Amazon という機械を作る機械 (Benedict Evans, a16z)

大手製造会社に目を向ければ、機械を作る機械というものが、機械そのものと同じくらい重要であることがはっきりと分かります。iPhoneにはたくさんの労力が注がれていますが、年間2億台のiPhoneの製造を可能にする機械にも多くの労力が注がれています。同様に、Tesla のモデル3には多くの労力が注ぎ込まれていますが、Tesla は未だに、既存の自動車業界の規模で迅速かつ確実に、高い品質と効率性をもってモデル3を製造できる機械を作り上げる必要があります。

その他のどの大手技術プラットフォーム会社よりも、Amazonは機械を作る機械です。人々は同社について話す時、その有名な好循環図式(より多くの量を扱うことで、コストと価格を下げ、より多くの顧客を獲得して、さらに量を増やす)について言及する傾向にあります。しかし私の考えでは、Amazonの事業運営構造、すなわち機械を作る機械の仕組みこそが重要です。そのことが語られることは、おそらくあまり多くはありません。

Amazonの中核は、2つのプラットフォームから成っています。物流プラットフォームと、電子商取引プラットフォームです。それらの上にあるのが、徹底的な分散化です。Amazonは、標準化された共通の内部システムの上にある、分散化・細分化された、小規模なチームの集まりなのです。もしAmazonが(例えば)ドイツで靴を扱い始めることを決めた場合、さまざまなバックグラウンドを持つ6名ほどの人を雇います。彼らの誰も、靴や電子商取引に携わった経験がないかもしれません。そしてAmazonは彼らに、他の全てのチームの評価基準と同じ内部透明性を持つプラットフォームを与えます。もちろん他の人々(と Jeff Bezos CEO)も、彼らの評価基準に対し内部透明性を持ちます。

「2つのピザで賄えるチーム」という有名なルールがあります。小規模なチームの明らかな利点は、物事をチーム内で素速く進められることです。しかし、少なくともAmazonでは(そして少なくとも理論的には)、その構造的な利点は、チームを複製できることです。Amazonでは、新しい内部体制や直接の指揮系統を追加することなしに、新たな製品ラインを加えることができます。また、会議やプロジェクト、物流及び電子商取引プラットフォーム内での新たなプロセスも必要ありません。イタリアで化粧品の取り扱いを開始するにあたってサポートを実施する人たちを集めるために、あるいはロードマップに何かを付け加えてもらうよう誰かを説得するために、シアトルに出張する必要も、多くの会議予定を立てる必要も(理論的には)ありません。

このことは、Amazonの商品が(言うまでもなく)コモディティであるということ以上に、Amazonの商品カテゴリーがコモディティであることを意味しています。

このモデルはアマゾンに、2つの明確な帰結をもたらしています。まず、ほとんど無限に拡張が可能なことです。もし会議や新たな組織体制なしにyの中でxを立ち上げることができるのであれば、新たなカテゴリーへの拡大スピードに影響を与える要素の大部分は、人材確保や仕入れの能力(そしてもちろん、新たなカテゴリーをオンラインで購入する消費者の意向)になります。2つ目は、どの商品カテゴリーに対する購買体験も、最終的には最小公分母モデルへの適合を必要とすることです。このプラットフォームのチームは、新しいカテゴリーのそれぞれに対し、カスタマイズした体験を簡単には作り出せません。多くのカテゴリーを覗いてみれば、これが時には弱みとなることが分かります。Amazonはほとんど無限に範囲を広げることができますが、必ずしも深くすることはできません。それ故に、より深い体験が必要なカテゴリーに関しては、問題が生じます。現時点でそれが最も明らかなのは、高級衣料のカテゴリーです。

ただ、3つ目の帰結も存在します。それらの細分化されたチームは、実際にAmazonで働く必要はないということです。このモデルの成長が、いかに迅速に商品チームを確保し、サプライヤー契約を締結できるかということにかかっているのなら、他の人たちにそれをやらせ、彼らからマージンを徴収することで(もちろん、社内チームはマージンの目標値も持っています)、より迅速かつ低リスクな拡張が可能になります。

これが、同社のマーケットプレイスの背景に対する洞察です。マーケットプレイスは、社外のチームに物流プラットフォームへのホールセール・アクセスを与えているのです。(クラウドプラットフォームに対し同様のサービスを提供する)AWSは現在、Amazonの収益の10%を占めていますが、マーケットプレイスを利用する第三者ベンダーからの手数料は、20%近くに及びます。第三者ベンダーによる販売は、Amazonを通して販売される商品の総量の約半分を占めています。

Amazonはその収益報告に、消費者がマーケットプレイスでの購入で支払った金額を含めておらず、その金額も報告していません。その代り、ベンダーから徴収するサービス手数料のみを収益として報告しています。Amazon自身を経由して販売された商品と、マーケットプレイス・ベンダーを経由して販売された商品を合わせた売上総額(マーケットプレイス取引総額=GMV)は、大まかに言ってAmazonが報告した収益の約2倍と見積もることができます。つまり、Amazonは収益として報告している電子商取引のシェアの2倍を(自身では価格設定を行っていないものの)取り扱っていることを、マーケットプレイスは示しているのです。

一方で、AWSが始まった時の一般的な共通意見は、お金を捨てるようなものであり、損益分岐点以下でマーケットシェアを買って事業を運営するという同社のアイデアの、別の事例になるというものでした。しかしAWSはある時点で、Amazonが財務規制上分離して報告しなければならなくなるほど大きく成長し、利益が上がる事業であることがはっきりしました。現在では、その営業利益率は25%にまでなっています。そして人々の意見は逆転し、AWSが生み出すキャッシュフローが、事業の他の分野でマーケットシェアを購入したことによる損失を補っているものと推定されています。

私の見方では、どちらの意見も間違った前提に基づくものでした。2~3年前(AWSが急成長する前)に私がここでの投稿で詳しく議論した通り、それらの細分化されたチームは全て、様々な発展途上の段階にあります。大規模なものもあれば小規模なものもあり、古くて非常に利益の上がるものもあれば、新しくて立ち上げ時期の損失を出しているものもあります。私たちが見ている純収入やフリーキャッシュフローの数字は、何百とあるそれらチームを全て合わせたものであり、それ故に真実はあまり教えてくれません。Amazonは利益の上がる事業部門から得られた現金を、新たな、利益の上がらない事業部門を作るために投資しており、どのような配分になっているのか、実際にはわかりません。私が考えるに、これはAWSとマーケットプレイス事業の両方をどのように見るべきか、という問題です。AmazonはAWSの収益性を開示する独自の義務を負っていますが、同社が利益を上げている部門はそれだけではないのです。

ついでながら、プライムは物流と電子商取引に続く第三の柱として、これに良く当てはまります。Amazonがプライムに付け加えることのできる知覚価値の一つ一つ全てが、ユーザーのサインアップする可能性を高め、キャンセルの可能性を低くします。そして一旦サインアップしてサンクコスト化してしまえば、他で行っていたオンライン(そしてますます多くのオフライン)購入を、プライムを通して行う可能性がずっと高くなります。Amazonの視点から見た場合のプライムの最も良い部分は、TVなど限界費用のないものです。AmazonはTV番組を買って、あなたにトイレットペーパーを買わせます。WalmartからAmazonへのトイレットペーパーの購入先の変化が、TV番組の取得予算に影響を与えるライフタイムバリューを持つのです。

そのようなわけで、Amazonは機械を作る機械、つまり、より多くのAmazonを作る機械なのです。その正反対がAppleでしょう。Appleは徹底的な分散化というよりも、全てのものが注意深く構築され、1つの箱の中に収められたASIC(特定用途向け集積回路)のように見えます。そのことによりAppleは、特定種類の新製品を非常に高い効率性で生み出すことができる一方で、新たな製品ラインを無限に追加するのは極めて難しいのです。Steve Jobs は、新たなプロジェクトに「NO」を突きつけることについて話すのが好きでした。それはAmazonにはあまり関係のない長所です。

このことはAmazonとApple(そしてGoogleやFacebook)の両方にとって、非常に上手く、何度でも繰り返し、予想通りに実現することのできるある種類のプロジェクトが、それぞれに存在するということを示しています。しかしまた、極めて重要なこととして、実現するのに全く適していない種類のプロジェクトが存在することも意味しています。GoogleはAppleよりもクラウドプラットフォームに長けており、UIが劣っているという傾向はありません。なぜなら、それぞれのチームには優れた人や劣った人が存在する一方で、それぞれの会社が特定の種類の物事を実現する態勢が整っているからです。そして、あるプロジェクトが自社の機械の方向性に近ければ近いほど、より信頼できる結果が生まれるのです。もし機械がXをするために設計されているなら、人々がどんなに賢くてもYをするには苦戦するでしょう。過去20年にわたるAmazonの多くの物語は、いかに多くのYが最後にはXになったかという話です。人々がオンラインでは売れないだろう、コモディティとして売れないだろうと考えたものの、結局はその両方とも実現したカテゴリーは数多くあるのです。

 

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Benedict Evans

Ben はテック系企業に投資をする、シリコンバレーのベンチャーキャピタルである Andreessen Horowitz ('a16z') に勤めています。彼は何が現在起こっているのか、そして何が次に起こるのかについて考えています。

Ben のブログはこちら、毎年のプレゼンテーション、人気のウィークリーレターポッドキャストでの超早口、そして Twitter での独り言もあります。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Amazon machine (2017)

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