データに基づく企業を作るための構成要素 (Sequoia Capital)

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ここ10年で、インターネットに対するペネトレーションが強化され、コネクテッドデバイスの数が増え、またストレージが低価格化し利用しやすくなったことで、ユーザーインタラクションのデータ量が急増しています。これにより、急増するデータを通して行動可能な知識を抽出する需要が社内で高まっています。その結果、職務としてのプロダクト・アナリティクスが出現し、A/Bテストや試行錯誤の機会が増えるといった好循環が発生しています。製品のイテレーションが高速化することで、開発のリリースが迅速化して製品の複合的な成長に繋がっています。いかに上手くアナリティクスを活用し、多種多様なソースに含まれる構造化されていない膨大なデータセットに対して知識の抽出を行えるかで、会社が競争力を発揮し製品をイノベーションできるかが決まるようになってきています。言い換えれば、未来はデータに基づく企業 (Data-informed company) にあります。

今後数カ月にわたり提供する一連の記事では、データに基づく企業を作るための詳しい説明を行います。データに基づく企業には複数の特徴がありますが、その大半は詰まるところ、インパクトと文化に注力するという2点です。この記事では、データに基づくプロダクトを持つ企業の特徴について説明します。

プロダクト・アナリティクスの潜在性を余すことなく発揮する

近年のデータ急増が起きる前、製品は主に直観を用いて構築されていました。データに直観の根拠が存在することもありますが、必ずしも構造化されていません。直観を得るには、入手可能なあらゆる定量的・定性的データを、潜在意識の中で処理する必要があります。こうしたデータは目に見えるものや既に知っているものに限られることに加え、データサイエンスの科学的な手法が守られていないため、データにはたいてい偏見が含まれており、大きなリスクを抱えたまま誤った意思決定が下されることもあります。

とは言え、直観が製品開発の役に立たない訳ではありません。データが存在しない製品開発の初期段階では非常に価値の高いものです。この段階では、製品開発の手法の大部分が、データサイエンスではなくデザインとエンジニアリングに大きく依存します。10年前も似たような状況でした。たとえ非常に高度な製品であっても、データの取得量・分析量ともに極めて少なかった時代です。その結果、初期の製品の多くはデザインと直観を基礎としていました。

データの急増により、企業は効果的にデータを活用して、インパクトと価値を推進する方法を探し始めました。アナリティクスが職務として台頭し、より大きな価値を示し始めたことで、データサイエンス、データエンジニアリング、データインフラが製品担当組織の中で重要な職務になりました。

初期のデータ処理業務は数字を分析することが全てでした(ユーザー数は?収益は?)。データの背後にサイエンスはありませんでした。データアナリティクスの次の段階は、ダッシュボードと可視化手段の構築を通じた、自動化と集計でした。この段階の大部分は、適切なデータを記録すると同時に、データが高品質で正しく定義さていることを保証し、またその業務をスケーラブルな方法で自動化するため、適切なプロセスとツールを構築することでした。これが、データインフラとデータエンジニアリングの職務の本質でした。

データアナリティクスの進化の次の段階は、適切な製品と機能を出荷できるようにすることでした。ここでデータサイエンスが誕生しました。科学的な手法を製品開発に応用することです。この進化において、2つの理由から試行錯誤が大きな役割を果たしました:漸進的に物事を良くする力と直観の失敗です。まず、私たちは大きな利益を求めがちですが、成功の本質は小さな物事を正すことである場合が多いです。長い目で見れば、漸進的な改善と組み合わせの力が、製品を成功させるための究極的な決め手になります。次に、直観は当てにならないことが非常に多く、ほとんどの場合、無作為な選択と大差ありません。データに基づく企業が継続的に改善するには、「テストと分析」文化が必要です。

最後に、データアナリティクスが有益なのは、数字を分析したり、ダッシュボードを構築したり、製品を出荷する時だけではありません。目標やロードマップ、戦略を定める際にも有用です。おそらくこれは、アナリティクス・チームが提供する中で、最も大きなレバレッジです。FacebookとInstagramが好例を示しています:アナリティクス・チームが戦略的洞察を推進していなければ、Facebook Live、Instagramのフィードの順位付け、「ストーリー」機能は存在し得なかったでしょう。

一連の文書では、データを通じてインパクトを最大限に推進することでプロダクト・アナリティクスの潜在性を余すことなく発揮することができる、世界クラスの「データに基づく企業」を構築する方法に焦点を当てていきます。

データに基づく企業の特徴

どの企業にも使命(ミッション)があります。データに基づく企業は、使命の追求を後押しするために、メトリクスと目標の定義を行います。インセンティブ制度(昇進、報酬など)は、その目標の追求に合わせて調整されます。私たちの経験では、強力なデータインフォームド文化ほど、次の特徴を示しています:インパクトにひたすら注力することと、測定・真実追求の文化を構築すること。

インパクトの定義

製品の成功日本語訳)を定義し理解しない限り、インパクトを定義するのは困難です。適切な目標とメトリクスを定めることで、製品の成功を定量化しやすくなります。それができたら、誰でもインパクトの定量化を客観的に行えるようになります。

優秀なデータに基づく企業は、よく組織化され、統一的なメトリクスにより牽引されています。統一的なメトリクスとは、単独のアクショナブルな最上位メトリクス日本語訳)のことで、製品のビジョンを要約するものです。測定しやすく、事業の原動力と明らかに繋がっているメトリクスが好ましいです。統一的メトリクスとそれに関連する目標がなければ、企業が真にデータインフォームドになり、潜在性を最大限に発揮することは困難です。

しかし、単に統一的メトリクスを持つだけでは不十分です。どう活用するかも同程度に重要です。経営陣がメトリクスを展開し、どの目標とメトリクスが重要であるかを判断して、それを周知する必要があります。こうして明確性を手にした社員は、業務を優先順位付けすることで、生産性を改善して、不要な議論を減らすことができます。

目標の力を借りてインパクトの意味を定義できたら、次の段階として、インパクトを測定できる条件を整えます。インパクト測定のツールがなければ、目隠しをしたようなもので、目標に対して本当に成果を上げているかを知ることもできません。

インパクトを測定する

インパクトは、大まかに3つのカテゴリに分けられます:

  1. メトリクスの変化:あなたのチームが月間アクティブユーザー(MAU)目標を定めているとしましょう。チームがMAUを改善する創造的な方法を見つけ、それに対して行動を起こせば、メトリクスを変化させてインパクトを生んだことになります。
  2. 製品・業務の変化を働きかける:あなたのチームが詳細な予備分析を通じて、インドでAndroidのSMS通知に注力することで、MAUを改善できることを発見したとしましょう。そのように製品を変更するよう働きかけることも、インパクトを生む手段のひとつです。
  3. プロセスの変化を働きかける:あなたのチームが、より少ない労力でより多くの業務をこなすことができるような、自動化やスケーリングの新しい方法を見つけたとしましょう。この場合、プロセスの変化を働きかけたことで、インパクトが生まれます。

これらのカテゴリはお互いに重複する部分もあり、また必ずしもどれかに当てはまるとは限りませんが、インパクトを測定するための指針としては有用です。

メトリクスの変化を測定するには、アジャイルなインフラと、試行錯誤の文化が必要です。

アジャイルなインフラを構築する

優秀なアナリティクス・チームは、定量志向の人材(アナリスト、データサイエンティスト)からなりますが、データエンジニア(DE)やデータインフラエンジニア(DI)も必要です。エンジニアリング人材は、スケーラブルなインフラを構築し、良好なスピード、信頼性、使用性を確保します。優秀なインフラとは、将来の需要にも適応できるアジャイルなインフラです。インフラが短期的な需要に対してしか最適化されていない企業は、たいていスケーリングに失敗します。

一般的なデータインフラでは、ある程度のデータ取得手段(製品の記録済みイベント、売上、外部のデータソースなど)が存在し、データが利用可能な形式に変換されたり、データがシステムに読み込まれたり、システムがレポーティングやダッシュボード、アドホック分析を提供するなどの活動が行われます。レポーティングとダッシュボードにおける可視化手段の多くは、業務に関する「レポートカード」です。これは注意深く監視するべきです。アナリティクス・チームが行うアドホック分析の目的は、期待値に対するメトリクスの変動を把握することです。

DIグループは基盤となる計算機器を保有し、DEグループはこれらのシステム間でデータを移動させることに加え、アナリストと共同で、反復的な分析を実行できるようにします。

良く考え抜かれ、適切に構築されたインフラがなければ、チームは、事業に影響を及ぼしている現象を理解するのが遅れるどころか、最悪の場合、全く理解できないかもしれません。

試行錯誤する文化を持つ

直観は製品の構築において非常に有益ですが、スケールしません。データに基づく企業は強力な「テストと分析」文化を確立し、直観を体系化して仮説や試行錯誤のデザインに仕立て上げる必要があります。この「テストと分析」方法論の根底にある考えは、たまに大きな利益を得るよりも、毎週小さな改善を積み重ねた方が、より大きなインパクトを得られるというものです。莫大な利益を生むアイデアを見つけるのは、それ自体が困難なだけでなく、スケーリングしません。したがって、どの高度データに基づく企業においても、インパクトをドライブするための思考錯誤が一般的になっています。

例えば、AmazonとFacebookは、ハードデータを通じて、製品に関する意思決定を下すのに必要な情報を得ていますが、これを可能としているのが試行錯誤の文化です。Jeff BezosとMark Zuckerbergによる以下の発言は、製品を構築する上でいかに試行錯誤が重要であるかを示しています。

「Amazonの成功を決めるのは、1年、1ヶ月、1週間、1日に行う試行錯誤の数です」 — Jeff Bezos

 

「テスティング・フレームワークが私たちの成功の鍵であり、特に誇らしいと感じています。任意の時点で、必ず複数のFacebookバージョンが稼働しています。おそらく1万はあるでしょう」 — Mark Zuckerberg

アナリティクス・チームを多角的に見る

真に優秀なデータに基づく企業を構築するには、アナリティクスを製品チームに組み込み、製品開発の各段階で実行する必要があります。初期段階においては、アナリティクス・チームは製品の成功を決める関連メトリクスを設定する手助けをしたり、継続的に進捗を測定したり、事業にとってのリスクや成長分野を特定するための支援を行うべでしょう。

また、アナリティクス・チームのデータドリブンな洞察を常に製品開発に活用する必要があります。一般的に製品チームの主要部を構成するのは、エンジニアリング、デザイン、プロダクトマネジメント、アナリティクス、ユーザーエクスペリエンスリサーチの各部門です。大まかに言えば、多くの企業の製品チームは以下のように機能しています。

  1. エンジニアリング・チームがコードを書く。
  2. デザイン・チームが製品の使用性と閲覧性を確保する。
  3. プロダクトマネジメント・チームがビジョン、戦略、実行を担当する。
  4. アナリティクス・チームが目標とロードマップを策定し、戦略を決定する。
  5. ユーザーエクスペリエンスリサーチ・チームがユーザー行動の理解を促進する。

最もレバレッジが大きい問題に対してアナリティクス・チームを活用し、最大限のインパクトを生ませることが重要です。アナリティクス・チームが、製品の目標、ロードマップ、戦略の推進を後押しできるようにしましょう。

厳密なロードマップ・プロセスを持つ

迅速な製品開発やテスト、イテレーションには、効率的なロードマップ・プロセスが必要です。例えばFacebookでは、高成長チームの製品構築プロセスの期間は10週間です。サイクル全体は3つのフェーズに分かれています:理解、策定、実行の3つです。

理解フェーズでは、アナリティクス・チームが様々な現象(広告主のチャーンなど)に対して詳細な予備分析を行います。主な目的はロードマップを策定することです。この分析の焦点は、大きなインパクトを生みそうな問題や機会を見つけ出すことです。チームがインパクトを生むのに最適な分野を把握したら、製品チームが一丸となってロードマップの策定に取り掛かります。

チームは、ロードマップ、各種取り組み、特定職務向けの業務を設定し終えたところで、ついに実行フェーズに移ります。実行フェーズは、10週間のサイクルで最終かつ最も長いものです。このプロセスはイテレーションと最適化を迅速化するのに役立ちますが、チームが重視すべきなのは、必ずしもイノベーションを起こすことではなく、素早く行動することです。

正しく採用し、エンパワーメントを

プロダクト・アナリティクスは生まれたばかりの職務であり、進化を続けています。データサイエンスもデータエンジニアリングも、継続的に新しい役割を見つけ、ビジョンを進化させています。これは最も先進的な企業においても同様です。したがって、アナリティクスにおいて世界クラスのチームを構築することは、他の職務の場合よりも困難です。なぜなら、この職務における優秀なリーダーが不足しているからです。

とは言え、企業が今後数十年にわたり存続していくには、世界クラスの組織を構築するのが唯一の方法です。企業の多くは、野心やビジョンが欠けているから行き詰まるのではありません。大抵は実行の仕方がお粗末なのが根本原因です。持続可能な実行の大部分を占めるのは、世界クラスの優秀な組織を構築することです。

世界クラスの組織を構築する上で、非常に重要な3つの側面があります:人材、文化、プロセスの3つです。インパクトを推進する方法には以下のようなものがあります:A+級プレイヤーを採用して、優れた成績を挙げてもらえるよう権限を与えると同時に、目的を提示し、社員が高い卓越性に達することを促すボトムアップ文化を設定することで、将来のリーダーとして彼らをメンタリングすること。説明責任、当事者意識、信頼をコアバリューとし「会社が第一、事業部門が第二、チームが第三で、個人が最後」を是とする強固で透明性の高い組織を構築すること。

結論

優れたインフラや試行錯誤の文化があり、適切なプロセスが備わっていていても、経営陣がデータに基づく文化を完全に受け入れない限り、アナリティクスの価値を余すことなく活用するのは非常に困難です。

例えば、Facebookはデータに基づく企業化が進むにつれ、「コードは議論より強し」が「データは議論より強し」に変わりました。製品レビューは、ユーザー行動をホワイトボードに書き表していたものが、明文化した問題について議論する中で成功を定義するメトリクスを決めることに進化しました。「データをもとに検討し、デザインをもとに扱う」の考えで製品は改善し進化しました。アナリティクス自体は、数値の分析だったものが、ダッシュボードの構築を経て、試行錯誤、そして目標・ロードマップ・製品戦略の策定へと進化しました。これが可能だったのは、経営陣がアナリティクスを製品の中心的要素として完全に受け入れたからに他なりません。

この進化の中で、仮説をテストするための科学的手法が考案されました。目標やロードマップ、戦略を策定するための科学的手法は進化を続けています。この継続的な改善は優れた製品を構築する上での核心であり、それを支えるにはデータ文化が不可欠です。製品チームのメンバーは、データを効果的に活用する方法を知っている必要があります。したがって、データに基づく製品を構築するためのベストプラクティスについて、全当事者を教育することは有意義かもしれません。

データに基づく企業にありがちな落とし穴

  • 経営陣がデータに基づく文化を適切に活用しない。企業の経営陣がデータの力を信じなかったり理解していない場合、優秀なデータに基づく企業を構築することはほぼ不可能です。
  • アナリティクスがサービス機能として誤用されている。アナリティクス・チームは製品チームにしっかりと組み込む必要があり、コンサルティング部門として扱うべきではありません。アナリティクス・チームの目標を製品の目標と一致させることで、チームの成否が製品の成否と一致するようにしましょう。特に多い誤りはこちらです:アナリストに複数の製品を担当させる(「薄く」配置する)ことで、アナリティクス・チームを、製品チームに組み込まれたデータサイエンティスト集団としてではなく、エンジニアリング・チームやプロダクトマネジメント・チームに対するサービス機能として扱ってしまう。
  • アナリティクス・チームに定められた役割の範囲が狭すぎる。最悪の場合、アナリティクス・チームがデータ収集チームになり下がってしまいます。そうではなく、アナリティクス・チームは目標・ロードマップ・製品戦略の策定を支援することで、大きなレバレッジもたらすべきです。
  • データエンジニアリング・チームが弱い。優秀なデータエンジニアリング・チームを持つことが、データサイエンス・チームをスケーリングするのに最適な方法です。データエンジニアに対するデータサイエンティストの数が多すぎると、データサイエンティストはデータを収集することに時間を取られ、価値の高い洞察をもたらす分析が十分に実施できなくなります。
  • 強力なツールが不足している。アナリティクス組織をスケーリングするには、強力なツールが必要です。例えば、データクリーニングツール、ETLツール、科学的ツール、分析ツール、可視化ツールなどです。アナリティクス・チームは、こうしたツールを利用して業務に組み込むことができなければ、スケーリングどころか意味のある成果を挙げることすら困難です。

まとめ

企業が使命達成へ向けて具体的かつ反復的な成果を挙げるには、組織全体が余すことなく潜在性を発揮する必要があります。アナリティクス・チームを最大限に活用し、真に素晴らしい製品を構築するためには、インパクトを中心に据え、データに基づく文化を備えることが重要です。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Building Blocks of a Data-Informed Company (2019)

 

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