SaaS ビジネスにとって価格戦略ほど重要なことはありません。価格設定は、新商品にとっての正念場です...それがその企業にとって初めての製品なら、なおさらです。しかし新しいスタートアップが企業向け製品の価格設定に関して、「お金儲け」をし損ねるのを、私は頻繁に見てきました。創業者は、彼らの製品が数十万ドルもの確保につながるとよく言うのですが、その価格設定は、あたかもその商品が数千ドルの確保にしかならないように思えてしまうものも多いのです。
そうなってしまう理由の一つは、価格とプログラムを競合製品と同じように設定しなければいけないと考えてしまうことです。しかし破壊的な変革をもたらす可能性のある製品の場合、これまでの競合他社にならって価格を設定することに囚われることで、利益を出す機会を棒に振るだけでなく、他社製品との違いをアピールできなくなる可能性もあります。
別の言い方をすれば、あなたの製品はあなたの価格であり、あなたの製品の価格は、あなたの会社が価値があると信じているものだけでなく、購入者の観点からの価値を反映しているものです。SaaS製品には、提供するサービスの対価だけでなく、顧客が直接使用する大規模な設備投資/運用コストを節約できるという利点もあります。
ビジネスの観点から見ると、SaaS製品には、パッケージ化されたオンプレミスのソフトウェア世代が羨むほどの魅力があります。
価格設定の不確実性と社会科学的な側面は、特に技術系の創業者にとっては不快なものである可能性があるため、ここでは、新しいSaaS製品の価格を設定する際に考慮すべきフレームワーク (プロダクトマネージャの観点から)を示します。SaaSでは、製品の収益化を微調整する能力がその機能と実装に密接に関連しているため、プロダクトマネージャーの役割は非常に重要です。製品は、機能を利用可能にしたり、機能に優先順位を付けたり、あるいは単にエンジニアリング時間を費やす場所を選択したりする場合に、そのような柔軟性を念頭に置いて設計する必要があります。
Bill Gurleyが、いくつかのメトリクスに関する優れた記事で書いているように、「ビジネスは物理学ではない」ことを覚えておいてください。Andreessen HorowitzはSaaSの価値評価を理解するための詳細な入門ドキュメント (翻訳) を書いています。価格設定は数値計算であるため、スプレッドシート・モデルを作成して、すべてが機能すると想定してしまう傾向があります。しかし、心理学も大いに関わってきます。数学を超えて、価格設定には判断力、ビジョン、柔軟性が関わってきます。
解決不可能な問題をどうやって解決したら良いのですか? 限度を決めましょう
新しいビジネスでは、お金を費やすことは簡単ですが、新しい製品と顧客獲得のための未知のコストは、「解決不可能な」問題へと繋がります。一つの方法としては、リーン/イテレーションの方法をとり、それを適切な価格設定へと適用するというものがあります。この記事では、このような早期の価格に到達するためのフレームワークについて説明しますが、それは今後変わっていくでしょう。(これは、既存の顧客を持つ既存の企業で行われていることとは大きく異なります。既存の企業では、適切な価格を設定することは一度しかできません。)
SaaSのビジネスサイドには、顧客生涯価値(LTV)、顧客獲得コスト(CAC)、ユーザー平均単価(ARPU)、原価(COGS)、チャーンなどの複雑な変数や、フリーミアム、階層型、時間ベースなどの価格モデルがあります。次に、消費者をターゲットにしているか、企業をターゲットにしているかによって、価格設定アプローチに影響を与える販売モデルが大きく異なります(例えば、ビジネス製品は、特に購買担当者を伴うときに複雑さを招きます)。同様に、SaaSのプロダクサイドには、多数のリソースの使用パターン、シナリオ、変動コストに関連する複雑な方程式のセットが存在します。
最も重要なコストは、顧客獲得および販売/マーケティング費用に関連しており、従来の会計基準では利益の可能性が失われると考えられるため、初期段階のSaaSビジネスでは、顧客の推定長期価値に関連する顧客獲得コストを把握することに焦点を当てることが大切です。顧客を獲得するためにいくらかかるかはまだわかりませんので、いくらかの予算(この長期的な価値に対する最終的な価格でのマージンの配分とともに)を想定して進めなければなりません。この記事では、製品と機能に関連する価格設定モデルに焦点を当て、顧客獲得コストと長期的な価値をより高いレベルで把握することを前提としています。
これに対処する1つの方法は、価格設定の上限と下限を設定することです。
価格設定の下限
下限は、製品を顧客に提供するためのコストを表します。一般的な例としては、アカウントの作成、最小限のリソースの割り当て、その他のインフラストラクチャの割り当て、その後の使用など、IaaS/PaaS要素を構成するための基本的なコストが挙げられます。
この下限は、一部の顧客に「無料で」提供できる値と考えると便利です。この下限に到達するために、compute、extress、storageなどの可変リソースの使用についていくつかの前提を立てることができます。(これは製品中心の見方で、これらの限度は製品/技術の範囲外の固定費と変動費の配分がないため、opex、S&Mなどは含まれないことに注意してください。)
あなたの製品の全容を考慮を入れて、限度を決めていくことが大切です。最初は一部の機能を「プレミアム」として見ることもできますが、時間の経過とともに機能が高度なものから基本的なものに移行され、その上に新しい機能が追加されることも想定しておいたほうが良いでしょう。最初に製品全体をベースケースとして考えることは良い練習になると思います。
価格設定の上限
上限は、「深い」ユーザーにサービスを提供するためのコストを表します。この場合、顧客は、拡張のために継続的なコストを発生させる製品を使用します(例えば、この顧客の場合、帯域幅、ストレージ、コンピューティングをますます多用しています)。
この時点で、競合他社と比較してどのようなものを提供しているかを確認し、彼らのスケール属性よりも、優れているのか、劣っているのか、または同じなのかを確認すると良いでしょう。これを知ることで、モデルの変数を分離することができます。おそらくあなたは、製品を開発する際に、既存の競合他社と比較して独自のアーキテクチャアプローチを作成したことでしょう。より多くのテナントに対応するために、より効率的に拡張したり、ストレージをより効果的に使用したり、モバイルアプリの帯域幅をより効率的に使用したりしていますか?
自分自身の強みと弱みを知ることの重要性は、価格設定にどの変数を使うべきかを教えてくれます。また、上限を競合上の要因と考えることもできます。つまり、ある属性に強いほど、この属性を利用して製品を差別化することができるのです。これにより、競合他社にとっては価格が高すぎる機能に対しても、より高い料金を請求できる可能性があります。
価格設定の際の基本的な属性
新しい製品の価格を設定する際には、潜在的な価格設定属性のコア・セットと比較して、現在の製品がどこにあるかを理解することが重要です。
ブロンズ/シルバー/ゴールド、フリー/セレクト/プレミアム、トライアル/セレクト/プレミアム、個人/ビジネス/企業など様々ありますが、SaaSの基準は、この例のように、3つの価格プランとN個の属性の「3×N」マトリックスを提供することです。SaaS製品が成熟すればするほど、そのマトリックスには行と列が多くなります。(私が調べたあるSaaS製品には、五つの最上位機能があり、3つから5つの機能の組み合わせとユーザー数に基づいて、27の価格ポイントの配列になっていました。)
SaaS製品の幅広い範囲は、以下の主要なサービス属性を通して考慮することができます。
機能
製品が、インポート/エクスポート、ビジュアル化、表示/編集、他の製品との接続などの機能自体を通常のものからより良いものへと段階的に分割するのに適している場合は、ここで価格ポイントを区別することが有効かもしれません。フリーミアムモデルでは、必須機能を無料ユーザーと有料ユーザーの間で分けることは、差別化あるいは価格の最適化において顧客に敵対的な方法になる可能性があるので、注意してください。
ここでためらってしまうのは、基本的に既存のコードへのアクセスを禁止しているということを、顧客が理解しているためです。それではただの厳格主義だと受け取られかねません。このモデルに注意しなければならないもう1つの理由は、製品の利用が時間の経過とともに深まるにつれて、有料機能が低価格層に取り込まれる傾向があることです。つまり、リリースやアップデートのたびに新しい機能や価格を加える必要が出てくるのです。価格層を通して全体的な機能を表現するのは簡単ですが、多くの顧客はこのアプローチを嫌っています。
アドミニストレーション/IT
ビジネス向けに設計されたSaaS製品を差別化する最も一般的なアプローチの1つは、ITに重点を置いた機能を価格属性として分離することです。セキュリティ、監査、アイデンティティ統合、ドメイン名、共有、制御、管理などの機能です。企業は、これらの機能の価値とコストを理解しています。
一般的に、このアプローチは企業内でバイラルになった製品を修正するために使用されるため、価格設定を企業に対してどのようにアプローチするかに注意してください。そうでなければ、あなたは同時に放火犯と消防士となって、意図的に作り出した状況そのものを封じ込めようとするような羽目に陥ってしまうかもしれません。
消費量に応じたスケール
SaaSで広く利用されているもう一つの価格属性はストレージ消費量(ストレージが一次属性ではない製品の場合も同様)です。これは計算が容易で、価格が明確、そして比較的高価になります。ストレージを使用するメリットは、ユーザーがある程度「保持できる」ことです。また、これは人々の消費量よりも早く、価格が下がっていきます(また、ほとんどのシナリオでは、大量のストレージを消費するために、かなり極端な処理を行う必要があります)。同時に、プラットフォーム企業は、基本サービスとしての無料ストレージや超低価格ストレージを着実に増やしており、ストレージを1次元的なサービスとして単純に提供するのは有効でないかもしれません。新しいSaaS製品を開発する際は、前述の課題があることを踏まえ、ストレージに基づいて費用を計算することのないようにしてください。
最近見られた新しいアプローチの1つは、サードパーティーのストレージを使用して、ストレージが製品の価格設定の一部にならないような形で顧客との支払い関係を確立させることです。これは、製品において価格が目に見えるサードパーティーの要素に対してあなたが純粋なパススルーにならないようにするためです。最近のソフトウェアには、消費量の変数として使える新しい属性がたくさんあります。比較的新しい方法の1つは、API/コールの消費量を価格階層構造として使用することです。(私がアドバイザーを務めるBoxは最近、Box APIの価格を例として発表しました。)開発者向けの製品は、消費製品の価格設定に特に適しています。これは、開発者が製品アーキテクチャを理解しており、使用量によってコストが変動する場合でも、何がコストを押し上げるかを理解しているためです。
消費者におけるスケール
小規模なチームや組織間で使用されるSaaS製品や、より多くのメンバーが共同作業/共有/使用することで拡張できるSaaS製品は、ほとんどの場合、固有のユーザー数(その後の組織ベースのディレクトリとの統合)に応じた価格が設定されています。この変数の価格設定は単純であり、時間の経過とともにエンゲージメントやリソース使用率の分布が表示されるため、個別の価格ポイントをさらに調整できます。
この方法で価格設定されているほとんどの製品は、より多くのユーザー/使用量を促す必要があるため、最初のステップをどこに置くかを慎重に検討してください。しかし、大規模な顧客がこのアプローチを好むのは、彼らが理解している指標、すなわち従業員数/ユーザー数に基づく予測可能な価格設定が可能だからです。一般的に、これはシート単位の価格設定と考えることができますが、デバイスのエンドポイント、サーバ/CPU、VMなどにも適用できます。
顧客のセグメント化
すべての製品は、組織の規模、業界セグメント、地域、組織内の個人のタイプなど、さまざまな顧客セグメントによって使用されます。一般的な価格設定階層のラベルには、「政府」、「非営利」、「アカデミック」、「医療」、「小企業」などがあります。
製品が成熟していくと、それに応じて価格階層にラベルを付けたり、それを拡張したりするでしょう。しかし、このレベルの差別化に踏み込む前に、使用率に関するデータを増やしておいたほうが良いでしょう。いくつかのセグメントにわたって顧客を見てください。彼らは製品を違った方法で使用していますか? さらに、これらのセグメントをターゲットとしたり、維持したりするための差別化を展開する道筋が見えていますか(それとも収益をこれらのラインに沿って最適化するだけでしょうか)? 一部の製品は、教育など特定の分野のみを対象に設計されています。ここからさらに、公的、私的、高等教育後など、特定の分野を絞り込むことができます。
しかし、常に特別な顧客セグメントがあります。それはエンゲージメントの高い技術ユーザーです。彼らは必要な時に組織内で製品を推進したり、プラットフォーム上でカスタム・ソリューションを開発して製品のデリバリーや価値向上を可能にしたりします。
開発者はこの点で重要になります。プラットフォームで使う製品はどれも、開発者が製品全体を超低価格で開発環境において試したり使用したりすることができるような方法を検討する価値はあります。これを実現する1つの方法は、開発時の使用と生産時の使用を区別し、それに応じて価格を設定することです。
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既存の競合他社に対抗する新製品としては、価格設定が最も容易な攻撃ポイントとなります。そして、破壊的な変革をもたらす製品であれば、最初の価格モデルを最大限に活用できるように、自分がもたらす価値を可能な限り深く理解している必要があります。ですから、私がここで示している価格設定に関する最も重要な提案は、価格設定とその発表を最後の瞬間まで待つことです。
エンタープライズ製品でさえ、丸めた数での価格設定、価格を9で終わらせること、ディスカウントなどはすべて重要になります。直販のエンタープライズ製品では大幅な割引が行われ、「リスト」価格の50%以上の割引も珍しくない(しばしばそれが必要とされるのです)ことを覚えておいてください。これはコストを膨らませる言い訳ではありませんが、購買マネージャーにとって重要なことです。営業担当者に権限を与えて、ある程度のカスタマイズを可能にし、そのためにあなたがどのような変数を使用しているかを知らせるのは重要です。
いったん発売されれば、価格を変えたり上げたりすることはできないと言う人もいます。顧客を獲得した後は、一部の顧客に対して価格を下げることをあなたが考えたとしても、価格の変化や価格に対する製品構成の変化がプラスとみなされることは決してないことを常に念頭に置いてください。また、価格を変更する場合は、常に既存の顧客に適応する時間を提供し、彼らをその変更の対象外としてください(最低限のことです)。最後に、価格設定の柔軟性をサポートする製品フレームワークを設計することを忘れないでください。
モデルを作り、モデルを利用してください。しかし、そのモデルに考えることを任せてはいけません。価格設定は慎重に!
著者紹介
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Price Is Right: And for Early-Stage SaaS Companies, It Needs to Be (2014)