会社を畳むことについて (Aaron Harris)

創業者や投資家たちがとても多くの時間を使い、上手くいっていることについて話をするのは当然のことです。もし全ての時間を使って失敗した会社のことを長々と話していたら、他のことをする時間がなくなってしまうでしょう。

会社の失敗について話す時、人々はたいてい失敗を通して学んだ教訓に落とし込むことで、自分たちが賢く見えるようにします。私がTutorspreeを閉じた時も、そのようにしました。それは貴重な訓練になりましたし、たぶん他の人たちの役にも立っただろうと思います。ただし、役立ったのは主に気持ちをスッキリさせる効果でした。

創業者は会社を閉じるべき時期について、理路整然とした考え方を持っていません。(注1)創業者は必ずしも会社を閉じるという選択肢をとるわけではありません。(注2)しかしたいていの場合、それは創業者が選択することです。個人的な判断であり、痛みを伴う難しい決断です。感情的で切迫した決心です。しかしながら、会社を閉じるという決定を盲目的に行う必要はありません。

会社を閉じるべきかどうかを直感的に判断しにくくしているのは、それが最も楽な道ではないという事実です。困難な状態にある会社がすべき「最も簡単な」ことは、成長も本当に死ぬこともないゾンビモードになることです。この選択が簡単なのは、積極的な意思決定を必要とせず、会社を生き延びさせるために必要最低限のことをし続けるだけでよいからです。この判断は、閉塞状態や破綻を引き起こす一連の小さな妥協のようなものを伴います。

会社を閉じるのが難しいのは、自分が間違っていた、不運だった、あるいは無能だったということを世間に対し認めることになるからです。(注3)この難しさ故に、私たちは「会社を閉じる」とは言わず、しばしば「会社を閉じる」ことを意味する一連の用語を考え出してきました。順不同で紹介すれば、ピボット、ハードピボット、リブランド、戦略的シフト、顧客フォーカスの変更、プラットフォーム転換などです。(注4)

ステークホルダー(利害関係者)

会社を閉じるのが難しいのは、ほとんどの場合、信じてくれていた人たちを失望させることになるからです。この失望は真実なこともありますが、そのように想像しているだけの場合もあります。資金調達した創業者は普通、投資家を失望させたり動揺させたりすることを最も心配します。投資家はたいていの場合、投資が失敗した時は動揺します。一般的にその動揺の大きさは、投資した金額と、投資してから悪い結果が出るまでのスピードに比例します。しかしながら投資家は、ほとんどの投資は上手くいかないことを承知しており、たいていは自らの感情を克服します。会社を閉じることよりも投資家を困惑させるのは、創業者の伝える事業の状況が不正確で、何の警告もなく突然会社が閉じられてしまった時や、何年もかけてゆっくりと事業が悪化していき、投資家の時間をたくさん無駄にしてしまったような場合です。

創業者はしばしば、会社を閉じることで顧客を失望させることも気にします。それは真実ですが、一般的に上手くいっていない会社のプロダクトは質が落ちており、そのことも顧客を失望させます。その会社のプロダクトが極めて重要で、命に関わるような目的のものではない限り、潔く透明性をもって会社を閉じることは、徐々に廃れていくよりもずっと好ましいと言えます。(注5)

創業者は会社を閉じることで従業員に与える影響について心配するべきです。創業者の最大の責任は、給料を払うことです。特に初期の段階で創業者が獲得する最大の心理的投資は、有能な人たちを説得して大丈夫だと信じさせ、目先の成功を度外視して猛烈に働く仕事のオファーを受け入れさせることです。従業員はそのような心理的原動力で働いているからこそ、会社を閉じる時はその決断に関する透明性と時間的な予定がとても重要なのです。

創業者が従業員に対してする可能性のある最悪のことは、すべて上手くいっていると話しておいて、ある日突然、a) もう仕事はない、b) 会社は約束していた給料を払えない、c) このことはずいぶん前から分かっていたが、心配すると思って言いたくなかった、と話すことです。従業員に丸見えの状況で潔く会社を閉じる決定をし、彼らが新たな職場を見つけてそこに移るための、十分な時間とお金を残す方がよっぽどましです。

会社を閉じるためのフレームワーク

あるアイデアを実際に閉じる判断は、次の質問への回答を通して行うことができます:(注6)

  • 今のスタートアップを成長させ続けるためのアイデアは何かありますか?
  • その成長を推進して利益の上がるものにすることができますか?
  • その成長によって生じる新たな事業に取り組むことを望みますか?
  • 成長により生じる新たな事業で今の共同創業者と協力して働くことを望みますか?

最初の2つの質問は定量的で、創業者がそのプロダクトやユーザーに関して絶えず試みてきたビジネス的な実験の結果に影響されます。残念なことに、それらは定量的ではあるものの、あらゆることを実際に正しい方法で試みてきたかどうかは、それを知るための決定的な方法がありません。どこかの時点で、蓄積された証拠に基づいて判断を下す必要があります。(注7)

次の2つの質問は定性的で、回答に「はい」と「いいえ」が混ざった場合に生じる、決断に関する最大の課題を導きます。例えば、キャッシュフローはプラスながら成長が止まっている事業でも、現在の共同創業者と協力して取り組むことを楽しんでいる場合は、おそらく会社を閉じるべきではありません。しかし、事業が急速に成長していても、共に働いている人たちを嫌っているのなら、会社を閉じるか、チーム抜きで続ける方法を探すべきです。それらは他の誰も代わることのできない個人的な決断ですが、できる限り客観的に判断できるように、いくつかの異なる脈絡に分けて意志決定することが重要です。

その一方で

私は自分の会社を閉じる際、あらゆる証拠が決断の正しさを示しているにも関わらず、恐れを覚えました。(注8)最も私を恐れさせたのは、会社を閉じた後に何が起こるのか全く分からなかったことです。しかしながら私は、生きるべき人生は1つしかないということに気付きました。そして、自分自身で恐怖を作り上げている悪い状況にとどまり続けるのは、馬鹿げたことだと悟りました。

同じような状況を経験した多くの創業者たちと話す機会を得たことで、彼らの大部分が、自分のスタートアップを閉じた後の数ヶ月間は、信じられないほど落ち込むことが分かりました。その後で、物事は好転し始めます。信じ難いかもしれませんが、会社を閉じることで緊張状態が大きく解き放たれ、重荷となっていた多くの期待が一掃されて、全く新しい創造的なアイデアや取り組みが可能になるのです。それはスタートアップサイクルの必要不可欠な一部であり、創業者がより公然かつ綿密な取り組みを行うために必要なことなのです。

 

注:

1. このエッセイ全体を通して、「会社を閉じる」という表現は「アイデアを閉じる」という意味でも使っています。その2つにほとんど違いはありません。

2. たいていは資金調達に失敗した結果として予想外の資金不足に陥ることで、創業者は会社を閉じざるを得なくなります。

3. 無能という言葉は厳しいように見えますが、初めてでも10回目の挑戦であっても、会社を立ち上げるのに必要な新しいことの全てにおいて、自分が有能であると信じるのはおかしなことでしょう。

4. このリストだけで全てを網羅していないのは確かです。

5. この場合でも会社を閉じることは重要ですが、決定する際には十分な時間的余裕とコミュニケーションをとり、代替案を見つける最善の努力を行うべきです。

6. これを逆にして言うこともできるでしょう。スタートアップに取り掛かる決断は、これらの質問の答えが全て「はい」の場合に行うべきです。

7. 間違いなく多くのことに挑戦したという事実が重要です。創業者はしばしば、もっと時間が必要なアイデアに対して、あまりにも早く諦めてしまいます。

8. Rya、Josh、そして私は全員、お互いのことを人として好きでしたが、質問2、3、4に対する答えは全て「いいえ」でした。

編集を手伝ってくれたSam AltmanとCraig Cannonに感謝します。

 

著者紹介

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです。彼は Y Combinator から投資を受けた Tutorspree の共同創業者でもあります。Tutorscpree より前に、彼は Bridgewater Associates で働いており、分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。また Harvard で歴史と文学に関する AB を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  On Shutting Down (2018)

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