「私は、あまりにも多くの人が、現在のギャップに気づいた時に、そのギャップを埋めるためにどのような決断をすべきかを懸命に見極めようとするのを見てきました。しかし現在のギャップは、過去のどこかの時点における計画の失敗の現れなのです。」
— Andy Grove
会社経営をしていると、常に大きな懸案事項が頭に浮かびます。四半期を好調に締められるだろうか。ふさわしいエンジニアを雇用しただろうか。リリースは間に合うだろうか。品質に問題はあるだろうか。銀行の資金は十分だろうか。
逃れられないジレンマは、もしあなたがそれらの「大きな事」に対して行動した場合、通常大損害がもたらされるということです。大きな事をよい方向に動かすためには、大抵は「小さな事」に集中するのが最善策です。
四半期のことが心配ならば、あなたは会社の営業責任者に1日に2回電話をして状況を聞くのがよいアイデアだと思うかもしれません。そうすれば、適切に危機感を醸成できるとあなたは考えるかもしれません。ところが現実には、あなたは営業責任者の四半期の締めの作業を1日に2回邪魔しているに過ぎません。実際のところ、今四半期を大げさに強調し過ぎることで、営業責任者は言い訳作りに集中し始めかねません—— 自分の売上目標を達成できなかった場合に備えてあらゆる複雑怪奇な言い訳を準備し始めるでしょう。
これらの言い訳は、その後、新たな一連の問題を生みます。彼女はこのようなことを言うかもしれません。「四半期の目標が達成されなかったのはなぜかですって?製品担当部署の適切な支援も得られなかったからです」するとあなたは製品責任者の所へ行き、詰問します。製品責任者は答えます。「何ですって?十分な支援がなかったと営業部長が言うなら、なぜ私に何も言わなかったんでしょう?」あなたが何をしたか、わかりますか?あなたは、営業の問題を解決することに失敗しただけでなく、新たな政治問題を作ってしまったのです。次の四半期の失敗にもつながるような。
大きな事を心配するのは正しいことですが、それらに対して直接的な行動を起こしたくなる衝動は抑えなくてはいけません。行動を起こす前にまず、大きな事を、関連するいくつかの小さな物事のセットに変換するのです。例えば、四半期の結果が心配ならば、実際に何件か営業に出かけ、可能な限り効果的な方法で製品を販売できているかを確認すべきです。営業担当者は適切に訓練されているでしょうか。 彼らは製品を最も魅力的に見せ、かつ、競合製品に対する適切な戦略をセットアップできているでしょうか。社内の妥当な階層が営業を担当しているでしょうか。製品は本当に競争力があるでしょうか。これらの質問の答えが見つかったら、行動のための建設的な小さな事をさらに発展させていきます。それらの小さな事は、今期の目標達成には役立たないかもしれませんが、次の四半期の目標達成には確実に役立ちます。
同様に、もしエンジニアの生産性について深い懸念がある場合、彼らが自分の耳にする他社のエンジニアほど仕事に励んでいないなどと嘆いたところで得られるものはほとんどなく、せいぜい彼らに自分たちは「B」チームなのだと卑下させるくらいのものです。一方、彼らの1日の過ごし方を理解するために時間を割き、コードベースの何が彼らのスピードを下げているのか、構築された環境のどこが彼らに対して不利に作用しているのか、彼らの頭上で交わされるグループ間のコミュニケーションがどのように彼らをスピードダウンさせているのか、等を深く理解することに努めた方が、ずっと役に立つかもしれません。
これは、あなたの会社でのほぼすべてのことに当てはまります。あなたはレベルの高い目標を設定すべきですが、それらのゴールは、あなたが割り振った組織によって達成されるかもしれませんし、されないかもしれません。彼らの目標達成を助けたいなら、小さなことを重視することで助けるのです。
私のかつての上司、Jim Barksdaleが、すべての知識は現場の担当者と顧客の中にあるとよく言っていました。あなたはCEOとして、適任者を雇用し、明確な方向設定を行う必要があります。それを終えたら、高くゆっくり飛ぶのではなく、高速で低空飛行をするべきです。小さな事に集中すれば、大きな事は自ずとうまくいきます。
著者紹介 (本記事投稿時の情報)
Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Little Things (2015)