- 衝突を歓迎する
- 営業部門にとどまらず、営業部長と会社全体が同じ方向を向く目標を設定する
- 営業部長たちとたびたび会うこと。ただし、細かい口出しはしない
- 勤務評価の価値を見落としたり、退けたりしないこと
- もっと外に出よう
- 独立した活動を可能にする余裕を持たせる
最も成功を収めているテック企業は大抵の場合、製品を重視する技術系の創業者兼CEOが率いています。彼らにはセールス組織を編成する経験はほとんどありません。エンジニアリング重視のスタートアップにとって、営業責任者 (VP of Sales) を雇用して販売組織を構築することは、まったく異なる力が要求されることになります。
もし、あなたが正しい雇用をしているのであれば、営業部長を管理するのは大変な仕事です。有能な営業責任者の要求はとてつもなく厳しいからです。彼らは競争上の弱点を指摘し、次々と新たな機能を打ち出すことを常に求め、バグの修正を確実に実行し、リリース毎に詰め込まれる新機能を約束します。彼らは社員が限界まで力を発揮することを求めます。それにより、社内の誰もが苛立たされるでしょう。
ですが、もしあなたの会社の営業部長が、製造や設計、事務や財務等の部門の責任者と定期的に対立していないなら、その人は十分に要求をしていないといえるかもしれません。その職務を全うするなら、営業部長は顧客関係の課題を明らかにし、激しく改善を求めるでしょう。そして、企業全体をさらに奮起して仕事に取り組むよう仕向けることになります。だからこそ、CEO はこの人物をしっかりと管理する必要があります。営業部長が交渉の達人で影響力が強く、そのカリスマ的な力が社内で野放しになれば、チーム全体の機能を脅かす可能性があるからです。
ところが実際のところ、技術畑の創業者やエンジニアリング中心のスタートアップにとって、企業経営を行うことは易しいことではありません。では、営業部長を管理するという難しい課題をどうやってこなせばいいのでしょうか。
私が CEO を務めていた時、1 人だけではなく、2人の非常に有能な営業部長がいました。1人は北米担当で、もう1人は国際市場担当でした。(2人とも非常に優秀な人材だったので、どちらかを一方の下に置くというリスクは冒しませんでした)この規格外で、余分な仕事が増える形態をお勧めするべきかはわかりません。ですが、同時に 2 人の営業部長を置いたことで得られたメリットの1つは、私がセールス管理の短期特訓コースを受けることができたということです。私が実践して、うまくいったことのいくつかは次のようなことでした。
衝突を歓迎する
先に述べたように、真に優れた営業部長は組織内に衝突や対立を引き起こします。よってCEO の重要な役割のひとつは、そのような対立を仲裁することですが、しぶしぶやるものではありません。すぐに対応できるだけでなく、自ら進んで「51対49」の難しい決断の助けをしなくてはなりません。たとえば、「超重要」 な顧客固有の要求機能を次のリリースに詰め込むべきなのか?ユーザーを惹きつける新機能の価格設定は、広く受け入れられるものを採用すべきか?それとも収益の最大化をはかるのか?ということに対してです。
このような決断は、経営陣の中でも年長者で賢く、情熱的なメンバーの意見を却下することにもなり、多くの場合は扱いが難しい問題です。CEO は全員の考えに注意深く耳を傾けて、迅速で公正な判断を下す必要があります。そのような決断を下すことに加えて、そう結論付けた理由を明らかにするのも有益です。私が実践していたことの1つは、両者の言い分を自らの言葉で置き換えてみるというものです。そうすることで、彼らの考えが慎重に検討されたことが誰の目にも明らかになるだけでなく、私が評価した根拠も彼らに示されることになります。
営業部門にとどまらず、営業部長と会社全体が同じ方向を向く目標を設定する
私と各営業部長は、年次目標3つと四半期目標3つについて合意していました。1つは、通常、前期の売上を超えることで、残りの2つは、「カナダの統括責任者を置く」だとか「金融サービス部門に5人のリファレンスカスタマーを確保する」だとか、そういう類のものでした。
量的にも質的にも(販売に関して、とりわけ急成長中のスタートアップでは見落とされがちな)目標を押さえることで、CEO は営業部門のみならず、全社的に重要なことへの方向付けを行うことができます。目標設定の話し合いを頻繁に行うことで、私は効率的に多くのことを達成する方法について、提案したり探ったりする機会を得ることもできました。
営業部長たちとたびたび会うこと。ただし、細かい口出しはしない
目標を軌道に乗せ続けるために、1対1の個別面談の機会を頻繁に設けることは効果があります。また、そのような予定を組み込むことで、CEO が常に衝突に対処できるようにするという、もう1つの作用もあります。
私の場合は、だいたい2週間毎に個別面談を行いました。30分、あるいは1時間ほどかけて、一緒に目標の進捗状況や最近の決定事項、障害などについて検討します。営業部長たちとのこの熱い議論のためには、私も心の準備が必要でした。彼らが資金や人員の増加、権限、チームへの報奨などを求めて騒ぎ立てない面談はほとんどなかったからです。私はこの面談を、成功と失敗の分析の強化や、彼らに同僚の視点をより理解させる機会として用いました。この時間に先行投資することで、対立を回避し、結果的に時間を節約することができたのです。
勤務評価の価値を見落としたり、退けたりしないこと
販売責任者に対する最も信頼に足るフィードバックは、通常、360度フィードバックによって得られます。半年に1度の勤務評価の入念な準備の一環として、私は経営陣の彼らの同僚の意見を集めました。勤務評価面談の議論では、同僚たちとより効率的に仕事を進める方法に焦点を当てるのが常でした。彼らは数値目標については、すでに達成していたからです。
彼らに対して、あなたは「受動攻撃的」であると伝えるのも1つの手ですが、それについて同僚から7通りの説明を聞くことは、もっとインパクトがあります。そして、もしCEOが勤務評価を真剣に受け止めなければ、他の誰もそうはしないことを覚えておいてください。
もっと外に出よう
オフィスからたびたび出かけなければ、販売環境、現場チームの質、製品の欠点、特定の顧客や場所の特徴を、CEO が把握することはできません。
経験から言うと、私は少なくとも、自分の時間の 25% を顧客かセールスチームとともに過ごす必要がありました。顧客のフィードバックを直接聞いたり、顧客に対応するセールスチームを観察したり、彼らを車に乗せてディナーに行くことで、管理職の雇用、研修、彼らが現場で築いてきた文化などについて、豊かな知見を得ることができました。さらには、製品に関しての重要な洞察も得られたのです(私は帰りの飛行機の中で、「旅先からの覚書」というメールを出して、他の社員たちと得られたものを共有しました)。
独立した活動を可能にする余裕を持たせる
私たちの国際チームは、革新的な損益計算システムによって支えられています。このシステムにより、私たちは遠く離れた地域マネージャーを雇用・育成することができ、彼らは全権限を持つオーナーのように活動することができます。基本的には、旅費、オフィス費用、フィールド マーケティング費用、現地チームの経費などの地域分の費用を差し引いた後、彼らはコミッションを受け取ります。(「お客様の信頼を勝ち得るために必要」だと彼らが主張する、高級な場所に関する要望を受け付けることはやめました。コミッションはこれらの費用を引いた後に支払われていました。結果として、彼らは旅費に関して、創造性に富んだ節約をすることができました)
セールス責任者に運用枠のある予算を与え、必要なリソースを得させることで、意思決定のスピードは劇的に上がるでしょう。複数の時差にわたって管理している場合にはなおさらです。しかしながら、自主的な経営判断を行うことは、完全放任を意味するわけではないということを認識しておくことは重要です。
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セールスはプロセスを重視し、反復的です。そして、エンジニアリングとはかなり異なる文化を持っています。
適任者を雇用することは重要ですが、それは彼らをチームに組み込み、その会社の文化になじませるという複雑なプロセスの第一歩にすぎません。このプロセスは、CEOが己のものとして導かねばなりません。そしてCEOはセールス管理を迅速に行い、異なる文化を融合し、評価する方法を見つける必要があります。ここで費やした時間と労力により、成功か、それとも身体が臓器を拒絶するか、あるいは、あるべきスーパーパワーに組み込まれるかが決まるのです。
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記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Managing a VP of Sales: It’s Not Supposed to be Easy (2015)