隠れたネットワーク効果:ネットワーク効果のように見えないネットワーク効果について

インターネット時代を代表する重要なプロジェクトの多くは、 WikipediaからFacebook、bitcoinに至るまで、ネットワーク効果を前提として成り立っています。ネットワーク効果とは、利用者の増加に比例して、利用者にとってのネットワークの価値が上がるというものです。

結果として、私たちはネットワーク効果の分析日本語訳)と測定日本語訳)が非常に得意になりました。顧客獲得単価の軽減、流動性の向上、継続性の改善のいずれであろうと、強力で耐久性のあるネットワーク効果を特定する評価基準の開発はかなり進んだようにみえます。

そして、多くのタイプの企業にとって、これは真実です。標準市場、決済ネットワーク、多くのソーシャルプラットフォームを、これらのツールを用いて簡単に詳しく分析することができます。

けれども、多くの企業にとって、慣習的な枠組みが崩壊しているのもまた真実です。

強力なネットワーク効果が起こっている(または、これから起こるであろう)会社は数多くありますが、標準的な評価基準ではわからないでしょう。それらの数値は、ネットワーク効果の測定、追跡、さらには特定にすらも、役には立ちません。

これらの企業のネットワーク効果は本物です。ただし、目の前にあるのに隠れている状態なのです。

ではなぜこれが重要なのでしょうか。ネットワーク効果のようには見えないネットワーク効果が起こっている会社は、ダイヤモンドの原石です。ネットワークの評価が困難なため、そのネットワークは短期的には過小評価される可能性があり、長期的には不釣り合いなほど強いのです。

見るからに優れたアイデアは選別と激しい競争の対象となるので、スタートアップにとっての最善のアイデアは、最初はとてもひどいものに見えるような優れたアイデアであるのと同じです。最強のネットワーク効果が起こっている会社の中には、最初は強力なネットワーク効果があるようには見えないという、まさにその理由により、強力なままでいる会社もあります。

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ネットワーク効果らしくないネットワーク効果を手にすることにより、会社を長期的成功へと方向づけるかもしれない独特の優位性を創出することがあります。

最も重要なことは、これがいかに競争関係に影響するかです。創業から間もない時期にネットワークの価値が定量的に測定しにくい場合は、その集団と市場が注目を浴びる可能性が低くなり、類似製品を構築し、ネットワークを重複させようとする模倣者の数も少なくなります。これによって創業者には余裕ができ、自社の製品とネットワークを効果的で持続可能、かつ、安全な方法で構築することができます。

ライドシェアやレストランの宅配の会社が、競争が始まるまでに何年もかけて自社のネットワーク(および自社の競争優位性)の構築を完成させる余裕があったとしたら、どのようになるかを想像してみてください。

見えないネットワークには独特の利点がある一方、創業者の舵取りを必要とする特別な問題もあります。理論上のネットワーク効果を根拠とした資金調達は、データを根拠とした資金調達よりも困難ですし、見渡さなければならない期間がより長期的で、不確かになることが多いです。またネットワーク効果の最終的な強みというのは、より漠然としている可能性があります。

では、見えないネットワーク理論とはどのようなものでしょうか。ネットワークのようには見えないネットワークの例をここに3つ(ほど)挙げます。

1) 緩慢なネットワーク

緩慢なネットワークとは、ネットワークが構築されてから価値が見えるようになるまでの時差で定義されます。

緩慢なネットワークでは、大抵の場合、製品使用期間が長く、かつ / あるいは、製品使用頻度が低く、ネットワーク効果の勢いを弱めます。迅速性のあるネットワークと比較すると、利点がすぐに見えないので、人々は緩慢なネットワークを過小評価します。

緩慢なネットワークでは、会社自体が急成長したとしても、ネットワーク効果が目に見えるようになるまでに何年もかかる可能性があります。現に、非常に急速に成長した企業の中には、現在、緩慢なネットワークを持つものもあります。

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Lambda Schoolを例に挙げてみましょう。Lambda Schoolは、エンジニアの総合教育プラットフォームで、現在、最も急成長を遂げているスタートアップの一つに数えられます。所得共有契約(ISA)によって資金調達されているコーディング教育プログラムを提供しており、卒業後の就職活動支援にも取り組んでいます。

Lambda Schoolのネットワーク効果は、理論上は容易に理解できます。多くの(かつ優秀な)学生を獲得すればするほど、Lambda Schoolは (1) 卒業生の雇用を望む雇用者を探しやすくなり、(2) 卒業したばかりの卒業生が頼り、学び、雇用してもらうことができるような同窓生のネットワークを深めることができます。このフライウィールモデルは、ファネルの上により多くのより優秀な生徒を呼び寄せ、結果的に、その先により多くのよりよい雇用者を呼び寄せます。

ネットワーク効果は大成功に結びつきます、そうでしょう?

さて、Lambda Schoolは30週のプログラムを提供しており、卒業後は仕事が見つかります。雇用者側がさらに数ヶ月をかけて、初めての Lambda卒業生の雇用がよい結果になるかどうかを見極めると想定してみましょう。この時点で、結果を得るための所要期間の1つが終わるまでに既に約1年かかっています。将来性のある入学予定者は、そのような卒業生の体験談を耳にしますが、入学が可能になるまでにはさらに数ヶ月が必要になるかもしれません。その時点で、1つの所要期間が終わってその価値が別の雇用者にわかるようになるまでには、さらに 7~10ヶ月がかかります。

Lambda Schoolのネットワークの真価が見え始めるまでには何年もかかります。これが、緩慢なネットワークが機能する仕方です。

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緩慢なネットワークの利点は、通常は、ひとたび構築されれば、非常に消滅しにくいということです。一流大学は、何百年もかけてネットワーク効果を構築しました。その終わりを定期的に予測されてはいても、これらのネットワーク効果に弱体化の兆候はないように思われます。

緩慢なネットワーク効果の別の例にはソーシャルレンディングがあります。私は共同創業者と一緒に、ソーシャルレンディングのプラットフォームであるFrankを始めましたが、創業当時、私たちは、強力なネットワーク効果を手にするだろうと推測していました。私たちは、お互いにお金の貸し借りをする人々のネットワークを構築しようとしていたので、プラットフォームでお互いのユーザーが人のつながりをたくさん作るほどに、プラットフォームの価値は高まっていきます。

わかりやすいネットワーク効果でしょう?

借金は比較的頻度が低い(私たちのサービスの利用者では3年間隔)行動なので、ノードがネットワークに追加されてから追加されたノードが他の利用者に価値をもたらすまでの間には何年ものズレがありました。スタートアップにとって3年間というのはあまりにも長い時間です。種を撒いていた間の、緩慢なネットワークを抱える私たちの最大の挑戦は、その種が花を咲かせるのを見る日が来るまで生き残る方法をひねり出すことでした。

融資と教育の分野には緩慢なネットワークがよく見られますが、これは、明らかに雇用、医療、不動産など、他の分野にも該当します。これらの分野は結果を得るための所要期間が長く、利用頻度が低いものです。

緩慢なネットワーク効果があるかどうかの判断は、科学というよりも技術に近いです。これらの企業は、創業から間もない期間は、ネットワーク事業ではなく、線型事業のように見えることがよくあります。けれども、数値上はネットワーク効果型事業のように見えない場合でも、たんに緩慢なネットワークである可能性があります。よい判断方法として、(1) ネットワーク効果型事業の特徴をすべて備えている(ノードが増えるほど製品価値が上がる)、(2) 製品の成果を得るまでの所要時間が長いか、または飽和にいきついていない、という二つの条件を確認します。もし該当するなら、より詳しく見る価値があります。

緩慢なネットワークであると特定したら、創業者、社員、投資家、利用者の全員が、ネットワークが結実するために必要な忍耐強さとリソースを持っていることが重要です。緩慢なネットワークが失敗する場合、その原因は、効果がないからではなく、会社がすべての経過を見届けるまで待てないからなのです。

2A) 完結していないネットワーク

完結していないネットワークとは、製品特性または戦略的決断がネットワークを物質面で一時的に不完全な状態にしているものです。ただし、ネットワークが最終的に完結すれば、ネットワーク効果は直ちに明らかになります。

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未完の輸送ネットワーク🙂

完結していないネットワークは、緩慢なネットワークのように、ネットワーク効果を封じ込めることになりますが、どのような分析または測定基準でもわかりません。

完結していないネットワークの数年前の成功例として、OpenTableがあります。創業当初は、ネットワーク効果型事業というよりは、 SaaS事業のように見えました。レストランはOpenTableに対して月額200ドルを支払い、オンラインで予約を受け付けてもらい、また、自店のウェブサイトにOpenTableのウィジェットを組み込んでいました。

非常にわかりやすい事業です。ここには間違いなく、ネットワーク効果など全く見当たらないでしょう?

OpenTableは、十分な数のレストランを集める過程で、同時に自らを、利用者が最も簡単にレストランを見つけることのできる場にする契機を作り出したのです。ひとたび十分な数のレストランを集めたら、消費者のレストラン探しに役立つウェブサイトやアプリなど、消費者向けの製品に投資することができるようになりました。このようにしてネットワークを完結させました。より多くの利用者 = より多くのレストラン = より大きなネットワーク効果、というわけです。

ちなみに、OpenTableは、創業からの5年間は主にレストランから契約をとりつけることに時間を使いました。消費者向けの製品が利用可能になってネットワークが完結するまでに、どのような地域であっても、近隣のレストラン数の約10%の契約が必要でした。

創業当初のOpenTableのネットワーク効果を額面通りに受け止めると、「木を見て森を見ず」になっていたでしょう。

問題は、当然のことながら、完結していないネットワークがしばしば未完に終わることです。スタートアップの墓場は、スイッチを押してネットワークを完結させることができると思っていたけれどもスイッチを押せなかったという会社で溢れています。これは、ネットワークの完結する側が供給側である場合は特に危険です。ほとんどの事業および労働者は、事業を活性化させるものであれば何でも契約します。ですから、自分がネットワークのどの部分を構築したのか、そしてネットワーク全体を完結させることがどれほど難しいかを理解することは不可欠です。

要となる不確定要素は、ネットワークの欠損している側に突発的な行動があるかどうかです。そこで利用者はあなたの製品を利用しようとしているでしょうか。ネットワークを完結させようとしているでしょうか。もしそうなら、あなたは完結していないネットワークを持っている可能性が高いです。

2B) 抑制作用のあるネットワーク

抑制作用のあるネットワークとは、製品特性または戦略的決断が物質面でネットワークの規模または定着化を制限しているものです。そのため、ネットワーク効果の強みが覆い隠されています。

小規模を維持している点では、完結していないネットワークの仲間ですが、完結していないネットワークが不可欠要素を欠いているのに対し、抑制作用のあるネットワークは、完結してはいるものの、制限されています。抑制作用のあるネットワークは、完結していないネットワークのように、ネットワーク効果に限界があるように見えます—— ある時突然、状況が変わるまで。

ひとつの例として経営者ネットワークがあります。Chiefは女性のための経営者ネットワークです。経営幹部レベルの女性に絞ったYoung Professionals Organization (YPO)のようなものとして考えてください。まだできたばかりですが、Chiefの会員権は主に次のことを中心にして体系化されました。つまり、(1) 月例コーチングセッション / 集団討論会と、(2) サロン形式で行われる一連の催し物や座談会です。

これらは明らかに堅固で価値のあるネットワークを構築しようとしているものです。ふさわしい女性の参加が増えるほど、この共同体の価値は高まります。けれども、従来の測定基準では何もわかりません。

ネットワーク効果型事業では、顧客獲得単価の縮小が期待できます日本語訳)。しかし、Chiefは現在、国際的に会員権を制限している(彼女らは参加者を選別し、資格を与えており、大勢が待機しています)ので、その顧客獲得単価はネットワーク効果の重要な指標ではありません。また、ネットワーク利用の定着化が進み、ネットワーク効果を目にすることが期待できます日本語訳)。しかし、それらの利用の定着化のモデルは、現在、毎月1回程度のグループセッションに固定されているため、定着化が勢いを増す余地はありません。応募者 / 会員の質や顧客推奨度で先行指標を確認することもできますが、これらは不確かで不完全な尺度です。

短期的には、Chiefのネットワーク効果は存在していないように見えます。けれども長期的には、ネットワーク利用の定着化の促進、ネットワークの価値に応じて上昇する価格、さらには厚くなった会員層によって、Chiefは自らのネットワークの価値を明確にできるかもしれません。自らのネットワーク効果が最終的にどのようなかたちをとるかは、創業者が自社製品にとって何がもっとも上手く機能すると信じているかに左右されます。しかし、そのような可能性を見出すのは難しいことではありません。

Facebookは創業当時、いくつかの点で、抑制作用のあるネットワークでした。初期の利用者は、ハーバード大学の電子メールアドレスを持っていなければ参加できませんでした。これが組織的に.eduのついた電子メールアドレスを持つ他の人たちに拡大し、最終的には誰もが参加できるようになりました。これが抑制作用のあるネットワークの定義です。Facebookはサイト利用の制限をしませんでした(これによりネットワーク効果は若干わかりやすいものでした)が、意図的にネットワークの範囲を限定していました。

抑制作用のあるネットワークと限定的なネットワークの区別は重要です。抑制作用のあるネットワークが小規模なのは、ある意味において、一時的な状態です。価値を差し出すことでさらに大きなネットワークを支えることができますが、そうなっていないだけです。これとは対照的に、限定性に依存するネットワーク(RayaなどのデートアプリやSoho Houseなどの会員制クラブの2つの例が限定的なネットワークに該当します)のネットワーク効果には上限日本語訳)があります。

抑制作用のあるネットワークは、時として、創業者の意図的な決定や事業における一時的な技術上または運営上の拘束、さらには短期間の行政監督によって、小規模な状態が続きます。時には意図していない場合もあり、ネットワークは実行のずさんさや脆弱な技術によって抑制されます。ネットワークを抑制している原因が対処できそうならば、これは通常はよい兆候であり、そのネットワークの実態が非常に価値のあるものであることを示しています。

それが強力なネットワーク効果を持つ抑制作用のあるネットワークであるかどうかを区別する判断方法は、とてもわかりやすいものです——これらの拘束(価格、ネットワークの拡大、利用の定着化など)のひとつ、あるいは複数が解放された場合に何が起こるかを理解することです。そうすることの効果が好ましいものか、あるいは、少なくとも悪くないものであれば、それは解放されるのを待っている抑制作用のあるネットワークである可能性があります。

3) 可能性を秘めたネットワーク(またの名を「ネットワークに惹かれて訪れ、ツールが目的でとどまる」ことをさせるネットワーク)

多くの会社がネットワークを構築する前にツールや製品を完成させています。
Delicious(ブックマークサービス)やInstagram(フィルター機能)は、「ツールに惹かれて訪れ、ネットワークが目的でとどまる」(日本語解説)ことをさせる企業の古典的な例です。しかし、実際の製品やツールを完成させる前にネットワークを構築する企業もあります。これを「ネットワークに惹かれて訪れ、ツールが目的でとどまる」ことをさせる例としてとらえてください

これらの企業は特に群を抜くものである可能性があります。なぜなら、競争には間に合わない段階になるまで、誰もそれらの企業が行なっていることの力強さを理解しないからです。

その構想は、ネットワークのように作用する共同体の構築から始めるというものです。そこでは利用者が交流し、関わりを深め、全体として相互に価値を創出します。最終的に製品が導入され、これにより、ネットワークの利用の定着化のあり方に変化を促すか、あるいは、定着化を倍増させます。製品が登場するまでは、ネットワークを評価したり、資金化したりするものは何もないので、本当の意味でこれらのネットワークの強みや可能性を知ることは難しいかもしれません。

やり手のゲーム開発者は何年もこの筋書きに従ってきました。試すゲームがない時でも、彼らはDiscordサーバーを設定し、共同体とゲーマーのネットワークの構築に役立てるでしょう。最も重要なことは、このことで、ゲームができるようになった時には活気に満ちたエコシステムが確実に存在するようになるということです。他のプレイヤーの存在が、はっきりと使用体験を改善するソーシャルゲームにおいて、これは重要なことなのです。強力な共同体を構築して事業を始めた2つの例として、HypixelPhoenix Pointがあります。それらの共同体は結果的に、ゲームの最上層に位置付けられるネットワークになりました(もしくはそうなるでしょう)。

可能性を秘めたこれらのネットワークは、予想するのも実行するのも最も難しい「見えないネットワーク効果」です。これらの共同体は、実のところ、可能性を秘めたネットワークというよりは、観客なのです。つまり、利用者はネットワークではなく、中心的なノードから価値を引き出すのです。それが単なる観客であるなら、ツールや製品はネットワーク型ではなく、線型事業のように拡大することになります(たとえばDTC製品)。製品不在のネットワークを観客と区別するのは非常に困難です。多くの著名な起業家はそれぞれ、自分には互いに定着化を望んでいるネットワークがあったと信じてきましたが、実際に自分が持っていたのは、大好きな著名人と繋がりたいだけの観客だったと気づきます。

では、可能性を秘めたネットワークが活性化を待っていると識別する判断基準は何でしょうか。ネットワークは定着するのに対して、観客は消費します。ネットワークの利用者が互いに関わりを深めているか、それとも、単に中心的なノードと関わりを深めているかを確認してみましょう。この共同体に誰かが新規に参加した時にさらなる価値を手にするのは誰であるかを自問しましょう。その答えが共同体を構成する全員(あるいは何人か)ならば、それはネットワークです。単に中心的ノードならば、それは観客です。

見えないネットワークは見えない優位性

見えないネットワークは、独自の課題を抱える一方で(主に、より多くの忍耐、確信、資本が必要である場合がよくあります)、私の意見では、過小評価されるタイプの会社です。誰もが、そうした会社を創業したり、そうした会社へ投資したり、そうした会社で働いたりすることを考慮に入れるべきです。

要するに、ネットワーク効果型事業の確立は本質的には競争です。企業は競争相手よりも先にあの魔法の転換点に到達しようとしています。それこそが、自社のネットワーク効果に賭ける起業家にとって、見えないネットワーク効果が大きな利点となり得る理由なのです。

競争が始まっていると誰も気づかないうちに走り出した状況を想像してみてください。それが見えないネットワークの利点です。

 

著者紹介

D’Arcy Coolican

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Hidden Networks: Network Effects That Don’t Look Like Network Effects (2019) 

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