広告より大きくなるビジネスモデル: 製品戦略として複数の収益源を持つ (a16z)

少し立ち止まって、考えてみてください。過去24時間の間に、InstagramやFacebookなどでいったいいくつの広告を目にしたでしょうか。何回スクロールして、うんざりする気持ちになりましたか?もしそれが1日2~3回に制限されていたらどうでしょう?プラットフォームについて、感じ方がどのように変わるでしょうか?同様に、これまでいくつの有料サービス登録にサインアップしたり、キャンセルするのを忘れてしまったりしたか考えてみてください。もし購入の段階で、欲しいものだけ、指定した期間に限り購入する選択肢があったらどうでしょうか?この種の消費者のパワーは、今日の中国ネットユーザーにとって現実のものとなっています。中国のインターネット企業が、特にモバイル分野で、米国とは大幅に異なるビジネスモデルを採用したからです。

製品の成功とは、単によい製品を持つことだけではなく、適切なビジネスモデルを持つことでもあります。収益源の拡大は、自分が知っていること以上のことについて考え、新たなチャンスを拓く基礎を作るきっかけとなります。この記事では消費者向け娯楽アプリ(書籍、ポッドキャスト、動画、音楽)を例にとり、中国企業のさまざまなビジネスモデルと製品戦略について見ていきます。中国ではモバイル優先のコンテンツ消費に対する考え方により、新たなビジネスモデルが可能になりました。そのビジネスモデルは企業に多様な収益源をもたらすだけでなく、ユーザーもより適切で柔軟な購入意思決定をすることができます。

米国の状況

過去10年において、Google、Pinterest、Lyft、Spotifyといった大手消費者インターネット企業が、その何千億ドルもの市場時価総額で一躍有名になりました。それにもかかわらず、それらの大成功した企業もマネタイズ状況に関して言えば、興味深いことにその収益源はそれほど多様化されていません。事実、彼らの収益源はほとんどの場合、広告主導型か取引/有料登録主導型のどちらか1つに分類されます。収益はそれら2つのビジネスモデルのどちらかへ極端に偏っており、それが企業の製品開発に対する考え方に大きく影響しています。例えば、広告主導型の企業はエンゲージメントとアプリの使用時間の増加に重点を置き、取引主導型のサービスはチェックアウトに至るまでの障害をできる限り少なくすることに最適化されています。

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 簡単に言えば、米国におけるアプリは「訪問者数経済」か「お財布経済」のどちらかの一部なのです。

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 集中は企業にとって良いことですが、収益源に関してこのような1つのモデルだけへの集中は、長期的に見て最適な成長戦略と言えるでしょうか?また、おそらくさらに重要なこととして、そのような集中は消費者に対しベストな製品をもたらすことになるのでしょうか?

収入源の多様化について検討するのには、非常に説得力のある理由が存在します。広告以外への収入源の拡大は、人々の好みは変化するという単純な事実を考慮したものです。デジタルマーケティング専門家たちの推定によれば、アメリカ人は1日に約4,000~10,000の広告にさらされています。消費者にこれ以上の広告を押し付けられない水準というのがあります。それ以上増えれば広告の効果は低下し、より迷惑なものになります。実際にはメニュー上の1つの商品しか欲しくないのに、常に「ビュッフェ」のような購買メニューに目を向けさせられることに対し、消費者が次第に不快を感じるようになることもあります。

広告中心の世界と取引中心の世界を結びつけることにも、非常に強力な理由があります。広告会社の立場で想像してみてください。もし自分の会社の全ての広告が1クリックで取引につながるようになれば、広告主、ユーザー、プラットフォームの誰にとってもメリットがあります。商取引や有料サービスの会社であれば、コンテンツを追加し、ユーザーのサイト利用時間を増加させるような方法を見つけることで、より多くのマインドシェアを生み出し、事業分野を広げる際の顧客獲得コストを引き下げることができます。

新たなビジネスモデルとはどのようなものか?

コンピューターを買う余裕のない人が多いというのが主な理由で、中国ではパソコンやクレジットカードの普及がスキップされました。多くの人々にとって、最初にインターネットに触れた方法はスマートフォンでした。だから現在も、製品は単なる「モバイル優先」ではなく、多くが「モバイルのみ」なのです。モバイル決済が浸透し、中国はシームレスなデジタル社会になりました。

小さな画面に表示されるモバイル広告はより一層うっとうしさが増すことが理由の一部となり、今日の中国では他の収入源と比較して広告を重視する度合いが米国とはかなり異なっています。中国では競争環境が激化しているため、プラットフォームは同時に別の収入源を探したり、ユーザー体験を損なわずにマネタイズする方法を見つけたりするしかありません。例えば、うなぎのぼりの収益と非常に多様化した収入源を持つ消費者インターネット企業Tencentの収益を見てみましょう。クラウド/決済関連が前年比105%の増加、ソーシャルネットワーク向け付加価値サービスが47%の成長を見せているのに対し、広告からの収益割合は20%未満です。「広告でユーザーに負担をかけ過ぎるべきではありません」と、TencentのMartin Lau社長は昨年の第1四半期業績発表で述べています。その結果、WeChat Moments(FBのニュースフィードに相当)内の広告は1日2回だけに制限されています。Tencentがユーザー体験にそのような制限を維持できるのは、マネタイズの他の方法を持っているからです。その結果、最終的にユーザー体験が改善される可能性はかなり高いでしょう。

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モバイル上の製品がより洗練されるにつれ、コンテンツ消費に対し(広告だけにも取引だけにも頼らない)多様な収益源を持つビジネスモデルも同様に進化しました。この記事ではコンテンツの4種類のカテゴリーを取り上げます。そしてさまざまな分野の消費者アプリをケーススタディーとして使い、ビジネスモデルの違いだけでなく、そのようなビジネスモデルが最終的により優れたユニークなユーザー体験を作り出す様子を説明します。

書籍

米国では通常、いくつかある買い物の選択肢の1つとして、Amazonのウェブサイト上でデジタル書籍を購入します。会計の方法は、普通の買い物と同じ流れです。

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中国では、全く異なる方法で書籍を購入します。QQ Readingには(Kindle Unlimitedのような)有料購読サービスに加え、以下のような3種類の書籍販売の主要ビジネスモデルがあります:

  1. 有料ブックでは、ユーザーは該当する本の最大2/3を無料で読むことができます。読者は最後のページまでロックを解除する前に、その本に夢中になる時間が与えられるのです。もしこのサービスが米国で提供されたら、読み始める本が何冊増えるか考えてみてください!
  2. 本は1口サイズのお菓子のようにも販売されます。たいていは連続物の作品に対し、読者は1,000文字ごとにお金を払います。下に示したのは、2014年から続く最も人気のある本の1つ、『一世倾城』のスクリーンショットです。この作品には10,000以上の章があり、未だに更新され続け、今では『ハリー・ポッター』シリーズ全巻の46倍以上の長さになっています。著者は各章を少しずつ公開できるため、読者の反応を取り入れてすぐに筋書きを変えたり、登場人物を殺したりさえできます。

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  3. 著者の中には無料の本やイラストを提供する人たちもいます。それによりまずロイヤルユーザー層を獲得して、その後でチップを通してお金を回収するのです。各章の最後に著者へチップを送るためのボタンが重ねて表示され、読者は最低0.15ドルからチップを送ることができます。

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また、より魅力的なユーザー体験を作るために、ソーシャルな要素とゲーミフィケーションも結び付けられます。別の中国文学読書アプリの1つWeReadでは、ユーザーが週間スコアボード上でWeChat上の友だちと読書時間を競い合います。それは単なる自慢のためのものではありません。ユーザーは読書30分ごとにクレジットを稼ぐことができ、それを使ってより多くの本を読むようになります。

中国では検索機能もより一層複雑で洗練されています。詳細で多くの変数を持つ高度な検索オプションを使って単にベストセラーを探したり、カテゴリーで並べ替えたりできるだけではありません。検索の目的は結局のところ発見です。中国の書籍プラットフォームは、顧客がお金を払ってでも読みたいと思う本を正確に見つけられるように、より多くの情報を提供する方法を見つけ出します。例えば、ユーザーは男性または女性読者層、物理的な出版、あるいはオーディオブックなどの項目でフィルターをかけることができます。そうして、最新人気上位、新刊上位、年間上位、検索上位、最も多くのチップが払われた無料ブック、最初から最後のページまで読まれた回数などでカスタマイズした「まとめリスト」を閲覧することができます。それらのリストは週間、月間、全期間で並べ替えることも可能です。

重要な点として、中国のそれらの書籍プラットフォームは、大手出版社の本と、有望な著者の自主出版本とを一緒に扱います。そのため米国と比べた中国での書籍販売方法について検討することは、電子書籍プラットフォームの見直しだけでなく、出版業界の重要な見直しでもあるのです。中国における本の購入は、プラットフォームにとって1度きりの取引ではありません。ソーシャルメディアやゲーミフィケーション、強化された発見の要素も含まれており、最終的にはより多くの販売を促進する体験を作り出しています。それらは全てうまく行っているように見えます。中国の電子書籍業界は2016年から2017年にかけて35%以上拡大しました。同時期の米国における同じ業界は、正反対の傾向を示しています。

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ポッドキャスト

ポッドキャスト『Serial』は、2014年10月に始まった最初の3ヶ月のシーズン中に4,000万回ダウンロードされました。この幅広い成功を収めた『This American Life』のスピンオフが得られたであろう広告収入は、1,000ダウンロードごとに25ドルの業界標準に従えば、おそらく最大100万ドルに達した可能性があります。しかしその報酬率はポッドキャストがこれほど成功するとは誰も知らなかった時期に交渉されたため、収入はもっと少なかったかもしれません。

ポッドキャスト初の大ヒット」と見なされているにもかかわらず、その収益はセカンドシーズンの制作コストを賄うことができませんでした。主催者でエグゼクティブプロデューサーのサラ・ケーニッヒ氏は、エピソード9配信中にリスナーに対して寄付の依頼を始めました。その結果1週間もかからずに、続編の制作を確保する十分な額の寄付が殺到しました。しかしそれにもかかわらず、米国史上最も成功したポッドキャストでさえ、広告だけでは巨額予算のポッドキャストの継続的な制作に対応できないという事実が残りました。

2017年の米国におけるポッドキャスト市場は、全体で3億1,400万ドルでした。その全てが広告収入です。一方、中国における有料ポッドキャスト市場は30~50億ドルと推定され、多くの個人ポッドキャスターが億万長者になっています。その違いは人材ではありません。ビジネスモデルの違いです。

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中国では多くのポッドキャストが広告だけに頼る代わりに、エンドユーザーから料金を徴収しています。中にはプラットフォームの有料登録サービスの一部になっているポッドキャストもありますが、ユーザーは常に個々のポッドキャストに対してお金を払う選択肢を持っています。人気のポッドキャト配信アプリXimalayaの次のスクリーンショットは、ユーザーの声を改善することだけを目的としたポッドキャストのものです。このポッドキャスト講座は30以上のエピソードで構成されており、約17ドルの料金がかかります。この講座は1,500万回以上聞かれ、100万ドルを超える収益を生み出しました。

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デジタルブックと全く同じように、無料のポッドキャストはいくつかの方法でマネタイズされます。中には米国と同じくスポンサーや広告に頼るポッドキャストもありますが、ポッドキャスト主催者はチップも受け取ることができます。このチップをポッドキャスターとプラットフォームが分け合います。次の例では、チップの選択肢は0.3ドルから21ドルまで幅があります。この新たなモデルは、誰もがお金を稼げることを意味します。そしてコンテンツ作成者はより多くの資金を得て、質の高い制作やコンテンツに投資することができます。このモデルでは全員が勝者です。

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オーディオプラットフォームのDedao(「iGetGet」)は、基本的にMOOC方式を採用し、それをポッドキャストに適用しています。下に示したのは、北京大学の2人の経済学教授です。左側のXue Zhaofeng教授は、自身の一連の経済学ポッドキャストにより1年で800万ドルを稼ぎ出し、実際に辞職しました。右側の教授は金融リテラシーと資産管理技術に関する自身のポッドキャストで、合計500万ドル近くを売り上げました。

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規模やビジネスモデル以外に、これら中国のポッドキャストプラットフォームを西洋のプラットフォームと差別化しているものは何でしょうか?書籍プラットフォームと同様に、それらのアプリはソーシャルな要素とゲーミフィケーションを通してユーザーを獲得しているのです。Ximalayaはレベル判定のコンセプトを持っており、ユーザーはアプリ内で視聴したりお金を使ったりすることで「レベルアップ」します。そして有料登録サービスを利用するためのクーポンや、期間限定の会員権さえ獲得することができます。Dedaoは学習をベースにしたソーシャルネットワークを主催しており、ユーザーは公開プロフィールを作成し、講座ノートを共有したり比較したりすることができます。またユーザーは各ポッドキャスト番組の最後で、公開質問やコメントを残すこともできます。

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DedaoやXimalayaのようなポッドキャストプラットフォームを研究することで、米国のポッドキャスト市場が広告を超えて進化し、最終的にポッドキャスト制作者がより多くのお金を稼げるようにする方法について洞察を得ることができます。米国には広範囲にわたる専門家ネットワークが存在しますが、まだ活用も十分なマネタイズもされていません。その原因は人材不足ではなく、あまりにも単純なビジネスモデルにあるのです。

動画

米国で最初に動画をクリックした時に目にするのは、たいていYouTubeのものです。マネタイズはプレロール広告、ディスプレイ広告、すきま広告を通して達成されます。広告は通常、動画コンテンツとは連動していません。

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中国の場合、大手動画サービスの1つで、BaiduからスピンオフしたiQiyiは、AIと機械学習を使ってコンテンツ内で起こっていることを把握し、関連する広告を再生します。例えば下に示した若いビジネスウーマンが口紅を塗るシーンでは、iQiyiは化粧品ブランドを販売促進する広告を流します。このようにしてプロダクトプレイスメント広告はより一層価値を増し、一般的には広告が少しだけ受け入れられやすくなります(スクリーンショットはAd+ Homeからのもの)。

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また、iQiyiのビジネスモデルは広告以外にも、たくさんの収益戦略を持っています。(実は同社の収益に占める広告の割合は50%未満です)。iQiyiは8,000万人以上のVIP会員を抱えていますが、会員制度は絶対的な有料の壁になっていません。その代り、会員は割引クーポンや広告の非表示の他、最大12話の最新リリースを先に見られるなどの特典が与えられます。iQiyi上の動画の一部は会員限定です。非会員はそれらの動画の最初の6分だけ見ることができ、その後、会員登録して残りを「ロック解除」するかどうか、またはアラカルトで動画にお金を払うかどうか決めることができます。VIP会員制度はアクティブなユーザーに対して特典でリワードを与え、プラットフォームとのエンゲージメントを維持します。その結果、ユーザーは必然的により多くのお金を使うことになります。

またVIP会員制度には、セレブや人気番組がベースとなったアプリスキンを独占的に利用できる特典もあります。下のスキンはiQiyi制作の『Sing! China』のもので、全てのナビゲーションボタンが指導者/審査員の顔に置き換えられています。

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iQiyi上でユーザーは、下に示したDairy QueenやBurger Kingの「もう1つ無料」クーポンなどのデジタルクーポンをクリップすることができます。YouTubeで映画を観ていて、ピザやホットウィングが食べたくなってきたところを想像してみてください。そんな欲求も即座に実行に移すことができるのです。

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iQiyiの閲覧画面は下に示したようなものです。ライブコメント、賞品のシェア、GIF画像の作成の他、携帯電話のデータプランを補充する機能さえあります。ユーザーはより高品質の音声や動画を利用するため、VIP会員へのアップグレードに誘導されます。ページがごちゃごちゃし過ぎていると感じるかもしれません。ソーシャルメディアで共有するコンテンツさえ作成できる、より進んだ体験と主張する人もいるでしょう。もし画面がうるさ過ぎると感じたら、タップするだけで設定のオーバーレイ表示を隠すことができます。

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多くの番組や映画で、ユーザーは閲覧しながら関連アイテムを購入することができます。動画を止める必要はありません。『Rap of China』の閲覧者は鑑賞しながらBeatsのヘッドホンを購入でき、『The Great Wall』を観ているユーザーは映画に没頭しながら特製の映画関連グッズを買うことができます。

iQiyiの中には構成要素としてソーシャルネットワークさえ完全に組み込まれています。ユーザーはお気に入りのセレブのファンサークルに参加し、有名人の最新ニュースやゴシップについてチャットすることができます。このプラットフォームには豊富なコンテンツが集約されており、番組や映画、ソーシャルメディアを閲覧したり、今後の交流会イベントを調べたり、ニュースを読んだりするためのポータルとして利用することができます。

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iQiyiの中に組み込まれたこのソーシャルネットワークは、セレブニュースのためだけのものではありません。iQiyiの人気コンテンツや娯楽に関するあらゆる話題に基づく、100以上のファンサークルが存在します。そしてソーシャルネットワークから得られる情報は、登場人物のキャスティングや台本の評価、番組の成功予測などの方法に関するデータをiQiyiにもたらすのです。このソーシャルネットワークによりアプリを開く回数が160%増え、毎日の平均閲覧時間も24%増加しました。

またiQiyiのビジネスモデルは、最近公開した「オンデマンド映画館」により現実世界にも広げられました。席数が2~10しかないそれらのミニチュア映画館は時間単位でレンタル可能で、iQiyiのライブラリーにあるあらゆるコンテンツを鑑賞できます。これにより、従来の映画館体験をストリーミング配信時代の最新の体験に変えています。

iQiyiの広範囲にわたるビジネスモデルは、多様な製品戦略と多様な収益源をもたらしました。下のグラフは2018年度上半期の収益分布を表しています。会員権と広告がデッドヒートを演じています。

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しかし、この競争も長くは続きませんでした。2018年第3四半期には会員権が収益の41.2%を安定して確保し続けた一方で、広告は34.6%に落ち込みました。iQiyiは5億人の総ユーザー数のうち8,000万人以上の有料会員を抱えています。そしてその広範なビジネスモデルと多様な収益源の重視により、全てのユーザーを上手くマネタイズすることができるのです。

音楽

米国では月間登録料を支払うSpotifyや、時々広告が流れる無料のオンラインラジオがお馴染みです。では、音楽配信プラットフォームを採用し、それをソーシャルなライフスタイルアプリに変えたら何が起こるでしょうか?

Tencent Musicは、中国の音楽業界がどれだけ全体のビジネスモデルを再考したか示す、非常に良い例です。まず始めに、人気アーティストはたいてい新曲発売時に、期間限定の配信ブロックを設けます。その期間中、ユーザーはバーチャルアルバムを購入したりプレゼントしたりすることで、独占アクセスを得ます。2年前にポップシンガーのJay Chouは、自身のアルバム『Bedtime Stories』への期間限定アクセスを3ドル未満で販売しました。Tencent Musicはファン同士の競争を促進するため、ファンのアルバム購入回数を表示するスコアボードを作りました。そして1番になったユーザーがそのアルバムを購入した回数は400回以上になりました!

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しかしながら、スコアボードで1番にならなくてもメリットはあります。例えばJay Chouのアルバムを3回購入したとすれば、スコアボードのランキングは3,913位だったでしょう。でもご心配なく。サイン入りポスターやVIP会員権、Jay Chouのスリーピングマスクが当たる抽選券が3枚もらえました。この種のゲーミフィケーションやリワードシステムは平均的なファンを大ファンに変え、崇拝するアーティストとのより深いつながりを生み出します。

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Tencent Musicプラットフォームはファンのロイヤルティを上げ、アーチストに対しては規模を問わずアーティストマーケティングを向上させる、上記のような手法をいくつも持っています。iQiyiと同様に、ユーザーは少額の料金を払ってアプリにスキンをかけることができます。米国でも自分のメディアアプリにスキンをかけるため少額の料金を払おうとする、グレイトフル・デッド、ジャスティン・ビーバー、テイラー・スウィフトの熱狂的ファンたちがたくさんいることが想像できます。

また、まだ有名でないアーチストや中堅どころのアーチストが記事を投稿できるソーシャルネットワークもあり、ファンがニュースやミュージックビデオ、舞台裏の話などにアクセスできます。それによりアーティストは自身の話題をより多くシェアすることができ、ファンはより深いロイヤルティを育てます。西洋の音楽プラットフォームでは、アーティストは簡単にはこの種のファンの支援を得られません。

もしライブミュージックに興味があるなら、Tencent Musicアプリはそのための機能も備えています。このアプリはコンサートやイベントのためのハブになることを目指しており、アプリ内で直接コンサートチケットを購入できます。直にコンサートへ行けない場合は、ライブ配信を見ることもできます。下のスクリーンショットは、3,600万回以上閲覧されたTFBOYSのコンサートのライブ配信のものです。

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Tencent Musicにはゲーミフィケーション、ソーシャルラジオおよびソーシャルシンギング、ライブコンサート用のスコアボードの他、情報発見用にTMZタイプのポータルまであります。要するに、リスナーが音楽やアーティストにエンゲージするための方法がたくさん用意されているのです。しかしながらその他全てのプラットフォームとの最大の違いは、同社が音楽を聴いたり消費したりすることだけではなく、コンテンツを作り出し、ユーザーがお金を稼げるようにすることを重視しているという点です。誰もが音楽アプリ内でオンラインラジオ局を作ったり、自身のプレイリストをまとめたりすることができます。主催者は曲と曲の合間に話を挟んだり、歌詞を解説したりします。優秀な主催者はデジタルギフトの形でリスナーからチップを獲得し、その収入の30%が自分のものになります。

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Tencent Musicの他のフラッグシップアプリWeSingでは、ユーザーが自分のカラオケルームをライブ配信したり、カラオケを歌いたい誰かにフロアーを開放したりできます。歌い手はチップ収入の30%が得られます。それは楽しくてソーシャルな方法であり、プラットフォームと顧客の双方に多くの収入をもたらします。

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最後に、Tencent Musicはオフラインでもビジネスを展開しています。同社はマイクやヘッドホンを売っているだけではなく、ショッピングモール内に何百ものミニカラオケブースを開いています。ブースには椅子、カーテン、ヘッドホンの他、空調まで完備されています。ユーザーはブースの中で楽しい時間を過ごし、携帯電話には歌っている姿の録画が送信されます。(下の画像はジャーナリストZhang Cenyu氏から提供された、競合他社Minikのカラオケブースです)。

f:id:foundx_caster:20191106041304p:plain このようなきめ細かなビジネスモデルにより、それらライブ配信サービスからの収益(ラジオやカラオケに対するチップ)が実に70%を占めるようになりました。有料登録からの収益が90%を占めるSpotifyのビジネスモデルとは正反対です。全体で見れば、Tencent Musicのビジネスモデルは音楽を単独で消費する商品から、共有可能なライフスタイル体験へと変えているのです。

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米国はどこへ向かうのか?

中国では収益源多様化の新たな方法を見つけ出したことで、それらの企業にはたいへん興味深い製品イノベーションがもたらされました。米国でも同じ種類の考え方が生まれ始めています。Amazonは私のお気に入りの事例の1つです。Amazonはコンテンツと広告により力を注いでおり、閲覧者の購買履歴に基づく広告を売るその能力が、同社の広告を途方もなく価値の高いものにしています。例えば、コカ・コーラは今ではペプシを購入した人にだけ広告を表示することができるのです。

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Buzzfeed(a16zのポートフォリオ企業)のCEO兼創業者Jonah Peretti氏は、この変化を理解しています。「当社は基本的に単独の、非常に独特な収益源を土台にビジネスを構築する能力から脱却しました」と、Peretti氏は最近述べました。これまでニュースを配信して広告でお金を稼ぐメディア事業を展開してきたBuzzfeedは、2017年後半に多様化を進める発表を行いました。同社はWalmartおよびJetと提携し、シームレスな購買環境でブランド物のキッチン用品を販売しています。

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同社の新たなビジネスモデルは3×3の格子(下図)で表され、その中でBuzzfeedと関連ブランドが「広告」「商取引」「動画エンターテイメント」の3つの中核となる収益源から利益を得ます。Jonahは2019年までに同社収益の半分が広告以外からもたらされるようになると予測しています。

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「だけ」を超えて

過去において、収益はしばしば製品の素晴らしさの結果と考えられていました。中国の研究は、単に既存の収益ラインを拡大するのではなく、いかに収益源を拡大するかが、製品思考を推進するための視点であることを説明しています。「広告だけ」や「取引だけ」を超えた収益源多様化のためのこのアイデアは、あらゆる種類の分野に適用することができます。将来に備えたビジネスモデルを採用したり組み入れたりするために、次の方法について検討してみましょう:ライドシェアを後押しするための広告、電子商取引を推進するためのライブ配信、インフルエンサーによるレビュー、および期間限定プロモーション、より健康的なライフスタイルを促進するためのゲーミフィケーション。1つだけのビジネスモデルから離れてそれらの方法が広がれば、製品やサービスはどれほど楽しさが増すでしょう。

歴史は私たちに、全ての大手企業がビジネスモデルを移行できるわけではないことを教えてきました。現在の一連のインターネット企業は、広告や取引への依存度を下げ、より個人向けにカスタマイズされたユーザー体験へと飛躍できるでしょうか?これまで述べてきたことの全てを考慮すると、おそらくFAANGは多くの人が考えているよりも脆いかもしれません。

収益源の拡大は私たちに知っていること以上のことを考えさせるだけでなく、新たなチャンスを追求するための基礎を作らせる力にもなります。結局のところ、収益はあなたの会社が顧客に対してどのようにサービスを提供しているかの裏返しです。収益源の多様化と、そのための新たな方法の実験をすることで、顧客が望んでいるものを、望んでいる方法で提供する能力を効率的に磨いていることになるのです。

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製品戦略としてのビジネスモデル。広告と取引が衝突する時に何ができるのか想像するのは、わくわくすることです。

調査を手伝ってくれたAvery Segalに感謝の気持ちを贈ります。

 

著者紹介

Connie Chan

Connie ChanはAndreessen Horowitzのジェネラルパートナーで、消費者向けテクノロジーへの投資に注力しています。2011年に投資チームのディールパートナーとして当社に入社し、その間、マイクロモビリティ企業のLimeをはじめとする数多くのコンシューマーテック案件のソーシングおよびデリジェンスに従事しました。2018年にジェネラルパートナーに就任して以来、オンラインイベントプラットフォーム「Run the World」や音声学習プラットフォーム「Knowable」への投資を主導。また、KoBoldの取締役も務めています。

コニーは中国の消費者技術の動向を熟知しており、トレンドがアジアから西洋諸国へとどのように変化していくのかを翻訳する専門家として活躍しています。

Andreessen Horowitz に入社する前は、HP で中国における webOS の取り組みを指揮していました。Elevation Partners でプライベート・エクイティ投資家としてキャリアをスタートさせ、メディアやエンターテイメントに投資しています。

LinkedIn NextWave Top Professional 35 and Under、WiredのNext 20 Tech Visionary、Fast Company Most Creative People 2017に選出されています。コニーはWeChatに関する執筆でシドニー賞を受賞し、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーとして活躍しています。コニーはスタンフォード大学で経済学の学士号と経営科学と工学の修士号を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Outgrowing Advertising: Multimodal Business Models as a Product Strategy (2018)

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