クラウドネイティブゲームの約束 (a16z)

クラウドゲーミングに関する盛り上がりの大部分が、ローカルのハードウェアがなくともゲームができる、つまり「コンソールをなくす」というクラウドゲーミングのポテンシャルに焦点をあてたものでした。しかし、現在も続くハードウェアへの注目は、クラウドゲーミングが持つ真のポテンシャルを掴みきれていません。クラウドゲーミングにおける本当のイノベーションはただ単にどのようにゲームをプレイするのかではなく、何をプレイするのかにあります。「クラウドネイティブ」ゲームはゲームプレイ体験そのもののほか、そういったゲームのマーケティングや販売のあり方を完全にひっくり返すことになるでしょう。

クラウドゲーミングでは、全ての処理やストレージはクラウドデータセンター内のサーバー上で行われます。その結果としての映像がプレイヤーのディスプレーに配信される仕組みです。Netflixの配信に似たモデルですが、ゲームにはリアルタイムでのインプットと短いレイテンシが求められることから、その複雑性はNetflixを大きく上回ります。クラウドゲーミングの支持者たちは、クラウドゲーミングは新たな消費者(これまではコンソールやゲーム用PCの価格がネックとなり取りこめていなかった層も含めて)を呼び込むほか、ユーザーがお気に入りのゲームを次々とプレイできる環境を作りだしてくれるとして、クラウドゲーミングがゲーム市場を劇的に拡大させるものと確信しています。

Googleは11月、Stadiaクラウドゲーミングサービスのベータ版を公開しました。競合他社も遅れていません。Microsoftは今年中にxCloudサービスをお披露目すると見られているし、Amazonも最近Wavelengthという5Gのゲーム配信のためのテクノロジーを発表しました。

しかし、その革命が目前に迫っているかと言えばそうではありません。ラグを小さくすることからコンテンツを充実させること、そして新たな価格設定モデルを考えることといったように、そこには厄介なハードルが並んでいます。初めて大きな規模でクラウドゲーミングサービスを提供したOnLiveは2010年に市場に登場しましたが、技術的な問題に苦しめられ、あっさりとそのサービスを終了しました。後継のGaikaiはSony PlayStationに吸収され、ファンの獲得は一筋縄にはいきませんでした。とは言え、クラウドゲーミングの大ブレークはあなたが思う以上に早く訪れるかもしれません。

あれから何が変わったのでしょうか?まずはより高いブロードバンド普及率や改善されたクラウドのカバレージ、5Gネットワークなど、ハードウェアの向上が挙げられます。ただし、真の鍵はソフトウェア、つまり、最近のゲームに見られる増加するクラウドの融合です。EpicのFortniteからSupercellのClash of Clansまで、いま最もプレイされているゲームのいくつかは、そのネットワークの大部分をクラウド上で動かしています。単独でプレイするゲームですらアカウント管理や商取引、アナリティクスなどのウェブサービスに関してはクラウドに依存しています。TwitchやHuyaなどのプラットフォームも、数百万というユーザーに対し、クラウド配信されたライブ動画と触れ合う術を伝授してきました。本当の意味でのクラウド配信には少し及びませんが、Fortniteのようなゲームは実質的にはクラウドゲームの第一世代と言えます。

このトレンドの論理的な前進は「クラウドネイティブ」という、つまり、クライアントとサーバーが同じアーキテクチャ内にホストされるクラウドを前提に作られたゲームになるでしょう。この次世代には、これまでとは全く異なるゲームプレイ体験やビジネスモデルを作りだすポテンシャルがあります。クラウドだけのために作られ、なおかつクラウド上でしかプレイできないこれらのネイティブゲームは、クラウドゲーミングの究極の原動力となるでしょう。クラウドネイティブゲームがエンターテイメント業界に革命を巻き起こしそうなシチュエーションをいくつか紹介します。

クラウドネイティブのMMOs(大規模多人数型オンラインゲーム)はソーシャルネットワークのような成長を遂げる

ほとんどのMMOは先天的にネットワーク効果を兼ね備えており、これはそうしたゲームはより多くのプレイヤーと一緒にプレイしたほうが楽しいことを意味します。しかしMMOはしばしば「コールドスタート」問題にぶち当たります。スタートしてしばらくはポジティブな体験を作りだすのに十分なプレイヤーを確保できず、結果として新規ユーザーを取り込めないという状況です。新規ユーザーの獲得およびつなぎ留めに最も有効なのが仲間との協力プレイですが、その過程にはたくさんの障壁が立ちはだかることがあります。例えば、ユーザーがプレイする時間やプラットフォームがマッチしない場合。不明瞭なマッチメイキングのルールサーバーの規制がネックとなり、ゲーム内で仲間を見つけるのは至難の業にもなり得ます。(下のOverwatchのマッチメイキングのロビーの例を参照。)また、もしあなたが仲間ほどの頻度でプレイしていなければ、仲間とは別のレベル、ランク、地点からスタートしないといけないこともあります。

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クラウドネイティブのMMO(Cloud-native MMO: CMMO)はそういった障壁のほとんどを取り除いてくれます。元々がクロスプラットフォームなので、接続さえあればどんなデバイスからもこうしたゲームにアクセスできます。ダウンロードやインストール、ロード時間はなく、パッチの受け取りや物理的なゲームソフトの購入に3時間を費やす必要もありません。

新規ユーザーがゲームに慣れる(研修)のを容易にするために、クラウドゲームは新しいプレイヤーが仲間のセッションにシームレスに参加できるディープリンクを活用できるでしょう。アプリを開くディープリンクは新しいものではありませんが、クラウドインスタンスへのディープリンクはプレイヤーを直接ゲーム内の仲間のもとへと送り込むことができます。また、リファラーのグループや組合、派閥に基づいて異なる研修体験が展開されるよう、こうしたリンクをカスタマイズすることも可能です。こういった個別の研修が、ロビーやマッチメイキングといった摩擦度の高いシステムを過去のものへと押しやることも考えられます。

最後に、もっとゆるい体験を求めているユーザーは、クラウド配信(リアルタイムかつ交流可能なTwitchフィードを想像してください)で仲間がプレイするのを見て好きなところでゲームに参加したり、スペクテイターとして仲間を助けたりすることができます。スペクテイターは先に行って敵を探すこともできるし、パワーアップのためのパーツをプレイヤーに贈るといったように(The Hunger GamesでのSponsor Giftsと同様)、ゲーム内の便利な能力のメニューを活用することもできます。

まとめて見てみれば、こうしたクラウドがもたらす機能はマルチプレイゲームが先天的に持つネットワーク効果を加速させます。もしうまくいけば、初となるCMMOは、プレイヤーによる集客だけで大きく花開くのかもしれません。そしてその広まり方は、従来のMMOではなく、Facebookの広まり方を思わせるようなものになるでしょう。

クラウドゲームがビデオマーケターの新しいクラスを作りだす

より大きなバイラリティーのほかにも、クラウドネイティブゲームは、これまでビルボードやディスプレー広告といった小売りのマーケティングに依存してきたAAAゲームの新しいマーケティングのあり方を実現させるでしょう。インストールに時間を要しないので、見込み客はリンクをクリックするだけで即座にゲームを試せるわけです。大きな前進です。

「プレイするにはここをクリック」は、ゲーム販売のための望ましい媒体として必然的にビデオに行き着くでしょう。2018年の調査では、アメリカのミレニアル人口の85%が動画を見た後に商品を購入することがわかりました。最初の1時間でプレイヤーを虜にするように最適化されたゲームが登場し、デモ(「1時間無料でプレイ」)に繋がる動画広告の人気は高まると見られます。

動画によるナラティブ(語り)は特にTwitch、Tik Tok、YouTubeといったソーシャルプラットフォーム上のインフルエンサーに適しています。クラウドゲームでは、新たな発見をコミュニティーに提供すること(「参加するにはここをクリック」)、そして直接的な商取引(「プレイを続けるにはここをクリック」)からクリエイターが生まれるでしょう。下のGoogle Stadiaのデモでは、ユーザーがクリックをしてライブ配信されるNBA 2Kゲームに参加したことがわかります:

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「参加するにはここをクリック」のポテンシャルを表す代表的な一例として、新興の中国企業Bixinはゲーム仲間をマッチメイクすることですでに2,000万人のユーザーを獲得しました。Bixinではユーザーはトップクリエイターに1時間あたり8ドルを支払い、新しいゲームについて学んだりeスポーツの大会に向けてトレーニングしたりするのを手伝ってもらうほか、ただ一緒にマッタリとする機会を提供します。

クラウドゲームのユビキタス化がさらに進むなか、動画やインフルエンサーマーケティングはこれまで以上に重要になるでしょう。今後はセールスコミッションや「参加するにはここをクリック」は、クラウドゲーミング経済の中でインフルエンサーにとって最も大きな収益源となるのかもしれません。

クラウドゲームがAIによるリアルタイムでのコンテンツ生成を可能にする

クライアントとサーバーが同じネットワーク内に存在することから、クラウドネイティブゲームはユーザーの活動のほぼ全ての側面を記録し、データを収集することができます。好都合なことにクラウド上のデータウェアハウスに保存されたこのコレクションは、ゲーム内でのAIや機械学習に革新的な形で力を与えることが可能です。

例えば、ゲームは長年、プレイヤーの外見や周囲の環境を変えられるパーツの販売を通じて利益をあげてきました。クラウドには無制限のデータに加えて処理能力があるほか、そのクライアント-サーバー間のレイテンシは最小に抑えられていることから、AIによってリアルタイムで極めてダイナミックなキャラクターや環境を作りだすことが可能です。次に紹介するNvidiaのディープラーニングをベースとしたシステムの映像では、ユーザーがAIの力を借りて、まるで写真のように写実的なバーチャルな世界を改造している様子が見られます:

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将来的には、リアルタイムでのコンテンツ生成は実体験のように感じられる、新たなストーリーテリングの方法に火をつける可能性があります。次世代の「好みのアドベンチャーを選ぼう」は、リアルタイムでユーザーの好みを採り入れたバーチャルな世界になるのかもしれません。そしてこのようなバーチャルの世界を収益化するために、Minority Reportに出てくるバイオメトリック広告のような、個人に合わせた自発的な広告が台頭する可能性があります。

そのうち、AIで動きプロシージャル生成された世界が、MetaverseやReady Player OneのOASISといったビジョンからそうかけ離れてはいない、永遠の遊び場を私たちに提供するようになるのかもしれません。

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これらはクラウドネイティブゲームの潜在的な利点のいくつかに過ぎません。SalesforceやGmailといった初期のSaaS商品の開発者たちには、後にAmazon AlexaやTesla Autopilotのような今日のクラウドエコシステムを生みだすことになる未来のイノベーションはほぼ見えていなかったでしょう。それと同じように、私たちもいま、クラウドゲーミングソフトウェア時代の始まりに立ったばかりです。

クラウドゲーミングの見通し

歴史をガイドとすると、私たちは初めてのクラウドネイティブゲームは2~3年以内に市場に登場すると見ています。比較したところ、過去のコンソール世代において最も人気を博したゲームはおおよそ同じようなタイムフレームで公開されています。例えば、画期的だった3DゲームのGrand TurismoとFinal Fantasy VIIは最初のPlayStationが登場した3年後に発売されていますし、オンラインでのマッチメイキングを初めて採り入れたHalo 2はXboxの発売から2年後に市場に登場しています。

クラウドネイティブゲームの実現は進んでいて、ソフトウェアはクラウドゲーミングのものすごく魅力的なアプリとなるでしょう。Google、Microsoft、Amazonをはじめとした多くの人たちからの投資に後押しされた次世代のクラウドネイティブゲームには、私たちが知るゲーム体験を全く新しく作り変えてしまうポテンシャルがあります。

 

著者紹介

Jonathan Lai

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Promise of Cloud-Native Games (2020)

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