ハッカーのための投資家ガイド (Paul Graham)

投資家の世界はほとんどのハッカーにとっては異世界です。ある意味ではそれは投資家がハッカーとまったく似ていないからで、ある意味では投資家の活動が秘密に包まれているせいでもあります。私は創業者として、また投資家としてこの世界に長年関わってきましたが、今も十分には理解できていません。

このエッセイでは、投資家に関して私が学んだいくつかの驚きの事実を記します。一部はこの一年で知ったばかりのことです。

ハッカーに投資家との取引の仕方を教えることは、おそらくY Combinatorでの2番目に大事な仕事だと思います。スタートアップにとって最も大事なことはよいものを作ることです。とはいえ、それが重要だというのは誰でもわかっていることです。投資家にまつわる危険は、ハッカーの皆さんが投資家の奇妙な世界についてどれだけわかっていないかを自覚できていないことです。

1. 投資家がスタートアップの中心地(ハブ)を生み出す。

1年ほど前、私はもしシリコンバレーをどこかに再現するとしたら何が必要かを考えてみました。結論としては、シリコンバレーを作るのに不可欠の要素とは裕福な人々とナード(nerd)、つまり投資家と創業者です。その人々さえいればテクノロジーは生まれ、それ以外の人々は引っ越します。

どちらがより重要かを選ぶとすれば、投資家が決定的な要素だと言えます。それは投資家がスタートアップにより多く貢献しているからではなく、単純に投資家は引っ越すことへのハードルが高いからです。投資家はお金持ちです。アルバカーキに頭のいいハッカーたちが住んでいるというだけの理由で、引っ越したりしません。逆にハッカーは、投資家を探すためにベイエリアに引っ越すことを厭いません。

2. エンジェル投資家が最も重要である。

投資家にはいくつかのタイプがあります。主な2種がエンジェルとベンチャーキャピタル(VC)です。VCは他人の資金を投資し、エンジェル投資家は自分の資金を投資します。

VCほど知られていませんが、エンジェル投資家はおそらくシリコンバレーを作り出す材料の中でも重要度の高い存在です。VCが投資する企業のほとんどは、先にエンジェルが投資していなければVCによる資金調達までたどり着けていないでしょう。VCによると、シリーズAラウンドの資金調達をする企業の半分から4分の3は、その時点ですでに外部からの投資を受けています。[1]

エンジェルはVCよりも進んでリスクの高いプロジェクトに投資します。さらに貴重な助言も授けてくれます。なぜなら(VCとは違って)エンジェル本人もかつてスタートアップの創業者であったことが多いからです。

Googleの逸話は、エンジェルが果たす重要な役割を説明してくれます。GoogleがKleinerとSequoiaから資金を調達したことは多くの人に知られています。GoogleのVCラウンドはシリーズBラウンドで、プレマネーバリュエーションは7500万ドルでした。Googleはその時点で成功を収めた会社となっていました。実際、Googleはエンジェルからの資金で成り立っていたと言えます。

シリコンバレーの王道スタートアップがエンジェルから資金提供されていたとは奇妙に思えるかもしれませんが、驚くことではありません。リスクは常にリワードに比例します。最も成功したこのスタートアップは、最初は非常にリスキーな投資先に見えたことでしょう。そしてそうしたスタートアップには、VCは手を出しません。

エンジェルはどこからやってくるのでしょう? 他のスタートアップからです。ですから、シリコンバレーなどのスタートアップの中心地にはマーケットプレイス効果のような恩恵があると言えます。と言ってもそこには時間的なズレがあります。今スタートアップが存在するのは、かつてそこにスタートアップが存在したからなのです。

3. エンジェル投資家は注目を好まない。

エンジェル投資家がそれほど重要なら、なぜVCの話題の方が多いのでしょうか? それはVCがパブリシティを好むからです。VCには「顧客」となる投資家に向けて自社を売り込む必要があります。顧客となる寄付金財団や年金基金、投資資金を持っている富裕層ファミリー、あるいは資金提供を求めてやってくる創業者に対してもアピールが必要です。

エンジェルは自分の資金を投資しているため、投資家に対して自分を売り込む必要はありません。それに創業者へも自分を売り込みたいとは思っていません。不特定多数がビジネスプランを引っ提げてやってくるのはありがたくないことだからです。とはいえ実際のところVCもそれは望んでいません。エンジェル投資家もVCももっぱら個人的な紹介を通じて取引をします。 [2]

VCが強力なブランドを必要とするのは、アポ無しのビジネスプランの売り込みを多く受けたいからではなく、VCが他社と競合したときに競り勝つためです。それに対してエンジェルが直接誰かと競合することは稀です。その理由は以下の3つです。(a)エンジェル投資家はVCよりも取引が少ない、(b)他社と共有することを嫌がらない、(c)ある程度大規模になってから投資を行う。

4. ほとんどの投資家は創業者とは違う種類の人間である。特にVCは。

一部のエンジェル投資家はハッカー、あるいは元ハッカーです。しかし大部分のVCはそれとは違う種類の人々です。彼らはディールメーカー、つまり取引の交渉人なのです。

こんな思考実験をすれば、ハッカーのVCが基本的には存在しない理由をハッカーの皆さんも理解できるかもしれません。何も作ることなく、すべての時間を他人が売り込んでくる(たいていはひどい)プロジェクトに耳を傾けるのに費やして、投資の可否を決定し、その会社の役員になるという仕事があったら、やってみたいでしょうか? ほとんどのハッカーにとって楽しくはないでしょう。ハッカーが好きなのは何かを作ることです。それに対して、VCは管理者のような仕事です。

ほとんどのVCは創業者とは違う種族の人間ですから、彼らが何を考えているのかを理解することは困難です。ハッカーの皆さんはこういう人々とは高校以来接することはなかったでしょう。おそらく大学時代は、そういう人のいるクラブの脇を通り過ぎてラボへ通っていたことと思います。しかし彼らを甘く見てはいけません。あなたがあなたの世界の専門家であるように、彼らは彼らの世界の専門家です。彼らが得意とするのは、人を見ることと、自分が得をする取引を取り付けることです。その手のことで安易に彼らを出し抜こうとは思わないようにしましょう。

5. ほとんどの投資家はモメンタム投資家である。

ほとんどの投資家はディールメーカーであってテクノロジーには詳しくないので、大抵はハッカーのやっていることを理解できません。私は創業者なので、ほとんどのVCはテクノロジーがわからないということを知っていました。同時に、VCの一部は大量のお金を稼ぐことも知っていました。ですが私は最近になってようやく、ふとそれらの知識を合わせて「なぜVCは理解できないものに投資してお金を稼げるのだろうか?」と疑問に思いました。

その答えは、VCはモメンタム投資家に似ているということです。株価の急激な変化を察知すれば大量のお金を稼ぐことができます(あるいは昔は可能でした)。株価が急上昇する時に買って、急落する時に売る。実質的にインサイダー取引をするのと同じです、内幕を知らないという点を除いては。わかるのは誰かが何かを知っているということだけ、そしてそれが株価を動かすのです。

これが多くのベンチャー投資家のやり方です。ある投資対象が人気になるかどうかを予測しようとはしません。何かが人気になりつつあることを、他の人よりも少しだけ早く察知することで儲けるのです。この方法は、後に人気銘柄となるものを選ぶことができた場合とほぼ同じくらいよいリターンをもたらします。本当に人気になるものを選び取ることが可能な場合と同じくらいに。ごく初期の段階で手を出す場合よりは少し高くつくかもしれませんが、ほんの少しに過ぎません。

投資家は常に、本当に大事なのはチームだと言います。しかし実際に投資家が最も気にしているのはあなたのサービスにどれくらいトラフィックが発生しているかであり、次に他の投資家がどう考えているか、その次がチームでしょう。まだトラフィックが発生していない場合は、2番目の「他の投資家がどう考えているか」に移ります。そして想像がつくでしょうが、このことはスタートアップの「株価」に乱高下をもたらします。ある週は誰もがあなたの事業を求め、取引相手から外さないでくれと懇願してきます。しかし大口投資家のたった1社が冷たい態度を取るだけで、次の週にはもう誰も折り返しの電話をかけてこなくなります。スタートアップはしばしばわずか数日のうちに人気から不人気へ、不人気から人気へと変化します。実際のところ、何ら変化していないにもかかわらず。

この現象に対処する方法は2通りです。本当に自信がある場合は、この波をうまく乗りこなしてみることもできます。比較的小規模なVCに比較的少額の資金を要求して、関心が集まってきたらもっと大きなVCにより多額の資金を要求することで人気の高まりを煽り、頂点に達した時点で「売り」に出すのです。このやり方は非常にリスキーで、成功するとしても何ヵ月もかかります。私は自分ではやろうとは思いません。私としては用心に用心を重ねることをお勧めします。誰かがまずまずの取引を申し出てきたら素直に受け入れて、さっさと会社の基礎を築いていきましょう。スタートアップの勝敗を左右するのは製品の質であって、資金調達取引の質ではありません。

6. ほとんどの投資家は大ヒットを求めている。

ベンチャー投資家は株式公開できる企業を求めています。そうした企業には大きなリターンがあるからです。投資家は個人のスタートアップが株式公開する見込みが低いことは知っていますが、少なくとも株式公開の可能性があるスタートアップに投資したいと考えています。

現在のVCの活動の仕方はどうやらたくさんの企業に投資することのようです。投資先企業のほとんどが失敗したとしても、中にはGoogleのような1社があるというわけです。そうしたわずかな大ヒットが他の投資による損失の埋め合わせとなります。つまり、ほとんどのVCはGoogleになる可能性がある企業にしか投資しないということです。2000万ドルで買収できる安全な会社には興味がありません。必要なのは、たとえわずかでも、大企業に成長する可能性があることです。

エンジェル投資家はこの点で異なっています。エンジェルは、十分に低い評価額できるならば最終的に2千万ドルでの買収が見込めそうな企業に喜んで投資します。とは言え、もちろんエンジェルも株式公開できる企業は好きです。ですから野心的な長期プランがあれば、VCにもエンジェルにも歓迎されます。

VCの資金を受け入れるなら、本気でなければなりません。構造的にVC取引は早期の買収を妨げるからです。VCの資金を受け入れてしまうと、早めに売却させてはくれません。

7. VCは大きな額を投資したがっている。

投資ファンドを経営しているということから、VCは大きな額の投資をしたがります。現在の典型的なVCファンドの規模は数億ドル程度です。4億ドルを10人のパートナーが投資する場合、各々が投資するのは4千万ドルです。VCは通常、資金提供する企業の取締役会に入ります。平均の取引規模が100万ドルだとすると、各パートナーは40社の役員になることになります。それは望ましくありません。ですからVCは大きな取引を好みます。大きな取引なら多額の資金がいっぺんに動くからです。

VCは多額の資金を必要としない投資先を、お得な投資先とは見なしません。むしろそうした相手は魅力的ではないと見なします。投資しても競合他社にとってあまり参入障壁とならないからです。

エンジェルの態度は異なります。自分の資金を投資しているからです。エンジェルは十分よいリターンが得られる見込みがあるならば喜んで少額投資をし、ときには2万ドルのような少額のこともあります。ですからあまり費用のかからないことをする場合は、エンジェル投資家のもとに行きましょう。

8. バリュエーション(評価額)はフィクションである。

VCはバリュエーションが人為的なものだと認めています。VCは企業が必要とする金額と自分たちがその企業の何割を欲しいかを判断し、その2つの要素から評価額が生まれます。

バリュエーションは投資規模が大きくなるほど増加します。ある企業がエンジェルから100万ドルの評価額で5万ドルを受けるとしても、その評価額でVCから600万ドルを受けることはできせん。それだと創業者には会社の7分の1以下しか残らなくなるからです(オプションプールもその7分の1から来るためです)。ほとんどのVCはそうしたことは望まないため、VCがプレマネーバリュエーション100万ドルに対して600万ドルを投資するというような話は聞かないのです。

評価額が投資の額に応じて変化するならば、評価額というものがいかに会社の何らかの価値を反映する代物ではないかがわかります。

評価額は作られるものですから、創業者の皆さんはあまり気にすることはありません。評価額は重視しないでおきましょう。実際、高い評価額は悪い事態を引き起こしかねません。プレマネーのバリュエーション1000万ドルで資金提供を受けてしまうと、2000万ドルで売却することはできません。VCが5倍のリターンを得られるようにするならば5000万ドル以上で売却する必要がありますし、たとえ5倍でもVCにとっては低いリターンです。おそらくVCは1億ドルまで粘ることを求めるでしょう。しかし高値で買収される必要があるということは、買収される可能性自体が減少するということです。1000万ドルで買ってくれる会社は多いでしょうが、1億ドルとなるとほんの一握りです。そしてスタートアップは創業者にとって成功するか失敗するかの2つに1つなのですから、創業者ができるだけ最大化したいのは良い結果となる確率であって、自分の会社の保有割合ではありません。

ではなぜ創業者は高い評価額を追求するのでしょうか? それは的外れの野心に惑わされているためです。評価額が高いほど、より大きなことを達成できたように感じるのです。創業者は大抵は知人に別の創業者がいるので、高い評価額を受ければ「うちの評価額は君のより高いぞ」と言うことができます。しかし資金調達が「本番」なのではありません。本当に重要なのは創業者にとっての最終結果であり、高すぎる評価額を得ることはよい結果を得る可能性を低くするだけともなりかねません。

高い評価額の利点はダイリューション(希薄化)が少なくなることです。しかしもっと地味な方法でそれを実現することもできます。受ける資金を減らせばいいのです。

9. 投資家は現在のスター創業者のような人を求めている。

10年前、投資家は次のBill Gatesを探していました。これは間違いでした、なぜならMicrosoftは非常に型破りなスタートアップだったからです。Microsoftの出発点はほぼ受託プログラミングと言って差し支えない事業でした。大企業になった理由はたまたまIBMからPCの規格が舞い込んできたからです。

現在、どのVCも次のLarryとSergeyを探しています。これはよい傾向です。LarryとSergeyは理想的なスタートアップ創業者に近いからです。

投資家は歴史的に、創業者がビジネスの専門家であることを重視してきました。そのため投資家が好んで資金提供していたのは、MBA(経営学修士)のチームが資金をプログラマーへの給与に充てて製品を作らせようとしているような場合でした。これはBill Gatesのようなプログラマーを雇ってくれることを期待してSteve Ballmerに資金提供するようなものです。過去のバブルの出来事が示したように、これではある意味逆です。現在ほとんどのVCは技術屋に資金提供すべきだと理解しています。このことは頂点のファンドの間では特に重視されています。一方、格下のファンドは今なおMBAに資金提供したがっています。

ハッカーの皆さんにとっては、投資家がLarryとSergeyを探しているということはよいニュースです。悪いニュースは、それをうまく実行できる投資家は、LarryとSergeyが自信に溢れたメディアスターとなった今ではなく、彼らがコンピューターサイエンスの大学院生に過ぎなかった頃に見出すことができた投資家だけだということです。投資家は未だに理解していないのは、偉大な創業者であっても最初は自信もなく不確かな存在に見えることがあるということです。

10. 投資家の貢献は過小評価されがちである。

投資家がスタートアップのためにしていることは資金提供だけではありません。投資家は取引の時に役に立ってくれたり、必要な人と引き合わせてくれたり、中でも特にエンジェル投資家等の頭のよい投資家は、製品に関してよい助言をしたりしてくれます。

実際、偉大な投資家と二流の投資家の違いは助言の質にあります。多くの投資家は普通の助言をしますが、最良の投資家は有益な助言をします。

とかく投資家がスタートアップに与える支援は過小評価されがちです。創業者がすべてを考えたと世界に思わせるのは、誰にとっても都合がよいことだからです。投資家にとっての目標は、企業の価値が上がることです。そしてよいアイデアがすべてその企業の中から生まれたように見えれば、企業にはいっそう価値があるように見えます。

メディアが創業者に対して抱いている幻想が、この傾向にさらに輪を掛けます。2人で設立した企業なら、アイデアの10%は1人目に雇った従業員から生まれるかもしれません。そうでないならば、雇用に失敗したとも言えるでしょう。しかしその従業員は、メディアではほぼまったく取り上げられることはありません。

創業者の一人として言うのですが、創業者の貢献は常に過大評価されていると私は思います。ここには危険があります。新参の創業者が既存の創業者を見て、彼らは自分が到底追いつけない超人だなどと思ってしまう可能性があることです。実際には、既存の創業者たちも舞台裏で何百もの異なるタイプのサポートメンバーに支えられているからこそ、あらゆることが実現できています。[3]

11. VCは悪く見られるのを恐れている。

多くのVCが実は大変臆病なのだということを知り、私は非常に驚きました。VCはパートナーに悪く見られるのを恐れているようです。おそらくはリミテッドパートナー、つまり投資資金を授けてくれている投資家たちに悪く思われることも。

VCが負いたがるリスクがどれほど低いかを考えれば、彼らがどれだけ恐れを抱いているかがわかります。VCは自分がエンジェルとしてなら喜んで投資するようなケースでも、ファンドの投資対象にはしません。ですがVCがリスクを取る気がないという言い方はあまり正確ではありません。VCは悪く見られるかもしれないことを避けているのです。それらは同一ではありません。

例えば、大半のVCは18歳のハッカー2人組が設立したスタートアップには投資したがりません。2人がどれだけ優秀であっても関係ありません。そのスタートアップが失敗した場合、パートナーがVCを非難して「何だと?私のX百万ドルを18歳の2人組に投資しただって?」と言いかねないからです。対して、VCが40代元銀行幹部の3人が設立したスタートアップに投資したとするならどうでしょう。3人は製品開発を外注する計画です。これは実のところ、本当に賢い18歳の2人組に投資するよりもはるかにリスクが高いと私には見えますが、そのスタートアップが失敗したとしてもVCは非難されないでしょう。明らかに分別ある投資をしたと見なされるからです。

私の友人が言っていたことですが、「ほとんどのVCは、年金基金を経営してるアホどもに悪く思われるようなことはできない」のです。エンジェルは誰にも釈明する必要がないので、より大きなリスクを冒すことができます。

12. 投資家に却下されても大したことはない。

創業者の中には投資家に拒絶されるとすっかり意気消沈してしまう人がいます。ですがそれほど真摯に受け止める必要はありません。まずそもそも、投資家はよく間違うものです。成功しているスタートアップで、どこかの時点で投資家に却下された経験がないようなところはなかなか思い浮かびません。GoogleもたくさんのVCに断られました。ですから、投資家の反応は明らかにあまり意味ある指標とはなりません。

投資家はしばしば表面的と思われる理由でスタートアップを却下します。以前読んだ話では、あるVCがスタートアップを断ったのは、単にそのスタートアップが細々とした株を大量に配っていて、そのせいで取引をまとめるのに大量の署名が必要だというだけの理由でした。[4] 投資家がこういう理由でも逃げ切れるのは、たくさんの取引を行っているからです。次のベストディールも同じくらいに良いだろう、と考えると、何らかの表面的な不備を理由に1つのスタートアップを過小評価しても問題ないのです。食料品店でリンゴを選ぶのを想像してください。手にした1個にはちょっとした打ち身があります。単なる表面的な打ち身かもしれませんが、他のたくさんの綺麗なリンゴから代わりを選べばよいのですから、その打ち身のある1個をわざわざチェックする必要はない、ということです。

投資家自身も、自分がしばしば間違えるということは率先して認めるでしょう。ですから投資家に却下されたとしても「自分たちはダメだ」と考えることはありません。むしろ「自分たちはダメなのか?」と問うてみましょう。断られることは問いを生み出すのであって、答えではありません。

13. 投資家は感情的である。

私が驚くのは投資家がとても感情的になることがあるということです。投資家とはクールで計算高く、少なくともビジネスライクな存在と思われているかもしれませんが、往々にしてそうではありません。投資家の立場から生まれる力がそうさせるのか、あるいは多額の資金が関係しているからなのかわかりませんが、投資の交渉はたやすく個人的な感情が絡むものになります。投資家の気分を害すれば、怒って去っていってしまうのです。

少し前にある著名なVC企業が、私たちがシードの資金提供をしていたスタートアップにシリーズAラウンドを申し出てきたことがありました。その後、ライバルVC企業も同じく興味を持っていることを知りました。このVCが恐れたのは、スタートアップがライバルの方を選んで自分たちを拒絶することです。そこでこのVCはスタートアップにいわゆる「時限爆弾式タームシート」(exploding termsheet)を与えることにしました。24時間の返答の猶予を与え、返答がない場合は取引をやめるというものだったと思います。時限爆弾式タームシートはあまり信頼できない仕掛けですが、珍しくはありません。私が驚いたのはそれについて話をしようとそのVCに電話をかけたときの反応です。私の質問は、もしライバル企業がスタートアップにオファーを提示しなかった場合、それでもこのスタートアップに関心があるかというものでした。回答はノーでした。どんな合理的根拠があればそんなことを言えるのでしょう? そのスタートアップに投資の価値があると思ったのなら、他のVCの思惑など関係ないはずです。当然ながら彼らのリミテッドパートナーに対する責任とは、単純に自分たちが見出した最善の投資機会に投資することだったはずです。他のVCがノーと言ったのなら喜ぶべきでしょう、なぜならそれはライバルがよい機会を見送ったということだからです。もちろん、このVCの決定には合理的根拠はありませんでした。単にライバル企業が却下したスタートアップを受け入れると思うのが我慢ならなかったのです。

このケースでは、時限爆弾式タームシートはスタートアップに圧力をかけるため(だけ)の方策ではありませんでした。むしろ高校生がやるような、自分が交際相手に振られる前に自分から振ってしまうという感じに似ています。以前のエッセイで私は、VCは高校生の女の子に似ていると書きました。いくつかのVCに笑われましたが、それに反論してきた人はいませんでした。

14. 交渉は契約締結まで終わらない。

投資でも買収でも、大半の取引には2つの段階があります。最初の段階でなされるのは大きな問いに関する交渉です。この段階がうまくいくとタームシートを手にすることになります。タームシートという呼び名は主要なターム(取引条件)が概述されていることから来ています。条件概要書には法的拘束力はありませんが、確実なステップではあります。条件概要書が提示されたということは、弁護士がすべての詳細を詰め次第、その取引が実現するものと見なされます。理論上はそうした詳細は些細な問題に過ぎません。定義上、条件概要書はすべての重要な事項をカバーするものだからです。

経験不足と希望的観測が結びつくと、創業者は条件概要書を手にした時に取引が成立したものと考えがちです。自分は取引成立を望んでいる、誰もが取引が成立したかのように振る舞っている、だから取引は成立しているのだ、と。でもまだ取引は成立していませんし、可能性としては何ヵ月間も成立しないこともあります。数ヵ月も経てばスタートアップにとっては大きな変化があります。投資家や買い手が考えを変えることも珍しくありません。ですからスタートアップは、取引が成立するまでの間ずっと努力を続け、買う気にさせ続ける必要があります。さもないと条件概要書の中で未確定のままだった「些細」な詳細に不利な解釈をされかねません。あるいは取引が破綻することすらありえます。その場合、先方は大抵規定の細かな部分を突いてくるか、あなたのせいで誤解が生じたなどと主張してきます。自分たちが考えを変えたことは認めません。

取引成立まで投資家や買い手に圧力を与え続けるのは難しいかもしれません。一番効果的な圧力は他の投資家や買い手との競合ですが、他の投資家や買い手はあなたが条件概要書を手にした時点で脱落する傾向にあります。そうしたライバル企業とはできる限り親密な関係を保つよう努力すべきですが、一番大切なことは自分のスタートアップの勢いを維持することです。投資家や買い手が選んでくれたのは、あなたのスタートアップが魅力的に見えたからです。あらゆることをして自分を魅力的に見せ続けましょう。新しい機能を発表し続けて、新規ユーザーを獲得し続け、メディアやブログの注目を集め続けましょう。

15. 投資家は共同投資を好む。

私が驚くのは、投資家が取引を分け合いたがっているということです。投資家がよい取引を発見したら全部独占したがるものだと思われるかもしれません。実際には投資家は積極的にシンジケートを作りたがっているようです。これがエンジェルであれば理解できます。エンジェルは小規模な投資をしており、1つの取引にあまり多額の資金を投入することは好みません。しかしVCもまた取引を大いに分け合うのです。なぜでしょうか。

ある意味では、これは私が前に述べた法則の産物であると思われます。トラフィック発生後、VCが一番気にするのは「他のVCがどう思うか」である、という法則です。多数のVCが関心を抱く取引は高い可能性で成立します。そのため、成立した取引には複数の投資家が関わるものが多くなります。

取引に複数のVCがいて欲しいと思うことには一つの合理的理由があります。共同投資する投資家がいることは、競合他社に資金提供する投資家が1社減ることを意味するからです。KleinerとSequoiaは明らかにGoogle取引の分割を好まなかったでしょうが、少なくともそれぞれの観点から利点がありました。それはお互いに、相手がおそらく競合他社に資金提供しないであろう、ということです。つまり取引を分割すれば、動物生態学における confusing paternity のような利点が得られるのです。(訳注:confusing paternity とは、オスが自分の仔ではない個体を殺すことを防止するため、メスが他のメスと共同で子育てするなどして、仔の父親が誰かわからなくなるようにする現象)

とは言え私が思うに、VCが取引の分割を好む主な理由は悪く思われることへの恐れです。別の会社が取引に加わったなら、その取引が失敗した場合でも分別ある選択だったと見なされます。個別のパートナーの単なる気まぐれではなく、複数が合意した決定だったということで。

16. 投資家は共謀する。

投資は独占禁止法の対象ではありません。どうあれ、それはよいことです。なぜなら投資も独占禁止法の対象だったとしたら、投資家はしょっちゅう違法行為をしていることになるからです。私が個人的に知っている事例では、ある投資家は別の投資家に競合するオファーから手を引くよう説得し、その代わりに将来の取引を分割することを約束しました。

原則的に投資家は同一の取引において競合するものですが、競い合う精神よりも協力する精神の方が強いのです。なぜなら、繰り返しになりますが、世の中にはたくさんの取引があるからです。プロ投資家と投資先の創業者との関係は、他の投資家との関係よりも親密かもしれませんが、創業者との関係はほんの数年しか続きません。それに対して他の投資家との関係は、プロ投資家のキャリア全体を通して続くことになります。投資家が他の投資家とやりとりすることで犠牲になるものはは特にありませんが、世の中に投資家はたくさんいます。プロ投資家は常にちょっとした助け合いをしています。

投資家が共同でやりたがるもう1つの理由は、投資家全体の力を保つためです。ですから少なくともこの文書を書いている時点では、投資家をシリーズAラウンドの競売に呼び込むことはできません。投資家にとっては取引を失う方が、VCが競い合って入札するような例を作るよりもマシなのです。効率的なスタートアップの資金調達のマーケットが遠い未来には生まれるかもしれません。その方向に向かう流れはあるようです。ですが、現時点では存在しません。

17. 大規模投資家は個別の企業ではなくポートフォリオを気にする。

スタートアップが上手く機能するのは、力を持つ人は全員、株の持分も所有するからです。誰かが成功するための唯一の方法は、全員が成功することです。これにより、誰もが自然に同じ方向に進むことになります。戦術的には意見の相違があるにせよ。

問題は、大規模投資家は厳密には同じ意欲を共有しないことです。近い思いはあったとしても、同一ではありません。創業者と違い、大規模投資家にとっては特定のスタートアップが成功する必要はなく、ただポートフォリオが全体として成功することを求めています。そのため境界線上のケースでは、大規模投資家にとって合理的な選択は、見込みのないスタートアップを犠牲にすることとなります。

大規模投資家はスタートアップを3種に分類する傾向があります。成功、失敗、そして「リビングデッド」です。リビングデッドとは、どうにか成り立ってはいるものの、近い将来に買収されたり株式公開したりする見込みのない企業を指します。創業者にとって「リビングデッド」は残酷に聞こえる言葉です。それらの企業は一般的な基準からすれば失敗とは程遠いかもしれません。しかしベンチャー投資家の視点からすると、成功する企業と同じくらい時間と世話を必要とする厄介な存在に思えます。そのような企業が2つの戦略案を考えているとします。1つは慎重な戦略で、最終的にうまくいく可能性がやや高く、もう1つは短期的にはリスクのある戦略で、大きな成功を導くか企業を破滅させるかのどちらかです。VCは後者のリスクのある戦略を要求します。なぜなら投資家にとってはその企業は既に役立たずに見えるからです。どんな結末になるにせよ、できる限り早く解決してしまいたいような。

スタートアップが深刻な危機に陥った場合、VCは救おうとはせずにポートフォリオのどこかの企業に低価格で売却することもあるでしょう。Philip Greenspunは『Founders at Work』で、Ars DigitaのVCにそういうことをされたと語っています。

18. 投資家には創業者とは別のリスクプロファイルがある。

多くの人は確率20%の1000万ドルよりも確率100%の100万ドルを選びます。ですが投資家には十分なお金があるので、合理的に20%の1000万ドルを選ぶことができます。そのため投資家は常に創業者に賭けをし続けることを推奨する傾向があります。企業がうまくいっている間は、投資家は創業者に大半の買収オファーを却下することを望むでしょう。そして実際、買収のオファーを断るスタートアップは最終的にはよい結果を見ることが多いです。しかしそれでも創業者にとってゾッとすることではあります、なぜなら最終的に無になる可能性もあるのですから。時価総額500万ドルのあなたの会社に、その価格で買収オファーがあったときに断るのは、500万ドルを手にして全額をルーレットのスピン1回に賭けるのと同じです。

投資家はこの会社にはもっと価値があると言ってきます。それは正しいかもしれません。ですが、だとしても売却するのが間違いであるわけではありません。例えばファイナンシャルアドバイザーが顧客の資産をすべて単一の非公開企業の株につぎ込んでいるとすれば、そのアドバイザーは資格を失うでしょう。

投資家はますます創業者に部分的な現金化をさせるようになってきています。これによって問題は是正されるはずです。多くの創業者は金銭感覚の基準が低いため、投資家にとっては大きな額ではないような金額でも、お金持ちの気分になります。しかしこの慣習はなかなか広まりません。VCが無責任と見られるのを恐れているからです。誰しも金を渡してから「くたばれ」と言われる最初のVCにはなりたくないのです。ですがこの慣習が実際に根付かない限り、VCは保守的に振る舞い過ぎていると私たちは思います。

19. 投資家は多様である。

私が創業者だった頃は、どのVCも同じだと思っていました。実際VCはまったく同じに見えます。VCは皆ハッカーが言うところの「スーツ」です。ですがVCと多くやり取りするようになってからは、一部のスーツは他のスーツよりも賢いことがわかりました。

VCの業界も、勝者が勝ち続け、敗者が負け続ける傾向にあります。過去に成功を収めたVC企業は、誰もがその企業からの資金提供を求めるため、新しい取引が選び放題になります。ベンチャーファンディングの市場に宿る自己強化特性により、上位10社が生きる世界は、例えば100位の企業の世界とはまったく異なります。上位10社の投資家は賢いだけでなく、冷静でまっすぐな傾向にあります。グレーなことに手を出さなくとも優位に立つことができますし、そんなことをしたいとも思っていません。なぜなら彼らには守るべきブランドがあるからです。

資金提供を得るべきVCは2種類だけです、選ぶ余裕があるとするならの話ではありますが。1つは「一流」のVC、つまり大体トップ20あたりの企業です。もう1つは新しいVCで、トップ20入りこそしていないものの、それは単にまだ長期間活動していないからという場合です。

ハッカーであればトップの企業から資金集めをすることは特に重要です。トップのVCは自信に溢れているからです。それはつまり、ビジネスマンのCEOを押しつけてくる可能性が低いということです。90年代のVCはそうしたことをしていました。あなたが賢く見えて、自ら経営することを望むなら、トップ企業はあなたに会社の経営を任せてくれます。

20. 投資家は、スタートアップが自分たちから資金を集めるのに要する負担に気づいていない。

資金集めは、スタートアップがそれに時間を割くことが最も難しい時に恐ろしく時間を食います。スタートアップが最低限の額を集めるだけでも大変です。資金調達のラウンドを終えるのに5ヵ月か6ヵ月かかることも珍しくありません。6週間なら早い方です。そして資金集めは単にバックグラウンドプロセスとして走らせておけばいいものではありません。資金を集めるときは、必然的にそれが会社の主な焦点となってしまいます。つまりそれは、製品開発が焦点から外れるということです。

あるY Combinatorの企業がデモデーの後でVCと商談を始め、見事にVCからの資金調達に成功し、比較的短い8週間で取引をまとめたと想像してください。デモデーまでには10週間を要しますから、その企業は現時点で18週目ということになります。その会社の存続期間の44%もの長きにわたって、資金調達が製品開発よりも重要な企業の焦点となってしまっていました。そして忘れないでほしいのですが、これは上手くいった例です。

スタートアップが資金調達のラウンドをまとめてから製品開発に戻った時、彼らには何ヵ月もの病から仕事に戻った病み上がりのように感じられます。彼らは勢いをほとんど失っています。

投資家はそれだけの時間がかかることによって、投資先の企業にどれほどの害をもたらしているのかわかっていません。しかし企業側は自覚しています。つまり、ここに新しい種類のベンチャーファンドの大きな可能性があります。低い評価額で少額を投資するけれども、取引の成立不成立をとても早く決定することを約束するようなファンドです。もしそうしたファンドがあれば、私は他の有名ファンドよりも最優先してそれをスタートアップに推薦します。スタートアップの命はスピードと勢いですから。

21. 投資家はノーと言うのを好まない。

資金調達の取引をまとめるのにこれほど長い時間がかかる理由は、主に投資家が決められないことにあります。VCは大きな会社ではありません。必要とあれば24時間以内に取引をすることもできます。ですが大抵の場合、イニシャルミーティングが2週間以上も引き伸ばされることになります。その理由は先程言及した選別のアルゴリズムです。大抵のVCはあるスタートアップが成功するかを予測してみようとはせず、既に勝利しているスタートアップをすばやく察知しようとしています。投資家が気にするのはあるスタートアップを市場がどう捉えているか、他のVCがどう捉えているかです。それらは単にスタートアップとミーティングしても判断がつきません。

投資家は(a)迅速に変化し(b)投資家にとって理解できないようなものに投資するため、多くの投資家は後からあれは却下ではなかったと言えるようなやり方で却下します。この世界を理解していない限り、自分が却下されたこともわからないかもしれません。以下はVCの「ノー」です。

「御社のプロジェクトには本当に興奮しています。開発をさらに進められる間、緊密に連絡を取り合いたいです」

より率直な言葉に翻訳すると、次の意味になります。「現時点では投資しませんが、御社が勢いづいてきたように見えてきたら考えが変わるかもしれません」。投資家はときにはもっと率直に、「もう少し手応えが見たい」と明言することもあります。その場合、投資家が投資してくれるのはスタートアップが多数のユーザーを獲得し始めたときです。ですがそれはどのVCも同じです。つまりあらゆる投資家が言っているのは、あなたはまだスタート地点にいるということです。

VCの返答がイエスかノーかを判断する目安があります。自分の手を見てください。タームシートを持っていますか?

22. 投資家は必要。

創業者の中には「投資家など必要なのか?」と言う人もいます。経験から言うと、その答えは「成功したいならば必要」です。ほとんどすべての成功しているスタートアップはある時点で外部の投資を受けています。

なぜでしょうか? 投資家は不要と思っている人が忘れているのはライバルの存在です。問題は自分に外部の投資が必要かということではなく、あなたにとって少しでも助けになるかということです。その答えがイエスの場合、自分が投資を受けなければ、投資を受けたライバルのほうが自分よりも有利になります。そしてスタートアップの世界ではほんの少しの有利が大きく膨らんでいきます。

Mike Moritzの有名な言葉として、Yahooに投資したのはYahooが競合他社よりも何週間かリードしていると思ったからだというものがあります。それは彼が思うほど重要ではなかったかもしれません、なぜならGoogleが3年後にやってきてYahooをやっつけたのですから。ですが彼の言うことにも一理あります。ときにわずかなリードが二者択一の正解を呼び寄せます。

スタートアップ創業の費用が安くなるにつれ、外部の資金提供なしで競争市場を勝ち抜くことも可能になり始めるのかもしれません。確かに資金調達は負担となります。ですがこの原稿を執筆している時点では、経験的証拠から言って、投資を受けても最終的に負担の元は取れます。

23. 投資家は自分が必要とされない状況を好む。

多くの創業者は会社を始めるにはまるで許可が必要であるかのように投資家に接近します。さながら入学試験のようです。しかしほとんどの会社は会社を始めるにあたり投資家は不要です。ただ投資家がいれば創業が容易になるというだけです。

そして実際に、投資家は自分が必要とされないことを大いに好みます。意識的にせよ無意識にせよ、彼らが喜ぶのはスタートアップがやってきて「電車が出発するけど、乗る?乗らない?」と言うような場合であって、「会社を始めるので資金をください」と言うスタートアップではありません。

投資家が一番好むスタートアップは投資家に対して厳しいスタートアップであり、その意味でほとんどの投資家は「マゾ」です。GoogleがKleinerとSequoiaに7500万ドルのプレマネーバリュエーションを押しつけたとき、彼らの反応はおそらく「痛い!気持ちいい!」だったことでしょう。でも、彼らの反応は正しかったでしょう? その取引はおそらく彼らがしてきた他のどの取引よりも儲かったのですから。

大事なことは、VCは人を見る目が優れているということです。ですから、あなたが本当に次のGoogleでもない限りは投資家に対して強がらないことです。そんなことをしてもすぐに看破されてしまいます。多くのスタートアップがすべきことは強がるのではなく、単純にいつでも予備のプランを持っておくことです。いつでも代替プランを開始できるようにしておき、特定の投資家にノーと言われたときに備えましょう。プランを持つことは、プランを必要とする事態への最良の保険です。

ですから、始めるのにたくさんのお金がかかるスタートアップは始めるべきではありません。投資家の言いなりになってしまうからです。最終的に多額の費用がかかることをしたい場合は、よりお金のかからない小規模なものから始めて、さらなる資金集めの段階になってから目標を拡大しましょう。

どうやら核戦争後に生き残る可能性が最も高い生物はゴキブリのようです。ゴキブリはしぶとくて、殺そうとしてもなかなか死なないからです。スタートアップの最初の目標は、まさにそれです。美しいけれど、茎を支えるのにプラスチックのチューブを必要とするようなか弱い花になるのではなく、小さくて、醜い、不死身の存在になりましょう。

 

 

脚注

[1] 私はVCを見くびっているかもしれません。VCはIPOの裏側で糸を引く役割を果たしている部分もあるかもしれません。その役割はシリコンバレーを作るには最終的に必要となります。

[2] 2、3社のVCはビジネスプランを受け付けるメールアドレスを用意していますが、この経路で資金提供を受けたスタートアップの数は基本的にゼロです。必ず個人的な紹介が必要です。それもアソシエイトではなく、パートナーへの紹介が。

[3]スタートアップスクールに参加した人の何人かによるとスクールで最も有益だったのは、有名なスタートアップ創業者に会う機会を得て、彼らがただの普通の人だと気づいたことだそうです。私たちは喜んでこのスクールを提供していますが、もちろんスクールでの講演を誰かに依頼する際にこのようなスクール紹介はしていません。

[4] 実際のところ、このVCはバイヤーズリモース(買い物後にそれでよかったのかと後悔する心理状態)になったために、規定の細かい部分を突いて取引から手を引いたように私には思えます。ですが言い訳としてはもっともらしく、さもありなんと思えるものでした。

 

草稿を読んでくれたSam Altman、Paul Buchheit、Hutch Fishman、Robert Morris、そして講演に招いてくれたASESのKenneth Kingに感謝します。

 

著者紹介

Paul Graham

Paul は Y Combinator の共同創業者です。彼は On Lisp (1993)、ANSI Common Lisp (1995)、ハッカーと画家 (2004) の著者でもあります。1995 年に彼は Robert Morris と最初の SaaS 企業である Viaweb を始め、1998 年に Yahoo Store になりました。2002 年に彼はシンプルなスパムフィルタのアルゴリズムを見つけ、現在の世代のフィルタに影響を与えました。彼は Cornell から AB を、Harvard からコンピュータサイエンスの PhD を授けられています。

 

記事情報

この記事は原著者の翻訳に関する指示に従い翻訳したものです。
原文: The Hacker's Guide to Investors (2007)

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