KPI とゴールを設定する方法 (Startup School 2019 #04)

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では、アーリーステージのスタートアップにおけるKPIと目標の設定方法についてお話しします。今回は、かなり杓子定規な内容になると思います。なぜかと言うと、これらを正しく設定することは、成功するスタートアップを立ち上げるための必要条件だからです。

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KPIとは

KPIとは重要業績評価指標の略語です。Googleで検索すると様々な定義が出てくるかと思いますが、本日の講義では内容上、自分のビジネスがどれほど健全に進捗しているかを示す一連の定量的メトリクスとして定義します。

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言うまでもなく、創業者は常に自分のビジネスがどんな状況にあるか知る必要があります。よって、KPIや目標は重要です。正しくKPIや目標を設定すれば、自社のビジネスが順調か、それなりか、不調かが客観的に表れます。数字を正しく理解すれば、それは嘘をつきません。ですから、創業者が地に足を着け、謙虚に自社の現状を理解するためには、数字に勝るものはありません。

またこれらは、ユーザーの獲得、新機能の開発、新機能のローンチなど自社が現在推進している戦略の成否に関するフィードバックメカニズムとしても機能します。つまり、何かをして数字が上向けば、おそらく上手くいっており、数字が下がれば、上手くいっていないということです。

これは自分の時間の優先順位付けだけでなく、軌道修正にも役立ちます。自社のKPIや目標を正しく設定しなければ、自分のスタートアップを悪循環の繰り返しに陥らせる可能性があります。あるいは、間違った道を長く進みすぎると無駄に会社を消滅させてしまうことになるでしょう。

正しいKPIとは何か

では、正しいKPIとは何でしょうか?本日の講義では、プライマリメトリクスとセカンダリメトリクスの2つに分け、特にプライマリメトリクスに重点を置いて説明します。

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スタートアップスクールでは、毎週自社のプライマリメトリクスをソフトウェアに入力して定義し、その現在値を更新するよう言っています。定義上、プライマリメトリクスは1つだけ選択可能ですが、それは会社の成否を賭けるメトリクスです。

では、なぜたった1つなのでしょうか?その仕事にシンプルに集中するためです。仕事の91%を多くの変数で管理するよりも、90%を1つの変数で管理する方が楽で、達成する仕事によって自分のスタートアップが順調か否かすぐに判断できます。

優れたプライマリメトリクスの4つの特徴

では、優れたプライマリメトリクスの特徴とは何でしょうか?

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これは4つあります。

1. 提供している価値を表している

まず、自社のプライマリメトリクスは顧客に提供している価値を定量化するものです。皆さんは人々が求めるものを作り上げようとしています。では、人々はそのプロダクトをどれほど求めているのでしょうか?ユーザーが金銭や時間によってその価値を示すということはよくあります。ですから、収益は常に最良のメトリクスと言えます。

私が皆さんのプロダクトやソフトウェアを使うために100ドル支払う場合、私はそれらに少なくとも100ドルの価値があると評価しているはずです。週1回あるいは1日1回プロダクトを使用しているアクティブユーザーは、週間アクティブユーザー(WAU)または日間アクティブユーザー(DAU)と呼ばれますが、収益よりは弱いものの、これらも自社プロダクトが価値を提供しているか否かを判断するもう1つの適切な指標となります。

2. 継続的な価値を表している

2つ目に、自社のプライマリメトリクスは自社プロダクトがユーザーに経常的または永続的価値をもたらしているかを表せるものでなければなりません。

例えば、SaaSツールのほとんどは、プライマリメトリクスとして月次経常収益(MRR)を使用しています。私が継続して月々100ドル支払うことを誓約するのは、私にとってそのプロダクトは価値があると毎月実証されるためです。

インターネット配信のデジタル日刊新聞を作っている場合、明らかにDAUが有効なメトリクスとなります。ユーザーは有益なコンテンツが毎日提供されることを期待しており、そうであれば彼らは毎日サイトを訪れるでしょう。

3. 遅行指標である

3つ目に、成功するためには自社のプライマリメトリクスは遅行指標であるべきです。創業者がよくだまされる罠は、メール登録数のようなプライマリメトリクスを選んでしまうことです。これは増減しやすく、最終的には収益や実際の利用数に影響を及ぼすことはあるものの、実際には真の価値を最も良く表すものではありません。価値がすでに提供されているか発生している時の指標がベストです。

つまり、誰かがそれを使用するためにすでに自分の時間や金銭を支払った時—それが遅行指標の定義となります。収益が増加しているのは、プロダクトの価値に対価を払った顧客が増えたためで、それはあなたの会社のサイトを訪問しメールを送った潜在的顧客ではありません。もしかしたらいつか登録する、またはいつかあなたの会社のプロダクトを購入して使ってくれるかもしれないという潜在的顧客ではありません。

4. フィードバックとして利用できる

4つ目に、プライマリメトリクスはフィードバックメカニズムとして利用できるものでなければなりません。これは戦略の優先順位付けや迅速な意思決定に役立ちます。スタートアップが成功を収めてProduct/Market Fitの段階を乗り越えるために重要なことの1つは、極めて迅速な反復です。つまり、メトリクスは遅行指標であっても、遅すぎては使い物になりません。

例えば、月間アクティブユーザー(MAU)をメトリクスに選ぶ人は多いですが、一般的にこれは有効なメトリクスではありません。これは動向の影響を理解するのに時間を要するため、特に皆さんのスタートアップのようなアーリーステージにある組織にとっては有効ではありません。1カ月もあれば様々なことが起こります。

私がほとんどの場合MAUを好まないもう1つの理由は、ユーザーが月1回しか戻ってこない場合、彼らは皆さんが作っているものを月に1回しか評価しないことになります。これでは、皆さんが本当の問題を解決しているかどうか大いに疑問です。

プライマリメトリクスとしての売上

さて、プライマリメトリクスに関するこれら4つの特徴を聞いた皆さんは、2つのプライマリメトリクスを思い浮かべているかもしれません。

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売上とアクティブユーザーです。真の価値の提供を見極めるという点では、ユーザーが自腹を切ってくれることに勝るものはないため、売上を選ぶのが理想的です。なお良いのはMRRのように人々が繰り返しもたらし続ける売上であり、皆さんが作っているものを人々が本当に求めているかどうかを確認する最良の判断材料となります。

とはいえ、売上を選んだ場合に陥りがちな罠として、実際には支払いを受けていないケースがあります。

私はよく「私のプロダクトのユーザーは1,000人いるが、まだ何も支払ってもらっていない。今は、フィードバックをもらって、どのように自社プロダクトを使用しているかを知り、もう少しプロダクトを改善したいだけなので。そして最終的には彼らに有料ユーザーになってもらう、あるいは次のユーザー1,000人に有料ユーザーになってもらうつもりだ」といった声を聞きますが、これは落とし穴です。

なぜなら、無料ユーザーからのフィードバックは有料ユーザーのそれとは異なるからです。有料ユーザーは自社プロダクトについてより真剣であり、フィードバックをすることにももっと真剣だと想定できます。ですから、有料ユーザーの獲得に注力してください。

プライマリメトリクスとしてのアクティブユーザー

先の講義でKevinは、皆さんの99%はプライマリメトリクスとして売上を選ぶべきだと言っていました。ではなぜアクティブユーザーを考慮すべきなのでしょうか?主な理由の1つとして、多くのユーザーを獲得することは、近代化の前提条件だからです。

例えば、FacebookやGoogleのように広告ベースのビジネスモデルの場合、実際にブランド化を果たして人々に広告を購入してもらうまでに何百万人というユーザーに毎日サイトを再訪してもらう必要があります。この場合、アクティブユーザーは合理的に収益の代替的指標となります。最終的にスタートアップが利益を生み始めた時、通常収益はアクティブユーザーの倍数になるからです。

ごく稀ですがもう1つの理由は、非常に強力なネットワーク効果がある場合です。フライホイールを回転させて成長するために大量のユーザーを必要とする市場の場合、まずは現在のアクティブユーザーを重視して収益は後回しにすることがあるからです。

アクティブユーザーをプライマリメトリクスとして使う場合は、ユーザーを正しく定義する

このように、アクティブユーザーをメトリクスとして使用している場合、ユーザーを正しく定義することが重要です。例えば「プライマリメトリクスは何?」という質問に、「アクティブユーザーです」と答え、「ユーザー数は?」と聞くと、「100人です」という答えが返ってきたとします。この場合、ユーザーとは何を意味するのでしょうか?

登録をしてメールを送ってきた100人をユーザーだとする見方もあれば、登録をして自社プロダクトを使い始め、毎日10分ほど再訪してくる100人をユーザーだとする見方もあります。ふらりと皆さんのサイトに出没する人よりはるかに良いのは後者です。つまり、ユーザーを正確に定義することが必要で、安易な定義で自分をごまかしてはいけません。

2サイドマーケットの場合も注意

正確にはユーザーではないのにユーザーだとする例をもう1つ挙げますと、市場に2種類の顧客、2種類のユーザーがいる場合です。

Airbnbは良い例ですが、ここでの2種類のユーザーとは誰でしょうか?Airbnbにはゲストだけでなくホストもいます。この場合、どうするべきでしょうか?どのように1つを選びますか?価値を受け取る両方を表す価値を選ぶことです。Airbnbのケースでは予約泊数になりますよね?

もう1つの例はUberです。Uberの2種類のユーザーとは誰でしょうか?それは乗客とドライバーで、ここで選択可能なプライマリメトリクスは、例えば週次移動距離です。

ハードテックのプライマリメトリクス

ルールには常に例外があるものですが、自社のプライマリメトリクスが利益でもアクティブユーザーでもないという例外を1つ挙げましょう。それは、バイオテクノロジーまたはハードテックのビジネスに携わっており、その科学や技術が実際に役立つかどうかまだ見極めようとしている場合です。

創業者はプロダクトを作り出せるでしょうか?バイオテクノロジーやハードテックのビジネスとは、往々にして自社の最初のプロダクトを市場に投入するまでに多くの時間と資金が必要となるものです。

そこで、特に資金が少ない時に創業者がすべきことは何でしょうか?これには2つ答えがあります。

有料契約、LOI、POCなどを用いる

1つ目は、自社プロダクトの販売にあたって規制の問題がない場合、他者と同じことをするべきです。最も可能性が高いのは、売上です。プライマリメトリクスは、有料契約数、LOI、契約証明(POC)などで表される収益とします。これは、自分がプロダクトを作り上げたことを証明できれば、増加するものです。

マイルストーンを用いる

規制の問題がある場合、つまりFDA(米食品医薬品局)などの規制当局の認可なしでプロダクトを販売できない場合は、自社プロダクトのプライマリメトリクスは本質的に定量的というより二元的なものになります。薬なりテクノロジーなりが成功するかどうかというリスクを軽減するために、実証すべき技術的マイルストーンを把握するということです。

これを証明するための実績について考えなければならない場合は「これが成功するかどうかという疑問に適切な答えを出すため、最低限すべきことは何か」を考えると良いでしょう。

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このカテゴリに属する人は、是非ともこの2つの講義を聴いてください。これらは、私が前回のスタートアップスクールで、ElizabethとEricと行った座談会です。Elizabethはバイオテクノロジー、Ericはハードテックのエキスパートで、2人とも自分の目標やマイルストーン、また追跡すべきメトリクスについて非常に深く探求を行っています。

セカンダリメトリクス

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世間では、プライマリメトリクスはノーススターメトリクス(北極星となる指標)と称されています。しかし、私はノーススターという言葉が好きではありません。なぜかと言いますと、世間では、この言葉はただ1つのメトリクスを重視してそれ以外は無視することのように解釈されているからです。

先ほどお話ししたように、ストーリーの100%を伝えてくれるようなメトリクスは存在しません。90%はあるかもしれませんが、100%ではありません。まさにプライマリメトリクスだけを追跡して自分をごまかしている創業者がいます。ありがちなのは、ユーザーグロースのみに注目して継続率(リテンション)には全く関心を寄せないケースですが、言うまでもなくユーザーグロースにとって継続率は新規ユーザー獲得と同じくらい重要です。

3 ~ 5 個のセカンダリメトリクスを選ぶ

ここで私が提案したいのは一連の、3~5個の他のメトリクス、つまりセカンダリメトリクスを設定し、プライマリメトリクスと組み合わせることです。これにより、自社の健全性をあらゆる角度から見渡せるようになります。

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メトリクスの選択肢はたくさんありますが、どのメトリクスを使うかは自社がどんなビジネスに携わっているかで変わってきます。

来週は消費者向けのメトリクスに関する講義を2コマ実施する予定ですが、私は消費者向けスタートアップに関する講義を、私の同僚のYCパートナーがB2B企業に関する講義を担当します。ですから、これらのメトリクスについては来週詳しく取り上げます。

ここでのポイントは、メトリクスは3~5個選ぶ、だいたい3つ、最大でも5つです。不必要に何もかも選ぶ必要はありません。様々なメトリクスを追跡するのは良いことですが、あまりに多くのことを同時に最適化するのは愚策であり、分析麻痺に陥るだけでしょう。

ローンチしていない場合、メトリクスを気にしすぎない

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さて「プライマリメトリクスを何か1つ設定してください」と言うと、「まだローンチしていないとしたら?」という質問をよく受けます。それは、メトリクスの問題ではありません。自分が解決しようとしている問題を把握していなければ自分の顧客が誰かも分かりません。まずはこの点にフォーカスすべきです。メトリクスのことを気にし過ぎるのは本末転倒です。プロダクト開発という時点に到達したら、ローンチ前でもこの点を掘り下げるのが良いでしょう。

いずれにせよプライマリメトリクスを定義することで、ユーザーが一体誰なのかを考えることができます。

ターゲットとするユーザーについてチーム全員が共通認識を持てますし、メトリクスや目標を利用して初期ユーザーの獲得に関する仮説を立てることもできます。何週間もユーザーゼロ・収益ゼロという恐怖に直面することは、絶対に最高のモチベーションになります。急いでローンチをしなければとイライラすると思いますが、こうでなければなりません。

ゴール設定の方法

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では、自社のプライマリメトリクスやKPIに関するゴールの設定方法に話を進めましょう。

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Paul Grahamは、数年前に『Startup = Growth』という素晴らしいエッセイを執筆しており、その中でスタートアップが成長に注力すべき理由を説明しています。これは皆さんにも是非読んでいただきたいと思いますが、今回の講義のこのセクションは、そのエッセイの中の多くの洞察に基づいています。

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スタートアップは多くの人が求めるものを作り、それをすべての人々に届けるもの

スタートアップのゴールは自社のプライマリメトリクスを高めることにあり、それにより2つのことが証明されます。

1つ目は、そのスタートアップが多くの人が求めるものを作っていること、2つ目は、それら全ての人の手に渡り目的を果たし得るものを作っていることです。

週次の成長率をゴールにする

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スタートアップにおける週レベルの目標としては、週間成長率を設定するべきです。初期のスタートアップは自社が行っていることを微調整できるよう、ユーザーからの頻繁なフィードバックを必要とするため、週毎の増加率を使用します。また、求められる進捗量を実行可能な範囲に分割するためにも週間成長率を使用します。

では、今後数カ月間の目標は日間アクティブユーザー10,000人の獲得だとしましょう。これには新規ユーザーの増加、例えば毎週10%の増加が必要であり、今週の10%増は100人の新規ユーザー獲得に相当します。これは、10,000人の新規ユーザーを獲得することとは別に解決する問題です。

つまり、その週に直面していることに集中する必要があります。スケールしないことをするのが100人のユーザーを獲得する最良の方法だとしたら今はそれを行い、10,000人のユーザー獲得という最終的な目標をあまり早く気にしないでください。

すると、次の疑問は当然「どれだけ速く成長させるべきか?成長率は実際どれくらいとすべきか?」となるでしょう。これに関する確かな方程式はありません。しかし、対応策として1つ考えられるのは、優れたスタートアップに注目し、そのライフサイクルにおける初期段階ではどんな成長率だったかを確認してみることです。

YC カンパニーの事例

私は、最近のYCデモデーでピッチを行った優れたスタートアップについて調べてみました。それらのスタートアップは、3カ月前には今の皆さんのフェーズにいました。

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彼らの成長率は前月比で20~200%と幅がありましたが、20~50%辺りに集中していることが分かりました。これはもっと短いスパンで考えることができ、前週比に直すと約5~10%となります。

この表を簡単に説明しますと、左の列は週間成長率で、中央の列はそれに対応する月間成長率、右の列は年間レベルの倍数です。これは、PGが数年前に執筆したエッセイで、「YCに在籍する優れたスタートアップの週間成長率は5~7%である。週間成長率10%なら並外れて優秀と言える」と書いていることと一致します。

この緑色の部分は実際、YCの最近のバッチでよく見られます。つまり、成長を完全に理解するのは少々難しいですが、この表を見れば週間成長率のわずかな違いが月や年レベルで大きな違いになることが明らかです。

また、急成長を実現させるには、人々が求めるものを作り出せば可能であることを分かっていただけるでしょう。

一方、週間成長率がたった1%というのは、まだ理解が足りないという証拠です。これは、酷いビジネスに携わっているという意味ではありません。週間成長率1%という非常に収益性の低いビジネスでも構いませんが、そのスタートアップに10億ドル企業となる可能性があるとは言えません。そのような成長率の場合、創業者は、自分のビジネスに求めるものとの妥協点について考える必要があります。

独自のゴールを考える

つまり、ゴール設定において重要なことは、自力で考え、他者がしていることではなく自分が作っているプロダクトについて野心的かつ達成可能だと考えられる独自の目標を定義することです。

創業者は、自分のユーザーやビジネスを他の誰よりも理解しています。自分にとっての成功とはどんなもので、軌道に乗っているとはどんな姿なのでしょうか?これは目標を定義する際の一般的な指針です。

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1. 素早い初期の成長

1つ目は、大きな市場で真の問題を解決している場合、そこには大きな潜在需要があることを意味します。人々は皆さんのプロダクトが半分壊れていても、不完全であっても、彼らが抱える問題の一部しか解決しなくとも、何でも使い尽くすでしょう。つまり、たいていのスタートアップは初期の急成長を達成します。そこで、今どこにいるかが重要となります。

スタートアップが多くのユーザーを獲得して多大な収益を上げている場合、成長するために毎週必要となるものは、ボリュームの増加と共に達成が困難になっていくと分かるでしょう。急成長を遂げた大半のスタートアップの成長率は、時が経つにつれてやや鈍化していきます。

2. セールスにかかる時間

2つ目は、セールスまでの時間です。創業者が目標を設定しようとする時、ユーザーを獲得しセールスに至るまでどれくらいの期間が必要か考える必要があります。一般的に、消費者向けスタートアップではアプリやウェブサイトが存在します。それを探し、見て、自分が求めているものか確認し、そうである場合は購入するか登録をします。これは瞬間的です。

エンタープライズ向けスタートアップは、煩雑な手続きが絡んでくると思いますので、多くのステークホルダーを相手することになります。例えば、企業を訪問しても、すぐにプロダクトを購入してもらえることはないでしょう。なぜなら、話をしている相手が適切な人物ではない可能性もあるからです。最初のセールスを完了させるまでに数カ月かかるかもしれないことを考慮しておかなければなりません。

時が経つにつれてこのセールスまでの時間は短くなっていくはずで、優れたエンタープライズ向けスタートアップでは、その時間は月単位から(時間単位とは言わないまでも)日単位まで短くなっていき、将来的には成長率に影響を及ぼさなくなるでしょう。しかし、短期的には影響を及ぼす可能性があります。

3. 有機的な成長とペイドの成長

3つ目は、創業当初は有料獲得ユーザーまたはペイドの成長よりも、オーガニックユーザーに注目するべきです。オーガニックユーザーとは、口コミによるユーザーを意味します。つまり、スタートアップがお金を払って得たユーザーではなく、自らプロダクトを見つけ使ってくれているユーザーです。創業当初に有料獲得ユーザーを利用するのは成長をごまかすことであり、極力避けるべきだと思います。

4. 指数関数的な成長と線形的な成長

最後に、皆さんはスタートアップであるため、スタートアップ=成長となります。創業者は、直線的目標ではなく指数関数的目標を重視する必要があります。

ゴールを更新していくことと、タイムボックス

目標の設定にあたっては2つの方法があると私は思います。1つ目は、まず自分が達成できると思える成長率を選び、それを達成したら更新します。継続的に達成するようになったら、より高い目標を設定します。達成しなければ、警告として受け止め、その理由を見つける必要があります。

目標設定のもう1つの方法は、タイムボックスと絶対的目標です。これはどういうことかと言いますと、スタートアップスクールの目的でもあるのですが、スクールの最後に、「何人のアクティブユーザーやどれだけの収益を獲得する必要があるか?それはどのようなものか?10週間後の意味あるプロダクトの姿とはどんなものか?」という点から週間成長率に落とし込み、週ごとに障壁を把握し、その週の目標をどのように達成するかを考えます。創業当初、ユーザーがゼロに近い場合にこの方法を採用したら、だいたい週間成長率は5~7%になるでしょう。

追跡の方法

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次に、進捗の追跡です。メトリクスや目標は活用しなければ当然何の意味も持ちません。これらを動機付けのツールとして使ってください。

将来のグラフを紙に書いて張り出す

それを行う1つの方法は、まず紙に今後10週間で達成したい成長に関して将来のグラフを描きます。それをコピーして、机の上や洗面所の鏡、冷蔵庫など、あらゆるところに貼って、週1回更新します。これは実際、Airbnbの創業者が創業当初に行っていたことです。

達成すればそれで良いですが、達成しなければ話し合うことは明確なので、このような方法が良いと思います。

優先順位付けのツールとして使う

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創業者は、週ごとに自分の時間を優先順位付けするツールとしてプライマリメトリクスや目標を活用する必要があります。

会社を成長させる方法に関する様々なアイデアのスタックランキングを毎週行い、目標達成のために翌週に最大の影響を及ぼすものを正しく推測し、選択しなければなりません。時にはその週の目標を達成しないこともあるでしょう。

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人は自社の成長を(スライドのグラフを指して)このように順風満帆であると夢見る傾向があります。

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しかし現実には、創業当初は常にこのような感じになります。その理由を理解している限り、1~2週間連続で目標を達成しなくても問題はありません。

週次目標を定めて、最大のバリアは何かを考える

創業者は常に、「週の目標達成を阻む最大の障壁は何か?それを克服する方法は?自分にとってどれほど深刻な問題か?」と問う必要があります。その答えが分からなければ、より多くのユーザーの話を聞き、自力で答えを見つけ出そうと泥沼にはまり込まないことです。

優れたスタートアップのアイデアはある時点で成長軌道に入るため、週間目標を達成しないということは、自分が適切でないものに取り組んでいる、あるいはアイデアさえも正しくないという警鐘かもしれません。

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最後に、皆さんご存知のように、私たちのスタートアップスクールのソフトウェアは、プライマリメトリクスとゴールを設定できるようになっています。

重要なのは自分が今どこにいるかを素直に受け止めることで、その最善の方法の1つはこれを毎週入力することです。皆さんにはこれを簡単に行えるソフトウェアが提供されています。これを活用して習慣化するのは、私たちのためではなく皆さん自身のためです。

コース期間中、これを入力し、またコース終了後も続けてください。これは良い習慣です。まだしていない人は、とにかく自分のワークフローにこの簡単な作業を追加してみてください。それだけで自身を助けるツールとなり、状況が劇的に変わってくるでしょう。それは私が保証します。講義は以上です。

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Q&A

ここからは質疑応答の時間にしましょう。

話者2
非営利組織におけるプライマリメトリクスとセカンダリメトリクスについてはどう考えるべきですか?

Adora
非営利組織においてプライマリメトリクスをどのように設定すべきか、という質問ですね。YCに参加している非営利組織に対しては、毎四半期または毎年寄付集めに回らなくて済む状態になるように言っています。つまり、収益モデルを構築するということです。多額の利益を求めないまでも、収益を上げる必要があります。私ならそれを基準にするでしょう。

話者3
LTVはスタートアップを測定するセカンダリメトリクスとして適切でしょうか?あるいは、これについて考えるのは時期尚早でしょうか?

Adora
良い質問です。LTVはセカンダリメトリクスとして適切か、あるいは少なくとも追跡すべきメトリクスかという質問ですね。皆さんはアーリーステージのスタートアップだと思いますので、答えは「当面は無視する」です。LTVとは顧客生涯価値、つまり、自社プロダクトに関して顧客が生涯にわたって生み出した収益です。たった数カ月のデータからこれを推定するのは非常に困難、または実際不可能です。これについては来週私から詳しく説明する予定ですが、先行して少しだけお話しすると、専門用語としてLTVと対にされることが多いのがCACです。「あなたのLTVはCACを上回る必要がある」というように言われますが、CACとは顧客獲得単価です。支出型成長に注力している場合に重要なことは、初期の回収期間に着目することで、回収期間はゼロ日間であることが望ましいです。そうすれば、最初の購入で利益が生まれます。はい、そこの方どうぞ。

話者4
エンタープライズ向けスタートアップの場合、[聞き取り不能]パイプライン価値など他の追跡を検討しますか?[聞き取り不能]

Adora
エンタープライズ向けスタートアップの場合、つまりセールスサイクルが少し長い場合、他に追跡すべきものがあるか、という質問ですね。何と言いましたか?

話者4
[聞き取り不能]パイプライン価値です。

Adora
パイプライン価値ですね。LOIやそれに類するものなどは、優れたセカンダリメトリクスだと思います。最終的に皆さんが必要とするのは収益です。記帳され自分たちの口座に入ってくる実際の収益です。そしてエンタープライズ向けスタートアップは、このような短期的に追跡するメトリクスを使用することが多いです。非常に長い間実際の収益がゼロだからです。これが答えになっていれば幸いです。はい、どうぞ。

話者5
創業当初にCACを投じて獲得するユーザーがいない場合、例えば消費者が問題に直面していて、彼らは[聞き取り不能]実質的にキックスターターだとします。言うまでもなく、キックスターターは今[聞き取り不能]するのが困難で、熟慮する必要があります。創業当初のセールス、プロダクトの価格から認められるCACの割合はどれくらいなのでしょうか?当然のことながら、創業当初はより多くのものを得るためにまず何かを支払わなければならないこともありますので。

Adora
ハードウェアプロダクトを作っている場合、多額の資金を必要とするマーケティングキャンペーンを行うことがよくありますが、実際に支出すべき理想的なCACはどれくらいか、という質問ですね。答えは明らかにゼロで、私はCACを固定化されたマーケティング予算のように考えないようにしています。キックスターターキャンペーンのための動画作成にXドル支出する必要があるかもしれません。ここで言うCACとは、支出しスケールする必要がある1ユーザー当たりの金額です。1人のユーザーを獲得するために50ドル支出する必要があるとします。しかし、顧客から50ドル獲得できないのであれば50ドルを支出したくないでしょう。ですから、少なくとも損益分岐点に達するべきで、採算ベース、粗利ベースで顧客がもたらすもの以上を支出してはいけません。有料獲得ユーザーが、いつかの時点で自社プロダクトに大いに満足し、そのプロダクトについて語り、口コミや紹介などが実際に広がっていき、最初に投じる必要のあったCACは次第に減少していく。このように考えてユーザー獲得にコストをかけることを戦略の全てとする会社のプロダクトは、人々に求められるものかどうか疑問です。次を最後の質問にしましょう。

話者6
資金調達が必要なMVP開発は野心的すぎるでしょうか?

Adora
MVP開発に資金調達が必要な場合、自分のMVPは野心的すぎるか、ということですね。それは場合によりますが、MichaelがMVPについて詳しく講義したように、あなたが考えているのは彼が定義するヘビーMVPのことですよね。この質問の答えは何通りもあると思いますが、最初のプロダクトを市場に送り出すために多額の資本を要するビジネスを手掛けている場合、プリセールスなど確実に資金を調達する方法を見つける必要があります。プリセールスが可能な場合は、それが最善の方法となります。有料契約、前金による収益の保証はプロダクト開発の助けとなります。また、投資家に相談する場合、投資家は自分たちのリスクができるだけ小さくなることを求めるでしょう。私なら、自分が作っているものは実現可能で、かつ人々に求められていることを裏付けるデータが取れるような実験を計画します。以上にしましょう。次はSegmentのIlyaの講義です。ありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Set KPIs and Goals (2019)

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