FoundX はこれまで、Climate Tech Day のイベントや、投資家へのインタビューなどで「Climate Tech とは何なのか」(What)、「なぜ Climate Tech に取り組むのか」(Why) についてお伝えしてきました。これからはそれらに加えて「どのように Climate Tech での起業を行うのか」(How) も広く伝えていきたいと考えています。
そのために Climate Tech に取り組む起業家の方に起業の初期のノウハウについてインタビューを行いその内容をお伝えしていきます。
今回はエレファンテック株式会社の清水さんにお話を聞きました。インタビュー動画を書き起こした内容を記事としてお伝えします。(聞き手・馬田隆明/東京大学 FoundX ディレクター)
(この記事は前編・後編の2本に分けて掲載します。後編はこちら: 【Climate Tech スタートアップの作り方】エレファンテック株式会社 清水 信哉さん(後編) - FoundX Review - 起業家とスタートアップのためのノウハウ情報 )
※インタビュー動画は YouTube でも公開しています。
清水 信哉(しみず しんや)
2014年、エレファンテック株式会社(当時社名AgIC株式会社)創業、代表取締役社長就任。当社創業前は、2012年より、McKinsey&Companyにて製造業を中心としたコンサルティングに従事。
東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 修士課程修了
- 【エレファンテックの事業紹介】金属を印刷する技術で基板を作る
- 【アイデアに至った経緯】事業の具体的なアイデアは戦略的には決めていなかった
- 【アイデアに関する反省】ありたいビジョンから逆算して考えるべきだった
- 【最初の製品】手作りに近い形で始めた
- 【製品開発における失敗談】最終形から逆算して何を開発するか決めるべきだった
- 【初期の資金獲得】落ちたときの学びを活かして助成金も獲得している
- 【資金獲得で苦労したこと】自身の未熟さゆえ、全体の絵が描けていなかった
- 【VCからの資金調達】 事業や技術の見通しを立てて逆算して考えることが理想
馬田
Climate Tech スタートアップのつくり方、今日はエレファンテックの清水さんにお越しいただきました。清水さんよろしくお願いします。
清水
よろしくお願いします。
【エレファンテックの事業紹介】金属を印刷する技術で基板を作る
馬田
では早速ですが、清水さんのエレファンテックの創業初期の辺りの話を聞いていければと思うんですが、まず簡単に、自己紹介がてら、ご自身のことや現在の事業のことをお話いただいてもよろしいでしょうか?
清水
はい。ご紹介にあずかりましたエレファンテック株式会社創業者で社長の清水と申します。
我々は金属を印刷するという非常に革新的な技術に取り組むスタートアップです。
金属を印刷するといってもいろいろと応用先があるんですけど、我々が変えようとしているのは電子回路、プリント基板と呼ばれるマーケットです。
基板はパソコンとかスマホとかあらゆる電子機器に入っているんですけれども、今まではエッチングという、銅箔を張っていらない部分を溶かして残った部分を配線として使うという、いわゆる引き算の製法で作られていました。これを、金属を印刷して成長させるという足し算の方向に変えるということで、使う銅が減ります、水が減ります、当然工程・材料が減るのでCO2も大幅に減りますという非常に環境にやさしい、かつコストも低い革新的な製造技術で、世界全体を置き変えていこうというのをやっている会社です。
どういうビジネスかというと2段階あります。最終的にはこの装置とインクを販売して、みんながこの製法で作ってますというような世界を作っていくということを目指しています。
ただあるあるなんですが、お客さんも量産のリスクはなかなか取れなくて、装置・材料を売っても買ってくれないので、最初はもう自社で基板工場まで作って、量産ができますよという実証をやっている。
既に何年か量産をやっていまして、直近はノートパソコン向けでの採用に向けてMOUの発表をしたり、本当にグローバルスタンダードに向けて量産のスケールアップをこれからやっていきますという段階に来ています。
【アイデアに至った経緯】事業の具体的なアイデアは戦略的には決めていなかった
馬田
ありがとうございます。ものすごく大きなことに取り組もうとされている、本当に全ての電子基板を塗り替えるみたいなことをされていると思うんですが、ぜひその起業初期のことを今日はお話いただければと思っています。
エレファンテックですが、最初のアイデアを着想したきっかけと、最初のアイデアと今やっていることがどれくらい違うのかをお伺いしてもよろしいでしょうか?
清水
そうですね。まず金属を印刷することによって電子回路を非常に簡単に作れるんじゃないかという、大枠のアイデア自体は実は起業した当初、もう起業して10年になるんですけど、起業した当初から変わっていないです。
それを思いついたきっかけとしては、思いついたというよりは、当時MITにいらっしゃった川原先生がそういったような研究をされていて、そこでこれはすごく面白いということで、お話をいろいろ聞かせていただいて。これってもしかしたら世界が大きく変わる可能性があると考えて、ディテールをそんなに調査したわけではなく、とりあえずやってみるかという形で一回始めてみたのが事業のスタートでした。
馬田
なるほど。今のビジネスモデルはそこまで想像していなかった感じなんでしょうか?
清水
全然想像していなかったですね。当時は Climate Tech という言葉もなかったですし、ビジネスモデルもそんなに考えていなかったです。
単純に方向性として、こっちの方が今までよりいいんじゃないか、世界が変わるテクノロジーなんじゃないか、どうやるか具体的な部分は後から考えようみたいな感じで起業したっていうのは、あんまり真似するべきではないと思うんですけど、私はそんな感じで起業したという感じです。
馬田
なるほど、大きな方向性はずっと同じでも、やり方は途中で考えていった感じなんですね。
清水
そうですね。
馬田
そこの途中の経緯といいますか、今のメインの事業のアイデアに行き着くまでにはどういった経緯があったんでしょうか?
清水
はい。創業してから今になるまでですよね。
そういう意味で言うと、ちょっと変な言い方ですけど戦略的にスマートに決めたというよりは、やりながら決めていったというのが正直なところです。
これはぜひしないでいただきたいというか、今だと Deep Tech のスタートアップのいろんなプラクティスがあるので、そういったものを勉強していただくのはできるんじゃないかなと。
当時はあんまりプラクティスもなかった。弊社の場合で具体的に言うと、最初はまず印刷機を売ることから始めようと思ったんですよ。基板工場なんてやっぱり何十億もお金がかかるので、そんなのを作るなんてことって全然想像してなくて、印刷機を売ろうというような話で始めたんですね。印刷機を作るのもすごく大変なんですが、当然最初はそんなに技術を持ってないので、まずはもう中国とかの怪しい印刷機とかをいろいろ組み合わせて、何とかできるんじゃないかみたいな感じで始めて、改造に近いような形で売れないかとかいろいろそういうのをやっていたんですよ。
そうするとやっぱり壁にぶち当たって。最初に大きな壁にぶち当たったのは品質ですね。量産で世界を変えていく、本当にスタンダードを変えていくためには既存のものと同じレベルの品質を最低でも持ってなきゃいけない。品質っていうのは意外と奥深くてですね、耐久性だったりとか歩留まりだったりとかいろんなものがある、それがなかなか大変でかなり挫折して、もう技術を作り直さなきゃいけないということで、要素技術も見直したりとかして、だから創業してから3〜4年ぐらいで、創業時と技術的な共通点があんまりなくなるほどまで技術が変わりました。
そういうことをやりながら、装置を売るってことを考えたんですけど。「世界のどこでも実績のない全く新しい製法です。これで量産工場を誰か作ってください」って言っても、やっぱり誰もやってくれない。まだ今だったらマシかもしれないけど、当時は Climate Tech とかそういった言葉もなかった中で言っても、全然誰も信じてくれなくて、信じているのは我々だけで、我々で量産するしかないという形で、量産すると決めた形です。何て言ったらいいですかね、行き当たりバッタリって言ったら恐縮ですけど、そういうような形で来たのが現実という感じです。
馬田
なるほど、かなり試行錯誤を経ているんですね。
清水
おっしゃる通りです。
【アイデアに関する反省】ありたいビジョンから逆算して考えるべきだった
馬田
アイデアに関する失敗談というか、こうしていればよかったと思うことは何かありますか?
清水
こうしてればよかったなと思うことはもういっぱいあります。
まずはゴール、ありたいビジョンというか、どういう形になっていたら勝ちなのかがあって、でも一気にそこまでは行けない。例えば我々だったら、世界中の電子回路が全部我々の装置で作られていたら勝ちじゃないですか。普通に何兆円の会社になると思うんですけど、その前の段階として、ここまでにこういう姿になれていたら、まだ勝ってないけど資金調達とかの面ではすごく有利だよね、と考える。
今でいうと、量産化ができて少量でもいいからどこかに採用されている、というような、毎月量産していますということがすごく大事なマイルストーンになっています。そういうのを達成するには何をしたらいいんだろうっていう形で、逆算してから考えていくってことがすごく重要。
私がさっき言った行き当たりばったりやるっていうのは、本当に一番良くない。
特に今はDeep Tech系のいろいろなプラクティス、例えば「LOI、MOUを獲得しましょう」とかはありますし、そういうのを学んで、逆算していくのがいいと思います。
馬田
なるほど。逆算していほうが良かったってことは、逆にうまくいかなかったときもあったんでしょうか?
清水
相当ありました。さっき申し上げた通り、特に最初の方はもうビジネスモデルからして、最後はどういう形になるかというところも相当ぶれていました。
今は装置も、もう自社で作ることにしましたが、最初はそこまで言う自信もなかったので、例えば何かしらうまく特許だけ作って特許だけとか、IPをおさえてそれをライセンスするみたいな形でできないかとか、いろいろ考えたんですけど。
でもそれこそ今から考えてみると、ライセンス料って取れるのはいくらだろうと考えてみたときに、市場のうち何%が作られて、そこで何%のライセンス料を取る装置メーカーだと考えた場合にいくらになるだろうと考えると、具体的な数字は言いませんがそんなに大きな金額には多分ならないんですよ。
そうするとやっぱり、こんな大きなチャレンジをする意味がないというような話もある上に、特許だけじゃ技術を守れないっていうのもやっていく中でわかった部分もあるので、そういうことは初めからわかっていれば検討しなくてよかった、ということはあったかなと思います。
【最初の製品】手作りに近い形で始めた
馬田
なるほど、ありがとうございます。
次に、製品のことについてもお伺いしたいと思います。
アイデアに関してはそうした逆算をして、この辺にマイルストーンがあるんじゃないかという形で進めていくというのがいい、というお話でした。とはいえやっぱり何か製品を作らなきゃいけないと思うんですが、最初の製品はどういうふうに作られたんですか。
清水
最初の製品ということで言うと、本当に手作りに近いような形でした。本当に小規模なラインというか、製造設備を自前で作って、できたものをお客さんに評価していただきました。
「まだ量産できる大きい拠点はできてないんですけど、量産できたらこれと同じものを提供できます、例えばこれくらいのコストで出てくるんです」とお客さんに説明する。すると「それは採用していきたいね」というような反応をいただける。そういうものを作っていったことがある意味、最初の製品という形になるかな。それが今も作っている片面フレキシブル基板というタイプのプリント基板になっていますね。
馬田
なるほど。その最初の製品開発にどれくらい苦労されたか伺ってもよろしいでしょうか?
清水
相当苦労しましたね。
最初の製品が作れるようになるまでという意味では、2014年に創業して2018年とか、17年とかまでかかったのでやっぱり4年ぐらいはかかっていますね。まともに量産できるようなったのは2020年とか21年とかなので、それまでには6、7年かかっているイメージです。
馬田
なるほど。では最初の3〜4年をどういうふうに過ごしてきたんでしょうか。なかなかそこまで頑張れる人も少ないと思うんですけど、どうやって頑張ってきたんでしょうか?
清水
そういう意味では、望ましくはないですよね。
望ましくはないというか、いろんなアイデアがある中で、起業するタイミングがちょっと早かった、もうちょっと基礎検討をしたり大学レベルでできることをやってから、起業した方が良かったんじゃないかとは正直思います。
ですので、これを真似するのがいいとは全く思わないんですけれども、続けられた理由としては、技術的な進捗、例えば耐久性だったら最初は2週間しか使えなかったのが1ヶ月ぐらいになる、というような進捗がある程度見えてきていた。さらに、お客さんと話している中でも、そういう製法はすごくスマートで、やった方がいいよとか、できたらそれはすごく需要があるとか反応があって、ある意味手応えがあった。
技術的にも市場的にもちょっと時間がかかるけど、実現できたらいけるんだろうなという確信があったので、続けてこられたと思うんですね。
馬田
なるほど。お客さんのところにも足繁く通っていたんですね。
清水
おっしゃる通りで、逆に言うと市場と技術の両面で、ある程度可能性が見えてきたから続けたに過ぎないという形です。
私も創業するときに、創業して1年以内に辞める確率は絶対50%はあるよなと思って始めたので、そこでうまくいかなかったらすっぱりやめるのも結構大事。この判断はすごく難しいんですけど、我々は幸い、幸か不幸か、時間はかかったけどある程度進められただけでもあるので、必ずしもうまくいかないのに続けろということではないかとは思います。
馬田
この領域のスタートアップは、作ってから売るパターンと、売ってから作るパターンがあると思うんですけれど、清水さんたちの事業はどちらに寄っていたんでしょうか?
清水
作れるようになってから売るというか、何て言ったらいいんですかね。全くの空手で、何もない状態から「これができたら買ってください」って言っても、やっぱりなかなか信じてもらえない。
やっぱりある程度、「基礎検討を進めていてここまで来ているので、あとはお金さえあれば量産できるんです」みたいな。でもそれも正確ではなくて、量産ってそんな簡単ではないのでお金があれば量産できるものでもないと思いつつも、「ある程度量産の可能性が見えてきたのでどうですか、でもまだ量産できていないですけど」っていう形で、例えばMOUや、もしできたらこれくらい買いたい、というような形ですすめる。
技術と市場と両面で進めていただきつつ、やっぱり市場が先行であるべきなので。誰もいらないものを作るのが一番良くないとは思います。ただ、完全に市場先行で空手でいったというわけではないかなと思います。
馬田
バージョン1が売れるものだとしたら、バージョン0.x ぐらいで持っていったんでしょうか?
清水
そうですね、バージョン0.3ぐらいじゃないですかね。
馬田
0.3で持っていって、買ってくれるって言ったからそれをバージョン1までに引き上げる、というような技術開発をしたというような感じでしょうか?
清水
そんな感じですね。
とはいえ、到底できそうにないことを言っても良くないので、0.3と言いましたが、そこから先にはサイエンティフィックなチャレンジはなかった。ノーベル賞レベルの何かしらのブレークスルーは必要ではない。私自身がエンジニアということもあって、この先はエンジニアリング的な話だけでいけるだろうっていう感覚、そういう確信を持ちつつやれたっていうのがあるかと思います。
【製品開発における失敗談】最終形から逆算して何を開発するか決めるべきだった
馬田
ありがとうございます。
製品開発において、Climate Tech スタートアップの皆さんは結構苦労されているところもあると思うんですけれど、製品開発における失敗談や、やっておけばよかったことはありますか?
清水
ものすごくいっぱいあるんですけど、結局、最終形から逆算して何を開発するか決めることに尽きると思います。
結果論ではあるんですけど、やって一番良くなかったなと思うのは、最終形をちゃんと描いて逆算してないがゆえに、今の技術の範囲でできることで、最終マーケットは違うけど何かしら需要はないだろうかと探ったこと。
これは必ずしも否定されるものではないと思うんですけど、結構な時間を費やしてしまった。我々みたいに、マーケットが明確にある事業であれば、逆算してそれのための仮説検証に必要なことしかやらないという形で製品を出していった方がよかったかなと思います。
例えば我々で言うと、既存のものと全く同じ耐久性、Compatibleっていうレベルのものを作らないと仮説検証としては意味がない。でも最初はそれができなかったので、「これあんまり耐久性はないんですが、使えるところはありませんか」というようにローンチして頑張ろうということもやったんですけど、今から思うと、回り道だったと思います。
馬田
なるほど。ホップステップジャンプで、一度別のところにホップステップで行ってから本命のところにジャンプで行こうと思っていたのが、実は回り道だったという感じでしょうか。
清水
そうですね。
馬田
起業初期には、回り道をしてから本命のところに行こうと考えている方も多い印象があります。そうしちゃいがちな、インセンティブというか、心持ちってどういうところから生まれるんでしょうか?
清水
なんか言い方が難しいんですが、回り道も含めて全体の絵が描けていれば回り道自体もいいと思います。
全体の絵がない中で回り道しちゃうのって、本当にただの回り道っていうか、本当にただ無駄な工程になる。例えば私が今言ったような、こういう市場向けに販売できないかとか探ることは、その市場でビジネスとして成り立つレベルのものがあって経験値を貯めていった後に、本命のマーケットに行くというような全体の絵が描けた上でやっているなら別にいいと思うんですけど。
私が当時やっちゃったのは、製品がなかなか出せないと焦るので、焦りの中で何でもいいから出さなきゃという形でやってしまって、しかも全体の絵もなかった。これは本当に良くなかったと思います。
そういう意味では焦りが判断を誤らせたと思います。
馬田
資金が尽きる中で何か出さなきゃいけないと、そうなっちゃいますよね。
清水
そうなっちゃいますね。
【初期の資金獲得】落ちたときの学びを活かして助成金も獲得している
馬田
そうならないようにした方がやっぱり良かったというのが、今振り返って感じることなんですね。ありがとうございます。
資金に関してもぜひお伺いできればと思います。特にこういう領域ってお金がかかると思うので、初期の資金どうされたのかと、もしよければ獲得した補助金などもあわせて教えていただいてもよろしいでしょうか?
清水
はい。最初は、創業した直後にエンジェル投資家から集めました。アイデア自体はすごく大きくて面白いということで、エンジェルからお金を集めました。でも当時なんで今ほどじゃないですけどね。
それと、資金調達と並行して助成金も活用しました。資金調達の後にはお金を使うので、そこに可能な限り助成金をあてました。助成金は常に探っているような状態で、特に技術開発型の会社は助成金等を使うべきテーマでもありますし、助成金を使う対象のフォーマットとしても合っているので。これが技術開発というよりは、その後の市場開拓がメインの事業の場合には助成金は使いづらいと思うので、そういう意味で使いやすい資金は使った方がいいということで。
だから、資金調達してそれと毎回同額とまではいかないですけど、その半分ぐらいの規模、1億調達したら5000万とか、それぐらいの規模感での助成金はほとんど毎回獲得したと思います。
馬田
なるほど。毎年1、2個助成金を獲得しながら進んできているんですね。
清水
そうですね。そんなイメージですね。
馬田
結構助成金への応募もされているんですか。
清水
応募もしてますし、よくエレファンテックさんってめっちゃ上手に助成金を取ってますねって言われるんですけど、普通にめっちゃ落ちてます。
意外と落ちてるんですけど、でも落ちたときの学びって結構大事で、そのときの学びが繋がっていくようなところもあると思います。
【資金獲得で苦労したこと】自身の未熟さゆえ、全体の絵が描けていなかった
馬田
そうなんですね。そういう意味で初期の資金獲得で苦労した点は、そうした補助金に落ちた話以外にも何かありますか。
清水
資金調達はずっと大変でしたね。
最初の頃は、Deep Tech だったり物作りだったりのスタートアップは実際少なかったので、「いやこれスタートアップでできるの」とか、「いや Climate Tech のマニュファクチャリングって、スタートアップがやる領域ではないでしょう」というふうに思われていたのでそこが難しかったです。今だったらスタートアップがやる領域でしょって感じだと思うんですけど。
あとはやはり、私の未熟さというか、全体の絵が描けてなかったというのがやっぱり一番大きかったですね。
技術が未熟だ、技術の成熟度が低かったから調達に苦しんだというよりは、正直投資家から見たときに、技術の成熟度はそんなにわからない部分もある。わからないというか、意外と技術系のスタートアップのファウンダーが気にするほどは重要じゃないというか、ちゃんと技術のリスクはわかったとして、それよりも「技術のリスクさえクリアできたら、ちゃんとマーケットがあって、ちゃんと伸ばしていける計画があるのか」というところ。技術のリスクがある上に、うまくいったとしてもいまいち成長しないシナリオだとすると、結構しんどいという話になってくると思う。
私はどっちかというと技術が未熟だったって言いたくなるんですけど、それよりやっぱり私が未熟で、その後の計画や全体像の姿がちゃんと描けなかったのが一番問題だったと思います。
馬田
なるほど。
とはいえ、初期から全体像を描くのは結構大変な気もするんですけれど、それができるようになったのは大体いつぐらいなんでしょうか。
清水
いや今でもちょっとまだまだできていないなと正直思っています。
資金調達をするためにやっぱ投資家からのフィードバックはすごく大事だと思っています。投資家も人によってちゃんとフィードバックをくれる投資家と、本当に適当なことを言って断ってくる投資家もいろいろあると思うんです。でも投資家も忙しいので、別にフィードバックをする義務があるわけじゃないとは思うんですが。
ちゃんとフィードバックいただける投資家からのフィードバックを真摯に受け止めることは、私の成長の上では大事だった。
例えば結構あるのが、「技術は面白いんだけど、計画でもうちょっと伸ばせるシナリオはないのか」だったり、「マーケットとしてここが狙えないとやちょっとしんどいよね」だったり。あとは技術レベルも「具体的にマイルストーンとしてここまでクリアしないと、うちとしてリスクは取れない」みたいな、ここのリスクはちょっとまだ取りづらいみたいな。そういう話って、次のラウンドでリスク解消されたら資金調達できるのかなとか考える。
もちろんね、全部信じるわけにいかないかもしれないんですけど、そういう良い投資家からのお断りのフィードバックを受け止めることは結構大事かなと思います。
馬田
なるほど。それを繰り返しながら徐々に作っていった感じなんですね。
清水
そうですね。
【VCからの資金調達】 事業や技術の見通しを立てて逆算して考えることが理想
馬田
投資家の話がでましたが、最初エンジェル投資家から投資を受けて、その後VCの投資を受けたと思うんですが、VCの資金調達のタイミングとなぜその額で行ったのかをお伺いしてよろしいでしょうか。
清水
はい、そうですね。ちょっと回答が若干難しい点もあって、正直今振り返ると多分理想的な方法ではなかったのかもしれないなっていうのは思っているのですが。
なぜという意味でいうと、やはり技術開発のリスクが非常に高い本当に初期のフェーズで資金を調達する方法は補助金以外では正直難しいですし、リスクが非常に高いのでエクイティでの調達を行った。シードの投資家が唯一の選択肢だったので、創業してすぐエンジェルラウンドを1回だけやりましたが、エンジェルも結局エクイティですし、その後すぐやっぱりVC向けで動き始めてというような形でした。
さっきも言ったんですけど、製品が出るまで5年、もっと言うなら6年7年かかってるっていうのはやっぱり理想的ではないので。法人化してVCから資金調達するっていう前に、もう少し開発を行ったり見通しを立てたりしてもよかったのかなとは、結果論的な部分もあるんですけど、感じないこともないです。
馬田
なるほど、ありがとうございます。そうして失敗談を赤裸々にお話いただけて大変助かっているんですが、資金調達という観点だと理想的な状況はどういうものなんでしょうか。
清水
そうですね。理想的にはですね、さっき技術が成熟してからということを言いましたが、その見通しですよね。
私は、技術が面白いので、どうやって収益化するかも含めて後で考えようぐらいの感じで創業してしまったので、それが正直VC目線で言うときついというか。当たり前の話ですけど。
そこからはやりながら考えましたが、創業する、とにかく飛び込んでみることは大事なものの、始めてしまうとやっぱり冷静に時間を使って計画を立てることがなかなかやりづらくなるという側面も多分ある。だから計画をもっと明確にして、「ここがクリアすべきマイルストーンで、これは少々クリアできていません。でもこれができたらバリュエーションをもっと上げられるし、次の調達もできると思います」というように次の調達へのマイルストーンをもっとクリアにした形でやれたらよかったなと思います。
ただその一方で、そういうプラクティスややり方は、この Deep Tech の業界に関してそんなに広く知られてはいないと思うので、ちょっと難しいところだとは思います。
馬田
そうですよね。2010年代前半では、IT系では「とにかく飛び込んでみる」みたいな感じのプラクティスの方が多かったと思うので、そこに引っ張られちゃうとよくないですよね。
清水
おっしゃる通りです。ちょっともう古いワードなんですけど、リーンスタートアップだったり、いろいろスタートアップ系でスタートアップ向けだって言われていることって最大公約数的だったり特定の成功をしたときに似通ってただけだったりとかっていうのもあるので。
当然の話として、Deep Tech だって宇宙と製造と、例えば創薬だったり、そういうところで同じアドバイスが効くはずもないという部分もあるので、なかなかぴったりくるものが中々ないっていうのはあると思うんですね。
馬田
とはいえこれまで10年やられてきた中で、やっぱり全体像を描いて、そこに対するマイルストーンちゃんと区切っていくことがやっぱり大事なんじゃないかということのかなとお話を聞いていて思った次第でした。
清水
そうですね。そう思います。
―――
この記事は前後編に分けて掲載します。後編はこちら:
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