ストーリーテリングを通してプロダクトを理解する (Sequoia Capital)

f:id:foundx_caster:20191125014606p:plain

導入

24億!この数字だけを聞いたあなたは、たとえば収益や人口といった、何か大きなことが話し合われているのだろうと想像するでしょう。数字だけではあまり多くのことは分かりません。もっと情報が必要です。

2019年第1四半期のFacebookの月間アクティブユーザー(MAU)が24億人だったとしましょう。Facebookのユーザーはどのくらいの速度で成長しているのでしょうか?Gmailやスナップチャットのような他のソーシャル製品のMAUは何でしょうか?実際のところ、24億MAUとはどういう意味でしょうか?測定基準が現れた瞬間、私たちは数字の意味を理解し始めることができるのです。

このようなことは私たちの人生のあらゆる場面で起こっています。あなたは職場に午前8時に着いたばかりです。職場は活気に溢れています。すでに仕事を始めている数人の社員がいて、オフィスには他にも人々が入り込んでくるのが見えるでしょう。人々が着ている服の色や種類を観察し、人々のおしゃべり、後ろで鳴っている電話の呼び出し音に耳を澄まします。焼きたてのドーナッツの匂いが漂ってきました。これらの情報によって、周囲の世界は構築されます。あなたは、無意識のうちに多くの情報を絶え間なく取り込んでいます。ドーナッツの匂いがすれば、朝食が出されるであろうことが分かり、普段は早めに出社している社員がいなければ、病気にでもなったのかと思うでしょう。もしかしたら何かウイルスが流行しているのかもしれません。私たちは断片的な情報をつなぎ合わせて、意味のあるストーリーを作り上げるのです。意味をなさないストーリーは常に拒否され、論理的に筋の通ったストーリーを私たちは好みます。

データは量的、質的のいずれかです。私たちはこれらのデータをつなぎ合わせ、それを論理的でまとまりがあり段階的なストーリーとし、それを意思決定に役立てます。このようにストーリーの構築は、データに基づいた製品構築において強力な手法となります。私たちが目標やロードマップ、そして戦略を定める上で、このようなストーリーが、製品開発の場で何が起こっているのかを深く理解するのに役立ちます。またストーリーは、収益の変化などの現象を深く理解し、その要因を特定するのにも役立ちます。この文章では、ストーリーテリングの力を利用して優れた製品を構築する方法について説明します。

製品のストーリーを語る

では、ストーリーテリングはデータやメトリクスを見たり、製品がうまくいっているかどうかを実際に理解したりする上で、どのように役立つのでしょうか。ケーススタディーとして、さまざまなチャンネルからユーザーの写真を集め、それを使って思い出を共有するスマートフォンアプリを見てみましょう。

まず、一つの情報から始めましょう。米国における2014年3月から2015年5月までのAndroidデバイスの月間アクティブユーザー数です。図1は、この期間にアクティブユーザー数が増加したことを示しています。2015年5月現在、同アプリの月間アクティブユーザー数は約300万人で、一見したところ、このカテゴリーのアプリにしては妥当な数字ですが、図1はユーザー数の伸びが頭打ちであることも示しています。追加の情報がなければ、製品がうまくいっているかどうかを知るのは難しいでしょう。

f:id:foundx_caster:20191125014801p:plain

図1

さらに、毎日のアクティブユーザーと毎月のアクティブユーザーの比率もわかっているとしましょう(DAU/MAU)。このデータにより物語はより洗練されます。図2によると、DAU/MAUは70%前後で推移しており、これは平均して毎月約21日の頻度で利用されていることを意味します。これは、非常に少数の製品でしか見られない優れた契約率です。実際、これはWhatsAppとFacebookのDAU/MAU比とほとんど同じです。

f:id:foundx_caster:20191125014855p:plain

図2

これら二つの指標を見た後では、この製品のストーリーは非常にうまくいっているように思えます。300万人の人々がほぼ毎日この製品を使っているのです。このようにDAU/MAU比が高いことから、この製品の日々の継続率も非常に高いことが推測されます。

この主張を検証するには、製品の30日間(D30)継続率をプロットします。これは、ユーザーが製品を使い始めてから30日間、継続して使用している割合を示すものです。図3を見ると、この製品のD30継続率はかなり安定しており、高DAU/MAU比と一致する50%となっています。短期的な継続率が比較的一定にとどまっていることから、図1に示した成長の鈍化は、短期的な継続率の低下によるものではないと推測できます。この製品が継続的に利用されている理由はまだ分かりません。製品が好調であるのになぜ成長が鈍化しているのでしょうか。

f:id:foundx_caster:20191125015112p:plain

図3

次は製品がインストールされて以来のアプリケーションが開かれている頻度を見てみましょう。大部分のユーザーが製品を開いている場合は、人々が製品に価値を見出していることを示します。図4は、アプリの起動率が2014年3月に90%近くと異常に高かったことを示しています。2015年には、アプリの起動率は75%を少し超えたところまで下がっています。確かに減少は見られますが、それでも75%以上というオープン率は、最高のアプリのいくつかに匹敵するものです。

f:id:foundx_caster:20191125015259p:plain

図4

ここでストーリーを再構築してみましょう。この製品は、300万人もの人々がほぼ毎日利用しています。製品の短期継続率は高く、起動率はそれより低いですが、それでも優れたものです。ここまで、まだストーリーはうまくいっているように聞こえます。

私たちは、その製品が毎日起動されていることは知っていますが、ユーザーがなぜそれを起動しているのか、1日のうちでどれだけ頻繁にアプリを起動しているのか、どれだけの時間をその製品に費やしているのかなどは知りません。これらを理解することで、製品で何が起こっているのかをより正確に把握することができます。

ストーリーの空白を埋めるために、ユーザーが1日に行うセッション数を見てみましょう。図5は、毎日のセッション数が1.4前後でほぼ一定であることを示しており、ほとんどの人が毎日一回、二回程度、この製品を利用していることを示しています。これは興味深いことです。ほぼ毎日300万人もの人々がこの製品を利用していますが、そのほとんどは一日一回の利用なのです。

f:id:foundx_caster:20191125015421p:plain

図5

さらに図6は、この製品が1日に1分程度しか利用されていないことを示しています。なぜ人々はその製品を1日1分しか利用しないのでしょうか。またなぜ毎日それを繰り返すのでしょうか。彼らはその製品を心から愛しており、自発的にそこに毎日戻ってくるのでしょうか。もしそうなら、なぜ彼らは毎セッションに1分ほどしか費やさないのでしょうか。

もう一度ストーリーを再構築してみましょう。今私たちが扱っている製品は、ほとんど毎日起動されているほどには、人々から愛されているものです。しかし彼らは、1つのセッションにつきそれを1分ほどしか利用しません。通常、人々が毎日使うアプリというものは、1日に幾度も起動されているか、もしくは1日に1分以上使われています。ですから、この製品のストーリーにはいささか不可解なところがあります。

ユーザーが毎日この製品を利用する理由を調査することで、考えられる原因を絞り込むことができます。おそらく、それは通知でしょう。人々は携帯電話に表示された通知を見て、それをクリックし、過去の写真を見て、もしかしたらそれをInstagramで共有し、それから自分がしていたことに戻るのかもしれません。この処理には約1分かかります。このサービスは通知を1回だけ送り、毎日1枚の写真を共有するので、複数のセッションを持つことはないのです。これが一番ありそうなストーリーでしょう。

こうして完全に再構築されたストーリーは、私たちの製品が健全なものであり、通知によって起動され、毎日1回、1分間アプリを開く300万人のユーザーがいるというものです。この製品の高いD30継続率と起動率は、このアプリがユーザーに価値をもたらすことを示しています。明らかに、この製品が強力に満たしているプロダクトマーケットフィットがあります。この製品のストーリーを構築することで、私たちは製品をよりよく理解し、より良い決定を下すことができるようになります。

同じプロセスを使って、製品のユーザー数の伸びが鈍化した理由を説明するストーリーを構築することもできるでしょう。これは新しい保有者の中での継続率の低下によるものではないことはすでに分かっています。成長会計フレームワークを使用して根本原因の分析を行うと、新規ユーザーの成長の減速またはユーザー復活の減少、あるいはその両方の原因を発見することができます。ここで終わりにしますが、これらの条件を計算することで、この製品のユーザー成長を減速させている要因についての仮説を立てることができます。

f:id:foundx_caster:20191125015653p:plain

図6

他にも、主に通知があることによって使用される製品が多数あります。例えば、目覚まし時計、ピルのリマインダー、毎日のToDoリスト、天気アプリなどは、DAU/MAU比が高く、セッション数が少なく、使用時間が短く、継続率が高く、起動率が高い傾向があります。

f:id:foundx_caster:20191125015744p:plain

表1

ここまで、メトリクスを使って製品のストーリーを伝えるケーススタディーを見てきました。それでは、メトリクスを使用してどんな製品についても役立つストーリーを構築する方法について、戦術的な手順の概要を説明します。

ストーリー構築へのステップ

  1. 根本的な問いから始めましょう。根本的な質問とは、あなたが理解したいと思っている問題を問う質問です。ここで見たケーススタディで行ったように、新しいアプリが製品市場に適合するかどうかを判断しようとしているのですか?それともユニットエコノミクスか何かを理解しようとしているのですか?あなたが理解したいもの、それが根本的な問いへと繋がります。
  2. 根本的な質問に答えるために、いくつかの鍵となるメトリクスを使って仮説を立て、最初のストーリーを構築します。各製品には、説得力のあるストーリーを伝えるために連携する一連の指標があります。これらのメトリクスの多くは、相互に強く相関しています。つまり統計的に独立しておらず、付加価値もあまりありません。たとえば、保存とダウンロードは直交していますが、DAUとWAUは相関しており、直交していません。最も重要な直交するメトリクスを識別することは重要です。これらの指標は、根本的な質問に答えうる説得力のあるストーリーを伝えるのに役立ちます。これらのメトリクスを特定し、その指標が示すストーリーの調査を開始します。
  3. ベンチマークを使用してパフォーマンスを定量化します。製品のパフォーマンスが良好かどうかを理解するには、比較可能な測定基準が必要です。これらは同一条件で比較すべきです。例えば、ソーシャルメッセージング製品の主要な測定基準は、同じ空間にある類似製品の主要な測定基準と比較されるべきでしょう。ベンチマークを行わなければ、状況がうまくいっているかどうかを判断するのは困難です。
  4. ストーリーのストレステストを行う。
  5. 一貫性と矛盾を探し出します。筋の通った話は一貫していなければなりません。たとえば、DAU/MAU比を常に高くし、継続率を常に非常に低く保つことは不可能です。このような問題が発生した場合は、データの誤りや、理解する必要のあるエッジケースが発生している可能性があります。エッジケースの例として、最近の利用者は継続率が低いが、古い利用者は継続率が高い場合などがあります。データがストーリーに合わない場合は、ストーリーが間違っているか、データが間違っているかのいずれかです。ストーリーが間違っているのならば、ストーリーを修正しなければなりません。
  6. ストーリーの前提条件を反証し得るカウンターメトリクスを特定します。例えば最初に、ユーザー数の増加と共に収益も増加するということを前提とし、人々は時間が経つにつれ、より多くの出費をするというストーリーを構築したとしましょう。しかし調査を進めると、この流れの原因はある1人のアウトライアーの支出者であるということが分かります。このケースでは、収益集中度に関するメトリクスをチェックしてみるといいでしょう。ここではストーリーを変える必要があります。また、ストーリーが製品の方向性に与える影響も変わってきます。
  7. 補足的なメトリクスを調べて、ストーリーを三角法で測定しましょう。L5+/L7は、週5日以上製品を利用する人の割合を表します。このメトリクスの値が大きい場合は、DAU/WAUの値も大きくなり、またその逆の場合も同様です。隣接するメトリクスを見て、ストーリーを三角法で測定します。
  8. すべてのデータがあるべき場所に収まるまで、ストーリーを繰り返し修正します。ストーリー内のすべてのデータが意味を持つようになるまで、手順2~5を繰り返しましょう。何が起こっているのかについて仮説を立て、適切なメトリクスとデータを検討します。次に、追加のデータを調べて、より多くの仮説を生成します。2つのアプローチを繰り返して、ストーリーが意味を持ち、自分の問いに答えられるようにします。
  9. 代替のストーリーを仮定します。完全なストーリーを決定するのに十分なデータがない場合は、考えられうるストーリーのそれぞれを確認、または無効にするために、異なるストーリーのシナリオおよび過程を特定しましょう。決定を下すために完全なストーリーが絶対に必要なわけではありません。実際、穴の全くないストーリーを構築することはほとんど不可能であり、ラストマイルの問題(ストーリーの最後の10%は、最初の90%の何倍もの労力を要する可能性が高いこと)があるため、完璧なストーリーを構築するには法外な費用がかかります。そのため、ストーリーがほぼ明らかになった時点で意思決定を行えるよう基準を設定しておくことが大切になります。

なぜストーリーを構築することが重要なのか

ストーリーそのものも大切ですが、それを構築する過程も重要です。ストーリーを構築することの利点には以下のようなものがあります。

  • 目下起きている現象を全体的に理解することができます。1つか2つのメトリクスだけではストーリー全体を語ることはできません。製品担当者が1つか2つのメトリクスを選択し、それが示す限定的で部分的なストーリーに基づいて決定を下すことは、あまりにもよくあることです。たとえば、300万MAUと70% DAU/MAUという数値は、一般的に優れた健全な製品であることを示していますが、さらに深く掘り下げると、さまざまな問題や機会が明らかになる可能性があります。
  • メトリクスの値を真に理解することができます。すべてのメトリクスからは何らかの情報が得られますが、その情報は目下の問いに関連していない可能性があり、理解が深まるとは限りません。しかし、それはメトリクスを一方的に無用なものとするのではありません。メトリクスを無視する前に、その関連性、範囲、有用性を評価することが重要です。たとえば、Quick Ratio メトリクスは純成長を理解する上では有用ですが、その成長が持続可能かどうかを判断することはできません。ストーリーテリングは、メトリクスの有用性を明らかにします。
  • データはストーリーの表象です。現象を深く理解することは意思決定の向上に役立ち、正確なストーリーを構築することは深い理解を促します。製品のストーリーを構築するにあたり、メトリクスとデータはいくつものパズルピースのように組み合わされ、ストーリーを語ります。ストーリーによってつなぎ合わされないでデータが精査されても、そのデータは不完全で、おそらく不正確な全体像しか提供してくれないでしょう。
  • より大きなインパクトとより良い意思決定。ストーリーを構築することは、データサイエンティストがさまざまな製品利害関係者に影響を与え、より良い結果を生み出すための手段となります。単なるデータは忘れてしまいますが、良質なストーリーであればすぐに思い出せるものです。

ワンポイントアドバイス

  • 包括的な発言は避けましょう。私たちはよくルーブリックを使います。毎月の継続率が50%というのは素晴らしいことだとか、3以上の当座比率は素晴らしいとかいったものです。ストーリーを構成することによって提供される追加のコンテキストがなければ、これらの発言は誤解を招く可能性があります。例えば、50%の月次継続率はeコマース製品にとっては素晴らしいかもしれませんが、ソーシャル製品にとってはひどいことかもしれません。万能薬はないのです。
  • 数字ではなくストーリーによって影響を与えましょう。数字やメトリクスを伝えることではなく、ストーリーを語ることにフォーカスしてください。「DAU/WAUは71%」と言うことと「人々は製品を週に5日起動している」と言うことは基本的には同じことです。しかし、前者よりも後者を使ったほうが、はるかに簡単にストーリーの枠組みを作ることができます。前者は「データダンプ」へと繋がり、ごく少数の人々にしか届きません。「データダンプ」をできる限り避け、ストーリーの枠組みを作ることにフォーカスしましょう。
  • データは最終的に行動を引き起こすべきです。データサイエンティストのもっとも重要な役割とは、データを使って意思決定を向上させることです。この行動を引き起こすためには、ストーリーテリングが欠かせません。図6は、数字が結果として、ストーリー、決定、そして行動を引き起こす過程を描いています。

    f:id:foundx_caster:20191125020451p:plain

    図6

重要なこと

  • ストーリーテリングは、データに基づく製品構築の強力なテクニックです。製品に何が起こっているかを、ストーリーテリングによって深く理解することができます。製品のストーリーは、その目標、ロードマップ、および戦略を伝えます。
  • ストーリーの流れは、さまざまな情報を結びつけるのに役立ちます。異なる断片を関連づけるためには、仮説ベース型とデータ志向型の両方のテクニックの組み合わせが必要になります。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Understanding Products Through Storytelling (2019)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元