スタートアップで失敗しないための完全なリスト

Jessica Livingston (※ Y Combinator の共同創業者の一人) が第3回の女性創業者カンファレンス (Female Founders Conferece) で行なったキーノートスピーチの内容を紹介します。同カンファレンスでは女性がリーダーを務めるスタートアップ企業の方々が800人以上集まりました。

Jessica はYCで1000社以上の企業を見てきた経験があり、創業者として成功するために何が必要か、彼女が学んだことを共有してくれています。彼女は集中の妨げになるものを避けることと、人が欲しいと思うものを作ることの重要性を強調します:

「人が欲しいと思うものを作らなければ、あなたがやる他のことも一切無意味になります。あなたが最高のスポークスパーソンであろうと、最高の資金調達者であろうと、最高のプログラマーであろうと、本当のニーズを満たすプロダクトを作らなければ、あなたは絶対に成功しません。[…]

女性であることがより困難をもたらすということはお伝えしますが、一方で、それは成功と失敗を分けるほどの困難にはならないこともお伝えしておきます。スタートアップを始めたいと思うなら、ぜひやってみるべきです。雑音にひるんだり、気を削がれたりしないことです。」

以下にて、トーク全体の視聴や内容を読むことができます。

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今日はまず個人的なニュースから始めたいと思います。Y Combinator で10年働いた今、私は次の1年をサバティカル(長期休暇)に充てることにします。いくつか集中したいプロジェクトがあるのと、正直に言えば、少し疲れたのです。YCは私が世界中で大好きなものの一つですが、私のすべてを全力投球しなければならないものでもあり、そして11年間休みなく全力投球を続けることは難しいことでした。また私の息子たちと過ごす時間も増やしたいと思っています。二人は今7歳と4歳で、この時間は後から取り戻せません。ですからこのカンファレンスが終わったらすぐくらいのタイミングで、私はサバティカルに入ります。

そこで私の今回のトークのトピックになります。私がいない間にみなさんに覚えておいてもらいたいことをお伝えします。私の不在中YCの創業者たちに何を覚えておいてもらいたいかを考えていたとき、彼らに伝えたいことすべてがみなさんにも同様に当てはまることに気づきました。ですからYC創業者に向けるアドバイスと同じことをお伝えします。

1. 人が欲しいと思うものを作る

これはYCのモットーであり、11年の年月と1000社以上の会社を経験した今、この点を選び出したのは正しいと確信しています。人が欲しいと思うものを作らなければ、あなたがやる他のことも一切無意味になります。あなたが最高のスポークスパーソンであろうと、最高の資金調達者であろうと、最高のプログラマーであろうと、本当のニーズを満たすプロダクトを作らなければ、あなたは絶対に成功しません。

まだアイデアを探している段階の人へのアドバイスとしては、みなさん自身が抱えている問題を解決することです。そうすれば少なくとも一人は求めているものだとわかります。そしてあなたがターゲット市場の一部なら、そうでなければ理解できないようなインサイトがわかるようになります。

ただし、なるべく早い段階で、自分だけのためのもの作りから他の人々のためのもの作りへと脱却すべきです。他の人々が求めるものを知るには、彼らのことを理解する必要があります。彼らはこれまであなたが作ってきたものを気に入っていますか? 気に入っていないとしたら、それはなぜ? 可能な限りユーザーと話しましょう。すぐには労力に見合った果実が得られないとしてもです。ユーザーとの対話に時間をかけすぎたと後悔するスタートアップを私は1社も知りません。また、アイデアを修正していく心の準備もしておいてください。

よいアイデアというものはほとんどが進化するものだからです。

そのような進化の例でYCコミュニティで最も有名なものはAirbnbでしょう。Airbnbは当初はカンファレンス参加者に向けて床にエアマットレスを敷いて提供するところから始まり、それからカンファレンス以外の場所で床にエアマットレスを敷いて提供し、その後は実際の寝室空間へと移り、それから家等の場所全体になりました。その最後のステップが実現したのは驚くことに、バリー・マニローがツアーを行なったためでした。バリー・マニローのドラマーは、初期Airbnbのホストだったのです。その頃はまだホストが実際にその場にいなければならなかった時代でした。ある日彼は、バリーとツアーに出るので不在中に家ごと貸し出してもよいかとAirbnbに尋ねたのです。Airbnbは熟考を迫られました。当時はまだAirbnbではなくAirBedAndBreakfastでしたから、ゲストへの朝食提供が必要だったのです! しかし最終的にAirbnbはイエスと答え、今ではこのタイプの宿泊がそのビジネスのほとんどを占めています。

ユーザーはあなたの道しるべです。スタートアップの初期段階に正しい道筋を進む方法は、ものを作ってユーザーと話すこと。それ以外に何もありません。

2. フォーカスを失わない

私たちが出資してきた1000社のスタートアップに見られた明確なパターンとして、最も成功する創業者は常にプロダクトとユーザーに完全に集中しているということが挙げられます。それは異常なまでの集中ぶりです。最優秀レベルの創業者には他のことに気を取られる暇なんてありません。

以下は創業者が簡単に気を取られがちなことのリストです。スタートアップにおける「羊の皮を被った狼」のようなものと言えます。

  • 投資家とコーヒーを飲みに行く
  • 買収を持ちかけてくる人と話す
  • ネットワーキング
  • アドバイザー(顧問)を採用する
  • ユーザー増加を期待して他社と「パートナーシップ」を結ぶ
  • 人が欲しがるものがまだできていないにも関わらずPRに時間を費やす
  • ソーシャルメディアで議論する
  • カンファレンスに出席する
  • テック業界で女性であることについて悩む

このリストで、みなさんが本来ここにいるべきではないと暗にお伝えしていることにお気づきでしょうか。私はこの通りカンファレンスで登壇しながら、みなさんはカンファレンスなど行ってはいけませんよ、とみなさんに対して言っています。正直に言って実際、原則としてはここにいるべきではないのです。だからこそ私たちはこのカンファレンスを素晴らしいものにするべく、多大な努力を払っています。なぜならこのカンファレンスはみなさんがもの作りやユーザーとの対話に費やすべき時間よりも有用なものでなくてはなりませんし、それはとても高いハードルなのですから。

3. 女性であることを気にしない

この点についてもう少しお話したいと思いました。テック業界で女性であることはリストの中でもこのオーディエンスに特定のトピックだからです。

スタートアップ創業者として女性が直面する本物の障壁はいくつか存在します。でもこのトピックについては単に言われがちなことやノイズが多すぎて、未来の創業者となりうる女性も遠ざけてしまうのではないかと懸念しています。また、すべてを吟味して何が正しいか正しくないかを見分けるのも難しいことです。このトピックにまつわる議論は、実際に自分たちでものを作っていない人たちにより行われていることが多すぎます。そして他のトピックと同様、メディアがこの問題に向ける注目度は、問題の大きさではなくページビューを生むポテンシャルにより決まります。論争が起きれば起きるほどページビューが生まれるのですから、メディアは論争について書き立てるのです。静かに、成功裡に会社を築き上げている多くの女性のことはそれほど耳に入ってこないものです。

私にはページビューなどどうだっていいことです。私にとって大事なのは、私がどのように女性創業者をサポートできるか、ということです。

私のやり方は、女性がスタートアップを始めることを応援し、始めた女性が成功することを助けることです。ですから女性であることはより困難をもたらすということはお伝えしますが、一方で、それは成功と失敗を分けるほどの困難とはならないということもお伝えしておきます。スタートアップを始めたいと思うなら、ぜひやってみるべきです。雑音にひるんだり、気を削がれたりしないようにしてください…女性には難しい、などと言うニュース記事やTwitter上の議論等に負けずに。それがあなた個人にとって最善のプランとなるだけでなく、この問題を解決する最善の方法ともなります。

4. 成長を測る

私がお伝えした最初の2点、つまり人が欲しいと思うものを作ることと集中することを行えば、結果的に成長できます。そして成長は、この2点がきちんとできているかを試すためにも使えます。もし成長率が良好である場合、スタートアップにおいてそれは毎月最低10%となりますが、正しい道筋にあると言えるでしょう。もし成長率が良好でなければ、私がお伝えした2つの点のうちのどちらかが満たされていないはずです。間違ったものを作っているか、集中できていないか、そのどちらかです。

私たちがY Combinatorでよく言う有名なフレーズがあります:「あなたが測るものは、あなたが作るものである」というものです。あなたが目指す成長の数字を選んで、それに集中しましょう。選ぶのに最も良い数字はおなじみの「売上」です。人が求めるものを本当に作れているかを測るうえで、これより良い指標はありません。

また、成長に集中すると否認状態に陥ることも予防することができます。否認状態に陥ることはスタートアップ創業者にとって大きな危険なことです。どういうわけか、スタートアップで直面する多くの問題は否認状態を引き起こす傾向があります。困難な問題ばかりだからかもしれません。

間違ったもの作りをしている創業者は否認状態に陥っていることがよくあります。本質的でないものに時間を浪費する創業者は、しばしば否認状態に陥っています。否認はスタートアップにとってのサイレントキラーです。でももしあなたが成長目標に集中すれば、否認状態に陥り続けることはできないはずです。良い数字も悪い数字も、あなたを正面から見つめますから。

もちろん、あなたが成長目標に食らいつく必要性を否認している場合は別です。驚くことに、このことはしょっちゅう起こります。私たちは創業者が「今は成長には集中していません」と言うのを常に耳にします。そうすることが正しいときもありますが、創業者がそう言ってから通常どうなるかは、お伝えするまでもありません。

5. 自社がデフォルト・アライブ状態にあるか知っておく

ただし、成長だけでは十分ではありません。成長率が良好でも、資金が底をついてさらなる資金を調達できなければ死んでしまうこともあり得ます。

ここで肝となる問題は、あなたの会社が私たちが言うところの「デフォルト・アライブ」か、それとも「デフォルト・デッド」かと言うことです。デフォルト・アライブとは、会社の支出が一定で、収益が一定に伸び続けている状態を言い、資金が底をつく前に収支がトントンになります。デフォルト・デッドの場合は、そうなりません。

さて、ここですべてのYC創業者のみなさんに、私たちに向けてみなさんの会社がそのどちらなのかを言っていただき、投資家アップデート作業を始めていただきたいと思います。なぜなら資金が底をつきそうな状態は、創業者がよく否認しがちな危険な問題だからです。自分の会社がデフォルト・アライブなのかデフォルト・デッドなのかさえ知らない創業者がどれほど多いことか、みなさんも驚くことでしょう。

6. 支出は少なく保つ

スタートアップはなぜ資金が底をつくのでしょう? お金を使いすぎるからです。そしてほとんどのスタートアップにとって主な支出は給与ですから、お金の使いすぎ=人を多く雇いすぎ、と言うことになります。雇いすぎは人が欲しがらないものを作ることと同様、スタートアップの第2段階で起こる大きな過ちです。

私は雇いすぎがどんなに危険なことか知っています。なぜならYCスタートアップは私たちが口を酸っぱくして注意するにも関わらず、常にこの間違いを犯すからです。

雇いすぎの問題は、ミスをカバーする余裕が失われることにあります。銀行にある資金を使うスピードが速いほど、収益力を生み出す時間が少なくなります。しかしスタートアップは通常経験不足の創業者が運営し、今までにない新しいものを手がけているため、うまくいくのに想定よりも長い時間がかかる類のことなのです。これは死の組み合わせです。うまくいく前に資金が底をつき始めたら、会社がまだ「みにくいアヒルの子」の段階にあるのにさらに資金調達しなければならないからです。ちゃんと正しい道筋に乗っているとしても、見え方が悪いのです。投資家はそのような会社を好みません。

ですから資金を調達したら、その使い方については非常に保守的でいてください。悲観的な事態に備えた採用をしましょう。うまくいき始めるまで、思うより長く時間がかかると想定しましょう。もしスタートアップで予測できることが一つあるとすれば、それは不測の事態が起きることでしょう。

私は正しい筋道に乗りながらも、単に採用を早く行いすぎたために死んでしまうスタートアップも常に目にします。

7. 資金調達が難しくなる

スタートアップが「みにくいアヒルの子」として資金調達しなければならなくなった際に叩かれるのは、その後の資金調達ラウンドがずっと難しくなるからです。シードラウンドで資金調達が比較的楽だった創業者は、シリーズAも同じくらい簡単なのだろうと考えます。あいにく簡単ではありません。

私たちはよくスタートアップから「お金がなくなってきたので、これからシリーズAで調達します」というメールを受けます。まるでATMにもう一度行ってくる、みたいな気安さですね。そして彼らの調子がどうか尋ねると、その答えは通常、遅い成長とかさむ出費の組み合わせです。私たちは彼らに対し、シリーズAで資金調達できる望みはないことと、生き残るためだけでも劇的な変化が必要なことを伝えることになります。

シリーズA投資家の態度はシード投資家の態度とはまったく異なります。シード投資家は約束を求めますが、シリーズA投資家は業績を求めます。ベンチャー投資からのリターンはすべて大きな勝者に集中することをわかっているからです。ですからあなたに投資したがるのは、あなたの会社が大きな勝者になる道筋に乗っていることが明らかである場合だけです。もしあなたがそのケースに当てはまるなら、彼らは高い金額を払います。でももしあなたがそうでない場合、投資自体行いません。ですから、もしあなたが正しい道筋に乗っていても、まだ約束から業績への転換を図っている最中ならば、彼ら投資しません。彼らにとって、正しい道の途中にあるスタートアップと間違った道筋にいるスタートアップの間に、大した違いはありません。彼らの目から見て十分な進展が見られなければ、その理由すらどうでもいいものです。

ユニコーン

ここまでの私の話では、スタートアップは怖いという印象を与えたと思います。ごめんなさい。今まで多くのことを見すぎてきて、どうしてもそうなってしまうのです。よいニュースとしては、このリストはかなり完全なリストである、ということです。ここで私が忠告した過ちをすべて避けることができれば、かなりいい線を行けると思います。もしあなたが、人に実際に望まれるものを作り、ユーザーを満足させることに集中し、良好な成長率を保ち、多くの人を雇いすぎなければ、非常に幸せな位置まで辿り着くことができると思います。自分の運命を支配することができるようになります、多くの人には決してできないような形で。

私たちはこのカンファレンスを2つの理由で開催しています:1) より多くの女性がスタートアップを始めることをインスパイアするため、そして2) すでにスタートアップを始めている女性が、より成功するよう助けるためです。

でも私にはそれよりも具体的な目標があります。私は単により多くの女性創業者を見たいだけではありません。私は大きな勝者の女性創業者をもっと多く見たいと思っています。一部の人がユニコーンと呼ぶ会社。これらはもっとも優秀で有効なロールモデルとなる創業者のことであり、そしてより多くの女性に思い切って自分の会社を始めるよう背中を押すのに最も必要なのは、まさにロールモデルです。

そしてそのような大きな勝者となる創業者がどこから生まれるのかわかりますか? この会場からです!

Y Combinator で1000社以上のスタートアップに出資してきたことから、私はとても成功するスタートアップを始めるのに何が必要かを知っています。そして過去の女性創業者カンファレンスに参加した人たちと会ってわかったことは、この会場にはそのような能力を備える人がたくさんいるということです。だから、もしあなたが一歩踏み出して、スタートアップをはじめてみたらどんな未来が待っているか、想像してみてください。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Jessica Livingston’s Pretty Complete List on How Not to Fail (2016)

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