私たちがスタートアップに提供するアドバイスの多くは戦術的なものであり、一日単位、もしくは週単位で役立つよう意図されたものです。しかし、一部のアドバイスはもっと根本に関するものでもあります。本記事には、私たちYCの人間がスタートアップにとって最も重要、かつ最も彼らに変化をもたらすと考えているアドバイスを集めました。以下のアドバイスは常識的なものだったり、あるいは直感に反するものだったりしますが、ほとんどのスタートアップにとって、成功への道程を見つけるための手助けとなるはずです。
私たちが創業者に対しいつも真っ先に伝えることは、プロダクトをすぐにローンチしよう、ということです。その理由は単純で、そうすることが顧客の問題や、また製品が彼らの需要に合っているかを完全に理解するための唯一の方法だからです。意外なことかもしれませんが、可能な限り早く平凡な製品をローンチし、その後で顧客と話をするといったことを繰り返した方が、「完璧な」製品が出来るまで待つよりもずっと良い結果を生み出します。製品の何らかの欠点がもたらすかもしれない問題を、その製品の顧客にとっての「有用性の量」が持つ価値が上回る限りにおいて、これは正しいことだと言えます。
ローンチ後、私たちは創業者に対し、スケールしないことをするよう提案します (スケールしないことをしよう (日本語訳) by Paul Graham1)。多くのスタートアップ向けアドバイザーは、あまりにも早すぎる時期にスタートアップに対し、スケールを行うよう説得してしまいます。そのようにスケールを行うためには、それをサポートするための技術とプロセスの構築が将来的に必要となり、時期尚早な場合、時間と努力の無駄となってしまいます。このような戦略は往々にして失敗に終わってしまい、スタートアップの倒産につながる場合すらあります。私たちはむしろ、スタートアップに対しては最初の顧客をどんな手段を使ってでも獲得するよう伝えます。例えその手段が10人以上、まして100人や1000人の顧客相手では成し遂げることのできないような手作業になってしまってでも、です。創業者はこのような段階ではまだ、何を作り上げなければならないかを見つけ出そうとしています。そしてそのための最善の方法は、顧客と直接話をすることです。例えば、Airbnbの創業者は当初、彼らの最初期の顧客に対し、彼らのリスティングを借り手にとってもっと魅力的なものとするため、家やアパートの「プロの手による」写真撮影を申し出ていました。そして、彼ら自身が出向き、写真撮影をしていたのです。彼らのウェブサイトのリスティングやコンバージョンは改善し、そして彼らは自分たちの顧客と素晴らしい会話を行うことができました。このようなことをスケールするのは全くもって不可能なことですが、活気あるマーケットプレイスを構築するための方法を学ぶためには不可欠であることが証明されました。
ユーザーと話をすると大体の場合、長く、複雑な構築すべき機能のリストが生まれてしまうものです。YCのパートナー、Paul Buchheit (PB) がこのような場合にいつも送る1つのアドバイスは、「90/10ソリューション」を探せ、ということです。これはつまり、あなたが求めるものの90%を、たった10%の作業/努力/時間で達成できる方法を探せ、ということです。頑張って探せば大抵の場合、90/10ソリューションは見つかります。最も重要なことは、実際の顧客の問題に対しすぐに活用することができる90%のソリューションは、構築に長い時間のかかる100%のソリューションよりも余程良い、ということです。
会社が成長し始めるにつれ、往々にしてつい注意を惹かれてしまう可能性のある多くの物事が出てきます。つまり、カンファレンス、夕食会、ベンチャーキャピタリストや大企業の経営企画部のような部署との会合 (コーポレートデベロップメントと話すな by Paul Graham2(日本語訳))、紙面に載ろうとすることに夢中になる、といったようなことです。(YCの共同創業者Jessica Livingstonは、注力するのは間違っている物事について、かなり広範囲なリストを作成しています [失敗しない方法 by Jessica Livingston3])。私たちはいつも創業者に対し、アーリーステージにいる会社にとって最も重要なタスクは、コードを書き、ユーザーと話すことであることを思い出させるようにしています。これはつまり、ソフトウェア関連であれ他の業種であれ、あらゆる会社は人々が欲するものを作るためには、何かをローンチし、それがユーザーの要求に応えられているかを確かめるためにユーザーと話し、彼らからのフィードバックを受ける、といったことを繰り返さなければならないことを意味しています。これらのタスクはあなたの時間と関心のほぼ全てを占めていなければなりません。偉大な会社にとって、このサイクルは決して終わらないものなのです。同様に、創業者は会社が発展するに従い、会社の進むべき道をいくつかの選択肢から選び取らなければならなくなることが多くなります。Sam Altmanは常に、より野心的な道を選ぶ方が大抵の場合良いと指摘しています。創業者が愚かにもこれらの問題に取り組まず、他の物事に集中してしまうことがどれだけ多いかというと、実のところ異常なほどです。Samはそのような他の物事のことを「偽の仕事」と読んでいます。なぜならそういったことは実際の仕事よりも楽しいことが多いからです (ポストYCスランプ by Sam Altman4(日本語訳))。
顧客に関して言うと、殆どの創業者は顧客が彼らを選ぶことができるのと同じぐらい、彼らも顧客を選ぶことができるということに気づいていません。私たちはよく、あなたのことが大好きな少数の顧客がいる方が、あなたのことがそれなりに好きな多数の顧客がいることよりも良いと口にしています。別の言い方をすれば、喫緊の問題を抱えた10人の顧客を獲得することの方が、一時的な困難を抱えた1000人の顧客を獲得するよりもかなり良いということです。顧客選びというものは間違いを犯しやすいため、スタートアップにとっては時に、自分たちの顧客を切り捨てることも重要となります 5。一部の顧客は 彼らが提供してくれる収益や知識に比べ、遥かに高いコストがかかってしまうことがあります。例えば、Justin.tvやTwitchはビデオゲーム配信者に重点を置き、海賊版コンテンツをストリーム配信しようとする人々を退けるような取り組みを行ったことで始めて、突発的な成功を収めることができたのです (あなたが欲しがらないユーザー by Michael Seibel5)。
スタートアップは常に成長を重要視しています。なぜなら成長の無いスタートアップは普通、失敗だからです。しかし、成長する方法と時期についてはよく誤解されています。YCは時折、会社に対してどんな代償を払ってでも成長するよう強要していると批判されます。しかし実のところ、私たちは会社に対しユーザーと話し、彼らの欲するものを作り、そしてそういったことを素早く繰り返すよう後押ししています。これら3つをうまく行っている場合、成長するのは当然の結果です。ですが、成長は常に正しい選択であるとは限りません。もしあなたがまだ顧客が望むものを作り上げていないのであれば、別の言い方をすればプロダクト・マーケット・フィットを見つけ出していないのであれば、成長には殆ど意味がありません (真のプロダクト・マーケット・フィット by Michael Seibel6(日本語訳))。継続がうまく行かないという結果にいつも終わってしまうのです。また、収益の出ない製品がある場合、成長しても単に会社から現金が流出するだけとなってしまいます。PBが好んで言うように、顧客から80セントを取ってから彼らに1ドルを返すなんてことは全く意味を成さないのです。ユニットエコノミクスがとても重要だという事実は何ら驚くに値しないでしょうが、余りにも多くのスタートアップがこの基礎的な事実を忘れているように見えます (ユニットエコノミクス by Sam Altman7)。
スタートアップの創業者の直感は常に、より多くのことをするよう告げてきます。しかし実のところ一般的に、最善の戦略とは「常により少ないことを上手く行うこと」なのです。例えば、創業者は会社の価値を証明してくれるような素晴らしい関係性を示してくれる、大企業との大きな取引を追い求めたいという誘惑に頻繁に駆られます。しかし、大企業と小規模なスタートアップの間の取引がスタートアップにとって良い結果に終わることは稀です。そのような取引は時間とコストがかかりすぎ、往々にして完全に失敗してしまうのです。スタートアップをするにあたって最も大変なことの1つは、何をするかを選択することです。なぜならあなたが為せることのリストは常に無限に存在しているからです (スタートアップの優先順位 by Geoff Ralston8)。スタートアップがとても早い段階で成功を測るための測定基準を1つか2つ選択しておくことは重要なことであり、そして創業者はそれらの測定基準にどう影響するかのみをほぼ基準とする形で、何をするのかを選択するべきなのです。アーリーステージの製品が上手く行かない場合、顧客と話し、顧客にとって最も急を要する問題にのみ注力するのではなく、顧客が持っているであろうと思われるあらゆる問題を解決するための新しい機能をすぐに構築しようとする方が往々にして魅力的に見えてしまうものです。
創業者は自分たちの会社がとても酷い状態にあるように思えても心配すべきではないと聞くと、往々にして驚きます。実のところ、ほぼ全てのスタートアップは根深く、根本的な問題を抱えているものなのです。例え将来的に10億ドル規模の会社に成長するような所であってもそうなのです。成功を決めるのはあなたが初期に酷い状態にあったかどうかではなく、創業者がそのような避けられない問題に対し何をしたかなのです。創業者としてのあなたの仕事は往々にして、転覆した船を正しい位置に戻そうとし続けることのように見えるかもしれません。それは普通のことなのです。
新規のスタートアップの創業者にとって、今起きている競争、そして将来的に起こり得る競争を気にしないようにすることはとても難しいことです。実のところ、競争相手について悩むためにいくらかでも時間を使うというのは、ほぼ間違いなく大変悪いアイデアなのです。私たちが言いたいのは、スタートアップ企業が潰れてしまう原因はいつも、他者ではなく自分自身にあるということです。競争のダイナミクスがあなたの会社が成功するか失敗するかにとって大変重要となる時期がいずれやってくるでしょうが、最初の1、2年にそうなることは滅多にないのです。
資金調達についても少し言及します (シード資金調達のガイド by Geoff Ralston9(日本語訳))。最初の、そして一番重要なアドバイスは、資金調達をできる限り早く終わらせて仕事に戻ることです。会社がいつ資金調達を行っているかを実際に確認するのは、成長曲線を見れば往々にして簡単なことです。成長曲線が平らになった時期があれば、それは彼らが資金調達をしているということです。同じぐらい重要なことは、評価されることは成功と同じではないし、成功の可能性があるということと同じでさえもないということを理解することです (資金調達ラウンドはマイルストーンではない by Michael Seibel10(日本語訳))。Yコンビネーターにおける最良の企業の幾つかは、初期に殆ど評価されていない状態から身を立ててきました ( Airbnb、Dropbox、Twitchなどは全てこの好例です)。ところで、あなたが調達した資金はあなたの金ではないということを覚えておくことは重要です。あなたは自分の会社の展望をより良いものにするためだけに資金を使用しなければならないという信託的、および倫理/道徳的な義務を負っているのです。
また、スタートアップとしての生活において避けることのできない狂騒の中において、正気を失わないことも重要です。そのため私たちは創業者に対し常に、途方もなくハードで、集中して行われる仕事の合間に、必ず休憩を取り、友人や家族との時間を過ごし、十分な睡眠を取って運動をするように言っています。最後に、失敗について一言述べます。実のところ、多くの会社がすぐに失敗に終わってしまうのは、創業者同士が仲違いをしてしまうためなのです。共同創業者との関係はあなたが考えている以上に重要なものであり、創業者同士がオープンで率直なコミュニケーションを取ることは、将来大失敗が起こる可能性をとても低くします。実際、あなたが自分のスタートアップを成功させるためや、それどころか人生で成功するために最も大切なことの1つは、実のところ単に良い人であることだったりするのです (意地悪な人間は失敗する by Paul Graham11)。
最も重要なYCからのアドバイスのポケットガイド
- 今すぐにローンチする。
- 人々が欲しいものを作る。
- スケールしないことをする。
- 90/10ソリューションを見つける。
- あなたの製品が大好きな10-100人の顧客を見つける。
- 全てのスタートアップは、ある時点においては酷い状態にあるものである。
- コードを書く、ユーザーと話す。
- 「それはあなたのお金ではない」
- 成長とは素晴らしい製品による結果であって、その先触れではない。
- 人々が欲しがるものを作るまで、チーム/製品をスケールしてはいけない。
- 評価されることは成功と同じではないし、成功の可能性があるということと同じでさえない。
- 可能であれば、大口の顧客との交渉に時間がかかる取引は避けること。
- 大企業の経営企画部からの問い合わせは避けること。単に時間の無駄となる。
- 顧客を獲得するための最善の方法でない限り、カンファレンスは避けること。
- プロダクト・マーケット・フィットが見つかる前は、スケールしないことを行い、小規模で機敏なままでいること。
- スタートアップはどんな時でも、一度に1つしか問題を上手く解決することができない。
- 創業者同士の関係性は、あなたが考えている以上に重要だ。
- 時には顧客を切り捨てることも必要になる (彼らによってあなたの会社は潰されそうになっているのかもしれない)。
- 競争相手は無視すること。あなたの会社が潰れるのは他者よりも自分自身が原因となる可能性が高い。
- 殆どの会社は資金が無くなったことが原因で潰れるわけではない。
- 良い人であること!あるいは少なくとも、意地悪な人にはならないこと。
- 睡眠を取り、運動すること。自分自身を大事にすること。
参考文献
1. Do Things That Don’t Scale (日本語訳) by Paul Graham ↩
2. Don’t Talk to Corp Dev (日本語訳)by Paul Graham ↩
3. How Not To Fail by Jessica Livingston ↩
4. The Post YC Slump (日本語訳)by Sam Altman ↩
5. Users You Don’t Want by Michael Seibel ↩
6. The Real Product Market Fit (日本語訳)by Michael Seibel ↩
7. Unit Economics (日本語訳) by Sam Altman ↩
8. Startup Priorities by Geoff Ralston ↩
9. A Guide to Seed Fundraising (日本語訳)by Geoff Ralston. ↩
10. Fundraising Rounds are not Milestones (日本語訳)by Michael Seibel ↩
11. Mean People Fail (日本語訳) by Paul Graham↩
閲覧推奨
1. A Fundraising Survival Guide (日本語訳) by Paul Graham
2. How to Raise Money (日本語訳) by Paul Graham
3. Taking Advice by Aaron Harris
著者紹介
Geoff Ralston はY Combinatorの社長であり、2011年からYCに参加しています。YC以前、彼は最初のWebメールサービスの一つを作っていました。彼の作ったRocketMailは1997年にYahoo Mailとなり、Yahoo時代にはエンジニアとビジネス部門の経営をしたあと、Chief Product Officerになりました。Yahooの後はLalaのCEOとなり、Apple に2009年に買収されました。2011年には最初のEdTechアクセラレータであるImagine K12を共同創業し、ClaasDojoやRemindなどの会社に投資を行った後、2016年にYCに統合されました。彼はダートマス大学からコンピュータサイエンスのABを、StanfordからコンピュータサイエンスのMSを、INSEADからMBAを取得しています。
Michael Seiebl は YC の CEO です。彼は Justin.tv と Socialcam の共同創業者であり、CEO でした。Socialcam は Autodesk に 2012 年に売却され、Emmett Shear の下で Justin.tv は Twitch.tv となり、Amazon に 2014 年に売却されました。スタートアップに関わる前、彼は US の上院議員選挙で財務ディレクターを1年勤め、2005 年に Yale University を Political Science の分野で BA を取って卒業しました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: YC’s Essential Startup Advice (2017)