本記事は2023年2月1日に行われた『なぜ今『Climate Tech』なのか? 産業構造の激変とスタートアップの可能性』の、対談の書き起こし (第2部) です。
全書き起こしは以下です。
- 大きな課題=大きな事業
- 「気候版イノベーションのジレンマ」がスタートアップのチャンス
- 慈善事業として見る日本、事業機会として見る欧米
- ビジネスサイドの人こそ Climate Tech スタートアップに向いている?
全編は YouTube からご覧いただけます。
価値の転換
馬田
私個人のビューとしては、今起こってるのは、価値の転換なのかなと思っています。
これまで性能と価格、物事の性能で基本的に価格が決まってたかなと思うんですけれども、そこに加えてサスティナビリティやグリーンのような、これまでの外部不経済といいますか、外部にあったものがきちんとその価値として含まれてきて、それで(地球全体を)維持可能にしていこうみたいなっていうのが入ってきてるのかなと思っています。
それもあって、例えば電子回路だったらエレファンテックなどが選ばれるようになってきていると。これがいろんな領域で今はサステナビリティとかグリーンとかいう領域だと思いますけれども、いろんなことが起こってるのかな、っていうのが私の見方になってます。
この辺り清水さん、どうでしょう?
清水 10:13
そうですね。この通りだと思います。
馬田 10:15
次にいきます。ここもですね、ちょっと私個人的な望みといいますか、願いも込めてというところですけれど……。
炭素排出をしながら作っている製品が、今売り上げのほとんどだとは思うんですけれども、2040年になるとそこの売り上げがすごい小さくなる。ゼロじゃないかなって感じはしますけど、すごく小さくなって、グリーンの製品の売り上げが増えていくと。
これは単純に置き換わるだけではなくて、市場規模自体もちょっと大きくなる、っていう可能性はあるのかなと思っています。
他の業界に比べて、これまでの製品に比べてサステナビリティに配慮した製品ってのは価値が高いよね、っていうふうな何かそういう認識にもなっていくんじゃないかなと個人的には思ってるんですが、どうでしょう?お金を付加価値として払ってくれてるところって多いですか?
清水 11:08
売上っていう意味で言うとグリーンプレミアムっていうか、追加での何かしらをずっと払い続けてくれるかっていうと、それは結構難しいんじゃないかなっていうふうに思ってるんですけども、ただ利益は増える可能性があるとすごく思ってます。
例えば我々の技術とかって、低資源でそもそも物をあんまり使わずに物が作れる、というそういう技術なわけですけれど、そうすると結局、物を作るのに対するコストだったりとかもどんどん下げていく。
もっと言うなら、今まで石油を掘ってやってたというのが要らないような新しい技術を開発していくと、本質的な限界コストというか、限界費用はどんどん下がっていくんじゃないかと思っているので、そういう意味では利益が増える可能性があるかなとは思っています。
馬田 11:46
なるほど。売り上げは変わらないかもしれないけれど、ですね。なるほど、わかりました。私もこれは単純にこうあって欲しいなっていう願いっていう感じだったので。
清水 11:55
グリーン製品というか、どっちかというとこの辺の話って、今はフリーライドしてるっていうのはすごく正しい表現だと思ってまして。
カーボンって基本ニュートラルにしなきゃいけない、出したカーボンって本当は回収しなきゃいけない。でも今は回収してないんですよね。
そこに対するコストって、みんな今は払ってないっていう状態なので、それを払っていかなきゃいけないっていう部分の市場ってのは、新しく確実に生まれていくだろうなと思います。
成熟産業が再び成長する機会
馬田 12:19
なるほど。先ほどお話したような、これまで炭素排出してきた製品がどんどんとグリーンに優しい製品に変わってくるところで、この前清水さんと話していた話をします。
このグリーンの転換によって、成熟してきた成熟産業ですね、これまで本当に発展を支えてきてくれた産業とはいえ、やはり成熟していくと利益下がっていく、というところがある中で、グリーンという新しい価値の軸をうまく使うと、本来歩むはずだったどんどんと利益が下がっている道ではなく、利益を上げていけるんじゃないか。というふうな話をちょっとしてたんですが、もしよければ清水さんもこの辺りを。
清水 13:07
これ本当にそうだと思ってまして、例えば鉄とかって正直そんな利益率が高い業界じゃないし、例えば10年前だったらスタートアップが鉄作ります、みたいなこと言ったら多分みんなやめとけっていう、もう枯れてる業界だからみたいなやめとけ、って話だと思うんですよ。
今みんな鉄とか、酪農もそうですよね。スタートアップが牛やりますとか言ったら、「ちょっと落ち着けよ」みたいな話に多分なってたと思うんですよ。(スタートアップは)スモールビジネスじゃないから、みたいな。じゃないけど、まさにこれなんですよね。
もうその成熟してる業界で落ち込んでいくとか、利益的には、業界って必ず利益率が低くなっていくので、それがもう1回上がるっていうのがグリーン化のチャンスだと思いますね。
馬田 13:47
なるほど。それが業界全体で見たときのビューですね。
各企業で見てみると、こっち側になるかなと個人的に思っていて、すごい成長する企業とすごいシェアを失う企業とに2分化するんじゃないかなと正直思ってます。
グリーンに対応できたところは、その業界が改めて成長していくときの流れに乗れますし、そうじゃないところはシェアを失ってしまう。こういうチャンスがありますよっていう話に加えて、私が気にしているのは投資の流れというところです。
気候変動対策への投資額の大きさも事業のチャンス
このグリーンへの転換、日本はトランジションとか言われたりしますが、ちょっと日本と欧米と若干トランジションの見え方が若干違うなという気はしてはいるんですけれども、とはいえそういう投資を行われるのは間違いなくて、それがどれぐらいかっていうと、こんな感じですね。
「5000兆円欲しい」じゃなくて8000兆円です。
IEAのデータによると、パリ協定の実現のためには、大体最大8000兆円ぐらい投資が必要です、というふうな話がされています。
逆に事業側からすると、8000兆円の投資が来るかもしれない。マーケットの利益が出てくるかもしれないっていう流れと、プラスして投資が来て本当に成長できるかもしれない、というようなところの二つが合わさって、非常に魅力的な市場になってくるのかなと個人的には思っています。
どうでしょう?8000兆円来たら。
清水 15:08
8000兆円来たら。いや、逆に来ないと地球が滅びるという。
地球全体は滅びないかもしんないですけど、赤道直下の方が生きていけなくなったり、ということが起きるのは間違いないので、来なきゃいけないっていう、そこを来させなきゃいけないと思うんです。
ネットゼロのための技術はまだできていない
馬田 15:24
来なきゃいけないってのは、多分頭ではみんな理解してると思っているので、実際に作っていくスタートアップの企業をどんどん生まれていかなきゃいけないというふうに思ってます。
これもIEAからですけれども、2050年に必要な炭素排出削減量のほぼ半分が、まだ商業的に入手できていない技術、unavailableな技術に依存しているというふうに言われています。
今ある技術を展開するだけだと駄目で、新しい技術開発をして、それを事業化していく、コマーシャライズしていってそれを展開していく、というのが必要なのかなと思っています。
その時ジレンマがあるのかなと思っています。
気候版イノベーションのジレンマ
気候版のイノベーションのジレンマ、これはちょっと正確ではない表現だとは思うんですけれど…。
大企業や既存の企業は持続的なイノベーション、目の前のお客様を求めている、どちらというと漸進的な技術とかを求めて作ってしまいがちです。
一方でやっぱり今まだコマーシャライズされていない、商業化されてない破壊的な技術を商業化していかないと、ネットゼロにできない。
こんなことになってくると、そのいわゆる破壊的なイノベーションっていうところを誰が担うのかみたいなというところで、個人的にはこれがスタートアップなのかなと思っています。
このへん清水さんはどうでしょう?
清水 16:38
そうだと思います。さっきの産業サイクルのこのページ、一瞬見せてもらってもいいですか?
なぜスタートアップがやれるのかって言ったときにスタートアップがやれる理由があると思ってまして。というのは、例えば大企業って例えば今普通スタートアップって、この辺やりますよね。
これがもう成熟してきて、成熟した産業でこの辺にいるとすると……。
あなたが大企業の担当者です、と言ったときに、全体のこの時間の進みを遅くした方が良いんですよね。たぶん翌年の利益とか、なんなら3年5年単位の利益を見たときには。
この変革を加速したら死んでいくわけで、加速せずにそのトランジションを遅らせた方が、利益としてはいい。
この瞬間だけ微分すると、そっちの方がいいっていうような、そんな感じになっちゃうと思うんですよ。
それって本当に局所最適と全体最適のジレンマですよね。
我々は逆にそういう今のビジネスがない、っていうのがある。
具体例をあまり出し過ぎてもあれですけど、仮に例えばバッテリーとかEVとかもそうですけど、今この瞬間や来年は、こっち(グリーン)にした方がコスト高いんですよとか。でも10年後とか20年後のことを考えると、こっち(グリーン)ですよね、っていうことって結構あるなっていうふうに思ってて。
でもそれって完全に合理的な判断として、今の瞬間で微分すると、そういうトランジションとかせずに、今のビジネスが存続できるように変革をスローダウンした方がいいっていうのが完全な合理的な判断になるので、だから合理的に今のビジネスのそのポジションにいる人は、なかなか普通できない。
だからこそ今のポジションを持っていないスタートアップなり新しい業態っていうのが、この一気に成長できるルートに乗れる可能性があるし、やらないと変わらないと思ってます。
馬田 18:45
まさにジレンマで、イノベーションのジレンマとは「合理的な判断によって破壊的イノベーションに投資ができない」ことだと思いますので、その気候版が今起こってるのかなと思っています。
そこを打開できる一つの手段として、スタートアップがあるのかなというふうに個人的に思っています。
(第3部 慈善事業として見る日本、事業機会として見る欧米 に続く)