SaaS マニフェスト Part 2: 本当のセールスチームを構築するべきとき (Peter Levine)

初期のSaaS企業の多くは様々な点で実態に反する成功を手にしています。このことは特にSaaSに入れ込んでいる人には不快に聞こえるかもしれません。SaaSの顧客はクラウドから優れたソフトウェア製品を入手することができ、前世代のソフトウェアのように時間がかかる複雑なインストールの苦労をせずに利用することができます。そうしたスムーズなソフトウェア取引を背景にしてSaaS企業は猛烈なまでに成長してきました。多くの場合はきちんとした販売努力も必要とせずに。しかしこれまでは違ったとしても、こうした右肩上がりに成長中の企業はいずれ壁にぶつかることになります。その原因は初期の展開と顧客の要求が、必ずしも持続的な収益の拡大につながっていないためです。

SaaS企業が本当に成長し、業界のリーダーとしての可能性をフルに発揮するには、本当の意味での強力な販売努力が必要となります。そう、セールスチームを作る必要があるのです。

それは簡単なことではありません。簡単だと偽るつもりもありません。ですがセールスを拡大することは、たとえそれに費用がかかり文化的にも実施が困難だとしても、会社の潜在的な可能性の規模を変えてくれます。SaaS企業にとっての大きな可能性とは、組織全体にまで利用を浸透させることです。これには企業のプロセスを再設計し、研修を容易にし、顧客の成功を管理するための集中的な努力が必要となります。このことは特にCRMや人事や会計といった、会社の全員が利用するのに最も効力を発揮するツールの場合に当てはまります。

フリーミアムは一部分に過ぎない

本題に入る前に、整理しなければならないことが一点あります。フリーミアムはSaaSにとって良い出発点ではありますが、セールス組織の構築とはイコールではないということです。フリーミアムとは大規模なユーザー層を生み出し、将来の売上につなげるための製品やマーケティングの戦略のことです。要はフリーミアムとは市場に種をまいて、魅力的なサービスを構築するためのプラットフォームを確立することに他なりません。最高のSaaS企業は自社の無料製品を使用して、データとフィードバックによってサービスを繰り返し改善しています。ですが効果的なフリーミアムの市場参入戦略があったとしても、SaaS企業はセールス組織を強化することも考えなくてはなりません。出発点はフリーミアムだとしても、そこはゴールではないのです。

CIOの役割の増大

CIOの役割は大部分のSaaSアプリケーションにとって変化しており、将来的には部門が購入を推し進めることになります。これは旧世代のソフトウェアとは異なる点です。旧世代のソフトウェアではオンプレミスなインストールや繰り返されるソフトウェアアップデートのために、CIOが毎回購入の決断の陣頭指揮をとる必要がありました。ある意味でSaaSによってCIOは解放され、OracleやSAPの次のアップグレードを心配することなく、長期的で戦略的なビジネスの問題に集中できるようになりました。CIOはセキュリティやサポートやデータ保護のポリシーに影響を与えます。そのため、そうした前線を理解することはセールスプロセスの重要な一部分となります。

部門ごとのバイヤーとCIOの間の影響力のバランスは、アプリケーションによっても、企業によっても異なります。よりミッションクリティカルで、安全で、集約されているほど、CIOの役割は大きくなります。例えばインフラストラクチャの購入では、CIOは依然として購入の決定に深く関わっています。

効果的なSaaSのセールス組織の枠組み

部門ごとのバイヤーをターゲットにしたセールスとマーケティングの機能を考えることは、長期的な競争力を生み出す鍵となります。SaaS企業が中途半端なセールス努力をして、結局は売上もカスタマーエンゲージメントもだめにしてしまうのを何度も見たことがあります。

疑ぐり深い人を納得させるために、私はLinkedInのDan Shaperoに意見を求めました。LinkedInは現在最も成功しているSaaS企業のひとつです。DanはLinkedInのタレントとセールス分析担当の副社長で、1,200人からなるセールス組織を動かしています。大半の人はLinkedInが何の努力もなしにすばらしい製品をセールスしていると思っていますが、それは事実とはかけ離れています。LinkedInが開発して利用している枠組みは以下のようなものです。

バイヤー中心の組織

LinkedInはタレント、マーケティング、セールスという3種の異なる企業機能に対応する複数のビジネスラインを持っています。これらの部門はおおむね独立した予算を持っていて個別に判断を下しています。そのため、LinkedInはそれぞれの機能を結びつけるためのさまざまなチームを擁しています。

新規アカウントの獲得とアカウントの成功の区別

LinkedInにおける最も重要な教訓は次の2つです。つまり(1)成功したクライアントは時間が経つにつれて、より多く購入すること、そして(2)新規顧客獲得に必要なプロセスと専門知識はその顧客を育むこととはまったく異なるということです。結果として、Linkedinでは別々でまったく異なるチームやセールスプロセスや成功の基準を用いて、新規顧客と既存の顧客を管理しています。

上陸し、しかるのちに拡大する

SaaSの場合、顧客は全面的に導入する前に小規模に購入することができます。LinkedInは大規模な契約よりも、大規模で長期的で可能性をもったクライアントのもとで小規模な取引を契約を成立させることで需要を増やしてきました。小規模ではあっても、初期展開の成功は多くの場合、顧客の利用が2年目、3年目、4年目となった時にとてもつもない成長をもたらしてくれます。SaaS/フリーミアムモデルでの拡大は特に効果的です。それは成功を実証できるだけではなく、誰がその技術を無料で利用しているかということから将来の需要を正確に判断することができるためでもあります。

中間層向けのインサイドセールスを最大限活用する

世界の地域的な拠点の顧客に、電話でサービスを提供する強力なインサイドセールス組織を生み出したことは、LinkedInのSaaSフランチャイズ成功の重要なポイントです。インサイドセールスのセールスマンは自らの取引をとりまとめて、自らの領域を管理します。SaaSモデルでは規模の拡大がしやすいやり方で、顧客に関わり、セールスし、供給し、サービスを提供することができます。対面での訪問も不要です。

カスタマーエンゲージメントの監視

SaaSは製品に積極的に関わっている顧客がどれだけアクティブであるかを驚くほど明瞭にしてくれます。LinkedInは顧客の利用において何が強みで何が弱いかを理解することで、将来を見越して研修教材を展開し、ベストプラクティスに的を絞ったアドバイスを提供し、製品のロードマップを改善してカスタマーエクスペリエンスを向上させています。ほとんどの企業ベンダーは顧客の成功を理解することに関して当て推量で行なっていますが、SaaS企業は基礎的な情報という強みを有しています。

バイラルマーケティングの真っ最中にある多くのSaaS企業にとって、セールス組織を構築するべきだということを、ただちに直感的に理解できるわけではないでしょう。今のところ急速に成長するSaaS企業の人々は今なお「自分たちには関係がない、私たちはインバウンドリードの獲得を維持していくだけだ」と考えているかもしれません。インバウンドが止まるまでそう考え続けることでしょう。優れたSaaS企業のパラドックスは、SaaS企業が初期展開に成功しているほど、その企業がきちんとしたセールス組織の構築を認知して受け入れ、企業バイヤーの需要に取り組むということが難しくなっていくということです。ですから、私はすべてのSaaS企業にSaaSマニフェストを戦闘準備の呼びかけだと思ってほしいのです。私たちはSaaSの成熟の最中にあり、そこでは成熟したセールスが重要となるのです。

次回:SaaSマニフェスト:第3部—企業全体でのSaaSの採用と展開のための要件

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Peter Levine

Peter Levine は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼は以前 Citrix の Data Center & Cloud Division の上級副社長でありジェネラルマネージャーとして、売上、プロダクトマネジメント、ビジネスデベロップメント、戦略の方針について責任を負っていました。Peter は 2007 年に、XenSource が $500M で買収されたことにより Citrix に入社しました。XenSource で彼は CEO として、600 人の従業員を率い、Microsoft や Symantec、HP、NEC、Dell といった顧客と XenServer の製品ファミリに関する戦略的な契約を確立しました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The SaaS Manifesto: Part Two – It’s Time to Build a Real Sales Team (2013)

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