【第3部】慈善事業として見る日本、事業機会として見る欧米 ―― なぜ今『Climate Tech』なのか?

本記事は2023年2月1日に行われた『なぜ今『Climate Tech』なのか? 産業構造の激変とスタートアップの可能性』の、対談の書き起こし (第3部) です。

全書き起こしは以下です。

  1. 大きな課題=大きな事業
  2. 「気候版イノベーションのジレンマ」がスタートアップのチャンス
  3. 慈善事業として見る日本、事業機会として見る欧米
  4. ビジネスサイドの人こそ Climate Tech スタートアップに向いている?

全編は YouTube からご覧いただけます。

スタートアップ冬の時代でも Climate Tech は +89% の投資額に

馬田
そのスタートアップがどんな状況なのかというのを、ちょっとデータを見ていきたいと思います。

これはHolon IQのデータですけれども、ベンチャー投資の額です。Climate Techへの投資は2022年、なんとこのデータによると、プラス89%です。

冬の時代と言われていた2022年なのにこんな額になってます。この会の事前に、サステナビリティ系への投資がバブルになってると海外で聞くことは多い、みたいな話をおっしゃってますが、バブルなんですかね?どうなんでしょうね。ただ必要なんですよね、これが。

清水 19:32
必要だと思います。必要だと思うし、正しい方向性だと思います。

馬田 19:38
2023年はモデレートになるだろうと、そんなにここまで大きくは成長しないとは言われて予想はされていますけれども、とはいえかなりの金額がおそらく来るだろうというところが今、スタートアップ界隈で言われているデータです。

今現状の投資額でそれぞれの領域を見るとこんな感じです。

エネルギー系、再生可能エネルギーとか蓄電とか、あとはサーキュラーエコノミーとかいろいろあります。モビリティもそれぞれにある、というふうな感じになっているというのが今現状のデータです。

これもHolonIQのデータで、ちょうど最近、先週か先々週に出たデータのもので、ぜひ皆さんもご覧いただければいいかなと思います。

本当にすごい金額が今来ています。これも別のデータですけど、もうちょっとわかりやすく、PwCが「気候テックの現状」ってのを毎年出しています。これは2021年のデータなのでちょっと古いデータですけれども、このデータによると、14%が実は気候テック分野が占めてるんじゃないかみたいなことを言われたりします。

3000社強が確認された気候テックのスタートアップの数で、3000社って多いように見えますけど、マーケティングのテック系のスタートアップって今はもう数万とかですが、数年前見たときは、2000、5000と増えてきたんで、考えるとまだまだ黎明期かなっていう感じを個人的にしてます。

どうでしょう?清水さん。この気候テックのスタートアップの状況って、実際に1プレイヤーとして周り見てて、増えてるなとか、すごい投資来てるなとか?

清水 21:08
日本では来てないです。

馬田 21:11
残念ですね。

清水 21:11
残念ながら来てないですが、欧州というか北米ですよね、北米は本当に来てるなっていうのはあります。

北米のVCとかが当然そのフィランソロピーとか慈善意識で投資とかするはずもない、1円も慈善には出さないので、彼らは基本的に。一部ブレークスルー(エナジー)みたいなところも、若干それっぽいとこはなくはないですけれど、基本的にはそんな出さないので。

単純にここから世の中を変えて、すごく大きな会社ができる可能性があるっていうふうに見つけたということなのかなと。

なので、よし行くぞっていうふうな形で皆投資してるというのに、米国が特に突出してなってるっていうのは感じますね。

馬田 21:52
そうですね。EUが結構すごい勢いだなっていうのに比べて、去年、一昨年ぐらいから本当にUSがすごい勢いで追い上げてきて、IRAとかも含めて法律もどんどんできてきてますし、すごい勢いだなっていうふうに見てますね。

そういう状況の中で、スタートアップがこれまで持ち上げてきましたが、もちろん大企業向けの領域もあればスタート向けの領域もあるんじゃないかっていうところで、この辺はちょっとだけ簡単にまとめさせていただきました。

スタートアップが重要になってくるのは2050年目標なのかなと思います。

2030年目標は多分省エネとか省炭素テクノロジー、これまでの漸進的な開発でいけるかなと思っているんですけれども、2050年の目標ネットゼロを達成しようと思うと、本当にゼロ炭素の何かを増やしていって、省エネでしか何とかできないところは頑張って、何とかブレークイーブンポイントを下げるのを目指していく、みたいな感じになるんじゃないかなと個人的に思ってます。

省エネもすごい大事だと個人的に思っていて、省エネが省エネの何か%が大きくなればなるほど、必要な再エネとか炭素削減とかが少なくなっていくんで、省エネも大事なんですが、ゼロを何か大きくしてかないといけないかなと思っているというところです。

この辺り清水さん、もし何かコメントがあれば。ちょっと分かりづらくてすみません。

慈善事業ではない、事業機会としての Climate Tech

清水 23:06
これは本当に言われてる話ですし、ここで日本の場合っていうところでちょっとあるとすると……結構思うんですけど、日本人って結構、真に慈善的なところがあるよなって思わないこともなくて

何を言ってるかっていうと、まずデカーボナイゼーション(脱炭素)をやろうとなると、まず自分が減らそうとか、自分の会社を減らそうっていうことから始めます。

もちろん重要なんですけど、さっき言ったように、例えば北米のVCがめっちゃ投資してますっていうのは、自分たちが減らす、減らそうみたいなことというよりは、減らさなきゃいけないっていう需要環境の中で、そのデカーボナイゼーションを実現する技術でめっちゃ儲けられるからやろう、というようなイメージだと思うんですよね。

だからその日本が、ちょっと言い方難しいんですけど……自社や自国が削減するというのももちろん大事だし、やんなきゃいけないんですけど、日本から世界のデカーボナイゼーションっていうふうなのができる、デカーボナイゼーションが実現できるような技術とか事業っていうのをいかに作っていけるか、それが今後の外貨獲得の手段ではないかなと

日本が外貨獲得の手段もずっと失ってき続けてるので。日本で自国の削減ってだけじゃなくて、グローバルで削減して、それを外貨獲得の手段にしていくっていうのは結構重要かなと思ってます。

馬田 24:24
そうですね。日本炭素排出量確か世界の3%ぐらいだと言われてるんで、それを削減するだけだとインパクトちっちゃそうです。

清水 24:31
そうなんです。

馬田 24:32
本当に他の国にテクノロジーなりビジネス輸出していって、外貨獲得をしながら本当削減させていくってのが大事、ってのは本当に私も感じるところです。それをやらないと、日本が大変なことに。

清水 24:44
日本は今後外貨獲得の手段ないですよね。本当にそう思います。

日本なんて輸入しないとやってけない国なのに、どうすんねんっていうのと、肉とかああいう食みたいなところで日本めっちゃグローバルにも強いのに。いやいや、肉とかの味の領域でアメリカとかに負けてる場合じゃないでしょ、っていう感じしますよね。代替肉とか、そこで負けてどうすんのって感じするんで。

現実ではなく理想から逆算する

馬田 25:05
あとここで私もちょっと最近Twitterとかで見て、確かになって思ったこととして、日本と世界との比較っていうところでいくと、日本は割と現実から始めて、積み上げていく傾向が強くて、海外とかは、理想はここだよねってゴールを決めたら、とりあえずそこに向かってできることを全部やっていく、というところがあるという、そんな比較対象の話があったりしました。

確かにそういうとこあるなと思っていて、本当にこう、ネットゼロにしなきゃいけないんだからやろうよ、っていうのでいいんじゃないかなと個人的に思うんですよね。

清水 25:33
それすごい思いますね。それが今までは実は日本の強みだったと思うんですよね。

例えば自動車とかって、あれなんてもうトップダウンで何かしてどうこうって結構難しいので、やっぱり現場で現実を見てそれを1%改善する5%改善するっていうふうなところがすごく大事だし、それが強みになってきたけど、気候変動に関してはさっきいったように、この瞬間で微分すると、別に気候変動対策はしない方がいいんだけど、っていうふうになっちゃう。

けれど、10年20年単位では全然違うのやんなきゃいけないっていうのは、むしろ苦手、というところがあるのかなと思ってて。そこをちょっと変えてかないといけないなというふうに思っています。

Climate Tech スタートアップを始めるのに、残された時間は少ない

馬田 26:07
理想と現状のギャップが課題だとして、すごい課題が大きいんだから解こうよ、ビジネスになるしっていうことですよね。

2050年までにすればいいのかっていうと、多分、個人的にはですね、やっぱりこの15年とかがすごい大事かなと思っています。2040年ぐらいに大方の見通しがたってなければ、2050年ネットゼロって間に合わないんじゃないかなと。

例えばIEAの最近出たアウトルックから引っ張ってきてますけれど、2040年時点でも(炭素排出量は)結構減ってるんですよね、っていう感じになってて。

ここまでやんなきゃいけない、そして2040年から2050年は本当にゼロにするのが難しいところや、比較的難しいところをゼロにしていくみたいな。そんな図になっています。

ベンチャー投資、スタートアップ投資のタイムラインを考えると、遅くとも2050年に何かしていくって考えたら、そこの事業展開とか20年、事業展開が本格的な展開で10年かかるとして、2040年ぐらい上場しとかなきゃいけない。

ということはちょっと長めに見て、できれば15年とか取ったとして、VC投資とか事業が起業してから12年ぐらいかけて上場って考えると、大体2028年には起業をしておかなきゃいけない、その前から研究開発しなきゃいけない……と、これが一番遅いスケジュールかなと思っています。

逆に早ければ、こんな感じで下の今から何かやったら2040年にギリギリ間に合って、ここから本当にすごい成長していく。1兆円や10兆円企業の時価総額の企業になっていくってのがあるのかな、というふうに思っていて、遅くともこんな感じではないかなと思ってますが、実際にやられてる清水さんどうでしょう?

清水 27:41
こうだと思いますね。すごく時間がかかるのと、あとやっぱりDJIって会社あるじゃないですか、ドローンの会社。あれって、ドローンブームになるかなり前からドローンやってたんで世界一のメーカーになったわけですよね。

だからもうブームになって全員やってます、みたいな状況で始めても遅いし、ビジネス的に言うとそれやっぱ独占的なものすごい美味しいところってのが取れないっていうのもあるので。あとやっぱ研究開発系の世界に対するインパクトって意味でも、そんな多く取れないってのがあるので。やっぱり今かなと思います。

馬田 28:13
「今でしょ」という感じですね。

ということで、今日のタイトルの回収を若干終えたのかなと思います。

なぜ今Climate Techなのか、本当に今やらないと間に合わないというか、今やることでちょっと長めの時間がかかるものでも対応できる、というところもあるかなと思っています。

Climate Tech をやらないと起こる大変なこと

逆に今やらないと何が起こるかっていうと、企業が多分サプライチェーンから弾かれますよね。早いところは。もしくはいずれ規制がかかって売れなくなるってのもあるのかなと思っています。

その結果、日本の強みのある産業も含めて、そこが海外勢に取って代わられるというか。例えば車とかもテスラとかもどんどん入ってきたら日本企業の取り分が少なくなっちゃいますしとか、冷暖房はダイキンさんが強いんですけど、冷暖房がヒートポンプに変わって、とかいうのもあるかもしれませんし、もしくはお肉とか牛乳とかも含めて輸入になっていくと、そして輸出できるものがない国になってくると本当にジリ貧ですよね。

このあたり、危機感とか、清水さんはどうですか?

清水 29:10
危機感めっちゃありますね、そういう意味では、意外ともうあんまりそんなにはチャンスたくさんないと思ってるんですよ。日本が今後そのグローバルにこれがないととか、もうこの技術を世界に輸出しないと世界は困るみたいなテクノロジーって今結構なくなってきてるなっていうのがあって。

例えば最近のニュースで言うと、日本の輸出総額って総額で韓国に結構前から負けてるんですよね。韓国をディスるわけじゃないですけれど、単純に人口が全然違うので、人口めちゃめちゃ少ない韓国より絶対額で負けちゃってるっていうこと自体が、日本が輸出大国だっていうのがもう嘘になってきているので。

だからもう今は日本って、輸出できるものがどんどんなくなっていて、中で回すしかないし、でも輸入はしなきゃいけない、っていうのがどんどん酷くなっていくんじゃないかなと思ってて。

その中で可能性があることとしては、こういったClimate Techで、これから必要になる領域だし、今手を打っておけば本当にグローバルに必要とされるテクノロジー、会社、事業を作れる可能性はあるなって思っています。

 

第4部ビジネスサイドの人こそ Climate Tech スタートアップに向いている?へ続く

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