別れのアドバイス (Startup School 2019 #21)

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Geoff Ralston

スタートアップスクールにご参加の創業者の皆さん、こんにちは。私はYCのプレジデントを務めているGeoff Ralstonと申します。

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本日は皆さんにお別れのご挨拶と、いくつかのアドバイスを贈るために来ました。

スタートアップスクールという特別な10週間が終わり、YCでは2020年冬期バッチが本格的に始まろうとしており、ここにいる皆さんは自分のスタートアップに取り組むことになります。2020年冬期の面接で多くの皆さんと会えることを願っています。そして皆さんが、何があっても、YC応募への結果がどうであっても、自分のスタートアップに取り組み続けることを願っています。

道は一つではない:競合に惑わされないように

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皆さんの会社が次の段階に進む今、いくつか考えておくべきことがあります。他のスタートアップの状況に気を取られてしまうのはよくあることです。スタートアップコミュニティの一員になるのは素晴らしいことですが、皆さんが注意すると同時に忘れてはならないのは、どのスタートアップにも、どの人にも、他とは異なる独自の道があるということです。

創業者が歩む道のりは人それぞれです。私は、Hewlett Packardという伝統ある会社でコーダーとして働くために初めてシリコンバレーに来た時、スタートアップ立ち上げを夢見ていました。金曜の夜には仲間とよく飲みに行って色々と語り合いました。お酒を飲むことが何よりも重要でスタートアップについて語ることは二の次でしたが、それが当時の私たちの姿です。

私たちはいつも、自分たちはどんな道を歩むのか、創業者としてどんな道を歩むのかと話していましたが、どのような道のりをたどるのかは見当も付きませんでした。当時、PG(Paul Graham)はまだY Combinatorを立ち上げていませんでした。スタートアップの立ち上げ方に関する基本的な疑問を、オンラインで投げかけることができない時代でした。そもそも、まだオンラインという概念すらありませんでした。ベンチャーキャピタリストは、MBA保持者とだけ話をする得体の知れないスーツ姿の一団でした。

どこに助けを求めればよいのかもわからず、実際に私がスタートアップを立ち上げる道のりを探し当てるまで12年かかりました。それが私の歩んだ道のりであり、成功にも恵まれましたが、現在は状況が一変しています。主にPaulのおかげで、起業家の助けとなる環境はかなり整っています。YCスタートアップスクールが、皆さんや皆さんの会社、そして未来に変革をもたらす内容であったことを願っています。そして、皆さんが十分学び、フォーカスし、ローンチを繰り返して、その効果が出て皆さんのスタートアップが成功への道のりを進むことができるよう願っています。

道のりは人それぞれです。私がようやく自分の仕事を辞め、他者のために働くことを止め、将来立ち上げるスタートアップについて模索し始めた時、

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私はウェブベースの電子メールを開発しました。それは後にYahooに買収され、そこで私はViawebという会社を創業したPGやその共同創業者であるTrevor(Blackwell)と出会いました。

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YCを立ち上げる前、Paulは実に様々なことに時間を費やしていました。次に進むべき道を見つけるまでに、彼は文を書いたり、絵を描いたりもしました。

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Trevorはカリフォルニアに引っ越してきて、ロボットを作るためのハードウェア系スタートアップを自分の資金で立ち上げました。

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どんな道のりであろうと、それを見つけ、自分のものとすることです。

重要なことにフォーカスする

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そのためには、重要なことにフォーカスする必要があります。最も大切なことにフォーカスしてください。スタートアップスクールで学んだことにフォーカスしてください。コミュニティとのつながりを維持してください。アップデートを活用してください。フォーラムを利用し、他者と交流してください。

最も重要なのは、何度も耳にしているかと思いますが、人々が求めるものを作ることです (Make something people want)。そして人々が求めるものを作り出す過程で、進捗の測定を忘れないことです。自分の進捗位置を常に把握してください。自分が生み出す付加価値が何かを正しく理解してください。有能なスタッフを雇って、自分の周りを最高の人材で固めてください。そうすることで、優れた会社を築ける可能性が最も高くなりますので、諦めないことです。

スタートアップは難しい

健全で、楽しく働くことができ、常に前進している会社を作ることにフォーカスしてください。これはY Combinatorで常に言っていることですが、

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スタートアップに困難はつきものです。スタートアップを扱う書籍で浮き彫りにされるのは、スタートアップにおける意思決定に容易なものなど1つも無く、スタートアップがどれ程の困難を伴うかです。

スタートアップとは困難で、費やすべきものが多くて、そして最高に素晴らしいものです。PGはかつて執筆したエッセイの中で、ある創業者の言葉を引用し、「自分がスタートアップにどれだけのめり込んでいるかを冷静に考えると驚かされる。昼も夜もスタートアップの事が頭から離れないが、仕事のように感じられないのだ」と書いています。

とは言え、スタートアップにおける普遍的事実の1つですが、うまくいかないこともあります。

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順風満帆なスタートアップなど存在しません。必ず問題が生じます。それはもはやスタートアップの美点であり、皆さんは問題解決のために陣頭指揮を執ることになります。

Geoff の経験

スタートアップ経営時の思い出として一番記憶に残っているのは、問題が生じ、そのソリューションを見つけた時のことです。自分独りの時、起業するためにHPを辞めた時、私は途方に暮れました。何をすべきか、しばらくわかりませんでしたが、やがて何かを作る必要があると気付いてコーディングを始め、顧客との対話を始めました。

停電

Yahooに買収されたスタートアップのFour11時代の話をしましょう。私たちが遭遇した問題のいくつかは、会社の根幹を揺るがすもので、会社の命運も尽きたように思えました。そう思えるものがいくつかありました。サイトがダウンするようなことがあれば会社は終わりだと考えていました。私たちのサービスはインターネット上で最も信頼のおけるものである必要があったため、自社サーバーは全てオフィス内に置いていました。あらゆることが手の届く範囲にあり、うまくいっていましたが、それも停電が起きるまででした。

私たちは停電の可能性を考えてユニバーサルパワーサプライ(UPS)や何時間も電力供給が可能な巨大なバッテリーを用意していましたが、特にこの時の停電は長時間続き、いつ終わるか予想がつきませんでした。そして6時間後、電力節約のために多くの業務を停止しました。コアサービスは継続していましたが、その時UPSから電力は残りわずかであることを伝える警告音が鳴り始めました。

そして、ほぼ同時に電気が付きました。

しかし、電気が付いたのは私たちのオフィスではなく、駐車場を挟んだ向こう側でした。電力が戻ってきたのはすぐ隣の電線で、私たちの会社の停電はさらに6時間続きました。

そこで私たちは問題解決に動きました。かなりの長さの延長コードと電球につなげる小さなプラグをたまたま持ち合わせていました。私たちはコードをつなぎ、寝ずの番をし、サイトがダウンすることはありませんでした。これが存亡に関わる問題かどうかはわかりませんが、私たちは問題を解決したわけです。

買収

私が覚えているもう1つのエピソードは、音楽ストリーミングサービスを手掛けるLalaという会社を経営していた時の話です。この会社は優れたプロダクトを作りました。ユーザーからの評価も高く、そのためFacebookがFacebook Musicとして採用してくれることになりました。大事件でした。

このおかげで会社が立ち上がりましたが、蓋を開けてみれば会社を潰しかける事態となりました。なぜなら、私たちはこのディールに6ヵ月も費やしていたからです。6ヵ月です。私がこれまで関わった最も複雑なディールでした。

私たちはFacebookと交渉し、全ての音楽レーベル、全ての音楽出版社と交渉し、この契約をまとめました。そして、もう少しで全て完了という時、1週間か2週間、あるいは3週間前だったかもしれませんが、Zuck(Mark Zuckerberg)がディールをキャンセルしてしまいました。私たちは非常に長い間この案件だけにフォーカスしていたため、途方に暮れてしまいました。

しかし、それでも私たちは諦めませんでした。一歩間違えば諦めてしまっていたかもしれませんが、方向転換してフォーカスし、新たなサービスを開発しました。そしてGoogleと契約を締結し、Facebookとも新たな契約を締結し、6ヵ月後には約1億ドルでAppleに買収されました。これは音楽業界では異例の高額です。

決定力

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YCにはこのように固い決意、根性、機転で困難を克服した創業者の逸話がたくさんあります。YCでお馴染みなのはもちろん、生き残るためにシリアルを作って販売していたAirbnbの創業者の話です。Airbnbにまつわる話として他にも、賃貸物件の1つで発生した問題への対応をきっかけに、会社がネガティブな状態からポジティブな状態に転じたというものもあります。

このような話は次々と頭に浮かんできます。ある会社は高い業績を誇るハイフライヤーで、中国製のものを中心に自社製品の販売において大きな成功を収めていました。その会社は私たちにとっても、最も高い価値を持つ会社の1つでしたが、突如として中国側が貿易ルートを閉鎖し、ビジネスが立ち行かなくなり、創業者は自ら何百人もの従業員のレイオフを実行せざるを得なくなりました。彼は全てのレイオフに同席し、形容し難いトラウマを受けましたが、その辛い時期に耐えて乗り越え、彼の会社のビジネスは再び繁盛しています。

私がよく思い浮かべる会社がもう1つあります。ある卓越した創業者Tは私たちのお気に入りでした。彼の親友がチームメンバーでしたが、彼らがYCで学び始める直前にトラブルが起きました。2人の間に問題が生じ、親友の共同創業者は会社を辞め、会社を訴えました。私たちは、「YCで学ぶ状況ではない」という理由で彼の入学を延期せざるを得ませんでした。

彼は友人からの訴訟という精神的苦痛を伴う状況に向き合わねばならず、そうした状況から抜け出すためには、少ない手持ちの現金を使い切るほかありませんでした。しかし驚くことに、彼は優れた創業者に必要とされる根性を見せ、復活を遂げ、次のバッチに参加しました。彼の会社は今や数百万ドルの銀行預金を持ち、数百万ドルの収益を稼ぐ素晴らしい業績の会社となっています。

こういった話を、しっかりと覚えていてください。このような試練は、テストとも言えます。皆さんが将来、素晴らしい会社を作り出す能力があるかどうかがわかるテストです。皆さんはこうした状況に置かれたらどうしますか?

アクションを取ることをデフォルトにする

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私の答えはシンプルで、常に「アクションを取ることをデフォルトに」です。コードを書き、ユーザーと対話すること、これがLalaにおいて私たちが取ったアクションです。私たちはコアプロダクトを精査し、改良しました。

頻繁にみられることですが、スタートアップは困難を極め、創業者が辛い思いをします。そしてその辛さからアクションを取らないようになり、無気力になり、落ち込むようになります。そうなってはいけません。落ち込むのではなく、行動を起こしてください。コードを書き、ユーザーと対話してください。プロダクトに磨きをかけてください。常に前進してください。

私の前にプレジデントを務めていたSam Altmanは常に「意欲的であれ!」と言っていました。最悪の状況においてこそ、積極的な判断を下すべきです。前に進み、チャンスをつかむことです。デフォルトアライブであり続ければ、どんなことも乗り越えられます。可能な限り採算性を保ち、前進を続けてください。

これらのシンプルな言葉が意味するのは、自分の運命は自分で切り開いていくということです。

良い人であること

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最後になりますが、自分がどのような会社を築きたいのか、そしてなぜ築きたいのかを考えることをお勧めします。自分より長生きする優れた組織作りを目指してください。「邪悪にならず、広きにわたって良いことをしよう」というPGの言葉の真意を汲み取ってください。善行は必ず自分に返ってきます。これは、中立的意見でも単なる理想主義でもありません。そうすることで皆さんの会社はより良い組織となり、成功の可能性が高まり、より強くなるでしょう。

善行は自分に返ってくるということや、会社の士気の高め方、自社を成功に導くパワーバランスを築く方法についてはPGがエッセイを執筆していますので、一読をお勧めします。

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先ほど申し上げた「良いことをする」については、幅広い視点で考える必要があり、自分自身もいたわる必要があります。きちんと食事を取り、体を動かし、常に自分の肉体と精神状態のコントロールを取りましょう。なぜなら、先ほど説明しましたように、スタートアップとは簡単なものではなく、実に困難なものだからです。

共同創業者との関係を大切にしてください。会社が失敗する主な理由の1つは、共同創業者間の関係破綻や創業チームの分裂です。私たちは2015年夏にInner Spaceと呼ばれる会社へ出資しました。この会社は、共同創業者との関係が破綻しないために良好なコミュニケーションを築く方法について多くの情報を持っていました。

同様に、従業員も大切にしてください。一緒に働く人々を大切にしてください。ポジティブな文化と価値観を選んでください。従業員が嬉々として働く、活気に満ちた会社を作ってください。成功を収めている会社、つまり、100人の従業員が活発に動き、前進を続け、特別な何かを生み出しているような会社は、足を一歩踏み入れただけで、そうした雰囲気を感じ取ることができます。

そして当然のことながら、自社の顧客を大切にすることを忘れてはいけません。会社で行われることは全て、対価を払ってくれる顧客のために行われています。顧客を中心に考えることは常に成功の秘訣です。

投資家も大切にしてください。彼らは皆さんに賭けてくれました。いつまた資金調達が必要になるかわかりませんから、彼らを大切にすることは将来につながります。

最後に、私たちY Combinatorがとても大切にしていること、私たちの存在意義についてお話しします。私たちは、ここにいる皆さんのような素晴らしい創業者との関わりを通じて、世界をより良い場所にできると信じています。なぜなら、皆さんは世界をより良い場所にする人たちだからです。ですから、世界のために正しいことをしてください。

まとめ

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本日の講義のまとめに入りましょう。自分の道を見つけてください。スタートアップの成功につながる独自の道を見つけてください。そのためには重要なことにフォーカスし、人々が求めるものを作り出すことです。その際、「うまくいかないこともある」と心に留めておいてください。困難に直面しても、固い決意と機転で立ち向かえば問題を克服できるでしょう。

最善の行動はアクションを取ることです。アクションを取ることをデフォルトにしてください。スタートアップにおいてアクションを取らないことは死を意味します。落ち込むことなく、固い決意で取り組んでください。

そして最後に、正しいことをしてください。優しい心を忘れず、自分が働きたくなる会社を作り上げてください。皆さんが私のようなスタートアップ体験をし、それが皆さんのキャリアにおける輝かしいハイライトとなることを願っています。

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皆さんの幸運を祈っています。2019年夏期のYCスタートアップスクールに参加していただき、本当にありがとうございました。また近い将来お会いできるのを楽しみにしています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Parting Advice (2019)

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