スタートアップ従業員への株式報酬 (Sam Altman)

しばしばスタートアップの従業員は、株式による報酬となると、あまりよくない扱いを受けています。もちろん新しいアイデアは時折浮かんできます。しかし法律家は大抵新しいことを試してみることが嫌いで、そして投資家は従業員のために何か新しいことを試みるだけの十分なインセンティブをがあるとは感じていません。

 

4つの大きな問題があります:

1) 従業員は大抵、十分な株式を得ていない。

2) 従業員が会社を辞めるとき、その従業員はしばしば、オプションを行使したりオプションにかかる税金を支払ったりする余裕がない。

3) 従業員のオプションは時たま、課税措置において不利な扱いを受ける。

4) 従業員は大抵、株式ないしオプションについて十分な情報を持っていない。

 

以下が、提案されている幾つかの解決策です:

1) スタートアップは、従業員に対してより多くの株式を与えるべきです。価値は何年もかかって生み出されるものです。たしかに創業者は最も早くに始めていることから、莫大なプレミアムを得るに値します。しかし5番目の従業員が得るものの100倍や200倍には値しないでしょう。加えて、いまや企業はより多くを、より少ない人手で得ることができます。

ここに正確な数字を置くのはとても難しいことです。なぜなら、各々の状況の細部がとても重要だからです。ひょっとすると、それについての最良の考え方は、(最後のラウンドの企業評価額、あるいは最後のラウンドから長い時間が経っているなら最善の努力を行っての推定額を用いて)その従業員がGoogleのような大企業で働いていれば得られたであろう対価と同じだけの期待値の総合的な報酬パッケージを用意しようと試みることです。実際の数字の極めて大雑把なものとして、会社は少なくとも全株式の10%を最初の10人の従業員に、5%を次の20人に、そして5%を次の50人に与えるべきだと私は思います。実際のところは、最適な数字はそれよりもはるかに高いかもしれません。

ひとつの問題が、希薄化は創業者の持ち分から行われることです。ほとんどのAラウンドのタームシートにおける投資家らは希薄化が行われません。だからスタートアップは、Aラウンド後に持つオプション・プールをとても少なくしようとしてしまいます。なすべき正しいことは、Aラウンドの後にオプション・プールの量を増やすことですが、残念ながら、これはめったに起こりません。誰も自らの持ち分をさらに希薄化することは求めていません。しかしこれは大抵の場合、近視眼的な出し惜しみにつながります。

オプション・プールは完全なフィクションです。役員会はそれをいつでも、増やしたいときに増やすことができます。それは決して、授与物を与えない理由として用いられるべきではありません。

 

2) ほとんどの従業員は、退職後90日以内しかオプションを行使することができません。残念ながら、これには行使価格と行使を行う年の税金の支払いを賄うだけのお金を必要とします(これは、行使価格と現在の公正市場価格との違いに基づいて計算されます)。これはしばしば、従業員が持っているよりも多額の現金であり、それゆえに従業員はしばしば、行使する余裕のない既得のオプションを放棄するか、あるいは会社に留まるかという選択を行わねばなりません。それは、従業員が解雇される際には、とりわけ悪い状況です。

これは公平には思われません。私が聞いた最良の解決策は、QuoraのAdam D'Angeloによるものです。そのアイデアとは、与えられた日から10年間行使可能なオプションを与えるというもので、それであればほとんどすべての場合を含むはずです(すなわち、その会社はきっとその期間中に、上場するか、買収されるか、消滅するかするでしょうし、だから従業員は行使するための流動資産を持つか、あるいはそれは重要ではないということになります)。これに関してはいくつかのやっかいな諸問題があります。たとえば、そのオプションは雇用終了の3ヶ月後に自動的にISOsからNSOsに変わります(該当する場合は)。しかしそれでも、ただ資産を失うよりはるかに良いでしょう。私は、これはすべてのスタートアップが採用すべき方策であると考えています。

余談ですが、いくつかの企業は、従業員が退職する際に従業員の持ち株を普通株の時価で買い戻せる権利を契約に書き込んでいます。その企業が株式の買い戻しを申し出ることを望んでいるのなら申し分ないですが、企業がこれを要求することができるというのは恐ろしいことです。

 

3) ISOsへの課税措置は良さそうに聞こえます。しかし、AMT(代替的最小課税制度)には問題があり、従業員はしばしば予想よりも多額の税を支払うことになります。NSOによる利益は、通常の所得として課税されます。RSUによる利益もまた、通常の所得として課税されます。

節税は二次的な問題であって、当面の解決策としては、行使期間を10年間に伸ばすことが、最も重要なやるべきことだと私は思っています。しかし長い目で見ると、私たちは従業員に対し創業者と同じようなやりかたで株式による報酬に課税する方法を見つけるべきです(キャピタルゲインが通常の所得よりも少なく課税されるべきか否かは別の議論ですが、私はいかなる場合においても課税措置は同一であるべきだと考えています)。

私は、これは実行可能かもしれないと考えています。理想を言えば、従業員は限定的な株式(RSUではない)を得るだけであって、そして従業員がそれを売却したときには、長期的なキャピタルゲインとして課税されます。問題は、会社が成長すると、株式はとても大きな現在価値を持つということです。従業員が株を与えられると、彼らは与えられたものの価値について当面の課税義務を負います。

これを修正するにはたくさんの方法があると私は思います。もっとも簡単なのが、IRSが非流動的な個人の株式に対してそれが売却されるまで課税しないことに同意するならば、長期的なキャピタルゲインとしての基礎に、そして通常の所得として元々の価格からの利益に課税するというものです。

もうひとつは、新しい種類の従業員向け株式をつくるというものになるかもしれません。今日では、初期段階の会社では、普通株はたいてい、優先株よりもはるかに価値が低いものです。普通株よりも権利が少ないゆえさらに価値が低いという種類の株をつくることが可能かもしれません。アイデアというのは、これらの株を、買収やIPOの際に普通株に転換するというものです。しかし買収やIPO以前には、譲渡することができませんし、価値もありません。もしも、IRSが認めたほとんど価値がゼロという種類の株を作ることが可能なら、従業員にこの種の株を与え、従業員にそれについての微額の納税義務を負わせ、そして数年後にスタートアップが上場したときには通常の長期的なキャピタルゲインを得させる、ということも可能かもしれません。

 

4) ほとんどのスタートアップは、従業員がそのオプションの価値について考える手助けをするのが下手です。少なくとも、いかなるスタートアップも、従業員となる見込みの人に対して、付与されるエクイティが会社の何%に相当するのかを伝えるべきです(株の数は無意味です)。いくつかのスタートアップは、これをすることに大変及び腰です。彼らは、発行済の株式の数を公表したがらないのです。従業員は、完全希薄化された株式のうち何%を彼らのストックオプションが代表しているのかを知ることを要求するべきで、それを伝えようとしないいかなるスタートアップも疑うべきです。

とある特定の行うに値する質問が、「ならば、もし私が会社の0.5%を保持していて、会社が明日1億ドルで買収されるならば、私は50万ドルを得ることになるのですか?」といったようなものです。これが当てはまらないことも数多くあります。たとえば、莫大な優先的分配権があるということがありえます。ほとんどの従業員がそれについて考えることを知りません。それゆえ、特定の筋書きについて問うことには価値があります。

あなたが質問をするとき、もうひとつするべき良い質問が、「先月会社はいくらのお金を失いましたか?そして銀行にいくらありますか?」です。これは、会社が持つランウェイがどれだけあるかを問うよりも良いことです。なぜならば、ほとんどの創立者たちが、必ずしも実現しない収益増を前提とする計画で計算しているからです。

 

私には、スタートアップにおける株式に基づいた報酬について、ほかに2つの考えがあります。

 

第一に、従業員の株式ならびにオプションは、普通は譲渡可能であるべきではないと私は思います。それは、従業員がその株やオプションを売ったり、借金の担保にしたり、潜在的にほかの誰かにその株あるいはその株からの将来の収益を今日のお金と引き換えに与えることに合意するその他の取引を企図したりした際に、かなりの問題を会社にもたらします。

私は、創業者らが株を売るときには、ある年数以上その会社で働いている従業員に対し、その持ち株のいくらかを売る機会を提供するのがフェアだと思います。そしていくつかの企業は、たとえ創立者が自身では少しも持ち分を売らないとしても、従業員に対して流動性プログラムを提供しています。しかしそうでない会社ならば、従業員は買収ないしIPOを待つのが賢明だと私は思います。

 

第二に、その他のベスティングに関するアイデアを考えるときだと私は考えています。スタートアップにおける標準は、1年間の崖(クリフ)が伴う4年間です。それゆえあなたは、1年間そこにいたあとオプションの25%を得て、2年半後に退職するならば62.5%を得ます。

4年間はいまや短すぎるということがありえます。企業はしばしば、10年前よりも価値がありますが、流動性に達するにはより長くかかります。私は、いくつかのスタートアップが、5年ないし6年のベスティングスケジュールをオファーするのを見てきました。これを埋め合わせるべく、彼らは相場よりも高い付与分を申し出します。

私が見てきたもうひとつのストラクチャは、後ろに重みをつけたベスティングです。たとえば、付与分の10%が1年目のあとに帰属します。そして続く年ごとに、20%、30%、40%となっていきます。そのうえ、これをやっている私の知っているスタートアップは、それに相場よりも高い付与分を紐づけしています。私はこのようなベスティングは、スタートアップが、本当に会社を信じて長いあいだ在職したがっている従業員を選ぶ手助けをしていると考えています。(また、このようなベスティングスケジュールをもつ会社はたいてい、それを創業者向けにもやっています。)

最後に、私が見てきた3つ目の構造が、リフレッシャー付与に関する新しい考え方です。オプションを用いる企業にとって、権利行使価格が低いうちに早めに従業員にオプションを与えるのはすばらしいことです。「あらかじめ期日を決めた付与」を与えることが可能です。すなわち、高い業績を上げる従業員に対して、リフレッシャー付与を今日与えることができます。そこでは付与分の3分の1がベスティングをただちにはじめ、そしてそのほかの3分の2がその最初の付与が完全に所有が確定したときにベスティングを始めます。これは彼らに対して、低い権利行使価格を保証し、おそらく、数年内の比較的大きな付与を保証します。AsanaのDustin Moskovitzはこれに近いことをやっており、それは大いに理にかなっていると私は思います。

これらは、従業員のベスティングに関する新しいアイデアについて私が見てきたアイデアのいくつかにすぎません。しかし私は、それらは考慮する価値のあるものだと思います。通常の4年間の付与は、最高のオプションであるようには思われません。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Sam Altman

Sam Altman は YC グループの社長です。彼は Loopt の共同創業者兼 CEO でした。Loopt は 2005 年に Y Combinator に投資され、2012 年に Green Dot に買収されました。Green Dot で彼は CTO を務め、現在は取締役です。Sam は Hydrazine Capital も創業しました。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Employee Equity (2014)

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