- #1 情報・規制問題室 (OIRA)
- #2 連邦政府調達局 (GSA)
- #3 道路交通安全局 (NHTSA)
- #4 アメリカン・イノベーション・ホワイトハウス事務局 (OAI)
- #5 通貨監査局 (OCC)
- #6 国立標準技術研究所 (NIST)
- #7 メディケア・メディケイド・サービスセンター (CMS)
- #8 消費者金融保護局 (CFPB)
- #9 賃金・労働時間局 (WHD)
- #10 国際通商局 (ITA)
テック系スタートアップが政府の規制担当者と対峙する機会が増えるにつれて、規制や取締官の背後にある組織や人物の把握が益々重要になっています。あなたは健康保険の業界にいますか? それならば、 FDAが何を発言していて、それが自分の事業にとってどのような影響があるかを知る必要があります。Fintech業界にいる? それならば、SECの最新情報をすべて知っていた方がよいでしょう。
ペンタゴンや商務省などの連邦機関が最近、シリコンバレーに事務局を開いてはいます。しかしワシントンD.C.には、依然として、企業の成功 (……あるいは失敗)を左右しうる部門や機関、事務局で、あまり知られていないものがいくつもあります。そこで、テック業界にいるならば知っておくべき10の機関や事務局を、順不同でここに挙げます——
#1 情報・規制問題室 (OIRA)
トールキンの言葉を借りれば、これは「すべての部署を統べる」部署です。少なくとも、テック産業を含むあらゆる事業の規制の根拠となるより一般的な規制については、OIRAがすべて扱っています。OIRAは、ホワイトハウスの行政管理予算局 (OMB) 内に置かれ、様々な連邦政府規制機関が規制の草案を作り、発布し、施行する方法を指示する一般目標指針を発行しています。そして彼らは、採炭作業から低空飛行の航空機が飛べる最低高度は何フィートなのかまで、あらゆる潜在的な問題に関して指針を発表しています(ちなみに最低高度の答えは、混雑空域では約500フィートです)。
OIRAはまた、(規制案の経済的または予算上の影響との関連で)「重要」と見られるすべての履行済みの大統領令や規制案について審査を行い、どれを進めるか、また、どれを廃案にするかの決定を下しています。トランプ政権が最初の100日を超えて存続する見通しとなった今、OIRAをめぐる動きが数多く見られることが予測されます。トランプ大統領がOIRAの室長に任命したネオミ・ラオ法学教授は強力なイノベーション擁護派と見られています。OIRAの活動の多くはまた、既存の規制の縮小に向かっています。トランプ大統領の最近の「2を1にする」大統領令はその一例です。「2を1にする」というのは、連邦政府のすべての規制について、1つを加えるなら、2つを廃止することを意味します。
#2 連邦政府調達局 (GSA)
おそらく、ワシントンD.C.にある組織の中で、GSAほど政府の調達過程に大きな影響を及ぼすものはありません(もちろん議会を除いての話ですが)。GSAは政府が物品やサービスを購入する方法を監視しています。政府は世界最大のIT購入者であるだけでなく、調達を通じて購入を行います。(これは、他の大手企業がソフトウェアを購入する方法とそれほど違いません。そのため、ソフトウェアの販売者なら誰でも対処すべき最も重要な話題の部類に入ります。)
新しい技術製品を購入する時の政府の方針を変更することができる組織は、GSAだけです。そして、彼らが正しい方向に向いていることを示す兆候が早い段階で見えました。例えば、GSAは、数年前に、連邦政府職員向けのデバイスをBlackberryからiPhoneへと変更しました(ため息をつきたくなりますが、多くの政府官僚は未だにBlackberryを使っています)。さらに去年、GSAは、連邦政府職員向けに、公用で旅行した際に利用した相乗りサービスの料金を返金するための指針を発表しました。それまでは、連邦政府職員が請求できるのはタクシー代のみだったので、LyftやUberを利用した場合は、料金を請求することはできませんでした。とても小さなものですが、それでもこれら2つの変更は、正しい方向へ向かう重要な進歩です。政府に製品を売りたいと考えているテック企業にとって、これらの動きは、競争が高まることによって、さらに多くの選択肢、より実用的な考え方、よりよりサービスがもたらされる可能性を示唆しています。
#3 道路交通安全局 (NHTSA)
一般的にはあまり知られていないと思われるこの一覧の機関ですが、NHTSA(発音はニット・サ)については、無人自動車にまつわる騒動ですでに耳にしたことがあるかもしれません。運輸省 (DoT) 内に設置されており、昨年、自動運転車に関する一連の指針を発表したのは彼らです。それが「規則」ではなく「指針」であることに注意してください。
NHTSAは、すべての州が自動運転車に関する独自の規制を作ることができるよう、運転免許の交付から新規の交通法規の草案作成まで、全般的な枠組みを計画的に提供しています。ただし、現在各州が保有している執行の役割のいくつかについては、それを果たす権利をこの機関が保有することになっています。この最後の点が鍵です。なぜなら、無人自動車が本当に次の大きなプラットフォームの転換になるとした場合、国内の州境をまたぐ交通量を考えれば、遅かれ早かれ、より標準化された連邦政府レベルの規制が必要になることが予想されるからです。
#4 アメリカン・イノベーション・ホワイトハウス事務局 (OAI)
この一覧の中では一番新しい機関/事務局で、大統領覚書により3月に設立されました。OAIは大統領に対し、「政府の業務およびサービスを向上し、現在および未来の国民の生活の質を向上し、また、雇用創出を促進するための方針と計画」について助言します。要するに、政府を最新化せよ、しかもできる限り迅速に、ということです。
この事務局は、Jared Kushner、Chris Liddell元Microsoft CFO、不動産開発業者
Reed Cordishが率いており、連邦政府全体の機関が直面する、技術的かつ電子的設計に関するもっとも差し迫った難題のいくつかを解消しようとするものです(いくつかの点で、healthcare.govの好転後にオバマ政権下で編成されたU.S. Digital Serviceに似ています)。OAIの持てる力の多くは、他の多くの連邦政府機関のように、数十年前からのIT基盤整備と奮闘している退役軍人省 (VA) に注がれると予測することができます。VAやその他の省庁は、今だにCOBOLプログラミング言語でシステムの一部を稼働させています(信じられないかもしれないですが、本当のことです)。OAIは、どのように政府に21世紀を迎えさせるかについて、興味深い新たなアイデアを求めています。ですから、ハイテク企業(特にSaaS関連企業)は、OAIと協力するたくさんの機会を見つけることができるはずです。(ここで述べているように、これはイノベーション・イニシアチブが別の方法を使って試みていることでもあります)。
#5 通貨監査局 (OCC)
OCCは財務省内にあり、銀行流動性、資金洗浄、テロの資金調達など、アメリカの銀行体系における特定の側面を規制する役割で知られています。
しかしながら、OCCは、昨年の終わりに、特定のFintech企業に対して限られた数の「特定目的銀行免許」を発行することを発表しました。それ以前であれば、銀行免許は、預金と融資の機能を持ち、従来の銀行と同様の業務内容を行う予定の企業だけに与えられていました。この新たな展開はテック産業にとっては大きなものです。Fintech企業は、財務規制取締官の承認を各州で求める必要がなく(これは小規模のスタートアップが実践するには途方もなく困難なことです)、50州全州で同時に業務を開始することができるからです。次の展開は、ビットコインおよびブロックチェーン関連の方針に影響を与えることです。
#6 国立標準技術研究所 (NIST)
NISTは、大まかに言えば、調査の基準参照データから重量や物理的距離に使用される指標まで、あらゆる国内産業の測定基準を設定する責任があります。なんだかつまらないものに聞こえるでしょうか? でもそれは誤りです! NISTは、無人自動車から、モノのインターネット (IoT) やネット接続住宅まで、最も胸の踊るような未来の産業・製品に関して、きわめて重要な役割を果たすでしょう。彼らはまた、その他の新興のテックのあり方を決定づけることにも、役割を果たしてきました。2011年におけるクラウドコンピューティングなどはその一例です。
ただし、これは規制機関ではありません。それならば、そのような基準や定義はなぜ重要なのでしょうか。次のことを考えてみてください——無人自動車が交通信号と同調した場合、信号が青に変わってから車両が自動的にアクセルをふかして交差点に入るまでの時間の差が、すべての車両で同一であることを誰が保証するのでしょうか。そうです、NISTです。同様に、NISTは、IoT装置がサイバーセキュリティの脅威に対してどの程度安全なのかを測る標準測定値を設定する試みの一環として、2015年に、特定の接続済装置の回復力を判断するための指針を発表しました。
#7 メディケア・メディケイド・サービスセンター (CMS)
CMSは保健福祉省 (HHS) 内に設置され、退役軍人医療保険専門家のSeema Vermaが率いています。健康管理業界のスタートアップにとって、最も重要な機関の1つです。なぜならCMSは、そうしたスタートアップが参入したいと強く考えている、医療費の払い戻し手続きを管理してるからです。ヘルステックのスタートアップなど、多くの健康管理企業は、そのような払い戻しを重要な収入源として手に入れようとしています。
さらに、CMS内にはメディケア・メディケイド・イノベーションセンター (CMMI) があります。 CMMIは、メディケア・メディケイドの利用者へ医療の提供と医療費の支払いの両方の革新的なひな型を作り出し、支援することを目的としています。「新時代の介護施設」や円滑な決済体系を思い浮かべてください。医療体系に革新をもたらすことに注力しているスタートアップにとって、CMMIは貴重なパートナー兼協力者となるでしょう。
#8 消費者金融保護局 (CFPB)
CFPBは、ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法(またの名「ドッド=フランク法」)の一環として、2010年に編成されました。その名が示唆するように、この部局は、特にクレジットカードや学生ローン、住宅ローンに関して金融機関の高利貸し的慣習や略奪的慣習から消費者を保護する責任があります。(実際、2007年から2008年にかけての金融危機の直後にドッド=フランク法は成立しました。)
CFPBは元々は大手銀行や金融業界における既存の大手企業の監視を意図していましたが、今ではシリコンバレーに照準を合わせています。過去のデータがほとんどないFintech企業が、実証されていない新製品を発売する例が増えているからです。ただし、CFPBの将来的な影響力については議論になっています。Richard Cordray局長は、数人の国会議員による調査の対象となっています。また2016年10月には、ワシントンD.C.巡回裁判所の3名の判事による合議審の結果、CFPBの構造は違憲であると裁定されました。この裁判は、現在、D.C.巡回裁判所の大法廷で公判中で、控訴が認められれば、最高裁まで争われる可能性が高くなっています。
#9 賃金・労働時間局 (WHD)
「ギグ・エコノミー」や「シェアリング・エコノミー」、「クラウド基盤の資本主義」といったフレーズについてどのように考えようと、多面的なオンライン/モバイルプラットフォーム上において、見知らぬ人に対し、相乗りやホームシェアリング、介護などのサービスを提供する労働者の数は拡大しています。そのようなプラットフォーム上の労働者の分類方法については、議論がなされてきました(常勤の被雇用者か、独立請負業者か、第三のカテゴリーか?)。そしてその議論は、次に、医療給付の資格があるのは誰か、賃金に源泉徴収税を課すべきなのは誰か、退職口座の管理の助けとなるのは誰かという話題に関係していきます。これらの疑問はすべて重要であり、この質問に答える責任の大部分を担っているのは、公正労働基準法などのすべての連邦労働法の施行に責任のある労働省賃金・労働時間局です。
しかしながら、WHDは、労働者の分類の議論についてはおおよそ沈黙を守ってきました。例外は、この問題に介入するべく、2015年にオバマ政権で下された、次のような決定です。WHDは、より多くのギグ・エコノミー労働者を含めるほど「被雇用者」の定義の幅を広げることが見込まれる指針を発表しました。(ここで留意すべきは、トランプ政権とAlex Acosta労働省長官がその指針を撤回する可能性が高いことです)。これまでのところ、現行政権は請負業者に関する既存の規則を変えていませんが、いくらかの場において、ギグ・エコノミー労働者は方針の変更(労働組合に加入する権利など)を要求する力を持つでしょう。自らが構築したプラットフォームや市場において独立した請負人を雇用したり、または雇用することを可能にしたりしているスタートアップは、どんなものであれ、間違いなくWHDの動向に注意を払っています。
#10 国際通商局 (ITA)
欧州で業務を行い、欧州の顧客の情報を国内に移転させたがっているあらゆるテック企業にとっては、国際通商局 (ITA) から「プライバシーシールド」認定と呼ばれるものを得ることが鍵です。この認定は、以前はSafe Harborとして知られており(2016年に起こった米国と欧州連合の間の対決の結果、枠組みの見直しとイメージの刷新が行われました)、安全に取引を行える会社であることの合図になっています。プライバシーシールドは、会社がデータの完全性を維持すること、顧客からみだりにデータを収集しないこと、そして第三者に渡り、結果的に不正使用されたいかなる個人情報についても、会社が責任を負うことを保証しています。
こうした認定の背景には、2013年のスノーデンによる告発と、それに起因する米国企業のデータ保護能力に対する欧州人の懐疑的態度があります。オプトインのプライバシーシールド認定は、米国のテック巨大企業から顧客に向けて、「信用していただいて大丈夫です、一緒に事業をしましょう」というメッセージを送る役割を果たします。
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記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: 10 Federal Agencies You Might Not Have Heard of, But That Matter for Tech (2017)