ユーザーに愛される製品を作る方法 (Startup School 2014 #07)

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私が考える「ユーザーが愛してくれるプロダクト作り」とは、具体的には、「熱心なユーザーに支えられ、ユーザーがプロダクトとその作り手である会社の両方の成功を無条件に応援してくれるようなプロダクトを作り出すこと」です。

この講義では非常に多くの情報を共有したいと思いますが、ノート取りにあまり夢中にならず、とにかく聞いてください。

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後ほど私のTwitterアカウントにスライドのリンクをアップしておきますが、スライドに皆さんがコメントを残せるようにします。最後に質疑応答の時間がありますが、時間が足りない場合には講義の後にお答えします。

成長についてのシンプルな考え方

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この数週間、皆さんは成長について様々な話を聞いてきたと思いますが、私は成長というものを非常にシンプルなものとして捉えています。

成長は、コンバージョン率とチャーン率(解約率)という2つの概念または変数の相互作用だと言えます。これら2つの間のギャップは、会社がいかに速く成長するかを如実に表しています。

大半の人、特にビジネスパーソンは、この相互作用を非常に数学的に、計算可能なものとして見る傾向があります。しかし今日の講義では、これらのことをより人間的な尺度で説明していきたいと思います。

スタートアップでのユーザーとのやり取りは、特にアーリーステージにおいて親密なものであるため、プロダクト作りを検討するにあたって数学などから離れた別の切り口があると思うのです。今日は様々な事例を紹介しながら、どのようなプロダクト作りが成功を収めているかを説明したいと思います。

10億ドルの企業価値になるためには、最初の1ドルを生み出すことが大事

スタートアップに関する講義で多くのことを教えるにあたって、私が信念としていることがあります。

10億ドルに到達するためには、最初のユーザー、ひいては最初の1ドルが獲得できるような価値を生み出すことにフォーカスすることが何より大切だということです。

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このことを正しく理解できれば、他のすべてのことがうまくいくでしょう。これはいわば信仰のようなものです。

自己紹介

私はYCを卒業したのち、パートナーとしてYCに加わりました。

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Winter 2006と呼ばれるプログラム(YC史上2つ目のプログラム)に参加し、Wufooと呼ばれるプロダクトを作りました。

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Wufooとはオンラインフォームビルダーで、それを使って連絡フォームやオンライン調査、シンプルな決済フォームを簡単に作ることができます。

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基本的にはデータベースアプリですが、見た目はFisher-Priceのようなデザインになっています。

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さらに注目すべきは、Wufooが結構使い易かったためにFortune 500の大半を含むありとあらゆる産業市場およびバーティカル領域で顧客を獲得できたことです。

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私がWufooの経営に5年間携わったのち、2011年に会社はSurveyMonkeyに買収されました。この買収は当時非常に注目を集めました。

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当時のWufooはわずか10人のチームで、Y Combinatorを通じてここシリコンバレーで資金調達をしましたが、私たちは実はフロリダで仕事をしていました。

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Wufooにはオフィスもなく、社員全員が在宅で仕事をするという世間では珍しいアウトライヤーだったのです。

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ここに示した各ドットはIPOまたは買収によりイグジットしたスタートアップを表しており(PowerPointのスライド)、左のほうに突出しているのがWufooです。

横軸はスタートアップの資金調達金額、縦軸は当時の各社に対する評価額をそれぞれ表しています。

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これらのスタートアップについて平均値をみると、資金調達金額は約2,500万ドル、投資家への還元率は約676%です。Wufooでは、資金調達金額は合計で約118,000ドル、投資家への還元率は約29,561%でした。

プロダクトにフォーカスしたから成功できた

多くの人が、Wufooが他の会社と異なる理由、あるいは私たちの独自の経営手法に関心を寄せています。その答えの多くはプロダクトへのフォーカスにありました。

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私たちが作りたかったのはユーザーがただ使うためのソフトウェアでも、根本的にはデータベースアプリであるために仕切られた空間での作業を連想させるソフトウェアでもありませんでした。

作りたかったのは、ユーザーが愛したくなるような、付き合いたいと思えるようなプロダクトでした。

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私たちはこの考えに対するアプローチを突き詰めていき、ある意味科学的なものにまで到達しました。たどり着いたのは、スタートアップでユーザーに愛されるプロダクトを作りたい場合に注目すべきは、実生活では愛や無条件の感情は手に入れるのが困難であるということ、そしてスタートアップではそれを大規模にやる必要があるということでした。

人間関係の作り方を、ユーザーとの関係の作り方に活かす

そこで私たちはまず、「現実世界では人間関係はどのように機能しているのか?それらを自社の経営やプロダクト作りにどう応用できるのか?」を解明することからスタートしました。

では、新規ユーザーの獲得はデートに誘うこと、既存ユーザーとの関係は幸福な結婚、にそれぞれ例えることができることについてこれから説明します。

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人間の関係の場合

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デートの場合、明らかになってきたのは、多くは第一印象と関係しているということです。ファーストキス、馴れ初め、プロポーズなど、皆さんも最初のストーリーについて話すことが多いことでしょう。人はこういったトピックについて何度も繰り返し語り、こうした恋愛関係に関する話は口コミで伝わっていきます。

会社についても同じです。人間は関係を作り出す生き物で、何度も接するものを作り出し擬人化せずにはいられません。私たちが運転する車であろうと、身に着ける衣服であろうと、作業で使うツールやソフトウェアであろうと、やがて私たちはそれらに特徴、すなわち個性を与え、それらが一定のふるまいを見せることを期待します。そのように私たちはそれらと関わり合っていきます。

何らかの関係が始まる時の第一印象は重要です。その手の話を繰り返し人に話すでしょう?人はそうした最初のストーリーに特別な思い入れがあるものです。例を挙げて説明しましょう。

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誰かと初めてデートをして、素敵なディナーを楽しんでいるとします。

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しかし、相手が鼻をほじっている姿を目にしたら、その相手とまたデートすることはおそらくないでしょう。

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一方、結婚してから20~30年もたって配偶者がバーカラウンジャー(高級リクライニングチェア)に座って、金を発掘して(鼻をほじって)いたとしても、すぐに弁護士に電話することはないでしょう。「問題がおきたので離婚届を準備してください」なんて騒ぎ立てず、「少なくとも彼は金のハートの持ち主だから(優しさや思いやりはあるから)」と肩をすくめるだけです。

ユーザーとの関係の場合

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最初のやり取りというのは合否判定の基準が非常に低いのです。私たちが使っているソフトウェアやインターネットソフトウェア内のプロダクトの大半は第一印象が非常に明確で、多くの会社がマーケティング担当の仕事に気を配っています。

私が思うに、プロダクト作りが非常に得意な人は他に多くのやり取りの機会を発見し、記憶に残るものにできます。

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初めて受信したメール、最初にログインした時に起きたこと、リンク、広告、カスタマーサポートとの初めてのやり取りなどはすべて、ユーザーの心をつかむチャンスとなります。

品質の考え方

では、最初のやり取りについてどのような切り口で検討するべきでしょうか?これについて、私たちは実は日本のコンセプトを採り入れました。

完成されたプロダクトが「品質面で優れているか?」を測る表現として、日本には2つの言葉があります。

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「当たり前品質」と「魅力的品質」です。

前者は「備わっているのが当たり前と受け止められる品質」という意味で、いわば機能性に関する表現です。後者は「人々を魅了する品質」という意味です。

ペンを例に考えてみましょう。ペンの重さ、インクの出方、ペンで書かれた文字を目にする人の感じ方など、ペンを使った人とその副産物を体験する人両方に好感され、さらに上のレベルに発展していくものを「魅力的品質」があると言います。では、いくつかの例を見てみましょう。

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これはWufooのログインリンクで、恐竜が描かれていて、私もとても気に入っています!

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それにカーソルを合わせると、ログインの仕方や機能ではなく「RAWRR!(恐竜の鳴き声)」という文字が出てくるおまけ要素のスペックとなっています。

ユーザーの表情を意識する

ユーザビリティ初期段階で私たちは、これを見たユーザーは一様に思いがけず笑みを浮かべることに気づきました。多くの場合、プロダクトを評価するに際し、「これに触れるユーザーはどんな表情を浮かべるか?」などと考えないと思います。

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これはVimeoのログインページです。少し前のバージョンですが、これが最も美しいログインページだと私は思います。「これから体験することは一味違う」と感じさせてくれる画面で、Vimeoは至る所にそうした仕掛けを施しています。

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例えば「おなら」という言葉を検索した場合、画面を上下にスクロールさせるとおならの音がします。このサイトでユーザーが体験するもののように、他ではみられない何かが、魔法をかけるように差別化をもたらすのです。そしてユーザーはそれについて誰かに話したくなるのです。

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こうした差別化はプロダクトのデザインに限った話ではありません。これはワイン愛好家向けSNSだったCork'dの会員登録フォームです。

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ここには、「メールアドレス ― あなたのログイン名で、合法的なものであることが必要です。ファーストネーム ― 母親があなたを呼ぶときの名前です。ラストネーム ― 軍の仲間があなたを呼ぶときの名前です。パスワード ― 忘れてはいないけれど、思い出しにくいものです。パスワード確認 ― テストだと思って再度入力してください。」と書いてあります。

フォームに入力するユーザーにとってはまさしくポエムです。そして、「こんなこと考える面白い人が作ったものなら、楽しいことがありそうだな」と感じてもらえるでしょう。

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ではこのようなフォームに入力する時、ユーザーが感じ取ることができるのは、作り手のどのような性格でしょうか?私が残念に思うのは、Yahoo!が傘下のあらゆるプロダクトやサービスについて、同じログインフォームの使用を強制していることです。

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最高だと思ったのはFlickrの行動喚起で、「入りなよ!(Get in there!)」というものです。

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古いバージョンだと思いますが、これはHerokuの会員登録ページです。このページで注目すべきは、バックエンドサービスのスケールアップなど、やりたいと思うことが頭に浮かんできたときに、色々なノブやレバーを上下にドラッグさせるだけで実行することが可能で、スケールアップが実に簡単に見えることです。

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これはコンピュータサイエンス関係の人のためのものですので、皆さんも気に入ると思います。これはコードエディタのChocolatで、このサイトでの行動喚起は1つだけです。

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制限時間が来てもすべての機能をそれまでどおり使えるのですが、フォントだけがComic Sans(英語圏における「ダサい」フォントの代名詞的存在)に変わってしまうのです。つまり、「私たちは知っています。当社のユーザーなら、真の顧客なら、このフォント変更には耐えられないことを」というメッセージを投げかけているのです。

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これはHTTPリクエストをチェックするウェブサイトのHurlで、エラーが出た時が最初の出会いのチャンスです。

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例えば404エラーの場合、こんな画面(ユニコーンが虹を嘔吐している画像)になります。

ドキュメントにデザイン性を入れる

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私たちがやりがちなのは、実に見事なマーケティング素材を作りながら、実際にドキュメンテーションが必要な時にデザイン性に気を使わないことです。これは世の中で多々見受けられることです。

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これをよく理解している会社がMailChimpで、すべてのヘルプガイドをデザインし直し、雑誌の表紙のようにしました。すると、一夜にしてそれらのすべての機能の読者は増え、一方でメールの最適化をサポートするこれらの素材に関するカスタマーサポート業務は減りました。

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ドキュメンテーションと言えば、Stripeがあります。API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)企業の興味深い点は、UX(ユーザーエクスペリエンス)がないことです。

ここでのUXはまさにドキュメンテーションのみですが、ドキュメンテーションにおいても見る者を魅了し驚かせる機会があります。Stripeに関して私が気に入っていることの1つは出てくる見本例が素晴らしいことです。

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このアプリにログインする大抵の人にとって非常に苦痛なことの1つは、APIで作業する時のAPIクレデンシャルとキーの取得です。

だからこそ衝撃だったのが、「このアプリにログインすると、あなたのAPIクレデンシャルは自動的に見本例として表示されますので、APIを利用する際は1度コピー&ペーストしておけば大丈夫です」という一文です。

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斧が手に入るコンテスト

WufooのAPIの第3版を公開しようとした時、私たちは「ようやくユーザーの使用に堪えるものができた」と思いました。公開に際し、私たちの個性を打ち出せる方法を模索していました。世間ではiPadやiPhoneを賞品にしたAPIプログラミングコンテストのようなものがたくさん開催されていたため、同じようなことをしても差別化できないと考えました。

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当社では共同創業者が大の中世マニアということで一風変わった共通の価値観があり、毎年設立記念日にはMedieval Times(中世時代を演出したディナー付きショー)に社員全員ででかけるほどです。

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私たちはこの路線で行こうと思い、armor.comに「特製バトルアックス(戦斧)を作ってもらえないか?」と頼み、これをプログラミングコンテストの優勝賞品にすると発表しました。

これは世間の反響を呼び、「あの武器をもらうためにプログラミングしてるんだ」と言いたい人たちの口コミで広がりました。嬉しいことに25以上のアプリケーションが集まり、その品質と数は、当時の私たちの限られた予算と時間では到達不可能なものでした。

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iPhone用アプリ、Android用アプリ、WordPress用プラグインなどでの応募がありましたが、私たちは、ユーザーと当社サービスの1つとの出会いという最初のストーリーがどう伝わっていくかに変化をつけただけなのです。

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これを理解するには、とりあえずLittle Big Detailsに登録することをお勧めします。このサイトにはユーザーや顧客への細かい心配りが感じられる優れたソフトウェアのスクリーンショットがたくさん掲載されています。

ユーザーと長期的関係(結婚関係)を築く

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長期的関係、つまり結婚に関して、唯一参考となった研究はJohn Gottmanによるものでした。GottmanはMalcolm Gladwell著『This American Life』などで紹介されているシアトル在住の結婚を研究テーマとする研究者です。

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彼は、夫婦が喧嘩している15分間の映像を見るだけで85%の精度で今後4年間のうちに離婚するか否かを言い当てるという面白い特技を持っています。

さらに、映像の時間を1時間にして夫婦に夢や希望についても語るよう促すと、予測精度は94%に高まるそうです。同じ映像を結婚カウンセラー、おしどり夫婦、社会学者、精神科医、司祭などに見せても、夫婦が離婚するか否かは全く当てられないそうです。

つまりJohn Gottmanは、長期的な関係が持続するために最も重要なこととは何か、そして短期的な争いからでもその関係性の全体的特性やその行方を把握し得ることについて理解を深めているのです。

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彼が発見した驚くべきことの1つは、仲の良い夫婦は全く喧嘩しないのではなく、どのような夫婦も喧嘩をし、お金、子供、夜の営み、時間、その他(嫉妬や親族など)といった同じ原因で喧嘩するということでした。

これら一つ一つは、プロダクト作りにおけるカスタマーサポートで見られる問題にあてはめることができます。お金で言えば、価格が高すぎる、クレジットカードで問題が発生している、という話です。子供はユーザーのクライアントです。夜の営みは、持続時間や速さというパフォーマンスの問題です。嫉妬や親族を例として挙げたその他は、競争やパートナーシップ。

このような分野で問題が起きると、人は不満を訴えるのです。

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そして、カスタマーサポートという観点から私がこれらについて考えたいのは、誰もが通過するコンバージョンという漏斗のような過程において、カスタマーサポートは各ステップ間で発生するものだからです。これこそ人が前に進めない理由、ひいてはコンバージョンが妨げられる理由なのです。

関係を作るためにフィードバックのループを機能させる

こうした考えを巡らせ、会社を立ち上げた私たちは、世の中でみられる会社の立ち上げ方やエンジニアリングチームの作り方に大きな問題があること、つまりフィードバックのループが機能していないことに気づきました。

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人は自らの行動の結果として離婚します。大半の企業における会社設立、特に技術系の共同創業者による設立からの自然進化の結果についても同様のことが言えます。

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立ち上げ前は、喜びに満ち、心は澄みきり、チャンスに溢れています。自分は何も間違っていない。自分の手がまるで神の手のように、書くものすべて、書くコードすべてが完璧に思え、自分は天才のように思えます。

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しかし、立ち上げ後は現実に直面し、他のすべての仕事、対処せねばならない仕事が降りかかってきます。すると、技術系の共同創業者は最初の状態に戻りたくなります。

そしてスタートアップの基盤形成に不可欠な他のことを切り離し、他人にやらせるようになります。それらの他の仕事は低級な仕事だから社内の他の人間にやらせよう、と思うのです。

サポート駆動開発

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私たちが目指しているのは、責任、説明責任、謙虚、節度など昨今十分に語られていない価値観を反映させたソフトウェア開発をどう実現させるか、ということで、私たちはこれをSupport Driven Development (SDD)(サポート駆動開発)と呼んでいます。

これは高品質のソフトウェアを生み出す方法ですが、非常にシンプルです。大量のポストイットは必要ありません。

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ただ、社員全員にカスタマーサポートをやってもらうだけです。

こうすることで、フィードバックが機能するようになります。

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ソフトウェア開発者をサポートに参画させることで以下のような良い結果が生まれます。

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その中の1つが、開発者と設計者が責任感を持ってサポートにあたることです。プロダクトを作った者こそが優れたサポートスタッフとなります。

このような発想をしたのは私たちが最初ではありません。

KAYAKの例

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KAYAKのPaul Englishは、この考えを強く支持していました。

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彼はエンジニアリングスタッフがいるフロアの中心にカスタマーサポート用の赤電話を引き、サポートに関する電話が来たら鳴るようにしました。

「カスタマーサポートをもっと少ない給料でやってくれる人がいるのに、なぜ120,000ドル以上の給料を払ってエンジニアにやらせるのか?」とよく聞かれた彼は、「2~3回続けて同じ問題について電話の問い合わせを受けたエンジニアは、今やっている仕事を止めてバグを直す。そうすると、その問題に関する電話は掛かってこなくなる」と答えました。これはQA(品質保証)のための有効かつ鮮やかなソリューションだと言えます。

関係性が切れてしまう原因4つとカスタマーサポート

人が互いに関係を解消する原因について、John Gottmanは4つの主な原因を挙げています。

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それらの危険信号は批判、軽蔑、保身、拒否であり、彼はそれらをFour Horsemen(ヨハネの黙示録の四騎士)と呼んでいます。

批判は主に、差し迫った特定の問題ではなく、「ユーザーの声に耳を傾けていない」「私たちのことを全く考えていない」といった根本的な問題に向けられます。

軽蔑は、他者を意図的に辱めようとするものです。保身は、自分の行動に説明責任を負わなかったり、それらに関して弁解したりすることです。拒否は主に、何に対しても応じなくなることです。

John Gottmanによれば、拒否は他者との関係において人が行う可能性がある最悪のことの1つです。カスタマーサポートでは、批判や軽蔑はあまり考慮されません。保身は、特に創業から年数が経っている会社のあらゆる場面で見受けられます。一方、拒否はスタートアップのあらゆる場面で見受けられます。

カスタマーサポートへのたくさんの電話がかかってくると、「答える必要はない、対応する必要はない」と考えてしまいます。ユーザーを無視するこうした行動は、人が行う可能性がある最悪のことの1つで、おそらくスタートアップのアーリーステージでチャーンが発生する最大の原因でしょう。

Wuffo のサポート体制

では、Wufooはどんなサポート体制だったかご説明しましょう。

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会社が買収された時、私たちのシステムには約500,000人のユーザーがおり、社名認知の有無を問わず500万人がWufooのフォームやレポートを使用していました。そして、それら全員に対して同じ10人のスタッフがサポートしており、シフト制で毎日誰かがサポート業務のみを担当していました。

その結果、週に約400件の問題について、約800通のメールに対応していました。しかし、当社における対応時間は9時から21時の間は7~12分、21時~深夜は1時間、週末は24時間以内でした。私たちは規模が大きくなってもこの体制を維持しました。

Airbnb の例

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Airbnbを語る多くの人がよく忘れている興味深い話があります。彼らはニューヨークに行ってプロの写真家を雇い、さらに創業者も同行して実際にアパートの写真を撮り、物件を売りたい人をサポートしたのです。つまり、コンバージョンに関するストーリーにフォーカスしたのです。

大半の人が知らないかもしれませんが、私がAirbnbのアーリーステージ時に創業者の一人Joe Gebbiaに会ったとき、彼は大抵電話用ヘッドセットを頭に付けて、いつでも電話サポートに対応できるようにしていたのです。

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チャーンは、誰もが触れたくない話題です。Airbnbの急成長が始まったのは、需要あるいはサポートシステムに掛かってくる電話にキャパシティをマッチさせる方法に気づいた時でした。

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Wufooでは、サポートのことで頭が一杯だった私たちは、サポートに関する実験を続けていました。私たちが行った実験の1つについてお話ししましょう。

ここでのある講義で、助けを必要としている時に私たちが抱く感情と助けてくれる他者から得られるコンテンツや反応にはズレがあり、非言語的合図が見えないオンラインの場合には特にズレが大きいという話を聞きました。ウェブ上で顔認識がされない限り、私たちはユーザーと関係を築けないと言うのです。

気持ちを聴く

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そこで私たちは、「自分たちは顔認識の専門家ではないが、相手の共感を得る方法は他にあるはず」と考え、フォームビルダーにおいて、ドロップダウンに「今の気持ちは?」という項目を追加しました。こんな項目に誰も記入しないだろう、妙な実験をしてしまった、と私たちは思いましたが、様子を見ることにしました。

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すると、このフィールドの記入率は75.8%という結果が出ました。ちなみに、ブラウザの種類を問うドロップダウンフィールドは回答率78.1%でした。それは、「テクニカルサポートを必要とする問題に直面している自分の気持ちは、バグ修正のために会社が解決しなければならない技術的詳細と同じくらい重要なのだ」というユーザーからのメッセージだったのです。

私たちは感情で物事の優先順位付けや選別をしなかったため、私たちのシステムは人から悪意を向けられることはありませんでした。

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ここから生まれた興味深い副作用の1つとして、ユーザーからの反応が好意的になってきたことに気づきました。

私たちは過去のデータをさかのぼってテキスト解析をしたところ、メールなどの文字によるコミュニケーションにおいては、強い感情を表現する方法はエクスクラメーションマーク、不快な言葉、すべて大文字にする、の3つしかないことがわかりました。

カスタマーサポートにおけるユーザーからのメールの中でこれら3つの測定項目すべてが確かに減少していました。人は自分の感情のはけ口を与えられれば理性を取り戻し、結果的に私たちの仕事も以前よりはるかに楽しいものとなったのでした。

サポートをするとより良いデザインに辿り着ける

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その他の素晴らしい副作用は、こうすることでより良いソフトウェア、はるかに優れたソフトウェアを作り出せることです。これは、多くの研究によって裏付けられています。

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User Interface Engineering(での最大手の1つ)のJared Spoolは、ユーザーと直接やり取りするために費やす時間の長さとデザインの質の高さには直接的な相関関係がある、と言っています。

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具体的かつ直接的方法を取らねばならず、誰かにレポートを作らせたりグラフで理解したりとするのではなく、ユーザーとリアルタイムでやり取りする必要があるのです。

最低でも6週間毎に2時間は必要でしょう。そうしないと、皆さんのソフトウェアの品質はどんどん低下していきます。Wufooの開発者は、毎週4~8時間はユーザーと接点を持っています。こうすることで、ソフトウェアの作り方が変わってくるのです。

知識のスペクトラムとギャップを考える

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Jared Spoolは、プロダクトの作り方についても語っています。このスペクトラムは、皆さんのアプリを使うために必要なすべての知識を表しているとしましょう(PowerPointのスライド)。ここ(左端)は知識が全く無いこと、ここ(右端)は必要なすべての知識を持っていることを示しています。

これらの2本の線は、ユーザーとのやり取りを表しています。ここは現在のユーザーの知識レベル(PowerPointのスライド)、ここは彼らの知識の到達目標地点です。2線間のギャップをSpoolは知識ギャップと呼んでいます。

ギャップの解消方法

そして興味深いのは、このギャップを修正する方法は2つしかないことです。

このギャップは、アプリがどれだけ直感的かを表しています。ギャップを解消するには、ユーザーの知識レベルを上げるか、アプリを使用するために必要な知識量を減らすしかありません。

一方多くの場合、エンジニアやプロダクト開発担当者は新たな機能を追加しようと考えます。しかし、新たな機能は知識ギャップを拡大させるだけです。

そこで私たちは別の方向へ目を向け重点的に取り組みました。

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つまり、私たちがエンジニアとして働く時間の30%をカスタマーサポート用の社内ツールの開発に充てたのです。

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しかし、それらの時間の多くはよくある質問(FAQ)への対処やツールに関する助言などユーザー自身による問題解決のサポートに費やされました。

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例えば、ヘルプリンクをクリックすると、総括的なヘルプマニュアルのページに進むのではなく、ユーザーが抱える問題の解決に最も適切な特定のページに進む、といった具合です。

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私たちはマニュアルのデザインを何度も変更し、ABテストを繰り返し行いました。

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マニュアルページへの1回のイテレーションで、翌日にはカスタマーサポートは30%減少しました。つまり、プロダクト作りに携わる者全員の仕事量が一夜にして30%減少したのです。

サポートにかける労力が減る

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全員を常時カスタマーサポートに携わらせているとどうなるでしょうか?成長とはコンバージョン率とチャーン率との関係の結果であると講義の初めにお話ししました。

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これは創業から5年間のWufooの成長曲線です(PowerPointのスライド)。

興味深いのは、広告やマーケティングのための支出がゼロということです。すべては口コミによる成長だったのです。これは新規ユーザーとダウングレードの相互作用ですが(PowerPointのスライド)、ギャップはほとんどありません。

多くの人が忘れているのは、コンバージョン率の1%上昇とチャーン率の1%下落の間にほとんど差はないということです。成長においてこれらは全く同じ働きをしますが、後者は実際かなり簡単かつかなり安価に達成できます。そして多くの場合、私たちは長い期間このことを考慮せず、Bチームにこれらのプロジェクトやサービスを担当させるのです。

これはWufooで常時目標として目指してきたグラフではなく、私が誇りに思うグラフでもありません。私が誇りに思うのはこれです。

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なぜなら、成長曲線は実に素晴らしいものではありましたが、これにより私たちはスケールし、会社を小規模に保ち、素晴らしい文化を持つことができたからです。そしてそのためには、ユーザーがしなければならない様々なことをサポートする必要がありました。

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John Gottmanは、人間関係においては異なる種類の行動があること、そして人が離婚する理由に気づきました。10~15年一緒にいて突如離婚する夫婦というサブセットが存在しましたが、他のどの指標も離婚を示唆していませんでした。データに目を通していた彼は、「夫婦の間に情熱がない、火が燃えていない」ことに気づきました。

人間関係は、ある意味熱力学の第2法則に従っていることに気づいたのです。密閉されたエネルギーシステムの中では物体はエネルギーが尽きてしまうため、エネルギーと労力を投入し続けなければなりません。

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多くの人は、プロダクトや企業において「あなたのことを大切に思っていますよ」と示すにはブログ投稿やニュースレター作成が有効だと考えています。しかし、統計を見るとそれに気づいている人はアクティブユーザーの中でもごく一部で、大半は私たちが彼らのためにしている素晴らしいことに全く気づいていませんでした。

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そこで私たちは、Wufooアラートシステムと呼ばれる新たなツールを開発しました。

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これはユーザー向けの新たな機能が加わるたびにタイムスタンプするもので、ユーザーがログインする度に前回から今回のログインまでの時間を確認し、その間に新たな機能が追加されていれば「あなたがいなくなってから、Wufooはこんな素晴らしい機能を追加しましたよ」というポップアップメッセージを表示してユーザーに知らせるというものでした。

手紙を送る

外に出てユーザーの話を聞くと、最も多く話題にのぼったのは間違いなくこの機能で、「あの『あなたがいなくなってから~』最高ですね。ユーザーは毎月定額しか払っていないのに、Wufooはほぼ毎週新しいサービスを提供してくれるのですから、本当にすごい。最高のもてなしを受けている気分ですよ」といった感想もいただきました。

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会社にお金を払ってくれているユーザーに対するサポート業務を全員で担当した以外にもう1つ、ユーザーに感謝の気持ちを伝えるということもしました。それは私たちが、謙虚さと節度を忘れないようにしたということです。

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私たちは毎週金曜日に集まり、ユーザー宛てのシンプルなサンキューカードを手書きで作りました。

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多くの人はそういうことに大きな喜びを見いだせないことは百も承知しています。

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しかしこの儀式のようなカード作りは、固く結ばれたチームを作ることや本当に大切に思っているものに取り組むことにおいて大きな成果があったのです。

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社員は、何のためのミッションか、何のためにやっているのか、を常に理解していました。

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カードは特別洒落たものではなくインデックスカードに手書きでメッセージを書いたシンプルなもので、表紙には恐竜のステッカーを貼りました。

興味深いのは、私たちが始めたこの習慣はWufooのアーリーステージでのある出来事がきっかけだったことです。Chris Campbell、Ryan Campbell、そして私がユーザーへの感謝の気持ちをどう伝えようかとクリスマスの頃に話をしていた時、Chrisが「数年前の話だけど、クリスマスプレゼントをくれた親戚全員にサンキューカードを書くように母親から言われたんだ。そんなことしたくなかったんだけど、次の年にはもらうプレゼントのレベルがぐっと上がったんだ…だから、ウチの会社でもとりあえずこれをやってみたらどうかな?」と言ったのです。

1年目には全ユーザーに手書きのクリスマスカードを送った私たちでしたが、2年目になると、会社の創業者がわずか3人であるのに対して顧客数が大きく伸びていました。「これは困ったことになった、この先どうすればいいのか。」と考えていた私たちは、『The Ultimate Question』(日本語版は『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』)という本を読みました。

そしてその本には、「最も利益をもたらしてくれるユーザーにフォーカスすれば、物事はうまくいく」と書いてあり、私たちは「なるほど、スケーラブルな対応ならできる」と考えました。そして、最もお金を使ってくれているユーザーだけにカードを送りました。

すると2年目の1月、長い間利用してくれている男性ユーザーから「1年目にクリスマスカードを受け取ったときすごく嬉しかったのですが、今年はまだ届いていません。届くのを楽しみにしています。私のことを忘れてませんよね?」という手紙が届きました。

「しまった!」と私たちは思いました。「期待を上回る最良の方法は、期待を固定化させないことである」という難題にぶち当たったのです。思い悩んで私たちが出した結論は、年に1度というのを止めて毎週カードを送るということでした。当社の顧客全員に送ることは難しいでしょうが、そういう習慣を持つだけでも差別化につながるのです。

市場独占の3つの方法

ここまで、愛だの感情だのという話をたくさんしてきましたが、エンジニアの多くはそうした話題は好みではないはずです。そこで最後にお堅いビジネスに関するデータや研究についてお話ししたいと思います。

数年前の『Harvard Business Review』誌にMichael TreacyとFred Wiersemaが書いた記事が掲載されていて、その中で彼らはマーケットリーダーの規律について議論しています。

彼らが主張するのは、市場を独占するには3つの方法しかなく、希望する独占の程度に応じた非常に具体的な方法で会社を組織する必要がある、ということです。

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その3つというのは、最良の価格、最良のプロダクト、そして最良の全体的ソリューションです。

最良の価格のためには、物流面にフォーカスする必要があります、WalmartやAmazonのように。最良のプロダクトを世に出すには、研究開発にフォーカスすることが必要で、Appleはその典型例です。最良の全体的ソリューションのためには、顧客との親密さ(カスタマーインティマシー)が重要です。これはあらゆる高級ブランドやホスピタリティ産業が採っている戦略です。

市場独占を目指す方法として素晴らしいと思うのは、この3つ目の方法は会社がどのステージにあってもできる唯一の方法だからです。始めるにあたって資金をほとんど必要とせず、大抵の場合は謙虚さと礼儀さえあれば実行できます。そうすることで、同じ市場で競合する他社に負けず成功を収めることができるのです。

私からは以上です。

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今日はありがとうございました。

Q&A

様々なユーザーがいる場合の対処法

Q.
様々なタイプのユーザーが自社プロダクトを利用している場合どうすべきでしょうか?ユーザー全員に愛してもらえる1つのプロダクトをどのように作ればよいでしょうか?

A.
興味深く微妙な舵取りが要求される問題ですね。私がいつも勧めるのは、特にアーリーステージでは、最も熱心なユーザーにフォーカスすることです。どんなニッチであれ、私ならそうしたユーザーにしっかりとフォーカスします。

PinterestのBen Silvermanは当初デザインブロガーをターゲットにしていたはずです。熱心なユーザーのためにプロダクトをカスタマイズしていくことで、やがてはより多くの人に受け入れられる普遍的な価値観を見出すことができるでしょう。ですから、一つ一つ積み重ねていくことです。今日は多くの例を挙げてお話ししましたが、企業の多くは「面白いアプリさえ作れば大丈夫」などと単純に考える失敗を犯しています。

ユーモアとは実現するのが非常に難しいものです。ウィットに富んだものを作るためには、機能性がまず大事です。日本の品質の話でいえば、当たり前品質が伴っていない状態で、ウィットに富んだものなんて考えないでください。裏目に出るだけですから。

Wufooが最優先したのは「まずは可能な限り使い易いものをつくること」だったのは間違いありません。それ以外は、本来の目的を達成するための最後の仕上げのようなものだったのです。

プロダクト開発とマーケティングのバランス

Q.
プロダクトに心血を注ぐこととマーケティングやブランディングなどの会社にとって必要なすべてのスキルとの間で、どのようにバランスを取るべきでしょうか?

A.
プロダクト作りに携わっているなら、ユーザーとの対話というもう1つの面も常に大事にする必要があります。Wufoo社内の例で言いますと、ユーザーとの対話はカスタマーサポートという形で行われました。対話を通じて、何が機能していて何が機能していないかを直接知ることができました。そのことは他の社員全員にも影響を与えました。社員全員がシフト制でカスタマーサポートを担当していたので、すべての面で問題がないようにしようという社会的インセンティブが働いていたのです。

プロダクトにフォーカスしているだけでは意味がありません。プロダクトに向き合う時間を常に確保しつつ、ユーザーの声にも耳を傾けることで、継続的なフィードバック獲得が事実上可能となります。こうしたフィードバックが得られていない場合は注意が必要です。

私見ですが、マーケティングやセールスは優れたプロダクトを作っていないことに対して支払う税金だと思っています。口コミによる成長が最も簡単であり、優良企業の多くは口コミを利用して成長しています。会社のプロダクトについての興味深い話をディナーの席などで人々に語ってもらえるようにするにはどうすればいいでしょうか。その方法が見つかれば、プロダクトについて語る人が会社にとってのセールスパーソン、セールスフォースとなるのです。

プロダクトの意思決定

Q.
様々な方向性が考えられる場合、プロダクトについてどのように意思決定を下し、その意思決定を社内のエンジニアチームにどのように伝えますか?

A.
私たちはカスタマーサポートに着目しました。最も多くのユーザーを困らせている問題点を把握するための簡単な方法だったからです。機能に関するユーザーからのリクエストは自然に集まってきます。プロダクトやアプリの持つ方向性とは関係なく、ユーザーは機能に関するリクエストを伝えてきますので、ユーザーが何を求めているかを理解できるのです。

ユーザーの言われた通りにするだけがプロダクト開発者やエンジニアの仕事ではありません。それでは単なる奴隷です。ユーザーが真に求めている、リクエストの根底にあるものを理解し、解決する必要があるのです。

皆の考えがバラバラな時は、最終的に誰かが方向性を決めることになります。同時に、各アイデアを少しずつ取り入れて最小バージョンを1~2週間で作り、何が成功し何が失敗するか試してみましょう。複数の方向性があるプロダクトについて長い時間をかけて理解するのは危険です。

King for a Day の効果

Q.
「King for a Day(一日だけの王様)」はWufooでどのような効果がありましたか?

A.
個人的にはハッカソンは好きではありませんし、特に会社の中で行われるものに意味はないと思います。なぜなら、48時間懸命に好きなものに取り組んでも、そのうち99%は製品化されないのですから。それでは悲しすぎます。

そこで私たちは、「King for a Day」という企画を思いつきました。これは週末に行われるもので、社内からランダムで選ばれた誰かが王様になり、他の社員にプロダクトについての指示を出します。つまり、エンジニアリングやマーケティング、広告宣伝などのあらゆる社内リソースを使って、Wufooで気に入らないことや追加したかったが追加できなかった機能など、自分の望むことがあれば何でも実現させることができるのです。

もちろん、私たちも一緒に48時間で何ができるかと考えました。私たちはこれを年に1~2回実施していましたが、社員には大いに喜んでもらえましたし、士気向上にもつながりました。それは、社員が最も望んでいたのは、アプリの改良など、自分が貢献できたと思えるようなことに携わることだったからです。

私たちにとっては、これがプロダクトの方向性を決める1つの方法なのです。プロダクトが進むべき方向性に関してかなり強い意見を持っている社員もいると思いますが、ローテーションを実施することは民主的なやり方だと思います。

リモートワークの方法

Q.
Wufooでは社員全員が在宅で仕事をしているという話でしたが、問題が多いと言われる在宅勤務をどのように成功させることができたのですか?

A.
私たちは全員在宅勤務で、タンパベイ地区近辺に住んでいます。社員はどこで仕事をしてもよいのですが、新規採用される人は私たちのチームと会うと大抵この地区に引っ越してきます。在宅勤務は確かに難しいです。多くの人、特に会社に雇われている人は在宅勤務を美化しがちですが、オフィスで皆と働くことにより在宅勤務では得られない多くのメリットや効率を享受できます。

しかし、在宅勤務にも効率的な部分はあります。例えば、社員が貴重な2時間を通勤に費やすことを心配する必要はありません。在宅勤務制度を導入する際、最も重視したのは、社員の時間を尊重することです。Wufooでは週当たり労働時間を4.5日とし、金曜日の半日はすべて社内のミーティングと雑事に充てました。事業開発のミーティングや社外の人とのミーティングの必要が出てきても、週の途中ではなく金曜日の半日に行うようにしたのです。

また前述のとおり、全社員が週1日はカスタマーサポート業務を担当していたため、プロダクト作りや自分の仕事に使えるのは実質3日しかありませんでした。しかし、1日8~10時間、週に3日を必要な仕事のためだけに使えば、多くのことを成し遂げられる、と確信しています。だからこそ、各社員のその3日間という時間を尊重しなければなりません。

そこで始めたのが15分ルールでした。これは誰かとチャットしたり電話で話したりする場合、15分で切り上げなければいけないというルールです。

複雑な問題に直面しすぐには解決できない場合は、15分経過した時点で一度棚上げして、金曜日に続きの議論を行うことにしました。金曜日までは、自分の予定に従って次の仕事に進みました。

こうした先送りされた問題の90%は金曜日の会議で取り上げられることはありませんでした。なぜなら大抵の場合、一晩寝かせると「ソリューションが見つかった!」「大きな問題ではなかった」というように問題が消滅していたからです。

サイトがダウンした場合や決済システムが機能していない場合はともかく、社内の問題の大半はリアルタイムに、または即座に解決する必要がありません。緊急を要さない社内の問題に時間を費やすのはある意味贅沢なのです。ですので、優先事項に可能な限りフォーカスしましょう。私たち10人のチームはそうすることで、他社よりかなり多くのことを成し遂げてきました。

しかし、在宅勤務制度を実現させるのは容易なことではありません。私たちは非常に統制のとれたチームであり、私たちを真似することができたYC企業は残念ながら多くはありません。私たちの統制スタイルを真似することができたのはYCで2社しかなかったと思います。他とは異なる方法を実現させるにはより多くの労力が必要となります。生産性という点では、少々怠惰な勤務態度が許されてしまう場合が多いのも事実です。

従業員の動機付け

Q.
従業員に責任感を持ってもらうには経営者はどうすればいいでしょうか?

A.
私たちの会社は創業後9か月で利益が出ましたので、利益分配を実施しましたが、非常にシンプルかつ明確なインセンティブになったと思います。

複数のボーナスプールに掛け合わせるとき、パフォーマンス評価はカスタマーサポートでの仕事ぶりや役割、そして事前に自ら掲げていた達成目標をベースに行いました。私はプロセスにあまり興味がありませんし、社員の生産性を高めるために多くのツールを使うのも好きではありません。

唯一、私たちが社員自身によるプロジェクト管理をサポートするために導入したのがTo-doリストです。これはDropboxのアカウントで共有されるシンプルなテキストファイルで、各社員は自分の名前の付いたファイルを持ち、誰かがTo-doリストを更新すれば全員がその更新を認識することができました。

毎晩その日に実行できたことを各自リストアップしてもらい、金曜日にリストを見ながら「これが先週決めた目標ですが、実行できたのはこれだけですね。何か問題がありましたか?」のように話し合うようにしました。実にシンプルなやり方です。

何かを実行するための道筋が自動的にリスト化されるだけでなく、人事管理に悩む必要もありません。社員が自分でどう評価されたいかを決めるわけです。そして、非常に有能な社員にとってこのシステムは大変有効です。実際に問題が生じている時の解雇も非常に簡単です。

幸いにしてWufooで社員を解雇しなければならない事態には遭遇しませんでしたが、社員の行動を実に迅速に修正することができました。なぜなら、私たちはリストを見て問題を評価するだけでよかったからです。「あなたの行動パターンを見ると、締め切り間際に慌てて仕事に取り掛かるのがわかります。あなたが書いたこのリストが証拠で、この通りです。」といった具合に。

また、社員全員がそれを目にするので、社会的なプレッシャーが働いて社員の行動の改善につながるのです。

リモートワークでの採用

Q.
在宅でこういう形で勤務する人をどのように採用するのですか?

A.
実に簡単です。採用候補者と外注契約をして、在宅勤務でサイドプロジェクトをやってもらうのです。通常、そうした場合にお願いするプロジェクトは1か月程度で終わるものにします。それで候補者の自己管理能力や仕事の進め方がよく分かります。採用選考の第一段階としてこれを必ず実施し、面接だけで採用を決めたことは一度もありません。

もう1つ選考でチェックしたのは、候補者のカスタマーサポート能力でした。なぜなら、すべてのエンジニアがサポート業務のストレスとうまく付き合っていくための共感能力を持ち合わせているとは限らないからです。

ですから、面接で候補者に制限時間15分で私宛の「お別れの手紙」を書いてもらうこともあります。そうした課題を与えることで候補者の文書作成能力をつぶさに確認するのは、カスタマーサポート業務の90%は「その機能はサポートしておりません」「それは難しいかと思われます」「それが提供される予定はありません」のように顧客にとって残念な情報を伝えることだからです。

うまくいかなかったこと

Q.
Wufooでうまくいかなかった戦術や実験はありますか?

A.
では1つお話ししましょう。アーリーステージで私たち自身のモチベーションを上げようと試したのがクランチモードです。その狙いは理解できたのですが、それが人にいい影響を与えないことがわかりました。

例えばサブスクリプションビジネスをしていると社員に長期間仕事をしてもらう必要がありますが、ゲーム業界の場合は一定の時間スタッフをクランチモードで急がせて何度もラストスパートさせることが多いのです。その間スタッフは、締め切りに追われて疲弊しきってしまいます。社員の生産性は上がるかもしれませんが、彼らが回復するには実現した生産性を上回るものが必要となるのが常です。

そして、社員全員がカスタマーサポートを担当し、自分の仕事をし、コンスタントに新機能をリリースしている会社では回復するための時間がありません。

私たちは、Wufooが毎年ユーザーに報いているように社員のためにもバケーションを実施したいと考えました。そして、社員が回復するためのバケーションなら、クランチモードの期間を設けてからバケーションを実施し、ユーザーに対応するカスタマーサポートのみこなすことを考えました。

こうして会社で初めて、創業者3人だけでクランチモードに入り、各自がTo-doリストに非常にアグレッシブな目標を10個設定しました。そして、10個中7個を最初に達成した者が優勝者、一番遅かった者が私たちの言う「トリップビッチ」になることにしました。

トリップビッチになると、バケーション中に他の人のために荷物を持ったりドリンクを買ってきたりしなければなりません。クランチモードが始まると、全員が張り切って仕事をしました。優勝者には次回のバケーションの決定権も与えられることになりました。

しかししばらくして、事態は一変しました。Ryanは自分のリストの目標が考えていたほど達成が容易ではなく、「こんな競争に勝てっこない」と突如気づき、勝負を降りてしまいました。つまり、負けると分かってやる気をなくした彼は、クランチモードからブラー(馬鹿馬鹿しくてやってられない)モードに移ってしまったのです。そして結局、こんなことはもう止めようということになりました。話のネタになる良いアイデアだと思ったのですが、二度と行われることはありませんでした。

それでは、今日はどうもありがとうございました!
何かありましたら、kevin@ycombinator.comまでメールでご連絡ください。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 7: How to Build Products Users Love (2014)

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