【Climate Tech スタートアップの作り方】エレファンテック株式会社 清水 信哉さん(後編)

FoundX はこれまで、Climate Tech Day のイベントや、投資家へのインタビューなどで「Climate Tech とは何なのか」(What)、「なぜ Climate Tech に取り組むのか」(Why) についてお伝えしてきました。これからはそれらに加えて「どのように Climate Tech での起業を行うのか」(How) も広く伝えていきたいと考えています。

そのために Climate Tech に取り組む起業家の方に起業の初期のノウハウについてインタビューを行いその内容をお伝えしていきます。

今回はエレファンテック株式会社の清水さんにお話を聞きました。インタビュー動画を書き起こした内容を記事としてお伝えします。(聞き手・馬田隆明/東京大学 FoundX ディレクター)

(この記事は前編・後編の2本に分けて掲載します。前編はこちら:

【Climate Tech スタートアップの作り方】エレファンテック株式会社 清水 信哉さん(前編) - FoundX Review - 起業家とスタートアップのためのノウハウ情報

※インタビュー動画は YouTube でも公開しています。

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清水 信哉
清水 信哉(しみず しんや)

2014年、エレファンテック株式会社(当時社名AgIC株式会社)創業、代表取締役社長就任。当社創業前は、2012年より、McKinsey&Companyにて製造業を中心としたコンサルティングに従事。
東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 修士課程修了

【共同創業者との出会いと創業までの経緯】一緒にプロジェクトに取り組んでお互いのことがわかってきた

馬田

次はチームに関してもぜひお伺いしたいんですが、共同創業者の方がいらっしゃるかと思います。ぜひこの共同創業者との出会いと創業までの経緯を教えていただいてもよろしいでしょうか?

清水

そうですね。共同創業者との出会いって意味では、共同創業者とは大学が一緒で大学生の時代からずっと知っていまして、創業前に別のプロジェクト、これはスタートアップじゃないんですけど一緒に物作りのプロジェクトを一緒にやっていました。一緒にプロジェクトをやるとお互いわかってくるというか、得意不得意な部分もわかってきて結構馴染みがあった。あと当時、Facebookか何かでこのアイディアはすごく面白いっていうような話をして、そこで盛り上がったので、じゃあやってみようという勢いで始めた感じだったかなと思います。

馬田

なるほど、結構そこは勢いだったんですね、最後は。

清水

そうなんです。さっきから何回も同じことを言うようですが、勢いで始めたので、そこはもうちょっと準備すべきだったなと正直思いますね。

【10年前の自分にアドバイスするなら?】全体像を描くこと、勉強すること

馬田

もしかしたら10年前の自分にはそういうふうにアドバイスするかもしれない、ということですかね。

清水

そうですね。

10年前の自分にアドバイスするとしたら、でもさっき言ったようなことですね。こうしておけば良かったことはいろいろある。でもやっぱり一番は全体像を描くことと、勉強するってことですかね。

私、2020年ぐらいから、結構アメリカのDeep Techの会社のIR資料だったり、SPAC上場したDeep Techの企業の、SPACのドキュメントがあるんですけど、それを全部読むっていうのをやっていて。そうすると皆さんがどういうロジックでレバレッジをかけているかとか、どういうビジネスモデルがあるのかとか、特にDeep Techの投資先行のスタートアップではどうしているのかを結構学んで。

そこの学びは正直相当ありまして、Deep Techなんて自分で考えなきゃって思っちゃう部分もあると思うんですけど、誰かもうやってみて考え尽くしている人を真似した方がいいということも結構ある、とか、そういうことは10年前の自分に言えるなら言いたいですね。

馬田

なるほど、10年前の自分はそのアドバイスを聞いてくれますかね。

清水

それは意外と聞いてくれると思います。

人は常にそういうものかもしれないけど、焦りで道を誤ってきた部分は結構あって、当時はわりと焦りから起業を決めた部分もある。社会に出てみて、就職してみて、「意外と時間がない、やるんだったら早くやらないと」、と思って焦って始めた部分もある。

だから、そこで焦るなっていうアドバイスは受けられないかもしれないが、普通にこういうところから勉強した方がいいよっていうのは、教えてもらったらそうだなとはなるんじゃないかなと思います。

【初期にどうやって周囲からのサポートを得たか?】初期は投資家も採用も人づて

馬田

なるほど、ありがとうございます。ではチーム系でもう一つ。

エンジェル投資家含めて、初期から周りのサポートを得られたと思うんですけれども、そうした周りからのサポートってどういうふうに得ていったんでしょうか?

清水

そうですね。周りからのサポートって意味で言うと、結構人づてで、最初の方は特にそうですね。

知り合いベースで、エンジェル探しのときは本当にエンジェル投資家を知りませんかという形でいろいろ当たって、繋がりを持った形かなと思いますね。

馬田

なるほど。

初期の従業員を採るのに結構苦労されているスタートアップの方は多いと思うんですけれど、初期の従業員はどういうふうに見つけられたんですか。

清水

そういう意味では我々も苦労はしていまして、でもやっぱり最初の方はもう人づてというか友人になってくるかなと思います。

【チームマネジメントの反省】カルチャーに合う人を採用すべき

馬田

ありがとうございます。

これもちょっと話しづらいことかもしれませんが、チームマネジメントについて。やっぱり若いときに創業すると、マネジメントの経験もないままマネージャーになることが多いと思うんですが、このあたりこうしておけばよかったと思うことはありますか?

清水

そうですね。「チームマネジメントはこうしておけば良かったわ」は本当に大きなトピックなので、ある意味これだけで何時間でも話すことかと思いますが、1個だけやってうまくいったし、初めからそうしておけばよかったってことでいうと、やっぱり採用ですかね。

採用の重要性。実際誰を採用して採用しないかということの重要性ですね。

我々は会社のカルチャーをすごく重要視しているんですけど、結局カルチャーって、中に入ってからどうするかより、カルチャーに合う人を揃える方が遥かに大事。低利益の市場でめちゃめちゃ頑張って高利益出そうするよりも、そもそも高利益の市場に行った方がいい、というような話と一緒で、カルチャーに合わない人を頑張って変えるよりも、カルチャーに合う人を入れた方がいい。

カルチャーに合うかどうか見極めるためには、意外とそのために時間を使わないと見極められない。我々だと、今もここ何年かやっているのが、1日の体験入社が選考プロセスの中に入っています。実際に来ていただいて半日1日一緒に過ごす中で、文化の違いが見えてくる。これはすごくやってよかったなと思いますし、もっと早くやっておけばよかったなっていうことではありますね。

【今後の戦略】とにかくデファクトスタンダードを取っていく

馬田

なるほど。スタートアップでは初期に採用した人がカルチャーを作っていくというところもあると思うので、そういう風に慎重に自分たちの理想的なカルチャーに合う人を選んでいくのは大事そうですね。

では次に、戦略に関してもぜひお伺いさせていただければと思います。

今後も含めてどういった展開の戦略を考えているのか、言える範囲で結構なのでぜひ教えていただいてもよろしいでしょうか?

清水

はい、ありがとうございます。そうですね、目指している像は本当に非常にシンプルで、弊社の印刷で電子回路を作るっていうことが世界のスタンダードになって、そこの装置は我々が独占的に供給している状態。

これは世界に100社あってそのうちの1社という状況、ではなく、我々だけ。あるいは我々とは戦えないレベルの弱い競合が1社2社出てくるというような、本当にドミナントなポジションを目指していく。

そこに向けての戦略っていう意味で言うと、これも戦略自体はシンプル。こういう電子材料や製法産業材料は、この会社のこの材料がデファクトスタンダードです、と一度なってしまえば加速度的に世界中が変わるような業界なので、とにかく最初からデファクトスタンダードを取ることが大事。

それに向けては、最終的には装置を売っていくっていう話になるんですが、その前にデファクトとして使えるのかというところで、例えば著名なメーカーのノートパソコンに入っています、著名なメーカーのスマートフォンに入っていますみたいな形での、もうデファクトだよねっていうような状態を作っていく。

そのために、オピニオンリーダーというか、誰もが知っているここのこれに入っていますというような、特にあそこは厳しいことで有名なんだけど、というようなところに入っているという状態を作っていくために、生産力の増強だったりということを今頑張ってる。そんな感じの戦略でやっています。

馬田

まさに逆算して、こうやってこうやってっていう感じでやってるんですね。

清水

そうですね。

馬田

こういう領域って技術でとにかく勝つパターンもあれば、サポートで勝つパターンもあれば、マーケティングで勝つパターンもあるのかもしれませんが、御社の場合はデファクトスタンダードをとりに行くために、何が一番キードライバーだと思われるんでしょうか?

清水

我々の場合は、明確に技術だと位置づけています。

これはもう業界構造的にそうで、本当に良くも悪くも材料とか装置って国境やサポート による差が結構出づらい。

生産製造装置っていうものに関しては、どんなに不便でもこれを作れるやつをどこからでも買いに来る。皆さんもうASMLから買うしかないみたいな、そういう形だと思うので、そこがもう圧倒的に重要なドライバー。

あとはNo.1であり続けることというのはかなり大事。結局その後の技術の革新をさぼっていっては意味がないので、デファクトスタンダードをとにかく技術で取る。技術でNo.1を取る、技術No.1であり続ける。

そうする限りにおいては、ポジティブなループがまわるというか、ここはもう彼らの材料だよね、となってそこに発注がくる、それが利益を生んでさらに設備投資、さらに研究開発投資を生んで、研究開発でも最先端、技術的に圧倒的にトップに立ち続けるっていうふうなポジティブなループを回していくことだと思います。

馬田

なるほど。それは何か領域特有のものなんでしょうか。

清水

これは実は領域特有だと思いますね。

これは市場設定のときに大事で、例えば我々のやっている電子回路の製造装置とか電子回路の材料の業界って、今でも寡占なんですよ。物によっては個別の材料では、この会社が9割シェアを持っています、100%シェアを持っています、この装置に関してはこの会社とこの会社のこの会社でほぼシェアを持っていますみたいな形で。もう技術的に一番いいところが選ばれるっていうような、技術的な winner takes all っていうマーケットなんですよ。

私は技術的に winner takes all のマーケットを選んでいるので、当然ながら技術で差別化していくっていうことになります。

馬田

別の領域だともしかしたらまた違うアプローチの方がいいかもしれないってこともあるかもしれない。

清水

それは全然ありえると思いますし、逆に技術で取っていけるマーケットだからといって、それ以外の強みでマーケットを取っていく可能性を切り捨ててはいけないということはすごく考えています。

技術をベースにしたものでも、結局サポートや展開力で差がついてシェアを取れているメーカーも、技術的には差別化は難しいマーケットでは全然あるので、そこは切ってはいけないだろうなとは思っています。

馬田

なるほど。ちなみにそういう領域だと気づいたのは創業してからどれくらい経ってからだったんでしょうか?

清水

そうですね。1-2年ぐらいはかかったのかなとは思いますね。

ただ、どういうビジネスモデルで、そもそも成長していくのかというところも曖昧だった。その辺を固めていくにつれて、マーケットってこうだよね、とわかってきた。

一時期は、自社で基板を全部作りますっていうようなことも考えたりもして、そうするとちょっとまた市場は変わってくるよなとか考えました。

そのアイデアを辞めた理由は、基板の製造ってすごくフラグメンティッドなんですよね。例えば種類によるんですけど、いわゆる普通の基板って、多分世界シェアトップのメーカーでも1%くらいとか、そういう領域なんですね。もう何万社ってある領域。

これを独占しますといっても、よっぽどのことがないと無理ですよね、っていうのに最初は気づけなかったし知らなかったし、市場によってそういう特性があるってことも最初はわからなかったです。それがわかってきたのはそうですね、創業してから2年くらいかかったんじゃないかなと思います。

【初期の戦略上の失敗】創業時は技術が未熟だったので、技術を強みにする戦略を取れなかった

馬田

ありがとうございます。そういう意味で最初期の戦略上の失敗とか、こうやっておけばよかったことがあれば教えていただいてもよろしいですか。

清水

戦略上の失敗っていう意味で言うと、全体像を描くのと結構近くなっちゃうんですけど、どのマーケットを独占するのかという戦略があんまりなかったことによって、ありえないような戦略、とりえない戦略をとろうとしてしまった、みたいなことは結構あるのかなと思っています。

例えばですけど、特定領域だったら基板を作ることでもある程度、ドミナントなポジションを取れるんじゃないか。これは100%間違っているっていうわけではないんですけど、それよりも装置が自然だよねだったり、そういうような話は結構あるかなとは思っています。

あともう1個あるとすると、優位性は最初からなくても良いということ。

つまりやっていく過程で優位性ができて、ドミナントなポジションになれるっていうようなことでも良い。

これがわかっていなかった。我々が創業したときは、技術がかなり未熟な状態だったので、とてもじゃないですけど技術的な強みがありますと言える状態ではなかったです。なので技術を強みにするモデルは難しいと思っちゃったんですね。今から考えるとすごくナンセンスなことを言っているんですけど。やっているとそう思っちゃうこともあると思うんですよ。

でもそんなことは考える必要は全然なくて、「今は技術的な優位性はそれほどないかもしれないけど、これを世界で初めてやりきればそれが優位性になるから勝てる」っていうことは最初はやっぱりわからなかった。技術を強みにする戦略を取れないんじゃないか、そういう迷いというか。かなり迷いがあったのは、戦略上の間違いだったと思いますね。

馬田

それはすごく面白いというか、「技術的な強みがなにかないと、起業しちゃいけない」と考えていらっしゃる方も結構多いと思うんですけれど、実はそうでもないっていうことなんですよね。

清水

全然そうではないと思います。

むしろなんですけど、何年会社をやるつもりかっていうのもあるんですけど、例えば我々みたいな会社だったら何十年もかけて業界を変えていくような領域の中で、創業のときからある技術が10年後も変わってなかったらおかしくないか、という話もやっぱりある。

シーズとしてはあっても、技術としてはあんまりそれにこだわるべきでもないし、やっていく中でより良い技術ができたらそれを吸収すべきっていう部分も全然あると思います。

それぐらい柔軟な姿勢の一方で、例えば我々だったら、一旦名だたる世界のメーカーが全部我々の材料を使っている状態に持っていければ、その材料を持っていることが技術的な優位性になる。ちょっとトートロジーのようですけど実際そうだと思うので、初めからその材料を持ってなくても別にいいというか、開発しながら、開発できたらそれが優位性になるということでも良いっていうことは、技術を中心にしたスタートアップではよく勘違いされがちな部分でもあるし、私自身も勘違いしていた部分かなと思います

馬田

なるほど。なので全体像を描いて、5年後に自分たちの技術の優位性があればいいから、ここを頑張って埋めるみたいな、技術系スタートアップでもそういう発想でいいっていう感じですよね。

清水

そう思いますね。

今できることで何かやろうというよりは、逆算してこうなったときにこう優位性があるはずっていうような形で考えないといけないんだろうなっていうのは、気づくのに結構時間がかかったポイントですね。

馬田

なるほど。

技術リスクはあるけど、そのリスクを飲んでくれる投資家だから大丈夫だと。

清水

そうですね。それも正直に言った方がいいと思うんですよね。嘘をついてもよくない。技術的には一応シーズがあってこの特許だけで戦っていきます、と言っても、本当にそうだったらいいんですけど、そうじゃないケースも多いと思います。この特許は1個のコアとしてはもちろんあるんだけど、この後これを作り上げていく過程で、この部分が優位性になると思っていますというように正直に言った方がいいんじゃないかと思いますね。

【メッセージ】Climate Tech 領域のプラクティスは少ないが、学ぶことは諦めるべきではない

馬田

ありがとうございます。

今回聞いていただいている皆さんには、目からうろこの言葉がいっぱいあったんじゃないかなと思います。

そろそろお時間になりますので、最後に視聴者の皆さんにメッセージをいただいてもよろしいでしょうか?

清水

Climate Tech Startup の作り方ということで、この領域はすごく可能性がある領域だと思っています。

我々も実際、顧客のほとんどが海外で、グローバルに、「この技術で世界が良くなった」「この技術で外貨を稼ぐ」「この技術で利益を出す、世界から利益を得る」っていうことができる可能性のある領域だと思っています。

一方で可能性はあると思ってるいんですけど、なかなかプラクティスというか、どうやってそれを進めたらいいのかという部分は、私自身まだまだわかってない部分も当然ながらありますし、他の領域に比べてそれほど定型化されていない。

されていないんですが、そこで学ぶのを諦めるべきではなくて、それはもちろん私もいいですし、もっと進んでいる経営者の方に聞きに行くでもいいですし、いろんな記事を探すでもいいですし、とにかく情報を取っていくことが、Howって意味で言うとすごく大事だと思っています。ぜひそういう情報を活用しながら、いいやり方でやっていくのがいいんじゃないかと思っています。

ただいずれにせよすごく価値があることだと思っているので、この領域をやろうとしている方や、やられている方を本当に全員尊敬しますし、すごいなと思いますので、ぜひ頑張りましょう

馬田

ありがとうございます。

今日の清水さんの話で、例えばSPAC上場した企業のIR資料をちゃんと見るとか、いろいろなヒントが今回のインタビュー中に本当に含まれていたので、Climate Tech スタートアップを始めたいな、始めようかなって迷っている人が何か一歩踏み出してくれるんじゃないかなと思いました。

清水さん、今日は本当にお時間いただきましてありがとうございました。

清水

はい、ありがとうございました。

馬田

では、Climate Tech Startup のつくり方、今日はエレファンテックから清水さんにお越しいただきました。

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この記事は前後編に分けて掲載します。前編はこちら:

【Climate Tech スタートアップの作り方】エレファンテック株式会社 清水 信哉さん(前編) - FoundX Review - 起業家とスタートアップのためのノウハウ情報

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