- 採用にあたってフォーカスするべきこと
- 候補者をどのように探せばいいか
- 自分に専門知識がない領域でどうやって採用するか
- スタートアップ初期における多様性
- 創業者の役割は自分より優秀な人を雇うこと
- Noは「たぶん」になり、「たぶん」はYesになる
- 株式は気前よく分配すると採用できる
- 機能的採用
- 採用がうまくいかない理由と、その対処策
- Q&A
Anu Hariharan
今日はKhosla Venturesの創業者であり、Sun Microsystemsの前創業者であるVinod Khosla氏をお招きしました。同氏はシリコンバレーで数多くのスタートアップにアドバイスを行ってきました。
今日はチームビルディングとチームマネジメントについてお伺いしたいと思います。今日はお時間を頂きありがとうございます。
採用にあたってフォーカスするべきこと
よく企業の立ち上げと採用に関してお話をしていますよね。会社の運命は、その会社の計画ではなく、どのような人を採用するかによって決まる、とよくおっしゃいますよね。これはどういう意味でしょうか?特に起業したばかりの創業者たちのために詳しく説明していただけますか?彼らが採用にあたって、フォーカスすべき点は何でしょうか?
Vinod Khosla
それは私の好きなトピックの1つです。多くの創業者が事業を始める時、実際に自分が何をしているか全然わかっていません。もし十分に理解していたら、おそらく会社を起業しようとは思わないでしょう。もしあなたが本当に思慮深く、機能性を重んじるタイプであるなら、会社を起業しないと思います。
私は自称、熱心な起業家精神論者です。私は、起業家や物を作る人たちが大好きです。特に若い頃にはリスクを取る余裕があります。私の意見としては、他人のために働く理由はありませんし、私は1度もそうしたことがありません。
人はそれぞれ計画がありますが、会社がその計画を達成することはとても稀だということに私は気づきました。どこを起点にするのかを考えるには、自分が夢中になれることが見つかる、どちらかと言えば濃密な空間でアイデアを集めていくことです。これが計画を考えていく方法です。
フレキシ・プランニング(flexi planning)という別のトピックのトークセッションも持っていますが、こちらでは計画を作っていくのではなく、計画をするための計画について説明します。
採用には経路依存性がある
ここで重要になるのが、あなたが作るチームは、最終的にどうなるかについて、日々、決断をしていくことになるという点です。新しい人を採用する際に、この分野かあの分野の人にするか、またはあの強みを持った人か、はたまた別の強み持った人か。またはAという道を選ぶか、それともBという道を選ぶか。これらの決断は、会社がどこへ向かうかを決める、とても重要なことです。
そこには、とても大きな経路依存性があり、その経路は、あなたが採用する人々に依るところがとても大きいです。あなたが始めた計画は、あなたが最初に採用した人々、特に最初の10人より関連性が低くなります。この最初の10人が、次の50人を採用して、さらに彼らが最後の100人を採用する。あなたは元のチームを解雇することもできるが、会社のDNAは引き継がれる。
なので採用は重要であり、あなたが採用する人々に会社の命運がかかっているのです。
機能的採用における、私が見てきた失敗談について、後ほどお話ししたいと思います。
1億円の企業と1000億円の企業との違い
私がよく聞かれて答えることがあります。何度も論じてきた事でもあります。それは、未来の100万ドルの企業と未来の10憶ドルの企業の大きな差です。
考え方(アプローチ)と野心(熱意、成功への渇望)、そして主に自身が作るチームのあり方の違いが、あなたの、そして特に採用した人を特定の方向に補強していくことになるからです。これは、みんなが考えているよりも、はるかに重要なことで、これらの態度と野心がある人を後から採用するのはとても難しいのです。
候補者をどのように探せばいいか
Anu Hariharan
最初に採用する10人がとても重要だという点に触れられましたが、特に、会社に必要となる、企業文化や信念体系を決定づけるものでもありますね。今日ここにいる創業者の方たちの多くの会社のチームは1人や2人だと思うのですが、最初に採用する人をどのように決めればよいか、また、候補者となる人々をどのように探し回ればいいでしょうか?
どのようにして会社の株式を最初に採用した10人対その後に採用する30人で分けるかについて、あなたは確固たる考えをお持ちだと思うのですが、この件について、創業者がどう考えればいいか、是非聞かせてください。
最初から創業者が面接に出て、ビジョンを売り込む
Vinod Khosla
多くのスタートアップはとても戦術的ですし、そうあるべきだと思います。しかし、戦術的になっていると、大きなビジョンを時に忘れてしまうことがあります。時には、その大きなビジョンを締め出してしまうことさえあります。
つい最近、弊社のポートフォリオの会社とお話しをする機会がありました。その会社は、必要なある特定のタスクをする人たちをたくさん採用しました。新しい採用案件があり、その候補者は是非チーム入って欲しいと思うような、とても魅力的な候補者でしたので、会社にとっては、とても重要な採用案件でした。
そこで、創業者に誰が面接担当者になるのか、面接するのは誰なのかと聞いたのです。すると、面接担当の人を教えてくれました。私は「もし私自身が素晴らしい候補者だとして、もしこういった3名が一次面接の担当者とし出て来たら、私は採用プロセスの途中で辞退するでしょう。」と言いました。
「あのですね、どうして創業者自身が私の面接を担当しないのでしょうか?すごく時間の無駄だと思うのです。なぜなら、私は、その候補者に、まず、大きなビジョンを掴んでもらいたいからです。ただ単に、彼に面接をするのではなく、私が彼に大きな考えを売り込んで、そして、彼にもその考えを作り上げる仲間になって欲しいと伝えるのです。」
最高の人間は面接をされない
最高の人間というものは、ほとんど面接をされるということはあり得ません。彼らは、売り込まれ、評価されるべき人たちなのです。評価は重要ですが、私の中では、評価と面接は異なるものです。
あなたが、まず最初の5人を採用し、その人たちが他の人を面接したら、最高の候補者を排除してしまうかもしれません。それは創業者にとって、とても難しい問題です。
同時に、時には大物を採用する余裕がないため、そういった人たちを惹きつけるものが十分にない時もあります。そういった時は、とても難しい時期です。なので、あなたの会社が100万ドルの企業であろうが、10憶ドルの企業であろうが、従業員が15~20人くらいの規模の時に、準備をすることが大切なのです。
具体例は挙げませんが、それに失敗してしまった人たちもいます。一方で、StripeのPatrikは、初期の採用段階で、とても素晴らしい仕事をしましたし、それを今も続けています。採用活動が、会社の軌道を完全に変えることもありますし、会社がどれくらい大きくなるかも関係しています。
自分に専門知識がない領域でどうやって採用するか
Anu Hariharan
StripeのPatrikやその他の成功した創業者が、起業1年目にしたことは何だとお考えですか?別の業種の候補者に会うということでしょうか?
創業者は、しばし、他の業種に関して、豊富な知識がない、もしくは、募集している職種の専門知識がないことがありますよね。
ベースキャンプがなければエベレストに登頂できない
Vinod Khosla
それについては、はっきりと異なるものなので、別々に説明しましょう。まず、私は、会社を作り上げるのは、エベレスト登頂を目指すことに似ていると思います。ベースキャンプに行かずに、エベレストの頂上に行ける人はいないのです。
ここに勘違いがあります。ベースキャンプがなければ、エベレストへは行けないのです。ベースキャンプがエベレストへ続く道でなければいけない、ということを忘れている人が大勢います。なので、彼らはエベレストへ登るリスクを軽減することに役立たない場所にベースキャンプを設置してしまうのです。重要人物を狙うことが出来ない会社を作っているようなものです。
まずは第1ベースキャンプ、そして次に第2ベースキャンプへ行く。これはよい例です。しかし、好ましくない投資家と一緒では、その投資家にたくさん文句が出てきます。彼らは、収入が欲しい、元が取れないと嫌だ、経営に関わりたいなどと言ってきて、あなたが第2ベースキャンプ、第3ベースキャンプへ行く方法を学ぶ可能性を除外してしまうのです。
あなたは他の局所的最小値または局所的最大値にいます。それは、最初のうちはとても危険です。
実は、先ほど話した、文句の1つについて、私はYCのクラスで次のように話しました。「YCクラスの皆さんに私からアドバイスがあります。もし、戦術的になりすぎて、戦略を忘れたら、間違った場所にベースキャンプを建てることになります。」
テクノロジーと共に進む道として、どちらがより豊かなスペースかを決めたい、この場合、戦術的なことを始める前に、素晴らしいテクノロジーから始めましょう。この、戦術と戦略の心地の悪いバランスが存在します。自分のビジョンに固執し、戦術には柔軟になりなさい。
別の言い方をすれば、”大きく考え、小さく行動せよ”ということです。これらの舵取りはとても難しいことで、まさに、言うは易く行うは難し、です。
遺伝子プールエンジニアリング
この問題に話を戻して、遺伝子プールエンジニアリングと私が呼ぶプロセスについてお話しさせて下さい。
もしあなたが、あるスペース(空間)を追い求めているなら、理想のスペースまたは情熱的になれるスペースを想定して選んでください。それは、他人にとって理想的である必要はなく、あなたにとって理想的であれば良いのです。
私が最初にお勧めするのは、失敗し得る全ての可能性をピックアップすることです。考えてみて下さい。何をするにも、みなさん、重要なリスクを特定したいでしょう。それなら、それらのリスク対策をするために、誰かを採用しなさい。自分にとっての上位5つのリスクを探しなさい、と私はよく言います。
それぞれのリスクについて、たとえば、第1のリスクに対処するのはどこの会社か、またはそのリスクはどこの専門領域なのか?対処してくれる会社を3~5社見つけて、リストを作ってください。そうすることによって、遺伝子プールエンジニアリング(gene pool engineering)とよばれるリンクができるのです。
私のウェブサイトに、詳細が書いてあります。もし、そのリスクを対処する会社を5社見つけることができれば、あなたのリスクを減らす場所を確保することができます。
それぞれの会社につき、3人の(キーパーソンの)名前を挙げてください。そうすれば、第1のリスクに対して、15人の対応可能者の選択肢ができます。自分にとって上位5つのリスクに対して、同様のことを行えば、自分のビジネスにおけるリスクを減らす手助けとなるリストが出来上がります。
これがリスク志向型マネジメントです。スタートアップが進む方向を定めたら、あとはリスクマネジメントが全てと言っても過言ではありません。多くのリスクのトレード・オフが起こります。誰かを採用する度に、あなたは財務リスクを背負うことになります。
しかし、同時に別のリスクを減らすことにもなります。たとえばプロダクトリスクや開発リスク、または機能リスク(feature risk)などです。これらは一連のリスクのトレードオフです。起業家はこのようにして、自分たちがやろうとしていることを考えなければなりません。
これが、私が遺伝子プールエンジニアリングとよぶプロセスで、あなたにとって重要なリスクそれぞれに対処できる15人の名前を挙げて、それぞれ同様のことをし、できればその15人の中から1人か2人採用できたらいいですね。そうすることによって、自分が追い求めている計画に潜むリスクに対する、会社としての遺伝子プールエンジニアリングが完成するのです。
「素晴らしい人材を採用しよう」という中身の無い言葉よりも、このやり方の方がずっと正確です。私にとって、「素晴らしい人材を採用しよう」という言葉は、実に憂慮するべきことです。なぜなら、私の所にやってきて、「悪い人材だけを採用しています」なんて言うスタートアップはいないからです。
これは決して起こらないことです。つまらない言葉や考えを、どのようにして具体的かつ実現可能なものに変えられるでしょうか?それが私にとっては重要なのです。
2つ目に、現実的に学生は、自分が始めた最初の計画を追い求めることは滅多にありません。自分で自覚しているリスクのためだけではなく、他の方向転換すること、変えること、適応すること、反復(イテレート)する全てのこと関しても、人材を採用しなければなりません。
新しい分野でビジネス計画を立てることは、反復の連続です。突然、このリスク要件は他の要件と同時にやってきます。これを私はスマート適応と呼んでいます。それは、変化する市場に、何でも素早く適応すること、それが特に上手なことを指します。
素早い反復学習について教えましょう。本質的には、私が「フレキシ・プランニング(flexi-planning)」と呼ぶプロセスにとても似ています。それは、これが自分の計画だという代わりに、計画のための方法を反復することです。
将来の7年計画を作成して、私に予想を渡す人たちがいますが、とても心配になります。なぜなら、彼らは、自分たちが何を知らないかということについて見当もつかないからです。私から見ると、この反復アプローチはYCスクールの素晴らしい恩恵の1つだと思います。
この反復アプローチをMVPや他の名前で呼ぶ人もいますが、私はフレキシ・プランニングと呼んでいます。
このリスクアプローチに加えて、あなたが作るチームは、お互いのアイディアに基づい何かを進めるために、新しいアイディアにオープンで、質問をたくさんし、素早く適応し、他の人たちと建設的なブレインストームを行わなければいけません。
これらは、採用をするときに数値化するのがとても難しい条件です。そして、次の理由からとても危険でもあります。時に、この危険のために採用を見送る人たちもいます。そして、もしあなたが採用に積極的になろうと決めたときに直面する一番大きなリスクは、その人の名前や肩書きなどを追い求めることです。
大企業の有名人やすごい肩書きの人たちは、スタートアップにとっては、とても危険で、誤解を招く事があります。私のキャリアの初期における失敗は、IBMやその他の大企業の肩書きを持った人に影響を受けすぎたことです。
今ではこう考えています。もし、ある人が大企業、たとえばCiscoで10年や15年勤務していたら、その人は、スタートアップで1、2回失敗して、再び洗脳されるまで、スタートアップで効率的に働くことはできないでしょう。そうしないとだめでしょう。有名だから採用するという罠に引っかからないことは、とても大切です。
そして、あなたの専門分野にもよります。もし、あなたのスタートアップが根本的に異なるものであれば…別の言い方をすれば、ある分野は、たくさんの専門知識を必要とします。
たとえば、もしあなたが血液検査のビジネスをするとしたら、学校を辞めてビジネスを始めることはできますが、後々、物理や化学の難しい問題に直面します。そうなると、その能力を持った人を仲間に入れなければいけません。もしあなたが、Stripが行ったようなことをするのであれば、それはとてもシンプルな問題なので、博士号を持った人を3人も採用する必要はありません。
もしヘルスケア分野でAIを用いて問題解決をしたい場合、専門知識が必要になります。専門分野によるところが大きいのです。常にその分野の指導者が必要という訳ではないのです。あなたの問題次第なのです。いつもすごい肩書きの人が必要という訳ではありません。
他の、直観と相容れない事の例として挙げられるのは、私がAliveCorのCEOを探している時でした。基本的には、心疾患治療を行うことになるのですが、私は、ヘルスケア分野での経験がある候補者とは話さない、と言いました。なぜなら、ヘルスケア分野は、長い間変化がないため、役員クラスは、古いルールを採用する傾向があるからです。人々は、新しい未来や新しい道を生み出すことよりも、古いルールを採用し、良いプロセスを採用するこに慣れてしまっています。
これはとても危険なことです。これらの機能がどんなものか見当がつかない時に、私たちは、創業者がどのようにしてこれらを解決するべきか、立ち戻り、話し合うべきです。それは本当に危険で、大きな警告でもあります。ある分野の専門外の人がその分野で革新を起こせることは稀です。
そして、あなたが若い創業者で、ある分野に深い経験を持った人を採用したら、それは人間として、とても論理的であると同時に、現実的な問題でもあります。大切なことは、彼らが提案する解決策ではなく、彼らが提起する問題の方なのです。
彼らから出てくる解決策だけを聞いていると、その業界で伝統的な人たちが行ってきたことをやり続けることになります。これが、業界内で採用された雇われCEOが成功しない理由、そして、創業者のビジョンが非常に重要であるという理由です。私は色々企業を見てきたので、このように考えていますが、もし間違っていたらすみません。
スタートアップ初期における多様性
Anu Hariharan
機能的採用(functional hiring)と専門知識を探す方法なはついてお話を伺う前に、遺伝子プール採用の記事で話されていた、多様性についてお伺いしたいです。
文字通りの意味ではなく、候補者を見つけ出す際に大切になる様々な側面の多様性についてお話されていたと思います。スタートアップが重点的に取り組むべき様々な多様性と、どうして初期の段階でそれが大切なのか、詳しくお話頂けますか?
Vinod Khosla
もし、みなさんが遺伝子プールの記事を信じるとして、今日思い描いている計画に含まれていなくて最終的に実行すべきこと、そうですね、たったひとつの重要なことはみなさんの計画の発展を手助けしてくれる「人」になるでしょう。
ここで多様性というのは、民族的な意味ではなく、バックグラウンドやこれまでの職務経験、年齢、経験の度合いなどを指しますが、人々の多様性が広がります。経験には素晴らしいことがあります。あなたは、経験は欲しいけれども、同じようなビジネスで他の人が既にやってきた、革新的ではないことへの経験は望んでいないと思います。
それが、経験し過ぎることの結果なのです。第一原理に照らし合わせて問題を特定できるような正しい経験や全く新しい考えを思いつくこと、その分野で今まで働いたことがなかった人たち、または、新卒の人たちで、まだ知識はないけれど、本質的な質問ができる人たち、それらが、最高の創業者なのです。
他の言い方をすれば、大企業では、作業が上手な人々が必要になります。一方、スタートアップでは、反復と適応が上手な人々が必要になります。これらはとても異なるスキルです。
なぜなら、スタートアップでは90%の物事を作り上げるのに対して、大企業では、あなたが行うことの90%は、今日に至るまですでに行われたことだからです。大企業では革新がほとんどありません。異なるタイプの人たちが必要になります。どのタイプの人たちも、とても貴重です。
実際のところ、成功したスタートアップであれば、後になって、作業が上手な人たちが必要になってきます。しかし、スタートアップの初期の段階では、このような人たちはとても厄介なことになります。
スタートアップの初期段階では、優秀すぎるマネージャーはうまく機能しません。しかし、ある時点では優秀なマネージャが必要になってきます。それが、私の意味する多様性です。
もし博士号を持った人がたくさんいるのであれば、何人が働いた経験のある博士号なのか、何人が卒業したばかりの博士号を持った人なのか?何人があなたと同じ分野の人なのか、何人が、その分野とは全く違う分野の人なのか。多様性の全ての側面は助けになります。
なぜなら、それぞれが異なる見方を提供してくれるからです。第一原理から考える能力を持っており、「前にこのやり方でやったことがあるから、このように行った」ということを言わないのであれば、それはより複雑なものに感じると言えるでしょう。
このような理由から、私はこれに関して2つの記事を大々的に書いたのです。一つ目は「採用の技術と科学(the Art and Science of Hiring)」というタイトルです。後ほどリンクを教えます。私たちのウェブサイトにも掲載されています。二つ目は「遺伝子プールエンジニアリング(Gene Pool Engineering)」というタイトルです。
実は、Peter Boydが私たちの仲間に加わったときに、3つ目の記事を書きました。それは、取締役会がするべきことと、してはいけないことについてです。私が知る限り、取締役会は他の何よりも、スタートアップにとってダメージを与えてしまうんです。
だから私は、もう取締役会議には参加しません。伝統を当てはめることは、ただ、ダメージを与えることなのです。
あなたが投資家を探す際に大切なのは、お金ではなく、チームを作り上げる際の助けです。会社がどこへ向かうかにとって非常に大切であり、調達した資金額や評価額、その他のことよりもずっとずっと大切なのです。後ほど、創業者の株式に関しても話をしなければなりません。
私は、自分の時間の3分の1以上を他の何よりも、会社の採用活動のために費やしてきました。理由は今まで私がお話した通りです。
実は、Grindというスタートアップでは、面接官が私に質問をしてきました。「Chamatが、あなたはとてもそんなに面接に時間を費やさないと言っていましたよ」と彼は言いました。
私は、「それは、彼は根本的に私とは違う信念体系を持っているからです」と言いました。実際に、採用活動というのは、私がほとんどの時間を費やしていることです。会社で重要なポジションの採用をする場合、私は週末にLinkedInで100人近くの履歴書に目を通します。ほんの数名の人たちが会社を作ることも、壊すこともあるのですから。
創業者の役割は自分より優秀な人を雇うこと
Anu Hariharan
そうですね。CEOは最初に、最高採用責任者になることだ、というお話があったかと思います。それもここでは役に立つかと思うのですが、創業者の役割と、創業者はどのような考え方をすれば良いかについて、詳しくお話して頂けますか?
特に、スタートアップで「営業のVP(ヴァイスプレジデント、副担当者)を探している」と言って、全てのスキルを書き出すけれども、スタートアップでトップに立つために必要な要素を忘れてしまう、というスタートアップをたくさん見て来たからです。
Vinod Khosla
そうですね、では機能的採用の概念の話に戻りましょう。創業者がするべきことについてお話させて下さい。
創業者の役割、私が創業者だった時は、自分の時間の約40%を採用活動に費やしました。プログラミングを導入するよりも、プログラミングが出来る人材を採用する方がより良いのです。
Anu Hariharan
それはスタートアップを通してずっとですか、それとも途中で変わったりもしましたか?
Vinod Khosla
スタートアップの初期段階でも、そのスタートアップの存続期間を通じてでもです。会社の創業時でも、中盤でも、後の段階においても、当てはまると思います。
本当に優秀な創業者は、それが出来ると思います。与えられた仕事をあなたよりも上手にこなす人材を採用することが出来るようになるのです。創業者に自身の役割を話す時、もし自分のために採用することができるポジションがあるなら、話し合いの上、資金をモジュール化し、時間を浪費しないための役割を担ってくれる人を採用しなければなりません。
創業者にはユニークな特徴があります。彼らは、起業家精神と第一原理思考を持っており、「このやり方で行われたけど、それは何故か?」という態度を持っているのです。
この「なぜ」という態度とSimon Sinekの「Start With Why(”何故”から始める)」という本をお勧めします。これは、全てに疑問を持ちながらも、自分のビジョンが正確でなくても、それに忠実であり続けるということに関して、とても素晴らしい本です。
もし、あなたが全く新しい何かをしているのであれば、それは曖昧なことになります。そして、普通の人はほとんど、その曖昧さを良く思いません。
ビジネスモデルが正確に分からない、どうなるか分からない、でもこの方向性で突き進んでみよう、これが創業者の役割であるリーダーシップというものです。このような能力は、人材を採用して得られるものではありません。他の会社からシニアエクゼクティブを採用しても、この能力を得られる可能性はほぼゼロでしょう。
シニアエクゼクティブの彼らは、あなたがしていることを体系化し、取り組みを強く後押しすることは出来ても、あなたのビジョンがなくてはやっていけません。それが、創業者の役割なのです。
これを私はリーダーシップと呼んでいます。それは曖昧さに直面したときの信念体系です。それは、「解き明かそう。多様性のあるチームを作ろう。」という態度なのです。
私は、若い創業者として、とても運が良かったです。私は、素晴らしい人たちが大好きでした。採用した人の中には、どうして採用したか分からない人もいますが、Sun Microsystemsで最初に採用した15人は、後に10億ドル相当の会社を10社も創業しています。YahooのCEOであるCarol Bartzも我々が採用しました。
GoogleのCEOとなるEric Schmidtなど多くの人たちを採用しました。Bill Joyもそうです。実は、Bill Joyは私たちが事業を始めた6ヶ月後に創業者となりました。私は彼を採用したくてどうしようもありませんでした。遡及的に彼を創業者にしたのです。素晴らしい才能を組み立てるというこのゲームにおいては、何でもありなのです。
私は素晴らしい人々から学ぶことが大好きだったので、素晴らしい人々を採用しました。振り返ってみると、それが、私たちが成功した理由であり、私が、「会社の運命は、どんな人を採用するかで決まる」と信じることになる理由でした。
ところで、Andy BechtolmsheimはMargaret Jacks Hallの学生でもありました。ここからそう遠くはなく、以前はコンピューター科学学部もあった所です。彼は自身の技術について6社と使用契約を結びました。それが成功した唯一の会社が弊社でした。 その他の会社が契約を結んだ2年後に我々は契約を始めましたが、我々は必要な人材を全て得ることができました。私はAndyが博士課程を中退するまで、我が社に入社するように誘い続けました。
Billについても同じで、博士課程を中退するまで、我が社に入社するように誘い続けました。2人とも、博士号取得まであと6ヶ月という時に博士課程を中退しています。
売り込みをすることも創業者の仕事でもあります。しかし、会社が成功するかも分からないのに、博士課程を中退するように誰かを説得しなければいけないので、これは大変心苦しい仕事でもあります。誰かを採用するというのは、とても心苦しい仕事なのです。
もしくは、誰かにGoogleでの心地よい仕事を辞めて、自分の会社に参加してもらうように説得するなど、様々なストーリーがあるでしょう。それはさておき、元の話に戻りましょう。
Noは「たぶん」になり、「たぶん」はYesになる
Anu Hariharan
誰かを採用するために自社を売り込む際に、「No」は「多分」になり、「多分」は「Yes」になる、と仰っていましたよね。
Vinod Khosla
そうですね、それは私のお気に入りの話でもあります。採用したい候補者が「No」と言ったら、私は、彼らに、それは「多分」っていう意味だよね、と説得します。そして、十分な時間を費やします。
そのあと、彼らが一度「多分」と言ったら、私の仕事は「多分」は「はい」と同じだということです。いつも言っているのは、「No」は「多分」で、「多分」は「Yes」だ、という事です。
失敗してもいいのです。たまには成功しますから。みんな、採用活動をあまりにも早く、簡単に諦めてしまうのです。私は、ただ、諦めずにしつこく追い続けているだけです。
株式は気前よく分配すると採用できる
Anu Hariharan
創業者と株式について少し伺いたいのですが、先ほどから2回くらい、その話が出てきましたよね。あなたは素晴らしいチームを作りたくて、その素晴らしいチームは他の人がその会社に入りたいと思うような、引きつけ役のようなものです。
特に採用活動の初期の段階で、創業者は株式についてどのように考えれば良いでしょうか?
Vinod Khosla
一部の例外もあるでしょうが、全体的に見て、私は多くの創業者が自身で多すぎるほどの株式を保有していると思います。彼らは、次の事実に気づいていません。それは、採用した人で、とても優秀な人は、創業者でなければ、1年後くらいには、自分の会社を起業したいと思うからです。
だから、あなたたちはまぁまぁな人、そこそこ仕事をできる人を採用するかどうかは自分自身で決めることができますが、飛び抜けて優秀な人があなたの会社に留まるかどうかはその人自身が決めることでしょう。
私の息子も起業をして実は、2つの会社を始めたのですが、6月にスタンフォード大学を卒業したばかりです。息子には、会社の株式は、息子と共同創業者がそれぞれ15%ずつだけ保有するように説得しました。
15%は3人目の共同創業者のために、15%は3人の準創業者に、そして20%は(オプション)プールにするのです。巨額の共同資金になりますね。
なぜなら、私は根本的に、「会社の運命は、どんな人を採用するかで決まる」と考えているので、「お前は素晴らしい人々を採用することができるようになるよ」と息子に言いました。これは息子の会社の1つに関しての話で、既に公になっているかと思いますが、もしそうでなければ、カットしてください。
私の息子は、自分の会社の1つに、AuoraのエンジニアVPを採用しました。どうしてこの方は、新卒である私の息子が創業した会社に加わったのでしょうか?
1つ目の理由は、息子がかなり興味深い、大きなビジョンを明確にする一助となったこと。2つ目の理由は、大きなプールがあったからです。息子は、起業する可能性がある人たちに、そのようなプールについて話をしています。
逆の言い方をすれば、あるチームが私の所にプレゼンをしに来たとしたら、判断する際に、私は、そのチームはどれだけすごいか、専門知識が必要な全ての分野において専門知識を持っているかを問います。
しかし、一番重要な質問は、もし、このチームの中の誰かが、チームを辞めて、会社を起業したら、私はその会社に投資をしたいか?という問いです。もし、一つのチームに同じような人が2人いたら、私が投資したいと思うチャンスはゼロです。私がその計画を好きか、好きでないかは関係ありません。なぜなら、彼らは、ただ単に素晴らしい才能を集めているからです。
もし素晴らしい才能か、素晴らしい計画どちらかを手に入れることができるとすれば、私は素晴らしい才能と素晴らしい才能を愛する創業者を選びます。どのような人たちを採用するかというのは、スタートアップを判断する素晴らしい基準だと思います。
Samに話したのですが、前回のYCスクール生の中で、オファーを出した会社が2社ありました。2社ともAIのスタートアップです。もし、「共同創業者に同等な株式を渡すのであれば、あなたが欲しいだけの額の小切手を切ります。もし嫌であれば、投資したくはありません」と私は言いました。
1社はそのオファーを受け、もう1社は受けませんでした。別にそれは構いませんが。私は、真剣に、共同創業者は平等に株式を保有するべき、という考えを信じています。
Bill JoyやAndyなどを例に挙げましょう。彼らは、豊富な経験を持っていない、ただの卒業生でしたが、彼らは会社を立ち上げました。Eric Shmidtは彼らのために働きたいとやって来ました。
最初の10人を採用した時には、履歴書がたくさん送られてきました。会社には素晴らしい人たちがたくさんいたので、みんなが私たちの会社に加わりたいと思ったのです。私とMcNealyはただのビジネススクールを卒業したばかりの若造でしたので、含めませんが。
私はいつも息子に「人を惹き付けるような人材を採用しなさい」と言います。「ただのスタンフォードを卒業したばっかりの若造と、一緒に働きたいという理由だけで入社する人はいないよ」と息子に言うのです。
みんなが一緒に働きたくなるような人材を考えるのです。このように考えながら、10人の従業員から次の30~50人を採用するのです。
株式に関して私が使う大まかな経験則があります。Samが言っていたと思いますが、会社の株式の最低10%は、最初に採用する10人のために残しておくべきです。私は、10%では少なすぎると思います。
180度方向を変えて言えば、もし会社の従業員が50人であれば、創業者たちは3分の1の株式を持ち、創業者の直属の部下が5、6人であれば、その直属の部下たちは3分の1の株式を持ち、残りのエンジニアや従業員は残りの3分の1の株式を持てばいいのです。そうすれば、誰も辞めません。みんな会社に残ります。
Samは自身のブログで、どのようにチームを惹き付けるかについて、良い記事を書きました。そのうちの1つは、成長に関してです。
成長はいつも計測できるものではありますが、成長に終わりはありません。辛い時、あなたが問題に直面した時、仲間が会社に残ってくれる理由は何でしょうか?彼らは、あなたのバリューシステムを信じているから、残ってくれるのです。あなたは何を追い求めていますか?あなたが明確にしている理由は?
興味深くて、野望的なビジョンを持ちましょう。もし、あなたのビジョンが、単にお金を稼ぐことだったら、会社が初めての危機に直面した際に、みんな「あー、お金を稼ぐためにこの会社に入社したのに、儲かってなさそうだなあ」と言って、みんな会社を辞めてしまうでしょう。彼らは、留まろうとはしません。
人々が会社に留まろうと思うただ一つの理由は、自分には素晴らしい仲間がいて、自分よりも優秀で、その仲間から学ぶことができるからです。誰もがこのように感じるべきなのです。
このような企業文化を根付かせるのは素晴らしいことですし、それが行われた企業はすごく上手くいっています。先程お話した、遺伝子プールエンジニアリングの記事は、私が1995年にJuniperを立ち上げた時にまとめました。Ciscoに挑んだ人は今までいませんでしたし、誰も挑みたいとは思っていませんでした。そしてどの顧客も公共回線のためにTCP/IPルーターを購入したいとは思っていませんでした。
ばかげたことのように聞こえるかもしれませんが、1995年当時の記事を読んでみてください。AT&T、Packard Bell、Verizonもみんな当時は、公共回線にTCP/IPを導入しないと言っていました。
私たちはこの大きなビジョンを明確にしました。この、企業における遺伝子プールエンジニアリングのプロセスを作り、今は誰も覚えていないでしょうが、かつての非同期転送モード(ATM)から、インターネットの方向性を変えることに、みんながワクワクしていました。私がこの案件に投資しようと考えていた時、あるシニアエクゼクティブが、絶対にTCP/IPは使わないと言いました。
これが、通信事業者のやり方であり、伝統的な知恵の回り方なのです。しかし、この状況を変えるために、素晴らしいチームが必要になるのです。Pradeep Sindhuは、私が出会った素晴らしい創業者のうちの1人ですが、彼は素晴らしい会社を立ち上げただけではなく、私から見れば、インターネットにおけるプロトコルの方向性を変えた人物でもあります。彼がいなければ、今私たちは違うプロトコルを使っていたかもしれません。
もし、各社がバラバラの方向性を示していたら、恐らく今頃、ATMを使っていたかもしれません。ヨーロッパのDeutsche TelekomからAT&Tまでの全ての通信事業者がTCP IPではなくATMを使うと最初は言っていたので。素晴らしいミッションに、一緒に働く素晴らしい仲間。だから、チームに仲間が必要になるのです。
機能的採用
Anu Hariharan
なるほど。機能的採用についても伺いたいと思います。というのも、それは素晴らしいチームを作るための要素でもあり、さらに、創業者は、その人の全体像や適合度よりも、プロダクトレベルでの、その人の能力を優先してしまう傾向にあると思うからです。採用について、創業者はどのように考えるべきだと思いますか?
Vinod Khosla
そうですね、質問にはお答えしますが、その前に、もしあなたが創業者になるとして、あなたは技術者でしょうし、技術的な何かブレークスルーとか、大きなアイディアを基礎に会社を立ち上げるでしょう。
そうすると、マーケティングのVP(ヴァイスプレジデント)やCFOが必要になってきます。先ほどの質問に戻りましょうか。この部分は私の採用の技術(art of hiring)という部分で説明していますが。あなたは誰がマーケティングのVPとして、またはCFOとして相応しいかを判断する基準を持っていません。なにせ初めての経験ですから。そのことに気づかなければなりません。
自分が何を知らないかを理解することは非常に大切です。そして、創業者が行う一番大切なことの一つは、どのトピックに対して、誰の判断を信頼すべきかを決めることです。ただ友達に聞くというのはダメです。なぜなら、彼らには判断する資格がないかもしれないからです。
実際、スタートアップ創業者の中には、採用をする際に、遺伝子プールエンジニアリングに基づいた採用ではなく、ただ単に友人を採用する場合がありますが、それは、ポストと才能を無駄にしていることになります。機能的採用の話に戻りますが、これについては、どのようにして大勢を面接して、どのように判断を下すかの概要をまとめた私の論文があるので、それも参照してみて下さい。
もし、エンジニアリングのVPが必要なら、エンジニアリングプロジェクトを統括した経験のある人を探します。もしあなたが創業者で、自分の経験は浅く、未開の新分野において、画期的なアイディアを持っている場合、まず明らかなのは、エンジニアのチームを作り、それを実行しなければならない、ということです。
それ以外に必要なものは?それは、あなたの計画の反復における方向転換や変更を評価する手助けをしてくれる人です。
たとえば、エンジニアリング技術の素晴らしいVPや、マーケティングに精通したマーケティングVP、営業力のある営業VP、CFOを採用するとして、それぞれが、自分の分野の仕事に精通しているとすると、誰が、あなたの進むべき道について助言を与えてくれるのでしょうか?
エンジニアリングのVPはマーケティングのVPにも影響する
私がいつも言うのは、あなたたちはそれぞれの機能を遂行できる人が必要であるということ。しかし、そういった機能を有する人を採用する時により重要なことは、意図的にせよ無意識にせよ、それ(意図していた必要な機能)以外の何かも付いてくるということです。
エンジニアリングのチームをうまく機能させることができる人よりも、重要な意思決定、つまり、会社としてどのよう道を選択して行くのかという議論に参加してくれる人材を見つけることです。
次のような質問を自分に聞いてみてください。一人のエンジニアリングのVPを採用するとして、そのことがどのように現在のマーケティングのVPに良い影響を与えることができるのだろうか?
根本的な第一原理の質問をする方法があります。Elon Muskの本はとても参考になります。彼は、自動車組み立てやロケット打ち上げについては、ほとんど知識がありませんでしたし、避けることもできたはずのおかしな失敗もたくさんしました。
しかし、もし、彼が自動車組み立てやロケット打ち上げに関する経験や知識を持っていたら、彼は自分が成し遂げたことを、そもそもやろうとは思わなかったでしょう。私は、むしろ、Elon Muskのように、「私たちはどうして、この方法でこれをやっているのか?」というたくさんの質問を根本的にできる人が欲しいです。
ゼネラルモーターズで50年間やってきたから、というのではダメなのです。考えてみて下さい、ゼネラルモーターズの方がテスラより多くのお金と時間をかけて、早い段階からEV1という電気自動車を開発してきました。一方、Elonは経験はありませんでしたが、たくさんの質問をし、失敗をしながらも素早く適応することによって、ゼネラルモーターズよりもテスラの方がとても面白い会社という今日の日を実現したのです。
採用候補者がどのように行動するかを考える
機能的採用について考える時、他の要素についても考えてください、それがより重要なことなのです。「あー、どうしてあれを思い付かなかったんだろうか?」と嘆く前に、彼らがどう考えるのか、彼らがどれくらいあっという間に変化して行くのか、そしてあなたが難しいアイディアに挑戦しようとした時にどれくらい保守的になるのかを考えてみてください。もしくはもっとブレインストーム指向で考えましょう。
機能的採用を行うと同時にこの水平採用(horizontal hiring)を行います。そして、より重要な局面では、垂直採用(vertical hiring)というものがより重要になってきます。
ところで、ベンチャーキャピタルは、会社を作り上げる経験をしたことがないので、この採用については期待できません。なので、良いアドバイスはくれないでしょう。「セールスチャネルについて専門知識がある人材を探してこい」と何度ベンチャーキャピタルが言っても、私は、それよりも、よき理解者を探します。
ブレイントラストを採用する
業界に染まっていなくて、流動的で、ダイナミックで、進化的で、その会社のメソッドを考えてくれるような人です。あなたが採用をする時、何よりも、あなたはブレイントラスト(=brain trust、優秀な相談役)を採用するのです。
そして、そういった人たちが、たまたま、機能的な仕事をするスキルも備えているのです。ブレイントラストは機能的な仕事よりも重要です。しかし、そのようなブレイントラストを評価するのはとても難しいのです。難しい一因は、自分の専門外の知識を持った人を評価する方法を知らないからです。
CiscoのマーケティングのVPを呼んだとします。別に、Ciscoに目をつけているという訳ではないのですが、Ciscoはマーケティングに関しては、スタートアップに必要な観点とはかなり異なる考えを持っているので、ここで取り上げるのには良い例かもしれません。Ciscoの人たちは、あなたに間違ったアドバイスをすると思います。
ここが厄介な所なのですが、役職や地位に過剰に影響されないこと、どうしてある特定のことをしたのか、そして、それについてどれだけ考えたのかを理解すること、どんな独特なことをしたのか。これはとても難しく、人をどのように評価したかというこのような質問を後で戻ってすることはとても難しいのです。面接を受ける人で、一番経験がある人は、あなたの質問に対する、正しい答え方を知っています。
そういう人たちは、あなたを惑わせるのです。「どんな実績がありますか?」とあなたが聞けば、彼らは、過去のすごい戦略などを振り返り、「こういった実績があります」と言うでしょう。実際、Sunmicro Systemsのマーケティング戦略を私に売り込んできた人がいました。
同じ内容の質問を、言葉を変えて3回質問する
私の採用ノートには、質問のリストがありますが、それは非常に間接的で、真相を究明するようなやり方です。例を挙げましょう。私は、同じ質問を、異なる3つの聞き方でします。
まず、面接のはじめに、「何をするのが好きですか?何が得意ですか?」という1つ目の質問をします。何かしら答えが返ってきます。そして、仕事の話を始めた後で、「前職ですごく上手だったことはなんですか?」という2つ目の質問をします。
もし、その人が作り話をしていたら、1つ目の質問と、2つ目の質問の答えは同じにはなりません。3つ目は「もし、当社に入社したら、あなたの強みは何だと思いますか?」と聞くでしょう。このように、3つの異なる方法で、3つの異なるコンテクストで、本質的に同じ質問をするのです。
もし、その人が作り話をしていたら、全て違う答えが返ってくるでしょう。本質的に真実を言っている人からは、正しい答えが返ってきます。
そして、面接の最後に、「上司はあなたのことをどのように言いますか?」と聞きます。これも、先ほどの質問と本質的に同じなので、4回目の質問になります。何か答えが返ってきたら、「では、あなたの上司から、あなたのパフォーマンスレビュー(業績評価)をもらって良いですか?」と聞きます。
もし、ノーと言われたら、その人はそれを見せたくはないのです。私が使っているこのようなトリックは100 個くらいあります。誰かを面接する際に、面接者から得られる直接的な解答だけに頼ってはいけません。それが、一番難しい点です。なので、みんなで集まって、それぞれの人が考えた事を確認するのが良いのです。
バイアスを減らす
採用活動における他の落とし穴もあります。もし、急いでいる日に、誰かを面接して、評価する場合と、土曜日の午前中にコーヒーを飲みながら同じく面接と評価をした場合では、違う評価をしてしまう事に気がついたのです。他にも気をつけなければいけない事は、あなた自身の1日がどんな日だったか、または自分のそのときの考え方によって、どのようにして評価するかも変わってしまうということです。
なので、重要な役職の採用面接を行う際は、自分の偏見を持たないように、同じ人に3回、しかも違う日に面接を行うようにしています。
なぜなら、あなたも、私も、人間はみんな偏見を持ってしまう生き物だからです。たくさんの落とし穴があるのです。これだからスタートアップを経営するのは難しいのです。とにかく、みなさんからの質問を受け付けます。すみません、長々と話してしまって。6時間でも話し続けられるのですが。
採用がうまくいかない理由と、その対処策
Anu Hariharan
もう1つだけ私から質問をして、そのあと質疑応答に入ります。そのノートにはたくさんの質問があって、面接のためにそのノートは回覧しますが、先ほどのお話の中で、これらのプロセスに従っても、失敗は避けられないと仰っていましたよね。少なくとも、3分の1の確率で、採用は上手くいきません。
採用が上手くいかない一般的な理由と、創業者がその状況にどう対処したら良いか、考えを教えて頂けますか?というのも、このような問題に関して、待ちすぎて解決できないスタートアップも中にはいるからです。
失敗を前提に多めに採用する
Vinod Khosla
もし、採用されたいのであれば、面接でその人がやるべきことは、面接官を惑わすことです。そこで大事なのは、その候補者の方があなたを惑わすのが上手か、または、面接官であるあなたの方が、言葉の影に隠れることが上手か?ということです。
私は、とてもたくさんの人たちを採用してきました。恐らく、毎年、何百という採用面接を行っていますが、その成功率は約65%です。私が間違っているかもしれませんが、経験が浅い人の方が間違っていることがよくあるということが分かりました。もし、あなたが若い創業者なら、あなたが面接をする人は、人を惑わす経験があなたよりもあるからです。
これはゲームなのです。私たちは文化や、その他のことについても話しますが、候補者が失敗する理由があります。しかし、表面下で深掘りすることは出来ません。まず、今何が起きているかを計画する必要があります。
よく私のチームには「チームに4人必要なら、6人採用しなさい。必要のない役職を作ってもいい」と言います。そう、絶対に成功しないのだから、私はいつも必要な人数よりも多くの人を採用するのです。採用は長いプロセスです。スタートアップで、科学技術者またはシニアエクゼクティブなどの重要な人材を採用する時、簡単にあっという間に6ヶ月以上かかってしまう場合もあるのです。
そして、もし失敗をしたら、1年間を無駄にしてしまうのです。その間に、使えない人たちを採用してしまうのです。これは非常にコストがかかります。そういう訳で、新しい人たちをしっかりと観察し、どんな仕事ぶりかを評価する必要があるのです。そして、取締役会と投資家は、この点においてもっと、ベンチャー起業を支援していくべきだと思います。
私は、自分をベンチャーキャピタリストと呼んだことは1度もありません。それより、ベンチャーアシスタントと自称していますし、私の会社のキャッチフレーズも、ベンチャーアシスタントです。私はベンチャーアシスタントの仕事が大好きですし、今までの時間をかけてずっとやってきたことでもあります。
私は、ベンチャーキャピタルの会合や金融系のカンファレンスに行ったことはありません。私は、ただ、創業者と、その創業者が採用しようと思っている候補者に会うことに時間を使っています。ところで、この仕事は想像以上に楽しいですし、たくさんのことを学べて、ワクワクしますよ。
素晴らしい人材には役職を作って採用する
人材は多めに採用してください。その裏面で、素晴らしい人材を見つけたら、役職を作り、その人を採用して下さい。2つ目に、素晴らしい才能がない人は、採用しなくていいです。そのためのポストはありませんから。素晴らしい人材には、役職を作ってしまえば、そのうち、自分で利益を出して、自分の給料を賄えるようになります。
しかし、いくつか例外もあります。素晴らしい才能を持った人材を採用するのに高くつきすぎるという事はないのです。私は色々とバカなこともやってきました。実は今日、役員を採用しようとしていて、今朝あるベンチャーキャピタリストと議論をしていました。
「彼の会社は彼に対して、上場するというオファーを出している。じゃあ、我々は、このスタートアップから1,500万ドルを彼に保証しようじゃないか。優先株式と、どっちが良いか選んでもらおう。」と私は言いました。
私は、素晴らしい才能を採用するためなら、どこまでもやります。1人の従業員に対して、投資家のお金である優先株式を超えて、1,500万ドルの選択肢を与える人なんて、誰も聞いたことがないでしょう。
でも、私は同じようなことを何度かやったことがあります。失敗に備えて計画をし、新しく入社した人を評価して下さい。もう一つ、もし誰かを採用して、やっぱり止めたいと思ったら、その人材を会社に馴染ませるようにして下さい。
もともと、会社に合わなくて失敗してしまう人もいますが、あなたが会社に上手く馴染ませようとしなかったから失敗してしまう人もいるのです。もし、ある事業で、とても経験がある人がいて、あなたが、その事業分野で新しい人材を採用する時、どのように、その新しい人材を会社に馴染ませるか、その経験者からアドバイスがもらえます。
その新しい人材またはその事業を知っている人と比べて、あなたは、彼らがどんな違うことをしているか考えてしまうかもしれません。その新しい人材は、普通とは違ってくるのですから、そういった人たちをどのようして、あなたの会社に馴染ませるかアドバイスをもらった方がいいです。
彼らは、あなたが実現させようとしている多様性そのものなのです。あまりにも同一化した会社というのも嫌でしょう?
彼らがあまりにも周りと違う行動をして、物事を違ったふうに行うからといって過剰反応するのではなく、それよりも、彼らをどのようにして成功させるかというアドバイスをたくさんもらい、彼らが会社に馴染むように手伝ってあげることが重要なのです。
あなたの投資家で、良い投資家がいれば、それを手伝ってくれるでしょう。それが、私にとって、良い投資家がもたらしてくれる本質的な価値でもあります。とにかく、質疑応答の時間にしましょう。
Q&A
専門知識が必要な領域
Speaker 3
Elon Muskと彼のビジネスの宇宙ロケットとテスラについてお話をされていましたが、そのうちの一方は専門知識が必要で、もう一方は必要ないのはどうしてだとお考えですか?
Vinod Khosla
違った質問ですね。まず、Stripeは本当に素晴らしいチームを採用したと思います。実は、Stripeの共同創業者が今はOpenAIを運営しています。彼は、大学を中退したけれどもとても強い人を採用しました。
Patrickは自分のチームとなる周りの人を採用しましたが、みんな素晴らしい人たちでした。その一方で、TheraNestは、創業序盤で、このようなことはしませんでした。今日は、文化的な側面については触れませんでしたが、実は、文化的な側面はとても大切になってきます。
優良な企業は、自分たちの問題を認める企業だと私は思います。「解決しなければならない問題は何だろうか?」と自分に問いかけるのことが大切なのです。TheraNestは創業当初、問題を隠そうとしていました。自分たちを取り巻く問題について、議論することを奨励しませんでした。その点が違ったのだと思います。Elizabethはたくさんのことを学んだと思います。
もし、彼女が別のスタートアップを始めるとしたら、次はもっともっと上手くいくでしょう。自分のスタートアップが素晴らしいということを外の世界にアピールしようとする際に、自分の弱みを認めたがらない傾向にあります。それは危険なことなのです。
実際、多くのスタートアップが、負債よりも資産の方にかなり多くの時間を費やしています。しかし、あなたの資産があなたを成功へ導くよりも早く、あなたの負債があなたを破滅に向かわせることもあるのです。
一般的にスタートアップを始めたばかりの頃は、チームが団結しているため、まとまって考え、そしてリスクを見落してしまう傾向にあります。だからこそ、たくさん質問をする姿勢を奨励するべきなのです。それが文化というものです。今日は、文化については深く触れませんが、正しい価値観や、どうして自分はここにいるのか、自分のミッションは何か、どんな文化か、ということを確立することが重要です。そうすると、ランチメニューにいいアイテムを追加するのが文化だという人が出てきますが、それは文化ではありません。
私は犬が大好きですが、職場に犬を連れてくるのを認めるというのも文化ではありません。文化というのは、根源的な価値観であり、どう行動するか、なにを奨励するかということなのです。
組織において、質問ができる人が全ての階層で増えるほど、あなたはより早く、より多くのリスクを特定することができます。そして、より建設的な文化ができれば、あなたはより成功するでしょう。もう一つだけお話して終わりにしますね。
私が好きな、Samの言葉を紹介します。「スタートアップは合格か不合格かのゲームだ(start-ups are a pass fail game)」と彼は言いました。彼のこの言葉は、私がここで言いたいことを全て要約しています。私は、スタートアップは、希薄化ではなく、成功の可能性だと思うのです。
スタートアップは、あなたが思うよりも、本質が抽出されています。素晴らしい人材を採用したり、たくさんの質問をしたり、初期の段階でリスクを発見したり、問題に直面したりすることによって、成功の可能性は高まります。
あなたが成功するかしないかは、やはり可能性次第なのです。
みんな、希薄化を心配し過ぎて、共同創業者や、共同創業者になるべき可能性がある立ち上げ初期のメンバーに、多くの株式を分配しないでいるのです。このような現象は、最近のAI関連のスタートアップに多く見られます。最近のAIスタートアップは、AIの会社にも関わらず、AIの知識がある優秀な人材は採用しないのです。なぜなら、GoogleにいるAIや機械学習の平均的な人材は平均でも75万ドルくらいの給料をもらっています。そのような人材を採用するにはどうしたら良いか?自分を騙して、そのような人材なしでもやっていけるフリをすることです。すみません、他にも質問があるようですね。
履歴書のどこに注目するか
Speaker 4
先ほど、土曜日に履歴書を見ていると仰っていましたよね。もし、初期に、技術者またはビジネスディベロップメントの役職を探しているとして、30秒〜1分くらいでそれぞれの履歴書にサッと目を通すとしたら、どこに注目しますか?
Vinod Khosla
どこに注目するか?
Speaker 4
はい。
Vinod Khosla
まず、分野が何であろうと、その分野に関して独創的に考えることができる人かどうかに注目します。
Speaker 4
具体的に、もしLinkedInを見ていたら、どのようにして見ていきますか?
Vinod Khosla
LinkedInですか、多分、私は時々、「あなたの専門分野で、最近読んだ論文で興味深かったものは何ですか?」という質問をします。もし、多様性がなければ、答えは1つですし、多様性があれば、それは私の100の質問のうちの1つになるでしょう。
私は、最近読んだ本は何か、といった単刀直入な質問をします。そうすることで、彼らがどのように考えているか分かりますし、スタートアップにとって、それは暗号化アルゴリズムを知っていることに加えて重要なことなのです。Annu、時間になったら教えてください。それまでは質問を受け付けますので。
Anu Hariharan
次で最後の質問にしましょう。
アドバイザーの価値
Speaker 5
ゼロから起業した初期のスタートアップにおいて、テクニカルアドバイザーやアドバイザリーボードを活用することは価値があることだと思いますか?
Vinod Khosla
もちろん、アドバイザリーボードのテクニカルアドバイザーを活用することは価値があることだと思います。重要なことは、彼らの意見を聞くことであり、彼らを尊敬し過ぎてはいけません。これがまた難しいジレンマなのです。
あなたは彼らに問題を表面化して欲しい、しかし、創業者としては第一原理を使っている。そんな時、私は「自分はこれを信じているか、信じていないか?これとあれとでは、どちらにより重きを置けばいいか?」と自問します。これはとても重要であると同時に、とても難しいのです。これが起業家精神を難しくしているものでもあります。とても楽しいのですが、本当に難しいのです。
私が作ったプレゼンですごく良く出来たものがあります。1986年に題名を思い付いたのですが「起業家ジェットコースター(the entrepreneurial rollercoaster)」というタイトルで、スタートアップにおける浮き沈み、とくに沈むときはどん底まで沈むのだということなのですが、このプレゼンは我が社のウェブサイトにも掲載されています
Anu Hariharan
そうですね。Vindo、本日はお時間を頂き本当にありがとうございました。
Vinod Khosla
みなさん、ありがとうございました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
動画: How to Build and Manage Teams - CS183F (2017)
トランスクリプト: How to Build and Manage Teams - Vinod Khosla