すべての企業は FinTech 企業になる (a16z)

これは2019年11月のa16z Summitで私が生で行なった発表の縮約版です。YouTubeで動画がご覧いただけます。

それほど遠くない将来、ほぼすべての企業が収益の大部分を金融サービスから得ることになると思います。私はこの投稿で、この変化を可能にしているインフラについて、また、さらに重要なこととして、私たちが知っているように、それがいかにして銀行業を抜本的に変えるのかという点について掘り下げます。金融サービスとは無関係であったとしても、それらを含むすべての企業は、初めてFintechで利益を上げる機会を手にします。

スタートアップは、より早く、より安価に会社を始めることができるようになります。既存の金融機関は新商品を迅速に導入することができるようになります—— そしてIT保守にかかる費用が縮小されます。さらに、最も重要なこととして、このことにより、さらなる選択肢、よりよい商品、消費者向け料金の値下げが実現します。

まず、現在の銀行業界の状況に簡単に目を通しましょう。World Economic Forumの調査によって、ミレニアル世代およびZ世代で自分の関わっている銀行が公平かつ誠実であると信じているのはわずか28%だとわかりました。歓迎される商品の提供とは程遠いものです。

一方、必要最低限の収入で暮らしている人々の50%以上は往々にして全く別の金融サービスのシステムを利用しています。彼らにはもっと金融サービスが必要である傾向がありますが、その選択肢は少なく、その提供も、かなりお金のかかるものです。 全体的に見て、私たちの大部分が間違いなく自分の銀行を好きではありません。

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顧客が極端に不満を持っているにも関わらず、なぜこのような状況がこんなに長く続いてきたのでしょうか。どの産業においてもイノベーションは難しい一方で、金融サービスにおけるイノベーションはことさら困難です。これらの既存の金融機関の多くが約100年以上続いており、実店舗での大きな小売の基盤があります。結果として、コストの削減と新商品の迅速な展開は困難です—— 多くの長期賃貸契約や国内全域の何千もの従業員が訓練が必要であることを考えればわかります。

これらの金融機関の多くが十億ドル以上のIT予算を持っていてもおかしくはなく、さらに大手の銀行の一部では、その予算の75%を既存の商品を維持するためだけに使っています。これは高度に規制された業界であり、州や連邦全体で複数の規制当局があります。そのインフラは非常に複雑です。ですから、これはスタートアップにとって大きな機会であると同時に、大きな課題でもあります。

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こんなに多くの課題を踏まえて、私はなぜ将来を楽観視できるのでしょうか。ここに類似の状況があります—— ソフトウェア会社を始めるのはとても困難でした。10年から15年前までは、最初の一歩は、コンピューター販売店に車で向かうことでした。物理的なサーバーを買い、たぶん、借りたトラックの後ろに積んだでしょう。そして、それをオフィスまで持ち帰り、サーバールームの棚に置きます。ソフトウェアのライセンスをいくつか購入し、データベースのためのコードをいくらか書き、数百万ドルではないにせよ、数十万ドルをかけた後に、売り出したい商品をようやく作り始めることができます。

全くの時代遅れに聞こえるとすれば、それはその通りだからです。現在では、一枚のクレジットカードと一台のラップトップでソフトウェア会社を始めることができます。なぜでしょうか。Amazon Web Servicesはこのようなインフラのすべてをサービスとして始めました。AWSは費用と複雑さを劇的に縮小させ、何千もの実験を可能にしました。

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Airbnbなどの企業について考えましょう。創業者が投資家のところに行き、インフラを構築するためだとして、自分の会社に何百ドルも投資してくれるよう、納得してもらわなければいけないという状況を想像してみてください。そのインフラの構築は、「そう、私たちが皆、見知らぬ人の家に宿泊したいというところに巨大な市場があります」と証明することを目的とするものです。それは違う結果になっていたかもしれません。

金融サービスのための「Amazon Web Services」時代

この同じ記念すべき変化---- 「サービスとしての」インフラ---- は、金融サービスにも訪れようとしています。そしてそれは、ただ一つの企業ではなく、複数の企業です。金融サービスのインフラは非常に複雑だからです。この変化によって、金融サービス会社になるための費用と複雑さは減少するでしょう。そして重要なこととして、これにより、銀行業の未来に続く道を切り開くような数千もの実験が始まることになるでしょう。

私たちはこのイノベーションがスタートアップと既存の金融機関から始まることを期待しています。けれども、その大部分は、初めて金融サービスを事業に加えた既存の企業から始まるでしょう。もう既に始まっています—— Appleがまさにクレジットカードを発行しました。

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さて、Fintechの世界ではこれは大いに期待されてきた現象でしょうけれども、その期待は、Appleが単なるコンピューター会社だった時代にはまだなかったものです。今ではAppleは、iPhoneを愛するように自社のクレジットカードを好きになってほしいと願っています。 景気がよく、なおかつ新製品を発売することで知られている会社であるため、Appleを退けるのは簡単かもしれません。けれども、この傾向はより広範囲に広がっています。

UberとLyftを例にとってみましょう。これらはライドシェアの会社ですよね?皆さんがドライバーなら、これらの会社は銀行でもあるかもしれません。UberとLyftにとって、金融サービスを追加することには二つの利点があります。両社はドライバーの獲得に何百ドルも使っています。そしてその費用をライドのマージンで賄っています。その費用を補うために、銀行サービスのマージンもあれば、はるかに手軽になります。さらに、もし私がドライバーなら、金融サービスも提供してくれる会社の方がとどまる可能性が高くなります。究極的には、UberとLyftはうまくいけば、リテンションが向上することにより、獲得すべきドライバーの数は少なくなるかもしれません。

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これは単なる消費者の現象ではありません。B2Bでも起きています。例としてShopifyを挙げてみましょう。Shopifyは、どのような小売商にも、月額料金でウェブサイトサービスを提供しています。あるいは、Mindbodyです。ヨガスタジオなどのフィットネススタジオに事業を運営する力添えをする会社です。これも月額料金です。二社とも収益の約50%を金融サービスで得ていることがわかっています。

では、このFintechの急増が今起きている理由は何でしょうか。「サービスとしての」インフラが銀行業にも出現しています。これがなぜそんなに大ごとなのかを理解するために、私たちは、現在の銀行のスタックがいかに複雑かに目を向ける必要があります。

銀行を始めるために何が必要かを疑問に思ったことはありますか?消費者側の見え方を単純化したものをここに挙げます。この高度に規制された業界では、まずライセンスの申請が必要で、取得に何年もかかることもあります。新会社のほとんどは、そうはせず、スポンサー銀行を探します(実質的にライセンスを借ります)。しかし、それは、必要な提携の第一号です。

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そして中核システム(大規模データベースのようなもの)が必要です。そのシステムで顧客資金がどこにあるのか、どのように動いているかを記録します。顧客が口座から資金を取り出すことができるように、一連の決済システムを統合する必要があります。ローンを組むためには、信用調査機関を通して顧客についての情報を知る必要があるでしょう。従うべき複数の規制機関があります。KYC(顧客を知る)やAML(資金洗浄対策)に関してさらに提携関係を推進するなどします。お金を扱うため、詐欺に用心しなければいけませんが、これにはさらにソフトウェアが必要になります。さて、今や私たちは十余の提携関係に目を向けています。それらの取引を締結するための平均的な所要期間である2年間が経過してもなお、売り出したい新商品はまだできていません!

Amazonがコンピューター処理とストレージに対して行ったのと同様に、企業がこの複雑なスタックの各レイヤーに注力し、その手順をサービスとして提供したらどのようになるでしょうか。それがまさに今起きていることです。

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サービスとしての銀行インフラ

いくつかの例を見てみましょう。手始めに、簡単な予算作成または財務計画のアプリを構築したいとしましょう。私はスタックを再構築しようとはせず、スタックからデータを取り出そうとするだけです。簡単そうに聞こえます。いいですか?いざ首を突っ込んでみると、そんなに簡単ではありません。

まず、私は自分の顧客の財務状況についてすべてを知らなくてはいけません。銀行からです。米国全体には何千という銀行があります。事態をさらに複雑にするのは、これらの銀行の多くが、別々の中核システムを持っており、そのため、データ形式も異なることです。少なくとも何十もの統合の構築と維持が必要になります。通常の範囲であってもです。顧客の証券口座、加えて、給与の総額についても知る必要があります。学生ローンがあるとすれば、統合の組み合わせは全く違ってきます。私がインフラの構築にいかに自分の時間をすべて費やす可能性があるのかが簡単にわかるでしょう—— まだ売り出したいと思っているすばらしい財務計画アプリを全く構築していないことも。

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さて、ところが、Plaidのような企業があります。「サービスとして」これらすべての統合を構築し、維持する会社です。重要な点は、Plaidが、活用可能な形式へのデータ変換も行なっていることです。

事前構築されたインフラ・レイヤーは、Earninなどの企業の加速に役立ってきました。同社はユーザーが既に取得した給料の資金を即座に利用することを可能にします。他にもBlendは、最新式の住宅ローンのアプリケーションです。数ヶ月分の銀行取引明細書や証券取引明細書をファックス送信するのではなく、ただ自分の銀行口座に紐づけるだけです。学生ローン取扱業者に対してと同じように、新しい関係が構築されます。近い将来、学生融資体験にも待ち望んでいた改善がなされるのを私たちは目の当たりにするでしょう。

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もう一つの例をここに挙げます---- 預金口座とデビットカードなどを含む新しい消費者銀行サービスに関して、すばらしいアイデアがあるとします。上述したよりも多くの提携関係が必要になります。たとえば、現金引き出しのためのATMネットワーク、また、リモート小切手入金もそうでしょう。これらのシステムの多くが1960年代に構築されたものなので、これらの提携関係をまとめあげるには、たくさんのコードを書かなければいけません。

けれども、私たちには今や、これらすべてを「サービス」として提供しているSynapseのような会社がああります。これにより、ローンチのための時間が劇的に短縮されただけでなく、二つのことが起きています—— 第一に、起業家が新製品を売り出すことに集中できます。ですから、たとえば、Mercuryは小企業兼スタートアップ銀行です。同社は使い勝手のよさや、現金の流れを極めてわかりやすくすることに注力しています。これらを欠いていることが、多くの企業が事業をやめる一番の理由です。第二に、Synapseは、事業が銀行インフラや決済の専門知識ではなく、顧客の理解と流通戦略を優先させることを可能にします。

Propelは、Electronic Benefits(フードスタンプ)を利用している4000万の家族の一部にサービスを提供する会社です。同社の創業者の一人はフードスタンプを利用して育ち、この市場に深い洞察があります。Propelは予算会計サービスの提供で事業を始めましたが、現在は、金融サービスにまで事業を広げました。

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Fintechで詐欺および資金洗浄と闘う

多くの産業には規制があります---- 通常は、規制を遵守しなければ罰金を科されます。けれども、金融サービス業界の規制を遵守しなければ、投獄されます。(NeflixでOzarkを見た人なら誰でも薬物の取引で得た資金を合法制度に持ち込んだ場合の犯罪者の刑期を知っています。)

銀行は資金洗浄を防ぐことを意図した一連の法律を遵守する必要があります。彼らは私たちのすべての取引に加え、世界中の何百もの制裁とテロリストの名簿を監視しています。想像できるように、これは、膨大な人手による確認作業だけでなく、多くの誤検知を生む結果となります(合法的な顧客の取引が凍結されます)。それは複雑で能率の悪い処理過程です—— ある大手銀行では、21万人の従業員のうち3万人が法令遵守のためだけに仕事をしています。資金洗浄防止規制の結果として、その労働者の圧倒的多数が疑わしい活動を査定し、不審な活動を報告しています。

さらに驚くべき事実として、その洗浄済みの資金で実際に摘発されるのは3%未満です。これはテクノロジーがこの機能をサービスとして提供する大きな機会を示しています。たとえば、Comply Advantageは、企業向けにこれらの制裁/テロリスト監視リストのすべての統合を行なっています。何百もの統合を一つにまとめあげて。これによってリスク管理がきめ細やかになるため、銀行は取引の監視に使う時間を減らすことができ、資金洗浄の検出に時間をかけて力を注ぐことができます。これがよりよい顧客体験を生み出し、費用を低減し、時間とともに願わくば成功の比率を上昇させます。この市場における大きな課題の一つは、ひとたび銀行がうまく資金洗浄を発見できるようになると、犯人がシステムの別の弱点を狙うようになるということです。

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これは詐欺師についても言えることです。私たちの多くが、詐欺を成りすまし行為だと思っていますが、実はさらに悪質な種類の詐欺があります—— 完全に偽造または合成された身元を使うものです。

ここで貸し付け業者のデータサイエンティストの発見を紹介します。彼らは、ある日、データベースに目を通している時、13の異なる社会保障番号に紐づけられた、相当不審な名前に気づきました。そこで彼らは、どの名前/社会保障番号の組み合わせに信用情報があるかを調べました。すると、13すべてに信用情報があったのです!これは思っているよりも簡単にできます。

9で始まっていない9桁の番号を無作為に選べば、それはほぼ有効な社会保障番号になり得ます。たとえば、それでローンに申し込みます。初回に貸し付け業者が信用調査機関に問い合わせをし、信用調査機関は次のように答えます。「いいえ、私たちはこの人物を知りません。」けれども次の機会にローンを申請すると、信用調査機関は貸し付け業者からの問い合わせに対し、その人物から以前に問い合わせがあったと認めるでしょう。充分な金額と十分に低いドルレートで、ローンを組んでくれる貸し付け業者を見つけることができる公算は大きいです。これらの合成の捏造された人々は借金を返し、ランクアップし、姿を消すまで借金の金額を増やします。

これは突き止めるのが非常に難しい種類の詐欺です。ただし、今や私たちにはサービスとしてそれを突き止めてくれるSentilinkのような会社があります。身元を偽っている人たちは普通の人たちとはかなり違う利率で資金を借りていることがわかっています。そこに焦点を当てれば、はるかに効率的にこの種の詐欺を阻止することができます。Sentilinkは自動車ローンから個人向けローン、中小企業向けローンまで、すべての範疇の詐欺を激減させました。これらは新しいインフラ企業がいかにして完全に金融スタックを再構築しているか(そしてサービスとして私たち皆に提供して)を示すほんの数例です。

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これは米国でも大きな機会ですが、世界的に見ればさらに大きな機会です。世界には様々な規制および決済システムがあります。金融サービススタックが全く違う場合もあります。たとえば、メキシコのような国では、決済の80%が現金で、現金決済をオンラインシステムに組み込むレイヤーが必要です。

この混乱で独特なのは、産業の大変革のほとんどでよくあるのが一人勝ちであるのに対し、この場合は、参入して大きく向上する機会が誰にもあるという点です。スタートアップに関しては、私たちは、構築途上の新しいインフラ企業の例を見てきました。さらに多くの機会があります。けれども、このインフラの上に始まる何千もの実験にはさらに多くの機会があります。

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昨年だけでも2000近いのFintech企業がスタートを切りました。既存の金融機関は、ようやく旧システムを切り替え、維持費を短縮することができるでしょう。加えて、これらスタートアップのいくつかと提携することでさらに迅速に新商品を発売できるようになるかもしれません。

Uber、Lyft、Shopify、Mindbodyで目にしたように、すべての企業が、よりよい顧客サービス、よりよい顧客確保、マージンの拡大のために、金融サービスを活用する方法を考えなければいけません。

ついに、私たち消費者に本当に胸の踊る段階が訪れます。新しい金融サービス企業が立ち上がってきて(そして私たちのお気に入りのブランドの一部が金融サービスを始めて)、既存のサービスは改善してきています。そう遠くない将来、社会経済学的な人口分布のどこにいようとも、世界のどこに住んでいようとも、手が届く金融サービスを誰もが利用できるようになるでしょう。そして私たちはむしろそれが好きになるかもしれません。

 

著者紹介

Angela Strange

Angela Strange は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼女は保険、不動産、多様性の向上などを含むファイナンシャルサービスへの投資にフォーカスしています。彼女は Andreessen Horowitz のポートフォリオである  Branch, Earnin, HealthIQ, Mayvenn, PeerStreet, and Point のボードオブザーバーでもあります。Angela は2014年にこのファームに入社しました。

 

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記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Every Company Will Be a Fintech Company (2020)

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