- メトリクスはビジネスモデルから選ぶ
- ビジネスモデルは9つ
- 1. エンタープライズビジネス
- 2. SaaS
- 3. サブスクリプションビジネス
- 4. トランザクションビジネス
- 5. マーケットプレイスビジネス
- 6. ECビジネス
- 7. 広告ビジネス
- 8. ハードウェアビジネス
- まとめ
- Q&A
- 訳注:使用量に応じたビジネス
Anu
皆さん、おはようございます。本日はメトリクスに関する講義です。朝9時からこんなに多くの皆さんにお集まりいただきとても嬉しく思います。最後まで皆さんを飽きさせない講義にしたいと思っています。
メトリクスはビジネスモデルから選ぶ
さて、私たちが追跡すべきメトリクスとはどのようなものでしょうか?まず自分がどのビジネスモデルに該当するかを特定することをアドバイスします。多くの場合、どの業界に参入しようとしているかを人は考えます。ヘルスケアだろうか、バイオテックだろうか、それともエンタープライズだろうかというふうに。
しかし、これはメトリクスについて考えるうえで最適な方法ではありません。最適な方法は、ユーザーに対する課金方法、つまり自社のビジネスモデルについて考えることです。自社はどのビジネスモデルに該当するかを考えてください。
ビジネスモデルは9つ
ビジネスモデルは大まかに9つあります。皆さんのうちの99%はこれら9つのカテゴリの1つに該当するはずですが、そうでない場合、とてつもなく困難なもの、私たちが言うところのムーンショット(月ロケット打ち上げのような一大事業)に取り組んでいると思われます。
これからの時間は、各ビジネスモデルとそこで追跡すべき3つか4つのメトリクスについて説明していきます。
率直に言って、このステージでそれ以上の数のメトリクスを扱うのは負担が大きすぎます。ですから、ここでは追跡すべき重要なポイントを紹介します。
1. エンタープライズビジネス
まず、エンタープライズビジネスモデルとは何でしょうか?これはソフトウェアまたはサービスを大規模エンタープライズに販売する会社です。
実にシンプルですが、これを行うスタートアップはほとんどありません。ですから、皆さんの中にも最初からFacebookやGoogle、Appleなどに向けて何かをローンチしようとしている人、販売を計画している人はほとんどいないはずです。
しかし、もしこのエンタープライズビジネスに該当する人がいるとしたら、参考になるのがDocker、Cloudera、FireEyeです。YCポートフォリオの中でさえ、最初からそうしたビジネスを手掛けていた会社はほんのわずかです。しかし、皆さんが大規模エンタープライズを顧客とする会社の1つである場合は、このカテゴリに含まれることになります。
大規模エンタープライズは契約ベースで業務を遂行する傾向にあります。ですから、このビジネスモデルで追跡すべきメトリクスは3つと言えるでしょう。
ブッキング、顧客数、収益がメトリクス
まずはブッキング(予約)です。
例えば皆さんがFacebookと取引しているとしたら、彼らは「エンジニアx人の採用サポートに関して、来年は10万ドルの契約を締結したい」のように言ってくるでしょう。
そこで皆さんは、「ブッキング額は?個別の顧客数は?収益額は?」ということを考えます。
ブッキング額と収益の違いを説明しましょう。Facebookは早い段階で契約を締結する可能性があり、年初に「年間x人の採用について10万ドル」という話が来たとします。しかしこれは、直ちに収益を認識できるという意味ではありません。収益はサービスを提供して初めて認識可能になります。契約で定められた人数全員を採用した場合でも、年間契約の場合でも12等分して月割計上することになります。
よくある間違い
創業者によく見られる間違いは、ブッキング額と収益を混同してしまうことです。契約を締結しているとしても、相手に何かを提供しているわけではありません。契約内容の履行が始まってもいないのに収益として計上してしまうのは正しくありません。なぜなら、まだ何のサービスも提供していないからです。これは収益と言えません。創業者は、会社が収益を生み出しているか否かについて認識する責任があります。
2つ目の一般的な間違いは、現ステージでの皆さんにとってより関連があると思われます。
その間違いを起こしてしまうのは、Facebookから口頭で「契約金額は10万ドルの予定」と伝えられたような場合です。彼らにとって10万ドルは大きな取引ではありませんが、皆さんの多くにとってはかなり大きな取引です。
しかし、これはよくできたオファーにすぎず、ブッキングでも収益でもありません。彼らと同意書を締結していたとしても何の意味もありません。ですから、書面で契約を締結してからブッキングとし、契約内容の提供が始まってから収益として認識する必要があります。
2. SaaS
2つ目のビジネスモデルはSaaSビジネスです。皆さんの大半、特にB2Bや他社へのサービス提供を手掛けている人はこれに該当するでしょう。皆さん全員がSaaSモデルを考えているはずです。SaaS は昨今の主流となっているビジネスモデルです。
皆さんご存知のようにYCスタートアップであるSegment、Ironclad、Sandbergもこれに該当し、いずれもSaaSモデルで開始したスタートアップでした。SaaSとはサービス型ソフトウェア、つまりサブスクリプション(定額課金型)ベースのビジネスモデルで、自社が提供するソフトウェアに対して毎月課金を行います。
MRR、ARR、グロスMRRチャーン、有料CACがメトリクス
では、SaaSで追跡すべき4つの重要なメトリクスは何でしょう?
MRR
サブスクリプションとは収益が継続的に発生するビジネスですよね。これはつまり、人々が心の底から求める何かを作り出せた場合、彼らはそれを使い続け、毎月支払いをしてくれるということです。
ですから、最も高いレベルで追跡すべきメトリクスは、毎月どれくらいの儲けがあるか、顧客が何を求めているのかを測るMRR(月間経常収益 )となります。
ARR
ARRは年間経常収益です。
このフェーズでは会社は急成長し、成長率は前週比30~40%となっているかもしれません。そのため、ARRをそのままランレートとして追跡するのが有効となります。つまり、今月のMRRが30,000ドルで確かな継続性が見られる場合、それを12倍したものをARRとすべきです。このメトリクスは、絶対的なもののみに着目するのではなく、ペースを把握するのに役立つため、内部での使用にも有用です。
グロスMRRチャーン
注目すべき3つ目のメトリクスはチャーンです。何かをローンチする際は、それを使用しているアーリーアダプターのユーザーはごく少数でしょうが、彼らが使用を中止していないかどうかに注目し続ける必要がありますよね。サブスクリプションビジネスの場合、2~3人、あるいは10人の顧客から月5,000~10,000ドル獲得しているかもしれないため、1人の顧客を失うことは収益に多大な影響を与えます。
そこでお勧めしたいのが、グロスMRRチャーンと呼ばれるものの測定です。例えば、月初に当月のMRRは10,000ドルと予想していたものの、3,000ドルを支払っていた1人の顧客がチャーンした場合、3,000を10,000で除したものがグロスチャーンとなります。
ユーザーチャーンと混同させないようにしてください。新規ユーザーを獲得しているのなら、ユーザーチャーンを測定すると(このグロスチャーンがある場合でも)数字が良く見えてしまいますよね。それはつまり、急成長を遂げながら、失ってしまったユーザーには注意を払っていないことになります。解約を決めたユーザーから学ぶことは実に重要なので、チャーンは追跡すべきメトリクスです。
有料CAC
最後はペイドの有料CAC(顧客獲得コスト)です。ここにいるほぼ全員がオーガニックによるユーザー獲得を行っていると思いますので、これはもう少し後の段階の話となります。このステージでの有料の手法によるユーザー獲得はお勧めしません。しかし、「何人かの顧客を獲得するためにちょっとした有料のマーケティングまたは広告をやってみよう」と試してみる場合には、有料メカニズム経由でのユーザー獲得に要したコストを測定する必要があります。
例えば、Facebookあるいは自分が利用しているその他のチャネルに10,000ドルを支出してそのチャネルから5人の顧客を獲得した場合、そのために幾ら費やしたことになるでしょうか?
SaaS のよくある間違い
よくある2つの間違いを説明しましょう。この間違いは「ARRとは年間で経常的に発生する(リカーリング)収益である」と幾ら強調しても再三見られる間違いです。
リカーリングが最も重要な言葉です。収益については、サブスクリプションでない場合、つまりリカーリングビジネスでない場合、顧客が12か月分の支払いを約束しておらず、リカーリング収益があるビジネスとは言えません。
内部でARRを使用するようになると、「ああ、経常的・反復的なビジネスなのか」と多くの人は考えます。しかし、これは正しくありません。リカーリング収益があるビジネスと言えるためには、毎月収益を獲得する、あるいは顧客に毎月の支払いを確約させる必要があるからです。
最も一般的な間違いは、リカーリングレベニュー(収益)ではなく、自社のビジネスを測定するメトリクスとしても実はあまり有用ではない年間ランレートを使用してしまうことです。ARRを使用するには、経常的・反復的という重大要素を備えていることが絶対条件となります。
そして2つ目のよくある間違いは、実際には顧客は1回の支払いしか約束していないのに「これは経常収益です」としてしまうこと、あるいはコンサルティングプロジェクトで2か月目や3か月目の支払いが行われるか確定的でないにもかかわらずMRRに含めてしまうことです。これはMRRではありません。顧客が「12か月または6か月の年間プランに登録し、それに基づいて支払いをしている」ような真に経常的・反復的なもののみ含めるよう徹底してください。
3. サブスクリプションビジネス
3つ目はサブスクリプションビジネスです。これはコンシューマービジネスに関連しているビジネスモデルだと思います。このビジネスモデルにはDollar Shave ClubやBlue Apron、Athletec など多くの会社が存在し、特にサービスとしてのサブスクリプションはコンシューマービジネスで非常に盛んになってきています。
MRR、MRR CMGR、グロスユーザーチャーン、有料CACがメトリクス
サブスクリプションはSaaSとよく似ていますが、微妙な違いがあります。
継続的・反復的なMRRを追跡すべきという点では似ています。皆さんの中にはNetflixの年間サブスクリプションを契約している人もいるかもしれませんが、あれは月単位で継続的・反復的、リカーリングなものと言えます。
ユーザー(ユニット)チャーン
SaaSとの2つの違いは、ARRかそれに類するものではなく、月間成長率、そしてドルチャーンではなくユニットチャーンを測定することです。なぜなら、企業に向けての販売の場合、サブスクリプションは高価であるのが一般的だからです。企業が2,500ドルを支払っているような場合、1人の顧客を失えば収益に対する影響は多大です。つまり、収益チャーンに注目する必要があります。
一方、Netflixの会員は毎月7ドルまたは10ドルを支払っています。ここで重要となるのが顧客数であり、成長率に留意すべきと説明したのもそのためです。Netflixの場合、利用しているユーザー数が確実に増え続けるようにする必要があるからです。
また、ユニットチャーンを測定すべき理由は、10ドルを支払っている1人の顧客を失った場合は失うのは10ドルですが、10ドルを支払っている1,000人の顧客を失った場合は大きな金額を失うことになるからです。そのため、企業にプロダクトを販売するSaaSビジネスにおいて収益チャーンを測定するように、サブスクリプションではグロスユーザーチャーン を測定すべきです。
有料CAC
そして、有料CACはSaaSとほぼ同様で、有料マーティングの支出がある場合にはそれらのユーザー獲得に関連するコストを測定する必要があります。
この時、オーガニックと有料のユーザーを一緒にしてはいけません。このステージにある場合、会社の成長は乱高下する傾向にあります。今月は80%の成長、来月は10%の成長、再来月は90%の成長という場合もありますよね。会社は学習し、反復し、ユーザーの心に響くものは何か解明しようとしているため、このような乱高下は自然なことです。
月平均成長率(CMGR)
本当に重要なのは、ローンチ以降、ユーザー獲得を開始した月以降は月平均成長率(CMGR)を測定することです。これは、直近月のMRRを初月のMRRで除し、ローンチ以降の月数に比例した成長率を減じて算出します。
創業者がよくやる間違いは、平均値で見てしまうことです。
つまり、今月は成長率90%、2か月目は同10%、3か月目は同80%を合計し平均値を出すとどうなるでしょうか?突出した月があるため、成長率は良く見えてしまいます。創業者は自分に正直である必要があります。こうした成長率は2~3人のチームの時は問題にならないでしょう。その後、上手くいけば会社がスケールして10人のチームとなり、目標を設定する時は、成長率50%となれば大いに喜ぶ者も出てくるでしょうが、これは成長率の測定法が間違っているからです。
4. トランザクションビジネス
次はトランザクションビジネスです。これは、過去8~10年に生まれたという意味で比較的新しいビジネスモデルと言えるでしょう。先ほどと同じように、StripeやPayPal、Coinbase、Brex 、特に多くのフィンテック企業がこのカテゴリに該当します。
では、トランザクション企業とは何でしょうか?安全なテクノロジーによる決済の世界では、処理される決済額は膨大な金額になります。
Stripeを例に説明しましょう。同社は多くのスタートアップ向けに決済サービスを提供しています。各スタートアップの決済額はStripeで処理されます。これがトランザクションビジネスですが、Stripeは各トランザクションにつき手数料を徴収しています。つまり、他者の決済額を処理する類のビジネスである場合、トランザクションビジネスに該当すると考えてください。
GTV、純収益、ユーザー継続率、有料CACがメトリクス
GTV (Gross Transaction Volume)
取引総額 (GTV: Gross Transaction Volume) は、プラットフォームを通過するTPV(決済総額)のことです。
たとえばStripeが皆さんと同じステージであった頃の顧客数は30人で、その30人全員のTPVが例えば1億ドルで、すべてがStripeで処理される場合、それがTPVとなります。
しかし、これは収益ではありません。収益は銀行口座に入金されるものです。それが皆さんの会社の取り分であり、純収益と呼ばれる所以です。Stripeの例では「プラットフォームを通過する決済額の2.5%を徴収」しており、皆さんの会社での取引額の一部であるこの2.5%が同社の純収益となります。
ユーザー継続率
トランザクションビジネスの場合、多くの顧客を抱えているのがごく一般的です。1年経過したころには 、1,000~2,000人の顧客を抱えているかもしれません。そこで追跡すべき重要なメトリクスはユーザーリテンションです。ユーザーがトランザクション企業のサービスの利用開始後6か月後あるいは12か月後にもそれを使い続けてくれているようにする必要があります。
なぜでしょうか?トランザクション企業はユーザーのプラットフォームを供給しているからです。廃業していない限り、ユーザーがトランザクション企業のプラットフォームを使用しない理由はありません。
彼らはどのようにビジネスを行っているのでしょうか?例えば、誰かがStripeを使うのを止めたとしましょう。彼らは廃業したのでしょうか?彼らの決済は別の誰かが処理しているのでしょうか?そのため、トランザクションビジネスの場合は月ベースでのコホートリテンション測定が非常に重要です。
有料CAC
そして、有料CACは、あらゆるケースで同じですが、有料チャネルによるCACを測定することです。しかし、先ほど言いましたように、皆さんは有料マーケティングに手を出さないことが望ましいです。
よくある間違い
ここでよくある間違いは、取引総額と純収益を混同することです。先ほど言ったように、取引総額が1億ドルあっても、それは純収益ではありません。それは自分の銀行口座に入ってくる現金ではありません。口座に入ってくるのは1億ドルの2.5%です。これは非常に小さな数値ですから、ここでの収益とは取引総額である と理解する必要があります。
私の元にやって来る創業者で、「しかし、私が処理するのは取引総額なので、それが私にとっての収益です」と言う人が大勢います。こうした言い訳は通用しません。純収益とは銀行口座に入ってくる現金であり、ユーザーリテンションはコホートメトリクスです。これは1つの数字ではなく、「ユーザーの30%が残っている」といったものではありません。私たちにとってそれは何の意味も持ちません。皆さんにとっても同じです。決済サービスを提供している場合は、「顧客の40%は登録後12か月連続で利用してくれている」という理解が必要です。こちらの方がより有用なメトリクスです。
5. マーケットプレイスビジネス
次はマーケットプレイスビジネスです。先ほど言いましたように、これはトランザクションビジネスに似ていますが異なるものです。主にコンシューマー企業にみられ、AirbnbやeBay はその好例です。
マーケットプレイスには2つのサイドがあり、例えばAirbnbではホストとゲストがいます。ゲストがプラットフォームにアクセスし、部屋を選び、予約してくれればホストは満足します。これがマーケットプレイスです。
GMV、純収益、純収益CMGR、ユーザー継続率、有料CACがメトリクス
では、マーケットプレイスで重要となる3つまたは4つのメトリクスは何でしょうか?
GMV
まずはGMV(流通総額)です。ゲストが部屋を予約する時、ホストは一晩100ドルを提示すると仮定します。一晩100ドルで、例えば2泊すれば200ドルです。この200ドルがAirbnbの記録し得るGMVとなります。しかし、Airbnbは200ドル全額を手にしないため、これは収益の根拠になりません。おそらくAirbnbはGMVの12%を徴収しており、つまり200ドルの12%が同社の純収益となります。
純収益CMGR
その他2個のメトリクスはこれまで説明してきた他のモデルと同様で、コンシューマービジネスにおいてより重要なメトリクスであると考えられ、ここで追跡すべきは月平均成長率(CMGR)です。それは顧客数が重要となるためであり、複利計算で月間成長率を追跡して成長度合いを正当に把握することが非常に重要となります。
ユーザーリテンション
同様に、コンシューマービジネスの場合は、収益の継続(リテンション)は必須ではなくともユーザーリテンションには留意する必要があります。なぜなら、ユーザー数が重要だからです。
ここでは、「Airbnbに戻ってきた顧客の割合は?Airbnbはそれから6か月または12か月後、その顧客を維持したか?」ということが問われるでしょう。Airbnbのケースでは顧客が旅行する頻度が問われます。どなたか分かる人はいますか?年1回でしょうか?正解です。
では、彼らは結果の良し悪しをどのように追跡すべきでしょうか?年1回でしょうか?そのとおりです。
リテンションの確認のうまい方法を見つける
AirbnbがYCで学んだ後、コホートのリテンションの確認が年1回の場合、ビジネスが繁盛していることをどのような方法で確認できるでしょうか?彼らは12か月待たねばなりませんでした。自社の顧客が戻ってくるかを確認するために12か月待ちますか?待ちませんよね。ここは創造性を発揮すべき場面です。
そして、創造性を発揮するためにはユーザーの行動を熟考することです。つまり、何かを予約しようとする時、旅行者は旅行前日には予約しないでしょう。彼らは6か月前からリサーチを始めます。Airbnbはそれに気付き、追跡したのはユーザーが都市に関する情報収集または予約のために少なくとも6か月前に戻ってくるかどうかでした。
スタートアップのこのステージで最も重要なことは、ユーザーに望む行動を正確にそして率直に認識し、自分のビジネスは本当に健全かどうかを測定するためのリテンションメトリクスを考案することです。皆さんはユーザーに望むことを理解しているでしょうか?
では、ここでよく見られる間違いは何でしょうか?これはAirbnbにとって特に切実でした。なぜなら、彼らは需要サイドにお金を掛けていなかったからです。彼らは卓越した価値を提供していました。彼らは実に優れたデザイナー、ストーリーテラーでした。
彼らは需要サイドにはお金を掛けていませんでしたが、ホストを獲得するためにお金を掛ける必要がありました。何故だか分かりますか?自分の家を他人に貸そうとする人は皆無だったからです。必死になって考えた彼らはイベントに広告を出す必要があると思い至りました。ごく初期にホストを獲得するためにお金を費やす必要がありました。
よくある間違い
創業者がここで最も起こしがちな過ちは、多くのユーザーをオーガニックに獲得し、少数のユーザーを有料で獲得し、「今月は100人のユーザーを獲得したから、CACは12だ」のようにそれらを混ぜてしまうことです。
しかし、有料広告チャネルから獲得した人数を正確に測定していればCACは70くらいになっていた可能性があり、「これは持続可能か?有料チャネルのROIを把握しているか?」と自問する必要があります。
Airbnbのような特有の状況にある場合、ビジネスの頻度がそう高くなることはありません。それはユーザーが利用するのは年1回だからであり、一方でホスト獲得のためにお金を掛ける必要があるからです。お金の支出先やそこから高いROIを獲得できるかに注意を払うことは非常に重要です。
6. ECビジネス
次はeコマースビジネスです。
eコマースビジネスは文字どおり保有する特定の商品をインターネット上で販売し、ユーザーがそれらを注文するもので、Warby Parker、Bonobos、Memebox など沢山の会社がそのようなビジネスを展開しています。
このeコマースというカテゴリでは会社は商品を製造または他から調達しますが、最終的には商品を自社ブランドで販売し、顧客はそのブランドに魅かれて購入することになります。
月間収益、収益CMGR、グロスマージン、有料CACがメトリクス
先ほどと同じように、これはコンシューマービジネスであり、ここで追跡すべきは月間収益となります。注意すべきは、経常的・反復的(リカーリング)なもの、サブスクリプションではない場合、ユーザーは日常的な商品を今月は購入し、翌月購入する可能性は無いので、ここで追跡するのは単なる収益であることです。
消耗品を扱うビジネスである場合、月間収益を追跡する必要があります。ここでも同様に、月平均成長率 (CMGR)の追跡が非常に重要となります。
Eコマースでは、当初から売上総利益(グロスマージン)の追跡が重要となります。なぜなら、会社は商品を製造または他から調達し、自社ブランドで販売するからです。
つまり、商品1個当たりで利益を獲得できるよう、商品を調達するために必要なものやコストを理解することが重要になります。そして、リカーリングビジネスではないeコマースにおいては、これがより重要になります。取引ベースで利益が出るよう徹底させる必要があり、そのために売上総利益を追跡することが重要です。
有料CACは、その他すべての例とほぼ同じです。
よくある間違い
Eコマースにおいてよくある間違いですが、売上総利益の計算にすべてのコストは含まれていません。これに関して上手くやっているのがAmazonで、「Amazonは非常に少ないマージンで商売している」とよく言われますが、実際にはすべてのコストを控除した純利益を追跡しています。従って取扱量が多ければ、純利益×取扱量で獲得利益の多いビジネスとなり、その利益を将来の投資に投入することができます。
Eコマースに関してよく見られる間違いは、例えば自分が買ったクリップのコストが10ドルと分かっている場合、そこに輸送コストや顧客処理コスト、支払処理コストは含まれていないと考えることです。それらのコストを含めなければ最初の取引から正しい価格設定ができていないことになるため、これは実に重要です。
7. 広告ビジネス
次は広告ビジネスです。昨今は広告ビジネスの会社が非常に少なくなっています。しかし、もしこの分野に参入する場合には、競合する大手としてはSnapchat、Twitter、Redditがあり、これらはいずれも様々な理由から人々が集まる巨大なソーシャルネットワークを有しています。
主なマネタイゼーションモデルでは、広告主がネットワークで広告活動を行い、会社は広告主から収益を獲得しています。つまり、このステージでは、広告ビジネスでのマネタイゼーションはおそらく不可能であるため、ここではユーザーが鍵を握っています。
デイリーアクティブユーザー、マンスリーアクティブユーザー、ログイン率がメトリクス
ユーザーに関して重要なメトリクスは、デイリーアクティブユーザー、マンスリーアクティブユーザー、そしてログイン率の3つのみです。
ログイン率
では、会社のアプリを毎日、毎月アクティブに使っているユーザーとは誰なのでしょうか?毎月使っているのは誰なのでしょうか?
ログイン率とは、ユーザー名とパスワードを使ってログインしているアクティブユーザーの比率です。
よくある間違い
私が多くの例を挙げることができるよくある間違いは、アクティブとは何かを定義しないことです。
例えば、3~4年前だったと思いますが、日間アクティブユーザーをメトリクスとしたある会社がありました。私はその会社に、「アクティブとは何ですか?」と尋ねた記憶があります。私が思い浮かべたのはその会社のプロダクトを読んだり利用したりしているユーザーでしたが、その創業者から返ってきたのは「私がその人宛にメールを送信した場合、その人はアクティブユーザーです」という言葉でした。これはアクティブユーザーとは言えません。
アクティブとは何か、もう1度Airbnbの例に戻って考えましょう。自社のアプリを使用するユーザーに求める行動を定義する必要があります。ニュースアプリを作成する場合には、読まれた回数やコメント数がアクティブを意味するのでしょうか?これらは正確に定義する必要があり、それができなければ、人を引き付けておく魅力のない何かを作っている可能性があり、ユーザーはあっという間に離れていくでしょう。そんなビジネスは取り組む価値があるとは言えませんよね?
ですから、アクティブとは何かを確実に定義し、そのメトリクスを注視していく必要があります。
8. ハードウェアビジネス
次はハードウェアビジネスです。このビジネスでは最終的にはデバイスを販売しているため、Eコマースと非常によく似ています。ですから、Fitbit、GoPro、Xiaomiはハードウェアビジネスと言えます。
月間収益、収益CMGR、グロスマージン、有料CACがメトリクス
ご覧いただけますように、追跡すべきメトリクスとして月間収益と月平均成長率(CMGR)が挙げられている点でeコマースとよく似ています。
特に注視すべきは売上総利益(グロスマージン)です。このモデルで最初から利益を得ることができれば、重要になってくるのは有料CAC です。
まとめ
さて、ここまで9つのビジネスモデルについて説明してきましたが、最後によくある間違いについて説明してから質疑応答の時間に移りましょう。
よくある間違い
これは非常に多くのブログで取り上げられているので、皆さんもご存知かもしれませんが、右肩上がりのチャートというのは魅力的に見える、というものです 。しかし、どんな累積チャートも右上方に推移していきます。
累積チャートは絶対使わない
理解してほしいのは、累積チャートを使用する論理的な根拠はこの世に存在しないということです。私が知る限り、累積チャートを使用しながらスケールしている会社は1社もありません。累積チャートは使わないでください。
Y軸のラベリングを忘れないように
私が見てきた2つ目の間違いは、Y軸のラベリングをしないことです。先ほど言いましたように、5~7人のユーザーを獲得するだけでも会社はスケールします。適切なY軸のラベルが分からず、チャートがただの垂直線のように見えるなら、それは何の意味もありません。
Y軸のスケールを変えないように
3つ目の間違いは、Y軸のスケールを変えることです。これは私がまったく理解できなかったことですが、非常に多くの会社がX軸はゼロから、Y軸は安全圏からそれぞれスタートする、ということをやっています。そうしたチャートからは会社の成長度合いは正確に把握できません。自社の問題を示すことです。
ちなみに、YCにおいて、チャートが右上方に推移しているスタートアップはありませんでした。そうした例は全くありませんでしたし、最も成功を収めた会社でもそうしたチャートではありませんでした。
重要なのは正直に測定すること
私が思うに、最も重要なことは物事を正直に測定し、修正することです。右下がりになる時があっても構いません。そして私たちが日頃から言っているもう1つの点は、比率しか表示していないチャートは使わないことです。グロス収益チャーンであろうと月間成長率であろうと、測定しているものが何であろうと絶対数と絶対数を比較対象とした割合を明確にすることが非常に重要です。
私はa16z(Andreessen Horowitz) 在籍中にメトリクスについて詳細に論じた投稿もしており、参照したい方のために2つのリンクを載せておきました。しかし、皆さんのステージで重要なのは3つか4つのメトリクスだけです。
皆さんのビジネスがこれら9つのビジネスモデルのいずれかに該当し、本日の講義から得たものがあれば幸いです。どのビジネスモデルでも2つか3つのメトリクスから始めることができ、そうすることがここにいる全員にとって幸先の良いスタートになるでしょう。ありがとうございました。
Q&A
では質疑応答に入りましょう。
話者2
簡単な質問が2つあります。エンタープライズモデルに関してですが、ブッキング額と発生主義会計を結び付けているように見受けました。ここでは1対1のマッチングは適切なのでしょうか?
Anu
なるほど。「会計上、ブッキング額を発生主義で認識して良いか?」という質問ですね。私はそうは思いません。ブッキング額を収益として追跡する目的は会計の視点からではなく、自社のビジネスをどう測定するかという視点からになります。ブッキング額は将来の収益です。「私は10万ドルの契約を締結したが、ローンチは2か月後になってしまう」といった場合、それは将来のブッキング額であることはお判りでしょう。なぜなら、これは契約書に署名し、顧客は皆さんに仕事を発注する約束をしているだけだからです。
これは10万ドルの契約ですが、皆さんがサービスを提供するのは2か月先ですから、まだ収益を認識してはいけません。これは社内で自社のビジネスを管理するための方法にすぎません。これから進行する案件で、自社チームのリソースが投入される場所です。しかし、年末までに20万ドルの目標を達成したい場合はどうすべきでしょうか?皆さんが現在いるフェーズでは、もう1人別の顧客を見つける必要があるか、サービスのローンチを早める必要があるかもしれません。なぜローンチまで2か月待つ必要があるのでしょうか?明日ローンチするためにできることは何でしょうか?
話者2
2つ目の質問はコミュニティビジネスについてで、これら9つのバーティカルとビジネスモデルには多くの選択肢があります。ビジネスモデル決定前のコミュニティビジネス初期において追跡すべきものとして推奨するものはありますか?
Anu
「コミュニティビジネスに関して追跡すべきものは?」という質問と理解しました。あなたのビジネスモデルが広告であろうとなかろうと、私はコミュニティビジネスを広告ビジネスと分類します。つまり、追跡すべきは、アクティブユーザーの定義とユーザーに求める行動であり、日間アクティブユーザーと月間アクティブユーザーの動向を毎週追跡することです。
話者3
[聞き取り不能]
Anu
大半のビジネスは、時間の経過とともに異なるビジネスモデルに進化します。最も重要なことは、短期的には何にフォーカスするかです。短期的フォーカスとして今後1~2年にトランザクションビジネスでProduct/Market Fitを見つけるという場合は、そこがスタートすべき分野となります。
話者3
[聞き取り不能]
Anu
はい、そのとおりです。「投資家のために伝えるべきことは?」という質問ですね。率直に言って、このステージで選ぶべきことは創業者である自分自身に関する2つか3つのことです。つまり、「自分が手掛けていることに関して、どんな独自の洞察を持っているか?この会社は大会社に成長できるか?」といったことです。複雑にし過ぎてはいけません。
話者4
[聞き取り不能]に関する考えをお聞かせください。
Anu
なるほど、良い質問ですね。先ほど言いましたように、投資家が注目するものに囚われてしまうことがよくあります。しかし、最も重要なのは、自分のビジネスについて他の誰よりも理解しているということです。
自社ビジネスが健全であり続けるために追跡すべきものは何でしょうか?創業者として最初期から追跡すべき2つのことはバーンレートです。なぜなら皆さんの会社は現金を支出しており、常にお金が尽きないようにする必要があるからです。お金を使い果たしてしまうのは言語道断です。バーンレートを追跡し、銀行口座に少なくとも今後6~9か月間会社を運営できるだけの十分な預金があるか確認できるよう、四半期ごとに損益計算書を作成することです。
追跡すべき2つ目は支出に関係しています。それは売上総利益で、eコマースかコンシューマー関連のビジネスに該当する場合は特に売上総利益に注目する必要があります。創業者にとって重要なことは、取引ベースの売上総利益に注目し、会社はお金を稼いでいるかどうかを確認することです。会社がお金を稼げていない場合、いつ利益が出るかという照準線が見えていなければ、「これは手掛けるべきビジネスか?」と自問する必要があります。しかし、現段階では時期尚早だと思います。ですから、まずはユーザーの獲得とマネタイズの方法にフォーカスすべきです。それが第一段階です。
話者2
ancestry.comのようなユーザー登録モデルのビジネスに関する質問です。ユーザーは最初に情報を入力したのち、サイトに戻り情報を参照したくなるかもしれませんが、それはユーザーが最初に購入した分に関する追加収益となります。そうした場合、その手のEコマースビジネスを手掛けますか?また、~ を測定すべきですか?
Anu
両方やるべきだと思います。しかし、私なら収益はその月の収益として認識します。なぜなら、これはその月にだけ購入されているからです。そして、Airbnbのように、「ユーザーに期待する行動は?ユーザーが年1回戻ってくるのを期待しているのか?もしそうなら、どれくらいの割合のユーザーが帰ってくるのか?」と考えることです。では、そこの方。
話者5
[聞き取り不能]
Anu
実に良い質問ですね。私がAirbnbのホストの例を挙げたのはこのためです。唯一述べたいことで、最も重要と思われることは、そのサプライヤーを引き入れるための獲得コストを測定することです。
なぜなら、大半のマーケットプレイスビジネスでは、需要サイド、つまりユーザーを獲得するのは非常に困難だからです。サプライに関して十分なビジネスがあれば、サプライは継続するでしょう。そして先ほどのように、特にこの段階で、創業3年でスケールしGMVが2,000~3,000万ドルのような場合は、質問に対する答えは異なってきます。
この時点では、いかにして両サイドを可能な限りオーガニックに獲得するかが重要となります。供給サイドに少し支出する必要がある場合、時々実験を試みてください。その実験を試みる時に測定すべき最も重要なものは獲得コストです。なぜなら、獲得するために支出されるそのコストが大きくなりすぎることを避けられるからです 。これらが本当に重要な2つとなります。
話者6
すみません、エンタープライズビジネスに関する先ほどの説明では、最初からFacebookやGoogleのような企業への販売はできないだろうとのことでした。では、ビジネスモデルの分解についてどうお考えですか?エンタープライズ内の少人数のチームに細分化するのはどうでしょうか?
Anu
エンタープライズビジネスであれば、最初からFacebookを顧客にするのは無理です。Go-to-Marketに関してどのようにフォーカスすべきでしょうか?少人数のチームを攻めるべきでしょうか?スタートはほぼ常に、少人数のチームでのスタート、あるいはパイロット導入となります。つまり、エンタープライズにフォーカスしている場合は、パイロット導入から始めるのが一般的です。しかし、パイロット導入は6か月あるいは3か月という期間限定となる可能性があります。そうしたケースでは、ブッキング額あるいは収益として報告されません。パイロット導入であることを報告するのみです。そしてパイロット導入期間が満了したら、先方を訪ねて契約締結の可否を確認します。皆さんがいるフェーズでは、12~24か月の間に顧客は1人か2人のみというのが一般的でしょうが、これは問題ありません。なぜなら、上手くいっていればACV(年間契約価値)は実に大きなものになることが予想されるからです。次を最後にしましょう。
話者6
分かりました。それがこの質問に対する私の答えだろうと思いますが、最適な顧客獲得コストをどのように決定すればよいのでしょうか?
Anu
これは実に難しいですね。私に言わせてもらえば、最適な顧客獲得コストはゼロです。特にこのステージでは、それが最適な顧客獲得コストになります。なぜなら、人々が本当に求める何かを作り出していれば、多額のコストを掛けずに顧客を獲得できるからです。ですから、このステージではゼロ以外の答えはありません。しかしスケールするにつれて余裕が生まれるのは確かで、正しい答えは必ずしも絶対的な金額ではありません。
ここですべきは、顧客の獲得コストとLTV(顧客生涯価値)との比較です。Airbnbの例で説明しますと、獲得後1年経過した顧客がいる場合、「この顧客からは今年2回の予約があった。毎年このペースで利用してもらえれば100ドルの収益になる。」と考え、「5倍のギャップがあるはずだ」と判断すれば、受容し得る顧客獲得コストは20ドルとなります。しかしながら、このステージでは答えはゼロです。
訳注:使用量に応じたビジネス
講義内では usage-based のビジネスモデルについて触れられていません。しかし資料には含まれているため、簡単に触れておきます。
使用量に応じた課金を行うビジネスは、Twilio や Checkr などの API をベースとした企業です。月間収益、収益CMGR、収益リテンション、グロスマージンがメトリクスです。良くある間違いは収益をリカーリング収益として言及してしまうことです。使用量ベースの収益はボリュームに応じて変わるので、リカーリングとは本来言えません。用語を混同しないように注意してください。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Nine Business Models and the Metrics Investors Want (2019)