YCは生粋のソフトウェア業界のスタートアップにしか投資をしないと思っている人たちがいます。それは全くの見当違いです。これまでのYC最大のイグジットは自律走行車の会社、Cruise Automationですし、私たちは次のような他の多くのハードテクノロジー企業にも投資してきました。Gingko Bioworks Oklo, Helion, Rigetti Computing、 OpenAI, Perlara, uBiome, Verge Genomics, X-Zell, Athelas, Auro Robotics, Bagaveev, Boom, Gecko Robotics, Multiply Labs, OpenTrons, Varden Labs, Atomwise, Transcriptic, IronOx, 20n, Bikanta, Industrial Microbes, Cofactor Genomics 、その他多数の企業があります。
私たちはさらに多くのハードテック企業に投資したいと考えており1、YCがいかにハードテック企業の創業者の大きな助けになっているかについて説明したいと思います。
アーリーステージのさらに初期では、自律走行車の会社とファイル共有サービスの会社との間には実は一般の人が思うよりも多くの共通点があります。全ての種類のスタートアップは、一般的には、初期費用が少なく、イテレーションのサイクルが速い場合に、最大限に機能します。ソフトウェア業界のスタートアップが短期的なサイクルと低コストを極めるのは比較的に簡単ですが、ハードテック企業の創業者もまた、自分たちも予想以上に効果的にこれができることを知り、驚くことがよくあります。
多くのハードテック企業の創業者はアカデミアまたは大企業出身者です。それらの領域では、プロジェクトは高額で、成長は緩やかでした。私たちはそのような創業者が、迅速な行動のために反復的な考え方ができるよう、大きく転換する手助けをします。
かなりの頻度で私たちが最初にすることは、ハードテック企業の創業者に、自分が持っている大きなアイデアの中から、小さなプロジェクトを見つけてもらうことです。それは素早い反復のモデルに適合し、比較的に少額の資本金で済むようなプロジェクトであるべきです。このプロジェクトは彼らのテクノロジーのうち、依然として一部のユーザーや顧客にとっては重要なものの中で、最も小さなサブセットであることが多いです。それは一見して遠回りのように見えますが、創業者が重要なモメンタムをつかむことのできるスタート地点となります。そのモメンタムとは、自分たちのモメンタム、従業員の募集を後押しするモメンタム、投資家を引きつけるモメンタムです。
私たちはスタートアップに対して、小さく始めることを奨励していますが、その一方で、創業者が物事を大きく考えるのが好きです。私たちは必要ならば、彼らがどうやってテクノロジの開発をすれば、大きな影響力を持つほど会社に成長させられるのか、長期計画で考える手助けをします。YC出身企業ではありませんが、この小さなプロジェクト+長期計画の姿勢がいかに力強いものであり得るかを示す私のお気に入りの例はTeslaです。彼らの展望は常に、大衆が手にすることのできる電気自動車を誕生させようとするものですが、彼らが最初に作った車はロードスターでした——大衆市場の自動車とは正反対です。Model Sに着手するための収益を出すためです。そして、Model SはModel 3に着手するための収益を出しました。
次世代型の原子炉を建設しているOkloはYC出身の将来有望な例です。彼らが最初にYCを訪れた時には、いくつかの全く異なる市場を同時に追いかけることを検討していました。私たちは、すばやく参入できる1つの市場に焦点をあて、一度に多くのことをしようとしないように勧めました。ただしそれと同時に、視野を広げ、自分たちのインパクトを最大化できるような将来を見越して考えることも勧めました。
経費の観点では、ハードテック業界のスタートアップができる限り効率的な運営をすることができるよう、私たちは手助けしています。インターネット業界のスタートアップを爆発的に増加させた1つの要因は、ウェブ・ホスティングが加速度的により安価で容易になったことです。これが今、ハードテックに起こっています。バイオテック、エネルギー、ロボット工学、それらの中間にあるすべての分野のスタートアップにとって、以前に比べてはるかに多くの標準的なコンポーネントとサービスが、はるかに安価な費用で利用可能です。私たちは、できるだけ早く最初のバージョンとソース・コンポーネントを作り出そうと試行錯誤する創業者を支援します。そして私たちは、皆さんが必要に応じて利用できるよう、サプライヤーやサービス提供者との取引を重ねてきました。
ハードテック業界のスタートアップはすばやく行動する必要性と、複雑な規制環境との間でバランスを取ることを求められますが、これについても私たちは手助けをしています。ハードテック業界のスタートアップは、厳しく規制された市場で業務を行なっていることがよくあります。規制の障壁を克服するために必要なアクティブなエネルギーが、彼らの多くを廃業させています。とはいえ、最も規制の厳しい業界であっても、皆さんの仮説をすばやく検証する道はあります。私たちは、トラブルに巻き込まれることなくこれに取り組むための最善の計画を探す手助けをします。
もし適切であれば、ハードテック業界のスタートアップが顧客を探す手助けをします。これが意味をなさないスタートアップもあります。一部のアイデアについては、もしテクノロジーがうまくいけば、人々が明らかに欲しがるようなものであり、その場合、顧客を探すことはそれほど優先順位が高いことではないことは明らかです。しかし、他のスタートアップにとって、顧客を探すことは、先述の最小の有益なプロジェクトを見つけ出すための、および/ または、さらなる機運をつかむための有益な方法となり得ます。
バイオテックを用いてカスタム・マイクローブを提供しているGingko Bioworksは、そのよい例です。YCと関わるまでは、最長で6ヶ月のセールスサイクルを持ついくつかの大きな取引をしていました。しかし、YCに取り組み始めた彼らに私たちが勧めたのは、さらにすばやく販売するための最小規模の取引をする方法を案出することです。YCにいた期間、彼らはこの戦略をとり、3つのフォーチュン1000規模の顧客を獲得しました。彼らによれば、この戦略が彼らに機運を与え、彼らは成長し続けて現在に至ることができました。
ハードテック企業は、私たちが投資するすべてのスタートアップと同様に、同じ3ヶ月間のバッチという形式を経験します。取り組んでいる内容にかかわらず、最終的には、短くて中身の濃いこの期間で、やる気に満ち、他の創業者と親しくなります。バッチの間、ハードテック企業の創業者には、ハードウェアおよびバイオテックの日というものがあり、その日には関連企業が集まり、成功した創業者から自分の具体的な問題に対処する方法について話を聞きます。
ハードテック企業はまた、私たちの関わった他のすべてのスタートアップと同様に、3,000人以上からなるYC同窓生のネットワークに参加します。このネットワークは、他のスタートアップと同じように、ハードテック企業にとっても有益です——同窓生は、助言や従業員募集のリソースであり、最初の顧客の役割も果たします。例えば、アウトソーシング科学実験のためのロボットラボを運営しているTranscripticは、そのサービスの利用を望んでいるすべてのYCのバイオテック企業に2万ドルの資金を提供しています。このことで、他のYCカンパニーの支援をするだけでなく、彼らを顧客にすることにもなります。顧客の事業が拡大するにつれて、Transcripticも成長することができます。
同窓生と同じバッチの同僚はまた、精神面での支援を与えてくれます。私たちはハードテック企業の創業者から、スタートアップがいかに孤独になり得るかを聞いています。他の業種よりもその傾向は強いです。問題は困難で、報酬の支払いまでに非常に長い期間がかかる可能性があります。同じ苦難を経験している創業者の集団がいることが大変な救いになります。
最後になりましたが、私たちはとくに、ハードテック企業の資金調達の手助けをするのが得意です。ハードテック企業の創業者にとって、資金調達がとくに困難になってしまうことはよくあることです。彼らが取り組んでいる内容が、投資家にとって馴染みのない分野であることがよくあるからです。しかしいまや、多くの投資家が、YCの判断を好意的に受け止めます。YCの支援を受けているという事実には、難解なアイデアをより受け入れやすいものにする効果があります。
私たちは将来的にさらに多くのハードテック企業に投資をしたいと望んでいます。そして、もし皆さんが取り組んでいることがあったら、あるいは、単にアイデアが思い浮かんでいるだけでも、今すぐ応募してくださることを願っています。応募がやむを得ず遅くなるとしてもです。将来的には10億ドル以上のハードテック企業が多数出現するでしょう。それらがスタートを切るために、私たちはさらに多くの手助けができることを望んでいます。
1 私は、テクノロジーがそもそも確立し得るものかどうかの疑いの余地がある場合に、スタートアップを「ハードテック」と呼んでいます。
著者紹介 (本記事投稿時の情報)
Sam Altman は OpenAI のCEO であり、Y Combinator のアドバイザーです。彼は 2014 年から2019年の間、YCの社長でした。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Hard Tech Startups (2016)