ピボットに関するすべてのこと (Startup School 2019 #11)

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Dalton Caldwell
皆さん、こんにちは。私はY CombinatorのパートナーのDaltonと申します。私はYCのアドミッション部門の責任者でもあります。アドミッション部門とは、YC参加を希望する会社を選抜する部門です。

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本日のテーマはピボットです。実に良いトピックですね。

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本日の講義では、「ピボットとは何か」、「ピボットすべき理由」、「ピボットすべき時期」、そして「ピボットしようとしているアイデアの評価」という基本的な部分を説明していきます。

ピボットとは何か

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まず、ピボットという用語の説明から入りましょう。私は、カフェにいる時などに誰かがピボットの話をしているのが聞こえてくると、「やれやれ」という気持ちになります。なぜなら、私はスタートアップに携わる人たちと、この「ピボット」という言葉を巡って、悩ましい時間を過ごすことが多いからです。

では、「ピボットとは何か」から説明しましょう。ピボットとは自分のアイデアを変えることです。その一言に尽きます。

非常に厳密に言えば、本当のピボットとは、規模が大きく、多くのユーザーがいて、資金調達もしている、いわゆる本格的な会社が、「これを中止して、別のことをします」と宣言する場合のことを言います。

最も有名な例がSlackです。彼らはもともと、Glitchというビデオゲームのために資金調達をして、100人ほどの従業員を抱えていました。私はそのゲームのベータユーザーでしたが、彼らはある日突然それを終了し、別のとんでもないこと始めました。これが私の考えるピボットです。本来なら、こういう場合にピボットという用語を使うのが正しいと思います。

ここでは私も「ピボット」という言葉を使ってしまっていますが、ここにいる皆さんの大半がやろうとしていることは、ピボットというよりはアイデアの変更と呼ぶべきかもしれません。これは、とても気軽にできるべきです。

スタートアップにおいて、アーリーステージ、特にローンチ前やローンチ直後にいる場合、アイデアを頻繁に変えることは一般的であり、大きな出来事ではありません。気軽にできるはずのことです。

率直に言えば、この時期にアイデアや仮説を短いスパンで何度も何度も変更できていない場合、皆さんのやり方が間違っている可能性があります。動きが遅すぎる可能性があります。アイデアを頻繁に変えて、あるべきバージョンを模索することはスタートアップ初期にしなくてはならないことの1つです。

なぜピボットするのか

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では、「ピボットすべき理由」に話を進めましょう。これを説明する主な理由は、機会費用です。ある選択肢を選んだ時に、他の選択肢から得られる潜在的利益の喪失というのが機会費用の定義です。

言い換えますと、人は一度に1つのことにしか取り組むことができない、ということです。たまに、このルールを破ろうとする人もいますが、今日はそこには触れないでおきましょう。

うまくいっていないことに取り組んでいて、うまくいっていないという証拠がある場合、別のことをしていない機会費用が発生しています。実にシンプルです。

これは私がジョークのつもりで書いてみた機会費用に関する疑似コードです。「全てのことがうまくいっている状態」を「フルタイムで協動した月数」で除します。その数字が「別のことに取り組む刺激」と「もっとうまくいくアイデアを見つけられる自信」を加算したものより小さい場合、あなたはピボットすべきです。

この方程式、つまり私が説明しようとしていることの要点は、あるプロジェクトに何ヵ月も何ヵ月も取り組んでいて何も起こらない場合、それはピボットすべき非常にはっきりとした兆候だということです。この方程式を最も左右するものは、何かに取り組んでうまくいっていない月数です。

つまり、損失を取り戻そうとして資金や時間をつぎ込んでも何ら進展が見られない場合、それはピボットすべき良い兆候と言えます。しかし、極々初期のアーリーステージで、何かに取り組んで数週間という場合は、わかり辛いです。

ピボットをするに値する良い理由

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では、ピボットすべき正当な理由を説明しましょう。まずは「これに取り組むのが嫌」という場合です。

2つ目は「成長が望めない」場合です。ずっと取り組んでいるのに成果が出ない状況です。

3つ目は「自分はこのアイデアに合っていない」と感じる場合です。これは、そのアイデアについて知れば知るほど、自分はそれにふさわしい人間ではないとわかってしまう場合を指します。

4つ目は「スタートアップを軌道に乗せるために自分では制御不能な外部要因に依存している」と思う場合です。外部要因への依存というのは、例えば、主流となるバーチャルリアリティ・ヘッドセットの採用などが挙げられます。「近々Facebookが新しいことを始めるから、我々もその時にVRアプリをリリースしよう」とか、「主流となる暗号が採用される時に合わせよう」といったものも同様です。これらは自分では全く制御できない要因であり、誰かが何かをしてくれたら自分のスタートアップがうまくいくと受動的に考えているのなら、絶対にピボットすべきです。

最後は、「これを軌道に乗せるにはどうすれば良いか途方に暮れている」場合です。現在のアイデアを成功させるために全力で取り組んできて行き詰っている状態です。一般に、これはピボットすべき兆候です。

ピボットをするべきではない理由

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次は、ピボットすべきではない理由です。まず、「困難な仕事から逃げている」場合です。時々、プロダクトを開発してセールスのタイミングになるとピボットし、それを繰り返す、という人を見かけます。おそらくこれはピボットすべき正当な理由に基づいていません。セールスの仕事から逃げようとしているだけです。ここは注意すべき点です。

ピボットすべきでないもう1つの理由は、「自分の考えを何度も何度も慢性的に変えてしまい、自分でもそれに気付いている」場合です。物事を最後まで見届けるのは良いことですから、頻繁に変え過ぎてしまわないよう注意する必要があります。

ピボットすべきでない正当な理由の最後は、何か新しくて刺激的なことを耳にしてピボットしたくなる場合です。TechCrunchの記事で、新しくて刺激的なプロジェクトに誰かが資金調達したという記事を読んだから自分もピボットしたい、というのはピボットの良い理由ではありません。

ピボットをするのに時間がかかりすぎる理由

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ピボットするのに時間がかかり過ぎる理由をいくつか説明しましょう。なぜこんな話をするかと言えば、大半の人がピボットするのにかなり長い時間を要してしまうからです。

ピボットに「時間がかかる人」、「時間がかからない人」、と選別していったら、ほとんどの人が「時間がかかる人」のグループに入るでしょう。なぜ、時間がかかってしまうのでしょうか?

1つ目の理由が、損失回避です。何かに投資してきたと思っている人は、なかなかそれを手放す決意ができません。それが損失回避です。損失回避についてはご自身で調べてみても良いでしょう。

次は「わずかなトラクションがある」場合です。これは数人のユーザー、あるいは1人の顧客がいて、「うまくいくかもしれない」と考えているような場合です。こうした場合、ピボットを避けてしまいがちで、厄介です。

次は、「相手がとても礼儀正しくて、『あなたが作っているものは気に入らない』という本音をなかなか言ってもらえない」場合です。多くの創業者は丁寧な言動に混乱させられるもので、礼儀正しい言動をトラクションがあると解釈してしまいます。

絶対とは言いませんが、ほとんどの場合、「あなたのアイデアはひどい。今すぐ諦めなさい。私があなたの顧客になることは絶対にありません」とは言われないでしょう。人はそういうことを面と向かって言わず、「素晴らしいですね。もう少し機能を増やしたバージョンを開発してくれたらまた見せてください」といった言い方をします。

これは危険です。なぜなら、こうしたことを何度も何度も、場合によっては何年も繰り返し、結局は顧客を得ることができないという可能性があるからです。丁寧な言動には注意し、それをトラクションと錯覚しないよう気を付けましょう。

次は、「弱点や敗北を認める恐怖」です。これは、ピボットするというのは、何かを諦めることだ、という考え方もできるからです。

次は、「物事がうまくいかないことを顧客や投資家のせいにする」ことです。これは、「自分は間違っていない。世の中が間違っているんだ。誰もこれを理解してくれない。きっと時代の先を行き過ぎているんだ」と思ってしまうケースです。こうしたことは良い兆候ではありません。大抵の場合、悪いのは外部の世界ではなく自分かもしれない、と気付くことになりますが、そこにたどり着くまでに長い時間を要します。

そして最後は、「世の中には、『強く信じて続けていれば最終的に認知され、全てがうまくいく』といった人を鼓舞するメッセージが溢れている」ことです。人の心に響くようで、実は非生産的とも言えるこうしたメッセージは数多くあります。

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読み易いかどうかわかりませんが、これは私がトラクションについて少し書いているものです。私はこれを「Product/Market Fitの不気味の谷」と呼んでいます。

これは私がYCのパートナーとして働くうちに気付いた奇妙な現象ですが、「完全なる失敗作、要するに瞬時に駄目になるようなアイデアを携えてYCにやってくる人のほうが、わずかなトラクションがある人より大きなアドバンテージがある」と言えます。

妙な話ですよね?大失敗した時、創業者はそのアイデアに対して直ちに破産宣告し、他のアイデアに取り組むことができます。後悔することも、「ピボットすべきか?」などと思い悩む必要もありません。「いやぁ、あれは大失敗だったな」と言って、古いアイデアをさっさと捨て、新しいアイデアに取り組む自由があり、これは奇妙なアドバンテージとも言えます。

何とも反直観的ですね。わずかなトラクションには注意する必要があります。私は、それが足かせになって、長い期間拘束されてしまった、とても優秀な人々をたくさん見ています。

逸話

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では次に、逸話についてです。自分が取り組んでいることをやり続け、うまくいかなくても続け、5年後に遂に成功した人のストーリーという逸話があるとします。これは、素敵で感動的で好ましい話で、実話であり、逸話です。

しかし、5年間毎日宝くじを買い続けて当選し、実に幸せで人も羨む人生を送っているという逸話は、素晴らしいものではありますが、皆さんが真似できるものではありません。そうですよね?強く信じ続けた人を取り上げたこういった逸話に関して、皆さんができることは何もありません。ですから私は皆さんに、そういった逸話の1人になれるよう願い、夢見るのではなく、データを駆使して、世の中における自分の行動に説明責任を負いましょう、というアドバイスを贈ります。

そして、ピボットしようがしまいが、決めるのは自分であることを覚えておいてください。皆さんの人生がうまくいくかいかないか、その責任は皆さん自身にあります。

私が出会う創業者の中には、「このアイデアはうまくいくでしょうか?あきらめる時期はどうやったらわかるのでしょうか?」とYCパートナーである私や、関係する他の権威者に判断を押し付けたがる人が大勢います。しかし、つまるところ、私たちは皆さんを指導することしかできません。これはまさに創業者自身が判断すべき問題で、権威があると思う人物に判断を仰ぐべきではありません。

Product/Market Fit (PMF) に至るためにできること

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次はProduct/Market Fitです。これについては多く場面で扱ってきましたし、スタートアップスクールでも議論されることが多いですが、それはProduct/Market Fitが非常に重要だからです。しかし、これに到達する人はほとんどいません。この講義を視聴している大半の人は、自分では到達していると思っていても到達していないでしょう。これは、成長が最大の課題ではなくなり、他のことが問題となってきた時に、到達したとわかるものです。

ピボットすべき正当な理由の1つは、そうすることで、この捉えどころのないゴールに到達するためのチャンスが増えるからです。何かを作ってローンチして「どうもうまくいかない」という場合、ピボットすべき正当な理由は、新しくサイコロを振ること、別の機会を探ることにあります。

私は実際にこうした機会を活用するのがうまい人を見てきました。幸運を手にするには、1回のシュートより6回のシュートのほうが、はるかに確立が高いですよね?Product/Market Fitに到達する方法に関するデータを活用して、質の高いシュートをしましょう。

この「質の高い」という点に注意してください。ひたすらピボットを繰り返してローンチし続ければ良いという話ではありません。プロダクトを作り、完成度を高め、リリースし、ユーザーに届けるという万全かつ申し分のない反復を行い、ここで耳にした全てのアドバイスに従えば、複数のチャンスが生まれることになります。

この時、皆さんは自ら幸運を生み出しており、うまくいくものに出会う可能性は1回のチャンスしかない人より遥かに高くなります。

より良いアイデアの見つけ方

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では、より良いアイデアの見つけ方に移りましょう。これからするアドバイスは、バッチに参加している人が「何にピボットすべきか」というアイデアを求めている時にお話ししているものです。

それは、自分がより心を動かされるもの、世の中に関してより楽観的な気持ちにさせてくれて、朝起きて取り組むのが楽しみになるようなものを見つけることです。取り組むのがあまり楽しくないものでは駄目です。これはとても自然なことですが、反直観的であるとも思います。多くの場合、より困難なアイデアと思えるものを選ぶほうが良い、とされるからです。

広告ターゲティングとの連携を目的としたアドネットワークやアドテクノロジーのビジネスに取り組んでいる人をよく見かけますが、おそらくああいったものはうまくいかないでしょう。なぜなら、人に感動を与えるものではなく、誰も興味を示さないからです。

そういったものから、「中小企業のオーナーがXをするのをサポートしたい」といった、大いに心を動かされるものにピボットする人もいます。前回のバッチでは、そうしたアドテクノロジービジネスを始めたものの、全員がそれに飽き飽きしてしまい、インド版Robinhoodにピボットした会社がありました。ピボットをした直後から創業者たちは活き活きとし始めました。彼らと話をしている時は、皆、常に自分たちのアイデアに興奮していて、会話はどんどん広がっていきました。創業者は前と同じメンバーであるのに、変化はものすごく大きかったと言えます。彼らはアドテクノロジーのような退屈で誰も興味を持たないものから抜け出し、リアルで刺激的なアイデアを見つけられたわけです。

誰かが資金調達をしたという話をTechCrunchで読んで、きっとそれが優れたスタートアップのアイデアなのだろうと思って同じようなものに取り組んでいる人にアドバイスします。それが心躍るものではなく「退屈だ」と感じるなら、自分がもっとのめり込めるものを見つける必要があります。

もう1つ、より良いアイデアの見つけ方に関してすべきことは、自分の得手・不得手を率直に評価することです。これは難しいことですが、自分の得手・不得手をしっかりと認識して、それらの強みを活かす必要があります。

そして、良いアイデアを見つけるもう1つのポイントです。これは、ピボットする場合に特に重要ですが、研究開発に1~2年かかるものではなく、非常に短期間で開発・実証できるものを見つけることです。リリースが不可能なものから、同じくリリースが不可能なものにピボットするのは良くないです。理想的なのはリリースがより簡単で早くできるものを見つけることで、それを強くお勧めします。

VCを必要としないアイデアに取り組んでもOK

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次に、注意すべき点です。ベンチャーキャピタルを利用しないアイデアに取り組むことは、全く問題ありません。実に良いことです。世界の大半の企業はベンチャーキャピタルを必要としていません。しかし、皆さんが取り組んでいるものが、こういった会社の立ち上げ方に関する多くのコンテンツを活用し、ベンチャーキャピタルにフォーカスしたものでありながら、ベンチャーキャピタルから資金調達をしようとしない場合は、針路からそれてしまう可能性もあります。

また、ベンチャーキャピタルから資金調達をする必要がある場合は、アイデアがかなり重要となることを覚えておいてください。よく、絶対にベンチャーキャピタルから資金調達を受けられないと思われるもののために資金調達しようとして、苛立っている人を見かけます。そういう時は皆、苛立ちますよね。しかし、これはどんなビジネスにとっても意味がないことで、アイデアを選ぶ時は「これは少なくともVCから資金調達できると仮定できるものか?」と自問する必要があります。

スケールするアイデアとそうでないアイデア

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ここでいくつかの経験則をお教えしましょう。これはどういう意味だろう?と思った時に使えます。「ベンチャースケール」について定義しているガイドブックはないと思いますが、経験則から言えることがいくつかあります。まず、「このビジネスが、年間数億、数十億ドルの純収益を生み出す姿を想像できるか?」です。できるなら、ベンチャーキャピタルからの資金調達は可能に思えます。

次に「10年以内、または5年でそのような純収益額を可能にする収益成長が想像できるか?」です。これを迅速に行うことができるでしょうか?そして、「自分のビジネスが、将来、上場企業になっている姿を想像できるか?」です。それを思い浮かべることができるでしょうか?視覚化できるでしょうか?これらの点はKevinが最初の講義で触れていますが、こうした点について何一つ思い浮かべることができなければ、良い兆候と言えません。

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そして、その他の重要な要素についてです。一般的にテクノロジーは重要な要素で、少なくとも創業当初においては、創業者自身がそのテクノロジーを作り、ベンチャーキャピタルから資金調達できるものに仕上げることになるでしょう。そして、全てにおいてではないですが、高いマージンを確保したいと思うでしょう。

これもあくまで経験則ですが、ソフトウェアの粗利益は70~80%と非常に大きく、皆さんの中にはそれを実現させたいと思う人もいるでしょう。面白い話があります。テレビ番組の『Shark Tank』で資金調達について学んでいる人も多いと思いますが、私は、あの番組に出ているものの多くがベンチャーキャピタルから資金調達するのは難しいと思っています。そのあたりを知りたいと思っている人もいると思うので、念の為、触れておきます。あれはプロダクトを組み合わせたい人には資金調達しやすい番組ですが、番組で紹介されている話の大半はベンチャーキャピタリストからの資金調達には苦労すると思います。しかし、先ほど説明しましたように、これは皆さんの決断、皆さんの夢ですから、しっかり考えて決めてください。

ピボットをするベストタイミング

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ピボットするのに最適なタイミングはいつでしょうか?これから説明することが起き次第です。

まず、ローンチし、ユーザー獲得に数週間から数ヵ月かけても、先が見えない場合です。絶望的な気分になっている場合です。これはピボットすべきでしょう。

次は、そのアイデアではそもそもスタートすることができない場合です。「1億ドルの資金を調達したら試作品を作れる」という場合です。これは絶対にピボットすべきです。なぜなら、あなたが1億ドルを持っていない限り、ニワトリが先か卵が先かという解決不能な問題に陥ることになるからです。

あと1つは、「これはうまくいかない」と頭の中でわかっている場合です。創業者の中には、「これはうまくいかないだろう」と実は密かにわかっているにも関わらず、世間に対してはうまくいっていると見せ続けることで、なんとか他者を騙して資金提供や協力をしてもらおうと考える人がたくさんいます。自分を納得させることができず、これはうまくいかないとわかっている時ほどピボットに適した時があるでしょうか?

自分のビジネスを一番理解しているのは他ならぬあなた自身ですから、自分の胸に問いかける必要があります。そして、その答えは自分が耳にしたくないものである場合もあります。

ピボットに関するその他の考え方

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では、ピボットに関するその他の話に移りましょう。ピボットを何度も何度も繰り返していると、むち打ち症 (whiplash) になります。むち打ち症は大きな問題です。なぜなら、むち打ち症になった創業者は、やろうとしていることに取り組むのが嫌になり、諦めたくなり、結果的に会社が終わってしまうからです。

奇妙なことですが、良くないアイデアに取り組んでいる時よりも、むち打ち症になって落ち込んでいる時のほうが、会社にとってより致命的な状態です。なぜなら、良くないアイデアであっても、嬉々として取り組んでいればそれを諦めることもなく、場合によってはうまくいくかもしれないからです。スタートアップに取り組んでいる時に非常に辛い思いをして自分の人生を憎んでいたら、絶対に成功しないでしょう。なぜなら、途中で諦めてしまうからです。

おかしな話ではありますが、ベストではないアイデアのほうが仕事を楽しめるなら、楽しめるほうに取り組むべきです。

また、妥協点を見つけることも重要です。創業者はピボットし過ぎる傾向にあります。この講義を見て1日1回のピボットを6週間続ける人もいるかもしれません。そういうことはしないでください。

そして、同じアイデアに5年間取り組み続けてうまくいかず、それに関して[聞き取り不能]となる人もいます。人生における他のことと同じように、妥協点を見つけてください。

また、従業員を抱えながらのピボットはとても難しいので、しないようにしましょう。これはビジネスを滞らせると共に、従業員を悲しませることになります。自分のアイデアについてまだよく理解できていない、あるいはアイデアが変わるかもしれない状態でチームのスケールアップを目指すことや、ここでの講義で聞いたチームのスケール方法に関する全てのアドバイスを実行するような行為は、決してベストプラクティスとは言えません。ビジネスを悪化させるだけです。私なら、自分のアイデアが軌道に乗ってきて自信が持てた時に初めてチームに人員を補充します。そうでなければ、ビジネスにとってマイナス要素にしかならないからです。

アイデアの評価法

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ここで話題を変えましょう。これは本日の講義のために私が考えたクオリティスコアに関する主観的な概念で、アイデアを評価する時の基準をいくつか示しています。まず、アイデアのクオリティを評価する時に使える重要な4つのポイントについて、それぞれ1~10までのスコアを付け、最後にその平均値を全体のクオリティスコアとする、というものです。

では、1つずつ見ていきましょう。1つ目は「そのアイデアにはどれだけの市場規模がありそうか?」です。これはすでにお話ししたことですね。誰もが知っている上場企業並みの規模でしょうか?例えば、Teslaは新しい自動車会社ですが、上場している自動車会社はたくさんありますから、市場規模は非常に大きく見えます。

新しい銀行はどうでしょうか。上場している銀行はたくさんありますから、これも非常に大きく見えます。スペクトルの反対側は、そうですね、例えばSubwayです。「Subwayのフランチャイズをやろう」というのはスペクトルの対極になります。また、「何かを輸入してeBayで売ろう」といったものは、大きさが把握しにくいですね。

2つ目は「Founder/Market Fit」で、これは非常に重要です。これが10点満点となるのは「私は学部在学中に自動運転車のチームにいて、キャリアを自動運転車に費やしてきた。だから今、自動運転車のスタートアップを始めよう」という場合です。これは文句なく10点満点です。0点なのは、「プログラミングは一切できないけれど、高性能AIのスタートアップを始めよう」といった場合です。これは10点満点中、0点です、お勧めしません。

3つ目は「始め易さ」ですが、これは意外と軽視されている点だと思います。皆さんが理解されているかわかりませんが、これは実は非常に重要で、始めるのが容易なアイデアは非常にお勧めです。とても優れたアイデアであるにもかかわらず、創業者が良い始め方を見つけられなくてうまくいかず、しばらくして別の誰かが同じアイデアを遥かに良い方法で始めて成功する、ということは世の中に数多く存在します。そして、うまくいかなかったほうの創業者は、「あれはもともと自分が考えていたのに」と悔しがるわけです。ですから、私は、始めるのが容易なアイデアを見つけることはアイデア自体と同じくらい重要だと思っています。

最後の4つ目が「初期市場における顧客からのフィードバック」で、これは単純に、直ちに必要とされていて売れるものか、または不可能であるか、を意味します。これから、私が一緒に仕事をして、YCでもアドバイスをした会社の例をいくつか紹介します。聞いたことがある会社も、そうでない会社もあるでしょう。

Brex のピボット前後の事例

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1つ目はBrexです。彼らは2017年冬期のYCに参加していましたが、私は資金を提供して別のアイデアに方向転換させました。ピボットするにあたり、私たちはたくさんの話をし、彼らはバッチ中にピボットしました。彼らはかなり早くにProduct/Market Fitに到達し、現在までに数億ドルの資金調達を果たし、2年で数十億ドルの価値が付いています。彼らのエピソードは、稀有なアウトライヤーの1つでしょう。こうしたエピソードは滅多にないものですが、私は幸いにして史上最高のピボットを最前列で観戦することができたと思っています。他にも例はあるかもしれませんが、この件に関しては「実にうまくやってのけたな」と思いました。

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では、彼らのピボットの前と後について説明しましょう。これは創業時の彼らです。彼らは、仕事や他の何かの際に使える新型VRヘッドセットのアイデアを持っていました。その時の彼らのスコアがこれです。ちなみにこれは当時付けたスコアではなく、今、私が付けたものです。

まず、「そのアイデアにはどれだけの市場規模がありそうか?」ですが、これは、そこそこ大きく見えます。VRヘッドセットの上場会社はありませんが、将来的に存在する可能性は見えますよね?

Founder/Market Fitは10点満点中、1点としました。Brexの創業者たちは、ハードウェアや光学、それらに関することを何も知りませんでした。彼らはFintechのソフトウェア分野の出身であったため、自分たちが取り組んでいるものについて精通しておらず、そのことを非常に素直に認めていました。

「始め易さ」はわずか2点です。これは、試作品開発にハードウェアを理解している人間を雇う必要があったためです。これは良い兆候とは言えません。彼らは試作品開発に数百万ドル必要としており、これも良い兆候とは言えません。そして、製造には何年もかかる見込みでした。これも良くありません。

最後に「初期市場における顧客からのフィードバック」です。彼らはユーザーを訪ねて話を聞き、「これを使いたいですか?」と聞いていましたが、使いたいという人は1人もいませんでした。これもまた、良くありません。というわけで、全体スコアは10点満点中、2.5点となりました。

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ではピボット後の話に移りましょう。彼らがピボット先として選んだのがスタートアップ向けのクレジットカードでした。これはかなり大きな市場があるように思えました。Fintech企業で上場している会社はたくさんあります。ご存知のように、スタートアップの世界でもSquareやStripeがあり、こうしたことを手がける会社の事例はたくさんあります。ですから、これは10点満点としました。

Founder/Market Fitは10点満点としました。彼らはこれ以前にブラジルでFintech企業を立ち上げて成功を収め、2~3,000万ドルで売却していたためです。つまり、彼らは自分たちが扱っているものについて正確に理解していたため、自分たちで全てのコードを書いてリリースすることができ、関係する様々な人とのコネクションもすでに持っていました。ピボット前よりも遥かにフィットしていたということです。

「始め易さ」は10点満点中、3点と辛口の評価をしました。なぜなら、新しいクレジットカードをプロダクトとしてローンチするのは難しいからです。これはFounder/Market Fitがない場合、気軽に試すべきものではないと思います。彼らの場合は、Founder/Market Fitがプラスに働きました。

最後の「初期市場における顧客からのフィードバック」は10点満点中、8点を付けました。これは、バッチで彼らは「クレジットカードは持っていますか?顧客になりたいですか?」と尋ねて回り、「はい」という回答を得ていたからです。それが彼らのセールスプロセスの全てでした。私は実際にそういった場面を何回も目撃しました。ですから、こういったセールスプロセスでも、機能していれば問題ありません。これはいわば3行のセールスプロセスですが、相手は「はい」と答えていますから、問題ないわけです。

Retool のピボット前後の事例

次の事例はRetoolです。

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彼らは2017年冬期のYCに参加した、実に優れたSaaS企業です。皆さんもこの会社は本当にチェックすべきで、もしかしたら使うべきかもしれません。Retoolは社内ツールを開発するための非常に優れたツールで、私は社内管理ページの作成に使ってみるよう、全てのYCスタートアップに勧めています。Retoolは実によくできたプロダクトです。皆さんも是非チェックしてみてください。

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ピボット前は英国版Venmoでした。「そのアイデアにはどれだけの市場規模がありそうか?」はVenmoが大きいですから、かなり大きく思えます。Founder/Market Fitは10点満点中、3点としました。彼らはFintechについて何も知りませんでしたが、何とかローンチにこぎつけたため、フィットする何かがあったと言えます。

「始め易さ」は10点満点中、7点としました。これは、彼らがすでにローンチし、多くのユーザーを獲得していたからです。これには非常に感心しました。しかし、「初期市場における顧客からのフィードバック」は10点満点中、3点でした。これは彼らのプロダクトにお金を出したいという人が誰もおらず、トランザクション発生毎に損失を出していたからです。

ビジネスがうまくいかないという理由がこれだけあったため、彼らはピボットすることに決めました。これは、いわゆる注意すべきトラクションがある場合の事例です。彼らには、事業の断念を決めかねるだけの十分なトラクションがあったからです。彼らはユーザーを獲得し、ビジネスが回っていましたから、これは慎重を要する決断でした。

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それはともかく、ピボット後のRetoolはコード不要の社内ツールビルダーとなりましたが、市場規模は10点満点のように思えます。なぜなら、世の中で開発されているソフトウェアの80%は、いわゆる大企業による外部用ソフトウェアではなく、社内使用を目的としているものだからです。ですから、私の目には大きな市場があるように映りました。Founder/Market Fitは10点満点としました。創業者の1人が大学のインターンシップでこれに似たものを作っており、彼はどんなプロダクトにすべきかについて非常に優れたアイデアを持っており、関連する要素が揃っていたからです。

そして、これは始めるのが容易でした。彼らは2週間でプロダクトを完成させ、最初の顧客を獲得しました。素晴らしいですね。そして、「初期市場における顧客からのフィードバック」は10点満点中、5点としました。ユーザーは興味を示していましたが、新しいスタートアップが手がけるものを信用して良いのか確信を持てずにいたため、「飛ぶように売れる」というわけにはいかなかったからです。

彼らはどうにか、ある程度のユーザーを獲得しましたが、これは即時的かつ明確なProduct/Market Fitではなかったため、少し手直しすることになりました。とはいえ、これは素晴らしいピボットの例です。

Magic のピボット前後の事例

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次の事例はMagicです。彼らは2015年冬期のYCに参加してバッチ中にピボットした会社で、彼らの素晴らしいところは収益性と持続可能性を両立させた会社を作り上げた点です。すごいですね。私たちもあやかりたいものです。彼らはどのようにして、そのような会社を作ったのでしょうか?

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彼らはもともと、血圧測定アプリというアイデアでスタートしました。これは自分の血圧を入力すると、その下げ方を教えてくれるというアプリでした。これは市場規模の大きなアイデアに見えませんでしたので、10点満点中、2点としました。

Founder/Market Fitについてですが、彼らは健康やそれに関する知識は全くといって良いほどなかったため10点満点中、2点といったところでしょう。「始め易さ」は10点満点中、8点としました。これは、彼らはかなりの短期間でアプリを完成させてユーザーを獲得し、全てのアドバイスに従っていたからです。この点は評価できます。

そして「初期市場における顧客からのフィードバック」は低い点を付けました。ユーザーが皆とても礼儀正しく、誰も「これはひどい」という本音を言ってくれなかっただけで、利用率は本当に悲惨な状況でした。

繰り返しになりますが、これは明らかにピボットすべき状態でした。彼らはわりと早い段階に、自分たちでそのことに気付きました。

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そしてピボットした彼らは、多くの試作品を作りました。実はMagicの試作品は、ある週末に一気に作り上げたものです。これは冗談ではなく事実です。誇張話ではありません。

そしてこれをHacker Newsに載せるとナンバーワンになり、約2,000のupvoteを獲得し、一夜にして爆発的人気を博しました。このことを覚えている人がいるかわかりませんが、これはものすごいヴァイラルで、彼らはあらゆるメディアで紹介されました。

これは私が先ほど触れた、シュートの回数とゴールの確率の話の事例でもあります。彼らは5つほどアイデアを持っていましたが、その中でこれが世界中の人々の心を掴むものになるとは、私も彼らも、知るよしもありませんでした。しかし、現実はそうなったわけです。この件も、明確なFounder/Market Fitはありませんでしたが、始めるのは実に容易であったと共に、「初期市場における顧客からのフィードバック」も良いものが集まり、かなり規模が大きいように思えます。これは素晴らしい事例です。

また、これは結果的に非常に多くのコピーを生み出すことになりました。つまり、chatbot関連のビジネスを手がけている人は皆、その爆発的人気にあやかった直系子孫とも考えられます。誰もが「chatbotこそ、私たちの未来だ」などと言うようになったのは、すさまじいヴァイラルを引き起こし非常に多くの人を刺激したことの二次効果とも言えます。

Segment のピボット前後の事例

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次はSegmentです。2011年夏期のYCに参加していた彼らはバッチ後の数年を含めピボットを繰り返し、軌道に乗るまで実に長い時間を要しました。彼らはバッチ中にはピボットすらしませんでしたが、今や数十億ドルの価値を有する優良企業です。データインフラ業界の中ではトップです。

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ピボット前の彼らは、教室内で使うフィードバックツールを手がけていました。これは、授業を受ける学生に渡しておき、授業の内容がわからなくなった時にそれを知らせることができる、という内容だったと思います。混乱してきた学生がボタンを押すと、それが教授に伝わる、という仕組みでした。

まず市場規模ですが、これは私の目には、そこまで大きな市場規模があるようには映りませんでした。Founder/Market Fitについては、彼らが若く、学生であったため、10点満点中、5点としました。彼らは教育の専門家ではありませんでしたが、学生の立場を良く理解していたからです。また、始めるのは容易でした。彼らのプロダクト開発は非常に早かったからです。「初期市場における顧客からのフィードバック」も、かなり良かったです。教授陣がこのプロダクトを気に入り、採用する学校が多くあったからです。そのため、セールスはうまくいきましたが、最終的に大成功には至らず、ピボットまで数年かかりました。

彼らがピボットしたのは幸いでした。なぜなら、Segmentは誰もが使うべきデータ収集ツールだからです。

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ピボット後のスコアを見ていきますと、まず、これは「明らかに大きな市場がある」とは思えませんでした。この中でSegmentを使ったことがある人はいますか?Segmentはページ内で使うJavaScript系のツールで、他のツールと連携する機能を持っています。当時は、彼らが上場会社になるかどうか、鮮明にはわかりませんでしたが、Founder/Market Fitは完璧でした。なぜなら、彼らは多くのアナリティクスツールを作っていたからです。プロダクト開発時、彼らはすでにアナリティクスに関する世界レベルの専門家でした。

始めるのも容易でした。彼らは自らプロダクトを開発し、オープンソース化し、無償で配布し、ユーザーは彼らにサポートを依頼したためです。つまり、市場がこのプロダクトの存続を熱望したわけです。彼らは当初、これが会社だとは思っていませんでした。とりあえずGitHubに載せたところ、非常に多くの人が彼らの作ったプロダクトに夢中になったため、「これは『このビジネスを法人化すべし』という市場からのメッセージだ」と考え、実際に法人化した、というわけです。

始めるのが容易で市場からの良好なフィードバックがある、つまり人々からそのプロダクトを求められる時、また、自分では大したものではないと思っているのに、ユーザーが「いや、これは素晴らしい」とあなたを説得する必要があるような場合、それは実に良い兆候です。ですから、これは良いピボットでした。

まとめ

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まとめに入りましょう。本日の講義では、私が個人的に仕事をした極めてリアルな事例を挙げて、意思決定の前後やその方法を説明しました。アイデアの変更はスタートアップの一部です。機会費用や成功のチャンスという点から、軌道修正は早ければ早いほど良いです。特にアーリーステージにおいてアイデアの変更を検討している時、それを重大事件として考える必要はありません。

むしろアイデアの変更は常時すべきであり、その際はベストプラクティスを参考にすることをお勧めします。それらのベストプラクティスについて、本日の講義で説明できていれば幸いです。科学的思考が得意な人であれば、自分のスタートアップが成功する確率を劇的に高めることができるでしょう。そうなれば最高です。

講義は以上になります。ありがとうございました。

Q&A

では、質疑応答の時間にしましょう。はい、そこの方どうぞ。

話者2
ピボットして軌道修正をしようと考えている時、参入障壁はどれほど重要になりますか?

Dalton Caldwell
参入障壁の重要性ですか?それは創業者次第だと思います。皆さんが心から「これを作るぞ」と思っているものに参入障壁が存在せず、あらゆる人がそれを真似できてしまう場合、それは素晴らしい状況とは言えないかもしれません。しかし、先ほど説明しましたように、Magicの事例や、その他多くのコピーのように、実行以外の参入障壁はない、というケースもあります。

ただし、ほんの初期の頃であったとしてもアイデアに関して不安がある場合、それは考え直すべきだというシグナルとも言えるでしょう。そう思いませんか?要するに、「それが最も心配すべきものなのか、そうでもないものなのか」を決めるのは創業者の考え方次第です。

話者2
わかりました、ありがとうございました。

話者3
Dalton、講義をありがとうございました。では、[聞き取り不能]ピボット前の種類は[聞き取り不能]?

Dalton Caldwell
はい。Brexのケースでは、創業者たちは以前に会社を立ち上げて大きな成功を収めており、強い意欲があったため、私はかなりの確信がありました。彼ら自身ですら、それが自分たちにとって最適なアイデアであるという確信が持てない状態でしたが、それを手がけるための技術的スキルを持っていることは明らかでした。

Magicも同じ事例だと思います。彼らはプロダクトを作り、ローンチし、早い段階でトラクションを獲得し、チームには優れたスキルがありました。Retoolは、何万人というユーザーが存在する実に有名なアプリを英国でリリースしていました。彼らは皆、何かを持っていたわけです。一定水準に達している何かを持っていて、わくわくするような魅力を持っていました。それが主な理由でした。これは、この講義でアドバイスしていること全てに合致するものだと思います。何かを作ってユーザーに提供した時、適切なものが全て揃っていれば、人々はそれを試してくれるでしょう。では今度はこちら側の人から質問を受けましょう。はい、どうぞ。

話者4
はい。[聞き取り不能0]。創業者はピボットすべき時期だと考えているが、チームはそう考えていない状況の場合、どう対処すれば良いでしょうか?

Dalton Caldwell
創業者はピボットすべき時期だと考えている、しかしチームはピボットすべきでないと考えている状況にどう対処するか、という質問ですね?

これは、チームを設けるのが早すぎると良くない理由の1つです。なぜなら、大所帯のチームができてからのピボットは士気の低下という問題に直面するからです。従業員は仕事をするために雇われています。あなたがチームのメンバーとして何かに取り組んでいる場合、例えばSlackで働いていてゲーム開発に携わっているとします。ある日突然、「今までのはほんの冗談だったよ、これからは別のことをやるよ」と言われたとしたら、当然、「は?何を言っているんだ?」と思うでしょう。従業員にはそれぞれキャリアがあり、目標があります。考え方も創業者とは違います。

想像してみてください。皆さんの中に、働いている会社がピボットした、という経験がある人はいますか?これはかなり厄介な体験です。従業員にそれを経験させるのは良いこととは言えません。従業員に残ってもらいたい場合は、全力で説得をし、彼らの意見に耳を傾ける必要があります。

しかし結果的には、「私はプロジェクトXのためにこの会社に来たのに、あなたはプロジェクトYをやろうとしている」と言い出す人もいるでしょう。そういった人とは袂を分かつことになるかもしれませんし、彼らに何か落ち度があったわけでもありません。往々にして人は何らかのミッションやアイデアのために会社に加わっています。創業者がアイデアを変更しようとすれば、従業員から「そんなことには興味がない」と言われる可能性は高いでしょう。はい、そこの方どうぞ。

話者5
初期フェーズにおいて、市場の大きさをどのように判断すればよいでしょうか?例えば[聞き取り不能]、[聞き取り不能]となるアイデアを持っていて開始した[聞き取り不能]からかもしれないのでは?

Dalton Caldwell
市場の大きさをどのように理解するかということですね?今日は皆さんにいくつかの事例を紹介しましたが、考え過ぎる必要はないと思います。あなたの考えているアイデアに、誰かが多額の資金を迅速かつ簡単に提供してくれて、早くから利益を生み出すことが明白である場合、それは一般的に良い兆候と言えます。

私はGartnerの研究などを読み込むのは賢い時間の使い方ではないと思います。複雑なアイデアなしに早くから利益を生み出す方法がはっきりとわかっているのは、良い兆候です。

反対に、誰かがお金を払ってくれると想像するのが難しいものに取り組んでいる場合、または数億ドルを消費もしくは調達する必要がある場合、それは一般に困難な道のりとなる兆候です。要するに、皆さん次第、ということです。そこの青い服の方、どうぞ。

話者6
先ほどのお話では、十分なトラクションがなく、多くの[聞き取り不能]つまり、わずかなトラクションがあるより、トラクションがないほうがベターだ、という話がありましたが、[聞き取り不能]があると把握するために[聞き取り不能]すべきわずかなトラクションとはどんなものでしょうか?

Dalton Caldwell
避けるべきわずかなトラクションとはどのようなものかということですね?それは基本的に成長曲線がフラットな場合、つまり、何らかのアーリーユーザーや顧客がいるものの、フラットな場合です。なんとかして数字を押し上げようと思っているのに、何をしてもフラットなままで事態が好転しない場合です。多大な労力をつぎ込んでいるのに、あまりフィードバックが得られない状態、物事が好転する気配がなく、むしろ困難になっているような状態です。

これは非常に主観的な話であることは認めますが、オフィスアワーにProduct/Market Fitに到達していない創業者と話をすればすぐにわかります。なぜなら、彼らはあらゆることを試みているのに、うまくいかないことに苛立っているからです。ですから、フラットライン、つまり全体的な成長が水平になっている状態は、注意すべきトラクションを発見する良いポイントと言えます。はい、後ろの方、どうぞ。

話者7
冒頭の自己紹介で、あなたはアドミッション部門の責任者とおっしゃっていました。私たちはメインスクールへの応募に興味があります。[聞き取り不能]エンタープライズのローンチ前にあります。次の[聞き取り不能]で私たちがフォーカスすべきものは何でしょうか?応募の締め切りは9月25日だったと思います。

Dalton Caldwell
ローンチ前にYCへ応募するにあたり、フォーカスすべきものは何かということですね?ここで全てを説明する必要はありませんが、ローンチ前ではないほうが良いです。ローンチは、皆さんの力を実証する優れた方法です。そのためにアイデアを変更する必要があるかもしれませんが、自力でローンチして必要なプロセスを経ていれば、非常に優れていることを証明できます。最終的に自分のアイデアを変更することになっても、です。最も困難なケースは、ローンチ前である場合です。はい、次の方。

話者8
App.netに関して、質問が2つあります。まず、ピボットではなく中止としたのはどういう考えからだったのでしょうか?また、そのタイミングが悪かったと思っていますか?なぜなら、現在、多くのクリプトネットワークが似たようなものをローンチしていますし、何かを作り出そうと活動しているコミュニティがあるからです。

Dalton Caldwell
私が関与していた会社の1つに関する質問ですね。これについては今日、話をしていませんでした。私自身はおそらく7~8回ピボットしており、自身のスタートアップで様々なことをしてきました。今の質問は、そうした会社の1つに関する具体的な質問ですね。App.netのユースケースに関しては、それに取り組むのが楽しくなくなったから、と言えます。先ほど皆さんにアドバイスしたように、「自分の正直な気持ち」に従ったわけです。私自身が楽しくなかった、というのが理由ですから市場については何とも言えませんが、話せば長くなるでしょう。

要するに、私自身のアドバイスに従った、ということです。「これに時間を使うべきだ」という情熱や興奮を失ったため、あのような意思決定に至りました。はい、次の方。

話者9
先日の講義でKevinがSISP(問題を探しているソリューション)について話をされました。私たちはあるプロダクトに1年間取り組んでいて、それが別の問題にも使えるのではないかと考えています。他の問題にもとてもうまく機能するわけです。これはいわゆるSISPのケースになりますが、これはピボットとカウントされるでしょうか?

Dalton Caldwell
なるほど。アイデアに1年間取り組んでいてまだリリースできていないが、別の市場に販売できる可能性があることに気付いた、という話ですね?私の答えは、「極めて迅速にテストまでこぎつけられるか?」です。私は、そういった重要な決断を迫られている人にはいつも、「1~3週間のうちに他の市場でテストする方法を見つけられるか?」という話をします。見つけられるなら、是非そうすべきです。

しかし、「そのためにはもう1年必要で、市場からのフィードバックも得られない」という場合には難しいと思います。何かに多大な時間を費やしている場合は特に、それを極めて迅速に実証もしくはテストできる方法、または顧客を獲得できる方法を探すことです。恐らく、あなたはすでにかなりの労力を費やしてプロダクトを作ってきたのだと思いますから、その新しい市場で迅速なフィードバックを得て、早いうちに顧客を獲得でき、うまくいくよう願っています。はい、次の方。

話者10
1点補足させてください。SISPというのは起業のスタートの時点でこれを回避するためのコンセプトです。ユーザーがいない、あるいは解決できる問題が見つかっていない状態で何かを作るべきではありません。そういった状態はスタートアップの開始を、より困難なものにします。すでに何かを作り上げている場合は、「自分は解決すべき問題を見つけられない。だから、これまでやってきたことは全て諦めなくてはいけない」といった状態にならないようにしましょう。これらは別個の問題です。

自分が、「これは難しいことになりそうだ」という状況にいると気付いたら、考えるべきポイントは「ピボットする必要があるか?変更する必要があるか?最終的にその問題にぴったり合うものが見つかるか?」になります。とにかくSISPは状況をはるかに困難にさせます。ですから、皆さんがこういう状況にいる場合、「成長を見出せる可能性がある場所にピボットすべきではないか」と考える必要があります。

Dalton Caldwell
次を最後の質問にしましょう。はい、何でしょう?

話者11
自分が「迅速である」のか「迅速ではない」のか、判断する境界線のようなものはあるのでしょうか?

Dalton Caldwell
「迅速である」か「迅速ではない」かを区別する境界線はあるか、という質問ですね?これは興味深く、且つ主観的なテーマです。世の中には、起業して5年間、世間から離れてプロダクトの開発に取り組んだ人の素晴らしい逸話もあります。逸話に関してお話しした時も触れたように、世間から5年も離れて物作りに取り組み、アイデアも優れている、というケースもあります。それは素晴らしいことです。

しかし一般的には、迅速かそうでないか、というのは状況によると思います。手がけているのがバイオテクノロジーなどである場合は数ヵ月から数年の時間単位で動くでしょう。しかし、単なるソフトウェアである場合は、かなり速く開発してユーザーに提供できるでしょうし、週単位のサイクルで反復し、大きな進捗があるようにすべきです。月レベルではなく週レベルでなければいけません。

新たなアイデアを試し、それをテストする、バージョンとしてローンチする、または顧客から多くのフィードバックを獲得するのに数ヵ月以上かかる場合、それは遅すぎるでしょう。

しかし、先ほども言いましたように、これは少し厄介なテーマです。皆、私のところに来て、「具体的なメトリックは何ですか?」と聞きますが、これは状況によって非常に大きく変わるものです。そのため、私は具体例を挙げて説明を試みているわけです。紹介した会社は、それぞれ異なるサイクルを持っていましたよね。Magicのケースはかなり短期間で、ピボットと反復までは文字どおり数日でした。Brexのケースは数ヵ月でした。ですから、これはアイデアによる部分が大きいと思います。

話者11
ソフトウェアでは10週未満というのは、経験則として良いレベルでしょうか?

Dalton Caldwell
そうですね、ソフトウェアにおける10週未満というのは、大きな進捗があった、多くのことを学べたと感じる最低限の期間だと思います。私はよく、「何を学びましたか?」という質問をします。それを明確に答えられない場合、つまり、何かを学び取っている途中で、仮説を再評価したり変更したりしている途中であると感じられない場合は、迅速に行動していないことになります。創業者は常に、新しいことを学び続けている状態でなくてはなりません。

では、本日はお疲れ様でした。皆さん、ありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: All About Pivoting (2019)

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