スケールしないことをしよう、PRの方法 (Startup School 2014 #08)

 

DoorDash の「スケールしないことをしよう」

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Stanley Tang

本日はお招きいただきありがとうございます。私はDoorDash創業者のStanleyといいます。今日こうしてこの場にいられることをとても光栄に思います。私もついこの間までそちら側に座って学んでいたものですから。

私は2014年度のクラスにCS専攻で在籍し、共同創業者であるAndyと一緒に卒業しました。

DoorDashがどんな会社かご存じない方に説明しますと、私たちは地方都市向けのオンデマンド・デリバリー・ネットワークを展開しています。

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まずは数か月前に撮影したこの写真をご覧ください。

これは私たちがシリーズAの資金調達を完了した夜、大学時代に住んでいたRobleに徒歩で帰宅途中に撮った一枚ですが、この時に手にしていたものがあまりにおかしな組み合わせだったので思わず撮影してしまいました。

私が持っていたのはCS247の宿題、税務書類(この時は4月で、ちょうど確定申告の時期でした)、黄色いのはスピード違反のチケット、そしてその下はSequoia Capitalと契約したばかりの1,500万ドルに関する書類でした。

DoorDash が始まるまで

これはStanford大学に在籍しながらスタートアップに転換させた、私たちが歩んできた一風変わった道のりを端的に表していると言えます。本日はそのお話しをしたいと思います。

すべては2年前、とあるマカロン店で始まりました。

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Stanford大学の3年生で秋学期を迎えていた私は、中小企業経営者向けのテクノロジー開発に非常に興味を持っていました。

別プロジェクトでインタビューを始める

Palo Altoにあるマカロン店、Chantal Guillonの当時のオーナーChloeを前に、私たちが開発していた試作品のフィードバックについてインタビューし、彼女が抱えている問題についても質問しました。この時初めて、彼女からデリバリーに関する問題について聞きました。

彼女は分厚い小冊子を持ってきて、デリバリーの注文が書かれているページを次々とめくり、それらの注文の多くは応じることができずに断らざるを得なかったことを聞かせてくれました。ドライバーを雇っていなかった彼女は、デリバリーの注文を自分で届けなければならなかったのです。これは私たちにとって実に興味深いことでした。

課題を見つける

それから数週間の間、私たちは150人から200人の中小企業経営者に会い、デリバリーについて話しました。すると彼らは皆共感したのです。

「デリバリーのインフラがないのは私たちの商売にとって大きな痛手だ。解決策も何も見つからない」といった話を聞いた私たちは、「デリバリーは彼らにとって共通かつ明白な問題なのに、どうしてまだ解決策が見つかっていないのか?私たちは何か見落としているはずだ」と考えました。

過去に誰かが問題解決を試みたが、消費者需要がなかったため失敗したのかもしれないと考えた私たちは、この仮説をどうやって検証できるかと自問しました。当時大学生だった私たちにはトラックやデリバリーインフラはありませんでした。ましてや配送会社は一夜で作れるものではありません。この仮説をどうやって検証しようかと私たちは思案しました。

検証するために実験する

そこで私たちは、レストランのデリバリーに関するちょっとした実験をしてみることにしました。

Web ページにPDFをアップするだけ

ある日の午後に簡単なランディングページを作りました。Palo AltoにあるレストランのメニューのPDFをネット上で見つけた私は、そのデータをまとめてその下に電話番号を書き加えました。その番号は実は私たちの携帯番号でした。

それをネットにアップし、ランディングページをPaloAltoDelivery.comと名付けました。

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これが当時のページです(PowerPointのスライド)。

非常にシンプルで、見栄えが悪く、正直なところ私たちは何も期待していませんでした。とりあえずやってみただけで、私たちが確かめたかったのは、「これで電話が来るだろうか?沢山の電話が来たら、このデリバリーのアイデアは追及する価値があるかもしれない」ということでした。

史上最高で最低なデリバリーをする

とりあえずページをアップしたものの、何も期待していなかった私たちのところに突然1本の電話が掛かってきました。

それはタイ料理を注文したいという電話でした。車の中で私たちは「本当に注文が来ちゃったぞ。何とかしないといけない」と考え、「今ちょうど手が空いている。とりあえずこのままどこかでパッタイ(タイ風焼きそば)を買って、このデリバリーシステムが機能するか確かめてみよう」ということになり、実際にやってみたのです。

確かAlpine Roadへのデリバリーで、私たちは注文した相手の男性に「どうやってこのサイトのことを知ったのですか?何をされている方ですか?」と尋ねました。学者と名乗ったその男性は私たちに自分の名刺を差し出し、『Weed the People』という本の作者だと教えてくれました。

これが私たちの行った最初のデリバリーで、史上最高とも史上最低とも言えるデリバリーでした。

ユーザーからの問い合わせが増える

そして翌日には2本、その次の日は5本、やがて7本、10本と掛かってくる電話はだんだん増えていきました。やがて、PaloAltoDelivery.comの利用者が大学内でも増え始めました。

これはすごいことです。考えてみてください。私たちが作ったのは単なるランディングページで、ユーザーはPDFのメニューから注文したいものを選んで電話するだけだったのです。プロが作るサイトとは程遠いレベルのものでしたが、電話は鳴り続け、注文が次から次へと入ってきたのです。

この時、私たちはピンときました。人々がこのサイトを利用するということはこれが人々のニーズであると理解したのです。

最初の実験にかかったのは1時間程度、ただ単に始めてみること

忘れてはならないもう1つのキーポイントは、私たちはこのサイトを1時間程度でアップしたことです。私たちにはドライバーもおらず、アルゴリズムもバックエンドもありませんでした。6か月かけて開発した見事な配送システムもありませんでした。とにかく何もなかったのです。

私たちはただ始めてみたのです。初めはアイデアを検証し、実際に立ち上げ、ユーザーから求められているものかどうか見極めることが重要なのです。初期段階では荒削りでもいいのです。

スケールしないカスタマーサポートとデリバリーをする

YCの信念としてよく語られるのが「スケールしないことをする」という言葉です。スタート当初、デリバリーをするドライバーは私たち自身でした。大学の授業に出て、それから注文が来た品を運んでいたのです。

私たちはカスタマーサポートでもあり、授業中に電話に出なければならない時もありました。

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DoorDashを宣伝するために、午後からUniversity Avenueを歩いてチラシを配ったりもしました。配送システムがなかったため、顧客への請求はSquareを利用しました。注文の管理にはGoogleドキュメントを使い、ドライバーの現在位置確認にはAppleの「友達を探す」機能を使いました。

このように、事業の立ち上げには様々なソリューションを組み合わせる必要があります。実際、事業の成長があまりにも急激だったため、マネーロンダリングを疑ったSquareから決済を止められたこともありました。考えてみてください。15ドルや20ドルといった小額の注文が物凄い速さで来ていたのですから。幸いなことに共同創業者のTonyがSquareで働いていたので、彼から会社の同僚にメールを送ってもらってこの問題は解決しました。

スケールしないことをして専門家になる

「スケールしないことをする」ことのもう1つのポイントは、自分のビジネスに関する専門家になれることです。私たちの例で言えば、自分で車を運転することがデリバリープロセス全体を把握するのに役立ちました。その機会を利用して、顧客やレストランの話を聞きました。

そして、自分たちで配送を担当することで把握できたことがありました。それは、私たち自身がドライバーを手配することで、ドライバー配置アルゴリズムのあるべき姿を理解できたのです。

私たちは自らカスタマーサポートを行い、顧客からリアルタイムのフィードバックを集めました。このビジネスを始めて最初の数か月は、新規顧客一人一人に毎晩メールを送って「初めての注文はどうでしたか?」「どこでこのサイトを知りましたか?」と尋ねました。

それらのメールはすべて顧客別に違う文面にして、Oren’s Hummusから鶏の串焼きを注文した顧客には「私もOren’s Hummusの料理は大好きです。鶏の串焼きはどうでしたか?どこでこのサイトを知りましたか?」といったメールを送りました。こうしたフィードバックは実に有用で、顧客から高く評価されました。

YC時代に、とあるレストランパートナーとのミーティングを終えた私たちは、University Avenueに先日オープンしたと聞いたCreamというアイスクリーム店に行ってみようという話になりました。するとその時、私たちのオフィス兼住居に戻っていた共同創業者から「ものすごい数の注文が来ている。ドライバーが必要だ」というメッセージが届いたのです。

このままアイスクリームを食べに行くか、デリバリーに向かうか、私たちは10秒ほど悩みました。勿論デリバリーを選んだのですが、これが「スケールすれば、次回はアイスクリームを食べに行ける」というモチベーションとなりました。

現在では私たちは様々な都市にスケールしています。今は自動化ソリューションや配送システムの開発、需要と供給のバランス化といった高度なテクノロジー絡みの問題に頭を悩ませています。

しかし、始めはこれらのことはまったく重要ではありませんでした。なぜなら、初期段階で重要なのはビジネスを立ち上げ、Product/Market Fitを見つけることだからです。

Doordash から学んだことを3つ

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要約すると、私がDoorDashから学んだことは3つあります。

1つ目は自分の仮説を検証することです。自分が思い付いたスタートアップのアイデアを実験のように試す必要があります。2つ目は素早く始めることです。私たちは実にシンプルなランディングページを1時間以内にネット上にアップしました。そして3つ目が「スケールしないことをしても大丈夫」ということです。

スケールしないことをするのは立ち上げ時の最大の武器の1つとなります。需要があればスケールする方法はおのずと分かります。そしてスケールできた暁には、アイスクリームを食べに行けるかもしれません。ありがとうございました。

Q&A

Q.
最初の顧客はどうやってDoorDashを知ったのでしょうか?

A.
最初の顧客については私も分かりません。PaloAltoDelivery.comを立ち上げただけでマーケティング活動も一切しなかったので、彼はブラウザに「パロアルト デリバリー」と入力したのだと思います。かろうじてマーケティングと言える活動をしたのは自分の寮にメールを1通送っただけで、それ以外はすべて口コミでした。酷いユーザーエクスペリエンス、酷いデザインなどを物ともせず口コミで広めてくれたことは、私たちが発見したニーズの強さを実証しているとも言えるでしょう。

Q.
DoorDashを始めた時、そうしたビジネスをこれまで誰も手掛けていなかった理由を不思議に思ったということでしたが、当時を振り返ってみて今はどう思いますか?

A.
当時を振り返ってみると、最大の要因はモバイルだったと思います。現在は誰もが何かしらのモバイル機器をポケットに忍ばせています。そうしたトレンドを見て私たちは、「インフラやデリバリー用車両を必要とせず、完全にモバイル機器をベースにしたデリバリーシステムを設計できたらどうなるか?」「常勤のドライバーを雇ったり車両を購入したりする代わりに、請負業者をプールしておけるオンデマンド型システムで対応可能な業者だけに注文データを送ることができたらどうなるか?」と考えたのです。つまり、すべてをモバイル経由で行うことを閃いたのです。

Q.
DoorDashをいずれスタートアップにするつもりだったのでしょうか?あるいは最初は単にお金を儲けようという話だったのでしょうか?

A.
当時、私たちは中小企業経営者向けのテクノロジー開発に夢中で、このデリバリーシステムはランディングページの実験から生まれたことは確かです。それは文字通り実験でした。何を期待することもなく始めて、それをそのまま続けていったのです。

私たちは配送などといった物流についても非常に関心がありましたし、デリバリーを通じ中小企業経営者をサポートするという点ではピタリとはまったわけです。

Q.
最初に立ちあげたのはモバイルアプリですか?ウェブサイトですか?

A.
最初に作ったのは、1時間程度でアップしたこのランディングページです。

Q.
非常に競争が激しい環境でDoorDashをどう差別化したのでしょうか?

A.
最初は消費者需要は問題ではありませんでした。それは現在でも同じです。私たちにとってニーズを見つけてその需要に応えることに注力することが重要なのです。最初は競争など関係ないのです。

Q.
法人化するまでどれくらいかかりましたか?

A.
2013年1月に立ち上げて、その年の夏にYCに参加しました。そして、YCを通じてこのアイデアでやっていこうと決めた時に会社を作りました。

Q.
フードデリバリーの次のプランはありますか?

A.
DoorDashを始めた時に私たちの頭にあったのは中小企業経営者をサポートすること、そしてマカロン店であろうと、レストランであろうと、家具屋であろうと、地域の商店主を助ける方法を見つけ出すことでした。それは今でも私たちが意識していることであり、長期的ビジョンでもあります。今はスケールする方法としてレストランデリバリーにフォーカスしていますが、将来的にはそのようなことをやりたいと思っています。

 

Teespring の「スケールしないことをしよう」

Sam Altman
次はTeespring創業者のWalker Williamsです。彼がYCに加わって1年半ほどになります。おかしな話ですが、当時私は彼のアイデアを却下しようとしました。今や彼らは数億ドルの収益を上げています。却下しなくて本当に良かったです。Walkerにも「スケールしないことをする」をテーマに話をしていただきます。

Walker
お招きいただきありがとうございます。私はTeespring創業者兼CEOのWalkerです。

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Teespringをご存じない方のために説明しますと、起業家がリスクやコストなしに、あるいは妥協することなく、自らのプロダクトやアパレルブランドを立ち上げることができるeコマースプラットフォームです。

現在、当社にはおよそ180人のスタッフがいて、日々何万点ものプロダクトを出荷しています。

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本日はスタートアップが持っている最も重要なアドバンテージの1つ、つまり「スケールしないことができる」ということについてお話ししたいと思います。

スケールしないこととは、本質的に持続不能なこと、つまり継続しないもの、100万人のユーザーを獲得できないもの、と私は定義しています。それが終わるタイミングは時間の問題ですが、他にもいくつかの理由が考えられます。これは100万人のユーザーをもたらすことはないかもしれませんが、実はれっきとした成長戦略なのです。

今日お話しするポイントは3つです。

1つ目は最初のユーザー層を見つけること。2つ目は彼らをチャンピオンにすること。そして3つ目が自社のProduct/Market Fitを見つけることです。

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1. 最初のユーザー層を見つける

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では、最初のユーザー層を見つけることから説明しましょう。

銀の弾丸はない

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まず理解すべきは、ユーザー獲得の特効薬はないということです。

私を含め最初は皆、非常に高いROIをもたらすペイパークリック広告とか、急成長を可能にし事業を加速させるようなパートナーシップとか、アフィリエイト契約とか、自分の問題を解決してくれる夢のようなソリューションを求めます。

しかし現実には、大多数の会社にとって、また実際に私がCEOと話す機会があったすべての企業にとって、そうしたことは起こり得ません。それができるのはユニコーン企業だけです。

端から見ればこうした夢のような成長曲線をたどっている会社の大半は、実際には最初のユーザー層獲得にものすごい苦労をしていたのです。では、持続可能性とは無縁だったビジネスの例をお話ししましょう。

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これは2012年のTeespringの写真です。立ち上げ当初、このビジネスは最悪に思えました。何日もミーティングを重ね、無料のデザインをオファーし、修正に何日も費やし、自分たちでプロダクト作りやソーシャルメディアをやっていました。そこまでしても、地域のとある非営利団体に50枚のTシャツを売って約1,000ドルの収益を得るのがやっとでした。

そんな状態を目にすれば、誰もが「こんなどうしようもないアイデアはあきらめろ」と言ったことでしょう。しかし、月日が経つにつれてユーザーが増え始めました。

最初は売り方が分からない

皆さんに理解してもらいたいことは、会社を始める時は新しいプロダクトというだけで売り方がよく理解できていないものなのです。顧客のペインポイント(顧客が抱えている悩みの種)が何なのか分かりません。

販売経験がないのですから、拠り所とするサクセスストーリーや顧客の声もありません。最初のユーザー層はもっとも獲得が困難な相手なのです。

あらゆる手段を使って最初の顧客を獲得するのが創業者の役目

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あらゆる手段を駆使して最初のユーザー層を獲得するのは創業者の責任です。その方法は会社によって異なりますが、共通点は何かというと、ユーザー層を獲得するために創業者は時間と労力、それもかなりの時間と労力を費やす必要があるということです。

1日100通のメールを送る、電話に張り付いてできる限り多くの人に電話する、Stanford大学やY Combinatorのネットワークを活用するなどといった様々な手段が考えられますが、最初のユーザー層を獲得するために自分にできるあらゆることをやる必要があります。

これはいわば、大きな石を押して坂道を登るようなものです。最初の数インチが一番傾斜がきつく、時間をかけて先へ進んでいくと傾斜はだんだんとなだらかになって楽になり、最終的には坂道の頂上に到達して石は何もせずとも転がってゆくのです。

ROIにフォーカスするのではなく、成長にフォーカスする

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最初のユーザー層に関しては、時間との兼ね合いでROIだけに注目することはできません。1時間費やして数千ドルのリターンを得ようなどと期待しないでください。

Stanley (DoorDash の創業者) はそうした信じられないような成功体験を持つユニコーンの1人だったかもしれませんが、私たちの大半にとっては、最初の2人のユーザーを獲得するためには手厚い対応やたくさんの思いやりが必要なのです。それでいいのです。会社作りにはそれが重要となるのですから。

自社プロダクトを無料で配らないようにすること

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1つ注意すべきことは、自社のプロダクトを無料で配ることはお勧めしません。このルールには多くの例外もありますが、一般的にはコスト削減やプロダクトの無料配布は持続不能な戦略であり、私はお勧めしません。ユーザーにプロダクトの価値を認識させるようにする必要があります。

有料プロダクトと無料プロダクトではユーザーの扱いはまったく異なります。プロダクトの無料配布は「こんなにユーザーが集まった。きっと有料ユーザーになってくれるだろう」といった間違った安心感を抱かせてしまう可能性が高いのです。

2. ユーザーをチャンピオンにする

2つ目のポイントは、ユーザー獲得後に何をすべきかです。

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どうすればそれらのユーザーをチャンピオンに転換させられるでしょうか?

チャンピオンは伝道師

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チャンピオンとは、自社のプロダクトのことを他者に話して推薦してくれるユーザーのことです。

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優れた成長戦略を持つ会社には必ずチャンピオンが存在します。ユーザーをチャンピオンにする最も簡単な方法は、忘れられない体験で彼らを喜ばせることです。忘れられない体験とは、ありきたりでない体験や非日常的な体験、つまり特別な体験のことです。

ユーザーと常に話すことがチャンピオンにする方法

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彼らを喜ばせる最も早く簡単な方法は、持続不可で、スケールし続けることはない方法ですが、それはユーザーとの対話です。これは多くの人が語っていることであり、いわばY Combinatorの核心とも言うべき教えです。

ユーザーとの対話に多くの時間を割くことの重要性は、どれほど強調しても足りないくらいです。これは定期的に、毎日、そしてできるだけ長期間行う必要があります。

現在のTeespringを例にしますと、私は今でもメールのキャッチオール機能で「support」のスペルを間違えているメールや存在しない宛先へのメールをすべてチェックしています。つまり、私は今でも日に10~20件程度のカスタマーサポート案件に対応しているのです。

また、毎晩数時間かけてすべてのツィートに目を通しています。ちょっとした強迫性障害(OCD)かもしれませんが、それで良いのです。Teespringのコミュニティもすべて目を通しています。

実際のユーザーの声に耳を傾けることは、自社プロダクトに関する理解を深める最善の方法なのです。特に初期段階のプロダクトとそれに搭載した機能セットを、後日スケールする際に利用することはまずありません。ユーザーと対話して彼らのニーズを把握するのが早いほど、スケールする段階に到達できるのが早くなるのです。

ユーザーと話す3つの方法

ユーザーと対話するには3つの方法があります。

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カスタマサポートを自分で行う

1つは自らカスタマーサポートを運営することです。Teespringが月商130,000~140,000ドル程度となるまで、共同創業者のEvan Stites-Claytonと私はあらゆるカスタマーサポートに携わってきました。

カスタマーサポートは非常に大変な仕事なのでおざなりにしがちです。今もカスタマーサービスポータルを開くと、情動反応で胃が重くなります。嫌な経験をしたユーザーと話すことは実に気が重く、自分が愛し心血を注いだものが上手くいかなかったとか、正当に扱われなかったなどと知るのは苦痛です。しかし、こうした経験を経て自分が何を作るべきか、何を修正すべきかを学ぶことは非常に重要です。

既存ユーザーやチャーンしたユーザーと積極的にかかわる

2つ目のステップは、既存ユーザーおよびチャーン(離脱)ユーザーと積極的に関わることです。チャーンユーザーとは解約した顧客のことで、新規ユーザー獲得のために忘れられがちな存在ですが、ユーザーが常に良い体験をできるよう気を配る必要があります。既存ユーザーを当たり前の存在と考えてはいけません。

サービスを解約するユーザーに対して、連絡を取って解約の理由を把握する必要があります。なぜなら、そうした個人的な関わりを持つことでユーザーが解約するのか、あるいは残留してくれるのかが変わってくるのです。会社が自分のことを気に掛けてくれている、今後は事態の改善が見込まれるとただ知らせるだけで十分な場合もあるのです。

そして、たとえチャーンユーザーに戻ってきてもらえなくても、解約した原因から学び、今後同じような形でチャーンユーザーを生まないように修正を行う機会となります。

ソーシャルメディアとコミュニティを使う

最後に私が最も気にしているのがソーシャルメディアとコミュニティです。私たちは自社ブランドをユーザーがどう見ているかを理解し、嫌な経験をしたユーザーがそのことについて話している時、そうしたことが二度と起こらないようにする必要があります。

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問題は必ず発生します。この世に完璧なプロダクトは存在せず、物が壊れたり、悪い方向へ進んだりすることもあります。それは重要ではありません。重要なのは常にそれらの問題を正し、さらなる努力を通じて顧客を幸せにすることです。

プラットフォームで嫌な経験をした人が1人でもいれば、10人のチャンピオンを失うといっても過言ではありません。1人が「あのプロダクトは〇〇だから使っちゃ駄目」と言うだけで、それまであった勢いは失われてしまいます。

最初は大量の注文を間違えたりするかもしれません。色を微妙に間違えてプリントしてしまったり、サイズを間違えたり、その月は流通総額(GMV)が半減したりするかもしれません。私たちはミスに気づき、顧客は不満を抱えてしまいます。

直感的には「ちょっと違っているだけで、まったく違うわけじゃないから大丈夫」と感じてしまいますが、実際にはそうした気持ちを飲み込んで間違いを正す必要があります。多くの場合、初めは最も不満を抱いていた顧客が、後に最大のチャンピオンや長い間ユーザーとなってくれるのです。

3. PMF を見つける

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最後に、Product/Market Fitを見つけることについてお話ししたいと思います。

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なぜなら立ち上げ時のプロダクトがスケールさせるプロダクトとなることはまずないからです。

つまり、スタートアップの初期段階における皆さんの仕事は、マーケットフィットがあるプロダクトをできるだけ早く開発するために繰り返し適用を試みることにあります。

拡大やクリーンさよりも、スピードに最適化する

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皆さんのようなエンジニアは、きれいなコードでスケールするプラットフォームを作りたくなるものです。技術的負債が蓄積しそうな継ぎ接ぎだらけのコードは書きたくないものです。しかし、スケーラビリティとかきれいなコードよりもスピードを重視した最適化を行う必要があります。

アーリーステージの事例を紹介しますと、複数の法人顧客で若干規模の大きい非営利団体から私たちに連絡があり、「御社のサービスは悪くはないのですが、基本的な機能が不足しているので使うことはないでしょう」と言われました。そこで私たちはそれらの機能を実装するために必要な期間を精査しました。長期的に使えるかどうか確信はなかったものの、試してみたいと思いました。

共同創業者であり当社のCTOであるEvanは、私よりも100万倍も優れた開発者なのですが、彼が計算を行ったところ、上手くやれば1か月程度でそれらの機能を開発できることが判明しました。ドッグイヤーで物事が駆け巡るスタートアップにとって1か月は1年に相当します。それでは到底引き受けることはできません。

そこで彼は外部でコードベースやデータベースを複製し、法人顧客のために既存ユーザーを犠牲にする心配がない全く異なるプロダクトを作り出すことに成功しました。私たちは法人顧客にツールを提供して実装してもらい、多大な収益を手にしました。最終的に、私たちはどの機能が中核的存在なのかを理解し、それをコアプロダクトに実装しただけですが、1か月かかるとみられたことを3~4日でやり遂げたわけです。

ここでの教訓は、次の一桁だけを考えるということです。

次の一桁アップのことだけを考える

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ユーザーが10人の時に100万人のユーザーへの対応を考えても無意味です。10人のユーザーを獲得した時は100人、100人のユーザーを獲得した時は1,000人のユーザーを獲得することを考える必要があります。

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「必要は発明の母」とでも言いましょうか、限界点(ツイッターのクジラはその好例です)にぶつかった時に何かが生まれるのです。

Teespringではサイトが毎晩落ちる状態が数か月続きました。この時はチーム全員が音量設定を大にした携帯電話を枕の下に忍ばせてベッドに入り、電話が鳴った時は素早くサーバーを再起動して再び眠りにつくようにしていました。これが毎晩続いたのです。しかし、実際にはこの逸話にはそれだけの価値があります。

こうした大きなペインポイントや技術的負債に遭遇すれば落胆することもありますが、それによって最終目標やプロダクトフィットにより早く到達できるわけです。問題を解決していけば生き残れるのです。それらのこぶは単なるスピードバンプ(減速帯)で、アーリーステージではスピードが非常に重要なのです。

スケールしないことをできるだけ続けること

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私が最近学んだ教訓は、スケールしないことをできるだけ長く続ける必要があるということです。マジックモーメントやシリーズAではなく、一定の収益マイルストーンを達成したらスケールしないことを止めるという話でもありません。

これは会社としての最大のアドバンテージの1つであり、これを止めた瞬間、自分たちより小規模でスケールしないことをやれる競合他社にそのアドバンテージを譲ることになります。

つまり、人力の及ぶ限りできるだけ長く、正味で黒字である限り、ユーザーとの対話に時間を費やし、できるだけ早く開発を進める必要があります。しかし、自分から止めることはせず、続行不能になるまで向き合い続けてください。

本日お話したことのフォローアップができるよう、皆さんに私のメールアドレスをお教えしておきます。何か質問がある方、Teespringについて知りたい方、あるいは(お願いの仕草で)Tシャツのプリントを頼みたい方は、お気軽にメールしてください。私の話が皆さんの助けとなれば幸いです。

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Walker@teespring.com

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最後になりますが、Samと一緒に「How to Start a Startup」のオフィシャルTシャツを作ってみました。収益はすべてWatsi.orgに寄付されます。この場をお借りして皆さんに紹介させていただいたことに感謝すると共に、オフィシャルTシャツを購入したいという方はteespring.com/startupをご覧ください。Teespringは大義ある活動を支援しています。

ありがとうございました。

Q&A

Q.
競争が非常に激しいTシャツプリントという市場への参入を決めた理由は何だったのでしょうか?

A.
それには2つの要素があると思います。まず、あなたがおっしゃる通り、周囲の人からは初日からユーザーが一桁増えるごとに酷評され続け、「これは酷いアイデアだ。なぜこんなことしているんだ?」と言われていました。

しかし、私たちがTeespringを立ち上げたのは、個人的なペインポイントがあったからです。私たちはニーズを発見し、現状では優れたソリューションが存在しないことに気が付きました。私はBrown大学の学生で、閉店した居酒屋のための記念Tシャツを作ろうとしていましたが、私のニーズにマッチするものはありませんでした。

そこで、自分にはペインポイントがある、マーケットフィットがある、私のプロダクトを受け入れてくれる人々がいると考えた私は、そこに何かがあると思いました。そして、追い風が吹いたとでも言いましょうか、プロダクトを使ってくれる人が増えてきたのです。ペインポイントは明確に存在していた一方、ニーズは満たされていませんでした。

私が言いたいのは、優れたアイデアは一見馬鹿げたアイデアと見受けられがちですが、スケーラブルなビジネスかどうかは「どれだけの人がそれを受け入れてくれるか?どれだけの顧客を引き込むことができるか?」で判断できるということです。

Q.
非営利団体がTeespringの最大の顧客基盤でしょうか?

A.
いいえ、現時点での最大の顧客基盤はブランドやビジネスを立ち上げようとしている起業家です。現在は1,000人強が自身で立ち上げたブランドを通じて常勤としてTeespringで働いています。

それと並ぶのが、ユーチューバー、Redditの各種コミュニティ、そしてブランドを創り出すためにプロダクトマーチャンダイジングを行いその親和性をマネタイズしようとするブロガーなどのインフルエンサーです。これらが当社の2大市場です。私たちは今も多くの非営利団体と取引があり、彼らとの仕事を楽しんでいます。彼らは今も当社のビジネスの一翼を担っていますが、比率的には高くありません。

ありがとうございました。

PR の方法

Sam Altman
次はJustin Kanの講義になります。JustinはKikoや、後にTwitchとなるJustin.tvの創業者で、広報(PR)をテーマにお話ししていただきます。

Justin
私は多くのスタートアップを立ち上げてきましたが、皆さんは既に「私はこうして起業した」というすばらしいストーリーを沢山耳にしていると思いますので、今回は世の人が常に疑問を持っている非常に具体的な話をしたいと思います。

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それはメディアです。メディアはどのようにして私たちを取り上げ、機能しているのでしょうか?本日のお話は私たちがY Combinatorで学ぶ内容の要約版のようなものです。皆さんの参考になれば幸いです。

起業する人の大半は、メディアに取り上げられることはすばらしいことだと考えます。記者は常に面白いネタを探していると思っています。メディアに載ることは実力主義のようですが、決してそうではありません。

どの記者に、どのような目標でリーチするのか?

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メディアについて考える前にまず熟考すべきことの1つが、自分が関わりを持ちたい相手と実際の目標です。私がスタートアップを立ち上げた時、ニュースで取り上げてほしいと思いました。それが重要な会社の証だと思ったからです。

しかし、目標がなければそれを達成することはできません。これは世の中のほとんどすべてにあてはまることです。何の考えもなく自分のスタートアップをメディアに取り上げてほしいと思うのは無意味です。ビジネスに関する現実的な目標がなければ、それは時間の無駄です。

目標は会社によって様々です。Justin.tvのスピンオフであるSocialcamの目標は、動画版Instagramとして認知されることでした。シリコンバレーの投資家やインフルエンサーに売り込む時、自分たちが作ったソーシャルアプリを最新の一押しアプリとしてテクノロジー系メディアで取り上げてほしいと考えました。

Execでの私の目標の1つは、顧客を獲得することでした。Execはローカルで展開するハウスクリーニングサービスで、私たちの目標はサンフランシスコの住民にこのサービスを利用してもらうことでした。

米国民の99%が利用し得ないサービスだったため、全国メディアを使うのは得策ではありませんでした。そこで私たちは、アプリを使ってくれる可能性がある人々と直接触れ合う機会があるであろうと考え、『SF Chronicle』のようなローカルメディアにまず目を付けました。

皆さんの大半がご存知だと思いますが、Twitchはゲーマー向けのESPNのようなもの、あるいはゲーマー向けのライブストリームコミュニティのようなものでした。私たちの目標は、ゲーム業界に接触することでした。現在は約5,500万人のユニークユーザーがおり、ゲーム業界の人々にも広く知られていますが、私たちが立ち上げた当初は誰も知りませんでした。広告を出すような場所でもなく、非常に小さなゲームコミュニティでした。

私たちの目標は、開発者や広告主を問わず、ゲーム業界の人々にTwitchはインフルエンサーが集まる重要な場所であることを認知してもらうことでした。そこで私たちは、業界団体、そして業界人が読んでいるゲーム開発者のブログに目を付けました。

ストーリーとは何か?

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ところで、そもそもストーリーとは何でしょうか?世の中には様々なストーリーがあると思いますが、スタートアップでよく目にするものはプロダクトの発売です。新しいバージョンのアプリをリリースした時です。

資金調達は理由を問わずメディアが好むトピックです。たとえそれがあまり面白い話でない場合でも。例えばシードラウンドで100万ドルを集めれば、大抵メディアに取り上げてもらえるでしょう。

マイルストーンは「週100万ドルの収益を達成」などの判断基準です。Execを買収した会社は先日まさに「週100万ドルの収益を達成」と発表し、広くメディアに取り上げられました。ビジネスストーリーは「The New York Times」や「The New Yorker」、「Business Magazine」がすでに成功を収めている会社のスタートアップ時のストーリーを特集するものです。初めはこれを気にする必要はありません。

私は「スタント」と名付けたのですが、いわゆる「人目を引く行為」のことです。皆さんは覚えているでしょうか、数年前、WePayというYCカンパニーがPayPalのデベロッパーズカンファレンスの外に、中にお金の入った氷の塊を置いたことがありました。

この一件は当時のPayPalが複数の開発者のアカウントを凍結していたというニュースを受けて起こった出来事で、面白い話として広く取り上げられました。WePayはこれによってストーリーを作り出せたわけで、そうでなければPayPalという文脈では語られることはなかったでしょう。

採用の発表は、大企業で大物を雇えば取り上げてもらえるでしょう。

最後は寄稿記事で、業界の概要や何らかの意見をテクノロジー系ブログなどに書くことです。

客観的にストーリーを見ること

基本的には、これらはいずれもストーリーとなり得ます。ただあまり考慮されていないのは、スタートアップ立ち上げに関する自分の行いはすべて面白いと思っていても、他人にとってはそうではない場合もあるということです。

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「自分がこの会社の創業者でなかったら、自分が売り込んでいるストーリーを読みたくなるだろうか?」と客観的に考える必要があるのです。

ちょっとした機能のアップデートやVer.2.01の追加機能に関するリリースは、Facebookに「友達検索」を追加しただけと同じで面白くないかもしれません。実際にストーリーを売り込む前に一歩退いて、「これを本当に読みたい人がいるか?」と考える必要があります。ジャーナリストやブロガーが探しているのは、読者が本当に読みたいネタなのです。

完全なオリジナルである必要はなく、十分にオリジナルであれば良い

もう1つのポイントは、まったくのオリジナルである必要はないということです。

皆さんが使うメディアはオリジナルである必要はなく、私に言わせれば「十分にオリジナル」であればよいのです。Kickstarterで500万ドルの資金調達をする二番目にクールな会社になってはいけません。とにかく最初の者がニュースになるのです。

Kickstarterで1,000万ドルの資金調達をした最初のゲーム機は、Kickstarterでそれ以上の金額の資金調達をした会社が沢山あったにもかかわらず大きなニュースになりました。なぜなら、その会社がゲーム会社というカテゴリで最初に資金調達を行ったからです。過去の他の記事を見て、「自分のストーリーは十分に目新しいものか?過去に既にニュースになっていないか?」と考えてみるのです。

ストーリーの売り込み方

では、ストーリーの売り込み方(これは実に戦術的な話です)に関する実際の手順の1つをご説明しましょう。

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メディアでニュースとして取り上げてほしい場合、実に簡単な方法があります。それは、メディア獲得をセールスファネルに見立てて考えることです。多くの人と話をしても、全員がコンバートするわけではありません。ですから、特定の人物や記者が皆さんのストーリーを記事にしなくても気分を害してはなりません。まずは、ストーリーを考えることです。

そして次に、皆さんのことを記事に書いてくれそうな記者を紹介してもらう必要があります。売り込みメールを送ることより、誰かを通じて記者に渡りをつけることの方が事業開発のように実に簡単なのです。

一番良い方法は、最近記事で紹介された起業家、例えばTechCrunchで最近紹介された友人を訪ねて彼らの記事を書いた記者を紹介してもらうことです。なぜなら、起業家からすれば、自分のことを記事にしてくれた記者に皆さんを紹介することはまったく苦ではないからです。

起業家は記者から何の見返りも期待する必要はありませんし、皆さんのストーリーが面白ければ記者に恩を売ることになります。投資家を紹介してほしい、自分が雇いたい人と顔つなぎしてほしいと頼む話とは違います。そして記者からすれば、過去の取材で既に面白いと分かっていますので、記事にするほど面白い人物から紹介を受けた皆さんのことも「きっと面白い人物だろう」と思ってもらえるでしょう。

皆さんを記者に紹介してくれる人からメールが来たとして、その記者に連絡する時は、ストーリーを書いてもらうための十分な時間を考慮する必要があります。

一週間以上前に連絡する

記事を書く1週間かそれ以上前に連絡するといいでしょう。記者は皆さんの記事だけを書くわけではなく、もちろん他の仕事も抱えているのですから。多くの人は、特に初めて起業する人は「Justin、明日このプロダクトを発売するんだ。TechCrunchに載せてくれないか?」と言ってきます。2人が良好な関係にない限り、こういう手は通用しないでしょう。ですから一番良いのは、時間に余裕をもって連絡しておくことです。

それでは「2週間後にプロダクトを発売」といったニュースを発表する日取りが決まり、何らかのミーティングを行ったら、埋没費用の誤謬に陥らぬよう実際に彼らに時間と労力を費やしてもらって記事を書いてもらう必要があります。

記者との時間を過ごす

基本的に、記者が皆さんと時間を費やせば費やすほど記事にしてくれる可能性が高くなります。一番良いのは、顔を会わせてのミーティングを行うことです。ブロガーの中には顔を会わせたがらない人もいますが、そうした場合は電話で構いません。

一番良くないのはメールのやり取りだけで済ませることです。なぜなら、メール連絡だけでは記者が忘れたり無視したりしがちだからです。

ストーリーを箇条書きにして話す

次のステップは記者への実際の売り込みです。私が実際に行っていることは、誌面に掲載されたい理想的なストーリーを箇条書きで書き出し、それを暗記します。そして、記者と顔を合わせての取材を受ける場合は自分のまとめた内容と同じ構成で話をすると、記者は話を聞きながらメモを取ります。そして記者はその時のメモを基にストーリーを組み立てるのです。

つまり、私が書きまとめたものが実際の記事になるわけです。そうした準備をしておくと、実際に会話の大半をコントロールし、共同創業者の名前やアプリの優れた機能など重要な情報を話し忘れるということがなくなるのです。

電話取材の場合は、箇条書きリストを目の前に置いておき、そこに書いてあることをすべて含めるように話を進めていきます。こちらが発信し、彼らはメモを取り、それが記事になるのです。

掲載の数日前にフォローアップする

次にすべきことは、実際にニュースが掲載される1日~数日前にフォローアップをすることです。「当社アプリの発売が近づいてきました」「先日は取材していただきありがとうございました」「動画、写真、スクリーンショットをご希望の場合はこちらをお使いください」「共同創業者と私の名前はこのように表記してください」といったメールを記者に送っておく必要があります。

私の場合、大事な情報をすべて含めて太字にしておきます。やるべきことは以上です。うまくいってApp Storeへのリリースをメディアが記事にし、TechCrunchに記事が載れば皆さんは有名人です。

PR会社との付き合い方

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多くの人からPR会社に関する質問を受けますが、スタートアップのあらゆることを自分でやっているアーリーステージではPRも自分でやるべきだと思います。実際、自分でやるのは非常に簡単です。特に、常に新しいネタを必要としているテクノロジー系メディアやブロガー相手の場合は簡単です。

PR会社に任せる前に自分でやる

皆さんには誰かを雇う前に自分自身でプロセスを学びながらやることを強くお勧めします。1つ言っておきたいのは、PR会社がサポートしてくれるのは連絡先やロジスティクスだけで、自社のアピールポイントを考え出してくれたりはしません。

私は、自社プロダクトのストーリーを考えてくれたPR会社に出会ったことはありません。彼らがしてくれるのは、こちらが連絡を取ったほうがいい記者のリストを提供してくれるくらいです。つまり、自社の特徴、業務内容、現在取り組んでいる面白いことのロードマップは皆さん自身で考え出す必要があるのです。

さらに、PR会社は高い費用が掛かります。私たちの場合は月に5,000~20,000ドル程度払っていましたが、多くの企業、特にスタートアップにとっては安い金額ではありません。特にアーリーステージにおいては賢いお金の使い方とは言えません。

PRはうまく使える

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メディアに取り上げられるということは大変な作業なのですから、価値あるものにする必要があります。

メディアでの紹介は虚栄の指標のようなものです。Facebookのような成功を収めた会社の多くは常にメディアで紹介されているため、メディアに取り上げてもらえば成功したような気分になりますが、それは実際に成功しているという意味ではありません。収益を上げ、ユーザーを獲得し、彼らを幸せにしているということにはならないのです。

ただしメディアはユーザー獲得戦略ではない

メディアで取り上げられることは最初の100~200人、あるいは1,000人の顧客を獲得する優れた戦略となる場合もありますが、スケーラブルなユーザー獲得戦略とは言えません。実際はブートストラップのようなもので、皆さんのことに関する記事を書き続けてもらうことは不可能です。世間の人はいずれ皆さんの会社について聞くことに飽き、そうした瞬間は実に早く訪れるのが常なのです。

ニュースの本質は新しさにあり、Googleのような会社でない限り、毎週メディアで取り上げてもらえるのはかなり困難です。

定期的にニュースを配信すること

しかし、毎週メディアで取り上げてもらう価値があると判断した場合は、定期的にニュースを提供し、自分たちの行動は将来的に7種類のストーリーにあてはまるか考える必要があります。

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私が主にマーケティングとPRを担当していた時、私はカレンダーに発売スケジュールを書き込み、私たちに関するニュースが最大限の効果を発揮するように一定の間隔で定期的な発売スケジュールとなるようにしていました。世間から私たちが忘れられないようにするためです。

さらに、記者とは新鮮な関係を維持しておくとよいでしょう。これはまさにリレーションシップビジネスなのです。誰かに記事を書いてもらったら、今後また記事を書いてくれる可能性があるその相手との関係を維持しておく必要があります。

人は過去に何かをしてあげた誰かに何かをしてあげる傾向があります。私なら、ニュースが出てきた時に相談できる数人の記者と良好な関係を築こうとします。もし誰かに否定的な記事を書かれるようなことがあれば、こちらの側に立ってサポートしてくれるでしょう。

ペイフォワードをしよう

最後に、大切な規範である、いわゆる「ペイ・フォワード」についてお話ししたいと思います。

仲間の起業家がマスコミに取り上げてもらえるようサポートしてあげてください。そうすれば、今度は皆さんがマスコミに取り上げてもらえるよう彼らがサポートしてくれるでしょう。マスコミに取り上げてもらうための一番良い方法はそうした紹介なのです。

私が記者と会う時は必ず彼らが食い付きそうな面白いことをやっている人物を紹介します。そういう行為は大抵自分に帰ってきます。記者にとっては面白いストーリーを紹介してもらえれば助かりますし、自分が助けた起業家から後日助けてもらう可能性は高いのです。

お勧めの文献

メディアについてもっと学びたい方にお勧めしたい本が2冊あります。

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1冊目は元TechCrunchの記者であるJason Kincaidが書いた本で、私が本日お話した内容の多くが詳しく解説されています。そしてもう1冊、ちょっとした邪悪な類の本ですが、American Apparelの元マーケッターが書いた『Trust Me, I'm Lying: Confessions of a Media Manipulator』です。この中で筆者は悪意をもってメディアを操っていたことを告白していますが、ネット上でのストーリー拡散に関する心理学を学べる、一読する価値があるものだと思います。それではこれで終わりにしたいと思います。

Q&A

Q.
メディアについて考え始めるべきタイミングはいつでしょうか?

A.
私が最初のスタートアップを立ち上げて最初のプロダクトを発売した時、その多くはまったく注目されず、どうやって100人のユーザーを集められるか全然分かりませんでした。メディアに取り上げてもらうのは100人のユーザーを獲得する良い方法だと思います。

私は最初のプロダクトを発売する多くのYCカンパニーに対して、まずTechCrunchでストーリーを紹介してもらい数人のユーザーの目に触れるようにすることを勧めています。まずは実践することが重要ですが、最初は複数のメディアに取り上げてもらうなどといったことに躍起になる必要はないと思います。

Q.
ポケモンの企画で御社はどのような役割を果たしたのでしょうか?

A.
かつてTwitchは「Twitch Plays Pokémon」と呼ばれるイベントを実施しました。これは開発者が用意したゲームボーイ版のポケモンをユーザーが実況配信に寄せるコメントで操作してクリアを目指すというもので、数百万の人々がAボタンかBボタンを選んではゲーム内でキャラクターを当てもなく歩かせていました。これが大きな反響を呼んだストーリーとなりました。

私たちがしたことは、BBCの誰かがGoogleで「Twitch」と検索して「Redditで皆の話題になっているこのお祭り騒ぎは何だ?」と言ったなどという他のニュースストーリーを利用したステージを用意することでした。こうしてストーリーに背景が生まれました。

もう1つは、私たちはTwitch向けのアイデアを考えたわけではありませんでした。あれは偶然の産物のようでしたが、私たちは記者に取材をしてもらったり、「Twitch Plays Pokémon」を100,000人が視聴中というだけでなく、クリア時のストーリーや次作の「ポケットモンスター クリスタルバージョン」のプレイまで含めたフォローアップのストーリーを提供したりとサポート活動をしていたのです。このストーリーを実際に作り出したのは私たちではなくコミュニティだったのだと思います。

本日は以上です。ありがとうございました。

 

 

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  Lecture 8: Doing Things That Don't Scale (2014)

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