【第1部】大きな課題=大きな事業 ―― なぜ今『Climate Tech』なのか?

本記事は2023年2月1日に行われた『なぜ今『Climate Tech』なのか? 産業構造の激変とスタートアップの可能性』の、対談の書き起こし (第1部) です。

全書き起こしは以下です。

  1. 大きな課題=大きな事業
  2. 「気候版イノベーションのジレンマ」がスタートアップのチャンス
  3. 慈善事業として見る日本、事業機会として見る欧米
  4. ビジネスサイドの人こそ Climate Tech スタートアップに向いている?

全編は YouTube からご覧いただけます。Q&Aは書き起こしされません。


自己紹介

馬田 00:03
今日は、「なぜ今Climate Tech (気候テック) なのか」という対談をしていきたいと思います。清水さん、よろしくお願いします。

清水 00:10
よろしくお願いします。

馬田 00:12
このイベントの背景ですけれども、土曜日に急遽配信しようということになりました。元々は清水さんと私がちょっと10分ぐらいの雑談のつもりでやろうとしていたのが、ちょっとイベント風にしてみたら意外と人が来たと。

清水 00:28
ちょっとびっくりしましたね。

馬田 00:29
そうですよね。何名ぐらいの予想でした?

清水 00:33
10名ぐらい予想です。

馬田 00:34
正直私も10名ぐらいかなと思いつつ、今は登録が140名を超えてます。オフラインとオンラインだと。

清水 00:41
なんで私がツイッターでClimate Techの話をすると全然伸びないのに。なんででしょう?

馬田 00:45
そうですよね。表に出てこないClimate Techに興味がある人がいるのかもしれないですし、一気に人が来てしまったために……私も急遽資料を用意させていただいたので、資料を見ながら最初ちょっとお話をさせていただければと思っております。それでは、清水さんよろしくお願いします。

清水 01:06
よろしくお願いします。

馬田 01:08
と言いつつ、私たちの自己紹介ができていないなと思ったので、軽くやります。

私から、今回東京大学FoundXというスタートアップの支援の施設兼プログラムのディレクターをやっております、馬田と申します。東京大学卒業生や研究者のスタートアップを支援していくというのをやっていて、今場所が映っていると思いますけれど、この場所がFoundXという場所で、ここで支援させていただいてるという形になっています。

では、清水さんよろしくお願いいたします。

清水 01:35
よろしくお願いします。エレファンテックの社長の清水と申します。

私のバックグラウンドと私の会社のことをお話しますと、私のバックグラウンドは、前職はマッキンゼーという経営コンサルタントをやっていまして、その前は研究者として生きていこうかどうしようか迷って、経営コンサルタントに行きまして、2年ほど働いた後、東大の先生と一緒に、今の会社のエレファンテックという会社を創業しました。

エレファンテックは、今までと違う全く新しい電子回路の製法というのを開発している会社でして、金属を本当に数十ナノみたいな超細かい粒にして印刷して焼くと、金属が印刷できるみたいな感じの技術を持ってまして、それによって銅の使用量を、印刷するので、非常に銅(金属量)を少なくできて、水、CO2どれも桁違いに下がってきます。環境に優しいそういった技術をやっています。

ちょっと特異なところというか、変わっているところとしては、2014年に創業しまして、初めてものが作れるまで6年ぐらいかかったんですけれども、2020年量産工場を設立しまして、これまで70億円ほど資金調達をして、15億円ぐらい投資して、工場作って、実際そこでも量産をやって、しかもグローバルに今シッピングをしてるという感じの会社です。

そういう意味で、このサステナブル文脈で、特に環境に良いものを実際に工場とかを作って量産して出してる、みたいなところは多分そんなにはない、日本では多分数えるほどしかないので、そういった視点からもいろいろお話できたらなと思っております。

大きな課題=大きな事業

馬田 03:16
よろしくお願い致します。ぜひClimate Techを本当にやってらっしゃる企業のサイドから見たときの視点とか、私はどちらかというと今後なぜClimate Techのスタートアップをいま支援していきたいのかというところを、ぜひ対談でいろいろと深めに話していければと思っています。

まずちょっと簡単に私の方から、スライドを使ってご説明させてください。

なぜClimate Techなのかというところですけども、ビル・ゲイツさんがこんなことを言っています。8社から10社ぐらいのテスラ規模の会社がグリーンの領域から出てくると。

清水さん、実際そう感じますか?どうでしょう。

清水 03:49
すごくそう感じますね。ちょっと1ページ目喋りすぎるかも知れないですが。

最初にいきなり言いたいこと言うと、私はサステナビリティとか環境に良い技術やってるんですけど、なんかちょっとあんまり言うと怒られそうですけど、そんなに私は慈善活動的なモチベーションってそんなないんですよ、正直なところ。

単純に、「課題を解いた大きさ=会社の大きさ」というか、大きな課題を解いた方が大きな事業になる

なので単純にこのグリーンの領域というのはものすごいビジネスチャンスだと思ってるし、もっと言うなら日本が世界で勝てるチャンスだと思ってるのでやってる、っていう感じなので、これはもう本当にそうだなと思っています。

馬田 04:30
なるほど。その1社になるということですよね。

清水 04:33
もちろん。そうですね、我々の技術的には我々もそうなのですが、グリーンの領域って、ちょっと後で話すことを先取りしてしまうかもしれないんですが……。

基本的にですね、今、普通に使っているものは、今後、脱炭素や地球温暖化の規制の中で使えなくなっていきます。今使っているものが使えなくなるからには、何か新しいものを用意しなきゃいけないってことですよね。ローカーボン(低炭素)の何かを用意しなきゃいけない、っていうことです。

そこの技術を独占できれば、例えば我々は電子回路ですけれども、それはペットボトルかもしれないし、樹脂かもしれませんが、あらゆるプロダクトで、もう次の世代の「脱炭素した何か」はこの会社しか作れないみたいなふうになると、もうその会社から買うしかありません。

そういう意味では、我々も事業計画に堂々と、最終的には皆さんお手元のパソコンとかスマートフォンとかも含めて、ほぼ全ての電子回路が我々のローカーボンでサステナブルな製法に置き換わりますと言っています。

そうすると、もう余裕で1兆円っていうふうな規模だし、もっと言うなら他の領域も展開していければ、こういったテスラ規模っていうのは普通になる話だと思ってるので、本当に何の冗談でもなくあり得る話だなとは思っています。

馬田 05:42
車でそれをやってるのがテスラで、まさに今電子回路でやろうとしてるのがエレファンテックで……それに似たようなところが、ラリー・フィンク、ブラックロックのCEOである彼なんかは「次のユニコーンの1000社がグリーンビジネスから出てくる」というようなことを言ってます。

もしかしたらそれこそプラスチックとか全てのものが今、炭素を排出しながら作っているので、こういうものが全部置き換わっていくかもしれないと。

皆さん食べているものも、例えば牛乳とかも含めて、いろんなものが本当に炭素を排出しないものに変わっていくと、多分こういうことが起こります、ということですね。それが千社ぐらい起こる。

特にどの辺りとか、清水さん好きそうなところとかあったりしませんか?

清水 06:16
私はビジネスチャンスが起きそうだなと思ってるのは肉です。個人的に私は料理が好きってのもあるんですけど、肉に関してはすごくモチベーション高くて、それはこのままいくと……。

ここに聞いてらっしゃる方はご存知かと思いますが、牛が多分持続可能じゃないので、多分我々の孫ぐらいの世代には「いや俺ら若い頃は牛とか普通に食えたんだけどね」「今はちょっともう大豆しかなくて……」みたいな、そういうふうに絶対なるわけですね。

それって、そういうふうにしたくないし、逆に言うとさっきと同じ理屈で、それを独占できたらすごいビジネスだと思いませんか、っていう話があるのですごいやりたいなと。今の会社があるんで、すぐはできないですけど、やりたいなと思ったりはしますね。

馬田 06:58
肉や牛乳、あるいは鉄、セメントなど、いろんなものが本当にどんどんそうなっていくんですよね。1個1個が1兆円ビジネスになりますよね。

清水 07:06
普通になりますね。そういう意味では、例えばインターネットの登場で、めっちゃ大きなビジネスがたくさんできたじゃないですか。それってインターネット以前と以後で、例えば物を買うだったりとか、あらゆるビジネス、あらゆる人間の活動の形態が、がらっと変わったと思うんですね。

そういうことが次は何で起こるかっていった時に、この気候変動っていうのは1個必ず起こることですよね。だからさっき出たように今使ってるものがほぼほぼ使えなくなるとなると、今の牛肉が使えなくなる、今のセメントが使えなくなる、今の鉄が使えなくなるとかになってくると、全部変えなきゃいけない。

という本当に大げさじゃなくて、地球全体の経済活動全体が別のものに変わらなきゃいけない、っていうのはなかなかないチャンスなので、やらない理由はないみたいな。私は本当にそういうふうに思ってます。

産業革命以来の経済変革としての気候変動対策

馬田 07:56
ぜひ見ている方々とか今日参加いただいてる皆さんも「やらない理由はない」と思って、Climate Techを始めていただければなとは思っているんですが、まさに実はですね、この次のスライドで、ジョン・ケリーというClimate Change気候変動の特使、USの特使の方なんですけども、彼が言ったのはこんなことです。

産業革命以来の史上最大の経済的変革が、今回のグリーン、日本で言うとグリーントランスフォーメーション(GX)だ、というふうに言われていて、実際個人的にもそう思います。

これまで(石炭や石油といった)炭素を基盤として、産業革命以降、人類は発展してきたと思うんですけれど、これを炭素抜きで何とかやっていこうってのが、今回やろうとしていることです。

かつ、それを約30年でやる

2020年から、今からだと2023年から2050年の、この27年で全て作り変えるっていう本当に大変化なのかなと思っています。

この脱炭素をきっかけに、各業界で構造が変わっていくと思います。

例えばさっき牛乳の話が出ましたけれど、牛乳だったら例えば酪農って今なかなか(経済的に)サステナブルになっていないっという状況があります。そこで、脱炭素をしなきゃいけないから、と言って、(それを契機に)あまり上手くいっていない業界構造も変えていこう、っていうふうな機運にもできるかもしれません。本当に各業界の構造がものすごく変わるのかなと思っています。

先ほど清水さんがおっしゃった通り、この数十年はすごいチャンスが来るんじゃないかなと思っています。というところがお話の最初になっています。

もう10分ぐらい経っちゃってるんですけど、皆さんのQ&Aの時間をとりたいところなので、ちょっとだけ話を進めさせてください。今日ちょっとエモーショナルな話が多めでちょっと数字をあんまり使わないように、入門編ということでしたいなと思っています。

(第2部「気候版イノベーションのジレンマ」がスタートアップのチャンスに続く)

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