真実を伝える方法 (Ben Horowitz)

「すべての引き出しにクラック・コカインが入っている、俺はただ正直なんだ。」
—Future『Honest』

あなたは正直者ですか? あなたはきっと「はい」と答えるでしょう。もしそうなら、あなたと同じぐらい絶対的に正直な人を他に知っていますか?この質問はきっと、正直者かどうかという質問よりも非常に難しい質問だったでしょう。誰もが自分は正直であると信じつつも、誰もが同じように正直な人を識別するのに苦労することなんてあり得るのでしょうか。私たち全員が、自分自身に嘘をつくほど不誠実なのでしょうか。

真実を語ることについては、それが誰にとっても簡単ではない、ということが真実です。それは自然なことでも本質的なことでもありません。自然なのは、相手が聞きたがっていることを話す行為です。それがどんな人の気分もよくする行為です . . . 少なくともその瞬間は。その一方で、真実を語るというのは過酷な作業であり、技能が必要です。

もしあなたが組織を率いているなら、不誠実であることは命取りにもなり得ます。なぜなら、意思疎通の質によって組織の業務執行の質が決まり、意思疎通の要は信頼だからです。私がCEOs Should Tell It Like It Isの中で書いたように、

信頼がなければ意思疎通は破綻します。より具体的には——

どのようなものであれ、人間の交流においては、必要となる意思疎通の程度は、信頼の程度に反比例しています。

次のようなことを考えてみてください。もし私があなたを完全に信用しているなら、それがどんなものであろうと、あなたの行動について、説明であれ意思疎通であれ、何も必要としません。なぜなら、あなたのしていることは何でも私にとって最善のことだと、私は知っているからです。その一方で、私があなたを全く信用していない場合は、どれほど私に対して話したり、説明したり、説得したりしても、私に何の影響も与えません。なぜなら、あなたが私に真実を話しているとは思わないからです。

企業について言えば、これは分岐点となります。企業の成長に伴い、意思疎通は最大の難題になります。従業員が基本的にCEOを信頼していれば、信用していない場合に比べて、意思疎通は格段に効果的になります。物事をありのままに話すというこがこの信頼構築の不可欠な部分です。時間をかけてこの信頼を構築するCEOの能力が、業務の執行を潤滑に行うことのできる企業と、混沌としている企業との間の差を生んでいることもよくあります。

結果として、リーダーが少しでも不誠実なところを見せたならば、それは破壊的な結果を招くでしょう。従業員は、自分の生計、目が覚めているほとんどの時間、そしてキャリアをCEOに託しています。従業員が嘘という報いを受けたら、CEOの指示をどのようにして信頼するのでしょうか。その結果として、その会社はどれだけの業績を上げられるでしょうか。

CEOは正直であるべきです。それは非常に明白なことのように見えます。けれども、実は「正直でいる」ことは、口にするのは簡単ですが、実行するのは驚くほど困難だとわかります。その理由を理解するために、いくつかの例に目を向けてみましょう。

  • 売上がうまくいっていません。会社に真実を告げれば、従業員はすぐに会社の存続を心配し、他社へ移るために退社するかもしれません。もし彼らが退社すれば、従業員数は確実に減り続け、あなたは伸び悩みと衰退の悪循環の入り口に立つことになるでしょう。
  • 費用体系が事業にとって大きすぎ、解雇をする必要が出てくる可能性が高いです。会社は消滅するわけではないですが、解雇をすると、新聞はあなたの会社はおしまいだと書き、従業員はそれを読むでしょう。従業員が読んだならば、彼らは心配して退社し、あなたは本当に一巻の終わりです。
  • 重要な役員が1人辞めます。もしあなたが真実を語れば、人は理由を知りたがり、もっとよい選択肢がないかと思案するでしょう。
  • 製品に重大な欠陥があり、それが原因で顧客が失敗し、あなたは取引を失っています。従業員がこれを知ったら、彼らは、なぜ自分は自分の会社を打ちのめしている会社ではなく、ナンバー2の会社に勤めているのかと疑問に思うかもしれません。
  • 最新の投資ラウンドの評価があまりにも高く、あなたはダウンラウンドを目の当たりにしています。あなたの会社のマネージャーは、以前のより高額な株価がさらに値上がりすることを新規採用者に約束しており、彼らはそれを当てにしています。

真実を告げることは会社にとっての自殺行為のように思えます。これほど重要なことがかかっているにも関わらず、いかに真実を語るのでしょうか。これは本当にキーとなることですが――あなたは会社を崩壊させることなく真実を語らなくてはいけません。

これを実行するためには、真実を変えることはできないという事実を受け入れる必要があります。あなたは真実を変えることはできませんが、それに意味を与えることはできます。どのようにしてそうするのでしょうか。

悪い事実で、意味を与える必要のある対象が解雇であったと想像してください。まず最初に認識すべきなのは、解雇が何を意味するかを解釈するのは、あなた1人だけではないということです。記者は、解雇は会社が失敗している証拠だと主張するでしょう。解雇された従業員は、裏切られたと感じ、それを伝えるでしょう。会社に残った従業員は様々な解釈をするでしょう。

意味を与えるために、少なくとも3つの要があります。

  1. 事実を明確に、かつ、正直に説明してください——業績の問題を解決する必要があった、または、苦労して雇用した人々だが、いない方が会社がうまくいく、などといった説明をしようとしないでください。事実は事実であり、あなたがそのことをわかっていると皆が知っていることが重要です。
  2. もしあなたが引き起こしたことなら、なぜそのような悪いことが起こったのかを説明してください——どのような決定プロセスを用いて、会社を本来あるべき速さよりも速く拡大させたのでしょうか。同じことが再び起こらないようにするために、あなたが学んだことはどのようなことでしょうか。
  3. さらに大きな使命を果たすために行動を起こすことが必要である理由を説明してください——適切に行われた解雇とは、会社を延命するものであり、また、会社のすべての人が共有している最優先指令および使命を満たすために必要な行動です。指導者として、会社が何の理由もなくそれらの人々の職を奪うことがないよう確認するのがあなたの仕事です。そのことによって、何か良い結果が得られなければなりません。

一つの例として、歴史を振り返り、アブラハム・リンカーンが南北戦争にどのように意味づけをし、ゲティスバーグの戦いで人々が命を失ったことに意味があった理由をどのように説明したかを見てみましょう。

ゲティスバーグは、米国史上、最も悲惨な戦争の、最も悲惨な戦いでした。同国人同士、兄弟同士が戦い、大量の死者を出して終わりました。これは真実です。アブラハム・リンカーンは、ゲティスバーグで演説をした時に、真実を否定しませんでした。しかし、それに意味づけをしました。ゲティスバーグにはどのような意味があったのか。南北戦争にはどのような意味があったのか。

当時の南北戦争には、現在とは全く異なる意味があったことに注意することが重要です。1860年に生きていた人々にとっては、南北戦争は、合衆国の維持や、奴隷制度の経済学、諸州の権利をめぐる戦いでした。リンカーンがそれに新しい意味を与えたのです。そしてそれが、現在の私たちの理解の源流となっています。その演説はとても短く、とても力強く、全文を読む価値があります。

87年前、私たちの祖先は、自由の精神に育まれ、人が皆、平等につくられているという信条に捧げられた新しい国家をこの大陸につくりました。

今、私たちは、大きな内戦のさなかにあり、その国が、あるいはどのような国であろうと、そのような精神と信条を持つ国が、長きにわたって存続する可能性があるのかどうかを試しています。私たちはその戦いの大いなる戦場に集まっています。私たちは、国の命を永らえるためにここで命を落とした人々に、永眠の地としてこの戦場の一部を捧げるためにやってきました。私たちのこの当然の行いは、正しく、適切なものです。

しかし、より大きな意味でとらえるなら、私たちはこの土地を捧げたり、清めたり、崇めたりすることはできません。その生死を問わず、ここで戦った勇敢な男たちが、何かを加えたり、取り除いたりするには非力な私たちの力をはるかに超えて、この土地を神聖なものにしてきたのです。世界は私たちがここで口にすることをほとんど気にとめず、また、長く記憶に止めることもないでしょう。しかし、彼らがここで行ったことを記憶から消すことはできません。捧げるべきは、むしろ生きている私たちです。ここで戦った人々が気高く、これほどまでに進展させてきた未完の取り組みに私たちは身を捧げています。目の前に残された偉大な仕事に、ここにいる私たちこそが身を捧げるのです——私たちは名誉あるこの戦死者たちの献身を受け継ぎ、さらなる献身で、彼らが最後に全力で身を捧げた大義に取り組むのです。私たちはここで固く決意します。彼らの死を無駄にしないことを——神の庇護の下に、この国に新たな自由を誕生させることを——人民の、人民による、人民のための政府をこの地上から消滅させないことを。

リンカーンの演説が行われる前、奴隷制が始まってから約100年後まで、人々は合衆国を「人が皆、平等につくられているという信条に捧げられた」国とは考えていませんでした。しかし、彼の演説後は、それを信じていないアメリカ人はいません。私たちは皆、それを信じています。なぜなら、それが振り返ってみたときの南北戦争の意味だからです—— あの勇敢な兵士たちは、平等のために命を落としたのです。リンカーンは、私たちのために彼らの死を解釈しました。彼は真実と向かい合いつつ、ゲティスバーグの悲惨な戦闘に意味づけをしました。彼は、そうすることで、その歴史上の出来事が無意味ではなかったことを示しただけでなく、アメリカという国自体に意味を与えました。

あなたにとって最も困難なことが起き、人がそれを発見して騒ぎ立てることが、どんなに恐ろしいか考える時、ゲティスバーグを思い出してください。取引の失敗であれ、悪い兆候のある四半期であれ、解雇であれ、ありのままに受け止めましょう。これは、その出来事に意味を与えるだけでなく、自分の会社の特色を明確にするチャンスかもしれません。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Tell the Truth (2017)

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