私は最近、投資家や創業者がスタートアップのエクイティファイナンスをモデル化し、未償還の転換証券がどのように株式に転換されるかを判断できるようにするソフトウェアを、angelcalc.com1 で開発しました。それはそこそこ素晴らしいツールであり、私はプログラムを書くのを楽しみました。しかしその中で、私たちの現在のシード資金調達エコシステムがどのように機能するかについての問題点がいくつかあることがわかりました。それに対しての私の率直かつ野心的な目標は、必要とされる透明性をシステムに取り込むことです。 Angelcalcは使えるかもしれませんが、それだけでは不可能です。他に何が必要かを理解するためには、いくつかの説明が不可欠でしょう。
スタートアップの創業者がシードファイナンスを行うのは、多くの点で、今まで以上に簡単になりました。そしてエンジェル(別名シード)投資家にとっては、自分の賭け場所を見つけて選ぶことがこれまでになく簡単で便利になりました。しかし、スピードと利便性はある程度犠牲になっています。今日では、スタートアップの初期投資家は通常、最も一般的に安全とされる、転換証券を介して投資しています。ほとんどの場合、これらの証券が転換する時、つまりスタートアップが適格2エクイティラウンドを迎える時期、は謎に包まれてます。創業者とシード投資家の双方にとって、何が起こったのかを把握することは非常に困難です。何百万もの新株が発行され、新しい投資家の権利が定義され、そしてこれまでの権利が変更または廃止されていますから。
エクイティファイナンスにおける株主の権利は、通常、取引を行うベンチャーキャピタリストとスタートアップの創業者との間で交渉されます。資金調達に携わっている弁護士は、次にこれらの権利をいくつかの文書に記録し、会社の既存の時価総額表から始めて、会社の事後資金調達における全員の所有権を計算します3。これらが行われている間、エンジェル投資家が議決権を持つことは、ほとんどありません。これは、エンジェル投資家が資金調達で獲得した権利が維持されるという保証がないことを意味します。私のYCパートナー、Aaron Harrisは比例配分権4の場合に、このパターンであることを指摘しています。小規模の投資家は、彼らの権利がひどく踏みにじられているかどうかにかかわらず、ほとんどの場合、他の人が交渉した条件に従っているだけであることは、おそらく事実でしょう。それでも投資家は最低でも、そのような変更の通知を待つ権利があります。
先に説明したような資金調達がほぼ完了すると、シード投資家は署名のための文書を受取り、レビューにほとんど時間をかけずに、署名を求められることがよくあります。常にではありませんが、投資家にはExcelファイルでプロフォーマ5資本政策表が送られることもあります。投資家にとって、これらの交渉の間に何が起こったのかを正確に知るための唯一の方法は、これらの文書すべてを注意深く読んだり、弁護士に読ませたり、株価がどのように決定されたかを把握するためにExcelファイルを調べたりすることです。実際には、初期投資家、特にエンジェル投資家たちは、肩をすくめ署名し、得るものを得るだけがほとんどです。
この状況を簡単に改善するために、取引で起こったことの概要を、署名を必要とするすべての文書と共にすべての投資家が受け取ることを提案します。これにより投資家は、彼らの権利が今後どうなるか、そして彼らの株価がどのように計算されたかを知るのに十分な情報を得ることができます。この概要は次にあげる2ページに簡潔にまとめることができます。
- カスタマイズされた取引概要。
- angelcalc、あるいはExcelモデルに関して十分な情報の概要が含まれたプロフォーマ資本政策表の要約。
これは、取引概要がどのようになるかを示すサンプルテンプレートです。
転換通知:情報概要
あなたの投資額 |
50,000ドル+Convertible Noteの場合は利子 |
あなたの転換価格 |
0.3596ドル |
あなたのファイナンス価格 |
0.5412ドル |
あなたの保有株式 |
139,043 |
あなたの株式クラス |
プリファード・シリーズA |
あなたの資金調達後所有権 |
0.27% |
株式価格計算 |
分子 = 4,000,000(あなたのキャップ) 分母 = 11,000,000(完全希薄後投資前株式) + 123,444(配分新規オプション) |
あなたは「主要投資家」ですか。 |
はい または いいえ |
今後の比例配分権を持っていますか。 |
はい または いいえ |
あなたは情報の権利を持っていますか。 |
はい または いいえ |
投資家への注意:これは合法的な文書ではなく、単なる概要です。上に示す権利は、本取引に関する株式購入および/またはその他の契約に明示的に記載されます。
2つめは、簡潔化されたプロフォーマ資金調達後資本政策表です。この資本政策表には、angelcalc.comまたはExcelを使用してコンバージョンをモデル化するために必要なすべての情報が含まれています。これには、完全なプロフォーマに含まれる最も機密性の高い個人の所有権情報のいずれも含んでいません。そしてそれらの情報は、ほとんど投資家が必要としないものです。
転換通知:プロフォーマ資本政策表概要
私の願いは、取引が完了した時点での、この2ページの要約の配布が、創業者、VC、およびその弁護士の間であたりまえになることです。Y Combinatorでは、私たちの創業者に、彼らの取引で配布されるかを確認するよう依頼します。私たちは、SAFEなどの単純で透明性のある基準に業界を移行することに大きな成功を収めました。私たちはここでもそれができると思います。しかし、エンジェル投資家が転換の通知を受けたときにこのような概要を要求しはじめることも助けになります。
なぜ人々はこの提案を採用しないかもしれないのでしょうか。最も明白な理由は、時間と費用があまりにもかかりすぎるからです。弁護士はこれらの文書を作成するために時間とお金を費やす必要があります。しかし、この議論は特別です。私は法務チームと協力して、関連する費用を見積もりました。プロフォーマ概要は、作成とエラーチェックに約1時間かかり、それぞれのエンジェルサマリーは、Excelプロフォーマからマクロに生成され、それから完了、入力、エラーチェックとなります。投資家の数にもよりますが、多くて1時間ほど、パラリーガルの時間が必要です。投資家はおそらくより少ない質問で返答するでしょうから、これは時間節約にさえなるかもしれません。
スタートアップ資金調達の透明性は関係者全員に利益をもたらすでしょう。大規模な投資家は喜ぶべきです。この情報を与えられたシード投資家が、文書に早く署名し、取引がより早くクローズできるのですから。創業者は最も初期の支持者の権利を尊重し、投資家は一度、彼らの証券がどのように転換されたかを明確に理解できるようになります。スタートアップ投資の世界に関しては、もっと大きな話もあります。そして最初のエクイティラウンドに関するこの記事もその話の終わりではありません。しかし、始めるにはいい機会です。
注意
1 モデリングソフトウェアの操作は簡単です。1口以上の転換社債を発行し、転換業者とエクイティファイナンスのために合理的な価値を投入し、モデルの結果を見てください。下にあるのプロフォーマシートから番号を差し込むこともできます。↩
2 「適格」とは、変換可能なドキュメントで定義されている用語で、指定された転換が自動的に行われる最低発生額を表します。通常は約75万ドルです。↩
3 転換の計算に使用される数学には、循環的、目標探索機能、各文書の非常に慎重な読解が必要です。この計算をしている弁護士は通常Excelの扱いが上手いですが、簡単にエラーが紛れます。↩
4 比例配分権とは、投資家が所有比率を維持するために将来のラウンドに参加する権利を指します。↩
5 ここでの「プロフォーマ」とは、資本政策表がまだ最終的なものではなく、まだ特定の仮定に基づいて作られていることを意味します。↩
著者紹介
Geoff Ralston はY Combinatorの社長であり、2011年からYCに参加しています。YC以前、彼は最初のWebメールサービスの一つを作っていました。彼の作ったRocketMailは1997年にYahoo Mailとなり、Yahoo時代にはエンジニアとビジネス部門の経営をしたあと、Chief Product Officerになりました。Yahooの後はLalaのCEOとなり、Apple に2009年に買収されました。2011年には最初のEdTechアクセラレータであるImagine K12を共同創業し、ClaasDojoやRemindなどの会社に投資を行った後、2016年にYCに統合されました。彼はダートマス大学からコンピュータサイエンスのABを、StanfordからコンピュータサイエンスのMSを、INSEADからMBAを取得しています。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Transparency in Startup Investing (2016)