新しい標準的な取引:「ポストマネー SAFE」について (Michael Seibel and Jason Kwon)

YCは標準的な取引を変更し、投資額を12万ドルから15万ドルに引き上げます。ポストマネーSAFE(SAFEによる資金調達後の資金調達)で15万ドルを投資し、保有比率を7%にします。私たちは、ポストマネーSAFEの方が単純であり、また保有比率と希薄化を把握しやすくなると考えています。

この新しい取引は2019冬バッチ(Winter 2019 batch)で開始し、以前の12万ドル・7%の取引を置き換えます。以前の取引は、普通株と併せてSAFEを購入する方法で実施されていました。プロラタでの追加投資(pro rata follow-on)などの他の面については、概ね今までどおりです。

私たちは、お金の投資はYCの提供するメリットのほんの一部に過ぎないと考えています。しかしここ数年間、起業費用が上昇しているのも否定しがたい事実です。3万ドルの増資が必要と考えたのは、企業が初期の段階で資金調達に頭を悩ますことなく、製品の構築に集中できるようにするためです。

もうひとつ重要な変更点として、ポストマネーSAFEへの投資を行うようになります。明確化のために言うと、「ポストマネー」という言葉は、SAFEによる「資金調達の後」を意味し、シリーズAの新規資金は含まれません。ポストマネーSAFEは私たちの主目的を推進するものです。つまり、会社創業者による資金調達を可能な限り、シンプル、迅速、低価格、明確にするものです。

これまで、SAFEはプレマネーごとに標準化されてきました。シリーズAのオプションプールによる増加分を含むので、創業者たちにとって、資金調達の際に希薄化の度合いを測ることは困難でした。「会社をどの程度売るか」への答えは、それ以外のSAFEで調達した金額や、数年後に交渉するシリーズAのオプションプール増加に関する想定を、繰り返し検討することで決まります。私たちYCの株とSAFEがその諸要素に加わったことで、混乱に拍車が掛かっています。

一方、ポストマネーSAFEに必要なのは、単純な足し算と引き算ぐらいです。例えば、1000万ドルのポストマネー・バリュエーション・キャップ(資金調達後のバリュエーション・キャップ)に50万ドルをSAFEで出資すると、創業者は自社の5%を売却したことになります。1600万ドルのポストマネー・バリュエーション・キャップに100万ドルの増資を行うと、創業者はさらに6.25%を売却したことになります。合計で11.25%です。それをYCによるポストマネーSAFEの7%に加算すると、創業者たちはシリーズAを前にして、自分たちの立ち位置を把握することができます。シリーズAによって当事者全員の希薄化が進むので、これはとても重要なことです。

ポストマネーSAFEにより保有比率と希薄化が明確になり、計算が非常に単純化します。トレードオフといえば、ポストマネーSAFEで新たにドルが調達されるごとに、既存株主のみが希薄化することです。既存株主はその多くが創業者や初期の従業員です。

しかし、何千ものスタートアップがSAFEによる資金調達を実施する支援を行い、私たちがまだ別々の創業者や個人投資家で別れていた時代にSAFEを使用した経験から、このトレードオフは価値があるものであると確信しています。プレマネーSAFEに含まれるシリーズAの予測困難なオプションプール増加も同様に、創業者たちと初期の従業員に限って希薄化します。しかし、ポストマネーSAFEにはシリーズAが含まれていないので、一定の相殺効果が得られるでしょう。投資家たちの投資対象が明確になることで、バリュエーションも多少上昇する可能性があります。何より、希薄化を容易に、正確に、かつリアルタイムで把握できることで、創業者は遥かに効率的に株の管理と把握を行うことができ、シードラウンドの計画が可能になるだけでなく、シリーズAを前もって計画できるようになります。プレマネーSAFEで創業者たちがそれを容易に出来ないでいるところを、何度も目にしてきました。スタートアップが持つ他の側面と同様、測定できないものは最適化できないのです。

ここまでに挙げた標準取引の変更に伴い、標準的な SAFE(Standard SAFE)の新バージョンがリリースされます。新バージョンはポストマネーによるこのシンプルなアプローチに基づいており、あらゆる企業が資金調達時に利用することができます。また、今後数か月間の間、私たちウェブサイトではそれに伴う更新が行われますので、見逃さないようにしてください。

これらの変更点は些細に見えるかもしれませんが、それが仕様です。スタートアップたちがこれほど潤沢な資本を持ったことはありません。私たちはこれからも、手に入れるのが難しいものにこそ重点を置き続けます。それはコミュニティ、シンプルさ、体系的で一人一人に応じた助言、そして何より、素晴らしい創業者「体験」といったようなものです。

 

注記

1. プレマネーSAFEとは、SAFEによる投資の前における会社の価値を表します。例えば、1000万ドルのプレマネーSAFEがあり、100万ドルの投資を行ったとしましょう。この場合、SAFEの推定保有比率はおよそ 1/(10+1) = 9% です。ただし、バリュエーションはプレマネー(資金調達前)なので、推定保有比率は調達額が増えることで変動します(すなわち部分的に希薄化します)。さらに100万ドルを調達すると、同じSAFEの推定保有比率は 1/(10+1+1) = 8.3% になります。同様にさらに続けることもできます。「およそ」という表現を用いたのは、プレマネー・バリュエーションにはシリーズAのオプションプールによる増加分が含まれているからです。これにより、既存の資本構成のみがオプションプールによる希薄化を受けることになります。SAFE保有者は影響を受けません。従って、前述の例において、SAFEの保有比率の正しい計算結果は9%、8.3%を上下するかもしれません。紛らわしいですか?当然です。プレマネーの概念や、値付けされたラウンド(priced round)のオプションプール増加は、SAFEが値付けされたラウンドまでの短期的な橋渡し役だった頃には、うなずけるものでした。しかし、それ以来市場は発展を遂げ、今では一般的に、企業はシードラウンドの代わりに、200~300万ドルをSAFEで調達しています。

2. たいてい資金調達の各ラウンドでオプションプールは増加され、ラウンド後の新規雇用者にオプションを提供しています。プレマネーSAFEは、既存のオプションプールとシリーズAに関連するよる増加により、既存株主を希薄化しました。これもまた、SAFEが短期的な橋渡し役だった頃にはうなずけるものでした。しかし、SAFEが個別のシードラウンドになった途端、SAFEにシリーズAのオプションプールによる増加分を含むことにより、既存株主が2ラウンドの雇用期間中全ての希薄を受けることになりました。ポストマネーSAFEは既存のプールを含みますが、シリーズAによる増加分は含みません。全てのスタートアップはシードラウンドに先立ち、適当な規模のプールを採用することをお勧めします。また、初期の従業員には気前を良くして、それを継続することをお勧めします。

3. シリーズAはSAFEとは別個の全く新しいラウンドです。よって、希薄化が創業者やその他の株主、SAFEの間で広がります。機械的に、資本構成表はラウンドの直前に更新され、全てのSAFEは株式に転換されます。シリーズAの新規資金によって、全当事者が均等に希薄化されます。たまにシリーズAのバリュエーションがSAFEのバリュエーションを下回ることがあります。その場合、SAFE保有者はSAFEに関連するバリュエーションによって予想されるもの以上の保有比率を受け取ることになります。これはプレマネーSAFEにもポストマネーSAFEにも当てはまります。両SAFEは一般的にシードラウンドや関連バリュエーションで使うことを意図しています。従って、シリーズAのバリュエーションがシードのバリュエーションより低いという珍しいことが起きた場合、より大きな問題が発生している可能性が高いです。

 

 

著者紹介

Michael Seibel

Michael Seiebl は YC の CEO です。彼は Justin.tv と Socialcam の共同創業者であり、CEO でした。Socialcam は Autodesk に 2012 年に売却され、Emmett Shear の下で Justin.tv は Twitch.tv となり、Amazon に 2014 年に売却されました。スタートアップに関わる前、彼は US の上院議員選挙で財務ディレクターを1年勤め、2005 年に Yale University を Political Science の分野で BA を取って卒業しました。

Jason Kwon

Jason Kwon は YC Continuity の General Counsel です。Y Combinator に入る前は、Jason は Koshla Vetures での Assistant General Counsel でした。またその前は、Goodwin Procter の弁護士でした。過去には、彼はいくつかのスタートアップでコーダーであったり、プロダクトマネージャーを務めていました。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  New Standard Deal (2018)

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