プロダクトの進化 (Sequoia Capital)

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。原文: Evolution of a Product

目次

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製品は時間をかけて成長します。初期段階の製品がもつ特性は成熟段階のものとは大きく異なります。強い製品の場合、成長していく段階はS字カーブに似ているのが普通です (図1を参照)。「初期」段階において成長は控えめかつ、ゆるやかに進みます。その後、「成長」段階中には傾斜が上向きに弧を描くように成長が加速します。これに続くのが「超成長」段階です。この期間中は飛躍的な成長が見られます。成長が最大にまで達すると、成長率は徐々に弱まって製品は「成熟」段階に突入します。この期間中、成長率はゼロか、それに近い数字となります。

これから、皆さんが自社製品に対する予想を立てる手助けとなるように、各段階の変遷過程を解説していきます。注意しておきたいのは、消費者向けビジネスはエンタープライズ向けビジネスと比べると、これらの段階をはるかに短時間で進む傾向があるということです。例えば、「Google検索」はほんの数年であの規模を達成した一方、「Google Apps for Domains」は数年後も成熟化が進んでいきます。

初期段階

新製品の立ち上げ時、人々がそれを皆さんの予想どおりに使うかどうかを知るのは困難です。最初の目標は、製品のことを愛してくれると仮定した数千人にその製品を採用してもらうことです。ただ好きなだけのユーザーが大勢いるよりも、愛してくれる人が少しいる方が好都合です。立ち上げからおよそ1カ月間は大勢のユーザーが真新しさからその製品を試してくれるでしょう。それを気に入ってアーリーアダプターとなる人もいますが、一方で去っていく人も出てきます。

この段階中はデータが不足します。そしておそらく、皆さんが手にしているデータは信頼性が低いか、その製品の長期的な将来像を反映していないものです。月間アクティブユーザー (MAU) 全員が同時に新規ユーザーでもあり、離脱 (churn) や復帰 (resurrection) は存在しません。(注意: 一定期間中の合計アクティブユーザー数は継続ユーザー、復帰ユーザー、新規ユーザーの合計です)

2か月目にこの状況が変わります。復帰ユーザーはまだいませんが、1か月目のユーザーが離脱していくのが見え始めます。3か月目には、新規ユーザー、離脱ユーザー、復帰ユーザーの間でバランスが生じ始めます。復帰は少なく、新規ユーザーが依然として最大要因ではあるものの、離脱が重大な影響を与え出します。前月比でのユーザー純増数は「Quick Ratio」によって全て決まります。「Quick Ratio」は「(新規ユーザー + 復帰ユーザー) / 離脱ユーザー」という式で求められます。

図2はある集団の中の復帰ユーザーが時間をかけて減少し、横ばいになる様子を示しています。初期では離脱が復帰を大幅に上回ります。このギャップはカーブが水平になるにつれ、徐々に狭まっていきます。(注意: 弱い製品の場合、このカーブが横ばいにならず、最後にはゼロになります。これに対して強い製品の場合、カーブは上昇を始めて最終的には横ばいになります。)

初期段階では、離脱が復帰をはるかに上回り、新規ユーザーがMAUに対して重大な影響を与えます。継続ユーザー曲線の平坦化が意味するのは、その製品が離脱と復帰の間でバランスを取っているということです。

初期段階における健全な製品
  • その領域で同じくらい普及している同種の製品と比べて継続ユーザー群が強くなります。
  • その製品に心の底からほれ込んでいるユーザーのグループが存在します。これは非常に高い定着率という形で反映されます。
  • 新規ユーザーがアクティブユーザーの中で占める割合が最大となります。

成長段階

初期段階の終わりまでに、その製品は日常的に使い始めている数万人によって採用されているかもしれません。しかし、これは必ずしも製品が市場に適合していることを意味しません。次にその製品を採用する数十万人のユーザーは誰か、そしてその人々に応じるためにはどんな変更を加えるべきかについて考えることが重要です。

初期段階では、「実現可能な最大の市場規模」(Total Addressable Market) に対して普及率が低く、製品はゆっくりと成長していました。今ここで成長段階 (図3を参照) に入ると、皆さんが製品を市場へ適合させるのに成功し始めるにつれて、成長が加速 (新規ユーザー群の規模が増加) します。何か素晴らしいことが起きているように感じられます。ユーザーはその製品の中に価値を見いだし、その製品に戻ってきます。

アクティブな継続ユーザーが増加するにつれて、新規ユーザーのMAUに占める割合は小さくなります。ゆっくりと、しかし確実に、その製品の市場浸透が増え始めます。古参の集団内では復帰と離脱の間でバランスが取れているため、定着率が安定しますが、新参の集団内では離脱が復帰をはるかに上回り続けます。古参の集団がユーザー全体でより大きな割合を占めているため、復帰数全体は離脱数に対して (復帰数の方がまだ少ないものの) 伸びていき、MAUに対して重大な影響を与え始めます。この段階中、アクティブユーザー全体にとって圧倒的に重要なのは継続ユーザーです。

成長段階における健全な製品
  • 古参集団での定着率曲線が横ばいになります。場合によってはわずかに向上する可能性もあります。
  • 新規ユーザー数が総ユーザー数に占める割合が減っていきます。
  • 離脱数全体は復帰数よりも高いままですが、これは主に最も新参の集団がけん引しています。
  • エンゲージメントの指標が強くなります。

超成長段階

これまで開発されてきた最高レベルの製品の多く (例えばFacebook、Instagram、WhatsApp、Amazon、Netflix、Uber、Evernote) にはある一つの共通点があります。すなわち、「超成長」段階です。この段階中、新参の集団について、同じ時間枠のこれまでの集団のものと比較すると、1か月 (M1) の定着率水準が上昇し始めています。したがって、復帰の離脱に対する比率が改善します。これは通常、次に挙げるどちらかのタイミングで始まります。1) 実現可能な最大の市場規模に対し、一定レベルの普及率に到達したとき。 2) その製品がかなり有名になったとき。それに加えて、この段階中に古参集団の復帰数がより巨大になり始め、離脱数が減り始めます。図4で示されるとおり、新参と古参、全てのユーザーがその製品に価値を見いだします。

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この期間中は、復帰が離脱を上回り、その製品の新規ユーザーが増え続けるため、MAUが劇的に伸びます。これにより、前年比成長率は会社がそれまで経験した中で最も急激なものになるかもしれません。L5+/7、セッション数、MAU / DAU (日間アクティブユーザー数) など、あらゆるエンゲージメント指標が強くなり、その製品は市場への適合性と規模の両方を獲得しています。

超成長段階における健全な製品
  • 古参集団の定着率曲線が向上します。
  • 復帰が離脱より大きくなります。
  • エンゲージメント指標がかなり強くなります。

成熟段階

盛大な超成長段階を終えると、その製品は成熟段階に突入します。その間、実現可能な市場規模に対する普及率が高いレベルに到達します。また、新たに加わる残りユーザーもわずかとなります。この段階では、製品はもはや成長していきません。古参と新参など、あらゆる集団で復帰と離脱の安定したバランスに到達しています。そして、集団レベルでは継続ユーザーの合計数がアクティブユーザーの総数と等しくなっています。この段階では、継続ユーザーの総数がアクティブユーザーの総数に占める割合も大きくなっています。また、復帰数と離脱数がアクティブユーザーに占める割合も小さくなります。

成熟段階における健全な製品
  • 復帰と離脱のあいだでバランスが取れています。
  • 新規ユーザー数は継続ユーザー数と比べて極端に小さくなっています。
  • エンゲージメント指標は非常に高いレベルに保たれています。

製品ラインの拡大

成熟に達した後の製品で成長を続けるためには、製品ラインを多様化させて実現可能な最大の市場規模を拡大させなければなりません。これはつまり、新市場への参入や新製品の立ち上げなどを指す場合もありえます。

次のことを自問してみください。次なる数百万人の製品ユーザーは誰になるのでしょうか? 現在その製品を使っていない国のうち、それから恩恵を受ける可能性があるのはどこでしょうか? どんな新機能があれば、そのセグメントにおいてその製品が更なる価値を得られる可能性がありますか? これらを達成するためには、製品を市場に適合させるためのアプローチを考え直す必要があるかもしれません。

図5に示されるとおり、さらなる製品の成長や新たな環境における成長は再びS字カーブをなぞることになります。つまり、まずはゆっくりと成長し、次に加速・急増して飛躍的な成長率を達成しつつ、最終的には飽和状態に達します。多様化することで、S字カーブを重複させて成長の継続が実現できます。

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例として、Netflixの軌跡を考えてみましょう。この企業は2007年、アメリカでストリーミング製品を始動させました。そして2010年に超成長段階へと突入しました (図6を参照)。この時、Netflixの上層部はすでに国際的な拡大に向けたインフラの構築を開始しており、そのプラットフォームは2010年の後半に他国でのサービスを正式に開始しています。数年後にアメリカでの成長率が成熟に達するまでには、国際的事業 (それ自体、S字カープを連続で重複させています) がNetflixの契約増加数の大半をけん引していました。Netflixと同じく、ほとんどの企業は最初の製品が成長段階に入った時点で製品とそのすぐ周辺の事柄について積極的に考えていくべきです。二の矢を放つのが遅れれば (あるいは何も放つことができなければ)、成長は妨げられるでしょう。

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意味のある指標

かいつまんで言うと、上記のセクションまでは意味のある指標と時間枠が選ばれていることを前提としています。この二つは成長を適切に把握するために重要です。新規ユーザー数、離脱ユーザー数、復帰ユーザー数という成長に寄与する3要因同士のバランスを検討する際、指標と時間枠という要素が強く影響を与えます。

例として、2つの極端な状況を考えてみましょう。仮に製品を使用している人数を1分ごとに記録した場合 (分間アクティブユーザー数)、導き出される離脱数と復帰数は膨大に、ユーザー数もかなり大きくなり、新規ユーザー数は小さくなるでしょう。一方、製品を使用している人数を1年ごとに記録した場合 (年間アクティブユーザー数)、離脱数と復帰数はアクティブユーザー数の中ではるかに小さな部分となるはずです。対照的に、継続ユーザー数と新規ユーザー数はそのアクティブユーザー数の中でかなり大きな部分を占めることでしょう。

要点のまとめ

  • 成長の段階はS字カーブに似ています。また、そこには「初期」「成長」「超成長」「成熟」の段階を含みます。
  • 初期では新規ユーザーが成長に最も大きく寄与するとともに、離脱が復帰を上回ります。
  • 製品が成長して市場浸透率が増え始める頃、新規ユーザーは引き続き純成長にとって最大のけん引役を果たします。一方、復帰数がより重要になります。また、古参の集団では復帰と離脱のバランスが取れてきます。
  • 超成長段階では、古参集団で定着率が向上するとともに、復帰が離脱をしのぎます。
  • 製品が市場へ完全に浸透し始める頃、復帰と離脱の間でバランスが生じ、新規ユーザーの成長に対する寄与は無視できるほどわずかになります。
  • 複数の製品ラインという形での多様化は持続的な長期成長を達成するうえで重要です。

この記事はSequoia Capitalのデータサイエンス・チームが制作しました。この記事の寄稿者はJamie Cuffe、Avanika Narayan、Chandra Narayanan、Hem Wadhar、Jenny Wangです。ご質問、ご感想、その他のご意見がございましたら data-science@sequoiacap.com までメールをお寄せください。

 

著者紹介 

Sequoia Capital (Medium)

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