従業員向けストックオプション制度のお勧めの方法 (a16z)

※翻訳者からの注意:本内容はアメリカでの議論です。日本では異なる面もあることをご理解の上、読んでください。

 

この投稿は、テクノロジーのスタートアップがどのように社員の株式報酬プログラムを体系化するかについて、私たちが推奨する方法を提示しています。

私は最近、自社株購入権付与の権利(ストックオプション)行使期間を離職後90日間から10年間へ切り替える際に発生する潜在的な問題についての投稿記事を書きました。その投稿の目的は、そのような切り替えを考える場合に創業者が考慮すべきいくつかの事柄を明らかにすることでしたが、多くの読者はそれを10年間の権利行使期間に対する反対意見だと解釈しました。これは私たちの意図ではないので、私は企業としての私たちの総合的な立場を明確にしたいと思います。

元社員、現在の社員、潜在的な将来の社員の誰もが会社にとって重要な最善のことを実行したいと思っていますが、その一方で、90日間の権利行使期間は、お金のある社員がお金のない社員よりも有利になっています。そして、これは正しいことではありません。苦労して手にした購入権を確定した社員が、単に購入権行使およびその税金の支払いができないからという理由で自分たちの株式を犠牲にすべきではありません。

このような理由で、私たちは、ここに10年間の権利行使期間を含む自社株購入権プログラムを提案します。そして、私たちは創業者の皆さんに、包括的プログラムを検討することをお勧めします。このプログラムは、結果的に生じるであろう次の問題に対処することを目的としています。

  • 意図せずして社員に離職する動機を与えてしまう — 社員があなたの会社に、例えば、2年間いて、新しい会社に入社する機会を手にしている場合、彼女は財務的に興味深い決断を下す権利を手にしています。もし彼女が会社にとどまって、会社がうまくいかなかったら、彼女はすべてを失います。彼女が会社を離れ、会社が成功すれば、10年間の権利行使期間で購入権の2年間を行使することにより、彼女の利益は保護され、さらに、新しい会社で株式を取得することにより、下値を支えることが出来ます。彼女があなたの会社の方を非常に気に入っているとしても、彼女には依然として自分の身内に対して最善の行いをする受託者の責任があり、多くの場合、合理的なのは、多様化を創出して新しい会社に入ることです。
  • 元社員に対しての法的な危機を潜在的に生じさせる — 会社は非上場会社でいる期間が長くなっているため、流動性を求める元の社員は、民間の流通市場に目を向け、自分の株を売るか、または第三者に対して購入権を抵当に入れるかもしれません。長年、連邦証券法の下に、売り手が株価に影響を与え得るような情報を知っていて、かつ、買い手にその情報が開示されていない場合は、売り手は買い手に責任を負う可能性があると定められてきました。例えば、仮に売り手が(会社にいたことにより)事業の見通しが厳しいようだと知っていたり、もしくは製品の発売が著しく遅延していると知っていれば、それは株式購入の是非を評価する際に買い手が知っておくに値する重要な情報であり、その情報を開示し損ねることは、売り手にとっての大きな法的危機を生じさせます。私たちは証券取引委員会(SEC)が流通市場での大量の売買を疑問視するのをこれまで目にしたことはありませんが、 SEC 議長の Mary Jo White は最近、スタンフォード大学で講演をし、流通市場での株式売買に目を光らせるとほのめかしました。このリスクは90日間の権利行使プログラムにも存在しますが、権利行使期間を10年間に切り替えれば、リスクはより深刻になります。どちらの行使期間を選択したとしても、リスクの軽減はよいアイデアです — そして、あなたの会社の社員にとってよいことであるばかりか、会社を潜在的な法的問題から保護する助けともなるでしょう。
  • 重要な株主投票をより困難にする — 一般株主の承認を必要とするような変更を加えなければならない場合、さらに大勢の株主の居所を追跡する必要が出てくるでしょう。株主投票は、買収提案や新規株式の権限付与(社員への購入権発行!)、企業買収、資金調達などの非常に重要な状況に影響を与える可能性があります。企業が行動を起こすために何千人もの株主をまとめる必要がある場合は、あなたの CEO としての仕事は実に困難となります。これらの種類の取引を減速させることで、取引と、潜在的には会社も、危険な状態に陥れることになるかもしれません。
  • 会社が社員に与えることのできる二種類の自社株購入権には、適格自社株購入権(ISO)と非適格自社株購入権(非適格)がありますが、その違いに起因して、社員にとって不利になる税制措置 — 社員にとってよりよい税制措置は、ISO の方にあります。なぜなら、購入権行使価格と株式の公正な市場価値の間の相違について、行使時に税金を支払う必要がないからです。 しかし現行法の下では、社員が10年間の行使プログラムに切り替えた場合、ISO は「非適格」となり、雇用90日以内に行使されなければ、自動的に非適格へと変換されます。このように、行使期間が長くなると、社員への税制措置はより好ましくないものとなります。

行使期間が10年間で、上記の問題を緩和しつつ、より公正であると私たちが信じている株式購入権プランを以下に述べます。

10年間の自社株購入権利行使期間
これにより、自社株購入権を購入し、イグジット時に相当する税金を支払う資金のない社員が、既得の購入権の利益をすべて手にすることができます。しかしながら、上述のように、現行法の下では、これは、すべての購入権が非適格( ISOではない)となることを意味します。

後取株式権利確定
後取権利確定スケジュールを用いることで、離職の動機付けを大きく軽減することが出来ます。これを実行する方法はたくさんありますが、その一例はSnapchat が行なっているものです— 社員は1年目に10%、2年目に20%、3年目に30%、4年目に40%の権利が確定されます。会社は、後取権利確定スケジュールの代わりに、10年間の権利行使の期間について、有効にするための最短在職期間の条件や、社員の在職期間に伴って行使時間が長くなるスライド制を検討することも出来ます。

譲渡制限
強固な株式譲渡制限は会社や社員、元社員を、流通市場での売買に関係する潜在的な危険要素から守ります。とりわけ譲渡制限は、流通市場の問題で積極的な役割を会社に強いることになります。このようにして、社員への法的責任を取り除き、最終的に会社の対内証券を所有することになる人を制御しつつ、さらに確実に、すべての適切な開示が潜在的な買い手に対してなされる傾向が生み出されます。特に、SEC が新たにこの領域に注目するため、企業は、かなり注意深く、この問題を徹底的に考える必要があります。これに関して火を見るよりも明らかなのは、これらの同一の譲渡制限が、創業者とすべての投資家にも同じように該当するはずだということです。これらのリスクは社員特有のものではなく、既得株式を持つ元社員が数の上でもさらに多くいるなら、単純に考えて、リスクは拡大します。

アーリーステージの社員のための 83(b)
社員に好意的で、少なくともアーリーステージ企業では購入権プランを一切変更する必要のない、単純で実際に存在するメカニズムがあります。それは、いわゆる 83(b) と呼ばれるもので、IRS 規定の条項を説明した節にちなんで名づけられています。83(b) の選択権により、権利が確定する前であっても、社員は購入権の早期行使ができます。社員は行使価格の費用で損をしますが(このソリューションが、普通株の評価が非常に低いアーリーステージの企業にのみ機能する理由)、税金の負担は一切ありません(これは、行使価格と株式の公正市場価格が等しいからです)。83(b) の選択権は、税制上の他の優遇措置も付与します— それは長期資本利得保有期間に時を刻み始めるので、社員が株を売却する時、低い方の資本利得率のみに税金をかけられる可能性が高いのです。だからと言って、これはすべての社員の問題を解決するわけではありません。なぜなら、株式の行使価格が上昇すると、後で採用された社員は 83(b) の選択権を行使するためには、さらに非常に多額の現金の余裕が必要となるからです。 けれども、私たちは、アーリーステージの社員には 83(b) のメカニズムの活用をお勧めします。

評価の実質的上昇に伴う RSU への移行
制限株式単位(RSU)は、自社株購入権とは違い、行使価格がありません。このため社員は、RSU の利益を得るための手出しの費用は不要で、RSU が「アウト・オブ・マネー」になるリスクがありません — RSU は、社員に付与される時機を問わず、常に株価と同等の価値を持ちます。このように、RSU は、10年の行使期間の問題解消に役立つだけでなく(適切に体系化すれば、権利確定の際に税金は課されません)、株価の変動などの他の問題を回避することにもなります。株価変動は、購入権を水没させ、無価値にしてしまう原因になり得ます。しかしながら、購入権の計算では、一般的には社員に自社株購入権として RSU の3分の1を発行すると示しているので、RSU の実在価値が上昇し、少なくとも社員にとってトレードオフに意味が出る程度になるまで待つのが最善策です。ここには魔法の数字はありませんが、一般的に企業が10億ドル以上の評価を手にし、購入権の問題がさらに深刻になれば、 RSU への切り替えは有効です。自社株購入権とは違い、一般的に RSU は IPO に先立って売却することは出来ません。ですから、購入権は、社員にとっての流動性に対する暫定的ソリューションにはなり得ませんが、概して流通市場での売却に関連する法的リスクが高まったことで、これは依然として現状における合理的なトレードオフです。

検討の完了

報酬戦略のすべての側面を伴う10年間の行使期間プログラムの採用を決定することは、個々の会社に非常に特定的なものです — 各々の会社がアイデアの迷路を通り抜け、その全体的な文化と目標に最もふさわしいプランがどれなのかを考え抜かなければなりません。報酬は基本的な哲学であり、企業文化の中核部分でもあります — 企業が育もうとしているその他の文化と全く違いはありません。そして、しっかりと検討を尽くし、組織全体の目的と文化との一貫性を持たせるべきです。

そのうえ、その決断は、どのような種類の会社を作ろうとしているかにもよるため、最適化しようとする一連の技能の種類に左右されます。例えば、 Teslaは、インフラについての長期的知識が重要なハードウェアの会社として、他の会社よりも長期の在職期間を重視する可能性があるので、この具体的な目標を中心にしてプログラムを設計するかもしれません。

結果として、万能な取り組みはありません。

そして、どのようなプランを選択しようとも、環境の変化により、時間とともに変容する可能性があります。例を挙げると、非上場企業の社員が購入権行使時に課される税金を7年まで延期することにより、現在の購入権問題の半分を解決する法案がまさに今、議会に提出されています(Warner-Heller 法案)。この法案が議会を通過して成立する初期段階にある一方で、重要なのは、この状況が極めて流動的なものであるため、自分の会社のプランがそのような政策の変化に対応出来るようにすることです。

流動性のある環境が拡大すれば、行使期間の長さにも影響します。私たちがここにいるのは、企業が好んで非上場企業にとどまる期間が、4年間の行使期間の権利確定プログラムが本来設計された時代よりも極めて長くなっているからです。ですから、この現在の助言が機能するのは、 IPO までの期間が約10年間と設定されている状況においてなのです。この期間が短くなれば、創業者はそれに応じて、流動性を持つまでの平均期間とより密接に結びつくような、より短期間のものへと切り替えたいと思うかもしれません。

最も重要なことは、いずれのプランを設定する場合も、社員に対しては、採用時に、報酬プログラムにまつわるすべての問題に関して、十分に透明性を持たせることです。これまでの投稿で受け取ったフィードバックで私が衝撃を受けたのは、いかに多くの社員が、90日間の権利行使期間の期限について、入社時に何の説明も受けていないと感じているかということです。その結果、彼らはイグジットの時に初めてこれを知り、非常に驚いたという感覚を持っているのです。採用責任者が社員に対し、報酬について明確に説明できず、透明性を持たせることができなければ、それは大きな誤りであり、これによって、雇用者と従業員の間の信頼は損なわれます。

現行のプランは、欠陥はありますが、何十年も続いてきたため、問題は周知されています。新しいプランは、必ず新たな問題を生むでしょう。ですので、自分の会社のプランは注意深く設計し、目標とご自分が育みたいと思う社風に沿うものにしてください。

 

Adam D’Angelo と Sam Altman、そして、その考えを共有し、この投稿記事の当初の草稿を読んでくれた創業者と元スタートアップの社員の皆さんに感謝いたします。

 

著者紹介

Scott Kupor

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Recommendations for Startup Employee Option Plans (2016)

 

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