悪い予算編成プロセスがどのようにして会社をダメにするか (Ben Horowitz)

「ほんの一瞬で、俺のチーム全員は本物を手に入れる、
0から100まで、野郎ども、ほんの一瞬だ」
——Drake、「0 から 100まで/キャッチ・アップ」

私は、会社経営に取り組む技術系創業者を強く支援したいと思っています。しかし、彼らが一様に深刻に自らの事業に傷をつけことがあります。それは予算編成の過程で失敗することによってです。そうです、予算編成の過程です。大変馬鹿げたことです。それはどのようにして起こり、それがエンジニアにとって特に問題なのは、どのような理由でしょうか。

自社で犯した失敗の説明から話を始めようと思います。私たちの会社の売上が急速に拡大したため、私たちはLoudcloudと契約を結びたがっている顧客のすべてに対処することができませんでした。この状況をなんとか切り抜け、会社を成長させるべく、私はチームとともに、次の2つの目的を果たすために必要なあらゆる活動の計画に真面目に取り組みました。自社の処理能力をうまく向上させることと、競争に入る前に市場をとらえることです。次に、それぞれの担当の部門長に対し、下位目標と活動を割り振りました。私は指導者陣とともに、それぞれの目標が遅行指標および先行指標のみならず、付随する指標によって確実に測定可能であり、またそれらに裏付けられるものにしました。そして私は指導者陣にそれらの目標を達成するために何が必要となるかを考え、人数と計画金額の条件を答えるように告げました。私は最後に、自分の考えた計画に意味を持たせるため、業界基準に基づいて彼らの要求を修正しました(ほとんどの修正は削減でした)。

ここに基本的な過程を挙げます——

1.成長を実現する目標を設定する

2.目標を細分化し、具体的なチームによるそれぞれの目標の担当者および責任の所在を明確化する

3.目標を測定可能な標的へと先鋭化する

4.先鋭化した目標を達するために新規に必要な人員数を推定する

5.この試みに必要な費用を算定する

6.業界基準に照らす

7.グローバルでの最適化を図る

8.執行する

熟練の経営者でない限りは、この過程の何が間違っているかに気づくことすらないかもしれませんが、これは私の会社に終止符を打ちかねないものでした。現に、上記の過程は完全に本末転倒であり、これに従うべきなのは、会社を一瞬の破産に追い込むまで膨張させ、混沌とした社風を作りたい場合のみです。

マネージャーに何が必要かを尋ねた時、私は無意識に予算編成過程をゲーム化しました。ゲームは次のように機能しました——目的は、それぞれのマネージャーが可能な限り大規模な組織を構築し、それによりそれぞれの役割の重要性を増すことでした。このように自らの役割の重要性を増すことで、彼は自らの重要度も高めることができました。こうなると、皆さんはこのように考えるでしょう。「それは私の会社では起こらないだろう。我が社のほとんどの社員はそんなゲームはしない。」そう、それがこのゲームのすばらしいところなのです。このゲームの参加者は1人でよいのです。なぜなら、一度誰かが始めると、皆が競い合い、しかも激しく競い合うからです。

マネージャー陣は、勝利の機会を大きくするための賢い戦略と戦術を開発するので、ゲームプレイは瞬く間に洗練されます。一般的なゲームのテクニックの1つは、目標範囲を劇的に拡大することです——「私たちの市場の存在感を高めたいとあなたが口にする時、当然のこととして私は世界規模にすることを想定します。確かに、あなたは私にアメリカ中心の視点で考えてほしくないでしょう」。 真にCEOを動かすためのもう1つのすばらしいテクニックには、会社が指標に達しなかった場合のひどい状況を主張するというものがあります——「私たちが売上を500%成長させられず、競合他社がそれを達成すれば、私たちは追い越されます。私たちが追い越されれば、もうナンバー1ではありません。私たちがナンバー1でなければ、優秀な人材を雇用することができず、最良の価格を提供できず、最高の製品を作ることができず、そうなれば死のスパイラルに入っていきます」。競合他社が今年中に500%の成長を遂げる可能性がほとんどないという事実は横に置いておいてください。

この過程のもう1つの小さな問題は、チームの目標達成のために彼らが必要とするものは何であるかを尋ねた時に、必要なものは当然手に入ると彼らが想定したことです。その結果、私のチームは、自分たちのアイデアと新規に獲得した資金を、それぞれのチーム内において深く共有することになりました。これには、彼らの要求と会社の士気を分かち難く結びつけるという、さらなるゲーム上の利点がありました。マーケティング部長が10人の社員と500万ドルの計画経費を私に要求し、その計画を彼のチームと共有した時に、議論の前提が変わりました。その後に、もし彼の計画に大きな縮小でもあれば、彼のチームは大慌てです。なぜなら、より積極的な筋書きのために2週間を費やしたところだったからです。「何てことだ、Benは大幅にプランを削減した。これは別の仕事を探さなきゃいけないかな。」この種の力学は、賢明な計画ではなく、より大規模な費用のかかる計画を作るよう、私にプレッシャーをかけました。私の会社が抱えるマネージャーの数の分だけこの効果が増幅し、私は資金を全て使い尽くし、自社の文化を崩壊させる方向に向かっていました。

私が抱えていた問題の核心は、私の予算編成の過程に現実的な制約が何もなかったということでした。私たちの会社は非上場会社であり、達成しなければいけない具体的な利益目標がなく、 銀行には十分な資金がありました。経費の線引きがどちらかと言えば曖昧でした。厳しい制約がなかったということは、制約がなかったことと同じでした。

予算計画時の優れた制約原則は、企業文化の一貫性の維持です。企業文化の一貫性の敵は、超高速な社員数の拡大です。年間の社員の増加率が2倍以上の企業は、たとえうまく新規従業員を取り込み、訓練したとしても、深刻な企業文化のズレを経験する傾向にあります。営業などの特定の部門においては、この種の成長は必要であり、処理しやすい場合もありますが、エンジニアリングやマーケティングなどの領域では社内の意思疎通が重要であり、この種の成長は大抵、非生産的です。エンジニアの人員を1年に4倍にしたなら、2倍にした場合よりも絶対的な処理量が劣る可能性があります。さらなるおまけとして、より多くの現金を使い果たします。さらに悪いことには、あなたのやり方とは合わない独自のやり方を持った新入社員がほとんど指導を受けずに入ってくるので、企業文化の一貫性が損なわれるでしょう。あなたの会社の社員数が非常に少ない場合にはこれは該当しないことに注意してください。エンジニアの人数が1人から4人、あるいは、2人から8人に増えるのはかまいません。しかしながら、50人から200人に増員しようとすれば、非常に慎重にならなければ大きな問題が生じるでしょう。

予算編成の過程を実行するにあたっては、まず企業文化の一貫性の原則がありますが、それよりもはるかによい方法は、最初に制約を掲げることです。有益な制約には次のようなものがあります——

ランレート増額—— 「ランレート増額」と言っているのであって、「費用増額」ではないことに注意してください。前年に対して次の年の最終月に費やす資金の増額分を設定するべきです。

収入/損失—— 収益があるならば、もう1つの制約は、その年の目標収入または損失です。

エンジニアリングの拡大率—— 買収をして別経営とするか、または、何か新しい方法でエンジニアリングを細分化しようとしているのでなければ、12ヶ月の期間内に単一のエンジニアリング組織を2倍以上にしないように努力するべきです。

他の部門に対するエンジニアリング部門の比率—— エンジニアリング比率の制約を一旦設定したら、他の部門も同様に制約するためにエンジニアリングと他部門との比率を設定することができます。

グローバルという制約を適用した後は、次に挙げる段階がよりよい過程をもたらします——

1. あなたが案出した制約数字を取り上げ、必要ならば10%から25%を削減し、拡大する余地を作ります。

2. 上記で組まれた予算をチーム全体に渡って適切だと信じる割合で割り振ります。

3. 予算をチームに伝えます。

4. 目標設定を実施し、予算内で偉業を成し遂げることで自分の技量を証明するようにマネージャーを励まします。

5. もっと資金があれば、あるグループ内で正当により多くのことを達成できると信じるならば、そのマネージャーに、予算削減の10%から25%分を余分に割り当てます。

この時点で、読者の皆さんは私が正気を失ったと思うかもしれません。技術者としてのあなたは、始める前に問題を過剰拘束することほど最悪なことはないと知っています。それは創造性を殺してしまい、真に大きな収入を手にすることからあなたを遠ざけてしまうでしょう。これがまさに、私が技術者として、この過程に苦労した理由です——人間的な要因が論理的な思考を台無しにしてしまうのです。特に局地的な報酬については、適切に管理しなければ、人間の行動を極端な方向へと動機づけし、グローバルの目標を打ち負かします。

皆さんの身軽で小規模な会社を緩慢な大規模企業へと機が熟する前に変えてしまわないために、これを認識することが重要です。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Ruin Your Company with One Bad Process (2014)

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