Product/Market Fit の前に来る「Product/User Fit」を重視しよう

Marc Andreessenは2007年6月、Product/Market Fit がスタートアップの進展の初期段階において「唯一重要なこと」であると書きました。簡単に言えば、Product/Market Fitとは、「ある問題に対して、その製品が現在のマーケットにおける最善の解決策」だとマーケットが見なしたという早期の合図です。Product/Market Fitの紛れもない証拠が見えるのは、熱心なアーリーアダプターとなっている顧客層がより多くのお金を払おうとしている時、新たな取引先が取引を積極的に求める時、そして市場の需要が自社の供給能力を大きく上回る時です。

Product/Market Fitが生じているか、「そうでないかは常に感触でわかる」一方で、Product/Market Fitに到達するには、適切な製品とその製品を求める市場からのトラクションが必要です。Product/Market Fitが実現したら、それを証明する収益と顧客からの反応があるでしょう。Product/Market Fitとは、製品が問題を解決することがわかっているだけではなく、潜在的な需要を実際に購入する顧客にあなたが変化させるのを市場が待っているということでもあります。

しかし、製品とユーザーの合致を鋭く把握しているものの . . . すべての適切なユーザーをとらえることで、より大きな市場機会をつかめているという感覚がないとしたら?あなたの製品を気に入ってくれた200人をさらに超える市場があるかどうか、まだわからないという場合は?

「非常に早い段階の少数のパワーユーザー層にProduct/Market Fitがあった」をもっと正確に言い換えると、「Product/User Fitがあった」という風に言えます。

Product/User Fit—— 構築した製品とユーザーとの適合(フィット)の度合い

適切なユーザーと適切な製品について鋭く把握したとたんに、購買客がこの製品を手に取り始めたばかりであるにもかかわらず、Product/Market Fitを勝ちとったと創業者が主張するのを頻繁に耳にします。自分で宣言するような Product/Market Fitは、往々にして、有望な人材の雇用、顧客との話、製品のイテレーション、そしてもちろん資金調達の際に用いられる台本の一部でしかありません。事業展開のこの時点では、適切な製品と適切なユーザーを鋭く把握しているものの、より大きな市場の好機をつかむ感覚がまだないかもしれません。でもそれでよいのです!しかし、それはProduct/Market Fitではなく、Product/User Fitだ、と言うほうが良いでしょう。

Product/User Fitは、Product/Market Fitに向かう道のりの中でも重要な一歩です。この段階では、適切なユーザーを獲得するために製品を定めることが不可欠になります。Product/User FitからProduct/Market Fitに向かう道は、核心を突くいくつかの問題に答えることに尽きます。この製品を現在必要としてるのは誰か。そのうち何人が購買に結びつくのか。私たちのソリューションの非利用者をユーザーに変えるためには、製品に他に何が必要なのか。市場全体の需要に十分な衝撃を与えるために、市場でどのようなマクロレベルのシナリオを展開させるべきなのか。

Product/User FitからProduct/Market Fitへの飛躍は、決して簡単なものではありません。 むしろProduct/User Fitの段階で重視すべきものを飛ばして、未成熟な状態で市場での製品採用を促進することは、実際にはProduct/Market Fitに向けての進展を失速させてしまうでしょう。継続率と顧客満足度の高い状態へ至るには、採用される準備ができていない製品の成長を無理に推し進めることでは実現しません。初期のパワーユーザーの声に十分に熱心に耳を傾けなければ、世界クラスの製品についての洞察を発見することは絶対にありません。

パワーユーザーは、Product/User Fitの最大の合図です。Product/User FitからProduct/Market Fitへの飛躍は、そのようなユーザーの声に耳を傾けることで実現します。より多くのユーザーを惹きつけるよう、あなたの製品を進化させることができるからです。

Product/User Fitについて言えば、Product/Market Fitを従来通りに観察しているだけでは、それほど多くのことがわかりません。まず Product/User Fitを理解することで、パワーユーザーがパワーユーザーたる所以、ユーザーとしての行動、より多くのパワーユーザーを生むための製品の進化のさせ方がわかります。

パワーユーザーは、企業が現実的に次の段階に進もうとしていることを示す早期の指標になります。日常的に解約の兆候もなく、活発に製品を使用しているのはユーザー基盤のほんの一部だけかもしれません。しかし、たとえパワーユーザーが既存のユーザー基盤のほんの薄い層しか占めていないとしても、その製品を利用すべく待っている、彼らのようなユーザーの集団が他にいるでしょうか?製品のパワーユーザーは、他の人々をユーザーにしようと、うるさいくらいに熱心になりそうでしょうか? Tesla Roadsterが初めて発売された時、Tesla Roadsterに乗っている人と話したことを覚えている人は、初期のユーザーである彼らが四六時中それについて話していたのを覚えています。ユーザーがこれみよがしだったのはTeslaが高級車だったからだと思いますか?そうかもしれませんが、Dropboxにも同じような熱狂的な初期ユーザーがいました。

市場に短期間しか存在しなかった製品について調査する場合、パワーユーザーの行動が、集計された指標よりも興味深く、重要であることがよくあります。目標が「人が欲しがるものを作る (Make something people want)」ことなら、継続的に初期のパワーユーザーと話をし、彼らを観察することだけが、ユーザーの継続と非利用者の活性化の両方を実現するものを理解する現実的な方法です。特に次の3つのことに注意を払ってください。

  1. ユーザーが製品にとどまっていることを証明する、安定した製品利用の継続。様々な製品を試したいという意図が最も色濃いのが初期の製品採用者ですが、長期的に見て、彼らを獲得するのはどのような機能でしょうか?その数は多くないにせよ、初期のユーザーは依然として残っているでしょうか?彼らはその製品を毎日使用しているでしょうか?解約するユーザー層について、その理由を知っていますか?また飛び込んでくるものの、決して製品を使用するまでには至らないその他の人々について、彼らの理論的根拠はどのようなものでしょうか?仕事用のメールアドレスで製品の使用を開始するユーザーは、毎朝Product Huntの動向を確認している個人用のメールアドレスよりも、ユーザーにとどまる意志が強い傾向にあるでしょうか?製品に、ユーザーを深く取り込んで、さらにとどまる可能性を高めるような具体的な活動の敷居はあるのでしょうか?
  2. ユーザーの自然な行動と一致する、利用継続の度合い。実際に適した製品を適したユーザー向けに作ったかどうかを明らかにするのは、利用者が本当にその製品を気に入っている場合に予期される行動と、実際のユーザーの行動がどの程度一致しているかです。ユーザーの継続利用の頻度と、背景となる活動の自然な歩調はどの程度一致していますか?製品に左右されるとはいうものの、この力学はユーザー頻度(例えば、DAU/MAU, WAU/MAU, L7, L30など)と活動の深さ(例えば、平均セッション時間、1日当たりの合計時間)に現れます。マネージャーとの 1 on 1 の面談に使用するツールであれば、ユーザーが毎週一時間製品を使っているのを確認できれば上出来です。けれども、毎日の意思疎通の作業に使うツールであれば、これでは不十分です。
  3. 価値を伝えるユーザーの証言。ユーザーが製品を強く欲する気持ちが、品質に関するユーザーの感想に表れていますか?彼らは、製品によって自分の職場での毎日が変化したように語っていますか?現状より10倍改善していますか?SuperhumanのRahulは、強力な前兆として、製品が利用できなくなったら「とてもがっかりする」と答えるユーザーの人数にこだわります。「がっかりする」と「とてもがっかりする」の差は、1週間以内に去る可能性のあるユーザーと初期製品のすべての不具合に耐えるであろうユーザーの差である可能性があります。

これらのどれも、拡大や成長の作用はないことに注意してください。拡大や成長は、製品と利用者が合致する場合に実現するのではなく、製品と市場が合致する場合に実現します。既存ユーザーを喜ばせることと新規ユーザーの獲得との間のトレードオフを行う時機を見るのは、到底簡単と言えるものではありません。しかし、Product/Market Fitのように、Product/Use Fitもまた、それが適切であるときが感覚的にわかるものです。

そして、企業のスタートアップのProduct/User FitからProduct/Market Fitまでの道のりは次のように進む傾向があります。

  1. 人が欲しがるものを作る。
  2. その後、他にどのくらいの人がそれを欲しているかを調査する。
  3. 最後に、製品をなるべく早く彼らに届ける。

ごく稀な状況として、初日から需要が圧倒的に高い場合もあります。Product/User FitからProduct/Market Fitまでの進行が瞬く間に終わり、それらの2つの段階の中間をほとんど認識できないほどの場合です。しかしより可能性が高いのは、市場の需要を刺激することができるようになるまで、製品に関する初期のユーザーの感想を参照して、慎重な反復を繰り返すことです。

企業のソフトウェアを中心としてボトムアップでの製品採用の波が来ています。その結果、いままで単なるProduct/User Fitしかなかったより多くの製品が、Product/Market Fitを達成しています。エンタープライズの最新の世代では、エンドユーザーは、IT部門に深く根付き、中央集権的な購買担当者の手による調達に左右されなくなっています。ユーザーは、製品を離れることで不満を示します。技術の採用をめぐり、概して世界がより洗練されるにつれ、SaaS製品の市場の機会がかつてないほど大きくなっています。セルフサービス型では、成長はProduct/User Fitによって自動的にもたらされます。誰がより早くサーバーを買い、需要に応えるだけの成長ができるかの競争となります。さらに現在では、ひと昔前なら成長率の高い企業の支えにはならなかったような高度に専門的になった製品でさえ、ユーザーに対して十分な価値を提供するのであれば、市場に参入することが可能です。これは特定産業向けであろうと、社内の狭い用途向けであろうと、同様に当てはまります。

ほとんどすべての場合、ユーザー由来の製品採用の主要な機動力は、初期のパワーユーザーの意見を熱心に聞くことです。そうすることにより、世界クラスの製品にすることができます。行程が進むにつれ、新しくて適切な性能が非利用者をユーザーに変え、新規のユーザーをパワーユーザーに変えます。新規ユーザーを招き入れれば入れるほど、最終的には有望な市場の機会にまで積み上がるほどに製品が市場の需要を満たすことになります。

結論として、私たちは依然としてProduct/Market Fitが「唯一重要なこと」であると考えています。しかしほとんどの場合、この最終的に唯一重要なことに到達する直前で重要になるのは、Product/User Fitです。

 

著者紹介

Peter Lauten

David Ulevitch

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Product-User Fit Comes Before Product-Market Fit (2019)

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