【Climate Tech スタートアップの作り方】株式会社 Yanekara 松藤圭亮さん(前編)

FoundX はこれまで、Climate Tech Day のイベントや、投資家へのインタビューなどで「Climate Tech とは何なのか」(What)、「なぜ Climate Tech に取り組むのか」(Why) についてお伝えしてきました。これからはそれらに加えて「どのように Climate Tech での起業を行うのか」(How) も広く伝えていきたいと考えています。
そのために Climate Tech に取り組む起業家の方に起業の初期のノウハウについてインタビューを行いその内容をお伝えしていきます。
今回は株式会社 Yanekara の松藤さんにお話を聞きました。インタビュー動画を書き起こした内容を記事としてお伝えします。(聞き手・馬田隆明/東京大学 FoundX ディレクター)

(この記事は前編・後編の2本に分けて掲載します。後編はこちら→【Climate Tech スタートアップの作り方】株式会社 Yanekara 松藤圭亮さん(後編) - FoundX Review - 起業家とスタートアップのためのノウハウ情報

※インタビュー動画は YouTube でも公開しています。

www.youtube.com

松藤圭亮 (まつふじ けいすけ)
株式会社Yanekara 代表取締役 / CEO / CTO
東京大学大学院 工学系研究科修了(第一種電気主任技術者)
東京大学大学院工学系研究科で電動車両等を用いた送配電網の需給バランス調整を研究。国の2020年度未踏アドバンスト事業イノベータ。小学6年の夏休み中ソーラークッキングで暮らし、太陽エネルギーの素晴らしさに気づいた。

馬田
それではインタビューを始めていければと思います。松藤さんよろしくお願いします。

松藤
よろしくお願いします。

馬田
今日は How to Build a climate startup, どうやってクライメイトテックスタートアップを作っていくのかということで、Yanekaraの松藤さんにお越しいただいて、初期にどのような活動をしてきたのかお伺いできればというふうに思っております。

では早速ですが松藤さん、簡単に自己紹介とそれに加えて現在の事業、ビジネスモデル等々に関してお伺いしてもよろしいでしょうか?

【Yanekara の事業紹介】EV が普及していく時代における Yanekara の役割とビジョン

松藤
はい、ありがとうございます。Yanekara 代表の松藤と言います。ちょっと画面を共有して、簡単に説明をします。

まず私たちは Yanekara という会社でして、日本のエネルギー自立に貢献するClimate Tech スタートアップです。

Yanekara が解決していく課題というのは、今後EVが普及する中では、EVの普及が電力網にとって諸刃の剣だと私たちは考えています。今のままEVが普及していくと、充電のタイミングが夕方や夜間に集中してしまって、これを賄うのにEV10万台の充電をするのに、大体一機の火力発電が必要になる。EVの普及の裏で、火力発電が増えていく未来というのが、すぐそこまで来ています。

私たち Yanekara は、この充電タイミングを分散できたり、昼に充電して夕方や朝に放電することができるようになったりすれば、つまりEVを群制御できるようになれば、かえって火力発電所は追加ではいらなくなったり、昼間に生じる太陽光の発電をうまく使えたりする、EVの群制御で再エネの利用を促進できる未来が作れると考えています。

EVの群制御で再エネの利用を促進できる未来が作れると考えています

そのために Yanekara が作った道具というのが、YaneCube と YaneBox というものです。

まず YaneCube は、制御ができる充電コンセントなんですが、これは今日本でEV充電の9割がコンセント経由でされていると。このコンセントは普通、制御が遠隔制御ができないというのが、電力バランスから見たときの大きな課題でした。この YaneCube は、充電タイミングを遠隔制御できる日本初のEV用コンセントです。

ユースケースとしては、日本で最も EV が集積している場所だと思うんですが、銀座郵便局というところで100台の EV に対して、YaneCube が適用されています。この YaneCube は、国の政策で EV の充電は基本遠隔制御ができるようにしようという国の政策にも合致しています。

ビジネスモデルとしては、もちろんハードウェアの初期費用というのはあるんですが、API を通じて、制御ができるようにしてそこからも収益化していくという、物売りと SaaS が組み合わさったようなビジネスモデルになります。

もう一つの YaneBox の方ですが、これは EV のどんな課題を解決してるかといいますと、太陽光発電というのが、今世の中ではただの売電から蓄電による自家消費へと大きくトレンドが変わっていってると。その太陽光発電で生まれた電気をいかに蓄電して、夜や朝に吐き出して使うかというところにはすごく大きなニーズと市場規模があります。普通だったら定置型蓄電池を置くのが一般的なんですが、これから普及していく EV というのが実は大きな蓄電池であって、これを蓄電池として使うようにできればより社会全体で有効にリソースを使えるようになると。この YaneBox というのは、効率的かつリーズナブルにEVを蓄電池に変えるというアダプターになっています。

Yanekara のビジネスモデルとしては、YaneCube と YaneBox っていう独自の製品と、それが世の中に普及していった後のソフトウェア・サービスっていう2本柱でビジネスをやっていっています。よろしくお願いします。

【アイデアに至った経緯】理論的にはできていたものが現場ではできていなかった 

馬田
もう事業として始まっていて、いろいろやってらっしゃる中で、特に初期に関して、今日はお伺いできればと思っております。

この事業のアイデア、今現在の事業のアイデアにたどり着くまでにどういうことを松藤さんたちはやられてきて、どういうきっかけでこれを実行したんでしょうか?

松藤
はい。まず私自身は、東大の電気系工学専攻というところで、元々エネルギーに興味があったので、勉強したり研究したりというのをしていました。

私が所属していた研究室のテーマが、今後再生可能エネルギーを拡大していくためには、どんな課題に立ち向かう必要があるのかというところで、電力の需給バランスがすごく課題になっていくと。単に太陽光とか風力とかをたくさん作っているだけでは限界があって、その需給バランスを取るためのエネルギーストレージとか、フレキシビリティって言われるんですが、そういう技術が必要になってくるというのを研究しています。

その中で特に EV というのはすごくポテンシャルを持っていると、その巨大な蓄電容量からしてもすごくポテンシャルを持っているということは学んでいたんですが、実際アカデミックな世界ではもう完成しているというふうに思われていたことが、実際、現場と言いますか、EVが普及している中で見ていると、このEVをうまく活用して需給バランスをとっていこうっていうのは、まだまだ実用化が遅れているという現状に気づきました。

実際アカデミックな世界ではもう完成しているというふうに思われていたことが、(...) まだまだ実用化が遅れているという現状に気づきました。

これ、気づいたのは例えば物流会社さんとか、あとは地域のエネルギー会社さんとか、EV を実際使ってあるようなところに、実際現場にヒアリングに伺ったり、あとはちょっとかなり中に入り込んでいろいろ見させていただいたりして、そのときにさっきの諸刃の剣っていったところの、むしろバランスを崩しているっていうようなことがいろいろ見えてきました。

それをどう解決していこうかっていうことで、大学・大学院で学んだことを活かして、うまくそのバランスをとっていくための EV につけるようなアダプターだったり、その調整器だったりっていうのを作っていけばいいんじゃないかっていう感じで事業進めてきました。

馬田
そうなんですね。つまり、理論的にはもうできているはずのものが実際にはできてなかったから、そこのギャップを埋めに行ったという。

松藤
そうですね、はい。実は EV を使って電力需給バランスをしようという「V2X」というアイデアはもう20年前ぐらいからもう提唱はされていて、ただ技術的な制約とかプレイヤーの少なさっていうのがあって、上手く実用化にまだ至ってないというところがあると思います。

これは多分他の理工系の分野でもそういう同じように言えることがあるんじゃないかなと思います。

【Why Now】現場を見る中で全体像を想像していく

馬田
なるほど。逆に言うと20年ぐらい誰もやっていない、あるいは誰かがやっていて成功しなかったのかもしれませんけれど、埋められなかったギャップを埋めに行こうとするのってなかなかそういう人っていないのかなと思いましたが、どうなんでしょう。いなかったのか、それとも皆さんやってみたけど失敗したのか。

松藤
そうですね。実はこの分野では結構2010年代にそういう波といいますか、一度いろんな会社が挑戦をして、あまり長続きしなかったっていうことがあります。

その背景としては、やっぱり例えば電池の技術の進化であるとか、あとは最終的にIoT技術になってくるので、たくさんのEVを群制御するのはIoTの技術になってくるので、そういったものが10年前だと、ちょっともうちょっとアクセスが悪かったのかなと。

逆に今だと、電池のクオリティもすごく上がってきているし、IoTの技術もすごくアクセスしやすくなっているということで、ある意味大学大学院で学んだばかりの若者にもすごいチャンスがあるという状況に今なってきたんじゃないかと思います。

今だと、電池のクオリティもすごく上がってきているし、IoTの技術もすごくアクセスしやすくなっているということで、ある意味大学大学院で学んだばかりの若者にもすごいチャンスがあるという状況に今なってきたんじゃないかと思います

馬田
なるほど。つまり、よくスタートアップでいう Why Now のところがまさに今だからできるということなんですね。

松藤
はい。そうですね。今のちょっとEV側の事情をお話したんですが、電力システム側の事情でもWhy Now と言えるところはありまして、ちょうど今、再生可能エネルギーへの転換というところでいうと、大量に発電所を置くという考え方をこの10年ぐらい電力システムでは政策とかも含めて推進してきたわけですが、それが1周回ってですね、これからは大量に置いたやつをどううまく使うか、それは1回電力をためて需要が高いときに使おうというような話がちょうど2020年ぐらいから議論されたり、政策として落とし込まれるようになってきてるので、そういうふうに電力システム側とEV、モビリティ側と両方の流れが今ぶつかろうとしてるのかなと、そういうふうに思います。

馬田
ありがとうございます。ちなみに今話聞くとすごい納得感の高い Why Now の説明なんですけれど、これは松藤さん、事業を始める前に分析されて、そうご判断されたのか。それとも何かある意味後付けなのかっていうとどっちなんでしょうか?

松藤
そうですね。後付けに近いんじゃないかなと思いますね。

というのは、事業をいろんなお客様とお話していったりとか、やっぱり現場に行ってみて、現場にEVがどう入っていっているかとか、それでどんな課題が生じるかとか、そういうところから学んだところが非常に多かったので、1件の現場を見てみて、もし同じような現場が他に全国に1000件ぐらいあってこの課題が一斉に起きたらどうなるんだろうと、そういう想像力を働かせていくと、そういう先ほど言ったような全体像というかが見えてくるんじゃないかなと思います。なので、やっぱり動きながら、行動しながら見つけていった面は多いかなと思います。

やっぱり動きながら、行動しながら見つけていった面は多いかなと思います

馬田
なるほど。事業を始める前に完全に分析していたわけではないっていうことなんですね。

松藤
そうですね。

【プロトタイプ開発】身近にあるものでプロトタイプを開発する

馬田
ありがとうございます。最初にその現場に行こうにも、何かしらの仮説を持っていくことになると思います。いまは YaneCubeとかを作られていますが、その前、本当の本当の最初の製品、Yanekara最初の製品と言われるようなもの、もしくはプロトタイプという言われるようなものって、どういうものはどうやって開発されたんでしょうか?

松藤
そうですね、まず YaneBox の一番最初のプロトタイプみたいなものは、東大の産学協創推進本部さんのいろんなプログラムを使って、プロトタイプを作って現場に持っていきました。

僕らはEVっていうゴールはあったんですが、学生で本当にいろんなリソースが足りなかったので、まずは100分の1ぐらいのスケールを作って、自分たちがやりたい電力需給バランスっていうイメージをまず作ろうと思って電動自転車のバッテリーを使って、そういうバランスができるような装置を作りました。

まずは100分の1ぐらいのスケールを作って、自分たちがやりたい電力需給バランスっていうイメージをまず作ろうと思って電動自転車のバッテリーを使って、そういうバランスができるような装置を作りました

それを協力してくださりそうないろいろな方、例えば大学の先生方とか、協力してくださりそうな方に見せに行って、こういうことをやりたいです、と話すと、そこから先の展開があります。例えば大学の先生に見せたら、これ、EVでやりたいんだったらこういう技術を持っている先生や会社があるからちょっと紹介してあげるよ、みたいな感じで、だんだん繋がっていきました。それでEVを電池に変えるにはどうやるかという技術も私たちは習得できるようになりました。

最初の時期は本当に自分たちのリソースはほぼないという状況ですので、大学や企業のリソースを結構本当に貪欲に使わせてもらいながら、最初のプロトタイプというのを作りました。

このプロトタイプを、最初、地域のエネルギー会社さんのオフィスに置いて、実際どう使ってもらえるかっていうのを検証しました。ただその時点では、本当にプロトタイプの出来が悪くて、本当すぐ1日動かしたら壊れちゃうみたいなものでした。そういうのが今からちょうど3年前ぐらいの状況でしたね。

馬田
ちょうど2020年ちょっと前ぐらいってことですかね。

松藤
そうですね、はい。

馬田
なるほど。ちなみにその自転車で行こうと判断されたのは、どういう背景だったんでしょう。

松藤
そうですね。まず、私がすごく大事だと思ってるのは、まずは身近にアクセスできるもので、プロトタイプを作ることです。

ある意味わらしべ長者的に、最終的にやりたいでかいゴールというか、私たちの場合は世の中のたくさんのEVを群制御して、本当に2メガ、2ギガワットとかのレベルでバランスをやるんだっていうそういうゴールがあって、そのときに自分たちが持っているリソースで一番近づくにはどう形にすればいいかっていうのを考えて、加えてスピードも大事ですね。そうすると、自転車のバッテリーっていう選択肢があがってきたという感じですね。

ある意味わらしべ長者的に、最終的にやりたいでかいゴールがあって、そのときに自分たちが持っているリソースで一番近づくにはどう形にすればいいかっていうのを考えて (...) 自転車のバッテリーっていう選択肢があがってきたという感じですね。

馬田
ちなみにその最初の自転車のバッテリーのやつは、どれぐらいの期間で作られたんですか。

松藤
そうですね、あれは1ヶ月ぐらいですね。最初に着想してから1ヶ月ぐらいで作りました。

馬田
なるほど。ちょっと当時のことを思い出していただきながら、そのときに苦労した点とか、どうやってそのあたり解決したのかとかに関する話はありますか。

松藤
そうですね、まず実はほとんど私自身も別にもの作りをめちゃくちゃ得意だったというわけではありません。本当に工学部の授業とか、あとはサークルには入ったんですが、そういうのでさわりをやった程度のものでした。

なので、本当にどうやって作るんだっていうところはあったんですが、そこは周りの先輩や、東大だと本郷テックガレージっていう素晴らしい場所があるので、そこのコミュニティにすごく助けてもらいながら1ヶ月ぐらいで。

完成度ももちろん100点というよりはもう70点80点ぐらいのものっていう感じだったんですが、まずはそういうの作り方をしました。

話の流れが前後するんですが、いままで YaneBox の最初の頃のお話をしたんですが、これと同じことを YaneCube の方でも、やっていました。

ラピッドプロトタイピングというか、それも YaneCube の方はどちらかというと先にお客さんの課題がもう明確にあって、それをどう解決するか。具体的にはEVの充電のピークでドカドカと電気のコストが上がってしまうのをどう解決するかという視点から、プロトタイプ作成を始めました。そちらも3週間ぐらいで最初の初期のプロトタイプを作って、それでお客さんに見せに行って、つけ方をこうした方がいいよねとか、いろいろ現場で教えてもらいながら、どんどんどんどんブラッシュアップして、今の YaneCube っていうのができてきたという、そういう作り方になってます。

馬田
なるほどです。YaneBox や YaneCube でちょっとアプローチの仕方が違うのかなと思ったんですが、それぞれ作ってから売ったのか、それとも売ってから作ったのかでいうとどういうパターンなんでしょうか?

松藤
はい。そこはですね、はっきり違いがあると思います。

YaneBox というのは、作ってから売るっていう性格が強い。YaneCube というのは、売ってから作るという性格だったのかなと思っています。

YaneCube も YaneBox も最終的には同じ、電力需給バランスという課題に立ち向かうためのツールなんですが、YaneCube はどちらかというと対症療法的なもので、YaneBox は根本療法的なものだと私たちは考えています。

結局商用化ができたのも YaneCube の方が早かったっていうのは、技術的にシンプルだっていうのもあるんですが、最初から顧客のニーズがより明確にあった。

一方で YaneBox の方は、どちらかというと技術的なシーズから始まっているので、結構時間をかけてお客さんのニーズを掘り当てていく、というような違いがあると思ってます。

馬田
ちなみにそれですと YaneCube の方は、二、三年前に遡ってそっちから作れたかなっていうとどうなんでしょうか。

松藤
そうですね、初期の頃は、結局今の順番になったのかなとは思っています。

やっぱり工学系のバックグラウンドを持っているこういうチームだと、最初は技術的なシーズから始まる例は結構多いんじゃないかなと思います。

ただ、そうやってその実際に話せるネタを持って、お客さん候補というか、世の中の現場に足を踏み入れていろいろコミュニケーションしていく中で、現場では何が本当の問題なのか、何が世の中で必要とされてるかっていうのがわかってきて、そこから逆算してどんな技術を使ってそれをクリアしていくか、という考え方ができるようになってくるので、そこは1周回ってといいますか、その期間が必要だったのかなと思ってます。

現場では何が本当の問題なのか、何が世の中で必要とされてるかっていうのがわかってきて、そこから逆算してどんな技術を使ってそれをクリアしていくか、という考え方ができるようになってくるので、そこは1周回ってといいますか、その期間が必要だったのかなと思ってます。

馬田
なるほど。プロトタイプがあることで、やっぱりドアオープンはされやすくなるっていう感じなんでしょうかね。

松藤
それは間違いなくそうだと思いますね。紹介していただくときにも、すごく紹介していただきやすくなるし、あと相手の反応もすごく具体的になってくるといいますか、具体的なフィードバックが得られるっていうところがあると思います。

(この記事は前後編に分けて掲載します。後編はこちら→【Climate Tech スタートアップの作り方】株式会社 Yanekara 松藤圭亮さん(後編) - FoundX Review - 起業家とスタートアップのためのノウハウ情報

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