成長に関する WeChat からの7つの学び

開発したい製品の例を創業者に尋ねてみると、アジアを指し示すことが多くなっています。そして、目標とする製品として「WeChat」の名がよく挙がります。以前職場が一緒だった私の友人Connie Chanは、WeChatを「すべてを支配する唯一のアプリ」と表現しました。8億8900万人の月間アクティブユーザーがおり、中国のモバイル市場を牛耳っています1。WeChatのプラットフォームは中国人のオンライン上のコミュニケーションや交流を全面的に進化させ、ユーザー同士の送金や日用品の購入の方法も変えています。WeChatはもはや単なるアプリではありません。WeChatの燃え盛るような成功は中国国内が中心です。しかし、このサービスが「プラットフォームとしてのメッセージング」という新たなカテゴリーにつながり、西欧諸国の誰もがWeChatの効果を実感しています。注意深く観察しなくても、AppleのiMessageやFacebookのMessengerプラットフォームなど、他のメッセージングプラットフォームにWeChatの影響を見ることができます。

私たちは、Tencent(WeChatの親会社)内の研究グループ「China Tech Insights」と提携を結びました。8億8900万人の月間アクティブユーザーに1日当たり9~11回、平均50分以上アプリを使用させている2 手法を探るためです。比較すると、これはInstagramやFacebook、Facebookメッセンジャーなど一連のFacebookアプリをユーザーが使用している「合計時間」と同じです3

この記事では、WeChatの主な節目につながった成長戦略や教訓について分析します。そして6年かからずに0MAUから8億MAUまで拡大させた、途方もない業績を支える方法論を探ります。AOLやYahooと違い、Tencentは自社のメッセージング製品のポートフォリオを、ウェブ/デスクトップ製品からモバイル/メッセージングプラットフォームへと進化させた数少ない企業の1つです。

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レッスン1:自社の競合を自ら作り出す

TencentはWeChat(モバイルに特化したメッセンジャー)をサイドプロジェクトとして開始。結果的に中国のメッセージング環境に革新をもたらした。

Tencentは2010年当時、すでに中国最大級のインターネット企業であり、WeChatの立ち上げ前から最大のソーシャル企業でした。多くの中国人が若い頃からTencentの「QQ」(人気のデスクトップメッセージングアプリ。ICQやAOL Instant Messengerに似ている)を使っていました。当時、Tencent製品のインスタントメッセンジャーには6億5000万程度の月間アクティブアカウントがありました4。同社はモバイルの重要性が増していることを認識し、2008年にモバイル版QQを作成しました。しかしこのアプリは当時、デスクトップ中心の機能(複数のユーザーステータスや大きなファイルの転送、音楽ストリーミングなどの埋め込みサービスなど)のために苦戦しました。

Tencentは思い切った決断をします。当時中核製品だった「QQ Mail」のチームから小規模のスカンクワークス(独立の開発チーム)を集めました。そして、Tencentの他部門の製品と競合する可能性のある新たなモバイルアプリを生み出したのです。このたった7人のエンジニアチームはさらに、わずか3か月でWeChatの最初のバージョンを生み出しました。2011年1月、WeChatはシンプルなメッセージ・写真共有アプリとして立ち上げられました。無駄を省いて途轍もない集中力を発揮したチームが、中国で最も変革的なモバイルサービスの原型を極めて短期間で立ち上げたのです。

立ち上げ当時、WeChatは史上初のモバイルメッセージングアプリではありませんでした。XiaomiのMiTalkがトップで、登録ユーザー数は500万でした。激しい競争のため、WeChatは立ち上げ直後に大きく成長することはありませんでした。そして他のモバイルチャットソリューションから乗り換えてもらうには、ユーザーにチャット以上の機能を提供しなければならないことに気付きました。立ち上げから3か月後の2011年5月、WeChatはボイスメッセージ機能の提供を開始し、短い音声データが送れるようになりました(3年半後に出たiPhone iMessageと同様の機能)。ボイスメッセージを追加するというヒントは、TalkBoxやKakao Talkからもたらされました。ボイスメッセージの使用は戦略的なものでした。なぜなら当時、中国語を打つための固有のモバイルキーボードは使いづらく、消費者は毎日の生活の中で音声メモを直感的・個人的かつ便利に送れることに気付いたからです。音声と文章、写真を融合した初めてのメッセンジャーの1つとして、WeChatの1日当たりのダウンロード数は安定して5~6万を記録するようになりました。

現在、Mobile QQは若いユーザーベースにサービスを提供し続けており、2016年12月時点のMAUは6億5200万となっています5。Tencentは2つのプラットフォームのユーザー体験の差別化に積極的に取り組んでおり、QQはエンターテイメント機能(動画スタンプや顔を美しく見せるツールなど)が充実しています。それに対しWeChatは引き続き、ユーザーが日常的に利用する便利なサービス(コンテツ購読や公共料金の支払いなど)の提供に注力しています。

このレッスンは、Amazonが(デジタルコンテンツへのシフトを予測して)本の販売事業をeリーダー / eブックに転換した例や、UberがタウンカーからUberXへ移行した例とよく似ています。破壊的創造の文化を自力で生み出せない場合でも、ライバルがその機会を与えてくれる可能性があるのです。

レッスン2:グループ向けに設計する(「グループ効果」)

個々のユーザーの行動は、集団の中とはかなり異なることがある。そのようなグループ効果の機会を特定するため、WeChatはユーザーが日常的に友人や見知らぬ人の中でどう振る舞うかを細かく調べた。WeChatは調査や聞き取り、競合の後追いといった従来型のユーザー研究には頼らなかった。

Allen Zhang(WeChat創始者)は、「グループ効果」(すなわち、個々のユーザーの行動が集団の中とはかなり異なる現象)を利用した製品開発にこだわり続けています。そこでWeChatチームは、ユーザーの集団と個人ユーザーで特定の機能がどう使われるかに着目しています。それが、使われる割合を増やすことにもつながります。これらの機能を取り入れるユーザーが増えるほど、他のユーザーもそれに続くのです。

大部分のSNSと同様、WeChatも初日に友人がゼロという問題を解決する必要性を早くから認識していました。同じ時期、アメリカではFacebookが14日以内に最初の10人の友人を積極的にあてがっていることが知られていました。Facebookのデータでは、それが長期のユーザー維持に大事なポイントだったからです。WeChatは「People Nearby」という機能により、少々異なる方法でユーザーを関与させることに成功しました。この機能は現実世界をシミュレーションしたものです。アプリで(連絡リストにまだ載っていない)他の「People Nearby」ユーザーを見ることができます6。位置情報が利用できるこの機能は、自分のまわりで起きていることに対するユーザーの関心を満足させるものでした。同時に、プラットフォーム上でのコミュニティ意識も高まりました。また、ユーザー獲得ペースも1日当たり10万人以上まで押し上げました7

People Nearbyのローンチ後、WeChatはQQと連携できるアカウントも提供し、ユーザーがQQの既存のソーシャルグラフをWeChatにインポートできるようになりました。重要な点として、すでに双方の製品を使用しているユーザーだけがインポート機能を使えるようにし、様々な目的で2つのサービスが使えるようになりました。このようなプロセスのおかげでメッセージ機能の利用者が全体的に増え、2011年11月にはプラットフォームの登録ユーザー数が5000万に達しました。WeChatはXiaomiのMiTalkを抜き、中国第一位のメッセージアプリとなったのです。

GPSと加速度計を利用した「シェイク」機能は、電話を振ることで話し相手を無作為に見つけられます。この機能には2つの効果がありました。a) 製品に慣れていないユーザーに使い方を教える。b) オフライン時に(Pokemon Goのユーザーとまったく同じように)WeChatを気にかけてもらう要素の付加という思いがけない恩恵。2011年10月に導入されたシェイク機能は、最初の月に1億回以上利用されました8。この機能は初期の拡大期に非常に重要であり、創造的な成長戦略として利用されました。しかし、中国のほとんどのユーザーはすでにWeChatで友人や同僚とつながっているため、現在ではあまり使われていません。「Message in a Bottle(メッセージボトル)」機能は、仮想の瓶を海に流すことでランダムなメッセージを交換することができるものです。ユーザーが瓶を取り上げると2人がつながります。

2011年11月、グループ交流を促すこれらの重要な新機能を立ち上げた後、WeChatは1日当たり20万人という新規ユーザー獲得数の新記録を達成しました9

レッスン3:ユーザーの内なる欲求から機能を拡張

WeChatは、使いやすさの研究においてユーザーが思いつく以上のものを提供するために、コミュニケーションの意味合いや文化的な行動を促す要因に着目した。Allen Zhangは、外面的な行動の裏側にある内なる欲求について懸命に理解しようと努め、そのような作業がしばしば、ユーザーの世界に自然にフィットする機能につながった。

WeChatは2年目に「モーメンツ」(中国語に翻訳すると「友人の輪」)を導入しました。自分のストーリーを内輪の友人グループで視覚的に共有できる写真共有機能です。Facebook News Feedとは違い、特定の投稿へのコメントや「いいね」は「共通の友人」だけ見ることができ、「友人の友人」は見られません。これはよく考えられた仕組みで、2010年に立ち上げられたアメリカの写真共有・メッセージアプリ「Path」からヒントを得ています。Pathでは、ユーザーのソーシャルネットワークを一定数の親しい友人や強いつながりに限定していました。WeChatはPathをすっかり真似るのではなく、この使用事例の背後にある真の動機を理解し、「輪の文化」という中国の古い価値観との類似点を見出しました。小さな輪は中心部が非常に強固で、輪が大きくなるとつながりが弱くなるという考え方です。

たった10人のチームが4か月を費やし、投入するバージョンの決定前にWeChatモーメンツのバージョンを30以上作成しました。これは製品のイテレーションの効率を示すものです。WeChatは製品開発チームを常にリーンな体質にしています。取り組んでいる機能に大きな集中力が発揮できるからです。新機能がいくつかありますが、中心的な製品機能は最初に立ち上げたバージョンからそれほど変わっていません。

WeChatユーザーは当初から、チャットやモーメンツを経由して外部のブログやニュースサイトとコンテンツを共有しました。WeChatチームはそのコンテンツを熱心に内部に持ち込もうとし、クリエイターがオーディエンスと自然につながれるようにしました。そのソリューションが「WeChatオフィシャルアカウント(OA)」です。2012年にリリースされたOAはTwitterに似た(そしてWeiboと競合する)「一方的なフォロー」をシームレスに認め、ファンがお気に入りの有名人のコンテンツを効果的に「購読」できる機能でした。しかしTwitterやWeiboとは異なり、有名人はファンに最新の文章や音声、映像を送ることができます。通常のWeChatメッセージと同じような見た目で、個人的でプライベートな会話の感覚をもたらします。その結果、多くの有名人がWeiboで数百万のフォロワーがいるにもかかわらず、自身のWeChat OAを立ち上げました。

有名人のOAが成功したことで、WeChatはこの機能をブランドや企業のアカウントに広げました。これにより、回数が限られるとはいえ、パブリッシャーが価値あるコンテンツを定期的にファンに直接配信できるようになりました。またOAのおかげで、ユーザーはサービス提供者(家事代行など)との意思疎通ができるようになり、サービスの予約から顧客ケア、フィードバック、Q&Aなどあらゆることが可能となりました。Twitter/Weiboは企業の配信やブランド活動のツールでしたが、WeChat(OAを経由)は顧客との直接のコミュニケーションチャンネルとなったのです。

スタンプストア」は、ユーザー同士でコミュニケーションをとる際に自分を表現するための手段です(Appleがだいぶ後にiMessageで展開したものに似ています)。しかしながら、ステッカー(スタンプ)を気に入ったユーザーからイラストレーターが「報酬」を通じてチップを稼げるマーケットプレイスをつくったのは、WeChatが最初でした。ユーザーは最大200元(25米ドル)までの報酬を任意に選択できました。このマーケットプレイスは、イラストレーターが上位を目指す健全な競争(およびその過程でのWeChatユーザー体験の質向上)を実現しました。

レッスン4:自身の問題を解決する過程で大きなアイデアが生まれる

Y Combinatorでは長年、創業者に対して、自分の作った製品の熱心なユーザーであることや自身の問題を解決するようにアドバイスしている。当時WeChatは3億MAUというレベルを享受していた。しかし春節後に自社の経営陣にお年玉を出させるというシンプルな機能により、ほぼ倍増させることになった。

WeChatレッドパケット(紅包)」は、春節後の始業日に社内の管理職全員が少額の現金を包んだ赤い封筒を各社員に贈るというTencentの慣例や広東の広い伝統に起源があります。会社が拡大するにつれ、あまりにも多くの紅包を贈ることを重荷に感じる管理職が現れ、問題を技術的に解決することを求めました。しかし、その成果がWeChat紅包の原型になるとは思いもしませんでした。

WeChat紅包の最初のバージョンは20人のチームが3週間で開発しました。WeChat OAユーザーの間で内々にテストされ、上々の反応を得ました。製品を複数のバージョンで出す代わりに、WeChatチームは自社製品の熱心なユーザーとなりました。彼らはしばしば深夜に「単体ユーザー」として製品を使用し、細部を確認し、バグを早期に特定しました。またリリース前に、友人や家族が製品をどう使うかも観察しました。2014年の大晦日から翌日の午後4時までに500万人以上がWeChat紅包を利用しました。

WeChat紅包には現在、金額が無作為なものや定額のものなど、いくつかのバージョンがあります。金額が指定されていない場合は、贈り手が最初に送金した額(買収行為を避けるため、1回当たり200元(29米ドル)に制限)から無作為に割合が決定され、各人が受け取ります。このような仕組みのため、紅包をグループで受け取る場合、フォーチュンクッキーのくじのような雰囲気になります。包みを開くまでは受け取れる金額が分からず、金額が多ければ幸運の印となります。このような幸運をもたらす仕組みは、親しい知人が集まるパーティでの余興としても理想的です。そして、「グループ効果」の実際例の1つでもあります。紅包はグループチャット内で送られるため、受け取るユーザーの増加とともに利用率も高まりました。

2015年には春節に10億個の紅包が送られ、大きな成長を記録しました。WeChat Pay の当初の伸びの原動力となったのは、親密な社交の輪でした。友人や家族が互いに送金し、同じことをするために銀行口座の紐付けにも積極的になりました。このような重要な動きはユーザー間の信頼を醸成するのに必要でした。また、業者やオンライン・オフライン店舗への支払いといった浅い輪にこの機能を拡張する前に、ユーザー挙動を教え込んでモバイル決済を促すのにも必要でした。Didi(中国版Uber)と提携し、WeChatユーザーがDidiを利用する際のアプリ内決済を促進することで、決済ネットワークがさらに勢いを増しました。この提携関係により、決済パートナーの空間がさらに広がりました。今では、提携パートナーが携帯料金から公共料金まであらゆるものにWeChatのアプリ内決済を使用しています。

たった2年で、WeChat Payは中国決済の世界で最重要の存在となりました。紅包からオフライン決済まであらゆる場面で使用されています。2016年時点でTencentのモバイル決済は6億MAUを記録し、1日当たり平均6億回以上の支払い取引があります。

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レッスン5:巧妙なマネタイゼーション

マネタイゼーションとユーザーの伸びは相反するものではない。WeChatは常にマネタイゼーションに備え、全体の製品体験を向上させるためのテコとしても利用している。

ゲームセンター」はTencentの広いチームのコアな専門性とWeChatとを結び、メッセージングプラットフォーム内でのゲームプレイを可能としました。表面上はLineやKakaoなどのゲームストアに似ています。しかしWeChatは、ユーザーが大挙してゲームを遊ぶという新たなレベルにソーシャルゲームの要素を押し上げたのです。このような巧妙な機能変更は、ゲーム作成者とWeChatの双方に恩恵をもたらしました。例えば「Rhythm Master」というTencentのゲームはリリースから1年で70万DAUを記録しましたが、「ゲームセンター」でのローンチ後は1700万DAU(20倍以上の伸び)まで膨れ上がりました。

2015年の1月にローンチされたWeChatモーメンツのネイティブ広告は、ビジネスモデルの重要な部分でした。成長のための重要要素ではありませんが、WeChatの成長軌道を制限するものでもありませんでした。ユーザー体験への影響を最小限にするため、WeChatはユーザーのモーメンツフィードに表示されるネイティブ広告の数を1日1件に制限しました(FacebookのNews Feedでは最大10件の投稿につき1広告の制限)。

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WeChatモーメンツフィードのAirbnbのネイティブ広告の例

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ユーザーがAirbnbの広告をダブルクリックすると、そのストーリーを共有する文章とともに3、4枚の写真が表示される。WeChatモーメンツで友人に提供されるものとよく似ている。

ユーザーは友人の投稿を共有するのと似た形で広告に接触し、共有します。これは他のSNSには見られない機能です。例えばその広告をタップすると、Airbnbの広告がビジュアルストーリーに似ていることが分かり、「モーメンツ」で身近に感じられます。「いいねとコメント」は共有の友人の場合のみ見ることができ、「友人の友人」は確認できません。広告の量を制限し、会話も共通の友人に限定したにもかからず、上記のAirbnb広告は共有後に180万回以上閲覧されました。クリックスルー率は5倍となり、ユーザーの共有後に新規のサインアップが600%増えました。

WeChatはさらに、製品・サービスの友人ベースの推薦モデルに従来型のクーポンモデルを採用しました。オフライン購入の際にベンダーから提供されたクーポンをユーザーが交換する際、クーポンを友人と共有できます。その結果、そのユーザーのすべての友人が同じクーポンを確認・使用できるのです。ベンダーはまた、クーポンを交換したユーザーに対し、使用・共有できる別のクーポンを提供することで報いることができます。それが製品やサービスの周知につながります。WeChatはこのようにして、クーポンのクレジットシステムを確立しました。ベンダーはこのクーポン共有モデルを通じて自社サービスをプロモーションするためのクレジットをWeChatから買うことができるのです。

レッスン6:あるべき姿ではなく、自らが重視するもので評価する

WeChatは「成長とはユーザーの伸びがすべてである」という共通認識を否定している。その代わりに、価値の増大(例えば、ユーザーの日常の中でWeChatが実現できるタスクの数)として成長を考えている。

他のソーシャルプロダクトとは違い、WeChatはユーザーや送信されたメッセージの数だけで成長をはかることはしません。その代わりに、製品が日々の生活のあらゆる面にどれだけ深く関わっているかという尺度にも注目しています。WeChatにもKPIはありますが、通常は部門の責任者のみで共有されています。エンジニアには日々、「ユーザーのためにさらなる価値を生み出しているか?」と鼓舞するメッセージが送られています。ユーザーが日常のタスクを達成するためのツールになるという目標を支えるため、WeChatは友人の数や見られるプロモーションメッセージ、それに交流の輪で表示されるエンゲージメントの数を制限しています。究極的には、ユーザーの実用性を妨げる雑音と見なしているのです。

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オフラインからのリンクとしてのQRコードの昇格は、2015年、中国のオンラインからオフラインへのブームの要となりました。以前は、サービスやブランドと関わるにはユーザーはウェブサイトのアドレスを検索するか、入力するしかありませんでした。WeChatのPony Maは、QRコードは「オフライン世界に紐付けられた豊富なオンライン情報のラベル」だと述べています。このロジックは、WeChatがそもそもQRコードを推進しようとした背景を説明しています。QRコードは、アメリカでは主に3つの理由で成功しませんでした。(1) 第一位の携帯電話と第一位のソーシャルアプリでQRコードがスキャンできなかった。(2) そのため、専用の読み取りアプリをダウンロードしなくてはならなかった。コードからモバイルサイトに誘導されるが、それは単純にURLを入力したり、ブランドやソーシャルメディアを検索したりするより煩わしいことが多い。(3) 初期の使用事例は低価値のマーケティング関連コンテンツに集中しており、ときには単なるスパムのことも。QRコードはアメリカのマーケターの夢となるはずでしたが、実用性には少々届きませんでした。

QRコードの利用が確立されたのを受け、WeChatは「ミニプログラム」を導入しました。ウェブブラウザと同じように、さらにスムーズにサービスを利用できるように設計されたWeChatオフィシャルアカウントの拡張機能です(PCの時代、サービスを利用するのにプログラムをダウンロードする必要はなかった)。これと同様にミニプログラムは、アプリをダウンロードやインストールすることなく、これらの「アプリ」を開き、オンラインでアクション(商品の発注や代金の支払いなど)するためのツールです。近所の飲食店や店舗を思い浮かべてみましょう。それらの店はもはや独自のアプリを設計する必要がないのです。その代わりに、WeChatミニプログラムに参加することができます。ミニプログラムは、ソーシャルのつながりを通じて、またオフライン空間でQRコードをスキャンすることで見つかるように意図されています。WeChatは、この使いやすいフローにより(まだ時期尚早ですが)高い購入転換率が呼び込めると主張しています。これらの使用事例の多くは、日常的なメッセージングに比べると低速の例です。

レッスン7:機能の選り好みをしない

WeChatの製品に関する中心的な信条の1つは、「製品体験に重要な要素として実用性指向の品質(高機能や、素早く簡単に使用できること)を支える『ツール』」というもの。

ほとんどの製品開発マネージャーは「スティッキー」な機能を開発し、継続指標を向上することに集中しています。しかし、Zhangはユーザーが一つの機能に時間をかけすぎることについてはあからさまに懸念を表明しています。ユーザーが他の大事なことをする妨げになる可能性があるからです(例えば料金の支払いなど…これはWeChatで行えます)。実際、WeChatは、優れた製品はユーザー効率を向上させると信じています---- つまり、ユーザーは最も効率的な方法でタスクを完了し、退出することができます。Zhangはこれを Google と対比します---- Googleの場合、ユーザーが正しいリンクを見つけ次第、ユーザーを直接希望するサイトへと移動させます。ユーザーがMomentsのコンテンツをブラウズするところを見るのはチームにとって励みになりますが、いかなる時点においても、もしユーザーがMomentsのマーケティングコンテンツに時間をかけすぎていることがわかると、彼らは心配になります。なぜなら低品質なコンテンツはユーザーの気をそらし、長期目線で見て価値の低下につながるからです。結果として、WeChatは、Momentsのマーケティングコンテンツの量を制限しています。同様に、WeChat、ブランドや事業のサブスクリプションアカウントから送信できるブロードキャストメッセージを1日1件までに制限しています。実際、これらのブロードキャストメッセージはプッシュ通知すら送りません。ユーザー経験に影響するからです。 

WeChatで利用できる機能やサービスには奥行きがあり、多様ですが、製品チームはUIをとてもシンプルにしています。アプリには「チャット」「連絡先」「発見」「本人」の4つのタブしかありません。タブを4つだけに留めるという規律は厳しく守られています。試しにもう1つ追加した際に、一番左のタブでコンバージョン率が常に20~30%下がったためです。

以上をまとめると、WeChatチームは多様性を持たせて自社の製品と競合させる方法を見出しました。そして文化的なニーズに応え、グループのやりとりを重視した機能を構築しました。何よりも、すべてのモバイル使用者の手の中に拡張できるシンプルなツールの創造に継続的に取り組んでいます。この時点で、WeChatはアプリ以上の存在となっています。単純に「インターネット」そのものと表現できるでしょう。WeChatが多くの有望なスタートアップを鼓舞する存在となっている理由が容易に理解できます。


Rhea LiuをはじめとするTencentチームに対し、私たちと協力してWeChatのレッスンを直に共有してくれたことに感謝いたします。また本エッセーの複数の原稿を読んでくれたことについて、Connie ChanJonathan HsuYanyun XiaoBen RubinRam ParameswaranSonal ChokshiSam AltmanAli RowghaniBrad LightcapSharon PopeCraig CannonSimon LuNic Dardenneに感謝いたします。


注記
1. Source: MAU accounts based on Tencent data as of 2016.
2. Source: iResearch, Jiguang.
3. Source: Facebook Q1 2016 Earnings Call.
4. Source: Tencent Annual Report 2010.
5. Source: Tencent Annual Results for 2016; Smart Device MAU of QQ.
6. Note: Users not using “People Nearby” would not appear.
7. Source: The Story Of Tencent by Xiaobo Wu.
8. Source: The Story Of Tencent by Xiaobo Wu.
9. Source: The Story Of Tencent by Xiaobo Wu.

 

著者紹介

Anu Hariharan

Anu Hariharan は YC Continuity Fund のパートナーです。Anu は以前 Andreessen Horowitz の投資担当パートナーで、Airbnb、Instacart、Medium、OfferUp、Udacity といったポートフォリオ企業のマネジメントチームと働いていました。それ以前は BCG のプライベートエクイティプラクティスのプリンシパルであり、クアルコムのシニアソフトウェアエンジニアでした。Anu はバージニア工科大学の電気工学の修士号と、ウォートンスクールの MBA を取得しています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: On Growing: 7 Lessons from the Story of WeChat (2017)

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