幹部の育成に関する悲しい真実 (Ben Horowitz)

真実は飲み込みにくいし、言いにくい
でもそんなクソからは卒業したさ、今じゃ学校が大嫌い

—リル・ウェイン、“CoCo

 

私がCEOとして最大の落胆を味わったのは、幹部のスキルセットを伸ばすことを助けようとすることが悪い考えだと気づいたときです。私のキャリアの中でその時点までは、人を伸ばす能力や人を最大に活かす自分の能力を誇りに思っていました。プロダクトマネジメントやプロダクトマーケティングおよびエンジニアリングの仕事の中で、若い才能を育てることが最もやりがいのある部分でした。マネジメント方法の学習や意思決定の改善、それぞれの領域での効果アップをサポートすることで私の組織も改善され、そういった私の努力も純粋に感謝してもらえたのです。

有能なマネージャーにとっての素晴らしい活動が、CEOにとってどう破滅的なものになりうるのか? いくつか挙げてみましょう。

自分にスキルがない場合。まず自身に問うべき点は、自分に営業経験がない場合に、業績の悪い営業トップをどうやって成長させるかということです。具体的に何を教えるのでしょう? 元セールスバイスプレジデントのCEOは、誰かを優れたエンジニアリングマネージャーにできるのでしょうか?

自分に時間がない場合。タイムリーで質の高い意思決定や明確な指針、優秀なチームの採用、非常に高機能なコミュニケーション構造の構築・遂行等の重要な役割について、会社は完全にCEOに依存します。自分にスキルすらないにもかかわらず、幹部の育成を試みて無駄になった時間は、CEOの最重要の機能が奪われたことを意味します。

相手に時間がない場合。リーダーの力は、部下がどれくらいリーダーを信頼しているかによりほぼ決まります。大きな組織を率いる人が優秀さをすぐに見せなければ、下の人たちにすぐに見限られてしまい、回復は望めません。幹部が無用な存在となってしまうまで、彼らが育つ時間がなくなります。

あなたが終わりのない仕事に取り組む間、結果はひどいものになる。まったく付加価値を与えることができないものに取り組むというだけでもいただけないですが、そうしている間、問題の組織もひどい状態に置かれるでしょう。答えを導こうとして失敗する間に、時間と市場での足場を失ってしまいます。その間、その幹部の部下全員がひどい状態の組織で働き、ひどい仕事をし、その一員であることでひどい評判を得てしまうのです。

幹部は既存の能力により報酬を得るのであり、潜在能力で評価されるべきではない。通常の社員の場合、潜在能力を考慮することは一般的な慣習であり、良い考えですが、この方法論は幹部にはあまり有効ではありません。幹部を採用すれば、会社の1パーセント程度の報酬が要求されます。その1/5以下程度の株式しか持たない優秀なエンジニアに対して、幹部の潜在能力が発揮されるのを待っているのだ、などと説明できるでしょうか?

助けようとすることで状況がはるかに悪化する場合もある。幹部が業績を出せていないにもかかわらず、成長させられると考えて会社に置いておけば、あっという間にまずい状況になります。能力がないと分かっているので、その幹部の言うことすべてを割り引いて聞くようになります。彼が会議で業績の良い別の幹部と反対の意見を言えば、あなたは常に優秀な幹部の肩を持つでしょう。

このことは業績を出せていない幹部の気も悪くするでしょうが、より重要なこととして、彼が率いる部署の信用も完全に無くしてしまいます。例えばもしその幹部がマーケティングのトップであった場合、他部署の人間は全員、社内でマーケティングは重要ではないという結論を導いてしまいます。そのような結論は驚くほど長く残るものです。

能力不足の幹部をハイパフォーマーに育てることはできませんが、彼の上司という自分の役割の中で、幹部全員の成功のためにできることもいくつかあります。

適切な文脈を提供する。幹部を採用するとき、相手は自分の専門能力は把握しているかもしれませんが、あなたの会社については知りません。あなたの経営理念や優秀な社員、これまでの決断の経緯や、製品の欠陥がどう生まれてどう直されてきたのか等については知りません。これらの情報は幹部が成功する上で極めて重要となるため、彼らが必要となるすべての文脈を早く理解できるよう、大きな配慮をするべきです。

ルールについて明確にする。あらかじめ、あなたが幹部に世界レベルのパフォーマンスを要求することを極めて明確にさせておくべきです。期待に沿わない場合、彼らは仕事を失うことになります。さらに、あなたも彼らを世界レベルに仕立て上げることはできません。なぜなら、あなたは彼らの領域で世界レベルではないからです。

自分の求めるものを知り、それをはっきりさせておく。あなたの考える世界レベルのパフォーマンスとは何かを、彼らに伝えましょう。もし分からなければ、世界レベルのCEOや幹部たちに話を聞き、それを伝えましょう。

相対的なパフォーマンスについて明確にしておく。もし自社のマーケティングが同業他社と比べて劣ると思うなら、マーケティングのトップに伝えましょう。他社が有効なセールスリードを自社の5倍生み出していることが分かり、その理由が理解できなければ、何か発言すべきです。そうすれば、幹部がとんちんかんなことをしていた場合に、素早い決断がかなり容易になります。

結局のところ、CEOは自分の限界を知っていなくてはいけません。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Sad Truth About Developing Executives (2015)

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