データサイエンティストのキャリアの進展 (Sequoia Capital)

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以前の投稿で、データに基づく企業を構成する要素日本語訳)について説明しました。世界クラスのチームの作り方日本語訳)、データに基づく組織の進歩と特徴日本語訳)、データサイエンスの重要性日本語訳)、データサイエンティストの役割とスキル日本語訳)といった要素です。今回の投稿では、データサイエンティストのキャリアの進展について説明します。具体的には、シニア・プロダクト・データサイエンティストの特徴を、ジュニア・プロダクト・データサイエンティストのそれと比較します。また、健全なデータに基づく企業が、データサイエンティストの能力開発に投資すべき理由についても説明します。

はじめに

「一番大きなインパクトを達成したければ、常に一番重要な問題の解決に注力することが近道です。簡単に思えますが、ほとんどの会社はこれができずに沢山の時間を浪費しています。Facebookの社員は、取り組むべき最も大きな問題を見つける達人であることを期待されています」— マーク・ザッカーバーグ

データサイエンスとは、真実を追求する科学的な分野であり、データから知識と洞察を抽出します。プロダクト・データサイエンティストは、目標の設定に加え、プロダクトロードマップや製品戦略に関する情報の提供に注力します。製品の健全性を評価・理解し、機会と問題点を特定し、さらにデータにもとづく提案とソリューションを提供することで、製品を改善します。

優秀なデータサイエンティストは、インパクトを徹底的に重視します。インパクトは、メトリクスの改善度合いや、製品・プロセスへの影響の大きさで測定されるのが一般的です。データサイエンティストは、キャリアを進めるなかで、インパクトの範囲を広げるべきです。インパクトは、徐々に範囲が広がる4つの段階によって強化できます。プロジェクト、製品、分野、会社です。

データサイエンティストが持つ5つのコアスキル

データサイエンティストは、これらの段階に沿って物事を進める上で、5つのコアスキル・能力を習得する必要があります。問題の定式化能力、技術的能力、分析能力、統合能力、インパクトです。

  1. 問題の定式化能力:データサイエンティストは、問題を定式化・構造化する能力が必要です。一般的に、コンサルティングのマインドセットに加え、問題解決に対する科学的なアプローチが必要です。
  2. 技術的能力:データを抽出するには、プログラミングと科学的なスキルの両方が必要です。
  3. 分析能力:データセットを抽出して操作したり、データから値を抽出して表やグラフ等の形式にするには、分析能力が必要です。データを理解するには、問題解決に対して、コンサルティングのマインドセットと科学的なアプローチをもって取り組むことが必要です。
  4. 統合能力:データサイエンティストは、分析結果を解釈した上で、それを単純化して統合する必要があります。単純化と統合を行うには、コンサルティングのマインドセットが重要です。
  5. 影響力:決定に影響を与えるには、データを活用し、明確で説得力のある説明を提示する能力が必要です。これにもコンサルティングのマインドセットが必要です。

データサイエンティストのキャリアの進展

キャリアの初期段階にあるデータサイエンティストは、個別のプロジェクトに対して最もインパクトを発揮します。キャリアが進むにつれ、インパクトの対象は個別の製品から分野全体へと拡大します。経験豊富なシニア・データサイエンティストは、会社全体へのインパクトを持ちます。

データサイエンティストは、キャリアの各段階において、5つのコアスキル・能力の習熟度にばらつきがあります。したがって、経験の乏しいジュニア・データサイエンティストほど、常に卓越した結果を出すためには、シニア・データサイエンティスト(と自分のマネージャー)からのサポートとアシストを必要とします。一般的に、データサイエンティストは経験が長いほど、大きなインパクトを持ちます。

経験の乏しいジュニア・データサイエンティスト(初級レベル)は、主に業務の遂行に注力します。5つのコアスキル・能力について、手厚い支援が必要な場合もあります。業務の遂行を通して習熟度が高まるにつれ、高品質な成果物をより迅速に作成できるようになります。

2級レベルのジュニア・データサイエンティストは、特にコーディングや分析の実施において自立性が高まります。しかし、すでに構造化されている問題しか扱うことができません。また、他人を効果的に説得して最大限のインパクトを与える上で、支援を必要とする場合が多いです。

ジュニア・データサイエンティストが3級レベルに達すると、構造化されていない問題を定式化し、最も影響の大きな問題を特定し、自力で解決できるようになります。

4級レベルに達したジュニア・データサイエンティストは、完全に独り立ちします。プロジェクトを策定して、独力で完遂することができます。監督を受ける必要はほとんどなく、業務の優先順位付けをしたり、他のチームメンバーを支援することもできます。特定の分野(広告や決済等)における専門家となったジュニア・サイエンティストは、その分野で戦略的な指導を行えるほか、組織のスケーリングを支援することもできます。ジュニアとシニア・データサイエンティストの主な違いは、複数の分野を対象に業務を実施できるか否かです。

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5級レベルに達したジュニア・データサイエンティストは、シニア・データサイエンティストになります。例えば、ジュニア・データサイエンティストは決済関連リスクの専門家であるかもしれませんが、スパムなど関連分野に関する知見を生み出す手助けをした経験はありません。5級レベルのデータサイエンティストは、リスク分析の専門知識を活用して、社内の複数の隣接分野において支援を行うことができます。このように、シニア・データサイエンティストは、分野レベルのリーダーシップを成長させたことで、スケールと効率性を強化することができ、分野レベルの専門家兼指導者として立場を確立したことになります。

シニア・データサイエンティストは6級レベルに達すると、全社レベルの問題のほとんどに対して、たとえ会社にとって最も困難な問題であったとしても、影響を与えることができます。2つの顔を持っており、製品の専門家であると同時に、分野の専門家でもあります。したがって、製品と分野の両面で指導を行うことができます。

7級レベルは、データサイエンティストのキャリア開発における頂点です。この段階では、最上位レベルのロードアップや全社レベルの戦略決定に対して影響を与え、これらを実行し、会社と製品のトランスフォーメーションを推進することができす。様々な分野で範囲の拡大とインパクトの増大が見られます。エンジニアリング組織において、ジュニアとシニア開発者との主な違いは、シニア開発者の方が「優れた」コードをコミットするという点ではありません。違いは、ジュニア開発者が本番品質のコードに達するのに必要な支援の量と種類、およびそのコードが与え得る影響範囲の大きさです。同様に、分析業務は全て「本番」品質であることが望まれますが、ジュニア・プロダクト・データサイエンティストの場合、そこに達するためにも、またシニア分析者と同等の影響範囲を持つためにも、手厚い支援が必要となることがあります。

よくある質問

データサイエンティストのキャリア開発について、特によく耳にする質問を以下にまとめました。

  1. データサイエンティストのキャリアの進捗度を決める基準は? 端的に言えばインパクトです。インパクトの範囲の広さは、進捗度に比例します。インパクトの範囲は、主に「フォーカスエリア」と「分野の広さ」の二点で決まります。
  2. フォーカスエリア:分野によって潜在的なインパクトは異なります。会社の鍵となる優先課題に取り組めば、周辺的な支援製品に取り組むよりも大きなインパクトを持てるのが一般的です。
  3. 分野の広さ:分析者によって、影響範囲の広さは様々です。例えば、Snapchatのアクティブユーザー数が減少した理由が製品の変更であることを証明できれば、ある機能のカラースキームを変更するより大きなインパクトを持つことができます。
  4. データサイエンティストの各レベルが持つ特徴は?
  5. キャリア開発が進むにつれ、自律性とオーナーシップが高まります。データサイエンティストは経験を積むにつれ、自律性とオーナーシップが向上し、絶えずプラスの変化を推進するようになります。
  6. どのレベルであっても、高品質の成果物を作成することは可能です。成果物の品質は、データサイエンティストのレベルを問わず均一ですが、ジュニア・データサイエンティストがシニア・データサイエンティストと同等のインパクトを持つには、より大きな支援が必要です。
  7. インパクトと改善により、キャリアは進展します。データサイエンティストは、定期的に昇進を受けるべきだと感じることがあります。しかし、タイミングを待つだけでは進展はありません。能力の改善とインパクトの増大が伴っている必要があります。
  8. キャリア進展に必要なプロセスとは? 先述の段階に沿ってデータサイエンティストがキャリアを進めていくには、組織と個人の両方が、学習と能力開発を重視する必要があります。学習と能力開発は、個人が持つ特定のニーズに対応すると同時に、データサイエンティストの5つのコアスキル・能力における強みと弱みに合わせて工夫されるべきです。さらに、データサイエンティストのインパクトを拡大するため、組織レベルと製品レベルのリーダーシップに関するコーチングやメンターシップを提供するべきです。これにより、卓越性や優先順位付け、データインフォームド文化の醸成が推進されます。
  9. データサイエンティストが次のレベルに進むには?
  10. ひとつの分野に関する専門知識を深めます。ひとつの分野(例えば詐欺分析など)に的を絞って理解を進めることは、インパクトの増大に役立ちます。データサイエンティストは、専門知識を高めることで、理解を深めたりスケーリングを推進するのに役立つフレームワークを作ることが可能になります。こうしたフレームワークを作る能力は、データサイエンティストとしてのキャリアを進展させる上で有益なものです。
  11. より困難な問題を解決します。非常に難易度が高い問題を解決するには、理解力、創造性、イノベーションの障壁を突破する必要があります。こうしたブレイクスルーは、インパクトの増大に繋がることが多いです。複数の困難な問題に対してイノベーションを起こすことができれば、データサイエンティストのキャリアは進展します。
  12. 結果を重視します。良好な分析結果を出せても結果重視でないデータサイエンティストが多くいます。これでは、自分で製品の方向性を変更することができません。優秀なデータサイエンティストであれば、新しい戦略を推進したり、ロードマップを策定することができます。いずれも、結果を重視しなければ達成することはできません。
  13. A+プレイヤーになります。A+プレイヤーは強力な成長マインドセットを備えており、職務で必要な範囲全体において、他者より素早く学習・成長することができます。

まとめ

  • データサイエンティストは、能力を磨き、プロジェクト、製品、分野、全社レベルでのインパクトを増大させるにつれ、キャリアが進展します。
  • データサイエンティストは、5つのコアスキル、すなわち問題の定式化能力、技術的能力、分析能力、統合能力、影響力を向上させたときにも、キャリアが進展します。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Progression Of A Data Scientist (2019)

 

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