その仮説って「どの」仮説? スタートアップのアイデアの解像度を高める

f:id:bfore:20201127094608j:plain

リーンスタートアップや顧客開発の方法論の流行によって、スタートアップは仮説検証して進めていくものという認知が広がりました。それに伴い、「アイデアの仮説検証」という言葉はずいぶんと市民権を得たように思います。

ただ、アイデアという言葉には様々な使われ方があります。スタートアップのアイデアについて議論しようとしたときに、アイデアに関するお互いの認識が異なっていると議論がかみ合いません。そこで本記事ではスタートアップのアイデアをもう少し細分化して、解像度を高めたいと思います。

スタートアップのアイデアの構成要素

私たちの考えるスタートアップのアイデアとは「十分に大きな(or 将来十分に大きくなる)市場において、大きな価値が生まれ続ける仕組みの仮説」です。この一文を分解してみるとこのような対応表になります。

f:id:bfore:20201127092759p:plain

それぞれをもう少し詳しく見ていきましょう。

価値は課題が解決されることによって生み出されます。つまり顧客に課題(プロブレム)があり、それを解決できる解決策(ソリューション)があって、それぞれがうまくはまることで、価値が生まれると考えます。 こうした価値の考え方については別の記事でも解説したので、そちらを参照してください。

なお、課題があるかどうか、それを解決策や製品で解決できるかどうかはそれぞれ別の仮説となります。さらにその価値が生まれるかどうかと、その価値が大きいかどうかは、それぞれ別の仮説です。

次に、価値が生まれ続ける「仕組み」というのは、ビジネスモデルです。ビジネスモデルはお金の稼ぎ方であり、ビジネスを成立させる仕組みです。そして価値を長く生み続けるためには、競合に勝てるような戦略が必要です。

また、急成長するスタートアップの狙う領域は十分大きな市場、もしくは将来大きくなる市場が必要です。すでに大きな市場ならデータがあってそれで検証できるかもしれませんが、将来の大きな市場の場合、まだデータがないかもしれません。その場合は仮説の度合いが強くなります。

つまり、スタートアップのアイデアとは「市場」「課題」「解決策(製品)」「価値の大きさ」「戦略」「ビジネスモデル」の六つの構成要素に分かれます。

そしてそれぞれの要素はまだ仮説なので、アイデアは「市場仮説」「課題仮説」「解決策仮説(製品仮説)」「価値仮説」「戦略仮説」「ビジネスモデル仮説」の六つの仮説で構成されると考えます。

このようにスタートアップのアイデアを細分化してみると、自分たちはアイデアのどの仮説を検証しているのかが少しだけ分かりやすくなるかもしれません。

投資家へのピッチは仮説と検証結果を話すもの

実はこれらの要素のほとんどはピッチでも話す要素です。

ピッチでは「課題」「解決策」「市場」「トラクション」「洞察」「ビジネスモデル」「チーム」などについて話します。

f:id:bfore:20201127094456j:plain

ピッチにおいては、自分たちの仮説とトラクションによる検証結果を使って投資家を説得しようとしている、と考えるとすっきりするでしょう。

優先するべきなのは課題仮説

アイデアの仮説検証をしていくためには、こうしたいくつもの仮説を検証していかなければなりません。そうすると、どこから検証するべきか迷ってしまうかもしれません。

ただ悩む必要はありません。ほとんどの場合、この中で最も優先するべきなのは「大きな価値が生まれるかどうか」の仮説の検証、つまり課題の検証です。ピッチでも最初に課題のスライドがあるのは、それが一番重要だからです。

なぜなら顧客の課題が小さく、生まれる価値も小さいのであれば、ビジネスモデルや戦略が優れていても、良いアイデアにはならないからです。

スタートアップでは課題が大事!でもそれは何故? - 価値の考え方について」で説明した通り、価値の大きさは課題によって決まります。なので課題仮説の検証から始めてください。戦略やビジネスモデルは後回しで構いません。

そのためには自分たちで考えるよりも、顧客のところに行った方が良いことが多いのです。FoundX では Fellows Program でも、まず顧客のところに行くようにお勧めしています。(FoundX Fellows Program は参加者を2か月に一度定期的に募集していますので、ご興味あればご参加ください!)

是非皆さんも、「アイデア」といったときには、顧客の課題から始めるようにしてみてください 😊

 

著者情報

馬田隆明

東京大学 FoundX ディレクター。University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトでの Visual Studio のプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行う。2016 年 6 月より現職。 スタートアップ向けのスライド、ブログなどの情報提供を行う。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』。

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元