素晴らしいプロダクトのためのゲームデザイン(ゲーミフィケーションではない) (a16z)

ゲーミフィケーションのことは忘れましょう。仕事というより遊び感覚のソフトウェアを作りたいなら、さらに深く、さらに内発的動機を利用する必要があります。そこにゲームデザインの原則が登場します。2019年a16zサミットのこの講演(全原稿を下に掲載)で、SuperhumanのRahul Vohra創業者兼CEOは、ゲームデザイン理論を共有しています。ユーザーを確保し、喜ばせているどの業界においても満足のいく製品を構築するためのものです。彼は、心理学、物語、数学、相互作用設計の要素を要約し、7原則に分けています。その原則は、やりがいがあり、楽しく、生産的な経験をユーザーに提供します。

ショーノート

  • ビジネスソフトウェアが現在、仕事のような感覚になっている理由 [0:50]
  • ゲームデザインがゲーミフィケーションではない理由 [1:12]
  • Rahulがゲームデザインに用いる5要素 [3:06]
  • 製品に関する明確な目標を決める [3:44]
  • 製品に感情を取り入れて設計するモデルを探究 [5:08]
  • ビジネスソフトウェアの迅速なロバスト制御の設定 [7:24]
  • 優れたゲームに遊び道具が含まれている理由 [8:46]
  • Superhumanのお気に入りのおもちゃのデモ — タイム・オートコンプリーター [9:03]
  • Rahulがフローとその達成方法を定義 [10:56]
  • フローが難題と技能のバランスに左右される理由 [13:50]
  • Rahulのゲームデザイン7原則の要約 [15:22]

原稿

皆さん、こんにちは。私はRahulです。世界最速の電子メール体験を実現したSuperhumanの創業者で、CEOでもあります。私たちの顧客は以前に比べて2倍の速度で受信箱を処理しています。重要な電子メールにすばやく返信し、多くの顧客が何年もの間で初めて受信箱がゼロであるのを目にしています。

さて、Superhumanは生産性を高めるソフトウェアですが、私は気持ちの上では根っからのゲーマーです。 私はゲームデザインをビジネスソフトウェアに応用する方法を共有するためにここにいます。

現在、私たちのビジネスソフトウェアは仕事感があります。電子メールの処理をしなければいけません。経費報告書を提出しなくてはいけません。CRMにデータ入力をしなくてはいけません。けれども、これらのことを仕事ではなく、遊びのようにできたらどうでしょうか。ゲームデザインでそれができます。

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ゲームデザインがどのようなものであるかを簡単に共有しましょう。けれども、まず、ゲームデザインではないものを指摘させてください。ゲームデザインはゲーミフィケーションではありません。単に製品を取り上げて加点し、レベルを上げ、戦利品や記章を加えるものではありません。10年前はゲーミフィケーションはすごいものでしたが、機能しませんでした。その理由を理解するには、人間の動機付けを理解する必要があります。

1970年代に、スタンフォード大学の研究者が3歳と4歳の子供を50人募りました。全員、それまでに絵を描くことに興味を示した子供たちです。子供の一部は、報酬や金色のシールの認定証、リボンをもらえると教えられました。その他の子供たちは報酬のことは告げられませんでした。報酬の存在さえ知りませんでした。子供たちはその後、別々の部屋に招かれ、6分間、絵を描き、一部の子供たちに報酬が渡されました。

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翌日からの数日間、子供たちがどの程度、自ら絵を描き続けるかを観察しました。報酬をもらわなかった子供たちは、自分の時間の17%を絵を描くことに費やしました。しかし、報酬をもらった子供たちはわずか8%の時間しか絵を描くことに使いませんでした。報酬は彼らのモチベーションを半減させました。

では、ここで何が起きたのでしょうか。まず、研究者たちは内発的動機付けと外発的動機付けを区別しました。内発的動機付けでは、私たちは、本質的に満足し、興味を抱きます。外発的動機付けでは、報酬を求めて物事を行います。それが報酬の問題です。報酬は内発的動機付けを大きく蝕みます。これはゲーミフィケーションが機能しない理由でもあります。ゲーミフィケーションが機能しているように見える時、根底にある経験が既にゲームだからです。

そこで私たちは質問に行き着きます。どのようにゲームをデザインするのでしょうか?これは私が長い間取り憑かれていた疑問です。子供の時に、私は自分のゲームを作ることができるようになるためだけにコード化の方法を学びました。私は創業者になる前、ゲームデザイン者でした。そして、今、創業者として、ゲームデザイン理論に深く関わっています。結論から言うと、ゲームデザインには統一的な理論はありません。ゲームを作るために私たちが描くものの土台とすべきなのは、アート、心理学、数学、インタラクション設計、物語です。これらが考慮すべき5つの要素です。私は、これらの要素のそれぞれに関して、私たちがどのようにしてSuperhumanで利用しているか、また、皆さんがどのようにして自分の製品に利用するかを共有します。

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ゲームにはゴールが必要です。現に、ゴールはゲームの特徴を決定しますが、私たちは単純にどんなゴールでも設定できるわけではありません。明確で、達成可能で、やりがいのあるすばらしいゴールが必要です。

Superhumanでは、私たちは非常に明確なゴールを設定します。受信箱をゼロにします。けれども、ゴールは達成可能なものでもあるべきです。それが私たちがユーザーをオンボーディングする理由です。新規ユーザーの一人ひとりに私たちは生で接客してオンボーディングしています。これは、私たちのすばらしいオンボーディング専門家のうちの一人と一対一で30分間、ビデオ電話をするものです。私たちは受信箱をゼロにするための迅速なワークフローを手ほどきします。 私たちは、皆さんがマウスに全く触らなくてもよいくらいに頼りになるショートカットを紹介します。もし受信箱がゼロになるどころではない場合は、そこに近づけるように、先入観を消します。こうしてゴールがより達成しやすくなるのです。

けれどもゴールには報酬も必要です。受信箱がゼロになると、電子メールに勝ったような気分になり、これまでにない大きなやりがいのある体験になります。

ほとんどの事業目標は明確ではありません。ビジネスソフトウェアには明確なゴールがありません。もしそれが明確だったとしても、大抵は報酬がなく、達成不可能なものです。このことが私たちをゲームデザインの第一原則へと導きます。ゲームのようなソフトウェアを作りたいなら、明確で達成可能、かつ、報酬のあるゴールを設定しましょう。

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さて、一流のゲームは強烈な感情を生みます。なぜなら、感情が私たちの記憶の土台だからです。したがって、私たちは感情を分析することができなければいけません。これをするには語彙が必要です。

人間の感情には多くのモデルがあります。最も有名なのは、プルチックの感情の輪です。プルチックは8つの中核となる感情を特定しました。正反対の感情が向かい合っています。例えば、喜びは悲しみと正反対です。隣り合う感情を混ぜて、新しい複雑な気持ちを作ることができます。例えば、喜びと不安を組み合わせれば楽観主義ができあがります。喜びと信頼を組み合わせれば愛ができあがります。

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けれども、ゲームデザイン者として、私たちは学問の世界にあるよりも豊富な語彙が必要です。私たちが目指す感情は、極めて微妙な差異のあるものです。これは私がJunto Instituteによって見つけた最も有益なモデルで、私たちが注意を払うべき字幕がついています。

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Superhumanでは、喜びに非常に気を遣っています。私たちは熱意とワクワク感のために設計しています。私たちのユーザーは、ひどく興奮して私たちのところに来て、製品を使います。私たちは満ち足りた希望と楽観主義のために設計しています。ユーザーは、心の底からSuperhumanによって自分の人生が向上することを望んでいます。私たちは誇りと勝利のために設計しています。Inboxゼロを達成した時に、特にそれが何年もの間の初めての出来事である場合は、皆さんは、当然のこととして、特別なことを成し遂げたような気分になります。

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Inboxゼロを達成したら、私たちはびっくりするような豪華な画像を見せます。感情のレパートリーを喜びを超えて愛と驚きに広げるためにこれを行なっています。私たちが見せる画像は、穏やかで平和なもの、憧れと感傷の感覚を起こさせるもの、信じられないような、畏怖の念を起こさせるようなものです。

プルチックの輪を使って、排除する感情を探すこともできます。多くの人が自分の電子メールについて、否定的な感情を持って私たちのところに来ます。絶望的で不安、煩わしい、後ろめたい、さらには無力感などに苛まれているかもしれません。このことが私たちをゲームデザインの第二原則へと導きます。微妙な差異のある感情のための設計です。

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コントロールは、ゲームが成功する主な理由の一つです。Wiimoteのことを考えてみましょう。オリジナルのWiiは1億台以上を売り上げました。一体化した動きをするもの以降のすべてのコントローラーです。けれども、ゲームは、ビジネスソフトウェア向けに私たちが通常構築するものよりもはるかに安定した制御が必要です。『ストリートファイター』のようなゲームをやっていると想像してみてください。ゲームが入力の半分を無視して、自分のキャラクターが激しく攻撃され、死んでしまったとしたら、ひどく苛立つでしょう。けれども、それが現在のビジネスウェアの状況なのです。

私が同僚のConradに電子メールを送りたいとしましょう。Gmailでは、電子メール作成のショートカットはCです。ですから私はCを打ちます。そして、Conradと入力します。Gmaiでは、これをあまりにもすばやくやってしまうと、二つの下書きができてしまい、Radにメールを送ることになります。Superhumanでは、私たちは、そうならないように、キー操作をパイプライン処理しています。私がGmailを槍玉に挙げていると思うかもしれませんが、この種のエラーは現在のビジネスソフトウェアの常です。

このことが私たちをゲームデザインの第三原則へと導きます。すばやく安定した制御を設定することです。

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おもちゃはゲームと同じでしょうか。おもちゃは遊びに使う道具ですが、ゲームはそのままプレイするものです。ボールは遊びの道具ですが、ベースボールはゲームです。結論から言うと、一流のゲームは遊びの道具でできています。そしてそれらは、様々なレベルでおもしろいものです。おもちゃのレベルとゲーム自体のレベルで。

Superhumanでは、お気に入りのおもちゃは、タイム・オートコンプリーターです。これは電子メールのスヌーズ機能です。何でも好きなように入力できます。それはまったく意味のない文字の羅列かもしれませんが、最善を尽くして皆さんの入力を理解しようとします。例えば、3Dは3 Days、3Hは3 Hours、1MOは1 Monthという具合です。

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タイム・オートコンプリーターはおもしろいです。遊び心のある探究にふけるからです。何をするのでしょうか。どのように機能するのでしょうか。いつ休止するのでしょうか。オンボーディングで人々がこのようなことを試し始めるまで時間はかかりません。では、私がもし10を入力し続けたらどうなるでしょうか。そう、10月10日午後10時10分になることがわかっています。では、午後の場所を移動させたらどうなるでしょうか。それでも機能しているように見えます。一続きのものを二つに分けて入力したらどうなるでしょうか。そう、例えば、2020年2月2日、午後2時という具合に。

そうなれば、さらに複雑な入力を試し始めるかもしれません。2週間と1日ならどうでしょう。楽しい驚きを経験するのに長くはかかりません。例えば、時間帯の計算を再びする必要は決してありません—— 東京午前8時、問題なし。つまり、東部時間午後8時です。多くの私たちのユーザーは、本気で望めば、電子メールを送信しないレベルまでスヌーズできることを知り、喜んでいます。

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第4原則---- おもしろい遊び道具を作り、ゲームに組み込みましょう。自分の製品について吟味してください。たとえゴールがなくてもおもしろいですか?遊び心のある探究の瞬間に浸るものですか?楽しい驚きの瞬間を創出するものですか?もしそうなら、おめでとうございます。遊びの道具があり、素晴らしいゲームを作る途上にあるからです。

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さて、前項の4つの要素はゲームデザインに不可欠です。フローはおそらく、最も理解されていないものです。フローは、現在に極端に重きを置き、集中するものです。フローはとても夢中にさせるものであるため、私たちは過去に気を揉んだり、未来のことを考えたりしません。フローはとても手がかかるものであるため、私たちは他人が自分のことをどう思っているかを気にすることがありません。フローはとても簡単なため、私たちは次に何をすべきかを常にわかっています。フローはとても力強いため、私たちは時間を忘れます。一瞬閃くこともあれば、永遠に向かって引き伸ばされることもあります。そして、フローはとてもやりがいがあるため、私たちのアクティビティは内発的動機付けになります。それは私たちが前から知っているように、最も力強く、効果的なモチベーションの形です。

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言い換えれば、フローは途方もないものです。私たちはどのようにしてそれを作るのでしょうか。さて、以下が条件です。

1. 常に次にすべきことをわかっていなければいけない。
2. 常にやり方をわかっていなければいけない。
3. 常に注意散漫でないようにしなければいけない。
4. 明瞭ですばやいフィードバックを手にしなければいけない。
5. そしてこれが正しく行うのが最も困難。難題と技能のバランスを感じなければいけない。

私たちは、経験の揺らぎのモデルで難題と技能の関係を視覚化できます。アクティビティが難しすぎると不安になるでしょう。アクティビティが簡単すぎるとくつろいだり、飽きたりするでしょう。本当にフローに身を置いていると感じるためには、難度の高い課題を認識して、それに見合う技能で対処する必要があります。

では、Superhumanではどのようにしてフローを作っているのでしょうか。その条件を順番に取り上げてみましょう。

1番---- 次にすべきことがわかっている。ユーザーにとってこれが劇的に簡単になるような製品の決定ができます。Gmailでは、この電子メールを保存する時、受信箱に戻ることになります。そして、次にすべきことを決めなければならず、その都度決断しなくてはいけません。これはフローを壊します。Superhumanでは、その同じメールを保存すると、次のメールがすぐに見えます。全く決断をする必要がありません。これでフローが生まれます。

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2番---- やり方がわかっている。初期の段階で私たちは、ユーザーが私たちのショートカットを忘れるのを目にしました。彼らは自分のしたいことはわかっていましたが、その方法を知りませんでした。ですから、私たちは、Superhumanコマンドを構築しました。コマンドKを打って望み通りに入力すれば、その時に実行するだけでなく、次回のためにショートカットを教えてくれるでしょう。

次---- 注意散漫にならない。Superhumanでは、一度に確認できるのは一つの会話だけです。そして、会話と同時に受信箱を確認することはできません。ですから、極めて意図的に、次に表示されるものや新着メールを見ることができないようになっています。注意散漫になるのを抑え、フローを作るために、このような自分のインターフェースを設計することができます。

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私が最も胸をおどらせて共有するのは、難題と技能のこのバランスです。これは経験の揺らぎのモデルです。ほとんどの人にとって、Gmailは左回転のスライスです。無気力を感じる、または、心配になる人がいます。彼らの技能は初級から中級程度ですが、彼らの電子メールはそれほど問題にはなりません。さらに左側を強く意識する人もいます。彼らの技能は初級から中級程度ですが、彼らの電子メールには問題があります。多くの人が不安を感じています。技能レベルは初級から中級ですが、彼らの電子メールは非常に問題で、彼らはそこで失敗します。ほとんどのユーザーが私たちのところに来る実際の理由はこれです。

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私たちは、Superhumanで、ほぼすべての人の技能を大きく向上させます。けれども、そもそも皆さんの電子メールがそれほど難題ではなかったらどうでしょうか。あるいは、皆さんが既に技能を持っているとしたらどうでしょうか。私たちは非常に難しいゴールを提供します。マウスを触ることなく、受信箱をゼロにしてみましょう。これによって皆さんが認識している技能と認識している難題のバランスをとり、結果としてフローが生まれます。

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フローは非常に重要で、実際に私たちに3つの原則を示します---- 次の行動をわかりやすくする、直ちに明確なフィードバックを出す、注意散漫にならない、認識されている高い技能で認識されている高度な難題に対処する。これは直感に反して、製品を利用しづらくしているということかもしれません。

以上が私たちのゲームデザインの7原則です。この原則に従えば、皆さんのユーザーは内発的に動機付けられるでしょう。彼らが皆さんの製品を利用するのは、そうしなければいけないからではなく、本質的におもしろく、満足できるものだからです。この7原則で、皆さんは、喜びに満ちていて、すばらしく、魅惑的な製品を作ることができます。そしてそれは、根本的にはゲームなのです。

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著者紹介

Rahul Vohra

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Game Design, Not Gamification, for Great Products (2020)

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