プロダクトを作る方法 IV (Startup School 2017 #08)

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Sam
今日のスピーカーとして、Jan Koumに来ていただいています。 JanはWhatsAppの創業者です。 Whatsappは、前回触れたように、すべてのことを正しく実行したスタートアップです。

JanとBrianのどちらもFacebookに就職しようとしてうまくいかず、そのあと努力して人々が本当に望んでいたプロダクトが何かを探し当てました。そしてシリコンバレーの他のすべての人がカンファレンスに出席し、PRをし、人々が本当に好きになるプロダクトを作る以外のことをしている一方で、WhatsAppは、静かにこのプロダクトを開発していました。買収の時点で何人のユーザーがいたのですか?

Jan Koum
4.5億人です。

Sam
コンシューマー向けアプリケーションで4億5,000万人、現在では10億人以上になっています。WhatsAppは数年前にFacebookに買収されました。Janにその話をしていただきます。Jan、来ていただいて非常に感謝しています。

Whatsapp 創業のストーリー

Jan Koum
ここに来られて光栄です。Samにここで話すように頼まれたとき、クラスに出かけるのでなく実際にプロダクトを作る人について話そうと思う、などスマートな人っぽいコメントをしたと思います。しかし、Samが言及したように、私たちはラッキーで、人々が本当に望むものに偶然行き当たっただけです。

このあとすぐ私たちがどのようにそこにたどり着いたを説明しますが、全ては自分たちのアイデアが素晴らしかったからではなく、適切なタイミングで、適切な場所にあり、人々が望むプロダクトを作り、人々がそれを望んでいることを認識できたおかげです。ですから、どのように今いる場所に到達することになったのかの経緯をお伝えしようと思います。

Yahoo での共同創業者との出会い

私と共同創業者のBrianは双方Yahoo出身で、私は9年間、彼は11年間働いていました。そしてその時間は、バックエンドサーバーの規模を拡大する方法、良いプロダクトの要素、悪いプロダクトの要素、Yahooが企業としてどのように成功したか、それからどうなったかを学べたという、本当に本当に貴重でした。私たちは2007年にYahooをやめました。偶然にも、だいたい同じタイミングで会社をやめたのです、1ヶ月の差ほどで。

それから休暇を取りました。1年くらい休みましたね、2008年は休暇にあてました。彼はニューヨークにガールフレンドと一緒に引っ越し、私はただ、だらだらしていました。 一方で私は自分のNokiaの携帯に夢中になっていました。

私はこの素晴らしいおもちゃを持っていました。型番は6610だったと思います。そのSIMロックを解除して、ネットワークモニター・ソフトウェアをインストールしました。これは接続していた携帯がなにかを表示してくれるもので、また箱から新品を取り出したときにできなかったその他様々な応用的なことを可能にしてくれました。

それで、2008年の終わりに、私は旅行に行きました。私はアルゼンチン、ロシア、ウクライナ、ハンガリー、イスラエルやほかの多くの国々に行きました。私は2〜3ヶ月間ごとに行ったり来たりしていましたが、その間に本当に大変だと感じたのは、友達と連絡を取り合うことでした。とくにアルゼンチンで。ここにアルゼンチン出身の方もしくはアルゼンチンに行ったことのある方がいるかはわかりませんが、あ、そこに一人いますね。

国番号は何でしたっけ?電話をかけるのがすごくややこしいですよね。私にはさっぱりわかりません。私たちがアルゼンチンにいたときに、電話をかけてもらったり、自分から電話をかけたりするのは複雑で、私はその国用のSIMカードを手に入れましたが、どうやって相手に電話をかけてもらったらいいのかわからないくらいでした。ややこしい国番号や電話番号の前に足す番号に「あぁ、もう」となりました。

iPhone の開発環境を作ってみるところから始まる

そうして2008年が終わり、2009年1月、私の誕生日は2月で、自分自身に早い誕生日プレゼントをしようと考えていました。それで私はAppleストアに行きiPhoneを買いました。ちょうどSDKが出てきた頃でした。

2007年にiPhoneが初めて登場したときはSDKがなかったと思うんですが、2008年9月にリリースしたと思います。だから、iPhone、いえiOS SDKが出てから3〜4ヵ月後に iPhoneを買って、色々試し始めたんです。私はまた本当に退屈していたし、自由な時間もたくさんあったので、「よくわからないXcodeとやらをインストールしてみよう」と思いました。

幸い私はMacを持っていたので、 Xcodeをインストールし、何ができるかを考えてみよう、簡単なアプリケーションを作ってみようとおもいました。そこで気づいたのです、なんてこった、完全にインターネットに接続できる、と。さらにTCP / IPスタックも完全に行うことができる、言うなればサーバー通信できる小さなコンピュータなのだ、と。それがわかり、いいじゃないか、これで何をしようか、と考えました。

ステータスの表示をするだけのアプリ

私たちが開発した最初のものは、WhatsAppの歴史を何人の方が知っているか分かりませんが、「ステータス」のコンセプトです。もしかしたらみなさん若すぎるかもしれませんが、このコンセプトは、AOL、AIM、ICQ、IRCなどのプロダクトを使用したことがあれば、見たことがあるはずです。例えばYahooメッセンジャーのステータスは「離席中」、「取り込み中」、「ミーティング中」などです。

メッセンジャーを使ったときに最初にやることは、最初のメッセージは、 「今オンラインですか?」と聞くことでした。ICQ上の誰かと会話を始めるため、もしくはIRCで誰かにプライベートメッセージを送ろうとするときにまず最初に送るメッセージがそれだったんです。離席中の場合もあり、そういうときはコンピュータの近くにいません、離席中です、などのステータスを使っていました。

つまり、アイデアとしてはこのようなステータスの概念を電話に適用しよう、ということだったのです。相手があなたに電話する前に、あなたのステータスを確認します。あなたは忙しいかもしれませんし会議に出席しているかもしれませんし、また移動中かもしれません。電話を取らないとき、少なくとも相手はなぜ電話を取らないかがわかります。それが言うなればWhatsApp アプリケーションのバージョン1.0でした。

電話帳のAPIに気づく

私たちが構築したのはアドレス帳にひもづけられたアプリだったので、私たちの有利に働いたのは、電話にアドレス帳のAPIがあったことでした。デスクトップ上にはないですよね。 2000年から2008年くらいのWindowsのようなデスクトップについて考えると、アドレス帳をデスクトップに置くことはまずありません。いつも携帯電話の中に皆アドレス帳を持っていました。

したがって、APIが存在していたとしても、これらのデバイスすべてでアドレス帳データベースが空だったら、参照するものがなかったでしょう。幸運なことに、Appleがオープンにしたことの1つが、アドレス帳のAPIでした。

私たちがしたことは...私たちは、アドレス帳を調べて、そうすることであなたのアドレス帳の連絡先が別のWhatsAppユーザーであるかどうかわかるようにしました。それが基本的なステータスの仕組みです。

アプリが電話番号を取得し、それが外国の電話番号だった場合は、それを+を頭につけた形にフォーマット化します。のシステム内のすべての電話番号は+から始まる完全な国際形式の電話番号表示になり、他の人がWhatsAppネットワーク上にいるかどうか、私たちのプロダクトのユーザーかを調べられます。

アイデアとしては、電話をかける前、またはメッセージを送信する前に、WhatsAppのステータスをチェックします。それが「いま手が空いています」となっているのを確かめて、電話をかける。これがWhatsApp 1.0でした。

Whatsapp 1.0 は失敗した

これはひどく失敗しました。本当にひどかったですし、とても気の滅入ることでした。誰もサービスを使用しなかったのです。

驚いたことに、ダウンロード数は多かったのですが、その時点ではアプリがあまりなかったので、ダウンロードしたんだと思います。 ちょうど始まったばかりだったので、App Store全体でおそらく千、二千のアプリしかありませんでした。

私たちは早い段階に参画したことから恩恵を受けましたが、そのアイデアはそれほど素晴らしいものではありませんでした。ダウンロードはされましたが、全く利用はされず、皆いつもと同じように電話をかけていました。

そもそもの携帯電話からの発信機能のかわりにアプリを使ってもらうことは本当に難しかったです。でもそれが私たちがやりたいことでした。電話に付属した発信機能でなくWhatsappを使ってもらいたかったのです。

さらなる失敗を繰り返す

思い出すと、我々はこの段階で苦労して、奇妙な機能を追加し続けていました。当時は追加している機能が最高のものだとおもっていましたが。例えば一定の時間帯にステータスが自動的に変更されるように設定することができました。

例えば2時から4時までカンファレンスに参加していることが常にわかっている場合は、2時から4時までカンファレンス中であるというステータスをいつも表示させることができます。 そのような機能がありましたし、2009年の夏には、AppleがPush通知を導入しました。

当時、アプリケーションを起動させたい場合は、アプリケーションアイコンをタップするしかありませんでした。また、バックグラウンド内では何の機能もありませんでしたし、それも今になって振り返るとやや後ろ向きなことでした。

みなさんがNokia Symbianの携帯について知っているかどうかは分かりませんが、iPhoneが出てくる前から、s60やBlackBerryにはこの機能がありました。自動スタート、バックグラウンド内でのマルチタスク、ネットワーキングなどの機能です。iOSで実際にできることが限られていたので私たちは苦労していましたが、そこにAppleがプッシュ通知を導入したのです。

ユーザーの異なる使い方への気づきと、プッシュ通知機能の登場

私たちは、 「これを待っていたんだ!」と思いました。私たちはステータス機能をプッシュ通知に紐づけることにしました。たしか夏頃だったと思います。まだベータ版でしたが私たちには開発者としてアクセスする事ができました。

私たちは、ユーザーがお互いにコミュニケーションを取る方法のひとつとしてステータスを利用していることに気付きました。「いまからバーに行きます」という風ににステータスを変更すると、その変更がアドレス帳内の他のWhatsAppユーザーに通知されるんです。それで、2009年の夏ごろの私たちは、「うーん、これは面白いな、メッセージアプリを作るべきかもしれない」と話していました。

そしてそれがうまく行ったのです。

私はいつもSMSを使用していたのですが、みなさんは古いNokiaの電話を覚えているでしょうか、SMSはスレッド化されていませんでした。だからメッセージを受けとったら、それは電話番号と一緒に表示され、そしてもしまたの他のメッセージを同じ人から受け取ったら、それはまた別のエントリとしてリストに表示されていました。その後、iOSが出てきてスレッド化されたSMSが導入され、皆「うわ、これはいい」と驚いたのです。

だから、私たちは「よし、十分なネットワーキングができる、TCP / IPができる、電話がバックエンドのサーバのクライアントであれば、接続ができる。WhatsAppユーザーかどうかを判断するコードはすでにある、電話番号を取得して、解析して、すべての国際番号を把握することができる」と思いました。ある時点でアルゼンチンについても把握できました。簡単なことではありませんでしたが。

今のWhatsappのアイデアに至る

ということで、実際にWhatsAppでメッセージを送信できる状態になりました。今日のアプリケーションを見てもらえば、これらの機能がすべてあることがわかります。グループチャットがあり、メディア送信機能があり、ボイスメッセージの録音など色々なことができます。

こういうものは昔は何もなくて、私たちが使えたのは、1対1のメッセージだけでした。これが今どれほど古風にみえるかを考えてみてください。と、まあこれがメッセージ機能のあるWhatsAppのローンチでした。 9月ごろだったかと思います... 8月下旬か、9月初め... 10月上旬かもしれませんが、あまりよく覚えていません。とにかくメッセージ機能を開始し、事業がうまく行き始めました。

SMSは高価で信頼性が低く、Skype はデスクトップなどの状況

当時のSMSは非常に高価だったので、事業がうまく行き始めたのだということは直観的にわかりました。特に国際SMSです。 2つの国に住んでいる2人の人がいたら、どうやってコミュニケーションを取っていたのでしょう。つまりお互いにSMSを送ったとしたらそれはコストがかさむものでした。

Skypeを使うことはできましたが、Skypeは基本的にデスクトップ上での機能だったので、両者がコンピュータの前にいるタイミングを合わせなければなりませんでした。それに、みなさんの中にはパソコンを開けている人もいますが、今Skypeの着信を受けても応答できませんよね。

リアルタイムでコミュニケーションするのにもってこいの方法というのはありませんでした。それで、いつも持ち歩いている携帯電話を用いるSMSがよく使われていたのです。携帯はいつもポケットに入っていますから。どこに行っても、携帯は持っています。

皆、SMSを送るとき、「今話せますか?」とは聞きませんでした。聞きませんよね、ただSMSメッセージを送るだけです。時には聞くことといえば、 「さっきのメッセージちゃんと届いてますか?」というようなものです。なぜなら、SMSは信頼性がとても低くて、特に国際送信をするときにそうだったからです。

これがTCP / IPの上に構築をすることで解決できるもう1つの問題でした。これでプロトコルに信頼性を追加することができました。それからメッセージ機能を展開し、信頼性を大きく高め、ビジュアルインジケータを追加しました。メッセージが実際にサーバーに正常に配信された場合、送信したデバイスにメッセージが正常に配信されたかどう知らせる機能です。そして、それはうまく行きました。

幸運にも正解にたどり着いた

Samが「WhatsAppは集中して事業に取り組んでいて、カンファレンスに出席するとかその他たくさんのことをしなかった」と言いましたが、それは単に私たちが幸運だったからです。私たちは人々が本当に必要としていたものに行き当たることができました。

2006年から2007年ごろのSMSについて考えてください。いいですか? iMessageはありませんでした。携帯電話上で作動するアプリはありません。SMSは高く、大変限られたことしかできませんでした。

まず、一度に160文字しか送信できませんでした。それより長い文章を送信した場合は、複数のメッセージに分割され、時には最後の部分が最初に到着します。だから、メッセージを一番下に読んでから、その後にメッセージを読む必要がありました。

写真などのデータを送るのはひどく高価でしたが、プラットフォーム間でうまく機能しませんでした。 Nokiaの携帯電話で録画したビデオをBlackBerryのユーザーに送信した場合、それを見られはしなかったでしょう。もしくは、BlackBerryで録画したビデオをiPhoneに送っても、おそらくうまく動作しません。

このように、我々はSMSに関して多くの制限を抱えていましたが、明らかに最大の問題はコストでした。 SMSはヨーロッパや、北米以外の多くの国では非常に高価でした。そこに私たちが取り組んでいたのです。

採用の開始

いったん需要があるとわかったら、私たちは「人を雇ったほうがいいな」と思い、Yahooから退社した古い友人たちを何人か雇いました。Yahoo時代の友人たちですね。

私がスタンフォード大学で働いていたときにあった友人のひとりも雇いました。私は高校生のころ、1996-7年あたりにビジネス大学院でITの仕事をやっていたんです。そこにその彼がやってきて、BlackBerryのクライアントの仕事をするのを手伝ってくれました。というわけで、私たちの目標はというと、「さて、全種類の機能の構築と、全種類のプラットフォームの構築をしなければいけない」でした。

私たちは iPhoneから始めたのですが、世界的な状況をみると当時は非常に違っていたのです。当時、最も普及していたスマートフォンのプラットフォームはNokiaでした。

北米ではなく世界中の人を見れば、誰もがNokiaのスマートフォンやBlackBerryを使っていました。Androidは存在しなかったと思います。それかやっと2009年末とか2010年初めに出て来たくらいだと思います。だからNokia用のアプリを作らなければならず、Nokia Symbia S60用の開発をできる人をヨーロッパで探さなければなりませんでした。なぜならシリコンバレーの誰もNokiaのことを聞いたことがなかったのです。私たちは、それができる、本当に良いエンジニアを2人見つけることができました。

Nokia への対応

Nokiaの機種についての面白い話ですが、この機種向けのクライアントは実際にはPythonを使用して構築されています。Nokia s60がPythonのランタイムを持っていたことはあまり知られていませんでした。それで、共同創業者であるBrianが、必要に応じてNokiaについて学習するために、一週間会社を出ていて、一週間後に戻ってくると「信じられないと思うけど、Pythonでクライアント開発ができるよ」と言うわけです。

私は、「そんなわけないだろ」と言ったんですが、彼が「いやいや、本当だって。わかってないだけだよ、このちっちゃな携帯でPythonを走らせることができるって」というので「そんなにいうなら、やってみるか」となりました。それが私たちがやったことでした。基本はバックエンド全体で、コミュニケーション、プロトコルはすべてPython、UIはC ++でした。

私たちは複数のプラットフォームを構築する作業を開始し、それから機能の構築に取り掛かりました。まずBlackBerry用をローンチし、Nokia s60用をローンチし、Android用をローンチしました。すべて2010年に数ヶ月ごとに、です。そして、機能を構築し始めました。

プロダクトマーケットフィット (PMF) の時期

私たちは皆の求めていたものを構築しなければなりませんでした。

ユーザーの欲しがるものを作る

ユーザーはグループチャットをほしがっていました。皆が「WhatsAppは素晴らしいです、とてもいいプロダクトだと思います。さてグループチャット機能があれば、家族や、友人三人、同僚五人、または勉強グループ10人とグループ会話ができるので、お願いします」という感じでした。

ですので私たちは、 「なるほど、うーん...グループチャットをどうやって作ったらいいんだろう。ちょっと探ってみよう」となりました。

それで机に向かいユーザーエクスペリエンスを可視化し、グループチャット用のバックエンドシステムを動作させる方法を考案しました。それから、また他のものが要望されました。明らかに私たちは非常に早くマルチメディア機能を追加でき、それが事業を次のレベルに持って行きました。

今となってはおかしく聞こえるのですが画像を送る機能を加えました。今ではスマートフォンのメッセージアプリで画像を送れないなんて想像できないと思うかもしれませんが、当時はそんな機能がなかったのです。本当にうまく作動したり、コストが低かったり、信頼性が高いものは何もありませんでした。

そこで私たちは画像を送信する機能を追加し、動画を送信する機能を追加し、それからある時点でボイスメッセージを導入したところ、すぐに人気になりました。

バックエンドを拡張する

その時点では、バックエンドの規模を拡大していただけです。それは、先ほどお話しした、私とBrianがYahooで働いていた時に繋がっています。私たちはYahooで非常に多くの時間を過ごし、また会社の事業の初期にそこにいたので、会社の規模が拡大するのを見たし、バックエンドを拡大するなどのすべての経験を経て来ました。

もちろんWhatsAppでは予期せぬサーバーダウンなどのトラブルもありましたし私たちのサービスは100%完璧なわけではありませんでしたが、トラブルから確実に学び、適切なモニタリングを追加したり、トラフィックが急増するクリスマスや新年のような休暇に使用が急増するときのために十分な容量があるよう努めました。

すべての経験がつながりWhatsappを支えた

これは、Yahooで働いてバックエンドシステムの規模を拡張する方法、オペレーティングシステムとカーネルを調整する方法、ネットワーキングスタックやイーサネットドライバを処理する方法を学んだということ、それらにすべて繋がっています。

Yahooでの私たちの経験、私たちが消費者として使用していた難しいSMSプロトコルにおける経験などが、スマートフォンがインターネットに繋がるようになって来た2009年、2010年ごろの完璧なタイミングで、繋がったのです。

スマートフォンについて考えると、究極的にはメッセージアプリが​​スマートフォン用のキラーアプリなわけです。だから、私たちは基本的にはキラーアプリにいき当たったということになります。スマートフォンですることの大半はコミュニケーションですから。スマートフォンの利用のほとんどはおそらく、あなたの友人や家族、愛する人と話すことでしょう、iMessageやWhatsApp、Skypeなどを使って。はい、アルゼンチン出身の方。

Speaker 1
もう1回できると思いますか?

Jan Koum
何ですか?

Speaker 1
もう一度別のアプリを作って事業を軌道に乗せることができると思いますか?

Jan Koum
メッセージアプリでしょうか、それともアプリであれば何でもいい?

Speaker 1
なんのアプリでもいいです。

Jan Koum
私には無理だと思いますが、あなたならできるかもしれませんよ。私はもうすでに一度やったので。もういちど成功する可能性はゼロに近いです。勝率はあなたの側にあるので、何かやったらいいです。

集中してプロダクトだけ作っていてよかったのは、Product/Market Fit をしたからです。私たちは人々が望むプロダクトを持っていたからです。彼らは、明らかにこのプロダクトを「くれ、くれ」と欲しがっていました。Nokia s60の下位モデルのNokia S40という、いわば画像に特化した携帯電話に取り組んでいた時、メールを送って来た人たちは「いつできるのですか?いつできるのですか?」と言って来ました。

だから、ローンチの前にはもう、どんなプラットフォームにも大きな需要がありました。

だからこそ、私たちはカンファレンスに出たり、たくさんのPRなどをしたりする必要はありませんでした。私たちのプロダクトを必要としていて、新しい機能や新しいプラットフォームの開発を待っていた何百万人もの人達がいましたから。そのため、私たちは黙々とプロダクトを作り上げることができました。

これが、WhatsAppの事業の経緯についてお伝えしたかった内容です。

Q&A

いまから15〜20分間くらい質問を受けられます。では、どうぞ。

Speaker 2
聞きたいのは、iMessageやFacebook Messengerなど他のメッセージアプリのローンチにどう対処したかです。 WhatsAppは明らかに一番はじめのものでしたけど、その後状況はすぐに戦いは熾烈になったわけで、どうお考えでしたか?会社の中の様子など、どうでしたか?

Jan Koum
そうですね、iMessengerや他のすべてのプラットフォームについてどう思ったか。 iMessageに対しては...いつローンチされたんでしたっけ。2011年でしたか?そんな感じですね。2011年の開発者カンファレンスだと思います。

シリコンバレーの世界は、その外の世界とは非常に異なっています。シリコンバレーでは、周りを見回すと90%がiPhoneを持っています。iPhoneを持っているだけでなく、最新で最高のiPhoneを。シリコンバレーの外では、80-90%がAndroidです。ですから私たちにとっては、iMessageのローンチは、レーダー上のちらっとうつった光のようなものでした。

Speaker 2
Facebook Messengerはどうですか?

Jan Koum
Facebookは長い間、良いメッセージアプリを持っていなかったと思います。私は彼らがBelugaという会社を買ったことを覚えています。たしかBelugaと言ったと思います。それはグループメッセージアプリだったので、最初はグループメッセージに重点を置いていたのですが、それをやめてFacebook Messengerに変えました。でも、Facebook MessengerはFacebookアプリの一部でしたね。

当時はあまりメッセージに特化したアプリではありませんでした。なんにせよFacebook Messengerを見ると、Facebook Messengerの使われ方の図は携帯電話番号の使われ方と大きく異なります。携帯のアドレス帳に入っている人を考えた時、そしてFacebookに追加した人々について考えると、重なり合う部分はあるでしょうが、大部分は違うでしょう。

私がFacebookに追加する人は、おそらく私がたくさんメッセージを送る人ではなく、そして自分のアドレス帳に入れた人は、自分にとってどれほど重要であるかという点でおそらく異なる様相になっています。基本的に誰かと番号を交換すれば、私にWhatsApp、SMS、または電話をかけることができます。

私がFacebook上で友人になっている人の多くに関しては、もし電話がかかってきたら、「これ誰だっけ....あー、一度会って、Facebookに追加したんだっけ」となるでしょう。私は必ずしも典型的な例ではないでしょう。きっと各々が、違うネットワーク上に違う人間関係を持っていると思います。

WhatsAppを仕事にだけ使う人もいるでしょう。そういうひとはWhatsApp、もしくはアドレス帳に同僚しかいれていないし、特定の連絡先しかあるアプリの中に持たない人がきっといると思います。しかし全体的に考えて、基本的には「電話番号を登録したら、その先私は生活にわけ入って来るのを許可します」ということです。電話番号の登録はネットワークを少し違うものにしていて、それはアドレス帳に番号を登録している人とより強いつながりを持っているからです。

Facebookには、高校時代の知り合いから、保育園時代の知り合いもいて、そういう人たちとFacebookで連絡を取り合うことができるのはすばらしいですが、突然理由もなく夜の7時に電話をかけて来てほしくはありません。ただ気まずくなるだけでしょう。何年も話をしていないですから。だから、どの人とどのアプリでコミュニケーションをとるかはその意味で違います。

ちょっと戻って一般的な話をすると、常に競争相手はいました。もう、はじめの日からです。一時期、毎月のように新しいメッセージアプリが出現していた時期までありました。毎月TechCrunchに、どのようにしてこの素晴らしいメッセージアプリが他のすべてを追い越すだろうか、という記事が載っていました。

彼らがTechCrunchにお金を払って書いてもらったのかは知りませんが、これを読んだ私たちは、「ユーザーがいないじゃないか!なにをどうしたらTechCrunchでその話を書くことができるんだ?」となりました。そんな記事の影響はありませんでしたし、我々は自分自身に注意を引くことをまったく望んでいなかったので、何も言いませんでした。わざとレーダーにひっかからないようにしていたんです。でもそれを脇からみているのはおかしかったです。

動物の展示会か何かのようにアプリが次々と繰り出されていました。PingMe、MessageMe、GroupMe、Kikもありましたね。そういうプロダクトが、 "新しいアプリです、こんにちは!"と、どんどん現れて来ました。

ある時点では、10種類のメッセージングアプリのようなものがありましたが、 私たちはといえば「よかったですね、宣伝でもなんでもしてください。私たちは目立ちたくないのでひっそりとしています」という感じでした。

このように、iMessageやFacebookメッセンジャーのような大物から、Kikのような小物まで、いつも競争相手がいました。本当に常に競合がいたんです。今日になってもまだ、TelegramやLINEやKakaoのようなアプリがありますが、運命は本当は私たち自身の手にあるのです。競争について過度に心配している場合ではありません。むしろ自分たちのプロダクトやユーザーについて心配するべきです。競合について時間を費やしすぎると、失敗するでしょう。はい、どうぞ。

Speaker 3
今お話しされたことに関して、あなたの言うアプリの使われ方の関係図...それはソーシャルグラフ全体だと思うのですが、実際には今変化しているのではないですか?少なくとも私と私の友人の間では変わって来ています。最近皆そんなに電話をかけないように思います。SMSもそんなに送りません。おそらく、私自身はオンライン上の、Facebookなどのソーシャルメディアで、一番頻繁に友達をコネクションに追加していると思います。もちろんWhatsAppのようなメッセージアプリも使うでしょうが、ソーシャルグラフ全体を考えると、電話をせずSMSをしないように、ゆっくり変化してきているように感じます。皆ソーシャルメディアのプラットフォーム上でもっと多くのことをするようになっています。これについてなにか見解はありますか?ソーシャルメディア上の機会がなにかあると思いますか?もしくは、そもそもこの変化というのは本当に起こっていると思いますか?

Jan Koum
そうですね、変わって来ているのは本当だと思います。ご質問は、状況が変化しているということでした。電話をしなくなってきていて、むしろ今はアカウント上に人を「追加する」ようになって来ています。ソーシャルネットワークは今、あらゆるものが1つに統合されています。おっしゃっていることは正しいと思いますよ。皆電話をあまりかけずに、メッセージを送りますね。私たちが今日、もしくはアプリ開発当時にすら何か異なったことをしているのかは、本当に分かりません。私たちのフォーカスはいつも変わらなかったと思います。私たちはユーティリティを提供したかった、純粋にコミュニケーションだけのアプリケーションを提供したいと思って来ました。だからWeChatやLINE、Kakaoなどのアプリを見ると、色々違うことをしていますよね。

WeChat経由ではタクシーを呼ぶことができますし、オンライン上で人をフォローすることもできます。 LINEにはフィードのコンセプトがあります。WhatsAppはずっと、本当に効率的で実用的で、高速かつ信頼できるものを作りたいと思ってきました。

最新かつ最高のスマートフォンをだれしもが持てるわけではありません。多くの人は、低価格帯のAndroid携帯を持っています。多くの人々が、大容量のパワーやメモリ、CPUが入っていないBlackBerryの携帯を昔、もしくは今でも使ったりしています。私たちにとっては、常にアプリケーションの信頼性と効率性がすべてで、ソーシャルネットワークサイトやアプリでできる様々なことをやろうとは思いませんでした。

Speaker 4
今のFacebook Messengerについてどう思いますか? WhatsAppがFacebookに買収された後の 今のMessengerには、WhatsAppが持っていた多くの機能が統合されています。私はMessengerをもっと使うようになりましたし、WhatsAppから離れていると思います。内部競争などはあるのでしょうか。

Jan Koum
いいえ、一般的には、両方のアプリが成長する余地がまだまだあると思います。私はMessengerがアメリカ合衆国を含む北アメリカの国では本当に強いと思っていて、地理的にお互いを補完し合っていると思っています。インド、イスラエル、香港、ドイツ、スペインなどの国を見ると、WhatsAppは非常に強い足場を築き上げています。オーストラリアや北アメリカを見ると、おそらくMessengerが非常にうまくいっているとわかるでしょう。というわけで、必ずしもソーシャルグラフで分けられているわけではなく、あなたが今いる国によっても違って来るわけです。

次、どうぞ。

Speaker 5
他のアプリを作って成功させることはもうできないだろうという謙虚さはすごいと思いますが、きっと周りの人があなたにいつも助けやアドバイスを求めているだろうと思います。あなたがアイデアを聞いたりアプリを見たときに、うまくやれるかどうかをどうやって判断しますか?

Jan Koum
答えはとてもシンプルです。ご質問は、アプリに潜在的な可能性があるか、それが良いアイデアかどうかを判断する方法でした。答えは、そのアプリが本当に基本的な問題を解決しており、それも単純で効率的な方法でなければなりません。

私たちが作り出したものに戻ってみると、いくつかの方法で問題を解決していますよね?同じ部屋にいないとき、異なる都市にいるとき、異なる国にいるとき、または異なる時間帯にいるとき、人々はコミュニケーションに問題を抱えていました。

コミュニケーションが不可能だったというわけではないですが、大変だったし高価だったものを、簡単で安価なものにしました。このように、より簡単で安価なものを提供すれば、もちろん皆それを使います。

だからプロダクトに関してまず私が見るのは、それがニーズを満たすのか、そして世界規模でのニーズを満たすか、です。Stanfordのキャンパスの人々のニーズを満たせば、それはそれで素晴らしいことですが、10億〜20億人の規模に拡大することができますか? Teslaの充電器を提供することによって、シリコンバレーの中の人の必要性だけを満たせば、またそれはそれで素晴らしいですが、世界にTeslaを持っているひとはどれくらいますか?

グローバルになる必要が...実際には多くの人がテスラを持っているんですかね、わかりません。とにかくすべての国のすべての人に適用できる可能性のあるグローバルな解決策であるべきです。これが判断基準です。

Speaker 5
おっしゃっていたように、多くのシリコンバレーのスタートアップが勘違いをしていると思っています。誰もがiPhone 7Sか、とにかく最新のものを持っています。WhatsAppでは、どのようにして会社の文化を築いたのですか?どのように社員が世界中のユーザーのことを考えられるようにしたんでしょうか?

Jan Koum
わかりません。運良く、雇った人が良かったんです。言っておくべきなのに言及しなかったことが一つあるのですが、それは私達は本当にいいチームに恵まれたということです。私たちは、Yahoo時代のネットワークや友人の友人を通じた個人的なネットワークからほとんどの人を雇いました。えっと、私自身は移民で、別の国で育って、それから様々な国に行くこともありました。だから、iPhoneだけでなくスマートフォンというのはもっと色々あるんだとわかっていました。それが、2008年、2009年に皆が話し、書いていたことです。

私は、特にNokiaが事業を廃止する前にNokiaの携帯電話を本当に気に入っていた者として、「Nokia用にも開発をするべきだ、いい携帯だし、世界には10億台のNokiaのスマートフォンがある」と思っていました。私と共同創業者がその認識を持っていたので、それが会社に伝わって皆それを理解していたのだと思います。「iPhoneのためだけにアプリ開発をするんじゃないんだ。最新で最高のデバイスのためだけじゃないんだ。それ以外にも何百万もの携帯電話がある。アプリを開発すべき携帯電話はそれだけの数ある。それらのユーザーにプロダクトを使って欲しいし、彼らもアプリを作って欲しがっているから」とね。次どうぞ。

Speaker 5
ビジネスにおいての、会社設立、株式、資金調達について、教えていただけますか?

Jan Koum
ビジネス面ですか、私の好きな話題です。2009年の2月24日、私の誕生日に私たちは会社を設立しました。その理由は、...順をおって説明します。私たちはApple Storeにアプリを提出しようとしていましたが、私は自分の名前で提出したくはありませんでした。アプリをインストールしたいと思ったときにJan Koumという個人が作ったアプリは欲しくないでしょう。だれがインストールしたがるでしょうか。だから、公式に会社を作った方がいいと思ったんです。それで、「よし、Googleで検索しよう、会社の始め方...」と、この検索が、まあステップ1です。

それから、友人に保険ブローカーだった人がいて、彼は自分の会社を持っていました。また彼は私が住んでいたサンタクララの3ブロック先に住んでいました。私は自分の車と家の保険を彼から購入していたので、彼の事務所に行って、そこで「そうだ、会社ってどうやって設立した?」と聞きました。

彼は 「簡単だよ、1ページに5項目くらい入っている会社設立の書類を記入して、サンフランシスコの役所かそういう所に行って100ドル払ったらスタンプを押してくれるからそれで終わりだ」というので、そんな簡単なわけないだろうと思ったんですが、「いや、そうだ」、というので、その通りにしました。

実のところ、Apple Storeが会社の設立証明書のコピーを送るように言ってきましたので、「大丈夫、簡単だから」、と、その日にすることが何もなかったので、サンフランシスコに車で行き、昼食をとり、事務所にいって、判子を押してもらい、レターを受け取り、はい、出来上がり、となりました。

Appleにそれを送ると、彼らはレターを見て、「ちゃんと規則に則ってやっていますね、ちゃんとした会社ですね、ですので今後WhatsAppという名前でアプリを発表できます」となりました。これでWhatsAppという名前でアプリを出せるようになりました。これが会社設立の経緯です。話に聞くよりもやってみると簡単ですが、当時はやったことがないので、苦労しました。

私たちはお金や資金調達のことについてどのように考えていたか、ですね。私たちは少々の貯金を持って Yahoo を去りました。というのもYahooは90年代後半、2000年代初頭には本当にうまくやっていたので、私たちは株を持っていたし、オプションを持っていたし、RSU(制限付き株)も持っていました 。

仕事を辞めてから一年の休暇を取らなくても良かったんですが、もちろん贅沢はしませんでしたが貯蓄で1年間生活することができました。まだアプリに試行錯誤していた時、そんなに潤沢なコストはありませんでした。

始めたばかりの頃を思い出すと、Yahooで一緒に仕事をしていた友人であるChuck のサーバーを使っていました。彼はYahoo Sportsを運営していたのですが、私はYahoo Sportsのチームの隣に座っていたので、友人になったのです。Chuckに「サーバーを使わせてもらえないか、毎月20ドルは払いたくないんだ」と聞くと、「いいよ」と言ってもらいました。

月々20ドルのサーバー代を節約できたのは私にとって大きなことでした。だから最初は彼のサーバー上でアプリを走らせていたのです。思い出すと、メッセージ機能を開始して、アプリが成長を見せ始めた時、彼は「お前ら自分のサーバー設置した方がいいよ」と言ったのですが、私は「いや、大丈夫、自分のサーバーの代金なんて払いたくない」という感じで、そうしたら彼が言うには「いや、自分のサーバーを設置してくれよ、君たちのアプリがサーバーのCPUと帯域幅をすべて食ってしまっているんだ」ということでした。

しかし私はまだ「いやいや、大丈夫、いけるって」と言っていたのですが、最終的に彼はサーバーから私を追い出しました。LinuxからFreeBSDに切り替えられたので、これは結果的にすごく良かったです。私たちはYahooでFreeBSDの経験を豊富にしていましたから。というわけで、実際、長い間、自分たちの貯蓄で生き長らえてきたのです。

そしてYahoo での経験から、特にサーバー、バックエンド、帯域幅などに関しては、効率的に会社を運営する方法を知っていたので、費用はあまりかかりませんでした。経費がかさみだしたのは人を雇いだしたときです。それからサーバーの拡大、帯域幅、WhatsAppにサインアップするのにつかう電話番号認証についても費用がかかっていたので、あまり覚えていませんが、確か2009年の終わりに、私たちは小規模なエンジェル投資ラウンドを行いました。その後、実はその投資のお金をあまり減らすことなく会社を運営することができました。

というのも、初期のiPhoneアプリは有料だったのです。 AndroidやBlackBerry、Nokiaのアプリが無料だった一方で、iPhoneアプリをダウンロードするには1ドル支払う必要がありました。

だからユーザーがiPhoneアプリに支払った代金で、電気代、帯域幅やサーバー代などの支払いをすることができました。おそらく2011年、2010年から2011年の間だと思うんですが、投資家が私たちの会社にアプローチを始めました。私たちは、資金調達先を探すことさえしていませんでした。

この状況は実際いいことでした、というのもお金が必要になった時に自分から資金調達先を探しに入った場合、望む条件を得られない可能性があるためです。だからこの状況は私たちの有利に働きました。投資家たちは 「すばらしい事業をしていますね。そこでパートナーシップを締結したいんですが」と言ってきました。

私たちはといえば、「うーん、今お金いらないんですよね」といった態度だったので、逆に相手にもっと投資をしたいと思ってもらえました。「今はお金いらないんで:数ヶ月後にまた来てもらえませんか」というように相手を手のひらで転がすようなことをしていました。

結局のところ、これらのやり取りの終わった後、私とBrianは「うーん、私たちは相手の時間も自分の時間も無駄にしているだけだ。資金調達をするべきだろうかどうだろうか」と話し合いました。それで資金調達をすることに決めたのですが、それは、それは銀行口座にお金がないよりもあるほうがいいからでした。

それは、あなたも知っているあのGeoff Ralstonの知恵によります。Geoffがいうには、「口座にお金があったほうがいい、会社が急成長してるから、いつ建物を購入する必要があるか、またはオフィススペースを購入する必要があるかどうか分からない。手遅れになってから資金調達の交渉はしたくないだろう」ということでした。

皆さんも資金調達は特に必要がない時にやっておくべきです。それで、Geoffのありがたい言葉を聞き入れて、「じゃあ、資金調達しよう、Sequoiaと提携しよう」となり、Sequoiaから投資を得ました。他の質問は?はい。

Speaker 5
心理的にどう感じていたか、会社の事業の動き方に自信があったか、お聞かせいただけませんか。例えば事業の初期に、市場の動きにとってタイミングがいいことはすぐ分かりましたか? もしくはただユーザーがリクエストすることに従っていたんでしょうか?

Jan Koum
メッセージ機能をリリースするまで、ステータス機能に取り組んでいたときは、もちろんつらかったですね。ユーザーがいなかったし、誰もプロダクトを使っていなかったのですから。自分の部屋で座って製品を開発していて、そして考えるわけです「なんで誰も欲しがらないんだ、なんで自分はこれをやっているんだろう、人生の意味って何だっけ」といったようなことを。つらいですよね。作ったプロダクトを誰も欲しいと思ってもらえなかったら、拒絶された気分になります。「なんで誰も使わない?!こんなに素晴らしいのに。エネルギーをすべて注いだんだぞ」と思ってしまいます。

一旦メッセージ機能が追加されると、180度状況が変わりました。突然誰もが私たちのプロダクトを欲しがり、誰もがそれが一番クールなものだと思うようになりました。プロダクトがどれほど素晴らしいかを伝える手紙や電子メールも届きました。 「おかげで婚約者と連絡を取り合うことができます、あなたのプロダクトのおかげで結婚しました、登山者が迷った時にWhatsAppのロケーション共有を使えたので彼らを救出することができました」。

天と地ほどの違いですよね。ユーザーがあなたのプロダクトを求め、それを気に入ってくれていると企業内の心理はまったく違ってきます。

社員も出社して、「今までで最高のものを作っている、ユーザーはこのプロジェクトをめちゃめちゃ気に入っている。何て素晴らしいんだ」と感じます。社員候補者にさえも、説得する必要はほとんどありませんでした。

面接に来る人達は大体二つのカテゴリーに分かれます。シリコンバレーのバブルの中にいる人達はWhatsAppのことを全く聞いたことがなくて、「WhatsAppなんかのために働く気なんて起きない」となります。

もう一方は「 なんだこれ、こんな世界が広がっているのか」という印象を受けた人達は、「何百万人ものユーザーがいるんですね。スペインの私のいとこが、あるいはドイツの友人がWhatsAppについて教えてくれました。みんなが使っているんです」となります。もしくは、 「私はインドに行きました、私は中東に行きました、みんなが使ってるじゃないですか、すごい!、なんでシリコンバレーの誰もこの会社について聞いたことがないんですか」と聞きます。

私たちの答えは「まあ、わざとです」なんですが。というわけで基本的に、インタビューでは2種類の人に会うことができました。明らかに、シリコンバレーの人たちにWhatsAppで働きたいと思ってはもらえませんが、まあそれは世界の終わりのような深刻な問題ではありませんでした。なぜなら世界が広いことを理解していた人はたくさんいて、そういう人たちは世界中の何億人ものユーザーのために喜んでプロダクトを作りたいと思っていましたから。 次の方どうぞ。

Speaker 8
資金調達のプロセス、Sequoia とのパートナーシップはどうでしたか?

Jan Koum
なぜSequoiaと提携したかですか?契約要項を渡してくれた会社は何社かありました。そのうちの1社は、額が空白の契約要項までくれました、「あなたが望む金額を記入してください」といって。他人のお金にそこまで無責任な会社とは提携しないほうがいいな、と思ってやめましたが。

Sequoiaは素晴らしいブランドですよね。1992年以来シリコンバレーに住んでいて、そこの企業の記事やニュースを読んでいる私にとっては、Netscape、Cisco、Googleのような、有名になった企業の多くがSequoiaの支援を受けていた事を知っていたので、Sequoiaを選ぶことはそれほど難しい決断ではありませんでした。また、そこで働く人たちは素晴らしいですしね。

単に個人的な人間関係が強く関係します。またシード投資の会社がどれだけハンズオンをするべきか否かを理解しているのも大きいですね。例えばSequoiaが素晴らしいのは、彼らはWhatsAppの業績の数字や、私たちの会社が成長していることを知っていたので「あなたたちのやってることのこれは間違っている、あれも間違っている」という干渉をしなかった事です。そうする必要がありませんでした。とにかくSequoiaとは彼らがそういうことをしないという前提、約束みたいなものがありました。

「私たちは財政的なお手伝いするためにここにいます。マネジメントの支援ではなく、コードを書く支援でもありません。あなたの会社の成長を助け、財政を助けるためにここにいます。ただあなたがそれ以外に何か助けを必要とするなら、私たちに声をかけてきてください、そうしたらなんとかお手伝いします」と。

実際にリクルーティングに関することなどを訪ねた時とても助けになってくれました。彼らは時々、当社に合いそうだと思う人に会い、WhatsAppに入社すべき理由を伝えてくれたりしていました。というわけで、Sequoiaは本当に素晴らしかったです。またブランド力もあります。

実は私とBrianは複数の契約要項を持って、夜遅くにGeoff Ralstonの家にアドバイスを受けに行ったのですが、Geoffは契約要項を全て見て、議論してから「一度Sequoiaの投資を受けた会社は、ずっと”Sequoiaから投資を受けた会社”だと見てもらえる」と言いました。Sequoiaのブランド力は本当に強く、それが多くのことで役に立つのです。

Speaker 9
重要な質問があるんですが。

Jan Koum
そうですか、それはそれは。どうぞ。

Speaker 9
最初の数千人のユーザーを、ステータス機能だけの時代に、どうやって獲得したのですか?

Jan Koum
最初の数千人のユーザーをどのように獲得したか、ですか。当時のアプリはあまりなかったし、iOSも...そう当時はiOSではなく、iPhone OSと言いましたが、そのApple StoreにはWhat's Newというカテゴリーがありました。どうやら数日に一回新しいアプリをリリースし、いつも新着カテゴリーのトップに表示されるようにするというのがコツだったようです。当時は、アプリの名前を少し変えてストア上に乗せると、それが新しいアプリとして認識されたのです。

だから私たちの持っていたステータスアプリのバージョンのリリース毎に少しずつ名前に変更を加えたんです。「スマートフォン用ステータス」、「通話のためのステータス」、「iPhone用ステータス」、「ステータスアップデート」のように。この名前の変更がアプリを新着カテゴリの一番上に常に持って来ていました。

そして、あまりアプリがないので、新着カテゴリを皆みて、どんなアプリでもダウンロードしてみていたのです、今となっては何千ものアプリがありますが、当時は何百というレベルでした。そのシステムの穴はすぐに塞がれたと思いますが、基本的にシステムを少し攻略することで、幸運にもメッセージアプリのリリース時には数千人のユーザーがいました。次のかたどうぞ。

Speaker 10
どのように会社をスケールしたのですか?つまり、どのようにWhatsAppをさまざまな国で事業拡大したのですか?

Jan Koum
どうやってさまざまな国で事業拡大したか、ですか?

Speaker 10
はい。

Jan Koum
あえて事業拡大の戦略をとる必要はありませんでした。もちろん、いくつかのことはしなければなりませんでしたが。順を追って説明します。私たちにはやらなければいけないことが2つありました。 1つは、iPhoneが存在すらしない国もあり、誰もがNokia、BlackBerry、またはその2つの組み合わせを使用していたため、異なったプラットフォームを構築する必要がありました。もう一つ、私たちが早くから始めたのは、アプリの現地言語化、ローカリゼーションに注力することでした。

もう一度シリコンバレーが世間離れしている話に戻りますが、シリコンバレーの皆は英語だけを話すので、残りの世界も英語を話すものと思われていました。そんなわけありませんよね。そこで私たちは早期にローカリゼーションに注力しました。

私たちは実際に2つのことをしている社内の人たちを実際に雇いました。カスタマーサポート担当者がいたので、問題のある人を助け、FAQを書いて問題をデバッグするのに役立ちます。この人たちは多言語話者でもあり、スペイン語の流暢な人もいたし、ドイツ語の流暢な人もいたし、ポルトガル語の流暢な人もいたし、イタリア語の流暢な人もいたし、様々な言語の話者を雇いました。

そのおかげでアプリの事業が成長し始めたときに、本当に良い、ローカライズされたユーザーエクスペリエンスを築くことができました。ブラジルでWhatsAppをダウンロードすると、英語ではなくポルトガル語で表示されます。それが様々な国でWhatsAppがで成長するのを助けたんだと思います。次どうぞ。

Speaker 11
最初の数人の従業員をどのように説得しましたか?あなたの個人的なネットワークから来た方々ですが、どのようにして会社に参加するように説得したのですか?

Jan Koum
あまり難しくありませんでしたね、ほとんどが失業中でしたから。まず、Brianが会社に参加しました。BrianはYahooをやめて、それからあまり何もしていませんでした。彼は98年にYahooをやめたんだと思います。だから彼は10年もの間、あまり何もしてしませんでした。彼は初期のアプリエンジニアの一人となりました。それで一人。

そして、私がStanfordから知っていた私の友人のChrisは、方向性の見えないスタートアップをしていたと思います。彼はLAにいて、両親がシリコンバレーに在住していた素敵な女の子と結婚しました。だからこの女の子にとっては、両親の近くにいるために、ここに移住することが便利だったのだったと思います。

だから、私は「是非引っ越しなよ、ここに、北カリフォルニアに!」と押しました。だから、Chrisの入社は、彼女が両親の近くに引っ越したい気持ちと、Chrisが特に何も重要なことをしていなかったしフルタイムの仕事にもついていなかったことが手伝ったケースです。

早期のスタッフのひとりであった Eugeneは、ある会社に勤めていました...私はソーシャルネットワークを通じて彼を知っていたと思います。今でも友達です。彼はいつもどれほど自分の仕事を嫌っているかの愚痴を言っていました。会社がストックオプションを約束したのにそれを渡さないだとか、とにかく仕事が嫌いだったんです。だから、「ここに、いい機会がありますが」と持ちかけました。それから...他に誰がいたかな。ああ、私たちはニューヨークにいたMichaelを雇ったんですが、彼もまた特に何もしていませんでした。

彼はYahoo時代の私の友人が紹介してくれたんです。私がYahooで仕事をしていた方もMichaelと言う名前で、彼はスタートアップで働いていていましたが、私たちは連絡を取り合っていました。ある時彼に、賢くて優秀で、椅子に座ったまま理論を振りかざすんじゃなくてちゃんと仕事を進めれるエンジニアを見つけることがどれほど難しいか、と愚痴を言っていたんです。

そうしたらヤフーのMichaelが「一人、知ってるな」と言うので、私たちはその場でニューヨークのMichaelに電話しました。「もしもし、Michael。もう一人のMichaelからあなたの名前を知ったんですが、面接に来ませんか?」と言うと、「ニューヨークで楽しく暮らしてるんで結構です」と言われるかと思ったんですが、実際はあまり何もしていなかったらしく OK して面接に来てくれました。

それから...私たちのエンジニアの一人は元々ロシアにいました。Igorと言います。彼もまたロシアであまり何もしていなかったんですね、シリコンバレーがあるわけではありませんから。

私たちは、何と言うか、はみ出しものの集まりでした。特にあまり何もしていなかった人達が、集まってプロダクトを作ったわけです。でもまたフルタイムで働いていた人たちもいました。こういう人たちを会社に来てくれるように説得するのは大変なことでした。私たちをたくさん助けてくれたうちの一人、Rickは、バックエンドを拡大していたときのバックエンドエンジニアでした。Yahooで働いていたんですが。

Brianと私で彼に会って、夕食を食べて、入社の説得をするのに6ヶ月かかりました。さらに、すごく微妙な機微を必要とするやり方で攻めていました。直接「私たちの会社に来てください!」というのではなく「あのさ、ユーザーがこれだけいるんだけど、こういう問題が...」という風に。

私たちは彼が本当に技術的なことに詳しくて、また問題を解決するのが好きであることを知っていたので「私たちの会社に来てください!お金やストックオプションをたくさんあげます」とは言わずに別の角度から説得しました。

カメラにむかってRick、見てますか。私たちがRickに言ったのは「あのさ、たくさん技術的な問題があって、どうすればいいかわからないんだ。FreeBSD 8がなんかおかしくて、Erlangでカーネルリソースを計算するんだけど、Erlangが48個のコアを走らせようとするのをどうしたらいいのか分からないし、カーネルの中で回線の争奪が起こるんだけど、わからないんだ。誰か助けてくれるような人がいたらいいのにな」というようなことでした。

そして、私たちは彼がそういう技術的なことが大好きだと言うことを知っていました。だから違う角度から攻めたんです。彼を説得するのに数ヶ月かかりましたが、最終的に彼はWhatsAppに加わりました。Rickはシステムに生じていた多くの根本的な技術障害の修復を助けてくれました。というわけで、一人一人の入社のストーリーは様々に違いますが、しかし参加した人々の最初のコアの大部分は、仕事と個人のネットワークから来ています。

Sam
残念ながら、時間ぎれです。

Jan Koum 
ちょっと! まだ行くのかと思っていましたよ。

Sam
わかりましたもう一つ質問をうけましょう。

Speaker 11
ありがとうございます。

Speaker 12
WhatsAppは一定の物事に集中して取り組むことへの中心的なロールモデルだと思います。ユーザーからのフィードバックを受け取ったときの意思決定プロセスを理解したいのですが、どのように、改善していく必要のある、重要な機能を見定めますか?コミュニケーションの効率性が何年ものあいだ注力すべき重要機能だと、どのように判断したんでしょうか。

Jan Koum
どうすれば構築するべき機能とそうでない機能を見極めれるのか、ということですか?大事な質問ですね、というのも初期の段階では、ユーザーは「ユーザーネームがほしいです」とか「PINが必要です」というメッセージを書いてきていました。み

んな私たちの前にあったメッセージングアプリケーションにユーザー名やPINが必要だったことから離れられなくてそういうことを言ってきていたのです。DBM、またはICQを使用していた場合、ランダムに定められたPINを相手と交換する必要があり、またSkypeやYahoo Messengerを使用していた場合、ユーザー名が必要でした。

私たちが開発していたものが、まったく新しいアイデアで、そういうものを必要としていないということをみんな理解していませんでした。電話番号でサインアップするだけで、アプリが同じ電話番号を持つ携帯電話本体に接続されます。しかし初期の段階では、私たちは有益な多くのフィードバックを受けました。

「グループチャットがほしい、マルチメディアがほしい、プライバシーをコントロールしたい、最終ログイン履歴表示をオフにしたい」というようなものはとても役に立ちました。私たちはプロダクトにぴったり合わないと思ったら、リクエストのあった機能でも作りませんでした。

基盤となる信念を持っていて、自分がやっていることは正しいと感じてる直観があり、ビジョンを持っていることが大事です。電話番号を使うアプリを開発することにしていて、ユーザー名はなくて、PINもない、なぜならそれはプロダクトをより複雑にするものですし人は自分のユーザー名やPINなどを忘れてしまいますから。あなた自身が信念を持ち、開発しているものがうまくいくと信じることも重要です。私たちはこのように意思決定をします。

Sam
どうぞ、それから午後1時のクラスを始めます。

Jan Koum
どうぞ。

Speaker 13
将来のセキュリティ問題、メッセンジャーアプリのセキュリティ問題についてどう思いますか?

Jan Koum
現在や将来のセキュリティ問題についてどう考えるかですか?私たちはご存知のように、エンドツーエンドでの暗号化を展開してきました。私たちは最初に暗号化に取り込んだ会社ではなく、確実に私たちよりも前にセキュリティに焦点を当てたアプリがあったのですが、グローバル規模でシームレスな暗号化をやった会社は私たちが初めてでした。10億人以上の規模のユーザーがいて、デフォルトで全てのやり取りにおいてエンドツーエンド暗号化が有効になっているアプリは現在他にありません。個々のチャット、グループチャットなど全てです。もう一度、事業の始めに戻りますが、それはただ1対1のメッセージングだけでした。グループチャットも、マルチメディア機能も、エンドツーエンドの暗号化も、ビデオ通話も、音声通話もありませんでした。

最初は何もありませんでしたが、ユーザーの需要にコミットして、すべての機能を追加しようと取り組み、それらの機能を有効にするだけでなく、本当にうまく機能させてきました。そういうことで私たちは暗号化、エンドツーエンドの暗号化が重要であることを強く感じており、だからその機能を追加して、今日のようなアプリケーションとなっています。

Sam
どうもありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Build a Product IV - Jan Koum (2017)

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