スタートアップ・フィット・ジャーニー 今どの段階にいて、何に取り組むべきかのガイド

スタートアップをフェーズ別に整理してみると、以下のような「Fit」をおおよそ順序だって検証していくことになります。

  1. Customer/Problem Fit
  2. Problem/Solution Fit
  3. Solution/Product Fit
  4. Product/Market Fit

この記事はそれぞれのフェーズの説明と、フェーズに至るまで何をするべきかを示したガイドです。自分たちがどのフェーズにいるのかをチームで確認して、行動計画を考える際の参考にしてみてください。具体的な行動に迷ったら、Startup Playbook を確認してください。

フェーズの紹介

まずはそれぞれのフェーズについてまず詳しくお話しします。

f:id:bfore:20201116150459p:plain



1. Customer

すべてのビジネスは顧客から始まります。すべての基礎にあるのは顧客であり、対象となる顧客が変われば多くの前提条件が変わります。ですので、まずはどの顧客を幸せにするのかを定めましょう。

2. Customer/Problem Fit

次の段階はCustomer/Problem Fitです。この段階では、顧客に課題があるかどうか、そしてその課題がどれだけ深い課題なのかを検証します。どれだけ顧客からお金を払ってもらえるかは、課題がどれだけ深いものかによって大きく変わります。

一般的に、製品や解決策よりも、課題の選定のほうが重要です。些細な課題を高度な技術で解決しても、大した価値は生まれません。なので最初に課題の有無や課題の切迫感を検証することから始めてください。

もし顧客に深い課題がなさそうであれば、顧客の選択をやり直すこともありえます。もし顧客に深い課題がありそうであれば、次の段階に進みます。

3. Problem/Solution Fit

次にProblem/Solution Fitの段階です。ここで顧客の課題が特定の解決策で解けるかどうかを検証します。顧客にとって完成された製品と同じアウトカムを提供するソリューションを提供したりします。たとえば、製品がもしあったとしたら顧客が手に入れられるであろうものを、手作業などで提供してみたりしてください(i.e. コンシェルジュ型MVPなど)。製品を作るよりも、その課題解決に価値があるかどうかをずっと早く検証できるようになります。

さらにこの段階で、その解決策にお金を払ってくれるかどうかも検証しましょう。製品とは、解決策をスケールさせるためのツールです。もし手作業で解決したときにお金を払ってもらえないのであれば、その解決策を製品化してスケール可能にしたとしても、ビジネスにはならないでしょう。

もし顧客の深い課題が何かしらの手段で解決できそうで、しかも顧客がその解決に価値を感じてくれてお金を払ってくれるのであれば、その手段(解決策)をスケール可能な製品へと変えるべく、製品を作り始めます。

4. Solution/Product Fit

Solution/Product Fit では、製品の実現可能性や、ソリューションが製品化できるかなどの検証を行います。同時に価格の検証、セールスの方法など、製品に関連する周辺のことも検証していきます。検証が終わったら次にProduct/Market Fitの検証を行いましょう。

5. Product/Market Fit (PMF)

次がProduct/Market Fitです。スタートアップの大きなマイルストーンの一つがこのProduct/Market Fitだと言われています。もしProduct/Market Fitに至ることができれば、大きな変化が起こります。

Product/Market Fitをすると、顧客からの機能開発の要望で手に負えなくなったり、アクセス過多でサーバーが落ちたり、サポートのリクエストが数多く舞い込んだり、見込み顧客が捌けないようになります。採用しないと顧客の要望に対応できないけれど採用自体が追い付かない、というフェーズになります。PMFまでは巨大な岩を押しながら山を登る感覚、そしてPMFで頂上に着くと、山から勢いよく落ちる岩を追いかける感覚がPMF以降だ、という比喩などが使われます

PMF しているかどうかは、PMFが起きれば分かります。岩を押し上げている感覚なら、まだPMFをしていません。Product/Market Fitをしているか、という疑問を持った時点でProduct/Market Fitはしていません。

Product/Market Fitの検証と同時に、ビジネスモデルの検証や製品の改善を行いましょう。そうすれば、お金さえあればより早く成長できることも分かります。

この段階に至ってから、Series Aと呼ばれる資金調達に動き、さらなる事業の拡大を目指していきます。

フェーズ別のやるべきこと

これからはそれぞれのフェーズでやるべきことをより詳しく見ていきます。なお、これらのお勧めはあくまで一般的なお勧めであり、個別の事業によって異なる場合もあります。とはいえ、おおよそどの事業でも同じであり、セオリーを知っておくことはビジネスの役に立つはずです。

f:id:bfore:20201116163120p:plain

Customer/Problem Fit まで

f:id:bfore:20201118101929p:plain

Customer/Problem Fit に至るまでは、とにかく顧客に会い、彼らの課題を聞いてください。顧客インタビュー50件(B2Bなら30社)を1か月で終わらせるつもりでいると良いでしょう。どんな手を使ってでもやり抜けるチームが次に進めます。

B2Bの場合はバーニングニーズ、つまり顧客の髪の毛が燃えてそれ以外に手がつかないような逼迫した課題を探しましょう。インタビューを数多く繰り返しながら、顧客が持つ本当のプロブレムを探ってください。顧客インタビューは最初難しいので、質問テンプレートを用いると良いでしょう。次第にカスタマイズしていくと良いです。

顧客インタビューはおおよその方向性を知るには効率的ですが、その後解像度を上げていくときにはインタビューだと不十分なときがあります。そのときは顧客の観察をしてみてください。現場がかかわるバーティカルSaaSなどの場合、そこでアルバイトなどをしてみるのも、顧客のことを知る有効な手です(例えば建設現場系SaaSなら建設現場で働いてみる)。場合によっては受託開発やコンサルをして、その領域の知見を身に着けるのも良いでしょう。ただし学びのためであれば、受託の期間は短期間に区切っておいた方が良いと思います。

なお、このアイデアを生み出すフェーズでは共同創業者候補をプロジェクトに巻き込んで壁打ちしておくことをお勧めします。一緒にアイデアに取り組むことで相手のモチベーションも上がり、良いアイデアに至った時に創業者仲間が手に入るかもしれません。そうでなくともアイデアのヒントはくれるでしょう。信頼できる昔の友達を誘って、アイデアの壁打ちなどをしてみてください。毎週土日の何時から、など定期的に入れるようにしておくとリズムが作れます。

基本的には、資金調達などはせずに自己資金や副業などを通して行うことをお勧めします。

Problem/Solution Fit まで

f:id:bfore:20201118102116p:plain

次にソリューションの検証を行います。良い課題が見つかったとしても、それを解決できるとは限りません。また解決策が実現できるとも限りません。そこで解決策の検証を行っていく必要があります。コンシェルジュ型MVPなどを作って顧客に提供することで、初期の熱狂的なユーザーを獲得してみましょう。

また、課題を解決したらどれぐらいお金を払ってくれるかどうかも検証してみてください。解決してもお金を払ってくれないのであれば、その後製品化して解決策を拡大できるようにしても、お金はもらえません。十分に価値を持つ課題かどうかを検証しましょう。とにかく解決策の案を持って、顧客へのインタビューとセールスを繰り返しましょう。

なお、顧客の課題の解像度が高く、ソリューションがある程度できあがってきた段階であれば、信頼できるエンジェル投資家やシード投資を行うベンチャーキャピタルから出資をしてもらうこともできるようになるはずです。もしどうしてもお金が必要であれば、検討してください。ただし早い段階での資金調達はお勧めしません。可能な限り、自己資金で進めていきましょう。

Solution/Product Fit まで

f:id:bfore:20201118102127p:plain

Solution/Product Fit は、解決策を製品化していくフェーズです。

技術的に製品化自体が難しいこともあれば、製品の体験が十分に解決策と類似していない場合などがあります。そうした検証をしていきながら、製品のあるべき姿を模索していきます。

製品化は長い道のりです。完璧なものを市場に出して、皆を驚かせたいと思うかもしれません。しかし完成度よりも素早さを重視して、早くベータ版などをローンチしましょう。本当の学びは製品をローンチしてから得られる、と言われています。どんなに未熟な製品でもまずはローンチしてみて、お金を実際に払っている顧客の声を聴いていきましょう。恥ずかしいバージョン1でないのなら、リリースは遅すぎた、とはしばしば言われることです。それにださいものを作るのを恐れないでください。どのみち、皆さんの製品が成長したときにバージョン1がどんなものだったのかを覚えている人などいません。

セールスやサポートなど、顧客との直接のインタラクションをなるべく増やしてください。創業者と顧客の間に何も置かないようにしましょう。そして製品で至らないところがあれば、自分たちの手を使って顧客を幸せにしましょう。そうして少人数の顧客に深く愛されるプロトタイプや製品を作れるようにしてみてください。

製品開発の外注は避けてください。製品開発はイテレーションが重要なので、外注だと繰り返しの改善ができなくなります。製品開発のスキルを共同創業者全員が持っていないのであれば、自分たちで身に着けてください。ここでの数か月の時間の投資は、いずれ企業が成長したときにエンジニアと話すベースともなる、効果的な投資です。

またこの段階は製品の検証をしながらセールスの方法も検証していくフェーズです。どんなに優れた起業家でも初期の製品は未熟なものが多いものです。そうした製品でも売れるような仕組みを作っていきましょう。セールスも一つの顧客と話す方法です。売ることを通して学びを得ることができます。そのときには単に使ってもらうのではなく、きちんとお金を払ってもらうことで、本気度も見えてきます。創業者自身がセールスアニマルになりましょう。消費者向けサービスの場合は、その場でお金をもらってみましょう。B2Bの場合はLOIと呼ばれる、製品が完成したら買うという覚書を結んでみましょう。LOIのない、単なる口約束の成約率は0%から10%程度です。お金を払ってもらえなかったり、そうした覚書にサインをしないのであれば、本当は製品に興味を持っていない証拠です。

資金面に関しては、プロダクトの姿が見えてくればシード投資を行うベンチャーキャピタルから出資をしてもらうことも可能になってきます。ただしできる限り自己資金で頑張ったほうが良いでしょう。また資金調達は起業家にとって本業ではありません。資金調達を行う場合も一か月で素早く終わって、ビジネスを作ると言う本業に戻ってください。従業員の獲得もできるかぎり先延ばしにしましょう。つまりこの段階まではすべて共同創業者だけで行えるようなスキルセットをチームとして持っておくことが大事です。

資金調達の金額や従業員の数は成功のメトリクスではありません。顧客を幸せにできた総量を成功のメトリクスにしてください。

Product/Market Fit まで

f:id:bfore:20201118102143p:plain

Product/Market Fitに至るまでには、ビジネスモデル全体を検証していく必要があります。利益が出るビジネスなのか、お金があれば成長ができるような仕組みが見えてきているのか、どのチャネルを使えば顧客に効率よくリーチができるかなど、ビジネス全体を構築していきましょう。9つのうちのどのビジネスモデルかを考え、メトリクスを設定してください。

この段階で一部の最適化をし始めることになります。たとえばコンバージョンレートなどの最適化はこのフェーズに至るまでは不要です。

Product/Market Fitに至るまで、次々に機能をローンチしていき、ローンチを繰り返しましょう。そして今使ってくれている顧客の皆さんを幸せにしてください。事業計画などはそのあとでも間に合います。むしろ事業計画書を作る時間があるなら、ローンチを繰り返し、ユーザーと話しましょう。資金調達は事業計画の綺麗さから来るのではなく、リアルな進捗があることで簡単になります。

Product/Market Fitに至るまでは従業員も可能な限り少なくしておきましょう。10名未満が理想です。またB2Bのビジネスの場合は、Series Aに至るまでに、月商で約千万円、年商で1億円程度を目指しておくと良いと言われています。

Product/Market Fitに至ることで、スタートアップは急成長をしていきます。それまでの期間は、早ければ数か月ですが、多くのスタートアップはProduct/Market Fitに至るまでに数年(1~2年)を要します。また一度PMFしたあとも、ずっとフィットを続けるための絶え間ない改善と、十分に大きな市場なのかどうかの検証も待っています。

まとめ

この表や流れはあくまでガイドでしかありません。MVPを作った後、やはりアイデアが違ったと思って Customer/Problem Fit に戻るなど、それぞれの段階を行き来しながら解像度を上げていくことになります。

スタートアップは例外の多いビジネスです。この通りに行くとは限りませんが、一つの指針として使ってみてください。

(なお、おそらく9割以上の人は Customer/Problem Fit の段階にいます。いきなり PMF の検証などに進まないようにはしてください)

FoundX のプログラムとの関係

東京大学 FoundX はスタートアップの超初期を支援する複数のプログラムを運営しています。それぞれのフェーズに応じたプログラムを提供して、起業家や将来の起業家の皆さんを支援していますので、ご興味あればご応募ください。

f:id:bfore:20201116163232p:plain

※ハードテック企業など、ソリューションに軸があるチームの場合は CPF に達していなくても、兆しが見えていれば採択することがあります。

また、こうしたスタートアップの基礎的なパターンを FoundX Online Startup School で、動画で解説をしています。 

www.youtube.com

 

著者情報

馬田隆明

University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトでの Visual Studio のプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行う。2016 年 6 月より現職。 スタートアップ向けのスライド、ブログなどの情報提供を行う。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』。

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元