について書かれています。

インキュベーションに行くべきではないスタートアップとは

Q. インキュベーションを受けるべきでないスタートアップとはどんなものだと思いますか?

A. 確実に言えるのは、失敗しそうなものです。あるいは、成功しそうでも創業者が不愉快な人間である場合です。そういう人とはSamもすぐに手を切るでしょう。実際はそのようなスタートアップの種類は思い付きません。なぜなら、創業者がよく驚かされることですが、スタートアップに起こる問題の大部分はスタートアップの種類にかかわらず同じだからです。それらは分野に特化されたものではなく、YCが最もサポートしている問題です。(スタッフに向かって)YCが役に立たないスタートアップの種類を挙げられますか?前回のバッチでは核分裂と核融合のスタートアップがありましたが。

関連することを発見するには?

Q. 関連することをたくさん学ぶのが良いというアドバイスがありましたが、それを見つける良い方法はありますか?

A. 技術がフラクタルの形のように広がっていくものと考えてみると、広がっていく先端全てが面白いアイデアを表しています。聞き覚えがありますか。困りましたね。私が循環論法で正確な答えを言わなかったことをあなたはちゃんと分かっているので。私が興味のある面白い問題、皆さんが面白いと思っている問題、それらに取り組めばうまくいく、これが私に言えることです。

本物の問題をどう見分けるのでしょうか?私には分かりません。このテーマで長いエッセイを書けるくらい重要なことです。私にはその答えが分からないし、それについて何か書くべきかもしれません。しかし、本当に面白い問題が分かる人かどうかを見極めるテクニックは理解しています。それは退屈な仕事を我慢できないかどうかで判断します。文学理論とか、一部の大企業における中間管理職の仕事とか、世の中には退屈なことが存在します。それらのことを我慢できるのであれば、驚くべき自己規律を持っている人か、本当に面白い問題が分からない人かのどちらかです。

Q. Snapchatは好きですか?

A. Snapchatですか?資金を出していない会社のことは分かりません。他の質問をお願いします。

スタートアップは多様性を気に掛けるべきか?

Q. 好きな人だけを採用していると文化が単一化する可能性があります。そこで生じる盲点への対処方法はありますか?

A. スタートアップを始めると、うまくいかないことがたくさんあるものです。失敗と無縁なスタートアップなどありません。自分の知り合いや好意を持っている人を採用するメリットは、単一文化という小さなデメリットをはるかに超えるものです。私の経験では、最も成功を収めたスタートアップでは全て大学時代の友人を採用しています。

ご清聴ありがとうございました。

 

著者紹介

Paul Graham

Paul は Y Combinator の共同創業者です。彼は On Lisp (1993)、ANSI Common Lisp (1995)、ハッカーと画家 (2004) の著者でもあります。1995 年に彼は Robert Morris と最初の SaaS 企業である Viaweb を始め、1998 年に Yahoo Store になりました。2002 年に彼はシンプルなスパムフィルタのアルゴリズムを見つけ、現在の世代のフィルタに影響を与えました。彼は Cornell から AB を、Harvard からコンピュータサイエンスの PhD を授けられています。

 

記事情報

この記事は原著者の翻訳に関する指示に従い翻訳したものです。
原文: Lecture 3: Before the Startup(2014)

(訳注:本翻訳は、講義の書き起こしの翻訳です。講義のもととなったエッセイ版の翻訳はこちらを参照してください。)

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