フリーミアムビジネスをマネタイズする方法 (Melissa Tan & Abbie Kouzmanoff)

ClearBrain (YC W18) はマーケター向けの予測可能な分析ツールを提供しています。これは彼らの Growth Playbook からの抜粋です。完全版はこちらにあります

Melissa Tan はグロースアドバイザーであり、以前 Dropbox のビジネスグロース部門のトップでした。Abbie Kouzmanoff は Dropbox のグロースプロダクトマネージャーです。

 

フリーミアムはDropbox、Spotify、Slakなどのサービスにより、人気のビジネスモデルになりました。そしてこのことは、伝統的なマーケティングや販売チャネルではなくフリーミアムのファネルを通すことでも、重要なビジネスが構築できることを示しています。しかし成功を収めた全てのフリーミアムビジネスで、フリーミアムに挑戦したものの失敗に終わった会社が何百社も存在します。それらの中には、製品にバイラリティやユーザーアダプション(ユーザーへの普及)があった会社もあります。失敗のポイントは、拡大した規模での無料ユーザー層のマネタイズ(収益化)にありました。

この記事では、あなたのフリーミアムビジネスをマネタイズするためのガイドを、ステップ バイ ステップ形式で共有しようと思います。ユーザーのセグメンテーション(細分化)とターゲティング、マネタイズキャンペーンの準備とベストプラクティス、そしてモデルの最適化を取り上げます。さあ、始めましょう!

ステップ0:自社のマネタイズモデルを計画する

自社のマネタイズキャンペーンを構築する前に、全体的な戦略を綿密に計画する必要があります。この記事の焦点は既存のフリーミアムビジネスをマネタイズすることに置いているため、モデル設計については取り上げません。しかし、キャンペーンを構築する前に把握しておく必要のある重要な要素を、いくつか指摘しておきます。

有料の壁
  • どのような機能が無料で、どのような機能が有料か?
  • あなたの価格決定モデルはどのようなものか?ユーザーは製品のさまざまな有料版にアップグレードするのか、それとも機能ベースのアドオン(使用可能な領域、利用できるメッセージの数など)にお金を払うのか、あるいはその両方を組み合わせるのか?
ユーザー セグメンテーション
  • ユーザー セグメンテーションはどのようなものか?
  • 各セグメントはどのように製品を利用しているか?
  • どのセグメントがどの有料サービスに結び付けられるのか?
マネタイズのライフサイクルとファネル
  • 無料サインアップから有料ユーザーへの活性化までの理想的なライフサイクルはどのようなもの?
  • 複数の有料サービスがある場合、それらの間でどのようなユーザーの流れを作りたいか?

ここで重要なのは、無料版においてユーザーがアップグレードする価値を認めるのに十分な、「魔法(のような魅力)」を体験できるようにすることです。ただし、無料版に魅力を盛り込み過ぎてもいけません。ユーザーがアップグレードする必要性を感じなくなってしまいます。

ステップ1:ターゲティングとセグメンテーション

マネタイズの枠組みが準備できれば、次はアップグレードのトリガー(きっかけ)とキャンペーンを構築する番です!最終的な目標は、あなたのさまざまなユーザーセグメントに対し、それぞれに合わせてカスタマイズされた異なるキャンペーンを作り出すことです。例えば、Dropboxを写真のバックアップにだけ利用する無料ユーザーは、個人向けプランへのアップグレード対象に設定すべきです。一方で、仕事上のファイルを共有する無料ユーザーのグループは、ビジネスプランへのアップグレード対象とすべきです。

最もすべきでないのは、無関係な利用方法をユーザーにアップセルしようとすることです。そのような行為はユーザーを疲れさせたり、製品をスパムのように迷惑に感じさせたりしてしまいます。そのどちらもが、ユーザーの離脱を引き起こします。

このレベルまでキャンペーンを具体的に計画するには、次のことを行う必要があります:

  1. ユーザーを得点付けし、セグメント化する。
  2. それらのユーザーに対し、製品内でターゲットを絞ったメッセージを届けられるようにする。
ユーザーの得点付けとセグメント化

ターゲットを絞ったキャンペーンを構築するには、あなたのさまざまなユーザーセグメントを識別する方法について、指示書を作る必要があるでしょう。製品によって、スコア付けの基礎となるのは製品内でのアクション(例えばDropboxの場合、共有かバックアップか)であったり、またはユーザー/企業の特性(企業ドメイン、中小企業か大企業かなど)であったりします。ユーザー調査とデータ分析を組み合わせて得点付けを行うことで、あなたの有料製品へのアップセルと相関性のあるアクションや特性が分かります。

ユーザーセグメントは相互に排他的ではない場合があるので、ご注意ください。中には複数のユーザーセグメントに分類されるユーザーも存在するので、キャンペーンやユーザーセグメントの階層化が必要でしょう。

ユーザーセグメントに基づき製品内でアップセルトリガーを構築

フリーミアム企業にとって最も成功しやすいマネタイズキャンペーンは、製品内でコンテクスチュアル(文脈的)に実施されるものです。例えば、同じ会社にいるユーザーがSlackを使ってメッセージを交換する場合について考えてみましょう。アプリを利用中のユーザーがその価値を体験している間に、有料プランへのアップグレードを促す通知を送るケースと、別のワークフローのさなかで、アプリのことなど考えていないユーザーにEメールを送るケースを比較してみてください。前者の方が後者よりも、より高いクリックスルーを得られる可能性が高くなるはずです。それらのキャンペーンを実施するためには、アプリ内でターゲティングとセグメンテーションを行える仕組みを構築する必要があるでしょう。

理想としては、それが自動化された方法で構築されることです。そうすれば、さまざまなユーザーセグメントにターゲットを絞った、複数の「常時実施」キャンペーンを用意することができます。1回限りのキャンペーンをその都度準備するのとは違い、そのようなキャンペーンは常にアップデートされるユーザーに対し、継続的な実施が可能なはずです。

ステップ2:キャンペーンの準備

今やあなたは、吟味されたセグメントと整ったインフラを手に入れました。さあ、先へ進みましょう!無料顧客から有料顧客への道をたどるユーザーにリーチする方法は、いくらでもあります。その内、私たちが気に入っているいくつかの方法について議論します。

常時表示の製品内広告・バナー

ユーザーにメッセージを送る最も単純な方法の1つが、有料製品の「常時表示」内部広告によるものです。それらのプレースメント広告は、あなたの有料サービスの認知を高め、ユーザーにアップグレードの信頼できる方法を提供するものであるため、重要です。例えば、もしユーザーがコンテクスチュアルなアップグレードの誘いを拒否したものの、後になって気持ちを変えるような場合、それらのバナーがその気になったユーザーに対し、アップグレードに続く道へ簡単に戻る入り口を与えます。

この方法を最も効果的にするために、製品内で一番多くの注目を集める場所を見つけましょう。ただし、ユーザーが製品を効率的に利用するのを、広告が妨げないようにしてください。しかし、簡単に見逃されるような場所でもいけません。例えばLinkedInは、「無料でアカウントをアップグレード」ボタンを、押し付けがましくなく、それでいて製品利用中に常にユーザーの目に入る場所に置いています。

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理想としては、広告はセグメントに基づいて表示させるべきです。そうすることで、ユーザーの特定ニーズに対応した広告を表示することができ、より高いエンゲージメントに繋がるからです。例えばDropboxは、ユーザーが利用可能な割当領域を使い切った時に、そのウェブアプリの最上部に目立つバナーを表示させます。このバナーはユーザーがアップグレードを行うか、あるいはDropboxアカウントからコンテンツを削除するまで表示され続けます。

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もしそれらの常時表示アップグレード広告が、他のアップセルよりもターゲットが絞られていないものだとしても、大丈夫です。あなたのセグメンテーションが適格なユーザー全員を上手く捉えていない場合でも、本来なら無視されるユーザーに対してアップグレードへの道を示し、自社の有料製品の認知度を高めているからです。ただし、そのようなターゲットが絞られていない広告についてはより慎重になり、製品内の押し付けがましくない場所を選んで表示するようにしましょう。

有料機能に関するコンテクスチュアルなアップグレードメッセージ

ここまでであなたは、「常時表示」バナーの準備が整いました。次はよりターゲットを絞りましょう。ユーザーにアップセルする効果的な方法は、すでに利用中の機能に対し、より強化された機能性が手に入ることを教えることです。例えば、LinkedInの「求人」ページを閲覧しているユーザーは、より多くのターゲットコンテンツを受け取っていると言われます。Dropboxでフォルダー権限を設定しているユーザーは、ビジネスプランで追加的な権限が利用できることについて教えられます。

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それらのコンテクスチュアルなアップセルは、製品内ですでに価値を見出しているユーザーにターゲットが絞られるため、重要です。ここでの目標は、目的をより効率的に達成するためにあなたの有料機能がどれだけ役に立つか、ユーザーに伝えることです。

有料の壁

コンテクスチュアルなアップセルメッセージに加え、ユーザーがアップグレードするまでは、特定の機能の使用を制限する必要もあるでしょう。

例えばSlackは、組み込めるアプリを最大10点に制限しており、さらに組み込むためには有料プランにアップグレードする必要があります。Slackワークスペースで11点目のアプリを追加しようとすると、すでに制限に達していることを伝える警告メッセージが表示されます。同様にDropboxでも、割当領域をすでに使い切っているユーザーがファイルを追加しようとすると、アクションを完了するにはアップグレードが必要なことが知らされます。

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これらの警告は、ユーザーにアップグレードを考えさせるきっかけとなるため、重要です。しかし、利用には注意が必要です。全ての価値を有料の壁に隠してロックしてしまえば、ユーザーはあなたの製品から興味を失ってしまうかもしれないからです。完全にブロックしてしまう前に、ユーザーに対しアクションを完了することの価値を理解させる必要があります。

アカウントアクティビティに基づくEメールまたは通知

有料サービスに関するユーザーの認知を作り上げることができたら、次はより直接的な接触を図る番です。ユーザーがそれまでにとってきたアクションに基づく、自動化された通知機能の構築を検討しましょう。目的がない、あるいは一般的なメッセージのみのEメールをユーザーに送るのは避けてください。その代わりに、ユーザーの過去のアカウントアクティビティを参照してアクションを促す、フォローアップメッセージを送りましょう。

例えばDropbox Businessは、トライアルのサインアップ手続きを中断したユーザーに対し、デスクトップ プッシュ通知を送っています。LinkedInはプロフィール閲覧に関する通知を送ることで、ユーザーがこの通知からさらに多くの情報を入手するためにアップグレードすることを促しています。

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機能へのエンゲージメントを忘れない

多くのメッセージを送る準備ができました。これらのキャンペーンを作成する際には、常にアップグレードに直接焦点を当てたメッセージである必要はないことを覚えておいてください。製品の最も価値のある機能を使う方向へと、ユーザーを向かわせましょう。そうすればそのうちにユーザーは、その機能の価値を見出し続けるために、最終的に料金を支払うことになるでしょう。

例えばSlackは、「アプリを閲覧」ページで追加アプリのオプションを宣伝し、それらがどれほど生産性を上げることができるのか、ユーザーに伝えています。このモジュールは、さりげなく10点までしかアプリを利用できないことを示唆しつつ、ユーザーが機能を探してお気に入りのアプリを追加するように促しています。

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ユーザーがSlackのアプリ インテグレーションの価値を学ぶきっかけとなる行動は、「物事をやり終えるためにアプリを追加」し、アプリ インテグレーション教育につながることです。しかし、ユーザーがアプリを追加するに連れ、このメッセージはマネタイズの方向にシフトし、「アップグレードして無制限のアプリを使う」に変わります。この時点でユーザーはすでに機能の価値を見出している可能性が高いため、コンテクスチュアルなアップグレードメッセージを送る準備ができているのです。最終的にユーザーが11点目のアプリを追加しようとする際に、タイミングよく有料の壁にぶつかります。

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最終的に、ユーザーはあなたの無料製品に十分な価値を見出し、有料版へのアップグレードの提案に十分な可能性を認めた時点で、お金を支払うでしょう。そのような機能を教育する機会を設けることが、無料から有料ユーザーへと導く道を作り上げるための鍵となることを忘れないでください。

ステップ3:テストと繰り返し

これで基本となるキャンペーンの準備ができました。次の段階は、初めて実施した一連のキャンペーンから学んだことに基づき、繰り返しながら継続的にキャンペーンを構築し続けることです。チャンネル、メッセージ、タイミング、ユーザーセグメントを実験し、何が最高のパフォーマンスをもたらすか確認しましょう。これをやり続けてください。完全に最適化されることは決してありません。

境界をテストする

この時点で、創造力を発揮することもできます。より積極的なアプローチをする準備が十分にできているのはどのユーザーで、まだ説得が必要なのはどのユーザーなのか、決めることができます。例えば、製品内の画面全体にかぶせて表示するメッセージは、あるユーザー群に対しては押し付けがまし過ぎるかもしれなくても、適格性の高いユーザーの心には響き、実際に製品の価値を見つけるスピードを早めるかもしれません。一方で、もっと説得が必要なユーザーに対しては、通常よりも大幅なディスカウントを提案することができます。その境界線を試行錯誤しながら理解し、最適化し続けましょう。

モデルをテストする – ハイブリッドを試す

最後に、あなたのフリーミアムモデル自体をテストすることもできます。無料サインアップ手続きを全て省略して、適格性の高いユーザーを直接有料ユーザーにすることを実験してみましょう。無料製品の代わりに無料トライアルを使うことで、製品の全機能を紹介することができ、ユーザーが自動的に有料ユーザーへ変わりやすくなります。この場合、真っ直ぐ有料プランに導くことで、ユーザーを最適なプランへとすぐに誘導することができ、最初に無料プランにサインアップさせるよりも利便性が高まります。

まとめ

ここまでで、私たちが気に入っているマネタイズのベストプラクティスを共有することができました。あなたにそれらを実践で試してもらうことに、わくわくしています。でもそれをお任せする前に、マネタイズ計画全体に関していくつか最後のアドバイスをしたいと思います。

無料と有料サービスが一緒になって機能する方法を理解する

あなたの無料サービスと有料サービスが互いに補完し合う方法について理解することが極めて重要です。無料は大抵の場合、有料の手前の段階ですが、無料と有料の間のカニバリゼーション(共食い現象)は、有料製品同士と同じように起こります。ユーザーの流れとセグメントを綿密に計画し、ユーザーに対して一貫性のあるメッセージを送り続けることが重要です。場合によっては複数のキャンペーンがきっかけとなってしまい、ユーザーが無料製品でやりたいことを完了すべきか、無料トライアルを始めるべきか、それともすぐにアップグレードすべきなのか、混乱してしまう可能性があります。

何よりも無料から有料へのファネルを一から計画し、理解すること

優れた無料製品を作り、「後でマネタイズの方法を考える」と言うスタートアップはめったにいません。それは失敗のためのレシピです。最初からマネタイズのロードマップと戦略を持つことが、どんなフリーミアムビジネスにも極めて重要です。あなたのユーザーは誰で、どのように彼らをマネタイズし、そしてライフサイクルやファネルをどのようにしたいか、常に作業仮説を持つべきです。マネタイズモデルの計画とテストには時間がかかり、最初に考えたモデルがうまく行くことはまずありません。長く待ち過ぎても、チャンスがそこにあるのにユーザーを混乱させてしまう危険性があります。あなたが自らの有料製品にどんな価値があるのか理解していなければ、ユーザーにも理解してもらえません。

さあ、後はあなたにお任せします。あなたの顧客ファネルを戦略的に計画し、私たちのキャンペーンのベストプラクティスに従うことで、フリーミアムビジネスの成功はもう目の前まできています。マネタイズの成功を祈ります!

 

これはClearBrain の Growth Playbook からの抜粋です。完全版はこちらにあります

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Monetize a Freemium Business (2018)

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